※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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動き出す怨讐(G度薄め)

 ヤイクニ。

 爺さんに頼れと言われた役人だけど……敵側なのか?

 いや、役人仕事を果たしているだけか。俺がツバナ側だなんて知らないだろうし。

 

「行くぞ!」

 

 その手に持つのは十字槍。なんでだよ。さす股とかにしておけよ。薙刀とか、似た武器いっぱいあっただろ。

 

 が、乗ってる闘気は本物だ。それに何か魔力反応がある。あれなんかの魔剣だな。

 流石に目は開けているけれど、マスカルウィンの奴、思ったより俺を理解している。この笠、そこまでエグい部位が視界に入らない。分かるのは肌色であるということだけで、どこの部位がどう使われているとかはわからないようになっている。

 これなら戦える。

 たとえヤイクニ含む役人の装備が美少女の皮を使っていても、まぁ、いけなくはない。

 

「雨穿!」

「剣士スキル:穣」

「っとぉ、居合か! ならば、捲重!」

 

 マジか。居合返しなんか使ってくるNPCいるのか。

 居合スキルは無敵じゃない。こういう居合返しには負ける。ただし、居合状態にない相手に使っても居合返しは意味がない。だから居合使いが周囲にいるとかでもない限り、覚える必要のないスキルだ。

 ……いや、NPCだからこそ、か。

 いるのかな、居合の達人みたいなやつが。鬼の国に。

 

「む!? 妖術か──刃が通らん!」

「読み合いで勝ろうと基礎防御力を抜けんようでは意味がない。負け惜しみだ、受け取れ」

 

 スキルを使わない、ただ剣を振り下ろすだけの──剣を刃物としてすら扱っていない打撃。

 それをヤイクニは十字槍の柄で受け。

 

「ぬ、お……!?」

 

 受けきれずに、ぶっ飛んだ。

 ……折れてないか。あの槍かなり耐久性あるな。

 

「アサシンスキル:催眠:範囲」

 

 周囲にはいつくばっている役人を眠らせて、ヤイクニの追撃に向かう。

 追撃っつーか。

 

 事情を説明したら納得してくれることを願って、というか。

 

 

 

 

 瓦礫の山を押しのけて、ヤイクニが出てくる。

 それなりの流血。頭でも打ったか。

 

「──凶手。アセビ様をどこへやったのかだけを教えてくれ」

「何故だ。俺を倒して聞き出せばいいだろう」

「無理だ。今の俺の実力では、凶手、お前に遥か遠く及ばない。だが──あの方をどうしたのかだけを知りたい。それを黄泉の国への土産にする」

「殺したよ。塵も残さずに」

「……!」

 

 驚いた、という顔で。

 そうして──ヤイクニは、言葉を紡ぐ。

 

「ならば……俺にかかった呪いは解けたか」

「ああ、そういうことか。屈服の呪いでもかけられていたか?」

「……ツバナ。ツバナ様。ツバナ様。……おお、声に、口に出せる。なんと……なんと、礼を言えばいいのやら。さぁ、殺せ、凶手。俺は満足だ」

 

 おいおい、それ命乞いでやってる演技ならクリティカルだけど?

 

 まぁ、俺は疑わしきは見逃せってのをやっててね。基本的には疑わないようにしてんだ。

 だから。

 

「神官スキル:遮断。アサシンスキル:霧隠れ。ヤイクニ。トオクスの爺さんからの伝言がある。知り合いであってくれると助かるんだが」

「十薬の爺が動いているのか!? あ、いや、すまない。大声を出すべきではなかった」

「構わん。声が外に漏れんように結界を張っている。これが爺さんからもらった書筒だ。内容を確認してくれ」

 

 ちなみに中身は読んでない。

 まぁ事前に用意してたっぽい書筒だから、何が書いてあるかはわからん。俺達のことを書いてあったらあの爺さんが手品師になる。けど、ヤイクニの反応を見るにそういうことじゃないっぽいのもわかる。

 

