アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
スライムへの対抗策を講じる為、帝国から少し離れた所にある湿地帯に来た。今日のお供はケル。
「……詳細は大体理解した。ヴェルグの視界は魔力が優先されてしまって、外皮及び体液が魔力そのものであるスライムは感知が難しい。だけどもしもの時のためにコアの位置がわからない、ではこまるから、実験に協力してほしい。これであってる?」
「ああ。そして、実験相手はコイツだ」
密封結界からスライムを出す。
MP分配量をもとに戻し、さらには勝手に湿地の水分を吸って、元の大きさに戻ったスライム。
……いや、俺視点では、の話だ。ケルの首がかなり上を向いているあたり、結構な大きさになっているのだと推測される。
「眷属の呪いをかけてあるから動き出すことはないはずだが、一応見張っていてくれ」
「わかった」
さて、まず試したかったことを試す。
一つ目。称号オン。
ああ、これだけで「本来の大きさ」はわかるようになった。
称号……というのはシステム的な話で、表示をオンにすると「今付けている称号がキャラクターの頭上に出る」というもの。称号が無い場合は「称号無し」という表記が出る。
今、すんぎょい高い場所に「称号無し」の表記がでているので、大きさはこのくらいだろうと推測できた。もうすんぎょい位置。
試しに分配MPを幾らか弄ってみると、比例して称号無しの位置も高低する。
加えて称号ってソイツの頭上の真上に出るから、やろうと思えば称号目掛けてサンダーボルトとか撃ちおろせばワンチャンか。
次。
「ケル、今からやるのはお前から見たら奇異に映るかもしれないが、心配しないでくれ。まぁ俺の防御力知ってるだろうし大丈夫だとは思うが」
「え、何するつも──」
返事を待たずに、俺は「そうであろう範囲」に首を……身体を突っ込む。
思ったより抵抗が強い。あと思ったよりひんやりしてない。
戦士スキルに水中行動というものがあって、これが水中での動きの遅さや呼吸系など諸々カバーしてくれる素敵スキル(なお習得できるのは終盤)なので、予めそれを使ってスライムの中に入っていく。
見た目。
感触で言えば既に俺の身体はスライムの中にいるのに、見えている少女との距離は遠い。少女の表情にも特に変化は見られない。やっぱりあれ擬態のグラフィックがそのまま見えるだけなのか?
多分この状態で雷とか炎とかの魔法使えばダメージは通るんだろう。俺は魔法防御もクソ高いので関係ない。ただワンチャン「内側から爆ぜて死ぬ美少女」とかになる可能性を考慮するとできる気はしない。
「ケル、今コアの位置はどこだ?」
「ヴェルグの真上あたり。ジャンプすれば届くくらい」
「ふむ」
俺の仮説が正しいのなら。
その、言われた通りの場所に向かって跳躍し──コアを掴む。
それでもまだ美少女に変化はない。
これを持って、このまま、このまま。
スライムの外へコアを持ち出す。
すると、今の今まで俺が見ていた美少女はそれこそスライムのように溶け崩れて、握っていた方のコアがちっこい美少女になった。
やっぱりか。俺に見えてるのは本体なのね。
となると……もしかしたらスライムは俺が倒せる唯一の魔物の可能性あるな。いや、ワンチャンゴーレム系もいけるか?
