※この作品はR-18です。

聖母いわく「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ~」   作:ふりーじ屋/家庭内禁書

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こちらはポリネシアンセックス多めです。


後編

※27

 

「あ……ぁ、い、いた、痛ぁ――っ」

「けほっ、かほ、ごほっ……んぐ、くっ、んくっ……ぅううぅ……っ」

 

 痛い。甘ったるい。酒臭い。暑苦しい。吐き気がする。頭痛もする。どうして?

 

「……あぁ、浅いけど、傷、ついちゃいましたね~……血も、少し。

 すみません、出た時、びっくりして、歯をぶつけちゃったみたいで……」

「……でた……? なに、が?」

 

 目を開けると、口元を白濁と半透明の粘液でべたべたさせた朋花が、

 昼のようにギラつく目で俺を見据えていた。

 

 

 

「ん~……おっきくて、あついまま、ですね。機能的には、問題ないようで。頼もしいことです~」

 

 頭がぐらぐらする。頭蓋骨の中で鐘をごんごん鳴らされ迷惑きわまりない頭痛がする。

 鼻の奥とかノドとか食道だか胃のあたりがカラカラに乾いて燃えるように熱い。

 おかしいな。俺は彼女の口にペニスを突っ込んでたほうで、俺の口には何も。

 

「……朋花?」

「はい~? なんでしょう」

 

 俺を覗き込んでくる朋花には、光輪がなかった。シニヨンもベールもなかった。

 下ろした長い後ろ髪が、デコルテで横髪とごっちゃにくるくるなってたり、肩甲骨あたりに流れたりしていた。

 翼もドレスもなかった。紅潮した素肌が見えた。何も着ていなかった。

 

「酔ってるな?」

「そうですね~。でも、あなたのほうが、ワインをたくさん召し上がっているはずです」

 

 そうか。頭が痛くて粘膜が熱いのはアルコールのせいか。

 朋花が飲め飲め~って、わあわあ騒いで、グラスに注ぐもんだから、つい飲みすぎた。

 朋花は酩酊して……どうだか。フリだったのかも。

 確か『うふふ、う~ふふっ』とか乾杯前からアルコール回ってたようなテンションだったし。

 

「……朋花、俺の……咥えてなかった?」

「ええ。準備に必要だったので」

 

 なんで。準備、なんの?

 

「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ~。聖書にもそう書かれています」

 

 そんな馬鹿な。

 

「ロトの娘たち、ってご存知ですか~? ほら、創世記で、ソドムから脱出した人たちです~。

 逃げる途中で、奥さんが塩の柱になってしまった話のほうが有名でしょうか」

 

 ……あぁ、見るなって言われたのに振り返って見ちゃったから、ってやつか。

 

「ロトと2人の娘は、洞窟に隠れます。そのあと、ロトの娘たちはこうして……」

 

 朋花は俺のペニスに、自分の性器をずるずるとこすりつける。

 舐め回される。朋花の粘膜と肌と吐息がくすぐってくる。

 熱くて柔らかいものに包まれる。捉えられる。されるがまま。

 

「ロトを葡萄酒で酔い潰して、セックスして、子供を産むんです~」

 

 朋花の膣内は、『聖母』の口内に負けないキツさで俺を攻め立てる。

 ペニスを飲み込み、ずしりと体重をかけてホールド。跳ね除けるなんて、考えさえできない。

 

「あなた、前に私へ……『期待してたか?』と聞きましたね……。

 ……『綺麗でしょう強いでしょう、さぁ汚してみせて』?

 わかりません。してた気もします。してなかった気もします。忘れました」

 

 朋花が、俺の部屋に駆け込んできた朝のことだ……と気づくのに、俺はまばたき何回かぶん時間がかかった。

 

「覚えてるのは、死にたくなった気持ちの一部と、生きたくなった気持ちの全部が、あなたのせいだということ」

 

 えっ。一部――全部? 稲葉さんの真似?

 

 ……あ、こら朋花。『勢いで言ってしまいました』って顔に書いてあるぞ。

 お前も酔ってるだろ。

 

 

※28

 

「……そ、それとっ、あなたは私を犯した。心で犯した。私の心を犯したっ」

 

 朋花が俺に馬乗りになって見下ろしてくる。その笑みに癒やしは無さそうだった。

 

「淫らな目で女を見るものは、すでに心のなかで、その女を犯しているのです……なんてっ」

 

 捕食者の口と歯と舌。内心が溢れ出ている。図々しくなった。如才が無くなった。

 自分の欲望のために、さして信じていないであろうドグマを使い倒すようになった。

 ゾクゾクと背筋から後頭部をせり上がる戦慄で言葉を奪われる。

 

「あ、ああっ、ああっ……!?」

 

 しごきあげられる。ペニスが窒息するんじゃないかってぐらいの勢い。

 射精直後の亀頭に痛いぐらい。

 

「や、ぁ、ああぁっ! 奥、シて、もっと、ふかくっ」

「ほ、ぉ……あぉ、おおうっ……!」

 

 朋花が俺に打ち付ける律動は、音だけは、たんったんっと軽やかだった。

 熱は焼かれるようで、匂いは押し付けられるようで、衝撃は殴られるようで、性液は沈められるようだった。

 

「とも、か、や、め……ぁ、あ、おっ……ぐ、うぉっ……」

「やめません。ぜったい」

 

 朋花の膣内に、ぎゅうぎゅうされたり、みちみちされたりする。

 朋花に覆われているのはペニスだけのはずなのに、感覚は頭から足まで占領されている。

 

「く、ぁ、んぁ――あ、あっ……あなたも……もっと、私で、気持ちよく、なって……っ!」

 

 オナホのように陵辱されるがままだった『聖母』の口内と大違いで、

 朋花の膣内やら腰やら両脚やら……とにかく下半身にもう一つ意志が宿っているように、

 ずりゅずりゅ、くいくい、ぎしぎし、俺の一器官を抱きしめたり引きずり回したりする。

 

「ふ、ふふっ、黙っていても……あなたの、顔と、おちんちんで、伝わってきます……。

 また、出してくれますね。今度は、こちらに……私の、子宮に……」

「そ、それは、だ、め、だ、ぁ……」

「口答えは、いやですっ」

「んぎゅうぅうぅっ」

 

 釘付けにされる。ペニスだけじゃなく、オスとしての生殺与奪を握られる。

 

 

※29

 

「ねぇ、ほら、私の、なかっ、気持ちいい、ですか?」

「き、ひっ、い……きもち、いいからっ、や、めっ」

「きもちいい、なら、だして――今、だけでも、いいです――素直になって、だしなさいっ」

 

 朋花は、俺より年下なのに、なんだか自分が幼児退行して、

 お姉さんに叱られてビクビクしてる男児の気分になる。おかしいな。

 こんなきれいで、つよくて、わるいおねえさんなんていなかったはず。

 

「ぜったい、やめない、やめませんっ、だって、わたし――っ」

 

 たんったんって朋花にヤられるたびに、自分が真っ平らにされていく。

 しごかれ、しごかれ続けて、朋花のためのモノにされていく。

 限界が近づいてきて、恐ろし――そう思う気力さえ、こそげ取られる。

 

「あ、あ゛、あっ……!」

 

 真っ平らにされて、理性も力も朋花に抗えず、射精。

 あの……誰かがセックスの『せ』の字でも匂わせようものなら、

 声と目線でぴしゃんと――それだけで朋花には十分だった――はたき落とす朋花に。

 出会ったときからずっと――あぁ、あの空港の朝だけは別だったが――そんな朋花に、膣内射精した。

 

「あ、あっあっ……ふふっ、あはは、はぁっ……お口のときと、同じ、ビクビク、シてます」

 

 朋花は、彼女にしては、はしたないぐらい口を開けて笑い声を立て、そのくせ涙を幾筋か垂らしていた。

 涙が慈雨のように降ってきて、朋花に種付けした達成感が、じわじわと真っ平らの俺を濡らした。

 

「ふぁ、ぁ、は……あぁ、失礼……すみません、いま、のけます……」

 

 朋花は上半身をがっくりと傾げ、俺に向かって突っ伏しそうになったのを、どこかに手をついて止めた。

 が、朋花の長い髪は傾いだ勢いのまま俺に降り掛かって、肌をくすぐったくさせた。

 

 朋花はそれが気になるらしく、ペニスを突っ込んだまま背中をまっすぐに戻し、後ろ髪を結ぼうとしていた。

 が、ゴムもリボンも手元にないからか、満足する具合に決まらず、もぞもぞ、はらはら、波打つばかり。

 まとまる気配がない。

 

 朋花には珍しいまごつき具合が、俺は無性に女らしく見えて、目が離せなかった。

 

「な、なんです? じろじろと、面白そうな目つき……恥ずかしいじゃないですか」

 

 あぁ、そうか、恥じらいか。

 なんか、首や後頭部のあたりをフワフワさせる、穏やかだけど心惹かれる雰囲気。

 

「……可愛い、な」

「かわい……っ!?」

 

 ……浜松のピアノ屋さんじゃないぞ。

 

「……カ・ワ・イ・イっ」

 

 可愛いってズルい。褒めるのと腐すのがまぜこぜになる。

 ムチャクチャ言われても、ムチャクチャされても、受け入れてしまいたくなる。

 

「言い直さなくたって、わかって――んンんっ!?」

「あ゛ぅうっ」

 

 朋花の膣内が、くしゃみされたときみたいにいきなりギュッとキて、俺まで声が出る。

 ペニスがまたゾクゾクと震える。固いままだった。

 朋花が家に居座ってから処理しづらくて溜まってたせいか……?

