アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
王国暗部作戦本部。
王国全体の地図がテーブルに広げられていて、その各所に印がついている。
「魔族の侵入経路と薬物の売買所、人身売買組織の移動ルート……この赤丸は?」
「騎士団長が昔よく行ってた場所だ。……これで本当にアンタがフレースヴェルグじゃねえって証明されたな」
「だからそう言ってるだろ」
……でもこれアレだな。
この赤丸、ゲームで用事の有った場所だな。イベント起きるとか買い物できるとか。
「こんだけわかってて、なんで根絶できない?」
「出回ってる薬物が問題だ。ご丁寧に人身売買組織も薬物密売組織も全員がこれを持ってる。こっちがいくら追い詰めたって関係ない、というか追い詰めれば追い詰めるほど奴らはすぐにそれに手を出して、狂暴化する」
「狂暴化。はっきり言えよ。魔化するんだろ?」
「……そうだ。何か知ってるのか?」
「アクラハイルはわかるよな」
「ああ」
「先日そこが地図から消えた」
「……神殿の粛清部隊か」
「そうだ。その理由が粉末魔素と呼ばれている薬物による魔化、及びそれによるパンデミック」
「そりゃ」
「そして神殿の調査によれば、粉末魔素の出所はシアルル王国の薬物密売組織」
「まず神殿の対応をしなきゃいけない、ってか」
頭を抱えるスヴェロニカ。
「そして俺が今聖王」
「……王国を潰しに来たっつーのは、まさか」
「ヴェルグさん、話が、進みませんので、情報を、小出しにするのは、やめてください」
「よし、簡潔に行こう。神殿が王国を潰す動きを見せたから最初に潰しておいた。神殿周りはもう安全だ。ただシアルル王国の薬物密売組織から粉末魔素が流出していることは確定。このままいけば周辺諸国のヘイトが全部王国に向かって、神殿の介入が無くとも王国が滅びるだろう。ぶっちゃけ王国が無くなっても俺は構わないんだけど、依頼を受けたんで助けに来た。薬物密売組織、人身売買組織、腐敗した騎士団、侵入した魔族……全部俺一人でやるってことはないが、助力する」
「あー……なんか懐かしいな。フレースヴェルグもそうやって"すでに解決していることをさも深刻な状況であるかのように話す"みたいなのよくやってた」
マジか。
自分でやっててなんだけど、今の俺相当ウザいムーブだぞ。慈愛と平和が大好きなフレースヴェルグ君がそんなことやってたのか。
「聖水の在庫はどれくらいある?」
「かなり使っちまって、今は二百ちょいしか残ってねえ」
「んじゃ五百やるからそれでやりくりしろ」
「助かる。ヴェルグ、優先事項を設定したい。まずは薬物密売組織だ。ここを潰さない限り、一生粉末魔素とやらが出回ることになる」
「仮称は?」
「あいつらはテンパランスと名乗ってたな」
じゃあゲーム本編と同じ組織か。
となると本拠地は。
勝手に地図に青丸を追加する。
「こことこことここ。三か所に同等の機能を持つ拠点を置いている。できれば全部同時に潰したい」
「……情報の出所は……今は聞かねえ。信頼できる情報なんだな?」
「お前が俺を信じられるなら」
「ならいい。聖水ありったけ持たせた部隊を一つ、俺が一つ、んでヴェルグが一つを頼む。速く終わったら俺がいない方に救援を」
「良いだろう。アウラニ、スヴェロニカ達に付いていってやってくれ。スヴェロニカ、こいつはまぁ金章冒険者くらいの実力だけど、呪いの類を見極める目を持ってる。出てくる情報の精査なんかは任せろ」
「よろしく、お願い、します」
「ありがたい。王国暗部スヴェロニカだ。よろしく頼む」
「アウラニ、です」
善は急げだが、流石にスヴェロニカ達には準備があるだろう。
「決行は今夜零時きっかりでいいか?」
「あと二時間か。……わかった、最速で準備を整える。敵戦力がわかったりはしないか?」
「それはわからん。粉末魔素がどれほどの効果を発揮するのかが未知だ」
「了解した。すぐに各隊を編成する。アウラニさん、こっちに頼む」
「はい。では、またあとで、ヴェルグさん」
「ああ、頑張れ」
部屋を出て行く二人。
……王国地図。
久しぶりに見たな。
さてこれをミニマップと照らし合わせて……あーまぁ敵対表示じゃないからだろう、組織の奴らはまだ青点。
だけど……魔族だろうか、赤点なのは。
一緒にいて大丈夫なのか? それともこいつらが魔素を完璧にコントロールできる体質の魔族? そんなにたくさんいるものなのか?