美少女を切り刻むのがエグいから戦えないのであって、そのビジュアルが一切変わらないでいてくれるんなら全然問題ない。
スライムの身体が雲散霧消していないことを確認し、コアをその中に入れ直す。
すると、やっぱり元の……コアを取り出す前の位置に美少女が戻る。
ふむふむ。
それを何度か繰り返し。
一つ深呼吸を置いて、剣を出した。
スライムは物理無効である。コア以外にはどんなに攻撃力の高い武器ぶっ刺しても何も効かない。
だから。
「ッ」
斬って、みた。
震える手で。見えなくなったコアの、けれどそれが無いだろう位置を、横一文字に。
──美少女は、変わらない。表情さえ歪めない。
「オーケーだ。ケル、協力感謝する」
「何が分かったのか私にはよくわからなかったけど、ヴェルグがいいならそれでいい」
さて、じゃあ。
スライムから再度コアを抜き取る。見えなくなったって位置はわかる。これは、なんだろうな。ド素人なはずの俺自身だけど、肉体のステータスが多分関係してる。AGIあたりか? 物が動く気配が分かるというか。ただスライムの外にいるとわからないので、鋭敏になっているのは触覚だけかもしれない。
これまた再度チビになったスライム美少女を密封結界に入れる。
「スライムのコアって売れるのか?」
「売れるけど、砕くよ?」
「……その時スライムは勿論」
「死ぬ」
うん。
よし、これからスライム退治をしなければならない時は、コアだけ抜き取って誰かに処理してもらう方向で行こう。コアが潰れる瞬間、俺の見えてる美少女がどうなるか……は、想像しない!
これでようやく魔物退治という冒険者の要ができるようになったぜ!!
──最悪範囲魔法で全部吹き飛ばせばいいだけ、というのはホントそう。
ポーションというのは中々に摩訶不思議なアイテムである。
飲めば体力が回復する。飲めば魔力が回復する。経口摂取でなくとも肌に振りかけるだけでも半減こそすれど効果は出るらしい。
どゆこと。
植物や魔物の素材から作っているから漢方薬に近いものなんだろうな、というのは感覚でわかるんだけど、即効性が異常すぎるし、仮に漢方薬だとして肌からも吸収できるのが怖すぎる。
「だけど、たとえば毒や酸の類は肌に触れただけで効果があるだろ?」
「いや……酸は確かにそうだが、あれは体表だろうが体内だろうが関係なく溶かすからであって、ポーションや毒とは勝手が違う」
「じゃあ毒だけでいい。つまるところ、ポーションは人間の身体に浸透しやすいように作られていて、経口摂取が一番いいのは勿論だけど、肌からも吸収できる。効果が半減するのは内臓に届き切る前に効力を失ってしまうから」
「いや……いや、良い。そこは理解したことにする。ただ、俺がわからないのは"体力"や"魔力"を回復するという部分だ」
HPやMPの概念。
ゲーム感覚で使ってる身で言うのもなんだけど、HPて何。
体力、持久力、あと怪我の度合い。
その辺ひっくるめてHPとされているんだけど、その辺ひっくるめて回復するってのが意味わからん。
「うーん、実際の素材を見せるのが一番早いんだけどね。ヴェルグさんは見るの、無理だろ?」
「ああ……いや、だからつまり、ベースの素材が再生力の高い魔物なんだな?」
「そういうこと」
無理矢理頭を回すと、つまり再生力高い魔物の抽出エキス──これがどういう製造過程かは考えないものとする──を用いて人間の再生力も高める。そこに様々な素材を加えて再生力をさらに高める。
あー、だから漢方薬っていうか軟膏なのか。むしろ飲めるようにした、飲むことで効果が倍増した軟膏であって、肌から吸収した時に半減しているのではないと。
ポーションはアロエ。そういうことだ。
「ま、世間話はこんくらいにして。ほら、こないだのヨードさんとこの新作。ああヴェルグさん中身見ない方が良い奴ね。それ使った新作ポーション。一個試供品であげるから、夜のオトモに使ってみな?」
「媚薬なのか」
「媚薬、というよりは、自白剤に近いかねぇ。素直になれない気持ちを解放させるポーションだよ。ほら、嬌声隠しがちなコとか、気丈な態度取るコには一発ってね!」
「……法的に大丈夫なのか、これ」
「勿論申請は既に通してあるよ。その辺のぬかりは無し!」
「流石だ。じゃあ一本貰っていく」
「具合が良かったら感想もよろしく!」
媚薬、もとい自白剤。
……荒業にはなってしまうけど、ちょいと使ってみますかね。
家に帰ってから、俺の寝室を神官スキル:遮断で完全遮断する。
相変わらず無反応なグレイスを担いでベッドに寝かせ、その口にハルフィーさんに貰ったポーションをとくとくと入れた。窒息の心配は……無さそうだ。ちゃんと飲んでいる。抵抗する気が無いだけで死にたいわけじゃないっぽいんだよなグレイス。
「マグロ相手にゆっくりやるのはあんまし気分乗らないんだけどな。まぁ今回だけだ」
グレイスは普通に人間で、先述したように結構身長が高い。胸もそこそこあって尻もそこそこあるが、何より俺のオティヌティヌにティンと来ていたのは二つ──いや三つか。
まず一つ。
乳首が陥没していること──!!
