アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
「ヴェルグ? について?」
「ああ。スイさんは仲が良いと聞いた。良ければ話を聞かせて欲しい」
「変態ゲス男」
「……ん、何か聞き間違えたか?」
「頼りになるのは事実だけど、その実頭の中はえっちなことしか考えてない変態で、その余りある実力でセクハラしてくるゲスな男」
聞き間違ってはいなかった。
彼女の首に自らの胴を巻くカルラが、やれやれ、とでも言いたげに溜息を吐いたことなど二人には見えない話。
二の句が継げずにいるカローラに、スイは矢継ぎ早に言葉を繋げる。
「私はつい最近までヴェルグにある種の憧れを抱いていた。圧倒的な強さ。父をも下すその強さには、当然人格も伴うのだと。事実帝国が災厄に見舞われた時は、自身のトラウマをおしてまで助力してくれた。父もそうだけど、強い人にはそれに見合った人格がついてくる。そう思っていた」
「あ、ああ。確かにそういう面は、あるかもしれない……例外もいるが」
カローラの脳裏に浮かぶは自身を陥れたあの男の顔。
彼も十分強い。けれどその人格は、決していいものとは言えない。
ただ、王国ギルドで出会ったイグニスという新興ギルドのメンバーなどは、強くて人格も伴っている、まさに理想的な四人だった。
「でも違った。ヴェルグの脳内にあったのは、どう女性を辱めるか、という最低な考えだけ。……思い出しただけでも……ふぅ。なんでもない。とにかくヴェルグは最低。恋心とか抱いているなら捨てた方が良い」
「いや抱いていないが……そんなに酷いのか?」
「仮にも未婚の、それに、私みたいな幼い見た目をしている女性に、あんなことをするのが……。中々出会えていないけれど、今度会ったら股についているモノをこの鎌で焼き斬り落としてやろうと思ってる」
「ほ……ほどほどにな」
「ただ当然私の攻撃力じゃヴェルグの防御力を抜くことはできない。多分だけど股についてるのも高い防御力を誇っているはず。どうにかしてデバフをかけて、こっちを強化して……隙をついて斬り落とさないと」
「よし、ありがとうギルド長! 私はもう行くことにする!」
「あ、うん。色々大変だと思うけど頑張って」
あれは冗談ではない目だった。
もし二人にカルラの声が聞こえていたら、「そんなことにあたしの炎を使って欲しくないんだけどねえ」とか聞こえたかもしれないけれど、聞こえないので割愛。
カローラは逃げ去るようにギルドを後にする──。
「ヴェルグさんについて? うーん、めちゃくちゃ有能な働き者で、正直なんで私のとこに来てくれたかわからない程凄い人、かな」
「働き者、なのか」
「そりゃもう! 自分の生活を大事にしてくれって言ってるのに時間いっぱいまで働いてくれるし、休暇申請も出さないし、運搬の仕事だけじゃなく店の仕事も手伝ってくれるし……それでいて給料はこれっぽっちしか要求しない。あんな働き者そうそういないよ」
カローラが次に訪れたのは、ハルフィーポーション。
ヴェルグの勤め先だ。
「あとは、そうだね。やっぱり魔物が苦手……というよりトラウマで殺したりなんだりができなくなってる、っていうのは……どうにか私のポーションで治してやりたい、って思ってるよ。普段世話になってるからね」
「トラウマ……魔物素材も直視できないほどの」
「そうそう。白銀章まで上り詰めたってのに、そのトラウマで今使い物にならないんだろう? ヴェルグさんは気にしてないとか言ってるけどさ、街を歩くときもぎゅっと目を瞑ってて、咄嗟の事で魔物素材を目の当たりにした時なんか、過呼吸手前ってくらいまで息を荒らげててさ。……私は医者じゃないんだけど、どうにか……どうにかしてやりたいよねぇ」
ヴェルグはトラウマを抱えている。
一年前にあった魔族侵攻の際、彼の仲間はその全員が惨殺された。惨たらしく、あまりにも凄惨に。
