※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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動き出す愛憎(G度高め倫理観無し温度差高め)

 人道的であるか、非人道的か。倫理観に沿っているか沿っていないか。

 

「──と、このように、魔素は主に末端神経、末端部位を通じて生物の体内に入り込み、細胞の一片一片をそれぞれ魔化させることで全体の魔化を進行させる。その証拠に、外皮、水質肉、消化毛、コアしか有していないスライムに魔素を近づけると」

 

 表情は何も変わらないのに、最後の最後。その瞬間だけ悲痛な感情の発露をして、魔化するスライム。

 レジーナのプレゼンと周囲の研究者の反応を見るに、氷漬けにされて輪切りにされたスライムが外皮、水質肉、消化毛、コアの順に魔化していく様子が見られたのだと思う。

 

 次の瞬間、錫杖によってコアが砕かれる……前に、目を瞑った。片付けが終わったのを確認してから目を開ける。砕いたのは布で顔を隠した男。その紺色の装備は神殿に仕える者の証。

 

「外皮の全てに魔素が浸透しきる前は、水質肉への汚染が一切なかった……」

「成程、であれば、魔素の進行を遅らせる手段さえ確立できれば」

「ああ、皮膚の細胞を少しこそぎ落とすだけで魔化が防げるかもしれない!」

 

 一気に騒がしくなる講堂内。けれどカァンと響いた錫杖の清音が、その喧噪を鎮める。

 

「コホン。そして、皆も存じているだろう聖水。そして、極僅かな量しか産出されない聖石。これらは聖気を纏っているが故に魔素を退ける力があるが、もう一つの使い方が見つかった」

 

 今度はモルモット……ケースに入れられた少女が運ばれてくる。

 密閉されたケースの中に何かガスのようなものが注入される。途端、少女は苦しそうに喉を抑え、ジタバタと暴れもがき……最後には()()()()

 

 スキルか、薬品か。

 こちらに手を伸ばし、助けを求めるような恰好で石になったその少女を、ケースを開けたレジーナが掴む。

 

「どうだ、神殿の?」

「……聖気を感じる。純度は落ちているようだが、これは間違いなく聖石である」

 

 今度は静かな「おおお……」という歓声。

 レジーナが今言ったように、聖水に比べて聖石は産出量が少なく、故に聖石を使った武器や装備と言うのは超貴重品で、余程実力のある者にしか与えられない、対魔族決戦用装備となっている。

 

 けれど今、それを。

 純度が落ちるとはいえ──人工的に作り出して見せたのだ。

 

「これを作るのは簡単だ。毎日聖水を少量混ぜた餌を魔物に食わせ、成熟させた段階で今のように石化させる。私達の研究結果では、混ぜる聖水は成熟時の魔物の全体重、その百分の一ほどでいい、というところまでわかっている。これは取り込むことで聖水が浸透するからであると同時、聖水は排泄物として排出されずに生物の体内に残るからだ」

「聖水という投資は必要だが、各国各地で同じことを行った聖石化魔物を配備すれば……魔族の脅威も、魔化の脅威も防ぎ得る、ということか!?」

「いや、時間はかかるだろうが、この人工聖石で城壁や建造物を築けば、魔素はもう我々の生活に侵入してこない……理想郷が作れるかもしれない!」

「この発見は人類の偉大なる一歩だ! レジーナ殿、早速──」

 

 また錫杖が鳴る。

 熱狂しかけていた講堂内が鎮まる。

 

「一つだけ問題がある。最後まで話を聞いてほしい」

「問題?」

「ああ。聖水を飲ませ続けた魔物は、成体となってからの石化であれば聖石となり得るが、それ以前に致命傷を与えてしまったり、殺してしまったり、そして気を逸って石化させてしまったりすると、それ以降はどれほど癒しの術を使っても聖石化魔物にはならなくなるようだ。ゆえに、聖石化させる予定の魔物はできるだけ温厚な性格であるものを選ぶか、屈服の呪いなどをかけて行動を制限し、意識を奪った状態で育てることを推奨する」

「ふむ。そのあたりの度合いについては儂ら治療院も知恵を貸そうかの」

「呪詛学院も必要とあらばお呼びください」

「神殿はあまり関与するつもりはないが、期待はしている」

「ああ、感謝する。──これにて魔素と魔化の具体的な性質、及び新たなる聖石の生産方法についてのプレゼンを終える。清聴感謝する!」

 

