アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
トラーヴァの魔本、というアイテムがある。
魔本が何か、というのは先述した通り、「レシピ書や調合書などの技法書」を差す言葉で、欲しい奴が見れば喉から手が出るほどの、垂涎物のアイテムであることが多い。たまーに「自分好みの名器のレビュー」とかあるから信用成らんのだけど。
で、そのトラーヴァの魔本はそういうちゃちなものとは一味違う。この魔本に載っているもの。それは。
「飛行船の設計書……」
「ああ。俺の持っている天空のブーツやイカロスの羽帽子のような、個人が身に着けるアイテムではなく、大人数を載せることのできる浮遊戦艦だ」
「……そんなものあったら、戦争が壊れるけど」
「今更だろ?」
この魔本は一般には知られていない。ゲーム本編において主人公たちがコレの存在を知るのも"ある偶然"に依るところが大きい。その偶然はゲームの筋としては必ず起きるものだけど、現実で考えたらそんなこと起きるはずがない、ってレベルの偶然なので、在り処を知っている俺が取っておきたい……というのが今回の主旨だ。
あれね。
これから芽吹く方のフレースヴェルグ君のハードルちょい上げすぎた感あるから、そこの帳尻合わせね。いやほら、キンゾイとグレイスがアッシュ・ユアンに出会えちゃってたら、王国ルートのメインヒロインもフレースヴェルグと共に行動する理由なくなっちゃうし。スイも多分仲間になら無さそうだし。メアリー俺のトコにいるし。
主人公という名のポテンシャルがあればあらゆる苦難を乗り越えてくれる……とは思っているけれど、ま、色々ね。
──最悪俺が立ち塞がるから、立ち直ってもらう必要もあるし。
「それで、そのトラーヴァの魔本が、この海底遺跡にある、と」
「ああ。だが今海底遺跡はギルドの管轄になっていただろう?」
「ダンジョンだし、当然」
「破壊はしないと約束するから、探索許可をくれ」
「……」
さて、スイが悩んでいる間にダンジョンというものについての説明を軽く入れておこう。
ダンジョン。読んで字のごとくではあるけれど、一般的な「宝物が多く出る、魔物が多く出る場所」という意味はあまり持っていない。どちらかというとツァリラストュ遺跡を始めとした「遺跡」……過去の文明の遺したもの、という意味が強く、ダンジョンでやることも発掘行為って感じだ。
魔物は出ないわけじゃないけど、魔物だって基本的には食料にありつける場所を棲み処にしたい。ダンジョンは人工物だから、まぁ植物とかは生えるけどそこまで生態系の一部にはなり得ない。だから少ない……みたいな。
虫の魔物は結構いるんだけど、スケルトンだのなんだのが出てくるってことはほぼないな。
で、今回はその水中版だから、地上にあるダンジョンよりかは魔物が多めであると推測できる。魚類にとっちゃ隠れる場所の多い人工物はパラダイスだろうし。
「許可は出せる。けど、監督役が絶対に必要になる」
「構わない。ギルド職員でも守り切る」
「そういう問題じゃなくて、そんな危険な魔本の存在を知ってしまっていい職員が限られてくる、という話」
「ああ。でもトラーヴァの魔本に開示権限関係なかったと思うけど」
「それは知られていないだけでしょ。判議会が知ったら問答無用で最高位をつけると思う」
……一応この部屋遮断しといてよかったか。
いやゲームだと開示権限知らないルートの主人公でも取れるアイテムだから、そこまでとは思ってなかった。さっき言った天空のブーツとイカロスの羽帽子のように、個人で飛行できるアイテムがある以上、「飛行できること」がそこまでステータスになると思ってなかったのだ。
「じゃあスイ、お前が来てくれ」
「え」
「俺達の事情を知っていて、階位が高くて、ギルド職員っつーかギルド長。これ以上ない適任だ」
「それは……そう、なんだけど」