それでも尚彼は戦い続け、その末に魔族侵攻という戦争に終止符を打ち──失踪した。
最強の騎士団長フレースヴェルグ。
彼に刻まれたトラウマなど、想像に易い。
「そう、ですね……じゃない、そうだな……」
「まぁ湿っぽい話はこんくらいにして、そうだねぇ、他に言えることと言えば……ヴェルグさん、結構女の好みが狭いね、アレは」
「え」
「世間話で色々聞くんだけどね。やれ低身長だと子供にしか見えないだの、やれ細すぎると死にそうで怖いだの、結構よ。ほら、ヴェルグさんってたくさん奴隷連れてるだろ? でも刺さる奴隷は一人くらいしかいないんだと。じゃあなんのために奴隷を買ってるのかって聞いたら、"なんのためとかはあんまり考えてない。必要かな、と思ったら買ってる"ってさ。まずどんだけお金あるんだ、ってトコにもツッコミたいし、あんだけイイトコロの女囲っておいて私なら抱けるとか言い出すんだから、もう……ね」
「……私は、そういう話、一切振られなかったな」
「あちゃー。じゃあヴェルグさんの好みにあってないんだよ。あの人結構真っすぐだからね、好みの女に対しちゃガツガツ行くタイプさ。勿論冗談も言うけどね」
無論。
カローラとて、自身の火種具合はわかっている。仮にヴェルグが己に手を出していた場合、何が起きるのかも。
だからそこのストッパーが利いていることはわかる。
わかるのだが……というかそもそもフレースヴェルグが好色というのが……。
また一つ、カローラのフレースヴェルグ像が音を立てて崩れた。
「そんくらいかねぇ、私の知ってることは」
「ああ……参考になった。ありがとう」
「いやいや、これくらいなんでもないさ。……あ、だけど、ここで聞いたことを使ってヴェルグさんをどうにかしてやろう、とかって思ってんなら、私も容赦はしないよ」
「そんなつもりはないが、容赦しないとどうなるんだ?」
「ウチの秘蔵倉庫……ヴェルグさんにも見せたことの無い倉庫の中には、効果が出過ぎて封印せざるを得なかったポーションがたくさん眠ってんだ。その中の一つに、色情魔ポーションってのがある。これを飲むと、まず肌を露出したくて仕方なくなるし、子宮が疼いて仕方がなくなる。所かまわず自慰をしたくなって、他者を見つけたら人目も気にせず襲い掛かって性交に挑もうとする。男女関係なくね。その時の性欲は留まることを知らず、疲れ果てて気絶するまで腰を振り続ける……」
それは最早毒か劇物なのでは?
カローラは訝しんだ。
「ヴェルグさんには世話になってるからね。あの人のためにならないことをしようとしてんなら、それをどんな手段を使ってでもアンタに飲ませるよ」
「し、しない! 誓ってしない! むしろ私もお世話に……なっているというか、なるというか。だから絶対しない!」
「ああ、そんなに怯えないでよ。もしそうだったら、って話だから。……それに、本当の悪党にはこんな程度の低いポーションじゃ終わらせないしね」
薄く、低いトーンで呟かれた言葉に、カローラは身の毛のよだつ感覚を覚えた。
ハルフィーは紛う方なき一般人だ。戦闘なんかできない。
けれど──怒らせると、マズい。
それだけはわかる。
「そ──そろそろ、他の所へ行く時間だ。ありがとう、参考になった」
「ああ、また来てね。普通のポーションや便利なポーションもいっぱい置いてるからさ」
「わかった」
実際、きょろきょろと商品棚を見渡しただけでも気になるものがいくつかあった。
時間がある時に見に来てみようとカローラは──ちょっとだけ早足で、その場を離れるのであった。
「で、余の所にくる剛毅さは流石と言わざるを得んが、わかっているのか、己の立場」
「はい……申し訳ございません」
「いやそこでしんなりしろと言っておるわけではない。……まったく。で、なんだ。ヴェルグの印象だったか?」
「はい……その、シアルル王国で見聞きしたヴェルグさんの印象と、彼の印象が……あまりにも違うので」
