アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
アウラニの先制耐性と俺のエコーロケーションによって不意を打たれること無く海底遺跡を進んでいく。
次の階層、次の階層と、階層が進むごとにエコーロケーションと共有を行うから、そのたびにサハギン含む魔物の「普段」が見えてしまうけれど、全部無視して。
俺達は、そこに辿り着いた。
「え?」
「……今の膜は」
意を決して扉を開け、その部屋に入った瞬間、全員が水中から放り出されたのである。
「一瞬で終わらせる。全員目を瞑っていろ。眩しいぞ」
「ヴェルグ?」
起動、魔法使いスキル:マジックアップ。魔法スキル:アイスブレイク。魔剣士スキル:物理上昇オーラ。聖騎士スキル:聖域。戦士スキル:スチームスラッシュ。
ソレは起き上がるまでもなく凍り付き、圧倒的なステータス差と攻撃力の前に、一撃で斬り捨てられる。
……。
「ヴェ……ヴェルグ、大丈夫?」
「びっくりした、何? 今の」
「……スライム、ですか?」
恐る恐る振り返る。
そこには──やはり前の実験と変わらない、凍り付きも両断もされていない少女が。コアが凍っても見えているものは変わらない。
発見だ。
やっぱり俺は、スライムだけなら倒せる。──言葉を交わさなければ、だ。今のところあの密封スライムも言葉を解す気配がないから大丈夫だとは思うけど、少しでも知性を見せればもう無理になるだろう。
だから、喋らない内に、喋る前に斬った。我ながら最悪だとは思う。ただ、喋りさえしなければ、そして傷付く姿が無いのなら……それは案山子と変わらないから。
「ミラースライム。敵対者の記憶を読み取り、それが最も厄介だと思っているものに変形して襲ってくるスライムだ。コイツは厄介すぎるんでな、任せるわけにはいかなかった」
「……大丈夫?」
「大丈夫だ。大丈夫なように斬った。ああだが、コアの処理は任せて良いか。それはできないんだ、俺は」
「わかった」
やたらと心配してくるスイ。何も言わないけど何か言いたげな奴隷たち。
わかってるよ。無理したように見えてるんだろ。わかってる。
「まだ先は長い。行くぞ」
「ヴェルグ」
「ん?」
「前衛は私なの、忘れないでね」
「そうだそうだ! 遊撃は私なのも忘れるなー!」
「ヴェルグさんは、後衛です、よ? ちゃんと、役割は、守ってください」
「カルラ。さっきの言葉はお前の主人に返してやれよ」
「いつも思ってるよ。伝わるなら一日何十回も言ってる」
そうか。慕われてるな。
お優しいことで、だ。
……ありがたいことに。
さて、今の部屋を通り過ぎてから、明確に魔物が強くなった。また水中であるフロアとそうでないフロアが混在するようになり、水中装備を着ている彼女らはそうでないフロアでの苦戦を経験するようになってくる。
シーファの遊撃とアウラニのバフがあったところでスイの負担はあまり減らず、俺の回復が無ければ早々にバテていただろう、という所まで来ている。
限界、か。
行けると思ったんだけどな、仲間加入レベルのスイじゃ無理ってことか。もうちょっとレベル上げしてからじゃないと。
「戦士スキル:威圧」
「っ!? ……どうしたの、ヴェルグ」
「そろそろ限界だと思ってな。もうキツいだろ、敵の強さ」
「……私が駆け出しの冒険者なら、そんなことはない、と言っていた。……うん、もう無理だと思う。少なくともこの装備じゃ無理」
「私が完全体モードで戦う?」
「いや、いい。……ちょうどスイが今従属状態にあるからな。それこそこの遺跡を出るまでの特別をやろうと思ったんだ」
威圧で周囲の魔物を遠ざけて、行うこと。
それは。
「ひゃ!?」
「え、ちょおおお!?」
