アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
精霊。
この存在を説明する言葉は一つで足りる。
超常、だ。
その存在が、だけではない。思考も理屈も道理もやり方も、何もかもが超常。
そしてその「超常」は、ほとんどの場合において、決して人のためになることではない、というのが──この世界のエグいところの一つである。
「え、えっと、まずはそう、自己紹介からしましょう! 私はミカ! 光の精霊で、ヴァネッサたんの第一守護精霊です!」
「馬鹿を言え。私が第一守護精霊だ」
「はぁ? 私に決まってんじゃん! 私が一番に接触したんだし!」
「力が一番強いのは我だが?」
「力一辺倒の馬鹿のクセに、よくそうも粋がれるよねぇ」
次元スキル:時間停止。
MPをごっそり持っていかれるけれど、だからこそ確実に四体の精霊の時を止めたことは確認できた。
「え……あ、え。これ……」
「光の精霊。お前、可視化は可能か? 不可能ならそのままでいい」
「か……可能です」
ぼんやりとした光が目の前に現れる。だが、ヴァネッサの目には映っていない。
魔力光か。
だとして、それを見る目がないということは。
「お前はある程度まともな受け答えができると見た。
「……はい」
何か覚悟を決めたように。
時間停止はまぁ少なくとも一般人の使えるスキルじゃないからな。警戒は当然だ。
「一つ。お前達がヴァネッサを助けなかった理由はなんだ?」
「助けなかった、なんてことはありません! 助けるつもりでしたよ。──ヴァネッサたんが完全に死んでから」
「そうすればヴァネッサはお前達に感謝を示し、より愛してくれるから……か?」
「あと、ティル・ナ・ローグへ行く魂を引き戻す際であれば、ヴァネッサたんの魂は私達をより深く知覚してくれるので、もしかしたらこっちの声や姿が聞こえるかも、って」
これだ。
ゲームにおいては、「精霊は試練を課す存在である」とされている。
だが実際には「精霊にとって好きな事、存在を愛するためなら、愛されるためなら、他人にどんな迷惑をかけようが関係ない──好きな存在に対してでも」という超自己中心的な思考を彼ら彼女らがしていて、「自分たちが愛される状況、つまり自分たちが役に立てる状況を自ら作る必要がある──なら、危機を、たくさんの危機を呼び込もう!」と考えるから、まるでそれが試練に見える、と。
確かにこのミカという精霊の言う通り、ヴァネッサはあそこで食われ、消化されていたとしても、あとで生き返ったのかもしれない。ゴブリンクイーン程度なら殺す、あるいは腹を切り裂くくらいはできる精霊が揃っていた。そこにこの光の精霊の力があれば、蘇生くらいワケはない。
神官スキルはその大体が光属性であり、死者蘇生も同じ。このミカなる存在がどれほどの力を持っているかはわからないが、恐らく俺の死者蘇生と同じくらいの効力を発揮するのだろうことは窺える。
「ヴァネッサに……素質は?」
「それが残念ながら、皆無でして……。だからみんなでこうやってヴァネッサたんのそばにいるんです。いつか私達の存在を視て、聞いて、その甘美な声で私達の名を呼んでくれるように! あ、私の名前をヴァネッサたんに告げたりしないでくださいね。それでは味が薄れてしまいますから」
称号『精霊の寵愛』は、加護や祝福の類を与えるものではなく──呪いなのだということがわかる一面だ。
青銅章冒険者。ヴァネッサの精霊遣いの才は皆無。恐らくだが筋力含むステータスも一般以下。
それでも彼女が冒険者を志し、旅に出たのは──まさか、これ以上迷惑をかけないため、か? だったらあんな高レベル帯の森に一人でいたのも頷ける。
俺に触ると怪我するぜ、が俺みたいなファッションではなくガチなのだ。彼女のそばにいるだけで、彼女以外の全てが精霊の被害を被る。下手に手を差し伸べれば「邪魔をするな」と殺されるやもしれない。正しく彼女を痛めつければ「よくやった。用済みだ」と後々殺されるやもしれない。
どうかかわっていくにせよ地雷。
「光の精霊。理解しているかどうかの確認をする。俺がさっき言った、一匹ずつ殺していくという言葉が虚勢ではないことは伝わっているか?」
「ほ……他の皆さんがどうかはわかりませんけど、第一守護精霊の私にはしっかり伝わっています。貴方は時間も次元も空間も、あるいは生死すらも超越できる存在ですね? 貴方の中にある光の精霊力は、私の全保有量を優に上回っていますし」