薬物密売組織テンパランス。
ゲーム本編においては興奮作用のあるポーションを王国内に流していた組織で、イベントフラグ自体は主人公が王国へ来た直後……ラヴ・グラットルを送り届けたすぐ後に立つ。伏線と言うべきか、ご丁寧に「酒は飲んでいないのに酔っぱらって暴れている奴がいる」みたいな説明をしてくれるNPCのガイドのもと、現場へ向かう小イベントがあるのだ。
その酔っ払い自体は道中のチュートリアル魔物より弱いんだけど、まぁ対ヒトガタ戦闘のチュートリアルとしての役割を担っている。
ただそこでのイベントはそこまでで終わりで、後々になって実は……みたいな感じの大イベント。
王国内で起きる暴力事件やおかしな動機・勘違いによる暴行、暴動、殺人事件のほとんどがこの薬物によるもの……なんだけど、なんていうのかな、こういう民事的な事件より魔物が起こすイベントだの災厄によって起きるアレソレだのの方がインパクト強いから、あんまり目立たない。
俺もどっちかというと人身売買組織の方が印象に深い。
テンパランスの三つの拠点。どこに親玉がいるかは完全にランダムだ。直前セーブでの検証をした奴が統計出してたけど、最終的に規則性無しに落ち着いていたはず。
最速で俺が一個潰してもう一つのところに転移、そこも潰してスヴェロニカのもとへ……が一番丸いが、相手は魔族。魔素のことを考えるとタイムアタックが必要になるレベルで素早く動かなければならないだろう。
……最悪鬼の国で見つけた方法で引き戻すことはできるけど、それができるということはできるだけ伏せておきたい。
いや。
そもそもそこまでしてやる必要は。
さて、決行の時間となった。
要らぬ混乱を避けるために俺は暗部と合流しない。まーた「フレースヴェルグ騎士団長!?」の件をやるのダルいから。あと魔族のフレースヴェルグが来るって言われてる状況なのも面倒。
一応、本当に一応顔隠しの目的で編笠を被って──転移。
「今日の稼ぎに乾杯!」
ビール瓶を掲げている男二名。全裸の女一人。襤褸布を纏い──俺を凝視している子供一人。
脅威度は確実に子供が一番だけど、とりあえず魔族を斬……いや、やっぱり子供!
転移前に使っておいたプリズムオーラを乗せた聖断。聖域こそ使っていないけれど、魔族特効をバリバリに載せたその斬撃が──止められる。
「む……お前達逃げろ。マズいのが来た」
「は?」
右手に持つ聖王の粛清剣は止められたけど、左手は空いている。
投げナイフ二つをアサシンスキル:投擲で男達へザシュ。スーパーノヴァは……ちょっと被害が出過ぎるので魔法スキル:ブライトホーンを全裸の女に放出する。
「
「やっぱブライトホーンだと一撃で殺し切れないか。最大主教スキル」
「聖騎士スキル:階梯の間」
……。
子供が使ったソレ。これにより俺と魔族は断絶された。
「クロマト聖の手勢か?」
「こちらの内情を知る者か。面倒だな」
「面倒はお前だよ。……そうか、連絡させる前に殺したのは不味かったか」
「なに?」
王国でパンデミックを起こさせて粛清部隊の対象にさせる作戦。
そりゃいるよな、潜入してる奴らは。頭が消えたってケータイだのなんだののないこの世界だ、伝達手段は直接会うとか手紙でとかしかない。
昨日の今日で、ってのは無理な話だったか。
「アモルファス聖は此度の王国侵攻を取り下げた。一秒やる。身の振り方を決めろ」
「ふん、そんなこと信じ」
「最大主教スキル:封印棺。……ああ、やっぱり階梯の間は消えないか。んじゃすまんな。お勤めご苦労さん」
術者自らが消すか、どちらか一方が天に召されるまで階梯の間は解除されない。
封印は召された扱いにならない。当然か。
棺を解除し、催眠で眠らせてから首を落とす。
靄のように晴れて行く階梯の間。外の魔族は……逃げたか。
「アサシンスキル:足跡ハイライト」
ネーミングもへったくれもないスキルだけど、実際そうなのだから仕方がない。
