アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
まだ、いた。
「……まだ俺を下に見ているのか?」
「まさか。そんな余裕や慢心は棄ててるわ。けどね」
マナエクスプロージョンの中、装備のあちらこちらを焼き焦がしながらも、エラボートは生きていた。
「相手を認めるな。その命令を自分にかけちゃえば、私は無敵になれるのよ」
「成程、考えたな」
屈服の呪いを自分にかけたのか。
それで、相手を認めるな、という命令をかけた。パッシブスキルを常時発動させるための良い手段であると言える。
ただしそれは諸刃の剣だろう。
慢心し続けなければならない。余裕を保ち続けなければならない。いいや、彼女の言を信じるのなら、理性ではそれらを捨てているけれど、屈服の呪いがそれらを埋め込んでくる、と行った方が良い。
だから彼女にその気がなくとも、彼女は心のどこかで油断している。
そこに付け入る隙はある。
……というのまでが、ゲームプレイヤーの思考。
「最大主教スキル:封印棺」
まぁ、なんだ。エラボートのパッシブスキルはあくまでダメージを1にするものだから、封印とかに抵抗できるわけじゃあない。
神殿が常に見下している教会。日和見主義だとか平和ボケだとか言ってる場所の最高位スキルで封じられるのなら、まぁ、そういうことだ。
安心してほしい。その中では時間は流れない。
そして俺がそのスキルを解くことも無い。良かったな、不老不死だぞ。喜べよ。
さいならさん。
神殿の要人は上下にいる。
下行くのはちょっと手順を踏む必要があるので、上に向かう。
正直言ってエラボートもケリュン・ジャックも粛清部隊の上官なだけで、神殿の上層部とは言えない。
神殿の上層部に粛清部隊所属はいないからな。
よって今からが本番だ。ただし粛清部隊より戦力は落ちる。そりゃそうだ、粛清部隊は戦闘能力のエリート集団なんだから。
でも弱いわけじゃないのがまたね。
「汝が、二人目のフレースヴェルグじゃな」
「アポトシス聖か。お前が一人目か?」
「いいや。儂は汝らの前に立ち塞がるなどという愚は犯さんよ。ただ聞きたいことがあるだけじゃ」
ネームド。だけど戦闘能力があるかは知らん。喋るだけのNPCだし。
「そうやって気に入らないものを潰して行った先に、何が残る?」
「同じ問いを返そう、アポトシス聖。気に入らない魔を全て潰した未来に何が残る」
「我らと魔は同じか? 二人目のフレースヴェルグ」
「魔は人間を害し、人間は魔を排す。何か違いがあるか?」
ゲームに置いて、魔素は全ての悪であるように描かれる。魔王やドゥームスもまた同じように。
だけど、じゃああらゆるものが魔族化、魔化した世界を想像してみて欲しい。
今とどれほど違うだろうか。
結局魔素が害悪に思われている理由は、人間や魔物が魔化すると人間に牙を剥くようになるからに他ならない。害があるから悪だとされているに過ぎない。
ならば立場は同じだろう。魔族や魔化を害するのはいつだってそうなっていない人間なのだから。
「ふぉふぉふぉ……魔族となった一人目。魔についた二人目。最強の名を恣にするフレースヴェルグは、どうして人間の敵となるのか」
「魔についた覚えはないし、人間の敵になったつもりもない。今お前達の敵であることは、人類に敵対することと同義にはならない。お前達が自身を人類代表とでも思っているのでない限りな」
「なれば問いをしよう、二人目のフレースヴェルグ。神殿は汝にとって潰すべき悪であるか? 人類の膿か?」
「俺は正義の味方じゃないし、医者でもない。潰すべき悪だとも、膿だとも思っていない。──ただ王国を滅ぼされると後々面倒だからな。邪魔をしに来た」
「……? 王国を滅ぼす? いやまだそれは合議しとらんはずじゃが」
「──ヴェルグ! 間に合ったか!!」
おや? とか思い始めたあたりで、メルキオルが来た。
ボロボロだな。後ろの四人も。しかも一人は意識がない。MP切れで昏倒したか。
あー、やっぱメルキオル側にいっぱい来てたのかな。大丈夫そうだ、とか思ってないで手助け行けばよかったか。
「ヴェルグ、すまない。アポトシス聖は極一部の方だ」
「そうか。じゃあ俺は先に行く。他に極一部はいるか?」
「いない。すまなかった」
「あの念話使いがそばにいたからな。アポトシス聖の安全確保ができてない状態では名前を出せなかったとかそんなところだろう。ああ、アイツは催眠で眠らせておいた。好きに処理しろ」
「感謝する」
最初に説明しておけよ、にはならない。スパイがいた以上話せることは限られてくる。
ただアポトシス聖がなりふり構わず攻撃してくる奴じゃなくて良かったよ。それされてたら殺してたかもしれん。
……そこ含めて極一部、なんかね。
「もういいだろう? 他の奴らの名は?」
「オトクレブ聖、サイトカイン聖、プラスミド聖が神殿の全体的な方針を決めている。彼ら彼女らは上にいる。だが、そちらは我らが引き受けよう。ヴェルグ、お前には下に行ってもらいたい」
「扉開けるの待たなきゃいけないのは知ってるよな?」
「既に開錠済みだ。お前が着く頃には開き切っているだろう」
有能か?