これは俺の隠されたフェチの一つであると同時に、あんましエグくないから他人にも言えるものだ。陥没乳首。なんで好きなのかは言語化できん。だが好きだ。わかってくれ。わかってくれなくてもいいがわかれ。
そしてもう一つが、陰核のデカさ。クリトリスってちゃんと言え。
そう、グレイスは陥没乳首でデカクリという、そのテの人にはぶっ刺さる身体をしているのである。そして俺がそのテの人である。
まず、これまたハルフィーさんの所で買ったポーションもといローションをだばぁとかける。人肌くらいに温められたそれをグレイスの身体に丹念に塗っていく。でも無反応。
次に陥没乳首にもローションを。親指を使ってぐりぐりと中に中にと塗り込んでいく。それでも無反応。
下半身は一旦取っておいて、乳首を取り出すところから始める。
このローションは胃に入れても問題の無い成分。よってグレイスの胸にむしゃぶりつき、その乳首──右乳の方をジュゥッと吸い出して露出させる。現れたるは長さ4、5cmはあるデカ乳首。そう、グレイスは乳首までデカいのである!!
口をすぼめて咥内で弄ることのできる長さのその乳首。もうべろんべろんとべらんべらんと舐め擦ってやれば、流石のグレイスもちょっとだけ反応を見せる。「……っ」という何かに耐えるような反応だから、気持ちよくなってるのかは微妙。
丹念に丹念に、しつこくしつこく右乳首だけを責め立てて、ボルテージが上がってきたところで左に──。
「──どこ」
「え」
お、グレイスの声初めて聴いたぞ、とか思ってる暇はなかった。
彼女が泣いていたからだ。そんなに嫌だったのか? なんて鈍感ぶれるほど俺は他人の機微に疎くない。
これは。
「どこ……へ……行ってしまったの……私の、大切な……子……」
自白剤。
ずっと黙っていたのは隠したかったからか。それとももう無理だとわかっているからか。
ハルフィーさんにこれ効果エグいよ、と伝えないといけないなぁ、なんて感想を持つと共に、萎えていくオティヌティヌ様。
いやね。
可哀想は可愛いよ。
でも……そういうんじゃ、ないんだよなぁ。
翌日、俺はノズヴェルガーの店に来ていた。
「奴隷の出品者、ですかい。まぁー、記録は残しているんですが、その……あんまし人に見せられるもんじゃねぇんですよね。いくら旦那とは言えど、顧客の未公開情報ってのは、相手さんが困っちまうんで」
「ノズヴェルガー。お前は開示権限というものを知っているか?」
瞬間、ピリッとした顔つきになるノズヴェルガー。
まぁな。ちょっとおかしいとは思ってたんだよ。コイツ人が良すぎるから。小物染みた接客も明らかにわざとやってるし。商売はすんげー良心的で且つ公正だし。
とても奴隷商には思えん。
何より、「契約」というものを命よりも重視する北の孤島出身者が奴隷商をやってるってのも、元から怪しさ満点だったし。
「俺は最上位だ」
「……へぇ。まぁ、だろうな、とは思っていやしたよ。そもそもウチの商品、曰く付きの多かったでしょう? あっしの店は……まぁ、そういう、身分こそ奴隷に落ちたものの本来はやんごとなき、みたいなのを多く取り扱う店でしてね」