視界にハイライト表示される足あと。魔族……じゃないのか? さっきの女の足跡は普通の靴の形だ。魔化した人間か、まだ。でも魔族のフレースヴェルグを知っていた様子だったし……そもそもアダルトMODの影響で美女になっているだけで、元来は違う姿のはずだし。
わからんが追う……のは後だな。
「召喚士スキル:サモン:シーカーホーク。召喚士スキル:追跡。いいか、追跡だけだ。身の危険を感じたら自己送還しろ」
「ヘイヨー」
なんだか気の抜ける声を出しながら、全裸少女が窓を抜けて空に旅立つ。
セイントバードでも良かったんだけど、聖気出てると気付かれかねないからな。
んで俺はすぐ次の場所に転移。
──剣士スキル:回転切り。
転移した直後にそれを使う。ズバズバと斬れて行く美女たちと王国暗部の身体。
死んでいる、王国暗部の身体。
死者蘇生は……。
いいか。そこまでしてやる必要はないだろ。魔化もしてないようだし、神殿の残党もいないようだし。
さっきの神殿の工作員もだけど、自分のやるべき仕事をして死ぬのは無駄死にじゃあない。お勤めご苦労さん、って思うだけだ。
んじゃ次。
スヴェロニカとアウラニのもとへ転移──して、すぐ。
「聖騎士スキル:聖域、聖断!」
「デーモンスキル:魔域、黒剣」
聖王の粛清剣と魔剣リングバウル。巨大な瞳から刀身が突き出ている、みたいな剣なので、人体のものだってぱっと見でわからないのはちょっとありがたい。ただグロいだけの剣だ。
二つの剣のぶつかり合いは、双方が共に強く己を弾き合うことで終わる。
俺は頭から血を流して倒れているスヴェロニカと意識のないアウラニ側に。奴は息の薄い魔族……あるいは魔化した人間側に。
「お前か」
言葉は異口同音。
イントネーションまで同一。
「……はは、見れば見るほど……そっくりだ」
「ん、意識あったのかスヴェロニカ。じゃあ横の女担いで逃げな。俺の足止めはコイツで十分だろ」
「最大主教スキル:完全再生」
エリクシールをインベから取り出して飲む。
全快するMP。そんな隙のある行動を前にしても動かないソイツ。
どこが見れば見るほどそっくりなんだ、というツッコミはしない。わかるだろ、もう。
「スヴェロニカ、すまん。俺が行った拠点にいた魔族……恐らく魔化したての奴が逃げた。シーカーホークが上空から追跡してるから、そっちの対応を頼む。コイツは俺がやる」
「……なぁ、もしかして団長も同じこと言ってんのか? いや、それより……すまねぇ、ヴェルグ。守り切れなかった」
「構わん。俺の奴隷じゃないしな」
「馬鹿が、そういう問題じゃ……ああ、クソ。今すぐその背中蹴っ飛ばしてやりたいところだが、今は優先しなきゃいけないものがある。死ぬなよヴェルグ。そんで、できるなら……団長を頼む」
「確約はしない」
「それでいい」
団長。そう、団長だ。
アウラニに肩を貸して逃げていくスヴェロニカを見送るところまでを一緒にやって……互いに深いため息を吐く。
「フレースヴェルグ。お前が慈愛と平和を愛する騎士団長サマか」
「ヴェルグ。アンタが二人目の俺で、そんな痒い噂を信じてる純情野郎か」
「誹謗中傷も良い所だよ。アンタがそんな評価だったせいで俺までいい子ちゃんに見られてたんだ。迷惑千万。慰謝料を要求するね」
「こっちだって謂れのない罪で折角築いた魔族の中での地位が崩れかけたんだ。お前の台頭さえなけりゃ、今頃四天王くらいにはなってたってのによ」
「はん、なってどうする気だったんだ。内側から魔族を変えてやる、とか思ってたのか? ムリムリ、魔素をどうにかしない限り、魔族に自意識なんてもんは戻ってこないよ」
「そうでもないさ。俺が全魔族の頂点に立って、この声の望みを叶えつつ全魔族を滅ぼし尽くせば……少なくともあとは俺を殺すだけで良くなるだろ」
「結局王国に来てる時点で逆らえなかったってことだろ」