つーか、あー、だから時間かかったのか?
そう、神殿の下に行くには、いろんなパズルのある仕掛けを越えて、最下部の扉に各パズルで集めた鍵を四つ差し込んで、扉が開くのを十分だか二十分待たないといけないとかいうクソダルギミックがある。
まぁその間に敵……神殿イベントであれば裏切り者達、それ以外のイベントであれば神殿の守護者たちが襲ってくるので暇するってことはないんだけど、多分今の俺だと暇なので後回しにしていた。
You NO.
「アモルファス聖、エラストマ聖、クロマト聖が下にいる。内アモルファス聖が」
「聖王だろ? そんで、神とも繋がってる」
「ふぉふぉふぉ、神殿の最高機密を事もなげに言いおるわ。二人目のフレースヴェルグ。汝、さては未来からでも来たんじゃろ?」
「それ前も言われたけど違うよ。んじゃメルキオル、後は任せた。他の奴らも頑張れ……と言いたいところだけど、キツそうだな。最大主教スキル:完全再生」
MP切れの子だけは治せないけど、他はフルHPに戻ったはず。
アレだ、ボス前のセーブ&回復みたいな。パズルギミック解いておいてくれたお礼ね。
そいじゃ。
円形の扉を抜けた先。
そこは別世界といっても差し支えない程の静謐さを持っていた。
今までが黄金の祭殿ならば、こちらは蒼黒の祭壇。事前情報が無ければ邪神崇拝の奴らの拠点って言われても信じるくらいの黒。
ただ下向きに生え伸びる青い水晶が、どこか神秘的な雰囲気を保たせている。
ここに兵士はいない。
いるのはさっきメルキオルが言った三人と。
「出たな、宗教観ぶち壊しスフィンクス!」
スフィンクスである。
……顔が人で胴体がライオンのアレ……ですらない。顔が人で胴体がライオンで羽が生えてて鳥の声で鳴く、スフィンクスとは名ばかりのキマイラ。
ただしふざけた見た目とは裏腹に、ちゃんと強い。
「召喚士スキル:サモン:スフィンクス」
「……同族殺せって言ってる?」
「殺したくなけりゃ殺さなくていいけど、お前らって生き死にの概念あるの?」
「無いけど、後味は悪い」
スフィンクスは正確には魔物じゃない。
だからか、アダルトMODが機能していない。……と思ったら、召喚獣の方のスフィンクスにはアダルトMODが適用されてて、隠れるべきところが隠れていないエジプト風全裸美女が出て来た。
何の違いだろう。意識の有無?