「まずシアルル王国にいたヴェルグなる人物と今帝国にいるヴェルグを結びつける発言を余の前でする、ということの危うさに気付けバカ娘。あ、王国帰った時に余に罵倒されたとか言うんじゃないぞ」
「あ……もう知っているものだとばかり」
「……いや知ってはいる。無論余とて情報には通じている。だが黙認しているというか、聞かなかったことにしているというか……はぁ、もう良いがな」
ラムナザール四世。
カローラが訪ねたのは彼だった。一度は殺す直前までしてきた相手だけど、それでも信用に足る人物だ。
「一言で表すのなら超越。当面の余の目標よ」
「やはり、最強の名に違いはない、と」
「無い。断言できる。ヴェルグより強い者などおらんだろう」
「……では、人柄は?」
「無謀。そして人の話をあまり聞かないし、人目を気にしなさすぎる。……そう在っても問題なく生きていけるからなのだろうが、なんというかアレは……一度切り替わると、一切合切を無視する修羅になる……という印象を受けるな」
「切り替わる、ですか」
「ああ。普段お前達と接しているヴェルグと、怒りを発露したヴェルグ殿では、性質がかなり違う。普段は"自身が耐えればいい"というスタンスにあるヴェルグは、目的の遂行以外を視界から外した時……その性質を反転させる。"自身という災厄を周囲が耐えればいい"とな。以前あった彼の仲間が巻き込まれた事件で、余はその一端を目の当たりにした」
それは、少しだけ聞いた話だ。
ヴェルグの今の仲間であるケルとの間に起きた事件。
「自身に向けられた殺気ではなかったが、その余波だけで……足が竦む、という経験を初めてした。そして、人が雷になる姿を見た。天から降る意思のある怒槌。あそこまで正確な感情の発露をするヴェルグは……それに、怒った理由は、仲間のためというよりは……魔物の」
「……その、シアルル王国にいたフレースヴェルグ団長は、民草に慈愛の目を向け、平和を慈しむような、そんな方でした。実際に戦っているところを見たことはありませんが、騎士に聞く限りでは嵐のような戦い方をする人だったと。それと比べて……その、今のヴェルグさんは」
「全く違う、と言いたいのだろう? ……はぁ。そうだな。別人であるとしか思えない……トラウマは実際に持っているのだろうが、それとは全く関係なしに、名前と顔と声が似ているだけの別人と捉えた方がしっくりくる」
「……はい」
別人。
だが、そんなことがあり得るのか。名前と顔と声と戦闘能力が似ているだけの別人など、本当に存在するのか。
「……娘。今から言う話は聞かなかったことにしろ」
「え……と、それは」
「いいか? 余も戦争は起こしたくない。だから王国の様子を窺うための偵察兵を何人か王国近辺に送り出している。ああ勘違いするなよ、王国内部にはいない。そちらの国の暗部と違ってな」
「……申し訳ございません」
「余も無為な毒を吐いた。許せ。……その偵察兵が、少し前にヴェルグを見たと言って来た。王国近辺で、だ」
「え」
「余も同じ反応をした。そして……偵察兵曰く、ヴェルグ殿はカラバ村という場所に立ち寄り、村長にこんなことを言ったらしいのだ」
──生き別れの兄弟を探している。
「それは!」
「急くな。逸るな。その後に誤魔化すようなことを言っていたらしいから、どこまで本当かはわからん。ヴェルグは日常会話においては適当しか言わん人間だ。全てが本当かどうかはわからん。わからん上で言う。──可能性はあると」
「……そうですね。兄か、弟か。それならば似ている理由も納得が行きます」
「ただ……仮にそうだったとして、なんだ、という話ではある。シアルル王国にいたヴェルグなる人物は失踪していて、しかし帝国のヴェルグはなりすましを行っているわけでもない。ただ生活をしているだけだ。強さも掛け値なしに、手放しに称賛を受けられるもの。今のヴェルグに自らを騙る理由がない」
「……あるいは、彼も探している、という可能性は……どうでしょうか。ヴェルグさんもまた、失踪した騎士団長を探して、敢えて自身を晒して」