帝国ギルドは長が一日二日いなくても問題は無い。みんな有能というか、有能な奴以外は淘汰されていくのが帝国だ。そういう意味ではグノーシスもガーリーも能力はあったのだろう。運が悪かっただけで。
能が無ければ失敗してラムナザール四世に処断される。あるいはそこに辿り着く前に消える。
無能は生きられないのがこの国、ってな。
「懸念点があるのか?」
「……」
「だんまりか。カルラ、実は俺お前と喋れるんだけど、なんか知ってないか?」
「は?」
「あ、そうなの? なんか変に響く声だとは思ってたけど。黙ってる理由は簡単よ、スイは泳げないから。海が怖いのよこの子」
お前そんな声なのか。
というのは一旦置いといて。
「海が怖い……溺れかけた経験があるとかか?」
「え、本当に喋れて」
「溺れたのは海じゃなくて川だけどね。この子小さい時に川遊びしてたらぬかるんだ石に足を取られてすっころんで、そのまま川下の結構な距離まで流されたことがあるのよ。それ以来水に入るのが怖くなっちゃったみたいで」
「まぁ、子供の頃のトラウマならそれくらいになってもおかしくないか。……俺も毎回便宜を図ってもらっている身だからな。すまん、無理強いはしない。が、監督役として誰か良い奴を選んでくれると助かる。俺はあまりギルドに詳しくないから」
「だ──大丈夫だから! 水中行動ポーション使うんでしょ? だったら大丈夫、だから、うん」
絶対に大丈夫じゃない尻すぼみの仕方。
いやトラウマは一生残るものだよ。そう簡単に治せるもんじゃない。俺の場合はアダルトMOD君が原因だけど、無理なモンは無理ってことを俺が一番よくわかってんだ。
「無理しなくていいって」
「無理じゃない。もう決めた。私以外誰も派遣しない。……監督役がいなければダンジョンでの発掘は盗掘行為に変わる。それくらいわかってるよね?」
「わかってるから許可取りに来たんだが……まぁお前が良いなら良いんだけどさ」
さて……しかし、スイが来てくれるとなるとパーティ編成色々変わるな。前衛来てくれたからツバナが要らなくなるだろ、遊撃はケルかツゥのどっちかなんだけど、まぁ俺的にはまだ仲間認定じゃないツゥを連れて行く気もないし、今の時期にケルとツゥを引き離すってのも違うのはわかるのでまた今度。
となるとシーファとアウラニかなー。メアリーは先日の一件からちょいとヤバさを感じているので離したい。
「よし、出発は明日か明後日にしたい。どちらも無理なら日程を組み直すが」
「明日でいい。私も各所に連絡してくる」
「ああ、ありがとう。……無理はするなよ。カルラ、どの口が、とは思うだろうが、主をちゃんと守ってやってくれ」
「勿論だよ」
「……その魔物と会話できるスキル、研究院に報告するべきだと思うけど」
また今度なそれは。
「ズルい」
開口一番がこれだった。
「なーにがパーティ編成じゃ莫迦者め。別に待機組は外で待機しとればいいじゃろ。だのに自分たちだけ海へ遊びに、とは……言語道断じゃ」
「鬼の国に海遊びの文化あるのか?」
「無いからこそじゃろうが!!」
声でか。
「私達もまだ海で遊んだこと無い。ズルい」
「そうね、遊ぶこと自体が選択になかったから……」
「海と言えばスクイッド種ですご主人様。今私は燃えています」
ああなんか因縁があるとか言ってたっけ。
ワンチャン俺へのヘイトがそっちに向かうならアリか。
「ご主人様、最近色々あったんだし、慰安旅行兼ねてもうちょっと日程伸ばして遊びいこーよ」
「日程伸ばすのはキツい。スイにも予定があるからな。だが、海底遺跡行かない組に羽を伸ばしてもらうくらいは構わん。行く組にもあとあとなんかやる」
「私は、なにも貰わなくても、大丈夫ですよ、ヴェルグさん」
アウラニは良い子だなぁ。まぁコイツ自身に纏わる"厄ネタ"に一個解決してないのがあってそれで身を引いてる部分もあるんだろうけど。
んー、まぁ断る理由もない、か。
「んじゃ水着とか水中戦闘服とか、あと持っていきたいもの諸々。各自で準備してくれ。持ちきれんものはメアリーのアイテムボックスにでも突っ込め」