スフィンクスはあれなんだよね、この奥にいる神……紛い物の神の従僕というか、被創造物だから、魔物でもなければ魔化もしない……代わりに自意識もなければ神の周囲から離れられない敵なんだよね。
この召喚獣スフィンクスもここ以外で召喚すると凄まじい弱体化を受ける。多分聖域とかと同じで、あの神がなんらかのフィールドを常に敷いているんだろうな。
「俺の歩みを止めなければ何しても良い。他に欲しい召喚獣いるか?」
「……セイントバードとレプラコーン欲しい。ちゃんと守るから」
「サモン:セイントバード。サモン:レプラコーン」
「最近よく呼ばれて嬉しいっぽー!」
「あんだぁ、主殿。俺を呼ぶとは酔狂な……おうスフィンクスじゃねえか! 元気してたか!? ああお前らに元気とかいう概念ねーぇかぁ! がっはっは!」
うるせーレプラコーン。
こんなだったんだ。滅多な事じゃ呼ばないからアダルトMOD導入後も見たこと無かったな。
なんか……ロリ、じゃないんだけど、身長が子供な貝殻ビキニの美女。ただし秘所や乳首には穴が開いている。貝殻もう要らねーだろソレ。
「指示出しも戦闘も好きにやれ、スフィンクス。俺は先に行く」
「はいはい。んじゃセイントバードは歌唱スキルで、レプラコーンは魔法でー」
走る。
スフィンクスは美少女に見えていないし、意思も無いから殺せる……んだけど、単純に攻撃が面倒なので任せられたのはデカい。
こいつらなー。あらゆる攻撃に最大距離のノックバックついてんのがなー。それさえなければただのキマイラなのになー。
しかし、意識の有無でアダルトMODの適用が変わるのは……ちょっとした発見かもな。
そうして辿り着く。
一人目、クロマト聖。上層部の中じゃ一番若い奴だけど、血の気も多い。多分王国滅ぼす案を最初に打ち出したのコイツ。自分以外の全てを汚らわしいゴミだと思っていて、けれどそれは表に出さず、あくまで紳士的に振舞う……ようにみせかけておいて、やっぱり馬鹿にしてる態度が隠せない、みたいなNPC。
野心が強く、いずれトップに上り詰めてやろうとは思っているけれど、アモルファス聖の圧倒的な強さを見てからはこのNo.3の座で我慢している、とかだったはず。
「フフッ……フフフフッ! ようこそ、ようこそ二人目のフレースヴェルグ! けれど君はそう、カッティングマウスだ! 罠にかけられ、尻尾を挟まれたカッティングマウス……ただ死を待つだけの可哀想な」
「アサシンスキル:バックスタブ」
「……ぁえ?」
「正面からの攻撃を全て無効化するパッシブスキル。当然背中は関係ない。大仰な身振り手振りで動き回って相手を撹乱し、しかし決して背を向けないように立ち回る強かな男。聖騎士スキルと召喚士スキルを用いて戦う中遠距離アタッカー……だったか」
資料館で読めるNPC図鑑の説明文そのまま。
実際、コイツと戦うとかなり面倒臭い。召喚士って召喚獣が強力だから術師を叩くのが当然なんだけど、こいつのパッシブスキルのせいで中々HPを削れず、また新たな召喚獣を、みたいなことしてくる。聖騎士スキルは極めているというほどではないから本体自体はそこまで強くない。ただ目が良い。
ので、バフ盛り三周目ステータスアジリティで背後に回って心臓と脳を貫かせてもらった。
召喚獣はアダルトMODで美女美少女に見えてしまうの必定なんでね。斬れなくなる前に、ってさ。
二人目、エラストマ聖。
巨大なハンマーを持った、パワータイプの聖女。アダルトMOD導入前は男装の麗人って感じの優遇グラフィックだったんだけど、何を思ったかアダルトMOD製作者が彼女をロリにしてしまったらしい。美男美女の中にたまに混ざるロリ。あのイグニスの神官のユナもそうだったけど、たまにいるんだよなお淑やかがロリとかドジっ娘とかに変換されてる奴。
頭おかしいと思うよアダルトMOD製作者は。何がアダルトなのかをもっと深く理解しろ。
「聖女スキル:不浄の身体」
「狂戦士スキル:独擅場」
「……あなたが、二人目のフレースヴェルグですね」
ああやっぱりセリフも変わってらぁ。
導入前は「ふふ、君が〇〇かい?」みたいな男装の麗人みたいなアレだったのにさぁ。余計なことするよねたまにねアダルトMODはね。たまにじゃないね。
「最強の名を手にして、その力を過信する心もわかります。ですが──思い知りなさい、本当の力というもにょを! ……ものを!」
「すまんが刺さらん」
コリジョンがおかしくなっているのを見越して放ったガイアスラッシュは、けれどエラストマ聖が屈んだことによって避けられた。
……いや、大人の体格なら当たっていたはず。じゃあ見かけ通りのコリジョンなのか?
にしてはハンマーの柄がある位置おかしいんだけど。
「てゃあああ!」
「いやそんな大振りな攻撃よけるけども」
「そんにゃ、あだ!? いったぁ……」
「……アンタ確か五十七とかだっただろ。何可愛い子ぶってんだ」
「し、失礼な! 私はまだ十七です! 誰が五十七でひゅか!! すか!!」
アレ。
ん? いや、クロマト聖が二十九とかで最年少だったはず。
つーか十七て。子供じゃんまだ。この世界の成人が十五なのは知ってるけども。そんな子供にこんな要職就かせるって、そんだけ優秀なのか? ……このロリが?
