※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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新たなる種族(G度ほぼなし)

 これは裏ボス倒した後に行ける資料室に置かれている設定の一つなのだが、曰く、どうもこのゲームにおけるセーブとは何か、という所を深掘りした研究資料……という体の書籍があった。

 セーブ。セーブデータ。ロード。

 それらが意味することは、果たしてこの世界に住まう人間たちにとって何なのか。事象として何が起きているのか。

 

「ある一定の時間、あるいは期間。そこを回帰点(ポイント)として定めた場合、そこから起きる現世での行動は全て幻影であり、もう一度このティル・ナ・ローグにて回帰点(ポイント)を更新しない限りは全てが夢幻となって消える。基本的にあらゆる生物はその回帰点(ポイント)を認識することができずに一生を終えるが、命の始めと命の終わり。その二回だけは自動的にティル・ナ・ローグへ"現像"が刻まれる」

「……言ってること一個もわかんないんだけど」

「死者の国ティル・ナ・ローグとは、死した者がいる国ではなく、死している国──生きていない国、というべき場所なんだ」

「要約されても全く分からないけど!?」

 

 シーファのツッコミが響くけれど、反響はしない。

 静寂。ただひたすらに静寂。死人に口なし。それは死者は喋らないから何言っても嘘扱いされない、みたいな言葉だけど、この世界じゃ死霊にも口が無い。だから静寂だ。

 

 要するにここはセーブ&ロード画面。ゲームデータの読み込み画面……の世界なわけだ。

 ゲーム本編においては主人公と裏ボスだけが回帰点の更新を任意で行えて、だからこそ二つはぶつかり合う。魔王もラスボスも、ラムナザール四世もその他諸々も、世界のシステムに気付けずに踊らされる操り人形……とは裏ボスの言葉だが。

 

「うう、ここホントにティル・ナ・ローグなの? ……魔族の私が行けてるのもおかしいし、言い伝えで聞いてた限りじゃ、もっと明るくてあったかい場所だって……」

「それは俺達が生きているからだよ、シーファ。なんていうのかな、ここには死んだ奴にしか見えない光が満ちてるんだ。可視光線の域が違う……というといろんなところから怒られそうだから言わないけど、死霊と俺達とでは見える世界が丸々違う」

「にしてはご主人様、さっきからドア開けたりしてない? なんか見えてる?」

「覚えてるだけだ」

 

 ティル・ナ・ローグは現世と重なっている。重なり合っている。

 現世で構造物が建てばティル・ナ・ローグにも建つ。現世で地割れが起きればティル・ナ・ローグでも起きる。

 よって現世における建物の構造を覚えておけば、何も見えないティル・ナ・ローグにおいても行動ができる。ああさっきはセーブ&ロード画面だと述べたけれど、それは場所がそうというだけであって、ゲーム内からもアクセスできる場所である。

 

「暖かさも同じだ。死霊にとっては暖かいらしい。生きている者にとっては極寒に等しい。俺が寒冷耐性をパーティ単位でかけてなければ、今頃シーファは凍え死んでるよ。俺は大丈夫だけど」

 

 モントルテンシュ辺境伯領の墓地で会った魔族、リザとの会話にも出て来たけれど、魔族はティル・ナ・ローグへはいけない。けれどいけない理由は門番がいるから、なのだ。馬鹿でかい蛇、ヨルムンガンド君が。でもヨルムンガンド君に別に冥府の門番的な逸話ないから、名前のカッコ良さだけで名付けられたんだと思う。黄泉ルンガンドって呼ばれてた。

 なお、こいつと戦うのは無理。HPが8000万とかあって、こっちの攻撃はどんだけバフかけても基礎攻撃力あげても特効つけても1しか入らないとかいう鬼畜ぶり。ネフティスのタリスマン見せれば一発で通してくれるけどね魔族と魔物以外。

 倒そうと思えば倒せるんだろうけど何年かかるんだってヤーツ。

 

「……この辺りか」

「どこかについたの?」

「いや、特定の場所ってよりは、激しく暴れても問題ない場所を探していた。開けていて周囲に余計なものがない場所」

「……なんで?」

「戦うからだよ」

「ご主人様! た、確かに魔族は魔族というだけで銀章冒険者くらいの実力はあるけど! 無理だから! 私じゃ一発で斬! だから!」

「誰がパーティメンバーと戦うんだよ。ほら身構えろ。音もなく来るぞ」

 

