アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
俺は今爆走している。走っている。駆けずり回っている。
アウラニの下に敷いてある陣。俺の直感的には別に後で描き直せばいいとは思ってるんだけど、とりあえずゲーム本編においては描き直すことなくこの"準備"を終えていた。命を扱う儀式の、それも外法の一つであるこの方式を取る時、あまり例外的な行動はしたくない。
だから俺の左腕とアウラニ、そして陣を描いた赤土の陸地の一部を次元スキル:絶対配置で固定し、あとはそれを持ち上げての爆走タイムだ。兄弟だ。スランプだ。それは爆風。
天使をもうちょいやべースキル使って一掃しちゃう、というのも考えたんだけど、ほら。
傷ついた動物拾って治療して、ほらそろそろ野生へお帰り、ってやって逃がしておきながら「まぁ仲間の種族全部殺しちゃったんだけどね笑」は流石にヤベーだろ。薄情通り過ぎてサイコパスだろ。
何よりもガブリエルは、言動こそあんまり快くない親って感じだけど、まぁ親は親だ。
アウラニが天使となって天界なりなんなりに住み着く際に、関りの合った俺がガブリエルを殺しているってのは色々あるだろ。アウラニにとっても周囲の天使にとっても。ウリエルは知らん。
ということで俺は逃げを選択した。
描写するのも憚られる最強の魔剣は一度インベントリにしまい、防御力と移動速度向上系の装備、そして相手の命中率を下げる【クラウドカイトシールド】という大盾を背負って爆走している。
「目算、あと五分──っと」
真横に突き刺さった槍から距離を取りつつ、移動速度を一切緩めないで赤土の陸地の内陸側へと突き進む。
このなーんにもない大地は、けれどマップデザイナーがテクスチャをベタ塗りした場所、ではない。
ちゃんと意味のある土地なのだ。それを有効活用するために今走っている。
「あとは、もうちょい頑張れ、魔素!」
「やはり魔に連なる者か!」
「ああそういう意味じゃなくて!」
そもそもこの準備で脅威になっていたのは魔素の方だ。死に群がってくる魔素。それを聖域で取り除くだけの簡単なお仕事。
ただそれが、アウラニの無意識に使用したスキルでごちゃっているってだけで──魔素は別に消えてない。
だからさっきまで大量にいた天使は魔素を防ぐ壁の役割をしているらしい。彼ら彼女ら単体で聖気を放ってるから、魔素を近づけさせない壁足り得る。ただ穴があると魔素が通り抜けてガブリエル達の邪魔をするからと、手持ち無沙汰になっていた天使は全員壁になってくれた。正直ありがたい。
勿論ありがたいと思っているのは魔素に対してだ。頑張れ魔素。お前らがもっと頑張ればガブリエルやウリエルもそっち行くかもしれない。頑張れ魔素。頑張れドゥームス。
「天使スキル:天の炎」
「魔法使いスキル:身代わりの藁!」
「……先ほどから、どういうことだ、下等生物」
「何が!」
感情的になっているガブリエルと違い、ウリエルは並走して時たま天使スキルを撃ってくる程度に徹している。まぁ十分脅威なんだけど、一応話が通じる分話しかけてくるのがめんどい。今俺集中してるって言ったよね! 言ってないけどね!
