アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
遮断を張って、封印棺に入れっぱなしだった少女を解放する。
「離せ、この……は?」
「呪詛スキル:眷属」
「っ!? 魔法使いスキル:身代わり藁!」
おお。
すげぇ、呪詛スキルの発生は確かに遅いけど、瞬時にそれを判断して身代わり使ってくるか。
「これ……神官スキルの遮断? チッ、お前神殿所属じゃないな! 同業者なら邪魔すんな!」
「聖堂所属は仲間を同業者と呼ぶのか? じゃあ聖騎士スキル:聖域、最大主教スキル:光の鐘楼」
粛清部隊相手にやり損ねた奴を今やる。
すると、少女はそれはもう混乱した顔を見せた。
「は、はぁ!? ……なんだお前! っていうか、よく見たらやっぱり聖王じゃんか! 騙したな神殿の狗め!!」
「ああ称号変えるの忘れてた。はい。これでいいか」
マスカルウィン帝国の冒険者に戻す。
「良いわけないだろ!? それで隠せるわけないだろ馬鹿か!? 馬鹿なのか!?」
反応良いな。
「で、お前何者? 看破効かないのといいメルキオル達一撃で殺してるのといい、随分とレベルは上げてるようだけど」
「ふんっ、神殿の狗に名乗る名なんか」
「呪詛スキル:眷属」
「身代わり藁! ばぁーか、一回防がれた時点で学べこのハーピィドッグ!」
ハーピィドッグ。鳥頭の犬。攻略サイトにおけるコメント欄での扱いは、防御スキル検証用サンドバッグ。耐久高いくせに知性が欠けてて何にも学習しないどころか一個のスキルを一生使い続けるところから。
ゲーム内でもそういう扱いだとは知らなかった。
「アサシンスキル:催眠」
「ハン、そんなもの効くか!」
「ほお睡眠耐性もか。……聖堂所属で耐性系いっぱい持ってる奴……そんなのいたっけ?」
「ばぁーか、てめぇが知ってる世界だけが世界の全てじゃねーんだよ!」
「次元スキル:時間停止」
あ、効いた。
……まぁ流石にね。
しかし……本当になんだコイツ。普通に強そうだけど、マジで見覚えが……。
……。
……ある。あるな。
いやこの少女には見覚えないんだけど、この服装には見覚えがある。
服装っつーか。
色彩っつーか。
時間停止、解除。
「っ、今何した!? 体が動かなかった……!」
「あ、意識だけあるのか。じゃあやっぱりアタリだな。お前パピルサグだろ」
飛んできた矢を指で掴む。
……おお、できた。できなくてもノーダメだったから良かったんだけど、できたらカッコイイよな感はあるよね。
そんでもってわかったぞ。パピルサグ……聖獣とはいえ、魔物なコイツが服を着ている理由が。
その修道服の下! 全裸だろ!
「……わかった! お前が強いのはわかった! だから取引しろ!」
「内容は?」
「あたしの命と引き換えだ! それと引き換えに、シアルル王国への妨害の一切をやめろ!」
「ああ、神殿はもうシアルル王国から手を引く予定だけど、命をくれるのか。ありがとうな」
「──は!?」
「呪詛スキル:眷属」
「っ、身代わり藁!!」
「おい命くれるんだろ。躱すなよ」
「馬鹿か!? 馬鹿だろさては! 今情報整理してんだから少し待てよ!」
「馬鹿はそっちだろ。俺は聖王だぞ。俺が神殿の方針を決めてるんだよ。んでシアルル王国からは手を引いた。けどお前の条件はお前の命と引き換えだっただろ。俺はお前の命を奪うの嫌だから、眷属の呪いかけて実質命を奪ったことにしようとしてる。それだけだろ。なんで理解できないんだよ」
「理解できるかボケ!」
おお。
打てば響くな。
シーファも最近はこういうツッコミしてこなくなったからなんか新鮮だ。
「……確認する! 本当に神殿はシアルル王国から手を引くんだな!」
「ああ。引く。引かせた。聖王権限で」
「もう手は出さないか!」
「場合による。王国地下のアレが目覚めたら全軍向かわせるやもしれん」
「それはっ……そうしてくれ! アレの目覚めは全人類で対応すべきだ! それはそれでいい!」
「おう。じゃあ命くれるよな。呪詛スキル」
「一回ふざけるのやめろ馬鹿!! 殴るぞ!!」
はぁい。
怒られちった。
「……確認する。あたしが……神殿の狗をやった時点で、その方針はもう決定してたか?」
「してたな。というよりあいつらが勝手に動いたというか」
「なら、今すぐあたしをここから出せ。あの人間たちを生き返らせてくる」
「死者蘇生なら俺がもうやったよ。お前の失態は俺が拭ってやったわけだ」
「あり得ない。蘇生まで使える神官ならあたしが全員覚えてる。そこにお前はいない」
じゃあこの称号をつけよう。『
「……あり得ない! その名に至った者は、この二千年の間一人として出てきていない!」
「では偽物だろうか、俺は」
「……それも、あり得ない。……魂の名を偽ることは、あの陰に潜むモノでさえできないことだ。それは……でも、あたしは」
「お前が言っただろ。お前が知ってる世界だけが世界の全てじゃないんだよ」
まぁ周回してる奴の方が例外ですけどもそりゃ。
あとなんなら三人いるらしいぞ俺。よくよく考えなくてもエグない?