──ぶっ飛ばされる。
いやダメージはないんだけど。基礎防御力があるからね。
攻撃は背後からだった。んでもって、ハンマーによる攻撃。
「エラストマ聖! 良かった、間に合ってくれたんでしゅね!」
「間に合ったけどね、君。誰が五十七ですか、は私にも失礼な言葉だと理解しているかい?」
「ひ……ご、ごめんな、きゃっ!?」
大体理解したので子供の方を狙って斬撃をくり出せば、光ノ壁に防がれた。そして少女の足元に転移陣が浮かび上がる。転移……使っているのは、男装の麗人。ああ元グラとほとんど変わってないな。老けてる感が消えたくらいか。
「いいかい、ポリウィック。君は生きるんだ。神殿はね、手を出してはいけないものに手を出してしまったらしい。踏んではいけないドラゴンの尾を踏んでしまったんだ。……君の面倒を最後まで見切れないことを許しておくれ」
「え……ま、待ってください! 二人目のフレースヴェルグがそれほどの相手なら、私も!」
「君は足手纏いだ。クロマトも逝った。残るはもう私とアモルファスだけ。……じゃあね」
「待っ──」
消える。
転移先は……流石に分からんな。
面倒な。二人目のフレースヴェルグという呼称を知っている奴が外部に流出した、というのは……後々が面倒になりそうで仕方ない。しかもそれが神殿を襲った、という真実。彼女が嘘吐き呼ばわりされても、屈服の呪いなんかで真実を話せと言われたらそこでおしまい。
それが本当のことだと伝わってしまうだろう。
願わくは彼女に開示階位が設定されていることかな。そうじゃなかったら、俺自らが。
「怖い顔だね、二人目のフレースヴェルグ。ポリウィックを殺しに行こうと考えている顔だ」
「愛弟子を囮にしていた怖い思想を持ってる奴に言われたくないな」
「囮にしていたわけじゃない。留守番をしてもらっていただけだよ」
「興味が無い。クロマト聖の死に様を見たのならわかるだろう。俺は容赦せずにお前を殺す」
「勿論好きにすればいい。だけど、良いのかな? ──私が留守にしていた理由は、君の仲間を」
「次元スキル:時間停止」
眷属メニューを開く。
……シーファとメアリー、マスカルウィン、カローライナに異常はない。つまりシーファの奴隷の誰かか。
シーファの仮インベにエリクシールを一個分配する。
死んでいたら人質にはならない。死んではいないはず。死んでても死者蘇生できるけど。
呪いの場合は俺がかけ直すまで待ってもらうしかない。ただエラストマ聖は呪詛スキルを使えなかったはずだ。
時間停止を解除する。
「一人連れ去ったからだ。ふふふ、簡単だったよ。本当に君の仲間かと疑うくらいすんなりと攫われてくれた」
「何故だと思う?」
「何がだい?」
「なぜすんなりと攫われたのか、だ。なぜ抵抗をしなかったのか。なぜ助けを求めなかったのか」
「恐怖故に、だろう? 君と違って君の仲間は最強ではない。だから──」
「──だから、隙を窺っていました。はぁ、折角ルウィン様への新しい責め用の材料調達をしていたところでしたのに」
不可視の何かが、エラストマ聖の首に噛みついている。
あ、とか、が、とか……声にならない声を上げて、彼女の身体が浮き上がる。
「怪異スキル:影潜み。申し訳ございませんご主人様。ルウィン様の調教を任されたというのに、放棄してしまって」
「良いけど、なんで抵抗しないで攫われたんだ? お前強くないと言っても人間基準の話だろ。そのオティヌティヌ使えば」
「男性器ではありません。……それに、これ斬られたら痛いんですよ? 戦闘に使うなんて怖いことしません」
「今は?」
「これは戦闘ではなく捕食です。……ああ、見ない方が良いですよ、ご主人様。結構猟奇的な自覚があります」
ぼきん、と。
折れた音が聞こえた。それは恐らく首の骨の音。
そこから啜るような音がして、だらんと垂れ下がったエラストマ聖の身体が持ち上がり、バリボリと音を響かせながら、虚空に吸い込まれて行く。捕食されて行く。
「……今更ですが、食べてはいけない方でしたか? であれば今すぐに吐き出しますが」
「いや、敵だから良いけどさ。……お前人間も食うのな」
「雑食です。魔族は流石に魔化するので食べられません」