 

「……私としたことが、思いを残していくところでした」

 

 捕食者は満足していない。

 

 

 

※30

 

「はっ、あ、はっ、はぁぉ、んっ……くっ、ふぅ……っ、い、やっ、いっ、は、ぁんっ」

 

 朋花から感じる重圧は、目覚めたばかりと比べて明らかに軽く、もう心地いいぐらいなのに、

 抵抗するどころか、金縛りにでもあったように、なんの反応も返せない。

 朋花以外何も感じられない? 自分の体さえも。しこたま飲まされたはずの赤ワインの酔いは忘れた。

 うめき声ぐらい出してるか……? 自分が声を漏らしてるかどうかすらあやふやだ。

 

「あ、ぁっ……なか……奥まで、とどいて……うれしい、です――ん、んっ、ぁ、あぁぅっ……っ」

 

 自分があやふやなのと逆に、朋花の痴態は、俺の肌や粘膜へよく届き、俺の中でよく響いた。

 腰の動きは、ストロークは小さく、細かい刻み方になって、奥の同じような場所をこつこつと突かせた。

 

「わ、私の……そこ、し――きゅう、いり――ぁああっ……きて、ます、ぅ……ん――っ」

 

 子宮口と言っている気がする。確かに、きゅうきゅうと抱擁してくる膣襞のザラつきにまぎれて、

 鈴口あたりにふかふかした感触がある。そこ、なんだろうか。男にはわからない。女には感じ取れるのか。

 

「……あぁ、んぅぁっ……!」

 

 いい感じの当たり方をすると、朋花の体は福音をはしゃいで伝えてくれる。

 すると膣襞が、よしよしいい子いい子と撫でるようにペニスをしゃぶって、

 それに合わせて臍のあたりがくねったり骨盤の端っこや肋骨の一番下や太腿の筋が浮き沈みする。

 

「き、きて……くる、と、あなた――かんじ――ぁ、んぁっ……――もっと、したく、なっ――」

 

 手にぎりぎり覆えそうな乳房の膨らみ。さっきの『たんったんっ』に比べると揺れは慎ましいが、

 背中が反ってるのか肩が開いてるのか、こちらに向かって誇示するように突き出されている。

 膨らみの頂点、色素が薄く肌に半分溶けかかっている乳首が、小指の先ぐらいにがんばってシコりたっていて、

 触って触ってと宙をこすってせがんでくるが、俺の手は動かない。

 

 胸や肩がそんな感じなので、朋花の顔は仰け反られたり横髪に絡まれたりで、見えつ隠れつ。

 嬌声の母音が、次第に『あ』や『お』から『え』に染まってるので、舌が回らなくなってるんだろう。

 回らなくなったのは思考回路かもしれない。これなら口げんか演じても引き分けになりそうだ。

 

 くちゃっくちゃっと行儀の悪い結合部。

 白いどろどろが糸を引いて切れ、透明な膜が張られて破れる。

 何回、膣内射精した? わからない。ペニスはまだ奥のふかふかに触ってやれるぐらい勃起してた。

 朋花がまた、嬉しいのか苦しいのか判断しかねる悶え。こっちの内側までうずうずする。

 

「ま――ナカ、に――……だし――ぇっ……わたし、の――」

 

 濡れる。当たる。しまって、ふるえる。

 朋花以外が消え失せて、朋花さえもどこかへ行ってしまう。

 いや、俺を連れ去っていく。『聖母』を犯してたときよりも周りが無い。

 浮いてるのか落ちてるのか。夢よりおかしくて心地いい。

 

「ぁ、あぁ、は――」

 

 人間の五感で最後まで残るのは聴覚、という俗説を俺は信じるようになった。

 

 

 

※31

 

 翌朝、俺は朋花に揺り起こされると、『おはよう』と返事してすぐスマートフォンを拾い、

 ウェブ上の新共同訳で『ロト』と検索した。本当に葡萄酒で眠らされて勝手に子供作られてた。

 

「なぁ朋花。もし妊娠してたら……」

「……してたら?」

「子供の名前を『モアブ』とか『ベン・アミ』にするなんて言わないよな?」

 

 俺は初めて朋花から『おしおき』を受けた。朋花は妊娠した。籍を入れた。

 式はどうしようか聞いたら『家が先です~』と言われた。広い家に移った。

 

 家計がいっしょになって気付かされたのだが、稼ぎの額を、朋花にかなり追い上げられていた。

 後生畏るべし。

 

 

 

※32

 

 思えば、そんな初夜からけっこう経った。

 

 

「あら、こんな遅くまでお仕事ですか。あの子は寝てしまいましたよ」

 

 イヤーチップの隙間から入ってくる朋花の声は、軽い驚きを含んでいた。

 

 夕食も後片付けも入浴も済んで、あとは寝るだけ、というときだったが、

 俺はリビングの端っこで、鍵盤に指を這わせながらメロディを練っていた。

 

 鍵盤といっても、型落ちで投げ売りされていて衝動買いしたD-DECK。

 『使う機会、あるのですか?』と朋花に呆れられ、ポータブルなのに半分インテリアと化している。

 

「子供の歌って、なかなか聞かないからか、いろいろ湧いてきて。9割5分は使えないっていつもの感じだが」

 

 俺はEtymotic Research(D-DECKに挿しっぱなし。もちろん型落ち)を耳から外し、朋花のほうを向いた。

 メロディを練るといっても、iPhoneに鼻歌を録っておくのと大差ない軽さだった。

 朋花もそれを察していて声をかけたのだろうし、俺もあっさり作業を中断した。

 

「早く、寝たほうがよろしいですよ」

 

 朋花も湯上がりで、ピンクチェックの薄い寝間着。

 ソファに座り、長い髪をタオルに押し当て水を吸わせている。

 

 昼間、亜利沙の話のせいで『聖母』に興味を持ったらしい娘は、朋花にせがんで、

 『聖母』のかつてのライブなどを収めた映像を見ていたらしかった。

 

 俺は『聖母』を見聞きしたくなかったので、席を外して、税理士の先生にメールを打ったり、

 不要不急の買い出しに出たり、洗濯物を取り込んだり、風呂掃除したりしていた。

 

 『聖母』を堪能した娘はいたく感銘を受けたのか、

 『きれいでしょ~、すごいでしょ~、さぁよごしてみせて~♪』と歌詞の意味も知らず真似をしたがった。

 それで防音にしている機材部屋に入って、朋花といっしょに娘のリサイタルにつき合った。

 

 機材部屋に娘を入れたのは初めてだった。娘は、歌いまくってノドがかすれてきたと思ったら、

 今度はROLIのLUMI(これも衝動買いしたまま置きっぱなしだった)に目をつけた。

 LUMIの、鍵盤がピカピカしながら鳴るガジェットらしい派手なレスポンスがお気に召したらしく、

 夕食の時間寸前まで離さずたっぷり遊んだ結果、疲れ切っていつもより早くぐっすり寝入っている。

 

「あなたは見ないで済ませましたが……昔の私を見るの、きつかったですよ」

「……そうか」

「だって下手っぴなんですもの。当時は一生懸命でしたが」

 

 俺はぎょっとした。D-DECKの椅子から立ち上がって、ソファの朋花が座る隣まで寄って、

 朋花の顔を見つめたが、冗談や洒落の様子はうかがえない。

 俺がいうのもなんだが、あれを『下手っぴ』とはシビアだ。俺まで時を超えてダメ出しされた気がする。

 

 

 

※33

 

「朋花、楽曲提供先を泣かせてたりしてないよな」

「もちろん。Nicola Copernicusは、私よりず~っと寛容ですよ」

 

 仕事は「相談したい件を、相談したいときだけ」と決めていたので、朋花のそれを詳しくはしらない。

 歌手や演奏者をビシバシしごく朋花の画が浮かんでしまうと、頭からなかなか離れそうもなかった。

 