 ……レジーナの掲げる、石化した少女。

 俺が説く話でもないな。

 

 

 

 

 ふぅ、という溜め息と共に、レジーナはソファへと座った。

 その対面に俺も座る。

 

「お疲れ様だ、とは言っておくか」

「ああ、ありがとう。……研究職としてプレゼンは幾度となくやって来たけど、神殿の粛清部隊が背後にいると緊張がね……」

「まぁ、下手な事言ったら殺す、みたいな空気出してたもんな」

「本当に……後で聞いたら"全くそんなことはない。神殿はレジーナ殿の研究に期待している"と返って来たけど、どこまでが本当なんだか」

 

 この世界には「聖堂」と「教会」と「神殿」が存在していて、それぞれ奉る神が違ったり教義が違ったりはするものの、基本的には「人類を魔素から守ろう!」を掲げている。

 これらは左から順にやってることのエグさと所属している人間の強さの段階指数にもなっていて。

 

 たとえば魔化によるアウトブレイクが起きた村があるとして、「聖堂」なら聖堂所属の聖女と冒険者たちでなんとかしようとする。「教会」ならその村周辺を完全に封鎖する。谷とか作って。

 そして「神殿」であれば、聖騎士と神官を大量投入して村を地図から消す。誰もが知っていることだとしても、「人間の魔族化」は神殿的に受け入れられない現象らしい。だからこそ今回のレジーナのプレゼンに神殿が来たのは意外だったし、その神殿がレジーナの研究結果を認めたのも意外だった。

 これ、要約すると「生物は全て魔化するし、聖石は然して貴重な鉱物でもない」って言ってるようなものなんだけど、大丈夫なんかな。

 

「だが、今回のプレゼンに至れたのは、紛う方なくヴェルグのおかげだ。礼を言うよ」

「……あの魔化した魔物を入れていたケースか」

「ああ。完全再現とは言えないが、似た効果を発揮する物質を作ることには成功した。まだ名前はつけていないが、これから世界中に普及していくことだろう。そして人工聖石の建造物もまた」

「一つ確認なんだが、人工聖石はゴーストを生まないのか?」

「生まない。何故ならあれら魔物は死んでいないからだ。石化は死亡とは違う。同じことだよ」

 

 ……そう、石化は状態異常だ。

 死じゃない。

 

「なら、悪意ある何者かが石化を解いた場合が怖いな」

「そのために屈服の呪いや育成段階で思考能力を奪い、あるいは温厚な魔物を選ぶように推奨した。プレゼン段階で言った言葉に噓偽りはないが、悪用されないための警告も含んでいる。ま、それこそ神殿の粛清部隊があの場にいたから、少なくとも同席した研究者は悪事には手を染められないだろう」

「そうか。……レジーナ、少し確認したいことがある。聖石化した魔物のサンプルはあるか?」

「ああ、今持ってこよう」

「頼む」

 

 部屋を出て行くレジーナ。

 ……うーん。いや。うーん。

 

 人間の生死より魔物の命への倫理に比重が傾くのは、ティル・ナ・ローグの存在を知っているから、なのかなぁ。

 死せども先がある人間と、世界の奴隷として生まれ、死んだら何も残らない魔物。

 俺が魔物素材を見てエグいと思ったり、魔物が傷ついていくところを見て吐瀉したり……なんか思考が魔物寄りな気がするというか。なんで俺こんなに魔物に同情するんだろうか。

 人間は、誰が死んでも……さもありなん、で済ませられるのに。

 

「持ってきたよ。アイススクウィウルの人工聖石」

「次元スキル:時間停止。次元スキル:時間停止限定解除」

 

 レジーナには悪いが、少しばかり止まっていてもらう。

 この部屋自体の時を止めているから誰も入っては来られないし、外からの監視の目も潰れる。

 

「……意識は、あるんだろ」

「……」

「ああそうか、喉も口も……何もかも石化しているから、喋ることもできないのか」

 

 鳴き声を出せない。それが出なければ、言葉にも変換されない。

 でもできることはある。

 