 音もなく、来た。

 ミニマップ様に感謝しつつ、赤点を切り裂く。呻き声を上げることもなく消えていく何か。世界の闇と全くの同一色で、体液が噴き出ることも肉や骨が見えることもない。

 だから仮にアダルトMODの影響でこいつらが美女美少女化していても──流石に、斬れる。

 

「シーファ、精神耐性系の歌唱スキル、踊りスキルを使い続けろ。魔力は常に俺が気を配って分配し続ける」

 

 斬る。斬る。斬り捨てる。

 肉を断つ感触すらない、影そのものみたいな奴ら。

 

「せ、精神の加護!」

 

 精神耐性が30%ほど上昇する。へぇ、良い物持ってんな。人間のバードスキルだと20%なんだけど、これは魔族、ニンフ専用スキルか?

 ただ、目減りしていくシーファの魔力。恐怖から一番強いスキルを使ったと見た。ま、何もわからん地でその行動は正しい。

 俺も仙人スキル:瞑想を使いながら常に眷属メニューを表示して、彼女のMPが三割を切らないように心掛けながら戦う。

 

「これで、18匹目。あと32匹だが、こっから複数で来る。シーファ、魔素の鎧を薄くで良い、纏っておけ」

 

 今歌ってるから返事できないんだろう、頷く彼女が見えた気がするので了承と認識する。 

 ちなみにだけど俺とシーファは互いを認識できていない。先程までは俺が手を引っ張っていたから良かったものの、今はもう完全に離れている。多分孤独だろうから早めに終わらせたい所存。

 

 これ何やってるかって、一つ目の試練、って奴なんだよね。

 

「魔剣士スキル:プリズムオーラ。魔剣士スキル:月華閃」

「~っ! ~♪」

「ん? あぁ今のは光属性の剣であって聖気じゃないから気にするな。聖気の出るスキルは使わん。んなことしたらティル・ナ・ローグに迷惑かかるし」

「~~! ~~~!」

「これが歌に感情を乗せるって奴か。凄い凄い、伝わってる伝わってる」

 

 事前に説明して! って言葉が聞こえた気がする。……ケルにも言われなかったっけそれ。

 つーかそういえば書置きとか残してないからめっちゃ心配されてそう。まぁ一日かける予定ないから大丈夫だろう。大丈夫じゃなかったらごめんな。

 

「27! ──来るぞ、今回の試練のボス!」

「っぷはぁ、も、もう無理! 踊りに変える!」

「毒耐性ガン盛りしとけ! 精神耐性は後で俺が何とかする!」

「何起きてるかわかんないけどわかった! ──なんかヤバい音する! ご主人様、地面地面!」

「わかってるよ。俺がここに何回来てると思ってんだ」

「何回も来てるのが驚きだよ!?」

 

 出てくるのはヒュドラ。三体分の価値があるのかキングギドラ的なノリなのか、全部影だから三つ首かどうかもわかんないんだけど一応一回倒すだけで舌のドロップが三つある奴だったから多分そう。

 ただコリジョンはもうぐちゃぐちゃだろう。アダルトMODだけでもわかんないのにティル・ナ・ローグのせいで何も見えん。

 

 ので出てきて早々悪いが消えてもらう。

 

「魔法スキル:フレイムロード」

 

 本来であれば──現世であれば、俺の手からエグい炎が直線上に出てるんだけど、ぜーんぶ影。

 だから倒せたかどうかはミニマップで確認するか、ドロップを見るしかないんだけど、ドロップは見たらエグいのわかってるのでミニマップで──。

 

「っ……っぶねぇ。シーファ。そこにいるのはシーファだな?」

「え? うん、そうだけど」

「いや……よかった。パーティ表示感謝過ぎる」

「???」

 

 真横にいた赤点。これでその赤点に緑枠がついてなかったらワンチャン斬ってた。

 緑枠はパーティメンバーがどこにいるかを表示するシステムで、たとえばダンジョンのトラップでぶっ飛ばされた、とかでも方向だけならわかるようになっている。

 

 シーファが赤点表示になっているのは。

 

「それで、そろそろ魔素しまっていい? 今にもデバフかけそうで嫌なんだけど」

「ああ、いいぞ」

「ふぃー……あぶなかった」

 