「あの子が、アイドルになりたい……と言ったら、どうします?」

「やりたいと言ったら、やらせよう。ここは、音楽以外は楽しいことあまりない土地だから。

 それこそフロリダだったかキャッツキルだったかみたいに。ただし、宙吊りは勘弁で」

「……私のステージは、金輪際見たくないって目をしてたのに」

 

 朋花は大げさに頬を膨らませた。

 

「見ると……ぶち犯したくなるから。『聖母』は」

 

 朋花は冗談だと思って口を緩めることも、本気だと思って目をしかめることもしなかった。

 しばらく頬を膨らませたままだった。

 

「あなたって、本当に根に持つタイプなんですね」

 

 俺と比べると、朋花は『聖母』にさっぱりと折り合いをつけているようだ。

 内心はともかく、表情や言動や仕草はそうだった。なんだか釈然としない。ズルい。

 

「俺のせいばかりじゃない。生まれてこの方こんだけ深く根に持ってるのは、朋花がらみだけだ」

 

 朋花こそ『聖母』について何も引きずってないのか? と、至近距離で朋花の目を覗き込み返す。

 朋花は「ん、んっ」なんて、喉の奥で、呼気とも音声ともとれるかすかな響きを籠もらせる。

 

「……半分くらい、私のせいでしょうか~?」

 

 俺が恨みがましい言葉と視線を投げつけたのに、投げつけられた朋花は乙女のようにはにかんだ。

 風呂上がりの髪と肌はしっとりとした匂い。ピンクチェックの薄物の向こうは、もっと濃密だろうか。

 『聖母』がどうとか考えたせいか、本物の乳香って朋花みたいな匂いしてそうだ、などと妄想がよぎる。

 

「いや、俺のせいだな」

 

 朋花の肩に手を回す。

 乳香の匂いは、濃くなったわけでもないのに、淡いまま俺の肺腑奥深くに沁み入る。

 朋花の長く下がり気味の上まぶたが、恥じるのか媚びるのか細められ、

 そのくせ、くちびるは爪先ぐらい開いたまま。

 

 朋花がこっちに向かって投げかけてきたり発散してきたりするものに曝されていると、

 こっちの体がすべて透明にされて、嬉しいような、怖いような、胸苦しいような、温かいような――

 

「いけません、あなた、いけませんよ、すご~く、いけません……っ」

 

 ――ありていにいうとムラムラ来た。

 

「その髪のお手入れが終わるぐらいまでしか、待てそうもない」

 

 朋花が手を止めてしまったので、逸る気分を頑張って抑えて俺が続きをした。

 が、手を添えるたびに誘うソフトトーンを聞かされ、辛抱しきれなくなって結局押し倒した。

 

 

 

※34

 

「ん、ぅ――ぁ、あ、ぁ……ふ、ぅ、んんぅうっ……!」

 

 朋花とは、娘が生まれてからも体を重ねていたが、

 する時はいつも娘を園に送り出して家事を終えた後、つまり真っ昼間に寝室でしていた。

 俺も朋花もだいたい家で仕事を進めるので、しやすいときにすると、そうなる。

 

「朋花、ともかっ」

 

 寝室でベッド……と比べるとソファは心細い。さりとて場所を移すと朋花の気配が薄れて惜しい気がした。

 本当に奇妙な感覚だが、例えば朋花を抱き上げてどこかへ運ぼうとしたら、

 腕の中からぽたぽた垂れ落ちていって、朋花の一部が置き去りになってしまう感じだ。

 

 ソファで並んだ体勢の不安定さを和らげるため、朋花の首と腰に手を回して抱き寄せる。

 俺自身の体重も使うと、朋花の身体は軽いを通り越してこちらの上に転がってくる勢い。

 

「はぁっ、ひぁっ――だ、だいてて、くださ――んんんぅうっ」

 

 腕と、腿と、肩から腰ぐらいまでが朋花と寝間着越しにくっついて、

 朋花がなにかを怖がっているような震えがこっちの肌にも伝わってくる。

 それは、蜜のように糸を引いて滴りそうな匂いや、さっきのお湯より熱く感じる体温や、

 俺の肩口をくすぐってくる吐息と比べて、それだけが妙に切羽詰まっていた。

 

「ぁ……っ、だ、めぇ、ごめん、なさいっ、こ、れ、これ、すき、です……っ」

 

 朋花が腕を絡め、爪を立ててきた……気がした。

 爪が短いし寝衣の布越しなせいか、指の腹や腕や骨の圧を感じても、ちくちくキリキリした痛みはない。

 

「キス、したい。いいか?」

「ま、ぁ……い、いま、されたら、わたし、ん、んンぅぁ……んっんぷっ!?」

 

 肩と腕をずらして、下から朋花のくちびるを奪う。

 くちびるの表面はさらさらしていて、馴染み深い歯磨きクリームの爽やかさが一瞬ひらめいて、

 朋花の甘酸っぱい中に消えた。こっちまでヨダレを垂らしてしまう煽りの色がついた味。

 

「んぷっむっ、ちゅむっ――ぁんんっ……ふ、あぅうっ、ふぅー……っ」

 

 こっちが下なので、朋花はその扇情的な体液をちゅうちゅうと優しく注ぎ込んでくれる。

 お返しに、こっちのくちびるを朋花のくちびるで甘噛みしたり、

 舌先で前歯あたりのエナメル質に触れてやると、朋花は呼吸を動揺させたり、

 胸やウエストや腰あたりをくすぐったげに力ませたりよじったりする。

 

「……朋花、キスされるの、好きだよな……なぁ、どんな感じになるんだ?」

「ど、どんな感じ、と、言われましても――んぁぅ……っ」

 

 くちびるを離して、耳元に囁く――俺は朋花の耳元へ囁いたつもりだったのだが、

 朋花は髪の生え際や首元――子供まで作った今でも、朋花はおいそれと触らせてくれない――あたりで、

 俺の荒くなった呼気を感じてか、首筋や鎖骨を浮かせ沈ませ、四肢をびくつかせた。

 

 

※35

 

「こうして、キスしたり、抱きしめてると……朋花、すごく嬉しそうな感じに見えるから」

 

 朋花の匂いや味や熱や柔らかさをまともに注がれて、すでにペニスは勃っていた。

 その上でキスや抱擁のたび、朋花が悩ましげに肌を寄せて擦りつけてしがみついて……などされると、

 それだけで射精感が迫って危なかった。

 

 俺がいきなり会話を始めた理由は、それを取り繕うのが半分。

 

「う、うれし……っ!? そ、そうですね~……ひ、否定は、しません」

 

 もう半分は、朋花が口を啜られたり腕で抱きしめられたりという刺激によく反応するので、

 それは心地よいのか? という疑問だった。男だと心地よくなくても反応してしまうことがままあるし。

 

「……どんな感じになるの、聞きたい」

「言わないと……止めて、しまいますか?」

 

 そんな意地悪はしない。しかし、

 

「言わなくても、する。言ってくれたら、もっとしてしまうかもしれない」

 

 どうなるかなぁと案じた。言ってから、うまい言い方じゃないと反省した。

 これだと黙って腕や腿を絡めてきて無言でねだるほうへ流れてしまうかも。そうなると射精が危ない。

 惜しいのでこっちから仕掛ける。朋花の髪、後頭部から、うなじをそろそろと撫でる。

 

「ひぁぁあっ!? は、ああっ、そこ、だめ――ぇ……っ!」

 

 言いながら朋花は、もうほとんどない俺の肌との空間を擂り潰すように、ずるずる、きしきし。

 

「朋花、首が……首の近く、このあたり……どこも、敏感だ」

「あなた、知っててこの扱い、ですよね……?」

 

 前から朋花は首あたりが弱点だったが、こっちに来て、髪をアップにまとめず下ろすようになってから、

 その弱さが際立つようになった気がする。ふだん後ろ髪で守られるようになったせいか?