「ああ、じゃあお前、リアやツバナの事知ってたのか」
「へい。だから売る相手も見極めさせてもらってます。でも驚きましたよ。信じて任せたリアライズ姫が、数日後国を復興させてんですから。あっしからの旦那さんの信頼度の上がり方と言ったらもう」
若干NTRレターみたいな言い回しだったけど、成程なぁ、と。
「でもツバナは任されたとかじゃないだろ?」
「……実は、あんとき棘の森に倒れてたのはツバナ姫だけじゃあなかったんですよ。手足失って目も失ったツバナ姫を、それよりボロボロになりながらも背負って来てた兵士さんがいましてね。通りかかったこと自体は完全な偶然ですが、こと切れる前にあんな切実な声で"頼む"なんて言われた日には、そりゃ治療も丹精込めるってもんで」
そういえば言ってたな。命からがら逃げてきた時、連れて来た兵士だか従者を失った、って。
……棘の森。死体さえ残ってりゃ蘇生できるが、流石に野生魔物に食われちゃってるかなー。
「とまぁ、ツバナ姫のことはこんくらいで。それで、聞きたいのはグレイス・ユアンさんのことでしょう?」
「ユアンだと?」
「うぉっ、っとと、どうしましたかい旦那さん。今あっしの尻尾の毛が総毛立ちましたよ」
「あ……ああ、すまない。知り合いの家名だったから驚いたんだ」
「なんと、旦那さんの! となると、開示権限以前にお話しできるものも多くありますかね、これは」
ユアン。
その名は、だって。
「グレイス・ユアン。王国と帝国の間にあった、王国側の辺境伯領の出でしてね。ほら、一年前に小競り合いがあったでしょう? そん時あのあたりの村々は全滅したらしくて。その小さな村の唯一の生き残りが彼女なんですわ。ただ当時既に心がぶっ壊れてて、情報のジの字も聞き出せない状態。そんな感じなんで、いろんなところ回されて、最終的にウチに、って感じで」
「唯一の生き残り、か」
「んっ、あ、あぁそうか。じゃあ旦那の知り合いってのも」
「ああ……数年会ってなかっただけだと思っていたのだがな。……死んでいたか」
「その、心中……お察しいたしやすわ」
すまんノズヴェルガー、そうじゃないんだ。
ユアン。
んで焼かれた村と、そこの唯一の生き残り。さらに「母を探している」というゲーム本編での目的。だというのに果たされなかった──回収されなかった伏線。
あのゲームは自由度の高いゲームだ。だから明確なメインヒロインや相棒と言える仲間というのはいない。
それでも主人公は年若い青年で、だから「王道ルート」を辿るのであれば、必ず仲間に──ヒロインになる子がいるのだ。
アッシュ・ユアン。それがその子の名前。
「可能であれば、その辺境伯の領地の跡地……地図でも方角でもいい。教えてもらえるか?」
「それくらいならなんも問題ありやせんよ。地図をお渡しいたしやす。……献花してくんなら、良い店紹介しまっせ」
「ああ、頼む」
そうか。
俺はやったことなかったけど、もしかしてアッシュ・ユアンを仲間にした状態で帝国に来ていたら、奴隷として心の壊れた母親との再会イベがあったりしたのか?