 魔素。魔化した人間は必ず人間と敵対する。謎の意識に操られて。

 ……ちょいと気を付けないとな。あとあんまり容易に「魔素出せ」って言わないようにしておこう。

 

「失った魔素は致命的か?」

「んーん、全然」

「だとしても食っとけ。要らなかったらしまっておけ」

 

 ニーズヘッグの心臓をシーファに渡す。

 そのすがら彼女の腕を掴み、歩き出す。

 

「わわ、進むなら、というか掴むなら掴むって言って! さっきからご主人様説明なさすぎ! 普段からそうだけど、もしかしてなんか焦ってる?」

「焦っている。余裕がない。この世界だと死者蘇生が使えないんだよ。だからできるだけ早く味方の位置を察知しておきたい。でないとうっかり殺してしまいかねん」

「……だとしても、なんか言って。こ、これでも怖がってるんだから」

「伝わってる。声震えてるし」

「じゃあ言え!」

 

 おいおい、俺のキャパの狭さ舐めるなよ。

 ただでさえティル・ナ・ローグは色んな制約のある場所なんだ。普段通りにしてたらヤバいんだよ。俺はいいけどシーファが。

 

「面倒くさいな。前と後ろどっちが好きだお前」

「え!? ……え、ええと、まぁどっちかというとバックの方が物感あって」

 

 使い古された勘違いネタかましてくるシーファを無視して彼女を背負う。

 踊りスキルは封印されるが、歌唱はできるだろ。

 

 ……あ、ちゃんと服着てるんだな、って感触がある。だよね、全裸ではないよねやっぱりね。

 

「第二の試練まで少し歩くからな。ちょっと説明を挟んでやるよ」

「フツーは最初にするものだよ……」

「第一の試練始める前にティル・ナ・ローグが()()()()()()と厄介なことになるんだよ。だから急いでた。すまん」

 

 死者の国の死者の光が見える、ってことは。

 それだけ、近づく、ってことだから。

 

 さて──進もうか。

 

 

 

 

 進みながら、特に何でもないように出てくる影の魔物を切り裂きながら、シーファと雑談に興じる。

 

「ここがどういう場所でどういう意味があって、ってのは長いから、シーファから聞きたいことを聞いてくれ。都度答える」

「じゃあまず、どーやって私の種族の階位を上げるのか、かな。そこでしょ、一番気になるのは」

「……まぁここまで来たんだ。開示権限もクソもないか」

 

 ソシャゲとかにはありがちだから聞き馴染みはあると思うんだけど、このゲームキャラごとに「限界突破」ってものが用意されている。

 条件があって、まずレベルが300以上であること。

 そして、キャラごとに用意された試練を三つ突破すること。

 最後にこれまたキャラごとに用意された必要なアイテムを用意し、特定の場所に収めること。

 

 これらを用いて限界突破を行うことで、キャラの基礎ステータス向上や隠しスキル解放、その他キャラのバックストーリーや新規イベント、新規派閥などの開拓が行える。

 仲間になる可能性のあるNPC全てに用意されているこれは、当然だけど内容もまちまちだ。たとえば以前話に出たグレイスの娘のアッシュの限界突破は全部現世で行える。反対にメアリーとかだと「夢の世界」とかいうそれもうドリームランドじゃね? みたいな場所に行かされる。

 他にも魔素の濃いフィールドに行く必要があるとか、反対に天使を仲間にしていないといけないとか、それはもう様々あって、とてもじゃないがそれ全てを覚えてる奴はwikiの管理人とかその辺くらいだと思う。

 

 ただこれら限界突破には裏技が存在する。ワ〇ップではない。

 

「まず──ティル・ナ・ローグにはレベルの概念が存在しない。等しく死者だからだ。俺達は生きているが、生きている判定じゃない。あー、なんだ。世界という目線で見た時、今の俺達は死んでいるのと同じなんだ。生きていない、が正しい言い方だけど」

「いつの間にかご主人様に殺されてた……」

「その認識でも構わん。許可取らずにやったしな。で、種族の階位を上げる三つの試練。これは本来種族ごとにバラバラなんだが、ティル・ナ・ローグで三つの試練を受けると現世でそれらを突破したのと同じ扱いになる」

「お得!」

「そうだな。さっきの状況を楽だと思えるなら得だな」

 