「奇術師スキル:コンフュージョンデュアル」

「ぁ……え?」

「一時的にお前を二つにした。幻惑だが、精神に影響を及ぼすスキルだ。石化は関係ない」

 

 コンフュージョンデュアル。

 本来は敵を増やして混乱させて同士討ちさせるエグいスキルなんだけど、今回はただ分身を作るという部分にのみ着目した。状態異常は分身先には移らないからな。

 

「……お願い、お願いお願いお願い! 今すぐ私を殺して! 壊して! 嫌よ、嫌よ嫌よ嫌! このままずっと石になるなんて絶対に嫌! ねぇお願い、声が届くんでしょ!? 嫌、嫌、こんなことになるくらいなら世界の奴隷でいた方がずっと良い! 狭いケースの中で一生を終えた方がずっと良かった──石にされるなんて、ああ、そんな酷い話無いでしょう!?」

「石化している間、ずっと意識があったのか」

「そう、そう、そうなの……ずっと意識があって、声も聞こえていて、世界も見えていて、けれど動けない。息もできない。声もあげられない、叫ぶことも苦しむこともできない……ねぇ、どうして? なぜ? 私は何故こんな責め苦を受けなければならないの!?」

「……すまん」

「何を謝って──」

「奇術師スキル:コンフュージョンデュアル:解除」

 

 フッと消える分身の少女。

 あとに残るのは、時間が停止した状態のレジーナと、その手に乗る聖石化した同じ少女だけ。

 

 時間停止も解除する。

 

「だ。どうかな、ヴェルグ。君の目から見て、安全性に問題は?」

「……」

「やけに深刻な顔だな……。これでも実験に実験を重ねたから問題はないはずだが、やはり開示権限上位者には違うものが見えているのか?」

 

 石化した少女を見る。石化した少女を見る。石化した少女を見る。石化した少女を見る。

 見て……見て。

 

 嫌に苦く感じる唾を飲み込み、大きく溜め息を吐いた。

 

「いや。問題はないだろう。……今のところは、だ」

「ああ勿論、害が出たらすぐに研究に取り掛かる。これはまだまだ実験段階の試作品。ゆくゆくは野良魔物も石化させて聖石にできるような技術や、あるいは魔族にさえ届き得る石化ガスの開発をも目指している。……その頃私が生きているかどうかはわからないが、あるいは本当に魔素も魔族も魔王もいない、人間の理想郷が手に入るかもしれないんだ」

「そうか」

「とはいえ、まだまだ先の話だが。これから聖石の実用化や加工といった部分にも着手していく必要があるから、夢を語って休んでいる暇はない」

「……加工か。そうか、そうだな。……そうだな」

 

 加工されたら、死ねるのだろうか。

 それとも、それでも意識は残るのか。あるいは死なないように加工するのか。

 

「というわけで、すまないがヴェルグ。私はこの後も予定があって」

「ああ、構わん。むしろ経過報告に呼んでくれただけありがたい」

「こちらも君の意見が聞けるのはありがたいからね、是非とも、今後ともよろしくお願いするよ」

 

 差し出された手を握り返して。

 

 研究院を──出た。

 

 

 

 研究院から、そして市街から少し離れた所。高さ的に帝国を見渡せる地形の、大きな樹木に身を預けて。

 

()()()()()()()()()()()()。貴殿に話がある」

「ヴェルグと呼べ。フレースヴェルグは俺の名じゃない」

 

 その背後からの声に驚きもせず返す。というかここにそいつがいたから来た、という方が正しい。ミニマップで、だけじゃない。わざわざ視界に映ってきて、俺をここに誘導していた。

 レジーナの背後にいた、神殿の男。

 

「一人目は魔族となった。今は我々が手を出せぬ魔族大陸の奥地にいる」

「知ってる」

「二人目のフレースヴェルグ。貴殿は意思は如何や。石化した魔物に同情するような感性の持ち主は、一人目のフレースヴェルグと同じ道を辿るか?」

「騎士団長フレースヴェルグは、何故魔族になった?」

「魔族侵攻の際、彼は魔族に捕まった。仲間の全てを惨殺され、しかし一人戦い続けたその後、だ。そうして、我々が彼を見つけた時には、彼の魔化はもはやどうしようもない域にまで達していた」

「へぇ、神殿の粛清部隊が人間の魔化を認めるのか。意外だな」

「上の認識がどうであれ、事実は事実である」

 