「ならば、お前は他の精霊を説得できるか? 俺や俺の周囲の者に敵意を向けるなと」
「……えっと、その……私達に順位とか、実はあんまりなくって……」
だろうな。
第一守護精霊、というのを自己主張しあってたあたり、恐らくどの精霊も同列。力だけ見れば、とか言ってたのを加味するに、他の精霊は他のスキルに秀でているということなのだろう。
「一分だ。時間停止を解いてから一分で他の精霊を説得できなければ──」
「ま──待ってください助けてくれた方!! セーちゃんたちを責めないであげてください! みんな環境に慣れてなくて気が立ってただけで」
「呪詛スキル:眷属:沈黙」
「──! ──? ──! ──!!」
とりあえずキャンキャンうるさいのを黙らせる。
……見逃さないぞ。今のスキル行使でミカから一瞬殺気に近い物が発せられたことは。
「一分は、無理です。ですが、段階的に……まずは風の精霊であるセフィラから時間停止を解いていただくことは可能ですか?」
「理由は?」
「他の四体の中では、もっとも話ができる精霊だから、です」
成程。
「どれだ、風の精霊は」
「あ、これです。これ」
光の玉が不可視の何かに纏わりつく。
最大限の警戒をしつつ、そいつだけ時間停止を解く。ついでに仙人スキル:瞑想で魔力回復を行っておく。
時間停止の解かれた不可視の球は、ミカに二、三、何かを説かれたあと、緑の玉になった。
「──げ、僕今時間停止されてた?」
「そうです。セフィラ、よく聞いてください。彼は私達でもどうこうできる存在ではありません。いいですか、だから」
「ヴォーガーとゼニスを黙らせろ、ってことでショ? ディーネは僕の相性的にキツいんだけど」
「ディーネは私が。……話は付きました。他の精霊の時間停止を解除してください」
……警戒は強まるばかりだ。
ゲーム本編の精霊関連イベントはこんなとんとん拍子には進まない。メアリーの言葉を借りるなら、この世界的……つまり精霊は「どこまで行っても自分本位な悪人」だ。善意で何かをしよう、とすることがない。
「全員を一気に解いて、話が通じるのか? それとも──力を合わせればなんとかなる、とか思ってないだろうな。たとえばこの家ごと俺もヴァネッサも消し飛ばす、とかで」
「──お、思ってるワケないじゃないですか、あはははは!!」
思ってたねコレね。
思考がまんま俺と同じだね。面倒だから消し飛ばして生き返らせる。確かに楽だもんね。
「ま……まずはじゃあ、ディーネをお願いします! この子です! この水の精霊!」
「理由は?」
「さっきのやり取りでわかったと思いますが、この子は彼我の差を理解してます! 説得するならこの子をとっかかりにするのが一番です!」
筋は通っている。
理屈も理解できる。
だからこそ怪しい。精霊がそんな人間的な考え方するか?
よく考えろ。良く思いだせ。
……いやまぁ、アダルトMODで女体化してるわけでもない精霊なんだ、頭を回さなくても最悪斬で良くないか。
時間停止を、解く。
「多分ここは一旦退却推奨かも!? ヴァネッサちゃんへは良い試練になるだろうけど、私達までも、ってのは無理無理!」
「ディーネ。よく聞いてください。──転移を」
「神官スキル:遮断。魔剣士スキル:ダークオーラ。最大主教スキル:封印棺」
いつも通り結界が張られ、いつも通り俺から闇色のオーラが出て──そして時間の止まった麻袋ヴァネッサが、突然現れた棺桶に収められた。
封印棺。最大主教の力をもってしても倒せない魔族を封印という形で無力化するスキル。この棺は内外からの干渉の一切を遮断する他、スキルをかけた本人が死なない限り開かないとかいうチート性能を誇る。
デメリットは、次元スキル以外ではその場から動かせなくなること。転移を使おうがスキルをぶつけようが、棺桶はこの場所に完全に固定される。
今回はメリットでしかないわけだが。
「やっぱり精霊は精霊か。もう皆殺しでいいか、これは」
「待ってよ。そもそも交渉をミカに任せたのが失敗だって。彼女、ずっと自分が第一守護精霊だ、とか言ってたでしょ? 言う必要のある場面じゃなくても。そういう奴なんだよ、光の精霊って。自分だけ特別なことができるから、自分が特別だって主張しないと気が済まないガキなんだ。そいつの言うことなんかディーネだって聞きやしないよ。ね、ディーネ」