「──わかった。それで納得する。そして、眷属の呪いも受け入れる。だから頼む、もう二度と王国を襲わないでくれ」
「なんでそこまでして聖堂が王国を守ろうとする? 王国と聖堂はそこまで関係深くないだろ」
「……」
「呪詛スキル:眷属」
今度こそ眷属の呪いを受け入れるパピルサグ。
よし。
「呪詛スキル:眷属:行動操作:今押し黙った理由を話せ」
「さ、最低だこいつ……ぐ、ぐぐぐ!」
「おいおいレジストすんなよ。そんなにまでして隠したいことか?」
「ぎぎぎぎぎ……っ!」
意思つえー。
まぁ看破が効かない時点でマスカルウィンと同じになるのは見えてたけども。
……ま、いいか。
どうせ王国へは行くことになる。カローライナの話を聞いてから細部は判断するけど、俺自身も気になることできたし。
「聖堂……同業者つってたか。ああじゃあこれお前の独断か? まぁなんでもいいけど、神殿の意向を聖堂に伝えておけ。呪詛スキル:眷属:解除」
「えっ……あ」
「そんな不当な理由で眷属にしないよ。お前があんまりにも隠すから暴こうとしただけだ」
「……。……変な奴だなお前! 今代の聖王は変な奴だ!」
「次代はもういないからな。それでいいんだよ」
遮断も解く。
瞬間パピルサグはバッと飛び上がり、不可視になり。
「王国の中で神殿の狗を見つけたら問答無用で射殺すからな! じゃあな変なの!!」
「殺されても蘇生させるから意味ないぞー」
「……ばぁーか!!」
子供かよ。
ああもうミニマップから消えた。飛行速度エグいな。
んじゃ、準備をしますか。王国行きの。
マスカルウィンは恐らく今生で初めての気絶をしたまままだ帰ってきていない。
なお気絶している間も起きて来たシーファによる責めが続行されていたのは確認済みなので、まだまだ快楽は続くと思う。頑張れ。どうせ王国にもお前連れて行けないからな!
「ヴェルグ様……さん」
「敬称はなんでもいい。お前の答えを聞かせてくれ、カローライナ」
「……はい」
強い目だ。
そして開く口も、震えていたり、迷っていたりしない。
「
「報酬は?」
「ありません。何故なら今の私は貴方の所有物。私が差し出せるモノの全てを貴方は持っている。だから、懇願します。ヴェルグ様。どうか
「私を。国を、じゃないのか?」
「故国への愛。貴方の変容。私の幻想。その全てが要らぬ装飾であると理解しました。私は……ただ、マスカルウィン帝国白銀章冒険者のヴェルグ様に依頼を出します」
「白銀章冒険者を無報酬で動かせると、そう思ってるわけだ」
「はい」
ふむ。
「満点だ。満点過ぎる。誰の入れ知恵だ、カローライナ」
「う……それは」
「別に誰かを聞いて考えを曲げるとかはないし、そいつに被害が行くことはない。誰だ、俺をそこまで理解してる奴は」
「の……ノズヴェルガーさん、です」
「そうか。今度また美味い酒を一緒に飲みに行くか。んで、ああ、そう。答えな。いいよ、その依頼承った」
あっさりした答えに、素っ頓狂な顔を見せるカローライナ。
良いんだよソレで。情で泣き落とされたってどうでもいいってなっちゃうし、どんだけ金やら報酬を積まれたって俺の方が持ってるってなっちゃう。
けどまぁ、俺の奴隷なら知ってるはずだ。
俺案外簡単に動くぞ。リアの件もシーファの件もアウラニの件も、一応ケルの件もか?