「……あの、アイテムボックス使えると公表した覚えが無いのですが?」
「いやメアリちよく何もないトコから突然物出してるから流石に知ってるって」
「手の届かない場所にあるものを取る、などもしとるのぅ」
「ああそれはメアリーの」
「ご主人様。──それ以上言うならば、安眠は約束されないと思ってください」
「なんだよやろうってのか? 返り討ちにして天日干しにしてやるよ。砂でもまぶせば全容見えるだろアレ」
「……」
「……」
どうしようねエッグい形状のデカマーラが出てきたら。とりあえずシーファに相手させとけばなんとかなりそう。
「そうと決まれば買い物じゃな! シーファ! お主を水着選び任命隊長とする!」
「え! いいの!? きわっきわなの選ぶけどいいの!?」
「構わん! アウラニ、ケル、ツゥ、そしてメアリーに私! お主の美的センスで最も似合う水着を選んでくれ!」
「ツバナち……よーし任された! 私のファッションセンスが火を噴くぜ!!」
テンション高ぇ。
そのままきゃいきゃいと市場の方へ向かって行く女子たち。
……どんだけきわっきわなの選ばれても、多分俺にはマトモに見えないだろうからなぁ。あんまりなぁ。あとシーファは変わらず全裸なんだろうなぁ。
静かになった家。
完全にあいつらが家を離れたことをミニマップで確認してから、俺は家の奥の奥……誰も使っていない部屋へ向かう。
オタカラがある場所、とかではない。ただ。
「すまんな、事情も知らずに消し飛ばすなんて真似して。供養祭で供養しきれなかった分、少しだけ静かになるこの家で、ある程度の安らぎを得てくれたら助かる。……まぁ魔物はここにいないらしいけど、気分の話な」
なんて。
感傷に浸ってみたり。
さて、海である。
恒星光が燦燦と降り注ぐビーチには観光客がたくさん──いない。当然だ。ふつーに魔物出る危険地帯だし。
ただ、ビーチパラソルに似たものが砂浜の各所に立てられている。
「なんじゃアレは」
「鳴り傘。時々災厄級の魔物が海から陸に上がってくることがある。それを知らせるための装置。あれが鳴ると、帝国の城壁にある同じような傘が共鳴して鳴って、すぐに報せが飛ぶ」
「ほぉー……ではあまり近寄らん方が良いか?」
「人間には反応しない。ただ」
スイがシーファを見る。
成程! と手を打つシーファ。
「気を付けます!」
「うん、そうして」
スイはシーファの正体を知っている。ただ俺が「問題ない」ことを伝えてあるから黙認している。シーファの魔素についての研究報告はそれなりの頻度で研究院に上げているしな、黙ってるってわけでもない。
「あと、聖気も危ないかもしれない。あまりふりまかないでもらえると助かる」
「元より、振りまくことは、していませんから、大丈夫ですよ」
そうなのか。聖気に反応するのは知らなかった。天使は海から上がってこないから。
ちなみに海から上がってくる系で一番ヤバいのはリヴァイアサンだ。全長300mくらいのどでかい蛇で、帝国所属で特定のイベントを起こすと連鎖的にそれが発生し、帝国国内にいる仲間+仲間になる可能性のあるNPC全員でレイドバトルみたいなことをする。
オンラインゲームじゃないから都度都度NPCに指示出さないと負けるのが結構難度の高いイベントだった。
「行かない人は、あそこにあるコテージを使って。ある程度生活の出来る設備がある。海のべたつきなんかもシャワーで流せるから、安心して」
「では早速ですが、掃除も兼ねて一足先に向かわせていただきます。ご主人様、夕食は海産物を使いたいのですが、よろしいでしょうか」
「いつも通りのオーダーさえ守ってくれたら何使っても構わん。ああ、だが奴隷の中に苦手な奴がいないかどうかくらいは聞いておけよ」
「承知しました。では今日はスクイッド尽くしとなるでしょう。フフフフフ!」
だから何を使うか言うなっつってんだろうが。
「よし、それじゃあケル、ツゥ! 私達はアレをするぞ!」
「うん。頑張る」
「初めてだけど、本当にちゃんとできるのかしら……」
あれ?