「ああそこはちゃんと魔化するんだ。……で、どうするお前。俺今から今の奴の数千倍強い奴と戦いに行くんだけど」
「帰ります。……ここどこですか?」
「神殿本拠地。赤土の陸地」
「遠っ……はぁ。無理です。ここで待ってるので早く終わらせてきてください」
「待ってるのはいいけど……あ、んじゃコレ持っておけ」
絵筆というアイテムを出す。これ一応魔物素材使ってるんだけど、尻尾っていう人間には無い器官だから、あんましグロくなくてありがたい。持ち手が骨じゃなければ。一旦まぁ骨一本なら大丈夫。
で、それで壁にこの世界の文字で「私はヴェルグ様の奴隷です」と描いて、スクショ。アイテム【プラカード】にそれを貼り付けて、実体化。全然素材プラスチックじゃないんだけど、多分他に良いアイテム名がなかったんだろう。これもハウジング用のネタアイテムで、スクショを貼っておける。
「これ持ってないと多分後ろから来る今回の協力者に問答無用で殺されるから」
「怖いです。ご主人様の影に潜んでいる、とかじゃダメですか」
「それ無敵か?」
「いえ、地面抉られたりしたら死にます」
「じゃあやめとけ。そういうことしてくる敵だから」
「……待ちます」
アモルファス聖と神相手に自分の影なんか気遣えん。
ちゃんと魔王クラスの相手だからな。
とまぁ、こんなアクシデントがあったけれど。
クロマト聖、エラストマ聖を倒して──そこ、神殿の最奥へと辿り着く。
三人目。
アモルファス聖のもとへ。
そこは、大きくえぐり取られた空間、と表現するのが最も適しているだろう場所。
円状且つ螺旋状の痕跡がついた台地に、一人の男性が座っている。傍らに突き刺さっている剣は、俺が良く使うものと同一。
聖王の粛清剣。
そう、彼こそが聖王。神殿の最高幹部にして、神と繋がりし者にして──あるいは唯一、正面から"主人公"を打ち破ることのできる存在。
普通、主人公が負けたり死んだりすると、前のセーブポイントまで戻される。だからこそ主人公は最強になれる。絶対負けないし死なないから。
ただしアモルファス聖の場合だけは違う。
彼に負けると、負けたままイベントが進む。負けても勝っても同じ、というわけじゃない、負けたら負けたことによるイベント分岐が起きる。この世界で唯一フレースヴェルグに敗北を与えられる存在なのだ。
「問う。ヴェルグ」
「二人目のフレースヴェルグ、とは呼ばないんだな」
「その呼び名は礼を欠く。敬を失する。我が名はアモルファス。貴殿が名乗る前にその名を知っていたことを詫びよう」
……そして、アモルファス聖の一番エグいポイントは。
「問いを受ける。なんだ、アモルファス聖」
「神殿という名の暴力を王国へ向ける暴挙。それを是正せんとしたメルキオル。ヴェルグ、貴殿はその助力であるという認識をしている。正しいか」
「ああ、正しい」
「であるならば──メルキオルを待て、ヴェルグ。貴殿の行いがただの暴力にならぬよう、大義を持つ者がここにいなければなるまい」
正しいこと、だ。
あらゆる神殿関連イベントにおいてアモルファス聖は主人公の敵になる。ある意味で人間勢力側の魔王みたいな存在。でも、主人公がどのような立場にあっても、アモルファス聖は正しいままに立ち塞がる。
だから倒すと後味も悪い。仲間にすることができないのもエグい。
「なら、待ちの時間、少し問答をしよう。構わないか、アモルファス聖」
「構わない。それは当然の権利だ」
「じゃあ、単刀直入に。何故クロマト聖の暴挙を止めなかった? アイツだろう、王国で魔族との繋がりを発覚させて、王国を滅ぼし、その地下に眠るモノを起こし、それを自分たちで倒そう……なんて計画を打ち出したのは」
「然り。此度の暴挙はクロマト聖による計画である。しかし、エラストマ聖や我、そしてオトクレブ聖、サイトカイン聖、プラスミド聖も賛意を示した。反対者はアポトシス聖だけである」
「再度問う。なぜだ、アモルファス聖。お前は正しいはずだ。そのお前が何故この計画を是とした」
「ならば問う。このままシアルル王国にあれなる者の監視という縛り、その呪いを押し付け続けるのか」