 

「だから、聞きたい。朋花の口から」

「なにが、だからなんで――あ、ぅぅう、ひぅぁ……っ!」

 

 朋花が上半身を悶えさせ、髪の毛をふわりと押し付けてくる。

 朋花の毛髪は、まとまりとして見ると、ツヤと長さと量感で豪奢なほど。

 髪の一房や一本一本に目をこらすと、俺の髪の半分ぐらいの細さかなぁという繊細さ。

 手が触りたがる。触る。朋花の髪の、豊かなのにおぼつかない矛盾を、欲張って両取りしたい。

 指の間をくぐらせ、手のひらを押し付ける。朋花の陶酔も掬いたくなる。

 

「そこっ、だっ……ぁあっ、ま、まって――ん、んーっ、ふ、ぅぅ、ううぅ……っ!」

 

 慣れないソファで体勢を崩したら嫌だ……と、朋花と俺の重心を近く保持して愛撫に興じている。

 視覚的には寂しいが、それ以外の4つの感覚が朋花の催情に占領され、やっぱりペニスがうずく。

 たまらない。これで目まで刺激されたら脳が飽和しそうなので助かった。

 

「男性の、かた、は……ぁあっ、その、胸や、お尻のほうが、好きでは……ないのですか?」

 

 窮したのか、朋花があさっての方向へ話を投げる。

 娘を産んでから、大きくなったのかどうなのか……今はこちらの胸板に押し付けられて揉めない。

 朋花のバスト。手でぎりぎり覆える程度の大きさと形は、昔のままどこかぴりぴりしているが、

 触れると柔らかくなった印象はある。

 

 

※36

 

「それはそれ、これはこれ、なんだ」

 

 それもまとめてホールドする。

 俺は片方の手を朋花の首に、もう片方を朋花の腰とお尻あたりに這わせる。

 お尻は『聖母』の頃より一回りぐらいもっちり豊かになった。

 なのに揉むと嫌がられる――朋花は気にしているらしい――ので、しこたま触れるのは久しぶり。

 

「ぁ、んんっ……そんな――ぎゅって、ずっと、され……あなたに、される、と……っ」

「で、朋花はどんな感じがする?」

 

 抑えながら引き戻す。逃さない。囁く。

 こっちは動いていないが、朋花は心臓の鼓動や肺の伸縮が全身に及んでいるように、

 あいからわず肩や腰や四肢をもぞつかせる。吐息はキスのときより荒くなっていた。

 

「な、なんで……あなた、こんなに、ぎゅーって……いつもと、違……ぁ……っ」

 

 どうなんだろう。

 ソファでするのに不慣れなので、互いの重心が近くないと転げ落ちそうで怖い。

 それと、朋花の匂いや反応がどうにも蠱惑的でしょうがない。それとも……

 

「わたしが……私が、戻ってしまうって、思ったから、ですか……?」

 

 黙ってると、朋花が面白い解釈を聞かせてくれる。

 朋花が『聖母』に戻る素振りを匂わせたから、戻らないでくれ……って、

 俺が縋ってるのが、体勢に出てるとか。言われるまで考えなかったが、言われるとそんな気もした。

 

「――ないで、行かないで、くれ……朋花っ」

 

 考えたら口から出てしまった。もう遅かった。

 今、もし朋花が……そう考えてしまうと、情けないが、俺は……。

 

「ま、たぁっ、ぎゅって、さ――ぁ、あぁあぁっ、だめ、ですっ、これ、されて、

 私、わたしっ、ナカ、まで……っ、きゅうってキて、ぇ――ぁ、あっ、うぁっ……!」

 

 朋花のほうも、自分で口に出した推測に感化されてか、感極まったようにすすり泣く。

 

「だめ……っ、わ、私、あ、ぁ――ごめんなさいぃ……もう、だ、め、ぇ……っ」

 

 何が『ダメ』で何が『ごめんなさい』なのかわからないまま、

 朋花の体は悶えるのを通り越して、小さな痙攣じみた動きと涙声をにじませた。

 油断すると離れてしまいそうなのでいっそう強く抱く。朋花のノドが高く細く響く。

 

「ひぁ、う、ぁ――んんんぅうぁっ、ぁ、ひっ、んく、ぅうぅー……っ」

 

 首か、鎖骨か、肩甲骨のあたりか、ほの温かい感触が幾筋も流れて落ちた。

 こっちまで涙腺が緩む。一瞬だけ、これが涙じゃなくて汗やヨダレだったらどうしようと首が回って、

 なんだかおかしくて笑い泣きになって、俺まで腕や肺あたりの震えが止まらなかった。

 

 

 

※37

 

「き、気持ちいい、です、か……? ふぁ♥ わ、わたし、も……ですっ。

 ふふっ、わかって、わかってます――き、てぇ、あ゛っ♥ ぅううっ、あぁ……っ♥」

 

 抱き合い始めてしばらくは受け身だった朋花も、挿入のお膳立てが進むにつれて快楽を露わにしていき、

 ついに……という段になると、俺が飲まれそうになるほど上げ潮になっていく。

 

 

 

 上げ始めの朋花は静かだった。

 啜り泣きが収まってきた風の朋花に、俺はしつこく『どんな感じがする』か、

 聞かせて欲しい聞かせて欲しいと、我ながら聞き分け悪くねだりつづけていると、

 朋花はしおしおと小さくなりながら、途切れ途切れで、

 

『……あなたに、ぎゅってされると、お腹の奥が、きゅうきゅうって、火照ってしまうんです。

 また、また赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ないんです。でも……』

 

 朋花は、言葉では泣いていた。声音は儚げなくせに熱っぽかった。

 本当に、この天空橋朋花という女は――もう天空橋ではないが――矛盾に満ちていて、

 その両方が、俺を彼女の懐に向けて抗い難く引っ張ってくれる。

 

『……でも、私は……あの夜、勝手に、シてしまったんです……あなたが、首を縦に振る前に……。

 悪いと思うなら、やらなければいいのに……でも、私、は……』

 

 そう朋花にこぼされた。

 それで俺は、朋花にセックスをせがんだことはあっても避妊は欠かさずしていて、

 朋花に向かって『孕ませたい』と言動や行動で伝えた覚えがないことに気づいた。

 

『後悔するには、幸せすぎて……』

 

 もしかしてそのせいで『勝手に子供を作ってしまった』と、ずっと思っていたとか。

 その心境は正直、男には想像しづらいものがある。分かった、とは言えない。

 

『朋花……っ』

 

 しかし黙っているのも……。

 俺が、なにか言えるとしたら――

 

『つまり、二人目がほしい、と』

『……ぁ、その~……まぁ、なんと、いいますか……』

 

 ――ありえないだろ、と自分を叱責したくなるほど明け透けに出てしまった。

 言葉をぶつけられた朋花も、びっくりして声が詰まっていた。

 

『俺もほしい。子供』

『……ぁ……っ♥』

 

 たぶんちょっとだけなにかがずれてる気がした。疑念がちらちらした。

 

 でも、朋花に『赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ない』とか至近距離で浴びせられて、

 しかもペニスが朋花にアテられ準備良く精液出したい出したいとうるさくて、

 そんなごちゃごちゃしてるうちに疑念は落ちてどこかへ消えていった。

 

『あの、あなた、その……』

 

 孕ませる。孕んでください。孕め。たぶんそんな感じのことを口走った。

 

『き、ききました、よ……そんなこと、あなたが、ね、私、に……♥

 うそなんて、言わせない、いわせませんからぁ、ふぁあ――っ……♥」

 

 失禁したようなじわじわ広がる温度が、肌に張り付いて俺の意識まで占領していった。

 

 

 

※38

 

「朋花は、その……くちびるとか、キス、やっぱり、好きなんだ?」

 

 お互いの寝衣どころかソファのカバーまで色が変わるほど、濡れてしまっていた。

 そういえば朋花は『あの夜、勝手に、シてしまった』とき、

 俺が愛撫しないうちに、ペニスくわえるだけで濡らしてたっけ。

 

「……ぃ、や、あなた……やっぱり、恥ずかし、い……。

 それに、あなただって……大きくしてるじゃないですか」

「だって、朋花から『お腹の奥が、きゅうきゅうって、火照って』――」

「あーあーっ! もうっ……そもそも、私がそれ言っちゃう前から、ぜったい大きくしてました」

 

 朋花は口を尖らせるが、俺が彼女の寝衣に手をかけると、腰を浮かせてくれる。

 離れれば簡単に脱げるが、ぴったりくっついてる雰囲気に浸ったままでいたい。

 早く挿れたい気持ちと、そうして焦れるのが楽しむ自分がいる。

 

「ありがとう」

「ど、どういたし、ましてっ」

 

 朋花の愛液(いちおう俺の先走りや、汗とかも混じっているだろうが)で、

 俺達がこすり合わせていた所――特に下半身は、びちゃびちゃに濡れている。

 それも肌触りで筒抜けなのだが、俺が首を曲げてそっちに視線を向けようとすると、

 

「み、みないで、くださいっ」

 

 朋花は、両肩をぴったりくっつけるようにして阻む。

 

「ここからは、私が、シます、から」

 

 確かにあの夜だって泥酔状態で座り込んでる俺に、朋花は抱きついてほぼ独力で挿れてくれたけれども、

 

「ぁ……さ、さわ――ぁ、んんぅうっ♥」

「キスしたり、ハグしたり、だけで……興奮してくれたのか、濡らしてくれちゃったのか」

 

