アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
異口同音に、だった。
「無しだな」
「無しですわ。ごめんなさい、メアリーさん。折角のご提案ですのに」
俺もリアも、「ツァリラストュ遺跡を俺が消し飛ばす」という話に首を横に振る。
それはあり得ない──あってはならない、と。
「調査に出る前に話した通りだ。俺は国防の兵器になるつもりはないし、エイルニルス公国側もエイルニルス公国という国そのものでこれからもやっていかなくちゃいけない。毎回俺に頼るワケにはいかない以上、敵がなんであれ場所がどこであれ、障害は自分たちの手で打ち砕いていかなければならない」
「それに私は、ヴェルグさんとの関係性を壊したくありませんから。友人とは、友人の嫌がることを押し付けるようなものではないと、私は学んでおりますのよ」
そして、ただし、と。
これまた異口同音に付け加える。
「友人の手助けをするのもまた友人の務めってな。リア。俺が魔物を殺す、という話以外で、何が欲しい?」
「なんか強い武器貸してくださいですの。装備も」
ああ。
ああ、それでいい。それくらいの適当さが俺との付き合いじゃ一番良い。
「いいだろう。魔素に抵抗できる武具防具を貸し出そう。ただし貸すだけだ。あとで返せ」
「勿論ですわ。──ただ、ラクニシェル。私は貴女に謝っておきますの」
「あん? またなんかとぼけたこと言うつもりか姫様」
「仮に強力な武具防具を得たとしても、必ず、ヴェルグさんが一人で行って帰ってくることよりも……多くの被害が出ます。兵士が、民が、酷く疲弊するでしょう。あるいは──また滅亡の未来を見ることになるかもしれない。そうなったら私は、この決断を下した私を呪います。それでも」
「バァーカ。このバカ姫。ここまでお膳立てされて期待に応えない兵士がいるかっての。んでもって、こっちの覚悟まで無視するなよ、バカ姫。アンタは全部ひとりで背負い過ぎるきらいがまだ治ってねぇ。国が一度滅んだのも、これから滅ぶかもしれないのも、どっちもアンタのせいじゃねえ」
ああ。
こいつはラクニシェルだ。途中離脱するとはいえ、序盤のお供としてずっと頼っていたあのラクニシェルそのものだ。
「謝んな。むしろ誇れ。んで呆れろ。一度死んでもまーだ他人のアイテム頼りな私達を。だが同時に、それでも前へ進まんとする私達を。いいか、リアライズ姫。私達は確かにお前の盾とならんとするための駒だ。そりゃ変わらねえ。だがな、私達はお前を守るためだけに日々鍛えてるわけじゃねえ。私達にだって家族がいる。んでこの公国が好きだ。だから強くなるし、守ろうとする」
重なる。
彼女がパーティを離脱する時のセリフである、「ごめん、お前たちの旅にはもうついていけない。……探さなきゃいけない人がいるんだ」という言葉。最初は呆気にとられたけれど、その言葉の重みを知った今──彼女の決心がどれだけのものだったのか。
そして最終的にアンデッドクイーンとなり果てて尚、リアの遺骸を抱き、侵入者を阻み続けた至高の騎士。
なーにが最強の騎士団長フレースヴェルグだ。んな奴どこにもいねーっての。
「んでアンタ」
「なんだ」
「感謝はある。有り余るほどにな。んで恩義もある。こっちも溢れんばかりの。だから言わせてくれ」
「礼は要らんぞ」
「あんまし侮ってくれるなよ、ウチの姫様を。姫様が友人から借りたものそのまま返さない奴なワケねーだろうが」
……あ、そこ?