「時は来た……のか。……凶手。いや、誰ぞか存じ上げぬ御方よ。……まさか、ツバナ様は……生きておられるのか?」

「ああ。海を越えた先の大陸にいる。あいつについていた従者は助けられなかったが、北の……ああ、南東の孤島の一族の一人がアイツを拾って命を繋いだよ。契約の一族だ、お前達の方が詳しいだろう?」

「なんと……ああ、ああ! 妖狐の者達とは国交を絶って長いが、全てに片が付いた時には礼をせねばならないな! ──ああ! ああ!! ツバナ様は……生きておられるのか! ツバナ様は、健やかであられるのか!!」

「残念な報せにはなるが、アイツは戻る気無いって」

「それでよい! むしろ構わん! もう鬼の国の政になど関わるべきではない! 俺達はあの方を幼き頃から見てきたが……時を愛でるあの方は、もっと広い世界にいた方が良いのだ! こんな閉じた世界にいるべきではない!」

 

 おうおう、これだよこれ。

 俺がこの世界好きな理由。

 

 気持ちいい善人ばっかなんだよ。そう作られてるっつったらそれまでなんだけどさ。俺がブレッブレの芯もってる人間だから、眩しく映る。

 いいね、エイルニルス公国で感じたものと同じ気持ちを抱いている。

 

 こいつらのためなら、多少の血肉は支払えるよ、俺は。

 

 ここが俺とカローライナとの違いだろうな。

 損得勘定に加えて、俺の好悪が入るんだ。俺の計算にはさ。

 

「改めて自己紹介をしよう。俺はヴェルグ。海の向こうの大陸にいる薬師の元で働く従業員だ。此度シチサイヌの農家を求めてこの鬼の国へ辿り着き、粗方の事情を知った。トオクスの爺さんはこちらの大事な取引先となった。故に彼らの安全を脅かす者を排除する必要が出て来た」

「成程、それでアセビめを殺したか。良い判断だ。あの呪い師さえ殺してしまえば、敵の戦力は二割を削げる」

 

 ヤイクニは爺さんからの書筒を懐へ丁寧にしまい、居住まいを正す。

 そのまま──土下座をした。

 

「俺はヤイクニ。元はスギナ様に仕えていた一族の者だ。だが、スギナ様の死後、ツバナ様を守り切ることができず、況してやツバナ様を追いやった者達の手駒となって働かされていた。──ベルグ殿よ、どうか頼む。この首一つを貰ってくれても構わない。だから、どうか──」

「お前の首なんぞ要らん。良いから誰を殺せばいいか言え。俺の強さは伝わっただろう? やろうと思えば一夜で鬼の国なんざ滅ぼせる。その力で国の一派閥を潰すくらいわけのないことだ。だが無関係なものを巻き込む理由がない。──お前に聞けば、敵が浮き彫りになると聞いた。教えろヤイクニ。それですべてが解決する」

 

 もうすぐ一日が経とうとしている。

 日帰り旅行のつもりが泊りがけになりそうで辟易してんだこっちは。あとアレ、別に食わずとも生きてはいけるんだけど、やっぱり食事はしたいよ。そう考えると奴隷の中じゃメアリーはマストかもしれん。

 

「恩に着る。俺の家の隠し戸に、あらゆる勢力図を綴った地図がある。それを取りに行こう」

「こそこそ行くか、堂々と行くか」

「堂々とで良かろうよ。意に沿わぬ動きさえさせられなければ、もう少しまともに戦えるぞ、俺は」

「そりゃあ良い。結界と霧隠れを解く。周囲に四つ敵影があるからそれをどうにかする。お前はこちらを気にせずに自分の家へ走れ。あるいは呪いが解けたことを察されて、お前の家が破壊されているやもしれん」

「承知した」

 

 合図と共に──遮断と霧隠れを解く。

 魔法スキル:雷霆。戦士スキル:神速。

 パチッと弾ける音と共に、四人をそのまま切る。声も出させずに斬る。

 