あのゲーム戦闘メインのゲームだからそんなエグいの用意してこないとは思うんだけど、可能性はゼロじゃない。
そして、じゃあもうアッシュ・ユアンは王国に流れたか。もし主人公というのがいるとしたら、出会うのはもうそろそろだな。俺が主人公だった場合は知らん。
「こちらになりやす」
「ああ、すまないな」
「いえいえ。あーっと、だから、ウチの商品は大体曰く付きになっちまいますが」
「勿論これからも利用させてもらうさ。むしろしやすくなった。つまりは箔がついた、ということだろう?」
「ええ、由緒ある血統書付きでさぁ」
不謹慎な軽口だが。
これでもう俺の中のノズヴェルガーは身内枠である。彼に何かあったら神速で駆けつけることとしよう。
……あいつ自身もそこそこ強そうだけどな。スライムに腰を抜かしてたの、あれ演技だろ。
ということでやってきましたモントルテンシュ辺境伯領。無論元、だ。今は完全な跡地で、墓地すらない。
「……死者蘇生」
も、効果が無かった。つまり埋まってる死体もないってことだ。
せめてアンダーテイカーみたいにアンデッド化しててくれてたらやりようあったんだけど……あー。
グレイスの「子」がアッシュ・ユアンで間違いないのなら、彼女の心を癒すには王国へ乗り込んで彼女を探す必要がある。
さて。じゃあグレイスのために王国行くかぁ、となるかというと。
「そこまでの正義漢ではないんだなぁ、これが」
王国。
イグニスメンバーもアニス・ウォーズマン以外は王国出身だ。だからそこの住民が悪いってわけじゃあないんだけど、ないんだけど。
面倒が勝る。
いやいや、じゃあお前エイルニルス公国とか鬼の国とかどうなんだって言われたらそれはうん確かに面倒なんだけど、というか距離で言ったら王国の方が程近いんだけど。
最初になぁ、あの子助けなければなぁ。
「……名も知らぬ誰かへの献花とはなってしまうが。……いや、確定しないことは口にはしない。ただ、いつかその時が来たら背を押してくれ」
適当な石を地面に突きさして墓碑として。
そこに花を置く。この大陸のみならず、世界全土で鎮魂に使われる青色の花。ノズヴェルガー曰く死者の国にも同じ花が咲くと言い伝えられているから、らしい。ティル・ナ・ローグに咲いてるのはもう少し鮮やかな色……とかいうのは野暮が過ぎるだろう。
日本流で悪いが、手を合わせて……あー、なんて言えばいいんだろうな。誰を思い浮かべればいいのかもわからん。
「すまなかった」
「墓碑に謝罪とは。相変わらず人間の行動は意味がわからんな」
──……。
真上。成程、ミニマップに映らないワケだ。青点が重なってやがる。
バッサバッサと翼をはためかせ、ゆっくりと降りて来たのは全裸の女性。ただ全身から滲み出る魔素が、自身を魔族ですよと自己紹介している。
スライムの例を考えて称号表示をオン。お、称号アリか。えーと。
「【真紅の幽姫】……!?」
「ほう? 人間の分際で私の名を知る者がいようとは」
ラスボス。そいつは魔王って存在じゃあない。魔王は魔王でいるんだけど、魔王もラスボスの手先だ。いや隠しボスというか。
で、こいつはそのラスボス側の四天王の一人。魔王にも四天王っつーか四元王がいるので色々面倒なんだけど、とりあえず強い側の奴だって思ってくれたらいい。
元の姿は確か一つ目で襤褸布被った長い爪のナニカだったはず。アダルトMODで女性になってはいるけれど、もしかしたらあの襤褸布の中身もこれだった可能性はあるな。幽姫って言うくらいだし。
さて。
どうするか。コイツを倒すのは全く問題ないんだけど、墓前に花供えてその真横で戦うのは。
あと切れるかなー俺。多分スライムと違って普通に斬れるよな。うん、無理。
「そう警戒するな、人間。──目的は同じだ」
「……鎮魂か」
「お前達のようにここにいない者を偲ぶことはないがな」
真紅の幽姫は地面に降り立つと、その長い尾で地面に何かを描き始める。
……召喚陣、か?