別のトコ怒られると思ってたから拍子抜けした。あぶな、噴き出すわ。
「武具の貸し出しはありがたく受け取る。どんなに強がっても私達じゃ魔素には抗えない。どころか、魔族化によって味方に刃を向ける可能性まである。だからそこを強がる気はない。──が!」
「が?」
「おい、なんか声が笑ってねえか」
「いや。気のせいだろう」
「……アンタも、あんまり心配するな。確かにアンタから見りゃ私達は弱いんだろう。吹けば飛ぶような存在なんだろう。それでも、それ以上の踏み込みは要らん。この武具の貸し借りが終わったあと、私達は更なる躍進を遂げる。あるいは帝国や王国からも一目置かれる程の存在になる。だからそう簡単に手を差し伸べてくれんなよ。姫様の友人相手だと、手を払いのけるのに躊躇するだろ」
ああ、成程な。
成程だ、ファントム。俺はこんな機会を潰そうとしていたのか。いや本当にありがとう、俺の剣を止めてくれて。ドゥームスを守ってくれて。
抗いようのないものだ。普通の人間にとって、魔素は。
だからリアの言う通り、絶対に被害が出る。ラクニシェルだって同じリスクを抱えているし、彼女より弱い兵士なら尚の事だ。
それでも言うのだろう。
舐めるな、と。
「メアリー。帰るぞ」
「え……ぁ、はい。あの、武具のお話は」
「公国の共通倉庫に流しておいた。ああ、転移魔法で飛ばしたって話だ。リアなら場所わかるだろ?」
「ええ、ありがとうございますの。この戦いが終わりましたら、こちらから連絡し、武具防具を返却すると共に、ツバナさんの修行の予定も組みましょう」
「頼んだ」
てきぱきと。
まるで万事滞りないと言わんばかりに。
俺もリアも、振り向かない。
「ああそうだ、メアリーっつったな、そっちの」
「はい、なんでしょうかラクニシェル様」
「アンタが言ってくれた、最大限私達を気遣った作戦はありがたかったけど、もちっと主の心配してやれよ。姫様から聞いてるけど、アンタの主が抱えてるトラウマはアンタが思ってるそれよりも酷い奴だ。メイドだの奴隷だのの事情はわかんねーが、
「……それでは私からも。貴女の大事なお姫様は、下手すると戦場に出かねませんので、ちゃんと見張っておくように。──さようなら。また会いましょう、ラクニシェルさん」
「おう、じゃあな、メアリー」
よくわからんがなんか仲良くなったらしい。
──頑張れー。応援はしてるぜ、リア。
さて、帝国へ帰る道すがら。
俺の背負っていた麻袋がもがもごジタバタと暴れ始めた。
「起きたか」
「そのようですね」
袋の口を開けば──。
「っぷ、はぁっ!? はぁ、っはぁ……あ、あたし、生きて……る? え、森? っていうか体無い!? もしかして溶けちゃった!? 嫌だ、死ぬ!?」
閉める。
「行くか」
「ええ」
「待ってお願い待って待って待ってー!!」
くぐもった声で叫ぶ麻袋。
思ったよりシーファとキャラ被ってんな。体完全再生したし、ノズヴェルガーのとこにでも売りつけるか? 若い女だしそこそこの値段にはなるだろ。
「おや、性奴隷にはしないのですか?」
「ん-、タッパがなぁ。どーにも」
「……行きも思いましたが、身長にこだわりすぎでは? 男性特有の感覚なのでしょうか……」
というよりアダルトMODの弊害なんだよな。
身長が低いと等身が小さくなってロリ化すんだよなこのMOD。それがあんまりそそられない。タッパがあると普通に美女って感じでオティヌティヌがティンとなるんだけど、ロリはなぁ。
なんというか、「デフォルメされたロリ」は好きだけど、「普通に子供」だと性欲の湧きようがないというか。
「あのー! 聞いてますかー! 多分助けてくれた人ー!!」
「この麻袋、口を締めたままこの森に放置したらどうなると思う?」
「結構頑丈な麻袋ですからね。野生魔物が巣に持ち帰ったとしても破ることができず、中で腐って死ぬのではないでしょうか。ああいえ、餓死が先ですが」
「怖い話してる! 怖い話してる!!」
やばいな。
アニス・ウォーズマンの声のデカさとは違う。キャンキャンしてる。子犬かコイツ。
助けたのは間違いだったか。ゴブリンクイーンに食われてる時は流石のエグさとなんか気分で助けたんだけど、もう少し落ち着いてる奴だと思ってた。
……助けたのが間違いだった、とかいう倫理観終わってる発言は自覚してるけど、まぁそういうもんだ、ヴェルグ君は。
「しかし、本当に出たいのか? お前、今なにも着てないが」
「へ?」
「ゴブリンクイーンに消化されかけていたところをご主人様に救出されたままですからね。持ち物や装備、衣服は全て溶け落ちてしまいました。そして貴女の思う通り、手足も、いいえ、下半身の全てが……」
「イヤーッ!! やっぱりあたし死んだんだ! 死んでて今死神に運ばれてるんだぁぁあああ!!」
うるさい。
「じゃあ今お前が暴れさせてるそれはなんだよ。あと服着てないかどうかくらい自分でわかるだろ」
「え……あ、着てる」
「エイルニルス公国で仕入れた上質な絹糸を使った伝統衣装です。女性の美しさを引き出すデザインであると共に、魔物の素材嫌いなご主人様が見ても問題ない絹糸を使用しております」
蚕……というかオシラという魔物がいて、ソイツが絹糸を吐き出すんだと。その生成現場は見てないけど、確かにただの絹糸に見えるから助かってる。
そうなんだよな。
フェンリルの幼獣の尾も後々気付いて確認したんだけど、「元から人間にはない器官」や「体外に放出されたもの」に関しては別に美少女に見えるわけじゃないからヘーキなんだよな。
……臓物が体外に出たからオッケー、とかそういう話じゃないぞ?