「だとしたらもっと大々的に名乗りをあげるだろう。隠したいのなららまず名前や顔を変えるだろう。……故に余から出せる結論は、よくわからん、だ。現状では情報が足りん。様子見するしかない」
「……いえ、参考になりました。ありがとうございます、ラムナザール四世。……その、もし王国と帝国の平和が成ったら……私は貴方の本当の人となりを王国じゅうに伝えますわ」
「勝手にしろ。だがその日は来るのか? 昨今の王国の動きは、お世辞にも良いとは言えん。お前がここにいるのが良い証拠だ、娘」
戦争の火種。騎士団の腐敗。人身売買組織。薬物密売組織。
今の王国は、簡単に滅びの道を辿る要素を持ち過ぎている。それはカローラも気付いていた。
「余は何も言わぬ。だが、娘。あるいはお前の両腕に、人類の未来は託されているのやもしれぬ」
「……プレッシャーをかけますね、ラムナザール四世」
「む。国に帰った時に余に要らぬ圧力をかけられたとか言わないように」
「言いませんよ、そんなこと。……ありがとうございます。頑張ります」
「うむ」
ラムナザール四世。
カローラの中で、彼の人物像もまた一新される。今度はいい方向に。
独裁政権という文字ばかりが独り歩きした、強さの王。
マスカルウィン帝国は彼や先代の皇帝たちを打倒せんと集まった者達によって作り上げられた国だという。
なるほど、倒せずとも慕い、残るわけだと──カローラは、満足気にその場を去った。
「え、ご主人様について? ……私に聞く? それ」
「一番仲が良いように見えたのだが、違うのか?」
「いやエロ趣味はがっつり合うけど、他は微妙」
「そ、そうなのか。……じゃあこれで失礼する」
「ああ待って待って。ちょっとはお話しよーよ。こうして膝突き合せて話すってなかなかないしさー」
一度ホームに帰ったカローラ。
なんだかみんな出払っていて、唯一いたのがシーファだけだったから、シーファに聞くことにした。
主人──ヴェルグについてを。
「む……じゃあ聞くが、シーファにとってのヴェルグは、どんな存在だ?」
「恩人じゃない? ふつーに。私さ、魔族なのは話したよね」
「ああ。魔素の漏れない魔族だと聞いている」
「そそ。で、アウラニちが元天使と人間のハーフだったってのも聞いてる? よね?」
「ああ。口外はするなと強く念押しされたが、知っている」
「だから私達って本来一緒にいれなくてさー。でも……何のきっかけかは忘れちゃったけど、もう私とアウラニちは友達だったんだよね。で、アウラニちは頑張って聖気抑えてくれて、けど段々私が耐えられなくなっちゃってー、って時に、ご主人様が解決策をくれたの。その解決策が何か、っていうのは教えられないんだけど、それで私とアウラニちは同じ部屋にいても大丈夫なくらい……えーと、色々大丈夫になってさ」
だから恩人。
そう、シーファは事もなげに言う。
「たださー、最近のご主人様のムカつくところでさー。なんかご主人様、私っていうか私達が簡単に愛想尽かすと思ってるんだよね。ホントイライラする」
「愛想を……」
「そー。あのさー、恩人なんだよね。ご主人様って。私にとって友情って他のどんな感情よりも大事でさ。私の問題も、アウラニちの問題も解決してくれたご主人様は、私にとってすごく……なんだろ、すごく大切な人なわけ。あ、恋愛感情とか一切ないからね?」
「それはわかる。大丈夫だ」
「ならいいけど。……で! それをさぁ、やれ"俺が嫌いなら他の奴のトコにいけばいい"とか、"もう俺がいなくてもやっていけるだろ"とか、"好きに生きればいい。俺はお前を止めない"とか……さぁ!」
本当にいらいらしているのだろう。
シーファは突然声を上げ──その手を股座に伸ばす。
何が起きているのかカローラの理解が追いつかないまま、当然のことのように自慰を始めるシーファ。