「あ、うん。ミカの言うこと聞いて私達のためになったこと一回もないし!」
「そうか。じゃあ光の精霊から殺すか」
「こ──殺しても、意味はありませんよ。あ、貴方ほどの人間なら知っているのでは?」
「"精霊は元素が無くならない限り死なない。目の前にあるそれを殺したところで、精霊からは逃れられない。"」
「そ、そうです。だから──」
「へぇ、精霊の碑文じゃないか。博識だね、君。つまり君の負けってことだ、ミカ」
「"よって精霊を封じる方法はただ一つ。彼らが諦めるまで力を見せつけてやるしかない"」
斬る。
魔剣士スキル:
だから属性を変えられる前に両断した。まぁ変わっててもプリズムオーラからの違うスキルでやってたけど。そう、対抗属性で斬れるんだよね精霊って。ミカの言う通り「斬れるだけ」なんだけど。
「……」
「あーあ。ミカっていつもコレだよね。自分のことしか考えてないクセに、いつも空回りして一番に死ぬ。バッカみたい」
「ディーネ、こういう時は沈黙が一番良いんだよ。──そら、魔剣士さん。他の精霊の時間停止も解くといい。どうせ話を聞かないし、どうせ説得なんか通じないから斬ってくれちゃっていいよ。建設的な話し合いの邪魔にしかならないからね」
「そうやって自身の同格たる邪魔者を排除することで、自身にとって都合の良い展開を、か?」
「まぁ、そういうことだね。他の精霊が形を取り戻すまでそれなりの時間がかかる。その間に良い取引をしようよ」
「セフィラはすぐそれだよねー。私達を売って自分だけ生き残ろうとする。それでかしこぶってるのがホント滑稽」
「よくわかった」
緑も、可視化していなかった青も切る。
そして最初にこちらを見下してきていた奴も時間停止解除後すぐに斬る。
残ったのは。
「警戒を解くな。決し、て……なんだと!?」
「そう慌てるな、火の精霊。建設的な話とやらができそうなのがお前だけだったから、お前だけ残した。この意味、わかってくれるよな?」
「……あの馬鹿共め! 相手の実力を見定めろと何度言ったら……!」
悪人は悪人。それは人間だけでなく魔物にも適応されること。
ならば、最初に全員を気遣う言葉を吐いたこの精霊だけは──。
「名は?」
「……ヴォーガー。火の精霊だ」
「そうか。俺はヴェルグだ。実のある話し合いにしよう。お互いにな」
善であると。
……俺の勘がそう言ってる。
事の経緯を簡単に説明すると、ヴォーガーは額に指を当て、大きな溜息を吐いた。
そう、ミカの言う可視化もブラフだったのだ。ヴォーガー……彼女に「可視化してくれ」と頼んだら、全身に燃え盛る鎧のようなものを纏った美女が出て来た。それらは家に燃え移る様子も見せず、普通に椅子に座っても大丈夫そうで。
そしてこちらの伝えたミカ、セフィラ、ディーネの言動に今こうして頭を抱え、問答無用でゼニスを斬ったことを伝えたら「正しい判断だ。アイツは人間を見下し過ぎている」と答えた。
ただ俺としては、ちょっと斬りづらくなったなって。
人間形態になれない蛍とかその辺の姿が本体であってほしかった。それなら斬れるから。
「どこまでいってもこちらは精霊。言葉の全てを信じろとは言わない。そしてこちらの価値観が人間のお前と異なっていることもわかっている」
「そうだな。だが一つ安心しろ。俺はヴァネッサに全くといっていいほど興味がない。この家を、帝国を離れてくれるのならそれでいいし、試練だのなんだのは任せる。俺は関与しない。そもそもヴァネッサを連れて来たのは俺の落ち度だ。あそこで助けた気紛れさえなければ、お前達の望み通りの展開になっていただろうからな」
「……いやに精霊に親身だな。言葉が通じることといい、その精霊力といい……本当に人間か?」
「逸脱しかけている自覚はあるが、人間だ。だが、そうだな。これをつければある程度の事情を察するか?」
称号メニューから、下の方にある称号──『精霊王に勝りし者』をつける。ちなみに普段からつけている称号は『マスカルウィン帝国の冒険者』。たまにいるからな、俺以外にも称号見抜ける奴。だからカモフラージュ込みで普通のもの付けてるけど、さぁ。
果たして、効果は抜群だったらしい。
「……今から……今だけ、お前の気分を害す言葉を口にする。どうか許してほしい」
「大体わかるから良いぞ」
「その称号を持つ者は、魔王や魔素源王の裏でこそこそと隠れ、世界をめちゃくちゃにすることで愉悦に浸るクソッタレだけだと思っていた──が、どうやら違うらしいな」