 ……仲間を惨殺されて、魔族に囚われた、ね。

 確かチュートリアルでも、仲間は全滅してたっけ。

 

「二人目のフレースヴェルグ。貴殿がこの世に現れたのは、一人目のフレースヴェルグが魔族となった瞬間と重なると考えられる。故に問う。最強の名を恣にする貴殿ら"フレースヴェルグ"は、何者か」

「真実を秘し、隠匿し、歴史から消し去る神殿が、何者かを問うのか?」

「こちらが開示できる情報など全て知っているだろう。取引と呼べぬ取引は不毛である」

「そりゃまた、良い判断力だな」

 

 フレースヴェルグが魔族化したタイミングで、俺がこの世界に現れた、ね。

 そして……恐らく俺がシーファの種族階位を上げ、シーファの問題をどうにかしようと動き始めた段階で、新たなる芽吹きが動き出した。

 

 あくまでフレースヴェルグは人間の味方でいろってことか?

 

「一つ目の疑問には答えておく。俺は魔族側や魔物側につこう、という気はない。だが彼らを魔素から切り離す方法を探求している」

「魔物と魔素を切り離す、については理解が及ぶ。見方を変えれば、魔物と我ら人間に大差はない。同じ魔素の被害者だ。だが魔族を切り離すという言葉については理解が及ばない。魔族は魔素から生まれるもの。魔化した人間もまた、魔素を核とする。切り離せば死するだけだ」

「ああ。それをどうにか切り離そうとしている。世界の法則を書き換えてでも、だ」

「……至難の道だ。そして荊の道でもある」

「だろうな。最悪人類も聖堂も教会も神殿も、そして魔王さえも敵に回す。全てが敵に回る」

「構わぬと言うか」

「すべてが相手でも負けない。故にやる」

 

 力を持たぬ者が大望を抱けば、世界や周囲からの圧で潰されてしまう。

 だけど、三周目ステータスゴリ押しマンなら話は別だ。

 

「……"Even if love has changed the world."」

「神殿の聖句か。『愛が世界を変えたとして』。なんだ、皮肉か?」

「二人目のフレースヴェルグ。今度こそお前が人類の敵とならない未来を願う」

「助力は?」

「神殿は個人への協力を行わない。だが……個人的に言うのならば、その道の先に、確りとした成果を掴んで欲しい」

「へぇ、個人の感想なんか持ってたのか、粛清部隊は」

「此度の聖石実験を快く思えない程度の感情はある。……人道か、未来か。視界を覆う霧が晴れるのはいつになるか」

「魔素も魔族も魔王もいなくなって、百年くらい経った後の歴史家が偉そうに高説垂れて批判してくれるだろうな。そうして別の歴史家が擁護に見せかけた批判をする。この時代の人間に倫理観を求めてはいけないと」

 

 平和になればそうなる。安全なところにいれば余裕ができるんだ、当然さな。

 

「二人目のフレースヴェルグ」

「そろそろ名前を覚えろよ粛清部隊」

「貴殿の望む未来に、幸多からんことを。失礼する」

 

 消える。

 ……おいおい、転移しやがったぞアイツ。ありゃ少なくとも末端なんかじゃねえ、幹部……というと変になるけど、神官長とかその辺か?

 

 しかし。

 真面目に考えなきゃいけないことが増えて来て、ちょいとダルいな。

 

 

 

 

 振り下ろされた大剣を掌で止めて、背後から来る刺突に一切の関心を向けずに降ってくる魔法の方を対処する。チクりともせずに弾かれた短剣と押し出された大剣。降り注ぐは激しい光の束。これは知っている。天使スキルの光束招来だ。HPが一定以下の敵を確殺する天使スキルの中でも無条件理不尽魔法。仮に敵のHPが一定以下になっていなくとも相当の威力があるそれを、聖王の粛清剣で叩き落す。

 

 一連の攻撃は時間にして一秒を超えない。

 続け様にと放たれた横薙ぎを、今度はがっちりと手で掴む。鬼の腕力に勝る握力で以て大剣を固定。そのまま持ち手のツバナごと振り回すようにして、アサシンスキルを使おうとしていたケルにぶつける。