「あ、ありがとうございます? ……えと、で、あたしはいつになったら出して貰えるのでしょうか」
「とりあえず家に着いてからだ。今出すと面倒だしうるさい」
「ちゃんと魔物がいますからね、この森。ただでさえ私というお荷物がいますのに、非戦闘員が増えるのは危険でしょう」
「あたし! 青銅章冒険者です!! 一応!」
「一番下なんだよそれは」
「青銅章……帝国では聞きませんね」
「ああ、帝国の冒険者は一瞬で銅章まで上がるからな」
ルーキーのギルド章だ。帝国じゃ恥ずかしがって衣服に付けてる方が珍しい。銅、銀に上がってからようやくつけだす、くらいだ。
……まぁ雑談はこれくらいで。
転移を行う。麻袋にいれてあるのは所有物判定にするためだ。パーティ組むのが面倒だった、ともいう。
「っとと……なんだ、誰もいないのか。アウラニもいないぞ」
「ここに書置きが。……奴隷の皆さんとケル様で、女子会だそうですよ。およよ、私は入れていただけないのですね……」
どうせシーファが先導したんだろうけど、マジで全員行くのは意外だな。ああいや、泥棒の心配ないからか、この家。許可された奴じゃないと入れないし。
「あ、あのー?」
「ああ、今出してやるよ」
どさっと麻袋を落とす。ごすっと腰を強打する音が聞こえた。
けれどすぐに麻袋の口から手がにゅっと出てきて、がばぁと袋が開いて。
なんだろう、動作がいちいち大きいから擬音だらけになってしまう。
「……ほんとに生きてる……」
「完全再生させたからな。ゴブリンクイーンが遅々として獲物を消化する性格だったことに感謝しとけ」
「ありがとうゴブリンクイー……いやいやいや食べられかけてますけど!?」
「成程。確かにシーファ様と被っていますね」
「だろ? それでいてシーファはもう結構強いし面倒見もいいからさ、単純に下位互換だなって」
「うわーん助けてもらったのは嬉しいけどなんか大変な人たちに拾われちゃったよおおお!!」
──ッ、は!?
「ご主人様?」
「……なんだ今の」
斬れ……てないな。なんだ、マイホーム内で襲われた? なんだ今の赤点、突然現れたぞ。
すぐに【奇跡の命剣】から【断章】に持ち替えて、最大限の警戒をする。
誰だ。なんだ、そもそも。またゴーストが湧いたのか?
「ああ、ああ! ダメダメダメダメ! この人たち命の恩人だから、襲っちゃだめだよセーちゃん!」
「呪詛スキル:眷属」
「ぇ、ひぃやぁあああ!?」
麻袋ごと女を縛り付ける。眷属の呪いを弾くことはない様子。だが。
五……この部屋の中に、一気に五つの赤点が出現した。
パーティ表示はない。確実に敵。それでいて不可視。
「あわ、あわわ、あわわわ!」
「使役魔物かと思ったが、コイツを縛っても意味ないのか。……勝手に憑いてるタイプか? 面倒だな。一回消し飛ばすか?」
「ご主人様、一度私外に出ていますね」
「そうしろ」
ヤバい気配を感じ取ったのだろう、メアリーがそそくさと退室する。
あとに残ったのは、一生慌てている麻袋女と、赤点五匹。
「せ、セーちゃんたち! 本当にダメ! この人食べられかけてるあたしを助けてくれたの! ちゃんと言うこと聞いて!!」
「……」
「……き、聞いて……」
「……聞かないようだな。魔法スキル:スーパー」
「聞かないと嫌いになるからね!!!」
あ、消えた。
ははーん。読めたぞ、もう。
メアリーはそのまま買い出しに行ってくるとかで、いなくなった。
俺は俺で警戒を解かずに眷属メニューから行動制限を選択。ガッチガチに縛り付けた上で尋問を行う。
「まず、名前は?」
「ヴぁ、ヴァネッサ、です」
「そうか。ヴァネッサ、お前は精霊遣いか?」
「使い……だったら、良かったのになぁ」
「なりかけ、あるいは成り損ないか」
「……みんな全然いうこと聞いてくれないんです」
っぽいな。
不可視の赤点は、今もヴァネッサの周囲にいる。周囲で、俺に殺気を放ってきている。反射的に斬りそうになるからやめてくれ。
「称号は……『精霊の寵愛』。なるほど」
「うぅ、わかってるんです。青銅章だって、私の実力じゃなくて、セーちゃんたちの力だ、って」
……じゃあなんでゴブリンに囚われてたんだ。
助けてはくれなかったのか、こいつら。
「精霊と意思の疎通をしたことは?」