「私のスキルの方が発生が早い。だのにお前のスキルは私のスキルを的確に潰している。私とお前の思考速度にそれほどの隔たりがあるのか?」
「そう見えるんなら、そうなんじゃないか!」
「……天使スキル:天火墜滅」
「おまっ、魔法スキル:スプラッシュダクト! おいガブリエル、ウリエルの暴走止めろ! コイツ今アウラニを巻き込むスキル使ったぞ!」
「天使に対し天使スキルは効果を為さぬ! 人間としてのその子に傷がつく可能性はあるが、天使としての我が愛娘に一切のダメージはない!」
「仮にアウラニが人間を選んでたら、下等生物として見下して、守りもしなかったってか」
「我が愛娘は人間を選ばぬ! メルヒャクとの約束は違われぬ!!」
「やはり、明らかに発生の差があるな。……下等生物とは種族階位の話だが、個体で見ればお前は私より強い。それが結論だろう」
冷静な判断はやめとけ、それ強い奴がやるとやべーんだって。
「ならばもう様子見は止めだ、ガブリエル。強者に挑む覚悟を決めろ。我ら熾天使が二つ、力を合わせても届かぬ敵と見た」
「それほどか! 槍の手応えから薄々勘づいてはいたが、成程、それならば納得だ! では行くぞ、ウリエル!」
「ああ──天使スキル:天界降誕」
「天使スキル! 天界降誕!!」
「っ、使ってこないと思ってたら、使ってなかっただけか! 奇術師スキル:バルブデュアル! 奇術師スキル:バルブデュアル! 狂戦士スキル:
聖騎士スキルの聖域と同じく、天使は天界降誕という、天使はステータス50%アップ、天使以外はステータス50%ダウンというスキルを使ってくる。ただしこれは場に天使が二体以上いる必要があって、単体の天使には使えない……アウラニには使えないスキルだった。
ただ話を聞くに、多分下等生物如きに使うスキルではない、という自制があったのだろうことが窺える。そりゃそうだ、相手とのステータス差100%にして叩きつぶすスキルだからなコレ。雑魚処理には使わん。
ただそれをしてくるってわかってるんだから、対策は勿論立ててある。ゲームでの天使の遭遇回数は少ないものの、何度かちゃんと全滅に追い込まれてるからな。
バルブデュアルは補助スキルとでもいうべきスキルで、砲門を二つ増やすことができる。その後に放出系の魔法スキルを使うのが鉄板。それの二重なので、四つの砲門。そこへ狂戦士スキルの独擅場だ。コイツは聖域の限定効果版で、自分だけステータス40%アップ、他全員……敵味方区別なくステータスを40%下げる。
本来シナジーの無いこの二つのスキルは、あるスキルを使う時だけ爆発的なシナジーを見せる。
「奇術師スキル:フェアリーランド!」
瞬間──赤土の陸地に、あり得ない量の「俺」が出現する。アウラニとその下の地面を持った「俺」が、陸地を埋め尽くす。
「む」
「なんだ!?」
奇術師スキル:フェアリーランド。
早い話が多重影分身の術だ。これらに攻撃力はなし、経験値取得が分身分増えるとかはないけど。ただこのスキルの参考元となるのが、「敵にかかっているバフ・デバフのパーセンテージ数の合計値」であるのが奇術師スキルの奇術師たる所以。
今近くにいるのはガブリエルとウリエルだけだけど、天界降誕の範囲内に魔素と向き合っている天使たちもいて、俺の独擅場もそこを範囲に含めている。聖域が切れているのは仕方ないにしても、「敵」にかかっているバフ・デバフの数がどれほどか、など数えるのも億劫だ。ましてやそれのパーセンテージ参照なんて。
そして、それだけでも膨大な数の分身を出せる状態で、砲門が四つ。
意図してか意図せずかは知らないけど、奇術師スキルの大半のスキルは放出系の扱いになっているので──あとはもうお察しだ。
「幻惑か! だが……」