 さっきから来ているデバフ二種は一切効かない。

 そうして、やはり頼みの綱になるのだろう、苦し紛れの天使スキルが放たれるも、これもまた粛清剣でかき消す。消せた。

 やっぱり聖気には聖気だな。天使スキルはそのほとんどが聖気か光属性だから、こっちも同じ武器を持っていれば対策は楽だ。

 

 天使スキルを放った状態のアウラニに肉薄し、その首根を掴んで地面に押し倒す。

 肘による打撃で肺の酸素が出たのだろう、カハッ、なんて声を上げて、苦々しくこちらを見るアウラニ。……やっぱり弱いな、人間状態だと。

 

「終わりだ」

「……です、ね」

「うあ゛ー、私とメアリち何の役にも立たなかったー」

「精神耐性が高すぎてすべてレジストされてしまいましたね」

「こっちも、意にも介されなかった」

「低威力なのは織り込み済みだけど、まさか気も引けないとは思ってなかったわ……」

「ぬぅ……一撃も入らないとは、私は果たして強くなっておるのかの……」

「正直な回答と気を遣った言葉、どっちがいい?」

「前者じゃ」

「微々たるもの、だな。前よりは強いがそれだけだ。前衛とするには余りにも心許ない」

 

 最初の圧倒的な伸びはどこへいったのやら。師匠の云々は、キンゾイよりエイルニルス公国の部隊の方が練度高いだろうから関係ないと思うし、単純にもう頭打ちなだけか、基礎攻撃力が低い……筋肉が足りないだけか。

 ケル、ツゥはそもそも攻撃要員じゃないから良いにしても、ツバナがどーにかならんと真面目にいる意味がなくなってくる。

 

 奴隷だ。まだ仲間でも家族でもない。

 料理もできない戦闘もできない好みでもない奴を置いておく程俺は善人じゃない。

 

 別にもうギルドの稼ぎで家買えるくらいはあるだろうし。無理なら買ってやるし。

 

「一週間後だ」

「……何がじゃ?」

「一週間後、もう一度テストする。そこで前衛を任せられる能力がないと判断したら、ツバナ。お前を俺の奴隷から外す。家やある程度の生活費は与えてやるから、あとは帝国人として──」

「ちょっと、ご主人様。来て」

「ん……なんだ、シーファ」

「いいから」

 

 自爆の呪いをかけられた状態で帰って来たケルを見た時、みたいな声のトーンのシーファ。

 呼ばれるままに家の裏へ。

 

「ツバナちの従属の呪い、私に頂戴」

「……そりゃまたなんで」

「私はバッファーだもん。前衛が必要」

 

 静かに。

 彼女は、感情を押し殺した声で言う。

 

「要らないんでしょ? でも私は要るから」

「……ああ、わかった。やるよ」

「っ! ……ふんだ」

 

 シーファにツバナの従属の呪いを譲渡する。

 奴隷が奴隷を持つ、という行為は、少ないながらも前例がある。だから別におかしなことじゃない。ただ一週間待ってやっても良かったんじゃないか感はある。一週間あれば死に物狂いでレベル上げしてもうちょっとくらい強くなれるだろうに。

 

「ご主人様ってさ」

「ああ」

「愛着とかないの? 執着とか」

「何に?」

「なんでも。物でも人でも」

「……無いな」

「そっか」

 

 八百万の神々よろしくすべてのものに精神が宿る、なんて考え方も存在するのは知ってるけど、俺の場合はあんまりそういうのない。基本実用性重視だし、壊れたら買い替えるし。

 奴隷も然して変わらない。使えなくなったら捨てる。新しいのを買う。剣として買ったのに剣として使えないのなら、新しい剣を買うしかないだろう。コンプ目的とかならともかく。

 

 他の奴隷には用途がある。

 ケルは一緒にいたいと言ってきたから一緒にいる。彼女の意思がどこに向いているとか誰を好いているとかはどうでもいい話だ。そこまで踏み込むつもりはない。ツゥは成り行きで眷属にしちゃっただけで、別にすぐにでも解放して良いと思っている。ケルがそばにいたいと言っているから家に置いているだけだ。

 