そんなに腰の重い奴じゃあねえんだわ。
あと単純に王国行く理由ができたってのもデカいけど。
「今日の夜に出立する。他の奴らとの別れを済ませておけ。……ああ、死ぬとかじゃなくて、そのままお前が第二王女に戻る可能性があるだろ? そうなったら当分は会えないからさ」
「あ……そう、ですね。……はい。でも、永遠の別れではない、ですよね」
「そりゃお前の働き次第なんじゃねーかな。帝国との戦争をどうやってやめさせるか。いっそのこと王家の秘密をラムナザール四世に打ち明けて協力を取り付けるか、それが無理なら帝国に無抵抗で降るか。そここそ損得勘定の出番だよ、カローライナ。お前とあいつらの友情と、王国のプライド。どちらに天秤が傾くか」
そんなの第二王女の身分でどうこうできる問題じゃないのは知っている。
でも、そんなことはもっと前からわかっていたはずだ。だのにあいつらと仲良くなっちまったカローライナが悪い。永遠の別れになり得る可能性を考えるのなら、線引きして踏み込まなけりゃよかったのに。
「んじゃ、また夜に。悔いを残すなよ」
「はい。……ありがとうございます、ヴェルグ様」
未練の塊みたいな顔してるけど。
これはアレだね。
絆された、ってのが一番似合う言葉かねぇ。
んで、夜。
「……俺別れを済ませろって言ったよな」
「はい。ですが、申し訳ありません」
「ばーかばーかご主人様のばーか! 友達との別れを一日で済ませるとかできるわけないじゃん! だから友達少ないんだよばーか!」
「そう、です。ハーフだった、頃には、わかりませんでしたが、惜別の、心は、そう簡単には、癒せません」
「本来ならば私みたいな半端者は留守番しておくべきなんじゃが、その、なんじゃ。……私の場合はカローラとの友情というか、お主に色々……ふん!」
「あ、私は行きませんのでご安心を。ルウィン様のお世話をするつもりです」
「今回は行く。どうにも聞いたことのある組織が関わってるみたいだし」
「
大所帯だ。
なんのために夜に出立すると思ってんだこいつら。ひっそり行くためだぞ。
正面から王国にたのもーしに行くわけじゃねーんだわ。そこんところよく考え……いや待てよ。
「お前らって確か全員ギルド登録してたよな」
「してる」
「一応だけどねー。依頼とかほとんど受けてないし」
「んじゃお前ら別行動な。銀閃のカローライナがパーティ組んだって噂になってこい」
得心が行った様子のカローライナとアサシン二人。わかってない馬鹿二人。
アウラニは……ああ、そういうことね。
「んじゃアウラニは俺組な。──ケル、ツゥ。んでカローライナ。お前らが保護者だ。デカい馬鹿と小さい馬鹿の子守りは任せた」
「誰が馬鹿じゃ!」
「誰が馬鹿だー!!」
はいはい転移転移。
いつかキンゾイ達にやったような他者を飛ばす転移。普段は"かへ゛ の なか に いる"が怖いからやんないんだけど、今回飛ばす先は何もないことが確定している場所なので良いだろう。
「嫌な予感がする。ヴェルグ、どこに飛ばす」
「勿論上空。いってら」
「気──」
消える五人。
訪れる静寂。
突かれるわき腹。
「王国が今日快晴なのは確認済みだから大丈夫」
「そういう、問題では、ありません」
「はいはい。……で、お前、まだ視えるって解釈で良いのか?」
「はい。どうやら、そうみたいです」
まだ視える。
それはケルに自爆の呪いがかけられていたあの日の話。
俺はそうだと知るまでわからなかったけど、シーファとアウラニは呪いが見えていた。
それがまだ使えると。
んでシーファも当然使えるから、二チームに分かれるなら二人も別々になった方が良いと。
「でも良かったのか。片時も離れたくない、みたいな感じだと思ってたけど」
「心で、繋がって、いますから。……天使の、私も」
「ああそうかい」
あぶねぇ、砂糖を吐きそうになった。
いつの間にそんなラブラブになったんだ。……いや、そういえばラブラブ変態ふたなりレズセックスやってたんだっけこいつら。そっからか。
脇腹に肘鉄が。大丈夫か俺の防御力にそれやって。痛いだろ。