「気配が完全に同一とは、中々に面倒なスキルを有している。だが案ずるなガブリエル。奴は私達に攻撃をしてこない。これらは全てまやかしであり、ただ逃げるための時間稼ぎに過ぎない。ならば対処は簡単だ。
その通りだ。
フェアリーランドの分身は攻撃ができない。思い思いに動いてはくれるけど、ぶっちゃけだから何だレベル。これはあくまで俺が赤土の陸地の中央へ向かうまでのカモフラージュでしかなく、ウリエルがやったように離れて観察すれば、一人だけ明確な目的を以て移動している奴が見つけられる。
──俺の目的をちゃんとわかっていれば、の話だが。
確かに赤土の陸地の中央に向かいたい気持ちはある。ただそれは天使をどうにかするためであって、アウラニのレベルアップにはなーんにも関係ない。
さっきから多少の無理をしてでも中央へ中央へ向かっていたのが効いたのだろう、ウリエルもガブリエルも、中央へ向かおうとする「俺」ばかり潰していて、おんなじ場所をくるくる回る、なんて意味のない動きを見せている本物の俺には興味を向けようともしない。
俺の目的は最初から一つ。
アウラニの魂のレベルアップ──それだけだ。天使を攻撃する気も、それ以外の何かをどうこうする気もない。
そして。
「──レベル、300!」
アウラニの胸から手を引き抜き、自由になった左手でもう一回エリクシールを飲む。
「ぁ、ぅ……あ」
「呪詛スキル:眷属:行動操作:スキル使用中止」
「……天使スキル、天の軍勢、解除……」
よし、これで。
「そこか!」
「ここだが、もう逃げる必要はなくなった。時間切れって奴だ」
これで、増援は呼ばれなくなった。
ただ今ここにいる天使が帰るかどうかは此奴ら次第だ。ただまぁ他の熾天使が来ないってわかっただけでも十分。
……こいつらが天の軍勢を使わなければ、の話だけど。
「聖騎士スキル:十字鎧」
両手に剣持ってないと使えない防御スキルで一旦ガッチガチに固めて、アウラニの覚醒を促す。
普通に揺すったり、胸揉んでみたり、オティヌティヌ触ったり亀頭を擦ったり。
周囲がオティヌティヌばかり興味津々なせいであんまり触れられない穴の方に指を入れてみたり──お。
「……今、真剣な、時では……ないの、ですか?」
「いやだって、頬叩いたりしてまたお前が無意識にスキル使ったら面倒だろ」
「無意識……ああ、この、天を覆う、光は」
「お前が呼んだ天の軍勢だよ。んで今後ろですんごい形相でランスチャージしてきてるのがお前の母親、ガブリエル。冷静になんもしないでこっち見てるのがウリエル」
「……申し訳、ございません」
「無意識の行動を謝られても怒りづらいからどうでもいい。それで、準備は終わったが、このまま儀式行けるか? この状況をどうにかするのって、多分天使のお前があいつら説得するくらいしかないと思うんだよ。──それか全部殺すか、だが」
無の境地を使った後に俺の全戦力で消し飛ばすのは手だ。
これだけの量の天使、そして熾天使二体。俺一人で穏便な解決を、ってのはかなり無理がある。何よりステータスゴリ押しマンでしかない俺に交渉技能とかないからな。帰ってくれ、って言うか、殴って帰らせる、くらいしか選択肢がない。そんでもって殴るとエグいことになるから殴りたくない。
「大丈夫、です。儀式を、お願い、します」
「わかった。じゃあアレだ。──見てんだろファントム! ちょいと手伝え!」
「あ、そこでボク呼ぶの本気?」
「本気だよ。虚数スキルは天使と相性悪いだろ、次元で時間停めて一気に行くぞ」
「しょうがないなぁ、今回だけだよ?」
久遠の終楽章を取り出す。そして同じく久遠の終楽章を出現させるファントム。
──次元スキル:時間停止:全域。
三周目ステータスフレースヴェルグと隠しボスであるファントムによる、最大範囲の時間停止。
「……あちゃあ、やっぱ熾天使クラスだと意識までは停められないね。どうする?」