「おおお! 我が名はヤイクニ! 皆の者、皆の者! 起きろ! アセビは死んだ! 倒れた! 呪いは解けたぞ──今こそリュウゼツがツバナ様の無念を晴らす時!! 起きろ、起きろ、地下茎の草莽よ!!」

 

 大きな声だった。勝鬨を上げるその声は、周囲一帯に広く響き渡り──そして、返しが来る。

 おお、と。

 おおお、と。

 

 オオオオオオオオオと。

 それは大歓声、いいや、鬨の声だ。まだ戦いは終わっていないのに、来たぞ、来たぞ、来たぞと言わんばかりの大音量が華の都を駆け巡る。

 

 同時、ある方向へ駆けだしたヤイクニ。並走し、声をかける。

 

「堂々が過ぎないか?」

「なぁに、皆呪いにより意思を抑えつけられ働かされていたもののふ共よ。確かに敵の手は広くを覆っているが、我ら草莽も決して小さくはない。静かに地を這い、根を巡らせ、雌伏の時を耐えていた。十薬の爺が太鼓を叩いたのなら、俺達は篝火を高く掲げて前へと進むのみだ」

「獰猛な横顔だな。別人のようだ」

「それはもう!」

 

 駆ける。駆ける。

 こいつ、相当速いな。スキル使ってない状態でこれだけ速いとなると、神速とか覚えたら化けそう。

 

「ヤイクニ。後ろに十数人の集団が来ている。敵意は感じられないが、何だと思う?」

「敵だ。だが恐らく呪いで意識を刈られているのだろう。一思いに殺してやるか、呪いを解いてやるのが手向けとなろうが──」

「アセビ以外にも呪い師がいるのか?」

「数多くいるが、アセビが頂点だ。その下にいる弟子共は、二人、あるいは三人でアセビの呪術と同じことを可能とする程度の技量でしかない」

 

 複数人で屈服の呪いをかける、ってのはよくわからんな。誰が主人になるんだそれ。

 

「必要な戦力か?」

「否だ。だが、出来得るのならば殺さないで欲しい。情報が取れるかもしれない」

「いいだろう」

 

 オッケー。

 殺しても生き返らせればいいってことね。

 

 得意得意。

 

「さぁ、祭りと行こうか!」

 

 ……俺もそのテンション感で生きられたら楽しいんだろうなぁ。

 

 

 

 

 時を同じくして。

 

「鬼の男。あまり無理はするな。というより必要はないぞ、加勢など。あの人間一人で十分だ」

「イッヒッヒ、これは面子の問題だねぇ。時が来たことを伝えたんだ、儂らが動かんのはダメだろう。まんら若者にばっかり任せていては、鈍ってしまうしねぇ」

 

 トオクスの住まう農村。

 そこでは、村民たちが各々に農具を取り出して、トオクスの元へ集まってきていた。

 

十薬(トオクス)の爺、ついに来たんだな」

「おうおう、言いやがるね馬芹(バゼリ)。とうとうボケたか、同い年だろう儂らは」

「くだらないこと言ってないでとっとと行くよアンタ達!」

「おー怖。ゴゼナのババアのせっかちは死んでも治らんだろうねぇ、ありゃ」

「ハン、ババアってのは誰であってもせっかちなんだよ。まんら怠け者の男どもとは違うのさ!」

「……面子の問題で死なれたら困るのだがな。あの人間の取引先である自覚はしてくれ」

「イッヒッヒ、別嬪さん、ルインさん。大丈夫、なんたってこいつらは──」

 

 杖を。農具を。

 それぞれに掲げて──ああ、見る者が見れば目を見張るだろう闘気を発する老人たち。

 マスカルウィンもようやく気付く。隠し方を知らないヴェルグと違い、この老人たちは身の隠し方を知っていたのだと。

 

 今──それが爆発する。

 轟と。

 いいや、村一つでヴェルグの百分の一にも満たないが、それでも凄まじい精霊力だ。

 