「メアリー。もしかしたらここにパピルサグっつー聖獣……あれな、昨日捕まえた透明の奴。アレが来るかもしれん。そいつが来たら全力でホームに籠れ。お前じゃ勝てん。お前の本体でも勝てん。ルウィンでも勝てるかどうか怪しいレベルの奴だ」
「あれが? というかそれ本当に聖獣ですか? 災厄では?」
「まぁ大丈夫だとは思うけど、喧嘩売ったり揶揄ったりするなよ。通じないからな」
「ああ私とご主人様が一番好きなタイプ」
「そそ。んじゃ任せた」
「はい、いってらっしゃいませ」
アウラニを抱き寄せて、俺達も転移する。
転移先は──シアルル王国、王都、シアルル城上空。
「空は怖くないか、流石に」
「いえもう、飛べないので、怖いことは、怖いん」
「喋るのが遅い! ガイアスラッシュ!」
着地の勢いを殺すためにガイアスラッシュした、とかじゃない。それくらいの衝撃はこのボディで受け止め切れる。
今のは迎撃だ。
「アウラニ、離す気はないが、振り落とされるなよ。割と死地だからな、こっからは」
「いえ、私も、戦えますので、降ろしてくださ」
「戦士スキル:神速」
奇跡の命剣と逆手に持つシミターのような剣がぶつかり合う。
俺の方が強いはずの力は、けれど拮抗し……どころか押し返された。
いいねぇ、最初からバフ盛り盛りか! そう来なくちゃな。
「──フレースヴェルグ!!」
「違うって言っただろ。覚えろよ、スヴェロニカ」
「あ? ヴェルグの方か! お前には近づかないって取引は成立したはずだろ! お前から近づいてくるとは何事だ!」
「襲撃だよ、スヴェロニカ。シアルル王国をぶっ潰しに来たんだ。ちょいと俺の逆鱗を撫でられたんでね」
ぞろり、ずらりと出てくる王国暗部の面々。
けれどスヴェロニカのハンドサインを見るや否や散って行く。
「王国がお前の尾を踏んだって? 誰がだ」
「銀閃のカローライナ。そう言えばお前は理解するか、スヴェロニカ」
「……クソ、脱走したと思ったら帝国に行ったのかあのお転婆姫!! 最悪だ……考え得る中で最悪の選択肢を……!」
「最期の言葉は泣き言だったよ。"なぜですか騎士団長。最強と謳われた貴方が、なぜ……"ってさ。誹謗中傷も良い所だろ」
「……殺したのか?」
「おいおい、お前の感情の無さはどこ行ったんだよ。なんで怒ってるんだお前。怒れるようになって目出度いと褒めるべきか?」
「殺したのか!? ──答えろ!!」
焦り。不安。絶望。
本当に感情豊かになったなスヴェロニカ。ゲーム本編だと仲間の死を前にしても"あー、死んだか"くらいの反応だったのに。
こいつこそ別人なのでは。二人目のスヴェロニカ。じゃあ三人目もいるか。
わらえねー。
「ヴェルグ、さん。そろそろ、私は、限界、ですよ?」
「ん? ああ担がれてるのが?」
「いいえ。カローライナさんを、ああも想っている方を、不安にさせている、ことが、です」
「……ちぇ、良い子ちゃんめ」
遮断結界を張る。
これ夜だと目立つから階梯の間の方が良かったかな、とか思いながら、まぁ今更なので切り替える。
「カローライナは生きている。だが、全てを明かす前にお前の立場を明らかにしろ。お前は王族やシアルル王国の敵か?」
「敵なわけがないだろ。……ああクソ、そういうことか。俺達の行動が姫さんには怪しく見えた……当然か。保護できなかったんだから」
「そういうわけだ。まぁ脱走もカローライナの意思じゃなくて偶然の噛み合いなんでな、お前ら暗部が国の裏切り者でないのなら、話はスムーズに進むだろう」
「……それがそうでもねーんだよ。クソ、なんてタイミングの悪い……あとひと月でも待ってられなかったのかよ」
「ん? なんか今取り込み中なのか?」
スヴェロニカは座り込み、右手で顔を覆い……なんか恨みがましい目で俺達を見上げながら、言う。
「今大変なんだよ。……魔族が国内に侵入してて、変な薬物も出回ってて、人身売買組織も一生人攫いをしてる」
「人手不足か」
「どっかの最強がいなくなったせいでな。……まぁアンタに言っても仕方のないことだけど。だけど、言いたくなる気持ちも許してくれ」