「いや、肉体が止まってるだけで十分だ。サンキュな、ファントム。もう帰っていいぞ」
「いやいやボク都合のいい存在過ぎでしょ。何にもしないから、その外法見させてよ。ボクも興味あったんだよね」
「……まぁ俺が呼んだんだから、それくらいは許すが。次元スキル:時間停止限定解除」
アウラニだけを時間停止から外す。
アウラニもまた意識があったらしい。俺の背後に佇むファントムを見て、けれど顔を逸らす。
「あれは気にするな。やるぞ」
「はい。……お願い、します」
インベから取り出すは、どす黒い色をしたポーション。ハルフィーさんの作っているようなものとはまず形状からして違うソレは、当然中身も特別だ。
特別に、悍ましい。
「わぁ、それ何種類?」
「一千万」
「……外法は外法として、よくそんなの作ろうと思ったね。感服するよ」
俺が作ったわけじゃないけど、まぁ俺も同じ気持ちだ。
この黒は、一千万種類の魔物・人間・異種族の血を混ぜ合わせたもの。アイテムの説明欄見た時とイベントの時は「ほーん」くらいに思ってたけど、よくよく考えなくてもエグ過ぎだろ。どんだけ時間かけてんだよ。
まぁなんか邪神崇拝系のイベントって全部「何千年の、何万年の妄執」みたいな話が多いから、本気でめちゃくちゃな時間かけてんだろうけど。
「飲め。えずくようなら眷属の行動操作で飲ませる」
「いえ……いえ、そう、ですね。お願い、します」
「呪詛スキル:眷属:行動操作:アイテム使用」
アウラニは、今しがた彼女の手に渡したその黒のポーションを呷る。
起きるべくして起きるはずの嘔吐反射は起きない。ただ目の端から涙を零しながら、その黒の全てを呷り切る。
──瞬間、彼女の腹部から何か、黒い手のようなものが出てくる。
それは赤子の手のようでもあり、這うように、縋るように、黒はアウラニの肌を伝いて下腹部……子宮の方へ移動する。
「う、ぅ、うううっ!」
「呪詛スキル:眷属:行動操作:直立」
「あぁ……な、ニ、かが……お腹を、下って……熱を、あぁ!」
「うーわ……」
黒い手はアウラニの子宮を捉えたあたりで止まり、またその体内へ沈んで行く。
体内でどういう現象が起きているのかは知らない。ただあの黒のポーションは、あり得ない程に詰め込まれた怨讐に従い、移動した。
再度生まれ出でるための場所へ。
「突っ込むぞ」
「は、い……どう、ぞ」
直立姿勢のアウラニを掴み、ひっくり返し、その膣に聖水を注ぐ。
「──ぇ、ぶ」
「仙人スキル:無の境地」
瞬間だろう。直後とかじゃない、その瞬間だ。
アウラニの腹が異様なまでに膨れる。あるいはまるで、妊婦のように。
いいや、いいや。
それでは飽き足らないとばかりに彼女の腹は──胎は膨れ続け、ボテ腹、なんてジャンルに収まらないレベルの膨張を見せる。
当然だけど彼女の身体は、皮膚はゴム質とかではない。
だからピシ、ピシリとその腹が破れ始め、大量の血液を撒き散らしていく。
「ぁ、あが、あがが、あぐ、ぐ」
「
「がぁ、あああ、あああああ! あああああああ!!」
そうして当然の帰結を迎える。
破れたのだ。破裂した。
アウラニの腹はバチンと弾け──。
「呪詛スキル:眷属。呪詛スキル:眷属:行動操作:その場から数歩離れろ、
「はい……」
アウラニが、生まれた。
赤子ではない。聖気に溢れた、どこまでも静謐で、けれど血まみれの、そのままのアウラニがこの世に生まれ出でる。
ただ今はそっちを気にしている暇はない。アウラニを、自らを生み爆ぜたアウラニの上から退かし、今にも死にそうなアウラニに完全再生をかける。
テープを巻き戻すかのような光景と共に再生していくアウラニ。その身に聖気は一切なく、ただ眷属の呪いである直立を保ったままに再生を終える。
終えた。
パチ、パチ、という拍手。発生源は勿論ファントムだ。……お前実体ないのにどうやって拍手してんの?