「それについちゃ返す言葉もないな。だが褒めて欲しいくらいだ。これでも頑張って魔素抑えてんだぜ? 実際スヴェロニカもあの変な気配の女も魔化してなかっただろ?」
「魔化してても問題なかったよ。俺は魔化した人間を人間に戻せるからな」
「……成程、少し安心した。どうやら二人目の俺は俺より優秀らしい」
俺だけど、やっぱり俺じゃない。
俺より人類を想っている。俺より魔族を嫌っている。
最長で一年前か、魔族化したのは。だというのにまだ自意識を……人間としての意識を保っているのは流石としか言いようがない。それでも体が勝手に、ってのは変えられなかったみたいだけど。
「そんな優秀極まりないヴェルグ、お前に頼みがある」
「戦闘姿勢取りながら頼まれてもな。なんだ?」
「俺は多分、もうダメだ。俺の意思とは無関係に、人間を殺し、同族を増やし、魔素を世界に撒き散らさねえと気が済まないような身体になっちまってる。だから殺してくれ」
「お前の帰りを待ってる奴がごまんといるぞ?」
「ハハッ、俺以外にも俺の代わりができる奴がいるだろ。お前とかさ」
「そりゃ同感だが、その役割を担うのは俺じゃあないだろうな。……その頼みを聞くのは吝かじゃない。だけど、こっちの質問に答えて欲しい」
「聞くよ。なんでも答える。戦闘しながらでよけりゃな」
斬りかかり。
俺のステータスゴリ押しとは違う、しっかりとした型を感じる剣筋。流石にステータス全般は俺の方が上だけど、技量は足元が見えないくらいあっちが上だ。
こういう手合いには短期決戦が一番なんだけど、俺が聞きたいことあるから防戦一方にして長引かせる。
「誰が死んだ。一年前の魔族侵攻で、お前について行ったのは誰だ」
「それ、俺にとっちゃそこそこのトラウマだぜ? お前心とか無いのか?」
「同情でほしい情報拾えなくなるくらいなら心なんざ捨てるよ」
「ハハッ! いいねぇ、それでこそフレースヴェルグだ。……あの日、俺についてきたのはエリス、タルバダ、キロン・シトロン、カルヴァーンだ。全員死んだよ」
「……成程」
最強ヒーラー、最強タンク、限定条件下でのみ最強になれる弓兵、万能サポーター兼アタッカー。
いないいないとは思ってたけど、やっぱり死んでたか。……カルヴァーンいないのちょっと痛いな。ドゥームス戦……いや、まぁ守る側になるなら関係ないけど。
「遺体は?」
「持っていかれた。魔王だ」
「綺麗な状態で残っている可能性は?」
「……綺麗な状態、というのが五体満足を差すなら、まずない。戦いの最中で惨殺された」
「心臓だ。心臓があれば多分いける」
「だから、本来なら四天王くらいまで行けてたところを、お前が出てきたせいで立場揺らいで行けなかったっつってるだろ」
動体視力だけで反応して防御して、を繰り返す作業。手の内を読むとか無い。つか無理。
コイツがどのルートを辿ったフレースヴェルグかわからない以上、スキル構成なんか知る由もないし、仮に知っていたとしても多分対策にはならない。主人公のAI、なんてものとはまだ一回も戦っていないから。
アモルファス聖とは何度も戦ってたのとカワードの横槍があったから楽に勝てたけど、さてコイツはどうするかね。
「デーモンスキル:蝋獄」
「ま……た、珍しいスキルを使うな。キャンドルデーモンしか使わないと思ってたけど」
「ああ、覚えられるデーモンスキルは全部覚えたよ。四天王も魔王も全員倒すんだ、それくらいはしないといけなかった」
魔族大陸のキャンドルキャッスルというところにしか生息していないキャンドルデーモン。シャンデリアの形をした蜘蛛とか、ロウソク型ウィスプとか、蝋で出来た人形とかが襲ってくる。
見た目はそんなハロウィーンチックなのに、ちゃんとした魔族……魔物ではない魔族なため魔素耐性が必要である他、炎属性魔法も使ってくるから割と面倒めの魔族群。
とかってキャンドルデーモンの話はどうでもよくって。
今なんつった? デーモンスキル全部覚えたっつった?