彼は。
「侵入してきた魔族が口々に言うんだよ……フレースヴェルグが来るぞ、フレースヴェルグが来るぞ、魔族のフレースヴェルグが来るぞ、ってな。さっき勘違いしたのはそれが理由だ」
そんな言葉を。
「まずは宿の確保からだ。ケル、ツゥ。少し周囲を見てきてほしい。看板の類があれば教えてくれ」
「わかった。東へ行く。ツゥ」
「西ね。十分くらいでいいかしら」
「ああ、それくらいで戻ってきてくれ。見つかっても見つからなくても」
大馬鹿野郎に上空から落とされた五人は、けれど流石にその程度でどうこうなる面子ではない。
アサシン二人と戦士二人は軽量化スキルを、シーファは一瞬魔素を出して着地の衝撃を緩和。一応ぶつくさ文句を言いつつも、すぐに行動を開始した。
大馬鹿野郎の言う通り「銀閃のカローライナがリーダーとなってパーティーを組んだ」という方が都合が良いと合議し、カローライナが指示だしを担当。アサシン二人を斥候に、残った三人でできることをする。
「木材、集め終わったぞ。しかし良かったのか? 勝手な伐採など……」
「構わない。この辺りの樹は魔物だから、すぐに生える」
「なんと、樹木の魔物とな。ああいや、エイルニルス公国への道中の森にもおったな」
「自走できない魔物は結構珍しいんだけどねー。……カロち、こんな感じで良い?」
「良いというか、凄い出来だ。ここまで滑らかな切り口の岩が手に入るとは思わなかった」
王国は無理矢理円形の国土を得るために苦心してきた歴史がある。
故にだろう、国内にはだだっ広いだけの平原が数多く存在し、村と村、あるいは村と町の間に二日三日と馬車を走らせないといけない場所もある。流石にそんな辺境に飛ばす馬鹿ではないとは信じたい皆々だったけど、万一を考えてこうして野宿の準備もしているのだ。
無論、アサシン二人が何かを見つけてきてくれたら杞憂で済むのだけど。
「二人は、野宿の経験がないのか?」
「無いのぅ。国を追われて棘の森に捨てられていたことを野宿と言うのならあるが」
「私はあるけど、雨風どうでもいいし、食事も実はそんなに要らないから関係ないんだよねー」
「……反応し辛いな」
「すまんすまん。じゃからまぁ、その手際の良さには感動を覚えるばかりじゃ。テーブルと椅子と、雨除けの傘と……器用じゃの」
「王国の冒険者は野宿が珍しいことではないからな。必須スキルと言っても過言ではない」
「帝国もちょっと遠くに行くと野宿跡あるよー? ツバナちが行ってないだけ」
「む……まぁ私はまだお守り付きじゃからの」
木材や石材の運搬をツバナが、そのカットをシーファが、それぞれの素材の組み上げや仕上げをカローライナが。
てきぱきと進められていく野宿準備。
そしてそれは、報われる結果となる。
「戻った。ダメだった。周囲に目印となるものはない。ただ、馬車の轍は見つけた。道になっているかどうかはともかく、元道だったのは事実だと思う」
「こっちは収穫無しよ~。人が歩いた痕跡も無かったわ」
「……となると、ここは王国の北西側だろうな。かつて道があって、けれど今は使われなくなった場所。且つその他の場所に痕跡がない。……成程、ヴェルグはひと気が無いことを理由にここへ飛ばしたと見た」
「もう現在地がわかったのかの?」
「大体だがな。王国の北西側は一年前の魔族侵攻を受けて廃墟になった村や町が多いんだ」
「あら? 一年前の戦争は王国北東にある辺境伯領、じゃなかったかしら」
「帝国との衝突地点はモントルテンシュ辺境伯領であっているが、魔族侵攻を受けた地はこっちだ」
歴史のお勉強の時間……は、この辺にして。
「それで、アサシン二人。魔物はどうだった?」
「残念だけど、いなかったわ。いたのは樹木魔物ばっかり。それでも食べると言うのなら狩ってくるけれど」
「いや、あいつらは不味い。一度食べてみたことがあるが、腐葉土に似た味がする」
「何故腐葉土の味を知っとるんじゃ」
「戦闘中に吹き飛ばされて土が口に入ることくらいあるだろう」
「む……むぅ、すまん、余計な茶々じゃった」
いつも自分がされている茶々入れ。