「サモン:サルファードレイク」
「……一応言っておくが、墓を踏み荒らされたら怒るぞ、人間は」
「わかっている。まぁ安心しろ、こいつは」
光り輝く召喚陣から出てきたのは。
──少女と思しき、骨。全身骨格。
仙人スキル:無の境地。
「食あたりが悪かった。それだけのことよ」
「……強い魂を食んで、乗っ取られたか」
「ほう? 私の名といい先程からの態度といい、ただの人間ではないようだな」
ゲーム本編にある、あんまり後味の良くないイベント。
人語を操り、人間の心を持つ魔物がいる、という噂を聞きつけて主人公がその魔物を探しに行くと、確かにその魔物はいる。涙を流していて、しきりに「嫌だ嫌だ」「こんなの私じゃない」「帰りたい」「戻りたい」と言っている魔物。
倒すか話を聞くか選べるのだけど、まず倒すと特に何も起きない。後味が悪いだけ。
話を聞くと、なんでもその魔物は元は人間であるという。でもそんな話は聞いたことが無いからと、とりあえず教会に行くことになる。魔物を連れ歩くってことでいきなりスニーキングミッションが始まり、特段難度の高くないそれを潜り抜けた先の教会で、衝撃の事実が言い渡される。
この魔物は食した者の魂に自らの魂を染め上げられただけで、人格の持ち主そのものではない、と。
稀にではあるが文献は存在していて、やはりどの場合においても食した存在と同一の記憶、人格に魔物が塗り替えられる事象が発生していると。
故に。
この魔物は本当にただの魔物──記憶があり、人格が同一であるだけの、本当にただの魔物なので。
殺すか、逃がすか、という選択肢を迫られる。
殺せばそれで終わり。戦闘中にずっと泣き言を喋るので超後味悪い。
逃がすと「ありがとう」「ごめんね」と言って去るのだが──後日。
その魔物が人間を食い殺し、討伐された、という報告書がギルドから主人公に渡される。簡素な報告書で、簡易な業務連絡で。
魔物なのだ。人格が人間で言動が人間で記憶が人間でも、魔物。人間は食料でしかない。同じ魔物を食べようにも、主人公が元の生息地帯から離れた境界付近に連れてきてしまったが故に上手く獲れず、結果──と。
「名は?」
「リーニャ。知り合いか?」
「いや。こっちの墓碑に刻んでおこうと思っただけだ」
「そうか。勝手にしろ」
真紅の幽姫は召喚したそのサルファードレイクの……少女の遺骸を丁寧に埋葬していく。
魔族はティル・ナ・ローグの存在を知っているからな。死者の魂がここにないことも理解している。だから献花が理解できないんだろう。そこには誰もいないのに、と。
だからといって、死体を辱めるのが違うという意識はあるらしい。あの手つきから察するに、仲が良かったのやもしれない。
エグいわ。
やめろよ、そういうの。敵は敵であれよ。
魔化した人間、魔族化した人間が、どれほどの忠義を捧げていた相手に対してでも牙を剥くことは前に述べた。謎の意識に操られ、軒並み敵対すると。
だから絶対に相容れない存在だと。
シーファ然り、こいつ然り。
和解の道がある可能性を見せられると……アダルトMOD以前に、剣を向けるのも難しくなるだろうが。
「あー。真紅の幽姫」
「リザだ」
「じゃあリザ。魔族流の鎮魂というか、死者への手向けの儀はあるか? 作法を教えてくれ」
「……私達の身体を蝕む魔素。魔化した魔物も、魔族も、ティル・ナ・ローグには行けない。門番が通してくれぬ」
「知ってるよ。あのデカい蛇だろ」
「ふふ、本当に博識のようだ。……そうだ。ゆえに、我々に死後の安寧など存在しない。人間は恵まれているよ。死後にも続きがあるのだから」
「それはまぁ、理解してる。留まればアンデッドに、留まらなければティル・ナ・ローグに。行くべき場所がはっきりしている分、迷わずに済む。……魔物は、良くてゴーストか。死した状態のまま、苦しんだ状態のまま彷徨うしかない」