「いやぁ! すごい! 凄いね、その外法は! 魂を二分し、魂を育て、そして片方の魂を片方に産ませる……実に、実に、実に非道だ! あまりに人道に反している! これは流石のボクでも
「まぁ俺も同じ感想だから特になんも言わないけど、一旦帰ってくれるか。今からシリアスシーンやるからさ」
「ん、いいよ。従ってあげる。さぁ、感動のお別れをするといい。ボクは特別観覧席で眺めさせてもらうから」
言いながら消えるファントム。まぁ呼べばまたすぐ出てくるんだろうけど、とりあえずいなくなったのは事実だ。
だから、
「呪詛スキル:眷属:行動操作:通常。どうだ、気分は」
「──ッ、は……っは、はぁっ!」
「……不思議な、気持ちです。あるいは……不快な」
だろうな。じゃなかったら正気を疑う。
俺の前にいる二人。
どちらもが同じ顔、同じ声の──同一人物。
ただし片方には天使の翼と圧倒的な聖気があり、もう片方には何もない。
「天使のアウラニ。お前の眷属の呪いは解除する。仮に何かしらのアクシデントでホームポイント帰還を選んだ場合、お前もシーファも一緒に転移してその場でシーファが蒸発、なんて事故が起きかねないからな」
「はい。……今まで、ありがとう、ございました」
「あとできたらこっから天使たちへの説明だの説得だのを頼む。俺と人間のアウラニは転移してこの場からいなくなるから……あとに残されるのはお前だけだ」
「はい。予定通り、です、ね」
「ああ。だから、そうだな。あとはお前達で話し合いでもしていろ。時間停止の解除はもう少し待ってやる」
完全再生をしても痛みや精神的疲弊は消えない。それは天使のアウラニも同じだけど、生まれたその瞬間に痛みから解放されていた天使のアウラニと、彼女が退くまで胎が破れたままだった人間のアウラニとでは、色々違うはずだ。
何より、その感じ方も。
……ま、こればっかりはサービス残業だろう。仙人スキル:瞑想でMPを回復しつつ、無の境地の効果時間を見ながら……二人を眺める。
シーファとの別れは済ませたはずだ。だが自分との別れは──。
「アウラニ」
「はい。……アウラニ」
「ええ、そうです」
二人は、互いに互いを見る。
明らかに変わった己。変わりがない己。
ほぼ同時に二人は右手を伸ばし、相手の頬に触れた。
「ごめんなさい」
「ありがとう」
「……何故、礼なのですか?
「そちらこそ、何故、謝るんですか?
ここで齟齬が発生するとは思っていなかったのだろう。
アウラニは互いに困惑し、そして互いに同じ答えに思い至る。
「ああ」
「身を引いて」
「くれたこと」
「を謝ったの、ですね」
「に礼をしたの、ですね」
身を引く。
天使としての己を解き放ちたいという願望。これからもシーファと共に在りたいという願望。
どちらもがどちらもから身を引き、それを押し付けてしまったことを謝り、譲ってくれたことに礼を言った。
だってどちらも、どちらもの道を偲べば、つらくなるから。
「……別れの言葉は、十分でしょう」
「はい。だって、考えることは、同じです」
「ヴェルグさんの、言葉は、希望です。……それはあるいは、残酷な、呪いかも、しれません」
「でも、できないと、諦める、理由には、なりません」
だから。
だから。
「後は頼みます、アウラニ」
「後は任せます、アウラニ」
それだけを言って、片方は天へ、もう片方はヴェルグの元へ帰っていく。
「もういいのか? まだ時間はあるぞ」
「構いません。何か言いたいことを、思い出しても、あちらの私も、思い出すでしょう。どちらもが、私であると、信じられるから、私は、もう大丈夫、です」
「そうか。──じゃあ、行くぞ」
「はい」
転移の光があふれ始める。
空。天。時間の動いている範囲のギリギリにいる、新たなる天使は──普段は出さない声を出して言う。
「祝福! します! ──貴方がどんな、人間で、どんな、性格でも──私はあなたの旅路を、認めます!」