 見た目は細いが、触るとみっちりと弾力のある腿――ここの肌も、もう濡れてる。

 たどる。上がる。俺の耳元で朋花が息を呑むのが、聞こえる。

 

「期待してくれた……のかな?」

「んぅ、きゃぁあっ、ん、あぁあぁ……っ」

 

 ぴっちりしたゴムと肌の食い込みに、指を引っ掛ける。

 

「のっ伸びちゃいますから……もう、自分でやりますっ」

「……でも、俺に見せたくないんでしょう?」

「そ、それは……あ、んんぁぅ……っ♥」

 

 薄い下着、デリケートゾーンを指先で探ると、濡れそぼるあまりそこに張り付いている感触。

 こっちがくすぐったくなるほど、朋花は呼吸を荒げ、上も下も肌や粘膜をそわそわさせる。

 

 

 

※39

 

「朋花が、どんな感じしてるのか、また、聞きたい」

「いじわる、です……」

「そうしてくれると、興奮しちゃうから」

 

 朋花が吐息の流れと温度さえ、甘ったるさと恨めしさに染まっている気がする。

 

「これ以上、興奮するおつもりですか……? そうなったら、私、は……。

 ……いいですよ、いいですとも、お付き合いします、どこまで、だって……♥」

 

 朋花が言ってくれる。

 しかも俺が興奮するから、と言った後に、折れてくれたので、倍ほど嬉しかった。

 まるで俺を煽って、精子出させて、孕むための、妊娠欲もあらわな……

 

 ――『また、また赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ないんです』

 

 どうしてそんなことを俺に聞かせてくるんだ――言ってくれって頼んだせいだ。

 さっきもそう言われて、頭が茹だるかと思った。

 

「やっぱりずらして挿れるよ」

「ぁ、んんぁあっ、そ、そんな、ぁ……いじわるで、わがまま――し、しょうがない人です、あなた、は……」

「ごめんなぁ、わがままで」

「……ぁ、うっ……♥」

 

 とりあえずムリヤリでもなにか囁いて今のこの朋花の耳に流し込んでやると、

 朋花はさっき首や髪を撫でた時のように呼吸を波打たせる。またナカが切なくなってるのか。

 挿れたらわかる、楽しみだ。

 

「ぁ、わ、あっ♥ そ、そんなに、がっつかなくても……い、いま、いきます、いきますからっ」

 

 楽しみすぎて、朋花の腿やお尻あたりを、催促するように揉んでしまった。

 緊張か、期待か、それとも触れる前から興奮が抜け駆けしているのか。

 

「んっ……♥ さきっぽ、きて……ゆ、ゆっくり、しますから、ね……?」

「賛成、そうしよう……ゆっくりじゃないと、ちょっと危ない」

「危ない、って」

「こらえられないで、すぐ出ちゃいそう」

「……で、できるだけがまんしてくださいっ……ん、ぅ、ふぁ、あぁあっ……♥」

 

 朋花の控えめな口振りに相反して、膣道は熱さと、ぬらぬらした潤みと、きりきりする締りが、

 もう亀頭をしゃぶってきた時点で、射精をこらえるあまり足の付根や尻が力んでしまう。

 

 

※40

 

「ぅ、ぅうううっ……ナカ、もう、せいし――精子、期待、シちゃって、ます……」

「と、ともか……ぁあ、ぅあっ」

 

 ……嬉しい、確かに嬉しい。

 俺は、朋花にどんな感じか言葉で教えてくれるよう頼んだ……が。

 今か。今からか。言うのか。あっさり追い詰められる。

 朋花にそう言われるだけで、そのままペニスが精液を出してしまいそう。

 

「んくっ、あっ――ぎゅ、ぎゅって、シちゃ、あぁああああっ――♥」

 

 反撃のように、つい腕に力を入れて朋花の体を締め付けてしまう。

 即座に、甘く逆らい難いペニスへの抱擁が返ってくる。

 くちゅぅぅっ、つぷぅぅって音まで鼓膜を犯してくる。

 

「ん゛っ、く、はぁ、あぁっ♥ なかの、ごつごつって、ひろげ、られ――んんぅうぁっ……♥

 息も、できない、のに……嬉しい、です、ぜんぶ、ぎゅって、なって――ふぁ、ぅう……っ♥」

 

 肉の塊を軽く10センチ以上も突っ込まれながら、体の奥の方を引き攣れさせながら、

 息を吸って吐いてもままならないなかで、俺に伝えようとしてくれる朋花が健気だった。

 そのくせ膣内は、早く出して早く出してと擦ったりくねったり貪欲に俺を急き立てる。

 

「き、気持ちいい、です、か……? ふぁあっ♥

 ふふっ、わかって、わかってます――き、てぇ、あ゛っ♥ ぅううっ、あ、ぁあぅっ……♥

 わ、私の、外も、こす、こすれ、てっ、びりびりって、く、くるんですっ……♥」

 

 俺が膣内の奥に突っ込んだら、その根本あたりが、朋花のクリトリスあたりに効いてしまうのか、

 朋花のどろどろした喘ぎに、くすぐったそうな色が混じる。

 

「も、もっと――あぁうっ♥ んんーっ♥ し、して、ずっと、ぉ、ぁ、あ゛っ……♥」

 

 じゅる、じゅる、ずちゅずちゅっ――上から下からしがみつかれる。

 私のものだ、って主張される。図ったように、ペニスの先が、奥に嵌る。

 

「ああ゛ぅぅっ……! そ、そこ、きちゃって、ぇ、へぅっ♥ ぁあ゛ぅう、ぁあ゛ぁっ……♥」

 

 朋花のそれに返事をするように、俺はそこを突く――腰の可動域が狭いので、

 突くとか叩くとかそんな力強いものではなく、撫でるに近い加減だった。

 それでも俺の孕ませる意志というか、精子ぶちまけたい欲望は伝わったらしく、

 

「そ、そこ――し、子宮、ですっ、たぶん、ぜったい――お、覚えてますっ、私、

 だって、あなた、の、ぉ、ぉお゛っ♥ した、しました、からぁ――ぉ、ぁ、あ゛っ……♥」

 

 軟骨のようにこりこりしているのか、リラックスした筋肉のようにふかふかしているのか、

 どっちとも取れそうな感触に亀頭が包まれて、そこをこつこつ撫でる。

 ざらざら、つぷつぷと貪欲な膣内粘膜に囲まれてる中で、そこだけ異質なほど慎ましい。

 

 

※41

 

「あ――あなたっ、そこ、ですっ……♥ うぅう゛っ、そこ、なんです、ぁ、んんん゛ぅうっ……♥」

 

 朋花が教えてくれる所によるとそこが子宮口らしい。やっぱり男には想像もつかない話だ。

 代わりにペニスを駆り立てる。もう先走りぐらいは塗り込んでしまっているはず。

 もっと、撫でる。繰り返し。ぎりぎりのところまで。

 

「あなたっ、あな、た……、きて、くだ、さ――んく、ぁあっ! っん……ぅ――♥」

 

 射精、促されて、そのまま。

 女の子宮を男の遺伝子で征服する行為のはずなのに、

 その高揚が、何か許された安堵に飲み込まれていく。

 

「ふぁ――ぁ! ぁ、っあっ……♥ でて、だしてっ、だされちゃって……ぁは、はぁっ……♥」

 

 息するのが楽になっていて、射精は終わったんだと知った。

 自分の体のことなのに、半分ぐらい朋花へ突っ込んだぶんがそっちに行ってしまって、

 なのに喪失感どころか、真逆の、自分が溢れかえってるんじゃないかという気分だった。

 

「ぁ、ふぁ、ぁあ……♥ おやすみ、ですか~? それなら……んンっ……♥

 その、わたしは、まだ、このまま……っ♥」

 

 朋花が漏らす恍惚の声につられて、俺も落ちようとしたら――ぎゅうっ、ずりゅずりゅ、ぬちぬち……っ。

 

「あ、あぅっ……あ、ははっ……」

 

 ペニスは膣内の愛撫で嬉しそうに跳ねた。

 

「……どこまでも、お付き合いします……ねぇ、あなた……っ♥」

 

 

 

 尽き果てて、終わって、朋花にシャワーを先に浴びさせている間、

 俺は朦朧とした意識と身体に鞭打って、派手に濡らしたソファのカバーを剥がし洗濯機に放り込んだ。

 

 翌朝、娘が起きてリビングに入った瞬間、カバーのついてないソファを不思議そうに見ていた。

 

「ちょっと、こぼしてしまって。赤ワインとか」

 

 ……これで、残り香があってもごまかせたと思う。

 

 

 

※42

 

「ポリネシアンセックス、ですか?」

 