「まるで見て来たかのような口ぶりだな」
「見て来たし、多分、どの人間より……親身になれる」
マイホームを埋め尽くしていたゴーストの群れ。
死因がそのままに残り、呻き、苦しみながら向かって来ていた少女たちを思い出す。
魔物にはあれしかない。あれしか道が残されていない。この世に留まりたくば死した状態のまま永遠の苦しみを受け入れるしかないのだ。そしてそれを拒めば。
「世界に還る。これがどれほど恐ろしいことかわかるか? 人間」
「今なら分かる、が正しい表現だろうな。俺は……わからなかった頃に、殺し過ぎた」
「そうか」
「恨むか?」
「何をだ? まさか、私が魔物を同族と思っている……などという冗談を言う気ではないだろうな」
「同じ魔素に呪われた者同士だろ」
「ふん、ただ等しく奴隷というだけだ。そこに情など存在しない」
リザは、リーニャの植わった土に対し、一つ指を鳴らした。
瞬間──轟と燃え上がる土。
「安心しろ。その献花とやらに火花は飛ばん」
「魂を世界に返して、肉体は土に返すのが、流儀か」
「そうだ。双方を世界に還し、心を離す。……人間、お前がどこで魔物たちのゴーストを見たのかは知らぬがな。それらは未だに肉体がこの世に残っている魔物であるということだ。そしてその肉体ある限り、幾度殺そうともゴーストは湧き続ける。苦しみ、もがき、足掻き、しかしてどうにもならなず……それが辱めでなくなんだというのだ」
ああ。
それなら大丈夫だ。あの時俺はスーパーノヴァで全てを消し飛ばしたから、肉体も消し飛んでいるはず。だからマイホームにはゴーストが再湧きしないんだろう。
「情けをかけてくれるなよ、人間。魔物を殺すのなら、殺し切れ。肉体を残すな。素材、だったか。そうしてもいい。とにかく使い切れ。別の存在に昇華しきれば、奴らも浮かばれようぞ」
「難しいことを言うもんだ。俺は魔族を殺せないっていうのにさ」
「ふん? なんだ、呪いか?」
「いや。……無理なんだ。血が……無理になってしまった。魔物の血さえ無理になった」
ん、なんで初対面の相手にこんなこと話してるんだ。しかも魔族に。
……もしかしてハルフィーさんの自白剤ポーション、俺にも効いてる? 時間がかかったのはステータスの耐性が悪さしたかな。
「お前、名は?」
「ヴェルグ」
「そうか。……ヴェルグ。生きるのがつらいのならば、私がその命を摘み取ってやってもいい。どうだ?」
「いいよ。その剣で思いっきり俺の首を刎ねてみな」
「……生きる意思の無き屍か。ならば──」
剣が首に当たる。
轟音。そして突風。衝撃波が彼方へと炎を飛ばし、焼き焦がしていた骨をも塵として飛ばした。
──が。
「っ……なんだと!?」
「こんだけさせといてなんだけど、死ぬ気は無いよ。まだまだやることあるし。ただ、そうだな。お前の上司に伝えておいてくれよ。一思いに殺してやろうとした人間の首が斬り落とせなかったって話。ああ挑発してるわけじゃない。そういうのが世界に現れたことをファントムに知っておいて欲しいんだ」
「……我が主の名まで。……ヴェルグ貴様、本当に何者だ」
「流れの旅人。今は帝国在住だ。その身体、魔素が漏れなくなったら遊びに来て良いぞ」
ダメだ。本当に自分で何言ってるかわからん。防御力で絶対大丈夫だってわかっていたとしても、敵に首を晒した意味も分からん。
自白剤っつーかこれなんか脳のリミッター外すやべー薬なのでは?
「じゃあな」
「その光、まさか転移──」
そういや久々に使ったか。人前での転移。
うん。
この自白剤、もっかい見直して、ってハルフィーさんに伝えなきゃなぁ。