と思ってそっちを見たのが間違いだった。
──長大な釣り竿は、まぁいい。
だけどあの壺みたいなのに敷き詰められた小さな小さな少女たちはまさか……。
よし、考えるのやめよう。
「シーファ、アウラニ、スイ。行くぞ」
「うん」
「了解だぜ!」
「シーファさん、昨日から、とてもテンションが、高いですね」
それは俺も思ってた。なんでだ?
「……このご主人様は、なんで私と同じエロスを感じ取れるクセに疑問符を浮かべているんだろう。よく考えてみてご主人様。水中装備だよ? 水着とは確かに違うけど、ピッチリだよ? それで──アウラニちだよ?」
「ああ、そういうことか」
「リアクション薄っ!?」
いやだから。
全部魔物素材だから、"ソッチ"にしか見えないんだって。アウラニの姿は確かにふたなりのソレになってるのかもしれないけど、俺はそれが見えないって何度言ったら。
言ってねーわな。
「しかもギルドの癒し枠スイちも水中装備! そして私も──この! ド派手、水中装備!!」
「ああ、じゃ先行くぞ。お前らもちゃんとポーション飲んで来いよ」
「……おかしい。流石におかしい。ご主人様は……もしかして勃起不全になってしまったのかも!?」
「水中装備は全部魔物素材を使っているから、ヴェルグは私達を直視できないというだけだと思うけど」
「ふふふ、スイさんは、ヴェルグさんを、良く知っています、ね? ──それと、シーファさん。あとで、お仕置きです」
「ひぇっ」
「ちょいとアンタ、待ちなって」
呼び止められて振り返る。
そこにいるのはカルラだ。彼女は炎属性の魔物だけど、水中行動ポーションを飲めばその炎も消えない。だから普通についていけるんだけど……って、あぁ。
「スイ、ほれ」
「あ……い、いや、大丈夫だから」
「とりあえず海底に足つけて、普段通り歩けることさえ確認すれば恐怖も和らぐだろ。そこまでは連れて行ってやるよ」
「……オネガイシマス」
いやはや。
カルラとコミュニケーション取れるようになったのデカいな。
では──いざ行かん、海底遺跡!