 つい数日前、世界の終わりのような嬌声を浴びせ精液を搾り取ってきた面影をまったく見せず、

 朋花は俺の提案にじっとりと上まぶたを下げて答えてきた。

 

 この間、衝動的に朋花に種付けしたあと体温を測ってもらって知ったのだが、

 危険日からはけっこうずれていたらしい。じゃあ当たるまでやろうか……と考え、

 『危険日まで射精を避けたほうが良いのか? それともある程度射精はしたほうがいいのか?』

 などと(我ながら)怪しげな思考のままいろいろ調べて、ポリネシアンセックスが引っかかった。

 

「本当にポリネシア人がやってるかは分からなかったが、やり方をみると、朋花が好きそうだと思って」

「何を言ってるんですか、あなた」

 

 朋花の表情は、怒ったほうが良いのか呆れたほうが良いのかとうろうろしていたが、

 俺がそれを黙殺して説明を進めると、目を俯けたり口元を手で隠したりして、もじもじし始めた。

 

「……つまり、その……えっちを5日間に区切って、最初の1~4日だけは、会話と愛撫だけにするんですね?」

「ざっくり言えば、そのとおりだ」

 

 いろいろやり方に差はあるが、だいたいどこの解説でも、

 愛撫も1~4日目は性器に触らない、裸同士で素肌をなるべく密着させる、

 5日目も最初の1時間は1~4日目の愛撫と同じ、挿入しても30分は動かない、満腹状態ではやらない、

 電話など気が散る要素を排した静かな環境で行う……などなど、

 ちょっと縛りや辛抱の多いセックスとされている。

 

「ちょっと怪しげですが……試す価値のじゅうぶんある提案だとは……思いますよ~。ただ……」

「ただ?」

「……どうして、これを私が好きそうだって思ったんですか?」

 

 朋花の言う通り、セックスに関するほかの情報と同じくらい、

 ポリネシアンセックスについての情報は怪しげな記述が溢れていた。

 

「言っていいか、ちょっと迷うんだが」

「いくら奥さん相手とは言え、女性に向かって『セックスが好きそう』以上にNGな言葉があるんですか」

「……朋花、こういう『規律』が多いの、性に合ってそうだと思って」

 

 朋花は、少なくとも仕事や日常生活では、ルールや秩序を重んじるタチである。

 出会ってから今日までずっとそうだった。明らかに、天空橋家の薫陶の賜物である。

 天空橋家をいささか虚仮にしすぎた俺の立場から『規律』を持ち出すのは、自分でも皮肉な感じだ。

 

「ためしに……」

「朋花?」

「試しにするぐらいなら、構いませんっ。

 何日か時間をかけて準備ができていたほうが……という気も、しますし」

 

 そのすぐあと、朋花は「駅のほうへ行ってきますが、ついでに買ってくるものはありますか」と言い、

 何かと思ったら、わざわざインテリアショップに行って、水色の砂がさらさら落ちる砂時計を買ってきた。

 

「30分ですが、こちらのほうが可愛い大きさでしたので。アラームより、風情があると思いませんか~?」

 

 砂時計にドキリとさせられたのは初めてだった。

 

 

 

※43

 

「ねぇ、おとうさん」

「どうした?」

「おかあさんのほう、ちらちらみてるけど、なにかあるの?」

 

 びっくりして、畳んでいた洗濯物を一枚くしゃくしゃにしてしまった。

 

「……そうかな」

「うん。いつもより、ちらちらみてる」

 

 娘が俺に何気なく(何気なく、と信じたい)ぶつけてきた疑問。

 

「あ、また、みてる~」

 

 朋花は夕食の準備でキッチンに立っている。

 リビングと対面するキッチンなので、こちらからは朋花がいったり来たりする姿は見える。

 ただ表情まではうかがえない。あの問いが、聞こえてただろうか?

 

「……そういう気分なのかも知れない」

「きぶん……?」

 

 かも知れない、どころではなかった。

 ポリネシアンセックスが始まってから、だいたい常に『そういう』気分だった。

 

 

※44

 

『するなら、お昼のほうが、いいでしょうね~♪』

 

 日本の一般的な夫婦は、昼間はだいたい仕事場で過ごしているだろうが、

 俺と朋花の場合は仕事の大部分を自宅で進める上、時間的制約も少ない。

 なので娘が登園して家を開けている午前中~昼過ぎにすることになった。

 

『あなた。なんだか、いつもより家事がはかどっている気がしますが?』

『気のせいだよ、気のせい』

『……すけべ、です』

 

 家事の振り分けは日によって変わる。朋花はたった2人の当番表のために毎週ホワイトボードを書く。

 昔の765プロに掛かっていた大判スケジュールボードを少しだけ連想させ懐かしい。

 

 ポリネシアンセックス初日の俺に割り当てられたのはお掃除洗濯。朋花は料理とお買い物。

 

 朋花の下着を干しているとき、何度もしたことがある作業なのに、ノドのあたりがざわついた。

 家族も増やすことだし、大きい乾燥機の導入を……と朋花に持ちかけるため予算を考えた。

 

『する前に、電気は消しますよ』

『……回覧板とか来たら、居留守を使いたいしなぁ。

 いっそブレーカーを落としておくか? そうしたら電話もならなくなる』

『それなら、パソコンや機材の電源チェックをお願いします~』

 

 田舎であったら近所の人が『作りすぎちゃったので』とかいきなり何か持ってくるのかも知れないが、

 ここは都会とも田舎とも言い難いベッドタウンもどきで、心配と言ったら回覧板ぐらい。

 

『……ちょっと、おかしな気分になりますね』

 

 ルーチンワークの家事を進めているだけなのに、それがセックスのお膳立てだと思わされている。

 ポリネシアンセックスは時間のゆとりが必要で、そのために家事を時短にする必要があるから、

 お膳立てと言えばお膳立てなのだが……。

 

『確かに、ふだんやっていることなのに、なんだか……』

 

 浮ついた気分のままベッドを整え直して、朋花と並んで座る。

 セックスを意識しまくってるのに、裸になるのが不思議と恥ずかしくて、服を着たまま。

 

『で、では、始めます……ね……』

 

 朋花が、ベッド脇のサイドテーブルの上で、砂時計をひっくり返す。

 コトリという置いた瞬間の軽い響きや、水色の砂のざらつきまでが聞こえる静けさ。

 

『手、を……』

 

 手をつないでから指先を絡めるまで、付き合いたての中学生ぐらいの時間がかかった気がする。

 ハンドクリームが混じった体温と指腹のつやが伝わる。朋花の手はこんなに小さかっただろうか?

 

『んん……ふふっ』

 

 隣から、朋花が俺の腕を組んでくる。

 両腕で、きゅううと、あちらに引き寄せるのと、こちらににじり寄るのが混じった加減。

 

『あなた、すでに興奮していませんか?』

『してる。確かに』

 

 30分の砂時計が、落ち切ろうとするぐらい。折返しの、少し手前。

 

『これでは、先が思いやられます~♪』

 

 

 

「――さん、おとうさん?」

 

 娘の瞳に、俺自身の姿が映るほど覗き込まれていた。

 

「だいじょうぶ? てつだおうか?」

「ありがとう。すぐ終わらせるから……」

 

 先が思いやられるどころではなかった。

 

 

 

※45

 

「れろっ、んっ……ぢゅるるっ……っ、ふぁ、ぁあっ……♥」

 

 肌と、粘膜と、吐息を重ね合う。

 朋花は『キスなら、何日目でも、シていいんですよね~♪』と、いつもより積極的なぐらい。

 それで俺を興奮させて、ペニスが大きくなっていると、いたずらを叱りつけるように、

 

「もう……我慢して、くださいね。できますよね~?」

 

 キスで食われながら肌どうしをこすられ、柔らかい胸やウエストを誇示するように押し付けられ、

 俺が羞恥をこらえて『射精してしまいそうだから、キスだけでも……』と申し入れると、

 

「あなたから言い出したことですのに~、困ったお人です……っ」

 

 と言いながらこちらのお願いを受けてくれるものの、不服だと言わんばかりに、

 これ見よがしに肩や首に歯を立てたり、肌が赤くなってしまうほど吸い付いたりしてくる。

 その軽い痛みで、朋花の欲望を突き刺されてる気がする。

 

「んきゅっ……!? ふぁ、ぁ、その、そこ、は……♥」

 

 お返しに、ふわふわと広がる朋花の髪と生え際に顔を埋めながら、首筋と肩甲骨を撫で擦る。

 

「やぁ……っ、だめ、あらって、ないです、からっ……♥」

「自分の匂いだと嗅ぎたくないのに……朋花のは、こうして嗅ぎたくなる」

 