「良い。それは興の乗る答えだ。巫女スキル:追い風祈祷」

 

 しゃらん、と何かの音が鳴る。

 マスカルウィンの発動したそのスキルは、一時的にではあるが──老人たちに活力を分け与える。

 

 無限に等しい時を生きるマスカルウィンの活力を、だ。

 

「行くよぉ! ヤイクニが内側からやってくれてるからね、儂らは外からやるぞ!」

「オオオオ!」

 

 大声を上げて駆けて行く老人たち。

 クツクツと笑っていたマスカルウィンは、けれど顔を上げ。

 

「ああ、守護を任されたのだったか。ふふふ、仕方がない。守るためならば多少の命令違反も許されようなぁ?」

 

 なんて言って、彼らの後を追うのだった。

 

 

 

 

 ヤイクニから貰った勢力図……は、彼らに任せることにしたので返した。

 いやなんか十分な人数いそうだし。

 

 それより、ヤイクニをしても手に負えないらしい剣客の方を対処する方に進路変更。鬼の国の城にいるらしいリュウゼツ家のツバナ派じゃない方とその剣客、及びアセビの弟子を全員やれば終わりだそうで。

 結局国盗りになったけど、まぁ頭を潰せば帝国と鬼の国との戦争は起きないからね。冴えたやり方だろう。

 

 さて、馬鹿と煙は高い所が好き理論で天守閣に来てみたけど……いねーな。この建物しかもダンジョン扱いか。ミニマップがお亡くなりになられた。

 

「神速」

「剣士スキル:穣」

 

 背後からの刺突。対して行う居合スキルは成功した……けど、ダメージが入っていない。

 避けられたな。

 

「お前が例の剣客か」

「……なんだと?」

「何に驚いているか知らないが──」

「その声は、フレースヴェルグか?」

 

 ……。

 問答無用でたたっきるモード停止。

 

「誰だ」

「イサカリだ。覚えていないか?」

「……覚えている」

 

 イサカリ。仲間にできるNPCの一人だ。でも鬼の国のNPCじゃなかったはずだけど。

 剣士スキルを使うNPCで、完全なアタッカー。魔法含む他のスキルは一切使えないけど、刀によるダメージが150%アップとかいうトンデモパッシブスキルを持ってる火力お化けの一人。

 物理が効く相手ならコイツ前に出してプレイヤーはヒールに努めてれば大体何とかしてくれるってくらい戦闘能力に長けたNPCだ。

 

「一年前……あの時お前の戦いについて行かなかったことを後悔しなかった日はない。フレースヴェルグ。お前が何を思って今この場にいるのかは知らないが」

「戦士スキル:ガイアスラッシュ」

「!」

 

 うっせぇやい。

 そういう悔恨は一人目のフレースヴェルグ君に言え。俺が聞いても「ああそうなん?」くらいしか返せねえから。

 

 ……おい、ガイアスラッシュ防ぎやがった。今スキル使ってなかったぞ。

 技量だけで防げるモンなのかアレ。エグ。

 

「フレースヴェルグ! 何故だ! どうしてしまったんだ!」

「そっちこそこんなところで何やってやがる。鬼の国の騒動に加担してまで何を欲した」

「……それは」

「アサシンスキル:貫き手」

「っ、不意打ちとは、らしくないな、フレースヴェルグ!」

 

 知るか。むしろ不意打ちがメインウェポンだわこっちは。

 不意打ちと初見殺しの三周目ステータスゴリ押しマンを舐めるなよ。

 あと貫通力あるスキル選んだのに受け流すのやめろ。……あ、これアレか?