 精神耐性上げてないと一定確率で恐怖・混乱が味方に付与され、且つ敵は音も気配もない影の塊。ミニマップに赤点が見えると言っても敵の武器のリーチや出方といったものが見えるワケじゃないから、そこはもう慣れるしかないという鬼畜仕様。んで蘇生系のスキルが全て使えない。

 

「最後に必要なアイテムだが──まぁ多分俺が持ってる」

「最後だけ適当過ぎない?」

「俺のアイテムボックスにはこの世の全てが入っている。……結構過言じゃなく、な」

 

 一周目に集めきれなかったアイテムは二週目に全コンプしたし。

 ただアッシュ・ユアンを帝国に連れて行く、みたいなのはやってなかったから、もしかしたらそこでしか手に入らないアイテムとかは無理み。ただしキャラの限界突破アイテムは汎用アイテム……一度殺したら復活しないネームドからしか落ちないアイテム、とかは指定されないので、多分大丈夫だ。多分。ダメだったら一回帰って集めてきてやり直し。

 

「この世の、全て……」

 

 なお、オネピエセ的な話じゃないのは言うまでもないか。

 

「というわけで、あと二つの試練を越えて、俺が持っているアイテムをある場所に捧げれば、晴れてシーファの種族的階位は上がり、ハーフ天使であるアウラニ如きの聖気じゃどーにもならない存在になると」

「……あと二つの試練っていうのは?」

「二つ目は超簡単だ。……ほら、そろそろ見えてくるぞ」

 

 見えてくる。

 光の無いティル・ナ・ローグで。

 

 そこにあったのは──。

 

「山」

「そう、山」

 

 山、だった。

 剣山だった。

 

「これを乗り越えるだけでいい。本来いろいろ気を遣うんだけど、面倒だから突っ切る。ここは破壊しても誰にも迷惑かからないし」

 

 魔剣士スキル:物理無効オーラ。戦士スキル:突進。重戦士スキル:シールドバッシュ。

 さらに【鈍亀の甲羅】という移動速度90%低下、だけどあり得んレベルの耐久力&防御力及び隠しステータスの一つである「掘削力」を上げる装備を用い、その重い一歩を踏み出す。

 二歩、三歩と来て、ゆったりとでも加速力が付いてきたところで、召喚士スキル:アヘッドを使う。これは召喚した魔物に前へ行けって号令出すだけのスキルなんだけど、今眷属の呪いでシーファが召喚獣と同じ扱いになっているので、シーファに「前へ行け」って言ったことになる。

 けどシーファは俺に背負われている。ので。

 

「ちょ……ちょっと、ナニコレ、私何して」

「やっぱりそっちが優先されるのか」

 

 これバグだと思うから何回もフォーラムに送ってたんだけど一向に治らなかったんだよね。

 このゲームの移動方法で一番早いのは「空を飛ぶこと」だ。いや転移とかいう速さ関係ないのは除外して。

 だけどそれでも遅く感じるプレイヤーというのはどこにでもいるもので。

 俺がそうで。

 

 再現方法は非常に簡単。まず召喚獣をサモンして背中に背負い、自分は浮遊系のスキルか装備を使って浮遊。その状態で召喚獣にアヘッドなどの移動系スキルを使うとアラ不思議、めっっっちゃ速く進めます。

 本来アヘッドを受けた召喚獣は自分の足を使って強制的に前へ行かせられるんだけど、それができない状態だとまずそれができるようどうにかするコマンドが発生、たとえば眼前に岩があってできない、だったらそれを退かすとか壊すとか。

 で、これを眷属の呪いで俺に危害を加えられないシーファがやろうとすると、俺を壊すんじゃなくて俺を押す、という手段でしか前に進めなくなる。そんで俺は浮いてる。

 

 するとなんということでしょう、前へ進むために俺を押してもずっと前に障害物があり続けるので、また前に押さなければならず……一生加速し続ける爆速移動が可能になるのです!!