 ここまで違うと、本当に同じ人間なんだろうかつくづく疑問になる。

 今にも指先が、肩甲骨あたりから生えた翼の根本に突き当たりはしないか、と妄想してしまう。

 ナイツ・オブ・テンペランスでもそのあたりに翼を吊るしていた。

 

「ね、ねぇ……おねがいです、あの、また、キスっ……したい、です……」

 

 おずおずという声音が沁み入ってきて、一気に引き戻される。

 

「ぁむ……んぅうっ、んっ、ちゅぅっ……♥」

 

 待ちかねてた、と舌だけで主張するように、すぐくちびるをこじ開けられ、歯も舌も口蓋もむさぼられる。

 そのままじゅるじゅると脳髄やら意識やらを吸いつくされる心地。

 手や腹に力を入れて、朋花の温かく柔らかい肢体を感じて、どうにかベッドの上に自分をつなぎとめる。

 

「んぢゅっ、ちゅーっ……♥ んくっ、ぁ、んんんぅうっ……!」

 

 こんなキスを繰り返してたら、そのうち朋花の顔をまともに見ることもできなくなりそうだ。

 

 

※46

 

「ぢゅ、るる♥ んぢゅ、ぁ、んふっ、はぷっ、ちゅー……んぅんっ♥

 ……あなた、いけませんよ~? こんなに、おっきくして、押し付けるなんて……」

 

 そうすると、勃起しているペニスを朋花のウエストか腿あたりに押し付けて、

 挿入をねだるジェスチャーになってしまう。

 

「ほら、いい子ですから、我慢してくださいね~。私、その日まで、あなたを待っていますから……」

 

 そういう朋花の腿あたりも、すでに蕩けている気配はした。砂時計をひっくり返す。

 いったん体を離したせいで、お互い赤みのさした肌が、斜めの日差しに照らされて丸わかりだ。

 

「……息、荒くなってますよ。苦しいんですか?」

「苦しいのは、苦しいんだが……」

 

 朋花が楽しげに――余裕をたっぷり湛えて――笑っているので、俺も無性に張り合いたくなる。

 

「……我慢するほど、気持ちいいものだからさ。男のコレって」

「不思議ですね、男の人って……♥」

 

 目の前のメスを孕ませたい性欲と、安らかな午後に漂う睡眠欲と、あとは朋花だけに包まって、

 俺はくらくら震えたりぴりぴり痺れたりしながら、残り半分を過ごす。

 

「そう言われると……あなたの苦しそうな顔も、好きになってしまいそうです」

 

 俺はその夜、あまりに睡魔が寄って来ないので、やったこともない寝酒で寝ようとした。

 キッチンを漁る。朋花が好む赤ワインしかなかった。それだけで股間に緊張が走った。

 

 射精せずに夢精を防ぐ方法をネットで調べていたら、空が白んでいた。

 また娘に怪訝そうな目つきで見られた。

 

「……あなた。昼まで、お休みになったほうがよろしいのでは?」

「申し訳ございません」

 

 朋花に『ポリネシアンセックスというのは、夢精もできないんですか?』と聞かれた。

 性器へ愛撫するな、とは書かれていた。夢精についての記述は無かった。

 

 俺は朋花の残り香を嗅ぎながら、大遅刻の睡魔を迎えた。

 

 

 

※47

 

「おはようございます~。きょうは、傘か、合羽がいりそうですよ」

 

 あの日から5日目の朝が来た。天気予報は昼過ぎから夜にかけて雨。

 ただ、見上げた空は灰白色が塗りたくられていて、朝から一雨来そうな気配だった。

 

 歯を磨き、ひげをそり、顔を洗い、髪をとかし、着替えて、朝食を噛み締め、皿を食洗機に放り込み、

 娘の手を引いて――「いってきます」――送迎バスに乗せる。

 

 そこまでは、いつもどおりの要領で進められたと思う。

 

「……おかえりなさいませ、あなた……ふふっ」

 

 帰ってきたら、朋花の表情は空より早く濡れていた。

 当番表のホワイトボードが、その日のスペースだけ何も書かれず白かった。

 

「きょうは、しかたがありませんよね。そういう日も、ありますよね」

 

 そういう日にしてしまった原因は、俺の提案を朋花が飲んだせいだった。

 なので俺と朋花が合意していれば、ここでひっくり返しても融通無碍の範囲だろう。きっと。

 

「……お風呂だけは洗っておいたので……あとはお湯を張れば……」

 

 給湯器から放たれる女性の声のアナウンスが、やたら遠く聞こえた。

 

 

 

※48

 

「きゃぁ、あっ……っ! そんなにがっついて、あなたは……イケないひと、ですっ……♥」

 

 ここまでのポリネシアンセックスの流れだと、砂時計をひっくり返した後、

 朋花とベッドに並んで座ってお互い肩を寄せ合ったり耳元でささやきあったりしつつ、

 言葉が途切れたら身を横たえてキスしたり体を撫で回し合っていた……のだが。

 

 そんなことをしてたら、朋花の肌にちょっとペニスがずりずりやられたら最後、

 あえなく射精してしまう自信(危惧)があった。むしろキスだけでも危ない。

 なので俺は半ば強引に朋花を座らせ、脚を開かせ、その間に自分の両肩を割り込ませる。

 

「キスより先に……あそこに、するなんて~。よっぽど、心待ちにしてたんですね……」

 

 クンニリングスなら、入れる準備と言えば名分が立つ。

 ペニスに不意の刺激を食らうこともなく、挿入解禁まで持ちこたえつつ盛り上げられる。

 万が一にもシックスナインにしようとか言われる前に、朋花に迫る。

 

「私は、逃げませんから……私だって、待っていたんですから、そ、その――んきゅうぅうぅうっ♥」

 

 太腿の付け根の表側、鼠径部あたりを指先でなぞっただけで、黄色い嬌声を浴びる。

 ヘソの下の、うっすら妊娠線の残るあたりの肌がきゅうきゅうと浮き沈みするのを見ると、

 無性にそこに触れたくなる。

 

「や、ぁ、な、なに、これ、ぇ……っ! い、いま、どこさわって――ぁああっううぅうぅっ……っ♥」

 

 俺は、痙攣のようにぎくしゃくする朋花の太腿を押さえつけ、

 そのまま肌に口づけしたり歯を立てたりする。

 

「そ、そんな、ぁっ、そこ、されただけ、で――ぇ、うっ……ふぅぅううぁあぅ――っ♥

 い、いっちゃ、あ、だめ、こっこんなのしらないっ♥ おかしく、な、ぁあ――ッ♥」

 

 朋花の嬌声は、名手に弦をめいっぱい酷使されているストリングスを連想させた。

 アゴや首で感じる粗相は、無性に懐かしく慕わしかった。

 

 

 

※49

 

「朋花……ごめん、すみません、すみませんでした」

「逃げません、とは言いました。あなたに、私は、確かに言いましたとも。

 ……そのときは、あなたに、こんなことされるとは、思いませんでしたが」

 

 朋花はベッドに横座りして、こちらに背中を向けていた。

 うなじから、腰の上のくぼみまでに描かれる背骨の曲線が、ソソる。

 

「……そんなに感じるとは、思わなくて」

「だって、その……子作り、するから……そのあたり、いつもより深く意識が行ってしまって……」

 

 朋花は、言動には罪悪感をにじませ、それ以外の態度は不機嫌そのものだった。

 

 しかし、朋花をセックスでイカせてあげなくて機嫌を損ねるならわかるが、

 朋花をセックスでイカせてしまったことについて、なぜヘソを曲げられるのだろう。

 

「……私も、その……挿れるまで、我慢したほうが、いいのかな……と……」

 

 ポリネシアンセックスに、女性の絶頂タイミングの制限はなかったはずだ。

 夢精と同様に。

 

「う、うるさいですねっ、もうっ……んっ、んひゅっ♥ ひ、ゃ、あっ……♥」

 

 腕を広げて、後ろから朋花を包み込む。

 ポリネシアンセックスだと並んで座るか寝転がるかだったので、なんだかこの体勢は久しぶりだ。

 

「……あたって、ますよ……? その、それ、が……♥」

 

 朋花の背中は、肉が薄く骨が近いせいか、お腹側よりもさらにすべすべしていた。

 

「ん、ぁあっ、む、むね、まで、っ……ぇぅうっ、んんんぅうっ……♥」

 

 朋花のアンダーバストと、何本目かの肋骨を指先で感じる。

 まさぐる。心臓が拍ったり肺が膨らんで縮んでとしたり……まで、教えてもらえそうな心地だった。

 

「……あの子におっぱいあげてたとき、思い出すな」

「あの時より……ちっちゃいですよ。そんな、触って、も――や、ぁふっ……んんくぅ……っ♥」

 