「……ヴェルグさん、やるならやると、言ってください」
──奴隷の装備変更。
うん、久しぶりにやったけどね、主人が遠隔でできるんだよね。転移魔法扱いされたから最近はやってなかったけどさ。
「安心しろって。お前達の装備は後で返すから。勿論それも後で返してもらうけど」
「そういう、問題では、ありません、よ?」
「やれやれ、女心の分かってない奴だね」
「わ、私の超絶可愛い水中装備が! なんか無骨なのに!」
「……裸、見られた」
ああまぁ、一瞬な。あれだよ、魔法少女の変身バンク。あれで一瞬裸になる程度の時間だから大丈夫大丈夫。
「あんまり好ましくないだろうけど、その装備つけてりゃこの辺の魔物に苦戦することは無くなると思うから、それつけて行ってくれ」
「裸、見られた」
「一瞬しか見てないから大丈夫だ。加えて俺は子供には勃たん。そういう目でみることはないから安心しろ」
「スイち、スイち。知らないかもだけど、ご主人様は家だといつもこんな感じ」
「ごめんなさい、スイさん。ヴェルグさんには、そういう、相手を慮るという、心が、欠落していまして」
アウラニが一番酷いこと言ってる。
いやしょうがないじゃん。じゃあ装備渡して着替えてね、俺後ろ向いてるからね、をやる? その方が恥ずかしくね?
「……たまにケルさんが愚痴を言ってくることがあった。あれ全部惚気だと思ってたけど、本心だったんだって今わかった。遺跡から出たら親友になれるかもしれない」
「スイち、私も多分親友になれるよ! というかあの家の住民全員となれるよ!」
「人間は雌雄を気にし過ぎだとは思うけどね、私も人間社会に慣れて長い。そういう気遣いの部分は時と場合を関係なく感じ取ってやるもんだよ。それをせずに拗れて行くやつはごまんといるからさ」
「あぁまぁ理解はしてるよ。気にしてないだけで」
「開き直ってんのかい。こりゃ手が付けられない重症だ。アンタの周りにいる奴は雌雄がどっちであれ大変な思いをするんだろうねぇ」
まぁ大丈夫だろう。ファントムも言ってたけど、俺の内面をちゃんと知れば百年の恋も冷めるってくらい適当人間だからな俺は。深い関係になればなるほど好意を抱くことそのものに疑念を抱けるようになってくれると信じてるよ。
「それにしても、これ魔物素材の装備だけど、ご主人様大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないが、強いんだから仕方がないだろう。鉱石系には限度がある」
「ふーん。……やっぱりダメになる前は、普通に使えてたんだねー」
「ああ。そりゃな」
できるだけ装備を視界に入れないように歩く。歩き始める。
パーティメンバーのバイタルサインは常に見ているから、HPがミリでも減ったら回復するし、状態異常の兆候が見えた瞬間にこれまた回復する。MP分配も完璧だ。
視界がエグいこと以外は完成されたパーティだと言えるだろう。
「……これ、グリムスレイヤーの鎌?」
「いや、エンシェントデーモン・リーパーの鎌だ。自分とレベル差が20前後の相手に対する攻撃力20%増加と、確率での即死効果」
「この胴装備は?」
「聖なるアダマンタイタンのチェストプレート。魔法耐性30%、魔法反射10%、魔素耐性10%、加えて基礎防御力50%アップ」
「足は?」
「ブラックオスプの忍び足。聞き覚えはないだろうが、魔族大陸にいる魔物の素材を使った装備だな。足音の完全消去と相手がこちらに気付いていない場合での攻撃力100%アップ。また、高所からの落下時のダメージ無効」
「帽子は?」
「ユギニスの翼……という、まぁ詳細は開かせんが、開示権限最上位のナニカの装備だと思ってくれ」
「耳飾りは?」