「ご主人様はほんっとうにわかってないんだよね! 恩義ってさ、そう簡単に溶けて消えるものじゃないじゃん! できるわけないじゃん、私はアウラニちと一緒に居られるようになってほんっとうに嬉しくてさ、魔族だよ? ホントは世界の奴隷で、魔素の奴隷で、ただ消費されるためだけに生まれた、みたいな魔族だよ私。それをさぁ、煩わしい声からも解放してくれて、友達と一緒に居られるようにしてくれて!」
激しくなっていくシーファの手。
ようやくカローラの理解が追いつく。シーファは知らないのだ。イライラをぶつける方法を。物に当たることさえしない──性欲の発散でしか、イライラを抑えられない。
「そんな人、簡単に捨てられるわけないじゃん……ほんっと、バッカみたい……」
「……良い奴だな、お前は」
「はぁ? 今の聞いてそう思うの、ちょっとカロちご主人様寄りだよ」
「え゛」
「今のはフツーの感情。私魔族だけど、かなり一般的な感性持ってるって自負してる。たまに良い奴とか優しい奴とか言われるけど、違うんだって。これがフツーなの。みんながドライ過ぎるだけなの!」
「そ……れを言われると、言葉が出ない」
そうだ。
カローラは損得勘定だけで物事を判断しがちだ。
それはやはり、ヴェルグに少し似ているのだろう。だからこそ……「友達想い」が、非常に眩しく映る。
「一生かかっても返し切れない恩があって、それなりの時間を一緒に過ごしたって記憶があって、私が欲しかったもの全部くれた人を、どう嫌いになれって……無理でしょ、普通に」
「だが、ムカつくんだろう?」
「ムカつくから何? イライラした相手とは離縁しなきゃいけないの? ……別に変わってほしいとは思ってないよ。そこまで求めるのは求めすぎだってわかってる。でも勝手に私を推し量って、量り間違えて、"どうせすぐに愛想を尽かす"とか思ってるのがほんっとうにイライラするってだけ! 私のことなんだと思ってんだろ。その辺の魔物でももうちょっと感情を理解できるよ。ご主人様はスライムかなんかだよ絶対。はぁー、ホンット。ほんっとうに……」
少しずつしおれて行くシーファ。
どうやら怒っている最中に絶頂したらしく、いつの間にか彼女の秘所と手は濡れていた。
「私はさー……もういいんだよね。アウラニちとか、みんなとかと、一緒に住んでさ、色々やってさー。ご主人様もそこにいてさー。それで……いいのにさー」
「シーファ……」
「あーあ。私が魔族じゃなかったら、こんなに色々悩まなかったのかなぁ。でもそれだと絶対買われてないか。私、魔族であること以外魅力ないみたいだし……」
「そ、そんなことはないだろう。ヴェルグはシーファを信頼していると言っていたぞ」
「だからエロについてはでしょ? ……もうちょっと信頼してくれてもいいのにね。色々さ。私達が……ご主人様の帰る家になるってさ。ご主人様がああいうのって、私達がいずれいなくなるのが怖いからだと思うんだよね。……勘だけど」
唐突に現実に引き戻される。
シーファの言葉から連想される、させられる──彼のトラウマ。仲間を全員惨殺された一年前の話。
ラムナザール四世との話に出て来た兄弟がどうの、というのが全くのでたらめであれば、やはり彼は本当に彼で……大事にしてきた仲間全てを失くしている。
魔物のことは勿論だが、「仲間や深入りする存在を積極的に作りたがらない」彼のスタンスは。
「……なんか知ってるの? カロち」
「え、いや……」
「それ知ってる顔だし知ってる反応だね。……ふーん、なんか理由があるんだ。ふーん」
「あ、いや、必ずしもそうというわけでは」
「つまりちゃんとした理由があるにはあると。……教えてくれない?」
「ええと、それは……その」
「教えてくれたらイイコト教えてあげる」
「い、イイコト?」
「そう。──ご主人様が簡単に言うことを聞くようになるマル秘テク」
「ヴェルグが、簡単に……」
一瞬揺れそうになって。
けれど持ち直したカローラ。いやだって。
「それを知っているなら、シーファ。お前が使えばいいんじゃないか……?」