「ああ。じゃあな、アウラニ。再会の日が来ることを、俺も願っている。──時間停止解除。転移」
時間が進む。
スキルだけじゃない。本当の意味で時間が進むのだ。
彼女ら二人の時間が、ようやく進み始める。
「……さて」
天使は周囲を見渡す。
消え去った二人とは裏腹に、視界を埋め尽くす量の同族たち。
まずは説明と説得から。そして、それでも話を聞かないようなら。
「私も、然程、頭は良く、ありませんからね」
仕方が無かったら仕方がない。
そういう悪い部分だけ学んで、忘れないようにする。あの傍若無人で色々最低な人を忘れないようにするために。
「──おお、おお! 我が愛娘! 会いたかった……会いたかったぞ! やはり人間ではなく天使を選んだか! 当然の選択だな! して、先ほどの下郎はどこへ転移した! 決して逃がしてはならぬぞ! 我が愛娘の肉体をこれでもかと弄んだ下郎を──」
「まぁ一旦気絶しておけ、ガブリエル」
「あら」
早速実力行使の時間か、と思っていたら、ガブリエルの後頭部をウリエルが殴った。気絶とか当身とかの域ではない、なんなら殺してしまいかねないレベルの威力に見えたけれど、気のせいだろうと天使は首を振る。
「天使アウラニ。私達はお前を歓迎する。そして私達はあの男を追わないことも約束する」
「それは、なぜ、ですか? こう言っては、なんですが、私達天使を、滅ぼしかねない、方ですよ」
「今追えばお前が敵になり、あの男も敵になる。だが、私達が敵対する要素がどこにある。周囲の天使はお前に呼ばれ、ここに来た。その天使は口々にこう言った。"ガブリエルの子が見つかった"と。だからガブリエルのも私もここに来た」
であるのならば、と。
どこまでも冷静に、ウリエルは言う。
「ガブリエルの子、アウラニ。お前がこうして無傷で目の前にいる。私達の元に戻って来た。それ以上の結果は存在しない。人間を真に下等生物だと愚弄するのならば、その下等生物の粗相など気にも留めないのが高位種族だろう」
「あなたは、人間を、下等生物だと、愚弄しないのですか?」
「低位種族ではあるのだろうが、だからといって愚弄できるかどうかは別の話だ。少なくともあの男には勝てないし、途中で現れたあの影のようなナニカにも勝てん」
「ああ……意識は、あったのでしたね、そういえば」
「だからというわけではないが、お前の出現の経緯にも、あの男の使った外法、そしてあの男と共に消えた""人間""についても言及するつもりはない。文字通り目を瞑る。──だからアウラニ。お前もそんな殺気を私達に叩きつけるな。再度言うが、争う理由はないのだから」
言われてようやく天使は気付いたらしかった。
それはもう、普段の彼女から考えればあり得ない程に荒々しい殺気を振りまいていたことに。
「ああ、それでいい。しかし、流石はガブリエルの子だ。見ろ、他の天使が委縮している。お前ならば新たな熾天使の座に名を連ねることも夢ではないかもしれんな」
「……それは、いいかも、しれません。いっそのこと、私が、一番になれば、私の目的も、果たしやすく、なりそうです」
「そうか。それはそれで愉快な世界になりそうだ。……帰るぞ、お前達。気絶したガブリエルも持って来い」
「は……ハッ!」
ありがたいと素直に思う天使。
威勢のいい言葉を吐きはしたけれど、まだ成りたてでしかない彼女が天の軍勢その全てに勝ち得るかどうかと言えば、そこそこに無謀な話だ。
成長が必要だと、彼女は思う。
大丈夫だ。
これからは、これ以上強くなっても、友達を消すことはない。
それにいつかは、どれほどの強さを手に入れていても──大丈夫になる。大丈夫にするのだから。
「さようなら。またいつか、会いましょう。──シーファさん。皆さん」
天使は翼を使い、高く、高くへ飛んでいく。
その飛翔に躊躇の類は一切なかった。彼女は、空へ──。
天へ。