 朋花のもっとも母親らしい姿であろう授乳の風景を思い出しながら、

 母親というには淫らすぎる熱と柔らかさを堪能する。

 

「……別に……比べるなら、射精とか、ぜんぜん父親らしくはないですよ~……」

 

 心中独白のつもりが、声に出てしまっていたらしい。朋花以外ではこうならないんだが。

 しかし朋花の前にいるとよくあることなので慣れてきた。興奮しているといつもそうだ。

 

「あなただって……私の、隠していることも、隠せなくして、私をダメに、して……

 なすすべもなく、私は、ここまできて……」

「それで、ここからもう一人産んでもらうよ、朋花……二人かもしれないが」

 

 今度は自分の言葉を自覚したかったので、ゆっくりハッキリ言った。

 それでも俺に余裕はなくて、かすれて囁きよりも細かったので、めいっぱい朋花の耳元に寄せて言った。

 

「また、そんな……だめ、ですっ、そう、いうのっ」

 

 さらに続けた。上塗りした。

 

「それ、ぇっ、私、わたしっ、ナカ、まで……っ、きゅうってキて、ぇ――ぁ、あっ、うぁっ……!」

 

 朋花の乳房を揉んでいた俺の腕が、ぎゅうっと掴まれて、上にしとしと雨のような雫が降るのを感じた。

 朋花に背中を預けられた。かすかなスキンシップだったので、どうにか射精をこらえられた。

 

 

 

※50

 

 さらさらと細い雨音が聞こえた。

 朋花の息遣いと、シーツがしゅっしゅっとよれる響きが聞こえた。

 それ以外は、砂時計の落ちる音が拾えそうなほど静かだった。

 

「……挿れたら、しばらく静かにしていてくださいね」

 

 朋花は、ぼんやりしたリクエストをしてきた。

 

「いま、あなたに何か言われたら、それだけで……ナカ、きつくしちゃいます」

 

 ……なるほど。

 

「挿れてから、さんじゅっぷん……ですか……まともに、動けないでしょうね……♥」

 

 おっしゃるとおり、としか返事ができない。

 

「私が、仰向けで、寝ますから……あなたのタイミングで、来て、ください」

 

 正常位は、朋花の髪の毛を背中に敷いてしまいがちなので、シた記憶がほとんどない。

 

「……いっぱいくっついてると、びくびくって、勝手に、動いちゃいそうですから……」

 

 朋花の長い髪が、手でたくし上げられて、ふぁさりと向こうへ流される。

 後頭部を要にして、扇を広げたみたいだった。

 

「これだと……顔、見られてしまいますね。恥ずかしい……」

 

 顔を隠してほしくなかったので、俺の手で朋花の手を握った。

 

「……わ、わかり、ました、ぁ……♥ みて、て、ください……そこから、わたし、を……っ」

 

 今にも飛ばし果てそうな勃起を、朋花の入り口に添えて、沈み込ませる。

 挿れたばかり、まだ亀頭ぐらいしか入っていないのに、

 

「ふぁ……あ……きて、ます、ね……? 感じ、ますっ……♥」

 

 さっきキスして叱られた下腹や、そのすぐ内側の膣粘膜が、挨拶か催促か、きりきりと軽く引き攣れる。

 いつか触れた子宮口らしい奥のあたり――思い出す。思い出させられる。

 こっちだって、導いてくる。引っ張ってくる。絡め取られる。

 

「いったん……このあたりで――」

「――もっと、おく、ですっ」

 

 ここから砂時計の方へ目線をずらして三十分経ったか確認するなんて不可能だと思った。

 

 

※51

 

「ん、ふふぁ、んあぅ……♥ は……はぁ、入り、ました、ね~……♥」

 

 少し尻のあたりを体重移動しただけでも、ペニスが擦れて精子を出してしまいそうだった。

 奥、挿れるだけ挿れて、俺を迎え入れてくれた、朋花の胎の底を感じる。

 

「でも……また、あなた……そんな、苦しそうなお顔……気持ちいいの、ですか……?」

 

 そういう朋花は、俺を見上げながら、目尻を下げてにっこりして、

 薄暗い中でもてらてらと光るくちびるを舌舐めずりする。

 

「で、出そう、射精、しそう、だ……」

 

 幸せすぎて怖いとの決まり文句を信じたことはないが、気持ちよすぎて怖いだったら真に受けてしまう。

 下半身は動かせないし顔も朋花の視線で釘付け。絡めた指をぎゅうと握るのがやっと。

 

「……下のほうは、お元気なようで……いいですよ~♥

 あなたも見て、私も見て……感じてっ、ますっ♥ そばで……つながって、ぇ――っ♥」

 

 朋花は、さっき恥じらっていたのに、恥じらっていた頃の顔の赤さ、瞳と粘膜の濡れそぼった具合のまま、

 みちみちと膣内でこちらのペニスを挑発してくる。

 

「こえ、だせなくても、伝わってきます……んぁぅうっ♥

 あなたの、ものが♥ わたしに、たまらない――って、ナカで――ん、んぅぁうっ……!」

 

 朋花のほうだって絶頂が近そう……むしろ、膣内のみちみちと細かいうごめきは、

 もう淡めのオーガズムに浸ってるんじゃないか、なんて。

 朋花のナカを彼女自身より味わったことのある俺でさえ、こんな加減は覚えがない。

 

「ふ、は……あっ♥ でも、ね、あなたと、わたしの、おやくそく、ですものね……?

 ぁ、へぅっ♥ あなた、がっ♥ わたしのために、がんばって、くれ、てぇ♥」

 

 朋花が一挙手一投足でステージを支配するところ、DTMでうんうん試行錯誤しているところ、

 陣痛で脂汗にまみれながら俺に笑いかけてきたところ――朋花の温かいねぎらいの流れに乗って、

 朋花の姿がくるくる渦を巻いて回る――走馬灯? 俺、死にやしないだろうか。

 

 今なら、うれしすぎて、死んでも、いや、そんな……。

 

「それ、感じちゃうと、わ、私、わら、ひっ、んっ♥

 しあわせ、で、あっ――きゅうって、とま、ら――はっ……あっアッアっ……♥」

 

 あぁ、もう、止まらないやつだ。射精、我慢できるところを、超えた。

 ペニスが、跳ねて、切っ先を振り上げ、朋花の奥を突いて――

 

「んぁ――や、ぁ、ぁ、ァ、ァ゛き、キて、ぇ……♥」

 

 ――睾丸とか、括約筋とか、そのあたりが、否応なく締まる。送り出す。

 ペニスがドクンと、破裂するんじゃないか――鈴口がこじ開けられてなかったら破裂してた――

 どくどくって、射精、朋花の、ナカ、胎内めがけて、押し付けて、妊娠しろと……!

 

「ぁあ゛ッ、あ、うぅっ――あ、あかちゃん、うみます、うみます、から――んんぅん゛ぁぁっ……♥

 だして、して、ぇ――っはぁぁ、あ、あっあっ……ぁああぅ……っ!」

 

 我慢を振り捨てた代わりに、射精しながら、燃え尽きながら、腰を駆り立てて突いた。

 膣内と、声と、抱きしめあった指が、やわやわとつるんで、みしみしと交わる。

 

「ぁ、あ、んンぁ……あ゛はァあ……っ♥ よく、で……でき、ました、ね……♥」

 

 よろよろと、朋花の横に倒れ伏し、ねぎらいの声を聞いた。

 二人で見上げた窓は、雨雫に叩かれ風に洗われていた。

 

 

 

※52

 

「お母さん、ここは、なにもかかなくていいの?」

「それは……そのままで、いいんですよ」

 

 学校の課題なのか、姉の自覚が出てきたのか、『お姉ちゃん』が家事を手伝うと張り切っていた。

 それで朋花が、今週の当番表に『お姉ちゃん』の割当を書き加えようとしていた。

 

「なんで?」

「い……いいんですっ」

 

 会話が聞こえてくるほうに目を向けて、俺は驚愕した。

 娘相手とはいえ、あの朋花が、気圧されて、いる……!?

 

「それは、夫婦会議の時間なんだ」

「お父さんっ――ふうふ、かいぎ? それって、なにしてるの?」

「お父さんとお母さんは、ときどき二人きりで話し合うんだ。

 ……毎日いっしょでも、話し合わないと、わからないことが出てくるんだ。

 おとなになって、誰かと結婚したら、わかるよ」

 

 嘘は言っていない。

 

 翌日、当番表のブランクには、めいっぱいの大きさの字で「ふうふかいぎ」と記されていた。

 

 

 

「……これは、本当に話し合いが必要ではありませんか。あなた」

「はい」

 

 ……嘘は言っていないんだが。

 

(おしまい)

 

 

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