「私じゃダメなんだよ。使う人を選ぶテクだから」
「……いや、聞かない。というか教えられない」
「ふーん。……ふーん。ふ~~~~~~~ん」
「すまないが、無理なんだ。その、私が隠したいというより……それを聞いたら、シーファは多分、居ても立っても居られなくなるから」
「……そう。じゃあ聞かない。今でさえ居ても立っても居られないのに、さらに、ってなると私爆発しちゃいそうだし。……でも、そうだよね。誰しも秘密とか隠し事がある。……ご主人様だけそれが無いって考えるのは、浅はか過ぎたかも」
シーファは。
自身の秘所から手を引き抜いて──そこを伝う糸を、くちゅくちゃと弄ぶ。
「ちょっとすっきりした。ありがとね、カロち」
「あ……ああ。それならよかった」
「そういえばさ、カロち。ちょっと話変わるんだけど」
「ん、なんだ?」
「カロちってオナる時どうやるの? クリ? 乳首? それともお尻?」
カローラ は 逃け゛た゛した!▼
「ああ、こりゃ……カローラさん。お久しぶりですね」
「久しぶり、になるのか? そこまで時間は経っていないように思うが」
「体感の話でっせ。それで、お加減はどうですかい?」
「かなりの自由を許されている。……本当に、リシと店主には感謝が尽きない」
「いやいや、あっしはただの奴隷商人。なんならカローラさんを裸にひん剥いて売ろうとしてたゲスい奴ですよ。感謝を言われる謂れはありませんわ。……それで、何用ですかい? わざわざあっしの所に来るなんて」
「感謝を言いたかったのは本当だ。だが、そうだな。聞きたいことがあって来た。……ああそう構えるな。開示権限に関わる話じゃない。フレ、ヴェルグのことだ」
「旦那さんの? ……たとえ旦那さんの奴隷であっても、顧客情報や個人情報はダメでっせ?」
「いや、聞きたいのは印象や思い出話の類だ。私は……あの人のことをあまりにも知らなさすぎる」
「はぁ」
ノズヴェルガーの店に現れたカローラ。
その様子に何を感じたのか、ノズヴェルガーはカローラを天幕の中に引き入れ、クローズドの看板を立てる。夕闇に照らされていた店内は、幕が閉じたことで真っ暗になる。
その中で光る──彼の犬歯。普段目にすることの無い、妖狐族としての部分。
「そこまでしてもらう必要はなかったんだが……」
「そこまでする必要があるとあっしは感じたんでね。──で、どっちを聞きたいのかはっきりしてください。ヴェルグの旦那さんのことについてなのか……フレースヴェルグさんのことについてなのか」
低いトーンで。
総毛立つ感覚に襲われるカローラ。一瞬でこの男が単なる奴隷商人ではないことがわかる。
「き、気を悪くしたなら謝る。そうじゃないんだ。私が聞きたいのはヴェルグの人となりというか、帝国におけるヴェルグの振る舞いというか、素行というか……」
「……ま、いいでしょう。へぇ、で、素行ですかい。うーん」
切り替えがそこにはあった。先程までの威圧感は姿を晦ませ、そこにいるのは手を揉む卑しい奴隷商人。
そうであると知らなければ、そうであるとは気付けない──カローラがやっている冒険者ごっこなど比べ物にならない、本物。
「まず、あの人は普通の価値観が通じやせんね。割り切りがきっぱりし過ぎている……情とか恨みつらみとか、そういうのは旦那さんを動かすエネルギーにはなりやせんよ。語弊を恐れずに言うのであれば、旦那さんは"人間ではない"という表現が一番しっくりくる」
「そ、そこまでか? というか店主、あなたはヴェルグさ、じゃない、ヴェルグと仲が良いものだと思っていたが」
「あっしの勘違いでなきゃ、もう帝国じゃ一番ってくらいには仲良くさせてもらってますよ。だから言い切れるんです。この評価も、忌憚のない意見も、旦那さんは気にしませんよ。あの人は……そうだな、他人から自身に向く感情に疎いとかじゃなく、気付いていながら"最もどうでもいいものである"として扱っている」
あくまで冷静に、あくまで冷淡に。