「それは……まぁシーファの前で言うのは憚られるが、妖精の耳飾りという。……何が使われてるかは、あんまり言いたくない」
「あ、私もうニンフに同族意識ないから大丈夫。っていうかわかるかも! これ、妖精の羽でしょ? 毟ったの?」
「いや、全部使っているはずだ。……まぁ、うん」
「へぇ~! どの辺に、はぁ、ほ~……いやすごいよね人間って。魔物もだけど、私達魔族の身体まで余すところなく使うのホント尊敬する。……私はやめてね!?」
その辺、いいのか。
同族の目を食べるのは嫌がってた割に、同族が素材になることはいいんだな。
「魔物も魔族もそんなこと気にしないんだよ。私達は世界と魔素源王の奴隷なんだから。死後その身体が誰に使われようがどう使われようがどうでもいいのさ。ま、ゴーストにはなりたくないから、むしろ全部使い切ってくれって思うけどね、私なら」
リザもそう言ってたな。
……多分、永遠に理解できない価値観なんだろう。これが種族差かねぇ。
「……ヴェルグ」
「なんだ?」
「これ、今回の探索が終わったらすぐ返す」
「あぁ勿論与えるつもりはないよ。貸すだけだ。強すぎるからな」
「そう、強すぎる。こんなの着てたら、自分が強くなったって勘違いする」
えら。
でもまぁ人間のステータスは「限界突破」しない限り成長限界に達するから、強い装備はいずれ必要になると思うぞ。今じゃない、ってのはわかるけど。
「さて、そろそろ行くぞ。外の連中が心配するからな」
「うん。──最速で殲滅していく」
「水の無い所なら歌唱スキルも使えるから任せろー!」
「私も、天使スキルを、ちゃんと使って、行きますね」
最終層まで一気に行けたら……良いけどな。早めに装備に慣れてくれるのを祈るしかないか。
慣れるのは早かった。それはもう早かった。
まぁ鎌ってスイと王国側のもう一人しか使わない装備だから、最終装備に近いあの鎌はしっくりくるんだろうな。あああと主人公は使えるか。試したこと無いけどスヴェロニカも使える、かも?
とにかく、最終層まで一気に駆け抜けて来た。
駆け抜けて来て、恐らく俺以外の全員が唖然としたことだろう。
「……ここ、どこ?」
「空が見えるけど。え?」
「これは、転移の、気配は、ありませんでした、が……」
「ここは過去……になんのかね。この遺跡がまだ水没してなかった頃、"この遺跡"が見ていた世界。"この遺跡の原風景"」
ダンジョンは生きている。
正確に言うと、生を与えられている。元はただの居住区だったはずのそれらが遺跡となった瞬間、そこに"ストーリー性"を見出したファントムが生を与える。
これによりダンジョンは自らの最盛期の夢を見るし、その夢が強く、深く、そして愛に近いほど──強固な幻想を以てそれを空間に織る。
仮にそこが、水底ではあり得ない風景でも。
仮にそこが、現実では既に失われたものでも。
そこにあった
「あれがトラーヴァの魔本だ」
指をさす。
その先にあるのは、中空に浮かぶ本。澄み渡る空と果てしなく広がる草原の上に、ポツンと佇むそれが、なんと異様な姿か。
「ヴェルグ。……ここ、何かいるよね」
「ああ。このダンジョン本来のボスがいる。十五階にいるのは中ボス……小ボスもいいところだ」
──影が落ちる。
それは。それは。
それは──空を飛ぶ、巨大な戦艦。
「魔導飛行船トラーヴァ。過去の文明において多くの人間を運んだ船であると同時──」
落ちてくる。
俺から見るといつも通り全裸少女にしか見えないそれらは、けれどスイたちが固唾を飲んだのを見るに、俺の知っている通りの魔物なのだろう。
「
聖騎士スキル:聖域。
見えている範囲、その全て。そこが聖域と化す。こちらと敵のステータス差は100%開くが、果たしてそれでどれほど実力が埋まるのか。強い装備だけでこの三人がどれほどやれるものなのか。