水中行動ポーションは戦士スキル:水中行動と全く同じ効果を発揮するポーションだ。呼吸や水中での行動制限から解放される謎の効果を持っていて、何故か水の抵抗力を感じることなく、何故か呼吸ができて、何故か視界も悪くならない。
ハルフィーさん曰く「そりゃ素材が……まぁ聞かない方がいいよ、ヴェルグさんは」らしいので聞かなかったけど、本当に意味の分からないポーションだと思う。便利だから使うけど。
「どうだ、スイ」
「……思ったより、平気。……というより、全然大丈夫」
「ポーション様様ってことだ。そっちはどうだ、シーファ、アウラニ」
「問題なし!」
「スキルも、特に問題なく、使えますね」
オーケー。
んじゃ早速進む。
トラーヴァの魔本はこの遺跡の最奥の、さらに奥の、さらにさらに奥……みたいな場所にあるので、スピード重視で行かないと日が暮れる。いやほとんど暮れる前提だ。何も考えずに直線距離で行けば一瞬なんだけど、それだと遺跡壊しちゃうし。
ダンジョンではミニマップが使えない。NO DATAと表示されて真っ暗になる……わけではなく、海底神殿を上から見たマップが表示され続けるだけになるので、まぁ外に危機が迫っているくらいは察知できるけど中では使い物にならないって感じか。
とはいえ感知系スキルもあれば、何よりスイという達人がこの場にはいるので、ほぼほぼ大丈夫だとは思う。
「ヴェルグ、一つ確認いい?」
「なんだ?」
「私達が魔物を殺すことについては、大丈夫……なんだよね?」
「まぁ、あんまり直視したくはないが、そうだな」
「わかった。じゃあ目にも留まらぬ速さで仕留める」
今回俺は、いつかカラジェット君に言われた通りのポジション……完全に後衛の神官として動く。前衛スイ、遊撃シーファ、デバフ・バフがアウラニでヒーラーが俺。
ただしもしもの時は俺がタンクの役割もするつもりだ。防御してるだけならできるからな。
「ご主人様、これ、歌唱系スキル無理かも。音が上手く響かない。踊りはいけた」
「ああそういう弊害あるのか。ちなみに魔素は?」
「え。……いいの?」
「スイは知ってるよ。俺の報告書を研究院に上げてるのスイだし」
「じゃあ、うん。絶対みんなに掠らないように使うね」
完全に制御できると言っても魔素は魔素。
体内に入れば魔化が進む可能性はゼロじゃない。俺がいるから対処はできるんだけど。
それでも気を遣うに越したことはない。それでシーファが危ない目にあってたら本末転倒だが。
さて、ずんずん進んでいくも、魔物にはまだ出会っていない。
スイが爆速で処理してるとかじゃなくて、全くいないのだ。
「何にもいないし、何にもないね」
「ここが発見されたのは五年前。だからほとんどの書物や装備類は発掘されてしまっている。今更来たいなんて言う冒険者はヴェルグくらい」
「では、何故、監督役が、必要なのですか?」
「破壊されると困るから。あと住み着かれるのも困るから。ダンジョンは魔物が少なくて雨風が凌げるという性質上、盗賊とかの塒になりやすい。海底遺跡はほとんどあり得ないとは思うけど、森の中とか山の中にある遺跡は管理していないとすぐに悪用される」
「成程、ありがとう、ございます」
「あー、確かに。これは魔族視点で言うけど、人間が発掘し終わった遺跡って隠れ家に丁度いいんだよね。管理って言っても名ばかりなこと多いし、隠れ住むには最適。……あ、待って待って難しい顔しないで。大丈夫だよ、私みたいな特別な体質でもない限り、魔素の薄い空間に長時間いたら魔族なんてすぐ死んじゃうんだから」
「それでも管理体制を見直すべきだとは思った。ありがとう」
こいつら珍しく真面目な話を……。いや、俺が適当すぎるだけで元来は真面目かこいつら。
特にスイなんかはギルド長として忙しい日々を送っているだろうし。
……ん。
「あ、ご主人様。それ触っちゃダメだよ。罠だから」
「今俺もそれを注意しようと思ったんだが、なんだ、わかるのか?」
「呪いの魔力は見分けつくからねー。アウラニちもでしょ?」
「ええ、はい。私の場合は、呪詛だけでなく、悪意が載っていれば、全て、見えます」