 マスカルウィンと同じで、千日手の可能性あるぞ。俺に攻撃は通らないけど俺の攻撃も当たらない奴。

 

 いや。いやいや。

 あんな化け物じゃあないはずだ、イサカリは。スタミナもそんなになかったはず。

 

「狂戦士スキル:独擅場。魔剣士スキル:物理上昇オーラ。戦士スキル:月割」

「極!」

「ああお前か居合使う剣士」

 

 刀が顔に迫る――けど、一切気にせずに剣を振り下ろす。

 そのきっさきは俺の眼球を撫でる。けれど、斬れない。いやこえーわ。狙って目ぇ切っただろ今。基礎防御力が負けてたら眼球切れてたわ。

 

「っ!? フレースヴェルグ、お前……なんだその身体は!」

「おい避けるな。大人しく斬られろ」

 

 おかしいだろ。

 イサカリの居合の剣がこっちに届いて、俺が一切躊躇せずに放った上段切りが当たらないって何事?

 どういう状況ならそれが成立するワケ?

 

 ……そうだ。

 おかしすぎるな、流石に。

 

「どっかにバッファーがいるか。魔法スキル:スーパーノヴァ」

「なっ──にやってやがる、フレースヴェルグ!!」

 

 何って、あぶり出しだけど。

 目の前の敵じゃなくてバッファーがギミックになってんなら、そっちを潰すのは定石だろ。

 

「この城には子供もいるんだぞ!」

「それは可哀想だな。逃がしてやればいいものを」

「……お前、変わったな。そんな無感情に人間を殺す奴じゃなかったぞ、お前は」

 

 それはそうかもしれない。

 魔物とか魔族よりも躊躇なく殺せるのは、確かにおかしいのかもしれない。これが三人目のフレースヴェルグが現れた理由かもしれない。

 

「イサカリ。お前の知るフレースヴェルグはもうどこにもいない。だから無駄な話はよせ。ノイズだ」

「……なら俺は、お前を殺す。お前はもう人類の敵だ」

「なんだ、寸止めする気で来ていたのか。道理で刀が軽いと思ったよ」

「抜かせ!」

 

 スキル名を言わないスキルの発動。

 が、残念。剣士スキルや戦士スキルは俺も良く使うからな。初動の動きでどういうスキルかはわかる。

 

 突き入れからの月輪斬り、一度刀を鞘に納めての抜刀、その後に格闘だろう?

 だから、格ゲーのミラーよろしく全く同じ動きで対処する。

 

「馬鹿にし」

「魔法スキル:スーパーノヴァ」

「──クゼリ様!」

 

 守ったな。

 今明確に守った。あの部屋……あの周辺に向けて放ったスーパーノヴァを剣で受けてまで。

 

 剣で受けるの自体意味不明なんだけど、まぁイサカリだし。

 

「クゼリ。それが子供の名か」

「……。……お前、フレースヴェルグじゃないな」

 

 へえ。

 

「何故そう思う?」

「今の魔法食らってわかった。感情が無さすぎる。フレースヴェルグはどうしようもないって時に感情を押し殺して非道を行うことはあったけど、お前は違う。完全に無だ。見下してすらいない。魔族連中の方がまだ感情豊かだ」

「魔法を食らって相手の感情を図るか。特異な技能だな」

「お前がフレースヴェルグじゃないなら、本気で殺せる。……世話になった恩は忘れないタチだが、恩人に成りすます悪党が相手なら──」

「魔法スキル:スーパーノヴァ」

 

 語りはいいよ。喋ってる暇あったら剣を振れ。

 そうしないと、クゼリだったか、ソイツが死ぬぞ。

 

「──剣士スキル:無我の境地」

「仙人スキル:無の境地」

「剣士スキル:明鏡止水」

「仙人スキル:程門立雪」

「剣士スキル:以水滅火」

「仙人スキル:隗始」

「剣士スキル:風虎!」

 

 互いに自己のバフスキル。

 一撃で決めるという覚悟の表れだろう。まぁ俺のスキルバフっていうか感知バフとか耐性系のバフだから、威力バフ一個もないんだけど。

 

「──」

 

 次の瞬間、俺の首元にイサカリの刀があった。

 全く目で追いきれない速度。避けるとかいう思考の外。

 

 あるいは雲燿とでも表現されるのだろうか、その速度は。

 