そもそも「魔化した」とか「聖なる」とかって接頭辞のつく魔物のシリーズがあって、その中の「寄生された」シリーズの戦乙女。
知性が極端に減少する代わりに回避行動を取らない突撃が可能になる……つまりまぁ、暴走と同じ状態になるわけだ。
元来の戦乙女ってのは魔物の癖に連携だのフェイントだのをかましてくる高性能AI搭載の魔物で、イベントによっては主人公たちと戦わない選択肢まで選んでくるような知性の持ち主だった。
それが寄生によって暴走し、ただ相手を殺し、同じく寄生させようとしてくるだけの魔物に成り下がった──それが
「ご主人様、それ、私、キツいかも!」
「あ、そうか。これ聖気出るのか。……じゃあ不味いな」
「いえ。大丈夫、です。天使スキル、聖界の卵」
「おお! ……苦しくなくなった!」
「はい。ですが、その周囲の膜は、聖気でできています。触れないように、お願いします、シーファさん」
「……バフに徹しろってことだね!」
「スイさんの援護は、私が出ます。ヴェルグさん、デバフと、ヒール、どちらも、できますか?」
「無論だ。──呪詛スキル:従属:体力継続回復、状態異常半減。そして、呪詛スキル:従属:半覚醒」
「!」
轟、という圧があった。
聖界の卵とやらに守られていなければ、シーファはピリピリ来るどころじゃなかっただろう。
美しく──大きく広がる、純白の翼。
「……隠しておきたい、という、私の心は、我儘、でしたね」
「別に今選択をする必要はない。だが、今その状態になってくれないと、スイが危ない。──頼む」
「わかりました」
目を見開いているシーファを見ずともわかる。
今のアウラニからは、聖気しか感じ取れない。つまり──完全な天使だ。
「雑談はそこまでで! 来る!」
「はい。空は、お任せください。スイさん、地上は、全てを、お任せします」
アウラニの称号は『天界の歌声』。
ただ天使で歌唱スキルに長ける、とかいう話じゃないんだ。その称号の意味するところは。
「──熾天使ガブリエルが血族、アウラニ。その全戦力を以て、あなた達を、消し去ります」
いっちゃん強い天使の血筋──仮に天使になることを選んだとしたら、最早魔族とは決して相容れない存在なのだと。
地上で走る炎と、天を埋め尽くす光輪。
それを見上げながら踊りスキルを使うシーファが、ぼそりと言う。
「……私、アウラニちの邪魔になってるかなぁ」
「何とも言えん。二人の種族を知っていて引き合わせたのが俺だから、責任の所在は俺にあるんだろう。だが……すまんな、魔族として生まれた魔族を、魔族以外にする、という手段を俺は持ち合わせていない。魔王や魔素源王を殺したところでお前は消滅するだけだろうし、聖水や聖気を使っても痛みを与えるだけ。……解決策は思いついていない」
「んー。でもまぁ、人間社会に魔族な私がいることの方がおかしいのは事実なんだよね。……仮に相手がアウラニちじゃなくてもさ」
「アウラニが人間であることを選んだら、別に関係の無い話だ」
「でも……あんなに生き生きしてるアウラニち初めて見た。あっちの方が楽なんじゃないかな」
「さぁ。その辺は自分で聞けよ。いつも通りのテンションで」
戦乙女たちが炎と光によって焼き焦がされて行く。
遠目だから、あと光が強すぎるから、それを見ていても大丈夫でいられる。……寄生されたあの戦乙女たちに意識があるとは思えんが。
「なんとかならないかなぁ」
「なんとかしたいのか?」
「だって友達だもん。……もうヤだよ、お別れするの」
「そうか」
……。
じゃあ、もう少しだけ真面目に考えるか。
魔族を滅亡の運命から救い、且つ人間に敵対しないようにする──理想郷の実現を。