「いいや、その感覚は正しい。多分ファントムの奴もこの称号を持っている。そして俺は、そのファントムと相対できる存在だ、ということだ」
「理解が及んだ。……ヴェルグ。全てを穏便に且つ互いに利益がある落としどころは一つしか見えない。だがそのためには、お前に頼みごとをする必要がある」
「なんだ」
「ヴァネッサを──どこか遠い、人間のいない島に飛ばしてはくれないだろうか。仮に無人島で目を覚ましたとしても、あの子は船を編み、また大陸へと辿り着いてしまうだろう。それは彼女の向上心の現れでもあるし、そして再び舞い戻ってくる精霊たちの仕業でもある」
だが、と。
「ここはお前達を含めて人間が多すぎる。いいや、違うな。
「……お前本当にアレだな。なんか。なんか、"ちゃんと"だな」
「すまない、言葉の意味が分からない。……ヴェルグ。どうか頼めないか。もしかしたら再度ヴァネッサがここに辿り着いてしまう未来もあるかもしれない。だが……恐らくこれは、現状できる最も面倒の無いやり方だと私は思う」
「異論はない。だが一つ問題がある」
「なんだ。私に解決できることか?」
「──無人島と言われても困る」
「急いで探して来よう。その間に精霊が戻ってきたら容赦なく切り刻んでくれて構わない」
うん。
話の通じる奴はほんっとうにいいね!
多分ヴォーガーもゴブリンクイーンからヴァネッサを助けなかった程度には"精霊"なんだろうけど、こう、それ以外の部分がね。もうね。
楽!
「見つけた」
「はっっっや」
「そうか? 精霊は世界を流転するもの。むしろ時間がかかったほうだ。……ああだが、座標……地図? だったか。人間の使う指針は」
「方向と距離さえ教えてくれりゃ飛ばせるよ。まぁ最悪壁に埋まったりしてヴァネッサが死んでも、蘇生はできるんだろ?」
「ああ、私はできないがミカが行える。方向はあちら。距離は……凡そだが、この帝国という国を囲う城壁の最も長い距離を十五ほど重ねた辺りの海域だ」
「……コレか」
「見えるのか? 流石だな」
いや、ミニマップさんというかマップさんのおかげです。
マップ開いて縮小して方角と距離加味してみたら、海のかなーりど真ん中らへんに小島がポツんとある。良かったー、二周目でマップの暗闇全部開けといて。行かないと開かないシステムだから、俺が細かい所気にしない性質だったら危なかったぜ。
「んじゃ飛ばすぞ」
「ああ。……最後にはなる、というかなってほしいと願っているが、ヴェルグ」
「なんだ?」
「
……え、やっぱ主人公別にいるってこと?
じゃあフレースヴェルグは何!? 俺ファントムにフレースヴェルグ呼びされてたけどじゃあ俺は何!?
「呪詛スキル:眷属:解除。次元スキル:時間停止:解除。次元スキル:転移──ヴォーガー」
「なんだ」
「お前らに人間の心を理解しろとは言わんが、あまり関心を持たずにいると、壊れるぞ」
「……知っている。それで何人も喪って来た。それでも理解できないのが"精霊"であり"宿命"だ。気を遣ってくれたのはありがたいが、すまない。治せるものではない」
「そうか。じゃあな」
転移させる。
そんで、封印棺も解除する。あとはヴォーガーや戻って来た精霊たちが何とかするだろう。
「宿命、ね。そりゃ呪いとどう違うんだか」
ああ。
解呪できるかできないかの違いか?
買い出しと女子会の帰りが重なったらしく、ケルと奴隷たちは一緒に帰って来た。
……こいつらを見て安心感を得ている辺り、俺も結構染まって来たな。
ここでフラッとどっかへ失踪してみたい、とか思っちゃうのは俺の悪癖なので封印しておくとして。
「アウラニ、メアリー、シーファ。どうした? なぜそんなに離れている?」
「いえ、主様、その」
「ただ者ではないことはわかっていましたが、今更になって力を誇示する理由は?」
「最初からその称号付けててくれてればアピールしなかったのにぃ!!」
ああ。
お前ら見抜けるのね。やっぱりカモフラージュはしてるべきだな。
「ケル。あやつらは何を言うておるのじゃ?」
「わかんないけど、多分シーファのだけは自業自得」
「それは、まぁそうじゃろうな」
「なんで納得するのツバナち!?」
称号を戻して、と。
……"ストーリー性"の震源地ね。
心しておくよ。忠告通りな。
次話はショートショート集となります。