正確な分析をノズヴェルガーは述べ続ける。
「だから情で落とすのはオススメいたしやせん。ただ逆に、カローラさんの生きる意志、生きた意志を見せつけることができれば、旦那さんは割とコロっと動いてくれると思いやすよ」
「え、あ、いや、落とすとか動かすとかは」
「まぁまぁ、これでもあっしは色んな人を見て来たんでね、わかるんですよ。カローラさん、あんたが今情報収集をしている理由は、なんらかの事柄に旦那さんを当たらせたいからだ。そうでしょう?」
「……敵わないな。そうだ。私は」
「ああ、いいですよ。事情は知りやしません。それはあっしにとってもどうでもいいことで」
まただ。
また、圧倒的な気配を纏うノズヴェルガー。
「いいですかい、カローラさん。いえ、お嬢さん、とでも呼んじまいましょうか。お嬢さん。旦那さんは気持ちいいモンが好きなんですよ。ああ性行為の話じゃありませんよ。気持ちのいい人間、気持ちのいい感情。鬱屈としていないもの、シンプルなもの。理屈をこねくり回したって旦那さんは動きませんよ。悲劇を訴えたって旦那さんは耳を貸しません。けどね、お嬢さん」
糸目を開いて、妖狐の、狐の、肉食獣らしいギザギザの歯を見せて。
「大事なのは意志だ。多くを語る必要はない。多くを見せつける必要はない。誰もが持っているもの。人間が……いいや、あらゆる存在が初めから持ち合わせている意志こそが、旦那さんを動かす。何故ってそりゃあ簡単だ。あの人は餓えてんですよ」
「餓えて……」
「そう。飢餓だ。旱魃だ。今世界のどこにあの人の心を動かすものがありますかい? ラムナザール四世をも下す戦闘能力。帝国や王国の全財産を合わせても届かない資金。あらゆる事象に対応できるスキル群。旦那さんはね、飽いてるんですよ。だからそれが狙い目だ」
一歩、また一歩と詰め寄られ、下がるしかないカローラ。
その目を直視したくないのに、逸らすことができない。
逸らせば死ぬと、冒険者としての勘が告げている。
「余計な小細工よりも、まず、アンタがどうしたいかを見せてみなぁ、お嬢さん。それが唯一の活路だよ」
──消えた。
けれど、カローラの背を伝う大量の冷や汗が、それが夢幻ではなかったことを伝えてくれる。
いいや、けれど、ノズヴェルガーは最初の位置から一歩も動いていない。
気圧されただけだ。ただ。
「さ……参考にする。ありがとう、店主」
「いえいえ。上手く行くといいですねぇ」
「ああ……上手くやるさ」
どうにか取り繕って、けれど逃げるようにノズヴェルガーの天幕から去っていくカローラ。
残された店主は一人。
「……ちょいと調子ノったなぁ……いけねぇいけねぇ、ああいう自分の信念が見えてねえ輩を見ると、どうしてもケツ叩きたくなっちまうのは悪い癖だ……あー、熱い。まだまだ若いねぇ俺も……あっしもさ」
とかなんとか、ずーっとぼそぼそ言ってたとか。
簡易登場人物紹介 -主要人物以外編-
| スヴェロニカ | 王国暗部 |
| レジーナ・イングリディアナ | 大罪人魔素研究者 |
| カラジェット | イグニスリーダー |
| アニス | イグニス斥候 |
| ユナ | イグニス神官 |
| ゴロンド | イグニスタンク |
| グレイス | 元性奴隷 |
| キンゾイ | 元戦闘奴隷 |
| 皇妃 | 元呪われ |
| ラクニシェル | 公国騎士団(正確には兵団長) |
| リザ | ファントムの四天王 |
| スライム | まだ解放されてない |
| ミラージュオウル | 世界に還った。 |
| テュアナ | 唯一ヴェルグにダメージを与えたグリュフォン |
| ヒポクリフ | 魔王の四天王 |
| トオクス | 十薬。シチサイヌの農家 |
| ヤイクニ | 焼邦。元呪われ役人 |
| イサカリ | フレースヴェルグの仲間 |
| リシ | フレースヴェルグの仲間(予定) |
| グノーシス | 重要参考人 |
| ガーリー | 遺灰 |