「終わった」
「終わりました」
「ああ。呪詛スキル:従属:通常」
消える翼。アウラニから溢れ出る聖気も微量なそれに戻る。
逐一MP分配はしていたし、HPも回復し続けていたから二人の疲弊は少なそうだ。まぁ集中力に関してはな、どうしてもな。
「さて、じゃあこっからは俺の仕事だ。三人共、一応まだ気は抜かないでくれ」
「わかった」
出る。
聖域も解除して、空にあった巨大な戦艦もなくなっていて。
その、ただ澄み渡るだけとなった青空と、風によってせせらぐ草原のど真ん中に浮かぶ魔本に近づく。
「……ちょいと話そうぜ、ファントム」
「いーよー。そろそろだと思って、あの服着てたんだ」
「おお、ありがとう」
素直だな。
めっちゃありがたい。
「トラーヴァの魔本の存在は知ってたよな? まぁダンジョンにこういう力与えたのお前だし」
「勿論。魔導戦艦……じゃない、魔導飛行船トラーヴァの登場における国家間の戦力バランスとか気にしてる?」
「俺がそういう小難しいこと気にすると思うのか?」
「いや絶対しないと思う。それで、じゃあ何の用?」
トラーヴァの魔本を、取る。
それをインベに入れて。
「フレースヴェルグのことだ」
「どの?」
「新しいフレースヴェルグ。そろそろなんじゃないのか? 新たなる芽吹き……フレースヴェルグがカラバ村で目を覚ますのは」
「流石、全部お見通しなんだ。でも残念、そろそろ、じゃないよ。もう起きてる」
「……やっぱりか。おかしいと思ったんだ、戦力バランスとか気にするはずない俺が突然"トラーヴァの魔本を取りに行こう"って思うこと自体」
「え、でもボク君に干渉してないよ? したらざっくり行かれそうだし」
「ああ、だけど、世界ってのはお前の干渉してない物語がごまんとあってな。──お前も世界の奴隷なんだよ。知ってるだろ?」
問えば、くしゃっと顔を歪めるファントム。
お前世界大嫌いだもんな。気持ちはわかるよ。俺は好きだけどこの世界。
「ねぇ、ヴェルグ。神様っているわけ?」
「教会に一柱、神殿に一柱、邪神崇拝のトコに一柱」
「そんな紛い物じゃなくてさ。本物の話だよ」
「いるかどうかを答えるのは吝かじゃないが、それでいいのか、お前。自分で解き明かす方が好きだろ?」
「……ちぇ。その通りだよ。はぁ、理解されてるって最初は面白いって思ってたけど、こういう時はなんか癪だなぁ。……でもボクはもう動けないから、フレースヴェルグ君に頑張ってもらわないと。色々物語を作って、彼がいるかどうかもわからない神様に辿り着いて、魔王もドゥームスも倒して……ボクのところに、かぁ」
「長い道のりだと思うか?」
「ううん、多分あっという間なんじゃないかな。あ、だけど……ねぇねぇ、今思いついたんだけどさ」
ファントムは、花が咲くような笑顔で言う。
「君──もしかしないでも、立ちはだかるよね? あの子、魔族の子。ドゥームス倒されちゃったらあの子消えちゃうわけだし」
「まだ考え中だ。俺の中で奴隷はあくまで奴隷。家族じゃないからな」
「うわぁ。……これだけ話してて、あれだけ仲良さそうで、あんなに一緒にいて、"別に消えても構わない"? ……引くわー」
「じゃあお前、リザが消えたらどう思う?」
「何にも」
「俺とシーファより長い時を過ごしているし、苦楽も共にした仲だろう。会話の数も俺達とは比べ物にならないはずだ」
「でも部下だよ、ただの」
「ああ、奴隷だ。ただの」
ファントムに引かれる謂れは無いと思っている。
だってこいつも同じだから。
「……でもさ、でもさ! 君とあの魔族の子にはちゃんと
「まだ言うか」
「それが目の前でふっと消えても何にも思わないワケ?」