 

「ぅ……ほ、ほんとに! ほんとにそんなつもりないからね!?」

「何が?」

「いや、なんでも、うぅ、擦り付けるの止めないと流石に今そういう雰囲気じゃ……ッ」

「あー、ね? そういう処理になるのか。いやいいぞ、俺の背でオナるくらい。あとで洗えばいいし」

「なんでそういうとこだけ察しが良いのかなぁ本当に!!」

 

 擦り付けるとか言うからだよ。なまめかしい声出してるし。

 

 まぁ、いいんじゃないか。

 さっきの実験でシーファの本来の姿がちょっと見えた気がしなくもないけど、俺の見た目的には美少女なシーファが俺の背中で角オナ……カド? 床? してるのは、そこまで悪い気分じゃない。つーか普通にエロい。

 

 そんな感じで、シーファの抑え気味の嬌声を聞きながら、俺達は第二の試練を突破したのだった。

 

 

 

 まだ息の荒いシーファを負ぶったまま第三の試練へ。

 

 ティル・ナ・ローグにおける第三の試練。それは。

 

「はぁーっ……はぁーっ……は、へ?」

「シーファ。怖いだろうが離れるなよ。斬りかねん」

「う、うん……わかった」

 

 目の前にはなんか光り輝く門。

 

 だけどその前に、眼前に、一人の男が立っている。

 

「ドッペルゲンガー……あるいは影武者か。文字通りの、だけど」

「……」

「こいつ喋ってくれたら煽り合いとかできて楽しいのにな。ま、死人に口なしはここでも適応ってことで」

 

 俺だ。

 俺の姿と俺の装備を纏った俺。ただしシーファは背負ってないし。

 

「剣士スキル:唐竹割り」

「──。──ッ!?」

 

 全く同じスキルを使っても、あっちが弾かれる。

 

「……!」

「うん、まぁ、わかってはいたけどな。だから来たんだし」

 

 第三の試練は自身との戦い。

 完全に同一のステータス、レベル、装備、インベの中身まで一緒なので、倒すのであれば仲間差しかない。ただし影の魔物は普通に割り込んでくるし仲間も襲ってくるから援護に専念ってのは難しく、どうにかして差をつけて行って辛勝するしかない、というのが本来の仕様だ。

 

 が。

 

 ここにいる「自分」が反映できるのって、その周回分のステータスだけなんだよね。

 つまり強くてニューゲーム二回目状態で、さらに難易度:簡単を選んでいる俺のこの余剰ステータスとでもいうべき部分の模倣はできない。そして相手は「自分」であるとはいえあくまでシステム的な「自分」なので、俺がアイテム使わなかったら相手も使わないし、俺が装備を──たとえば【ヒノキのぼう】とかに変えたらアイツもそれに変える。

 

 三周目ゴリ押しチートマンは苦戦とかしないんだよね、って。

 

 しかし、コイツ美少女にならねーのな。斬りやすくて良かったけど。

 

「……え、終わり?」

「終わりだよ。あとはこの門に入って」

 

 入って。

 

 必要なアイテムが俺の前に表示される。

 ……うん、やっぱり。ニンフって元が強大な種族じゃないから、必要なアイテムもそこまでレアじゃないね。

 

「シーファ。目の前に祭壇があるの、見えるか?」

「うん」

「じゃあ今からアイテム分配をするから、それを丁寧に置いていってくれ」

「分かった」

 

 例の如く俺は見ない。そのアイテムがどういうものなのかはわかってるから。

 ……一応アイテム名を読み上げるなら、「コカトリスの脚」、「ラミアの腕」、「ゴブリンキングの腎臓」、「ダミーミミックの瞳」、「フェンリルの幼獣の尾」、「魔化したヘルハウンドの心臓」。

 なんというファンタジーラインナップ。でもそれが全部美女美少女化してると考えたら……やめとこやめとこ。

 

「置いたよ」

「そしたら目を瞑れ」

「ん」

 

 限界突破メニューにアイテムが入っていることを確認し、限界突破をポチィ! する。

 すると。

 

「ん……ぅ、ふ──ぐ、ぐ、ぐぎ」

「痛むのか?」

「痛い、わけじゃない……でも、やばい、かも……!」

「何がどうやばい?」

「魔素が……魔素が!」

 

 血が噴き出たのかと勘違いするような勢いで、シーファの全身から魔素が飛び出る。

 液体化したそれは彼女の周囲をぐるりと取り囲むと、その切っ先を鋭利にして──俺へと殺到し始めた。

 

「魔素がうるさい! やばいご主人様、眷属の呪いで縛って! じゃないと無理かも!!」

「なんて語り掛けてきてる?」

「悠長過ぎない!?」

「いいから」

 