……それは、実は、まぁ、そう。
主人公が王国派と神殿派に所属すると、そのイベントは起きる。王国の地下に眠るモノが起きて、破壊の限りを尽くし、主人公たちが死力を尽くして止める、というイベントが。
その時のアモルファス聖は主人公や他の者を死なせないために立ち塞がる。実際上記のイベントは本当の総力戦となり、仲間NPCもそうでないNPCもボロッボロ死ぬ。全員を生き残らせるにはポーズと攻略wikiを駆使して最大効率で動かないといけない。
今回は立場が違うけど、つまりそれくらいヤバいのがシアルル王国地下には眠っていて、王家は監視の任を絶対に解いてはならないし、封印のための円形の土地を何としてでも手に入れなければならない。だから戦争は終わらない。
ここで「やり方があっただろ」という論調は使えない。なぜって俺が今暴力で全部解決しようとしてるから。気に入らないなら殺せばえーやんを俺が今やっちゃってるから。
アモルファス聖は気に入らないから、という理由ではないだろうけれど、「もっと被害の出ないやり方を」というのは俺の口からは言えない。この手段を選んだメルキオルも言えないだろう。
けど、それでも正しいのがアモルファス聖だ。
「しかし、やり方はもっとあったはずだ、という非難は受け止める。神殿の手口が過激であることも認める。魔を許容しない思想。魔化を認知しない歴史。神殿の理念を利用し、思うがままに神殿を動かさんとしたクロマト聖に非があり、それに賛意した我にも非があろう」
「……非を認めても尚、か?」
「是である。我は聖王である。だが……一つの勘違いを正さねばならぬ」
「勘違い?」
「是である。ヴェルグ。貴殿の勘違いというよりは、メルキオルの勘違いと言うべきだ。──神殿の存在理由。彼はそれを理解していない」
「ああ、後ろの神を守るための組織だろ? 人々を守る、なんてのは後付けのでっち上げだ。本来神殿はお前の後ろにいる神を守るためだけの組織。そして後ろの神が魔素を酷く嫌うから、神殿は魔素に対して過敏になっていった。欠片でも魔素を神に近づけさせないために」
「──是である。ヴェルグ。貴殿の慧眼、恐れ入る」
神殿が一番歴史の古い組織だけど、同時に一番歴史を隠匿してきた組織でもある。
神。神を名乗る紛い物。
この世界に三柱いるそれらは、確かに聖気を纏う。だから神に見える。人語が通じるし、神の如き
神殿はそんな三柱の内の一柱を守るためだけの組織だ。人間なんか最初から眼中にない。それを彼らは隠匿し続けて、今となっては人類の過激な守護者、というイメージばかりが先行し、それを求めて神殿への入信者が増える……という仕組みになっている。
メルキオルもその一人だったってことだ。
「んじゃ、もうすぐでメルキオルも来るだろうから、最後に一つ問うよ、アモルファス聖」
「答えよう」
「
「──なんだと?」
ああ、やっぱり。
アモルファス聖の目の色が変わる。いくら正しくても、知らない事には対応できないか。
「そしてそいつは魔についていない。どころかいつか、魔王も、魔素源王も、王国の問題も全てを解決するだろう」
「……問う。ヴェルグ。貴殿はその者の前に立ち塞がるか」
「頭が回るな、アモルファス聖。そうさな、俺の研究が実を結ぶ前に魔素源王に辿り着いてしまったら、俺はソイツの前に立つだろう。だけどそうでないのなら、俺は不干渉を貫くよ」
「……であるならば、全ての話が変わる。謝罪する。此度の我の判断は悪しきものだった」
「が!」
が、だ。
アモルファス聖が方針を革めようと、メルキオルが真実を知ろうと、あんまり関係がない。
だって。
「そもそも俺は神殿を自分の手足にしに来たんでね。戦おうか、アモルファス聖。そんで後ろの神の紛い物も」
「疑念。先程までの貴殿と今の貴殿は同一人物か? 全体の益を想うヴェルグ。個の利益を求めるヴェルグ。人格が変わったのかと錯覚する程に違う」
「欲は人を変えるんだよ、アモルファス聖。
「……委細承知した。であるならば、メルキオルを待たずとも開戦しよう。我が剣は悪しき貴殿を斬り殺し、神殿の在り方を再度是正する!」
さぁ、やろうか。
久々のガチバトルって奴を!