「だから考え中だって。きっかけ次第だろ、何事も。それこそお前の言うようなストーリーがあったら、もしかしたらあいつらが奴隷じゃなく仲間になるかもしれない。家族になるかもしれない。そうなったら俺はフレースヴェルグと敵対してでもドゥームスを守るだろうし、死に物狂いでドゥームスとシーファを切り離す手立てを考えるよ」
「……もうちょっと愛を知った方が良いと思うけどな~ボクは。そんなことしてたらいつか独りぼっちになっちゃうよ?」
「お前みたいに?」
「ボクには部下がいるから。でも、君はどうだろうね。強すぎるから……いずれ誰もついていけなくなるよ。早く愛の範囲を広げないと、気付けば独りぼっちだ」
クスクスと笑って、ファントムは俺を見る。
俺の目を、じっと見る。
「もし君が完全な孤独になったら、ボクが受け入れてあげようか?」
「うーん。まぁアリっちゃアリ」
「……そこはさ、"誰がお前のものになるかよ"とか、"冗談でも無理"とかさ」
「お前の見てくれ、俺嫌いじゃないからなぁ。普通にそそる」
「いや……ボク長いこと生きてるけど、姿に欲情されたのは初めてだよ。多分どれほどボクを崇拝してる奴でも絶対言わない言葉だよソレ」
「ああまぁこっちの話だから」
アダルトMOD無かったら俺だってお前を可愛いなんて思ってないよ。
ただアダルトMODが神MODってだけだよ。
「すまんな、フレースヴェルグについて確認したかっただけなんだが、微妙な空気になった。俺そろそろ帰るけど、なんか言っておくことあるか?」
「いや……うん。あのさ、ボクがいうのもおかしな話だけど、ボクに生殖機能とか、というか実体がまずないから、やめたほうがいいと思うよ……?」
「わかってるわかってる。じゃあなー」
世界が戻る。
時間は過ぎていない。そういうスキルだからな、どっちも。
インベに入ったトラーヴァの魔本の三冊目を確認して。
「よし、帰るぞー」
「え。……何か来るかもなんじゃないの?」
「身構えて損したー」
「……そう、ですね。何も……起きません、でした」
天使には多分効き難いんだろうな。
ちょっと見えちゃったかね、ファントムか、あるいは俺がどっか行く姿が。
「さて、帰りにまたダンジョンを、ってのは長すぎるからな。全員集まれ」
「──やば、嫌な予感がする!」
「どういうこと?」
「集まる、という、ことは」
「そう! ──超高空に転移するということ!!」
強制転移、Y軸だけぶち上げ。
海底から一気に空の彼方へGO!
「──死ぬってぇ!」
「忘れたのか。お前らの履いてるブラックオスプの忍び足は、落下ダメージを消す!」
「ヴェルグ、それって海に叩きつけられた場合も有効?」
──……。
「えーと方角方角」
「ちょ、スイちがそれ言ってなかったらどうなって、ねぇもう海面見えてる早く早く早く!」
「……あの、もう一度覚醒して、飛んで、いいですか?」
「もうちょっと俺を信用しろよお前ら。見ろよこのスイの動じなさ」
「諦めてるだけ。どっちみちどうしようもないし」
まぁ方角も何も、ミニマップ見えてるんだけどね!
はい短距離転移。高度そのままじゃなく、砂浜の上にドサドサり。
そして装備を回収、換装!
「う」
「ヴェルグさん、どうして、何も、学習しないのですか?」
「おおおお帰り私の水中装備!」
「慣れてくれ。俺はこういう奴だよ」
「……二回も見られた」
とにかく。
「お疲れさんだ。メアリーが夕食用意してくれてるはずだから、行こう」
「スイさん、私も、怒りという感情を、知りました」
「お父様とお母様に報告する。何をされたのか事細かに」
「親バカモードのラムナザール四世は二割増しくらいで強そうだな。楽しみにしておこう」
その夜はもう、誰も口をきいてくれなかった。
ごめんじゃん。ふざけすぎたって。ごめんて。