「私も資料として知っていたから平気だったけど、頼もしい二人。特に天使に何ができるとかどう見えているとか全然知らないから、勉強になる」
「はい、是非、勉強していって、くださいね」
ただ、えーと。記憶通りならこの辺の部屋の。
「あ、ご主人様そこもダメ!」
「いや、これはいいんだよ。下層への転移陣だから。この宝石で釣って、近づいた奴を下層のモンスターハウスへ、って奴だ。……元々人が使ってたはずの遺跡にこういう侵入者退治用トラップがあるのは理解しがたいがな」
「モンスターハウスって、魔物がうじゃうじゃいる、ってこと?」
「この五年間で誰も行ってなけりゃそうだろうな」
「この遺跡でモンスターハウスに遭遇した、という報告は上がってない。つまり」
覚悟を決める。
この遺跡長いからな。流石にこういうショトカ使わんとホント一日じゃ探索終わらなくなっちゃうんだよ。
使わないという選択肢が無いのなら、使うしかない。
「天使スキル:先制耐性」
「迅速のダンス!」
「カルラ、合わせてね」
「了解っ!」
できるだけ密集して──宝石に、触れる。
途端地面が光り輝き。
直後、視界全てを炎が覆った。
俺達を避けて──けれど水中を彩る獄炎。
ぴと、と。
アウラニが、優しい手つきで俺の耳を塞ぐ。
「……わかってたのか」
「ええ、最近、ようやく」
「すまん」
「いいえ。……それが優しさだと、私は知っていますから。少しだけでも、ケルさんたちに、分けてあげたら、とは……思いますが」
何を言うまでもなく燃え尽きて行く魔物たち。海の中にいて炎耐性を上げる、なんて発想には届かないのだろう、見るも無残に灰になっていく彼女らは、けれど断末魔だけは残す。
それを塞ぐということの意味を。
「私が、見えているもの、聞こえているものも、皆さんとは、少し、違いますから」
「……」
「大丈夫です、とは言いません。ただ、抱え込まれると、癒したくなります。ふふふ、これは、多分、天使としての、特性、ですね」
「そうか。一生癒えることは無いと思うが、気持ちは受け取っておく」
斬、と大鎌が振られ、炎が晴れる。
あとに残ったのは黒い灰のみ。それらは天井付近に溜まって、でもそれだけだった。皆が振り向く前に、アウラニがそっと離れる。
「……スイち、凄すぎ」
「あんなナリでも金章冒険者だからな。条件さえ整えばラムナザール四世ともまともにやり合えるらしい」
「え、なにそれ血筋怖い」
「……ヴェルグ。適当言わないで。お父様とまともにとか、こっちバフ最大でお父様デバフ最大とかじゃないと成り立たない」
「この魔族娘、あの化け物の強さ舐めてるねぇ。ああまぁ、アンタみたいなのが近くにいれば麻痺するのも当然か」
「む! その首の魔物から今馬鹿にしてくる雰囲気が!」
「カルラは優しくて賢い子だから、そんなことしない。それよりヴェルグ、ここは何階になるの?」
ふふん、とドヤ顔するカルラと、本能的に煽られていることを察したシーファが威嚇し合っている…というのは置いておこう。つーかすんごい今更だけどシーファって魔物の言葉聞き取れないんだな。
「ここは地下二十二階だ」
「……調査では十五階までだったはずだけど」
「ああ、十六階への扉は、十五階の最奥で特別な称号を持った奴を一緒に連れて行かないと開かれない仕様になってるんだ。俺もその称号は持っているが、折角二十二階への直通転移があるんだからそっちを使わない手はないだろ」
「え、ってことはこのフロアもう未知数? 魔物いっぱい?」
「陸地のダンジョンは階層が深くなれば魔物が増える傾向にあるのは確かだけど、水中は違うんだよな。むしろ減るはずだ。さらにいうとこのダンジョンはさっき言った性質上新しい奴が入って来られないから、餌がどんどん減っていって最終的に……って感じで、量より質になるはず」
「うん。気配はかなり少ないけど、強敵になっている感じがする。三人共、気を付けてね」
そう言うのも感じ取れるのか。
スキル使ったってわけでもなさそうなのに……これが達人なのかね。