会話を途切れさせないようにするのは中々難しいと、ツバナは変なところでメアリーの株を上げた。
「仕方がない。今日はできるだけ体力を消費しないようにして、王国へ向かう道中で魔物を仕留めて食べよう」
「そうね、それが──」
風が吹く。いや、違う。
月明かりが遮られて、影が落ちる。
これは。
「レイドホークじゃ! ……にしては巨大じゃが!」
「アサシンスキル:投擲」
「混乱のダンス!」
「戦士スキル:跳躍──からの、剣士スキル:唐竹割り!!」
食料だ。
ツバナ以外の目にはそれにしか見えていなかった。なお、レイドホークは大きくても体高一メートルくらいの怪鳥であるのだが、コレは目算十メートルを超えている──なんてことを気にする面子ではない。ツバナ以外。
鬼族としての怪力以外未だ取り柄という取り柄を持ち合わせていないツバナは、そこまで食料に興味がないシーファに肩をぽんと叩かれ、そのシーファもまた踊りスキルでのバフ・デバフに戻ってしまったから……一人寂しく、落ちてくる羽根などの掃除に勤しむのであった。
食事を終えて。
仮に五人が……四人が強かろうと、寝ずの番は必要である。
睡眠をそこまで必要としないシーファがそれを買って出て、これから先も戦闘で役に立てなさそうなツバナが供を申し出た。
ぱちぱちと焚火の炎が盛るそばで、二人。
割と珍しめな組み合わせが夜を過ごす。
「……お荷物じゃの、どこへ行っても……」
「誰も彼もに特技があるっていうのは無理な話だよーツバナち。というか特技のある奴隷をご主人様が集めたっていうべきだし。ツバナちは鬼の国の女王って称号の特別さを自ら捨てたんだから、それで嘆いても仕方ないって」
「……正論はやめてくれ、刺さる」
「え、今慰めたつもりだったんだけど……え、えーと、だからね? ツバナちはいじける必要ないんだよ。なんていうのかな、ツバナちは上を見過ぎ。それだけ背が高いんだからさ、下を見ろっていうのは違うけど、同じ目線に立ってる人を見る努力はしてもいいと思うな」
「同じ目線……」
種族特性以外、普通。あるいは並以下。
そんなツバナと同じ目線に立っている者。
「たとえば私とかねー」
「……嫌味か?」
「ん-ん。よく考えてみて。私の境遇とツバナちの境遇って結構似てるよ。故郷を追われて奴隷になって、自分の欲しかったものは欲されていないって状況はさ」
「お主には、魔素をコントロールできる特異体質があるじゃろ」
「でも私は性奴隷になりたかったんだよね。もっと雑に扱って欲しかったし、えっちなことたくさんしてほしかった。そのために奴隷になってた。……けどご主人様が私に求めてること、何だか知ってる?」
「いや……戦闘奴隷、ではないしの」
「魔素の実験対象。前に言われたんだー。同じ役割ができるなら、私じゃなくてもいいってさ」
「それは」
畳んだ膝に顔を預けて、前に回した腕の下からちょっと覗くように。
「……おんなじだよツバナち。私も要らないコ」
「……今の主はお主じゃが、シーファ。お主も私を不要に思うか?」
「ばーか。思うわけないじゃん。というか、一回友達になった相手を不要とか絶対思わないし。……ツバナちはね、ご主人様に毒され過ぎ。必要とか必要じゃないとか、役に立つとか立たないとか。そういうので自分と相手の関係って切れないんだよ」
火が躍る。
「私もツバナちも要らないコかもしれないけど、私もツバナちもいなくなったらみんな捜しに来てくれると思うよ? 要らないコなのに」
「今、自然に"そうじゃな"と返そうと思えたが……なんでじゃろうな」
「ツバナちもそれをみんなに思ってるから。……ツバナちは、背はでっかいけど、やっぱり一番小っちゃいねー」
「どういう意味じゃ」
「んー。わかんないとことかが、ってこと。よちよち」
「馬鹿にされとるのはわかったぞ」
「あんまり大声出しちゃダメだよ。みんな起きちゃうから」
「……むぅ」
魔族に生殖機能はないけれど。
子供が生まれたら、こんな感じなのかな、なんて。
シーファはちょっと大人の階段を昇った気がした。