 俺だって自分の性的欲求や好悪を晒していないのだから、周囲にそれを求めることはないし、奴隷という名の道具に用途以外のことを求めることはない。

 そもそもの話をするなら従属の呪いはその名の通り呪いだ。繋がりじゃない。別に呪われてなくとも友人として存在することは可能だろう。リアみたいに。

 俺からしてみれば、何をそんなに奴隷に拘っているのか理解できない。解放して金やって家もやるって普通に高待遇だろ。

 

「ねぇ、ご主人様ってさ、家族とかいないの?」

「いないな。つい先日いないことが証明された」

「……そっか」

「家族がいないからこんな性格になった、とかじゃないぞ。俺はもとからこんなんだ」

 

 前世は普通にいたし。ただ……転生する前までの五年間くらいは、家族に仕送りするくらいで、会う、とかほぼなかったな。仕事してゲームして抜いて寝て、時々遊んで仕事してゲームして。

 多分これと言って目立ったところは無かったと思う。可もなく不可もなく人間。風俗はちょっと好き目だったかもしれんが。

 

 ゲーム本編の仲間も、結局はNPCだしな。これに家族クラスの愛情持ってたら俺はメアリーを真っ先に育て上げて自分の身を守れるようにしてるだろうし、スイも仲間にいれてるんじゃないか? ラクニシェルは……アンダーテイカーが無くなった時点で持ち逃げもなくなるだろうから、やっぱり仲間にしてそう。

 ただこのゲーム、仲間の編成は結構コロコロ変えれたし、それこそ状況に応じて対応できる仲間をとっかえひっかえしてたから、やっぱり愛着とかねーんだよな。ヴェルグの名付けの時点で俺がどんだけ適当人間かは伝わっていると思うけど。

 

「他の子の従属の呪いも欲しい、って言ったらくれる?」

「メアリーとお前以外は最悪要らん。アウラニは一応行くところまで面倒見るつもりでいるけど、アイツが選択をしたらあとは好きにさせるつもりだ」

「私とメアリちは、なんで必要なの?」

「メアリーは家事炊事。お前は魔素をコントロールできる特異体質」

「……それってさ、つまり、家事炊事ができる人なら他の人でもいいし、魔素をコントロールできる魔族なら他の魔族でもいいの?」

「そりゃな。いやまぁ敵対してくる魔族だとちょいと考え物だけど」

「そっか」

「ああ」

 

 ファントムに言われた言葉はちゃんと覚えている。

 愛の範囲を広げた方が良い、と。多分これはその話の一環だ。

 だけどパッと言い切らないで誰も彼もの好意を受け止める、あるいは返事は保留、みたいにしてる方が残酷だと思うし、単純に俺がヤだ。否定派とまでは過激にならないけど、ハーレムはあんまり好かん。

 以前ノズヴェルガーにも話したけど、俺が無理だからね。一人の女を真摯に愛するのも、大勢の女を均等に幸せにするのも。

 

 どっちもできない。できないことは言わない。

 

「……これはさ、ご主人様。忠告」

「忠告?」

「そう」

 

 しおらしいシーファがまず珍しいのに、そこへさらに忠告と来たか。

 

「そんな簡単に愛想尽かせるほど、私達って適当じゃないんだよ。ご主人様には一生わかんないだろうけど」

「それが忠告なのか?」

「これが忠告に聞こえない時点で、って話。じゃ、私は戻るから」

 

 好きにすればいい。

 たとえ俺がケルを"必要"に思っていても、彼女がそう思わなくなったら離れてくれていいし。

 たとえ俺がシーファや魔族を魔素から切り離そうと動いていても、俺のことが気に入らなければ非協力的になってくれて構わないし。

 裏切りたければ裏切ればいい。やめたければやめればいい。

 それらの行為が俺の行動を妨げることは無いのだから。

 

 理解できないなら、立ち去ればいい。

 人間なんて世界中にごまんといる。付き合いきれないと思ったら離れるのがベストだ。「相手を変えてやろう」なんて熱量が勿体ない。

 

「ヴェルグ、さん」

「今度はアウラニか。なんだ、お前も忠告か?」

「いいえ。……折り入っての、相談が、あるのです」

 

 相談。

 アウラニのその口からこぼれた言葉は、いつか俺がシーファに提案し、却下されたもの。

 

「あなたなら、知っています、よね。──私を、天使と、人間にわける……禁忌の術を」

 

 どうか。

 お願いできませんか、と。

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