「とりあえず扉の前に一体いる。待ち伏せかな。弱った獲物を……みたいな知性」
「大丈夫、です。天使スキルの、先制耐性は、相手の、先制攻撃を、封じます。どれだけ速い魔物でも、今の私達に対する、攻撃は、全てが、鈍重になります」
え、なにそれ怖い。
知らないスキルだし凶悪過ぎんか。やっぱ天使スキルエグ過ぎ。
「……わかった、信じる。出るよ」
スイが、扉を開ける。
そこには確かに全裸の少女がいて、今にも攻撃を仕掛けてくる……という雰囲気だったのに、恐ろしい程のっそり動いている。
「サハギン! カルラ、炎の制御お願い!」
「あいよ!」
目を、瞑る。
そして再び目を開けた時、そこに少女はいなかった。
……こんなんじゃダメなのは、わかってるんだが。……今の俺お荷物だなぁほんと。
「サハギンかー。厄介だね、水棲魔物の中でもかなり知性持ってる奴だ。足音が特徴的だから陸でならすぐわかるけど、水中だと音もなく来そう」
「感覚を研ぎ澄ませておく。何かに気付いたらすぐに言って」
「わかり、ました」
「いや、せめてもの助けはするべきだと思考が切り替わった」
インベから【落とし子の法螺貝】というアイテムを取り出し、口をつける。
そして歌唱スキルエコーロケーションを発動。特徴的な音が法螺貝から響き渡ると同時に、このフロア内の全ての敵の位置が映像として俺の脳に入ってくる。
……それは勿論、食事風景だとか家族としての生活とか、そういうもの含めて、だ。
魔物は単一の生物ではない。ちゃんと生態系があり、ちゃんと家庭がある。
今までこれを使わなかったのは、そういうのを知りたくなかったからだ。
だけど味方の危険を見逃してまで知りたくないものでは……あるけど、ない。
「アウラニ、シーファ。少しいつもと違うことをする。最初は驚くだろうが、慣れろ」
「え、うん」
「はい」
「呪詛スキル:従属:共有:スキル結果。呪詛スキル:眷属:共有:スキル結果」
あるいはこれは、アダルトMOD関係なしの、従属、屈服、眷属の呪いの本来の使い方だと言えるだろう。
パーティプレイをする上での、どうしても出てくるラグ……主人公を操作して、NPCに指示を出して、主人公を操作して、をしていると発生してしまうこのラグを、極力なくすための操作。
呪いを伝い、俺が今使ったエコーロケーションのスキル結果が奴隷に伝わる。
「うっ……?」
「これ、は……」
「大丈夫か?」
「……うん。大丈夫だけど……サハギンの幸せ家族の様子とか、団欒の姿とか、知りたくなかったなぁ」
「ヴェルグさんは、いつも、これを?」
「……すまん、そこまで伝えるつもりはなかった。つらいなら共有を切る」
アダルトMODのフィルターこそ伝わっていないようだけど、今俺の脳裏にある光景の全てをサハギンに移し替えた映像が二人にも共有されてしまったらしい。
位置だけ伝わればいいと思っての行動だったけど、裏目に出たか。
「んー、まぁ大丈夫。知ってても知らなくてもやることかわんないし」
「そう、ですね。むしろ……共有できて、良かったです」
「ヴェルグ。この遺跡の中だけでいい。私にも従属の呪いをかけて、それを共有できる?」
「可能だが、いいのか? 俺がその"遺跡の中だけ"を守るとは限らないぞ」
「信じてる」
……純粋かよ。
はいはい、信じられますよ。
「呪詛スキル:従属。呪詛スキル:従属:共有:スキル結果」
「ッ……。なる、ほど」
「アンタ、魔物と話せるってことは……ああ、だから魔物殺せなくなったのかい? お優しいことだね」
それだけが理由じゃないが、それは理由になりつつあるな。
ミラージュオウルの一件から特に。
ただ、今重要なのはそれじゃない。
「三人共、本当に大丈夫か?」
「問題ないよ。なんたって魔族なので!」
「私も、半分、天使、ですし」
「盗賊にだって家族や仲間がいることくらい知ってる。でも殺してきた。それと同じ」
シーファとスイの言い分はわかるが、アウラニは……。
いや、めそめそすんのは終わり終わり。三人が平気だってんなら俺が一々気にするモンでもない。
さぁ──進むぞ。