「魔法スキル:スーパーノヴァ」

「!?」

「馬鹿だな、イサカリ。相変わらずの直情馬鹿だ。そんなに大事なら守りに走れば良かった。お前ほどの速力ならば逃げ切れただろうに。俺に向かって来たのが馬鹿だよ」

 

 刀は首で止まる。

 眼球があんなに硬かったんだぞ。首がそう柔らかいワケがないだろう。

 

 何より。

 

「散々言ってきておいて、殺す気は欠片も無しか。この前遭った魔族のグリュフォンの方がよっぽど強かったよ」

「──クゼリ様!!」

 

 焦って叫んでも遅い。

 スーパーノヴァは今度こそ正確にその部屋へと着弾し──。

 

 

 かき、消された。

 

 

 ……。

 おいおい、レジストするなら仲間面してくるなよ。

 

「じゃあもう敵ってことでいいか、ルウィン」

「馬鹿はお前だ、人間。呪い師と子供の区別もつかないか」

「一纏めに敵だろう」

「そうか」

 

 弾かれた感覚がある。

 本気でレジストしたな。完全にレジストした。従属の呪いを振り払った。

 

 ……あー、つくづく運がない。性奴隷二人目だぞ無くすの。まだほとんどヤってねーのに。

 裏拳気味にイサカリの腹にパンチを入れて、黙らせておく。すまんがイサカリよりマスカルウィンの方が集中するべき敵だ。

 

「爺さんたちの守護も忘れ、敵の子供を守る。……裏切りについては俺はどうでもいいとしている。だから確認する。敵対の意思はあるのか、ルウィン」

「お前が子供を執拗に狙い続けるのならば、それも一興だ」

「次元スキル:時間停止」

 

 停める。

 全く、年老いると目が悪くなるのは避けられないのかね。

 

「何が子供だ。──どう感じ取ってもコイツがバッファーだろうがよ」

「それでも子供だ」

 

 投げられる。

 投げられる? ──時間は停止したはずなんだけどな。

 

「次元スキルは覚えられないんじゃなかったのか?」

「ふん、人間。お前が止めたのはコレのことだろう。ならばそれ以外が動けばいい。簡単な話だ」

 

 コレ。

 そこには確かに、時間が止まって動けずにいるマスカルウィンの姿が。

 ミラードール……じゃないな。とにかく類似の分身スキルで時間停止から脱したって? 早業とかそういう次元じゃないんだけど。

 

 ……周囲一帯を、は流石にヤバそうだな。この近距離での時間停止三連続は負荷が大きすぎる。

 

「ヤイクニやトオクスの爺さんたちだって、敵の子供は殺すと思うぞ。それは止めなくていいのか?」

「何故そう思う?」

「年齢がどうであれ、精神的に子供と言わざるを得なかったツバナの手足を斬り落とすような奴らが敵だからだ。ヤイクニ達の恨みがどれほどかなんて言わなくてもわかるだろうに」

「……あの鬼の女は、初めから五体満足であそこにいたわけではないのか」

「ああ。右腕左足左目。俺が買った時にはそれが無かったし、ノズヴェルガーが見つけた時には全身が切り刻まれていたそうだ。側仕えの数人も皆殺し。それをしたのが今の鬼の国を支配している一族だよ。加えてヤイクニや他の役人たちを屈服の呪いで無理矢理従わせ、労働力にもしていた。──さてルウィン。マスカルウィン。どうだ、恨みつらみは専門外か?」

 

 善人だからなんだ。理性があるからなんだ。

 だから敵の子供は生かす、なんて──そんなアッパラパーな集団であるものか。むしろ逆だろう。恨みはいつまで経っても忘れない国民性であると知っているからこそ、そんな子供を生かせばいつかツバナを殺しに行くやもしれん。

 そういう考えに行きつくのは当然。

 

 子供だからまだ無限の可能性がある、なんてのは大人の幻想だ。

 子供の頃に植え付けられたトラウマや理想がその後の人生にどれほどの影響を齎すか。それを忘れた大人の妄言だ。

 