 その魔素を全部切り払いつつ、ミニマップも注視する。

 ……やっぱり赤点だ。パーティメンバー表示だが……。

 

 思うにこれは、シーファが赤点……敵になったというより、魔素が敵なのだと推測される。

 

「殺せって! ご主人様……その男を殺せって、魔族の務めを果たせって!」

「ドゥームスか?」

 

 ピタ、と。 

 魔素の猛攻が止まる。

 

「な……んか、動揺してる? い、今の内だよご主人様! 逃げるか──私を殺すかして!」

「アホか?」

「じゃないと殺しちゃう!!」

 

 馬鹿言え。んじゃ何のために来たんだよ俺は。

 つーか、なんだ。

 想定通り過ぎてちょっと疑いが強まるけど、謎の意識、とやらはやっぱりドゥームスで合ってるのか。

 

 んー。

 

「警告する。今すぐシーファから離れろ、ドゥームス。でないとお前を斬る」

「そうして! 早くして! 私やだ、ご主人様に敵意持ちたくない!」

「再度警告する。これが最終通告だ。シーファから離れないのであれば、()()()()()()

 

 魔素の棘は──。

 

 俺への攻撃を、再開した。

 ま、そりゃそうだ。虚勢にしか聞こえんわな。

 

「虚数スキル:繰り込み」

 

 一瞬でティル・ナ・ローグとは全く違う場所、どこか風靡な、けれど寂れているような、そんな空間に移動する。眼前には──アダルトMODで全裸美女化した、ラスボスのドゥームス。ただし彼女は現在動いていない。いいや、近くにあるロウソクも、外を飛ぶ怪鳥も、空気中の塵一つも静止している。

 

「聖騎士スキル:聖域、聖騎士スキル:聖断」

 

 その圧倒的一方的状態から、魔族、魔化した魔物への最も効果的な攻撃を叩き込む。

 

「やめてあげなよ」

 

 ……叩き込んだ、つもりだった。

 止められた。簡単にではない。奴さんも結構急いできたらしいことは伝わってる。こっちの剣も完全に抑えられてるわけじゃないしな。

 

「フレースヴェルグ。今の君がそこまでできるとは思ってなかった。正直感服したし敬服したし、怯えもしているよ。なんせ今のボクはそこまで辿り着けてないからね」

「……ファントム」

「おや、自己紹介が必要ないとは。……いや、リザが話していたのが君だったのか。成程、名前を偽るなんてらしくないなぁ、正々堂々としていればいいのに」

「魔王とドゥームスの影に隠れてる奴が何言ってんだ」

「おっとそれを持ち出されちゃ言葉がない。……それで、どうかな。ドゥームスは君の怖さを知らないだけなんだ。君が今すぐ立ち去ってくれたらボクはすぐにでもドゥームスに君の危険性を説いて、君の仲間の……なんとかちゃん? あの子に手を出さないよう説得する」

「お前がドゥームスを庇う理由は?」

「逆に考えてよ。今ドゥームスを殺したら、その子も死んじゃうよ?」

 

 ──……。

 

「その通りだ。早計だった。早計が過ぎた。止めてくれたことを感謝する」

「うわぁ、流石フレースヴェルグ。敵に感謝するあたりが本当に君らしい。それで──それを聞いて尚剣から力を抜かない理由は何かな。ボク、腕痺れて来たんだけど」

「殺さなきゃいいんだろ。斬って時間止めて封印する。それなら魔族が全滅する結果にはならん」

「倫理観無さすぎて引くわー」

 

 たとえ美女の姿をしていても。

 たとえ俺がその後吐瀉物を撒き散らすのだとしても。

 

 そこまで覚悟の無い奴じゃないつもりだ。

 

「もう一度聞く。そこまでしてドゥームスを庇う理由はなんだ、ファントム」

「理由はいくつかあるけど……今さ、人類良い感じじゃん? まーたくだらない戦争しようとはしてるけど、魔素に対して、魔化に対して良い感じのトコいってるじゃん? それをさ、ドゥームス殺してはい終わりー、はちょっと寂しすぎるじゃん?」