「できてたら、精霊遣いになれてる、かなぁ」
「お前以外の精霊遣いは? そもそもお前どこ出身だ?」
「ロサビスです……あの、わかるかな、南の」
「ロサビス!?」
「は、はひ」
……ロサビスは、ゲーム本編では絶対に行かない場所である。
ラスボス前に主人公パーティが「空を飛ぶ力」を手に入れ、世界各地をぶらぶらしていると、何のヒントもない海上にポツンと浮かんでいるところを発見できる小さな小さな孤島。
独自の金属加工技術の発達した島であり、"魔剣"にカテゴライズされる武具の最終進化を行うことができる。これをするのとしないのとで武具の性能が段違いに違うので、一周目も二周目も頑張って見つけ出した。
ちなみにこれ攻略wikiとか関係ない。何故ってロサビスは海上を移動しているから。浮島なのだ、あそこは。
そこ出身。んで精霊遣い。
ロサビスは帝国から遥か南の島々の、さらに南の「何もないとされている海域」を回遊している島だ。だから行くにも出るにも難しいはずなんだけど……。
「マズいな」
「え、な、何がですか」
"ストーリー性"を感じる。
ゲーム本編でこいつを見たことはないが、あらゆる存在に"ストーリー性"を用意しているファントムの関与がひしひしと伝わってくる。
あいつ、シーファの"ストーリー性"ぶち壊したこと根に持ってんのか?
"ストーリー性"。読んで字のごとく、だ。
あいつは「物語的な展開」を酷く好む。キャラごとに用意された三つの試練もどこかストーリー染みているし、必要なアイテムも関連性のあるものばかり。そうして艱難辛苦を潜り抜け、掴み上げたものこそに価値があるのだと──神様気取りで言うのだ。
つまり、超田舎者で精霊遣いの成り損ないで『精霊の寵愛』なんて称号持っててゴブリンクイーンに食われかけててそれを俺が助けてしまった時点で──コイツは俺のパーティメンバーとして認識され、限界突破用の試練が襲い掛かってくる可能性が高い。コイツに、だけじゃない。俺とケルを含む全パーティーメンバーに、だ。
幸いなのは、恐らく300レベルにはまだまだ遠く届いていないというところだけど。
……厄介な奴隷ばっかりを拾ってきている自覚はあるけど、こういう形なのは初めてだ。
そんでもって何より厄介なのは──コイツが精霊を制御下に置けていない事。五匹。恐らく五大元素。
俺は良い。ステータス差でなんとかなる。
だが他の奴らはどうだ。他の奴らが何かしらの事情で精霊の逆鱗に触れた場合──何が起きる。
「ヴァネッサ。精霊への命令はどこまで通じる?」
「ほ、ほとんど何も聞いてくれない、です」
「ただお前から嫌われるのだけは怖がる、か」
「は、はい。そうみたい、です」
殺すべきだ、という自分は一旦捨て置く。そこまでドライになる必要はないはずだ。
ただ、こいつは俺の奴隷じゃない。仲間でもない。友人でも家族でもない。
そんな奴に、なぜここまで気を揉む必要がある。
……待て待て。そんなに早く思考を冷やすな。最近極端になり過ぎだぞ、俺。
まず精霊がネックだ。言うことを聞かない精霊が。
精霊遣い……はゲームにもいたけど、主人公はどうやってもなれないジョブだった。スキル習得もできない、完全NPC専用のスキルツリー。だけど精霊関連のイベントやクエストはいくつかあったはず。
けどそれに精霊をどうこうできるアイテムは無い……むしろ呼んだりする用のばっかだ。
ああ。
だから俺、そんな頭良くねーんだってば。
「面倒だから喋れ。こちらを見下してんのはわかってるが、それだと話が進まん。──喋らないのなら、一匹ずつ殺していく」
魔物が喋れて、召喚獣が喋れて。
精霊が話せない、なんてことないだろ読み。
果たしてそれは。
「ふん……我らの声も聞こえぬ人間が何を偉そうに」
「でもコイツ多分レベルヤバいよ? ヴァネッサ、このまま殺されちゃうかも!」
「……無駄口を叩いている暇があれば構えろ。この男」
「聞こえてるねぇ、僕らの声。それでいて位置も正確に分かってる。これは手を焼くどころじゃすまないかもよ?」
「ま、待ちましょう皆さん! なぜ戦う方針なんですか!? 平和に! ここは穏便に! ヴァネッサたんのためにも、ね? ね!?」
想像以上に騒々しかった。