 復讐を誓ったやつは、復讐鬼にしかならないよ。

 

「邪魔をするなよ。永い年月を生きているくせに、どうしてそう人間に希望を抱いているんだ。善人は絶対に戦争を起こさない、なんて話を信じて生きて来たのか。善人だから闘争を起こすんだぞ、マスカルウィン。今だってそうだ。ヤイクニやトオクスの爺さんは善人だ。ツバナの為を思って抵抗し続けた者達だ。だが、そのツバナに戻る気がないというのに、こうしてクーデターを起こした。この戦いに何の意味がある。ヤイクニ達が勝った後に何が残る」

「お前が奴らの敵を滅ぼすと言ったから、ではないのか? 残るものは奴らの安全だ」

「そんな過激な事言う奴止めろよ、真に全体の善を考える善人なら。子を殺さず、流血を嫌う……そんな善人なら、もっと穏便な解決策があると俺を誘導するのが筋だろう」

 

 王国と帝国の戦争だって、互いの善のぶつかり合いだ。王国はなんとしてでも円形の国土を手に入れる必要がある。その下に眠るものを決して呼び覚まさないようにするために。

 帝国はそんな情報知らされてないから抵抗し続ける。何の理由もなく国土を奪われるなど堪ったものではないから。そして、理由を知った所で退きはしないだろう。王国が存続しなければいけない理由もない。帝国に併合吸収されたって同じ役目は果たせるのだから。

 

 そこに善悪はないだろうに。

 

「正義の反対は別の正義、って言葉はあんまり好きじゃないんだけどな。少なくとも善が守ろうとしているものは全体の善じゃなくて片方の善であるってのは事実なんだろう。それじゃあ第三者が何を以て善悪を判断するのか。そんなの簡単だ。自分が信じる方が善で、そうじゃない方が悪だよ」

 

 背後でイサカリが起き上がったのを確認する。

 ああ──マズいな。

 

 どうでもよくなってきた。シチサイヌに似た種の魔物を扱う農家ならどこでもいいんだよな。鬼の国である必要は別にないんだよな。

 じゃあ良くないか。鬼の国の事情とか知ったこっちゃねーんだって。

 

「フレースヴェルグ」

「起き上がったとこすまんが今お前に構ってられねーんだわ」

 

「俺に眷属の呪いをかけろ」

 

「あん?」

 

 小さな声。

 ……なんだ?

 

「呪詛スキル:眷属」

「っぷ、っはぁ──おいそこのアンタ!! 早くクゼリから離れろ、そいつは!」

 

 一瞬にして広がる。

 それは、超、超、超広範囲の。

 

「魔化フィールド!?」

「エンシェントデーモンだ!」

 

 斬られる。

 マスカルウィンが、頭蓋から股下までを割断される。巨大な槍斧で。いやそんなのは完全再生で直せばいい。問題は──あの魔素の量。アレは、確実に。

 

「イサカリ! 今お前の仮インベに聖水をありったけ入れた! マスカルウィンを頼む!」

「戦士スキル:神速!」

 

 何も聞かずに消えるイサカリ。

 ああ、それでいい。あとは俺がこいつをどれだけ早く倒せるかだ。あの非人間を人間と同じ手法で救えるかどうかはわからないが、心臓さえ無事ならなんとかなるはず。無理だったら諦めるが、怖いのはマスカルウィンが魔族化した場合だ。

 そうなったら流石に色々準備しないと勝てないだろう。

 

「聖騎士スキル:聖域。……嫌だねえ、エンシェントデーモンは。ダルい記憶しかねーや」

 

 あと、一人目のフレースヴェルグ君を倒したのもエンシェントデーモンらしいじゃん。

 同じ個体なら色々聞き出せそうだけど、果たして、かね。

 

 それに。

 この展開は余りにも"焼き増し"過ぎるから……本当に報酬が期待できそうだ。

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