「お前の好きな"ストーリー性"か」

「え、うわ。何々、君もしかしてボクのファン? ボクのこと理解し過ぎでショ~」

「まぁ、理由は分かった。ちゃんと説得するなり洗脳するなりしろ。じゃないと今度は警告なしで斬るぞ」

「わかってるわかってるって! ボクだってもっともっと楽しみたいし! いや、というかぶっちゃけ裏技使った君が悪いと言えば悪いんだけど……ああ待って待って、咎めてるわけじゃないから。でもさ、折角()()()()()()()()()()()()()()をあんまりぶち壊さないで欲しいな、って。今回は見逃すけどね」

「気分次第だ」

「あちゃ~、そこの交渉は決裂か。まいいや、それじゃあほらかえってかえって。あんまり時間止めちゃうのも世界がほら、色々ね?」

 

 止められた剣を引き、踵を返す。

 次第に動き出す世界と、どこぞかへ引っ張られて行く俺の身体。

 

「短気である自覚がある。雑談に興じている暇があったら早くやれ」

「はいはい分かってるわかってる。──それじゃあね、フレースヴェルグ。魔王もドゥームスも倒した後で、虚数神殿でまた会おう」

「行けたら行くよ」

「それ来ない奴じゃーん!」

 

 そんな軽口が終わった次の瞬間、俺は元居た場所……ティル・ナ・ローグの祭壇前にいて。

 

「あ、もう、無理カも──」

「いやもう終わったぞ。魔素しまえ、シーファ」

「……はぇ?」

 

 眉間にまで迫っていた魔素の棘を掴み、止め……終わらせる。

 

 さらさらと崩れていく魔素。

 そしてシーファは、がくんと膝をついた。

 

「まだなんか聞こえるか?」

「え? ……ううん。聞こえない。どころかいつも聞こえてたのも聞こえない、かも」

「魔素は? 失ったりしてないか?」

「して……ないけど、かなり消耗してる」

「そうか。それはまたニーズヘッグの……まぁ味に飽いたなら他の奴の心臓でもくれてやるが、どうだ、シーファ」

「えー! じゃあね、じゃあね」

「いやどの心臓か、じゃなくて。どうだ。階位を上げてみての感想は」

「?」

 

 俺の眷属メニューに映るシーファの種族は、既にニンフではなくなっている。

 これ本人に自覚あんのかな。俺人間だけど、人間だって自覚ないぞ。

 

「……!?」

「そろそろ帰るけど、なんか違和感あったら言えよ」

「……ない、けど……え。これ本当に?」

「何が」

「……えっと、ご主人様アレやって。姿の偽りを解け! って奴」

「今じゃないとダメか?」

「今じゃないとダメじゃないけど今が良い」

「わかった。呪詛スキル:眷属:姿の偽りを解け」

 

 ぶわっと漏れ出……ない魔素。

 それは完璧にシーファの手の中で操られ、収束し、再度彼女の体内へ吸い込まれて行く。

 

 そう、手の中だ。

 解けた「偽り」は、けれど、彼女の姿を小さくしない。

 

「こ、これ成長っていうのかな!」

「いや言わないと思うが、結局何になったんだ?」

「ステュクス! ……って何? 誰?」

「おー随分とランクアップしたな。んじゃわかったところで帰るぞ。実はティル・ナ・ローグ、生者があんましいて良い場所じゃないんだよ」

「なんで?」

「時間がズレるから」

「??」

 

 死者の国ティル・ナ・ローグ。

 セーブ&ロード画面であるここは、時間が止まっている。だから現世で死者蘇生を使うと死んだときのまま魂を持ってこられるし、魔素という名の外部からの操作を受けている魔族はここへは入れない。門番が魔族や魔物を毛嫌いするのは、その辺の時間の摺り合わせがごっちゃになるからだ。

 魔族の時間は止まらない。魔素の時間は止まるのがミソかね。

 

 シーファを左腕でがっちりつかみ、右手に杖のアイテムを取り出す。

 

「発動、イシスの錫杖。俺とシーファを現世へ導け」

「これはつまり、生き返るってことだよね!?」

「返るわけじゃないが、まぁそうだ。──生き続けることを選んだってだけだよ」

 

 暗転、その最中。

 

 体中に包帯巻いた、フェチモリモリな半裸美女がこちらに手を振っていた、気がした。

 

 ……そうなんだよね。シリアスシーンやってくれたところ悪いんだけど、ファントム君ずっとその姿だったんだよね。アダルトMODを恨んでどうぞ。

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