エッグ。
それは。それはエグいよフレースヴェルグ。天使スキルもデーモンスキルも理不尽スキルのオンパレードなんだからさぁ。
「デーモンスキル:黒イ犬」
「最大主教スキル:克服」
「へぇ、やるな。神殿のスキルだけじゃないのか」
「そういうお前は、デーモンスキル以外使ってこないのか? 人間だった時に覚えたスキルも使えるだろ」
「精神に蓋をして使えなくしてるんだよ。精霊力にはこういう使い方もあるのさ」
最強の騎士団長フレースヴェルグ。
殺すには惜しそうだな。知識量の桁が違う。ただ眷属の呪いが効くとは思えないんだよなー。
「最大主教スキル:封印棺」
「デーモンスキル:悪シ夜」
「天候変更スキル? 屋内で、封印棺相手に?」
封印棺は効かないかもなー、とか思いながらのスキル行使だったけど、思ってたのと違う避け方にびっくり。
悪シ夜は強制的にフィールドを夜にするスキル。だけど天体運行を操るとかじゃなくて、夜と同じ効果をその地に降ろす、みたいなスキルだ。王国の四分の一程を覆える範囲スキルだけど、今使う意味はなんだ。
「悪シ夜はデーモンの性質を持つ夜を召喚するスキルだ。それがこの部屋全体を覆った時、封印棺は何を対象にすると思う?」
「……成保。そういう躱し方があるのか。勉強になった」
「ああ、俺も魔族になってから知ったからな。知らなくても無理はない」
封印棺は発動している。棺の蓋は閉じている。
何も中に入れずに……いや、夜を閉じ込めて沈黙している。
これは、あれだな。
予定変更だ。すまんスヴェロニカ。
「戦士スキル:重圧。戦士スキル:威圧。戦士スキル:威嚇」
「ん? ああ、成程。それなら手伝える。デーモンスキル:ブラックオーラ」
「魔剣士スキル:ダークオーラ。魔法使いスキル:集束:脈動。魔法使いスキル:方向変更:内側」
「デーモンスキル:朱の印」
瞬間、落ちる。
この拠点の周辺に、あまりにも、あまりにも重い気配が。誰もが逃げ出したくなるほどの圧が。
ミニマップを見れば、蜘蛛の子を散らすようにして消えてく青点達。
どんよりとした濃密な気配。どっぷりと落ちた赤黒い翳。上空から見れば、王国のこの一点にだけ赤と黒を混ぜたインクが落ちている、みたいに見えるだろう。たとえ今が夜で、月明かりしか光源が無くとも。
「後ろの魔化した人間は、連れ帰る予定の奴らか?」
「どうやらそうらしい。俺の手下とかじゃない」
「そうか。なら良いな」
「……今聞こえなかったか? 俺の手下じゃなくて、王国の民草だと言ったんだ」
「だけどテンパランスのメンバーだろ。なんだ、最強の騎士団長様はそんな奴らにまで慈悲を向けるのか?」
「──二人目の俺は強大な力の代わりに倫理観っつーモンを失くした奴らしい。あぁ、面倒になるが、一瞬精神の蓋を外す。お前が悪いんだぞ、ヴェルグ。ああほら、魔法スキル:フレイムロード」
「魔法使いスキル:充填、遅延。奇術師スキル:バルブデュアル、バルブデュアル」
フレイムロードが俺の身体に直撃し、しなかった部分が背後の空間を焼き尽くす。
が、既に周囲に人はいない。家は何軒か倒壊、炎上しただろうけど、まぁ命よりはやすかろ。
而してフレースヴェルグは尋常じゃない量の魔法スキルを俺に撃ってくる……けど、バフ入れてない基礎魔法攻撃力での魔法なんざ効かん。
「神官スキル……は、無理か。今の俺の身体じゃ傷をつけるだけになる。……ち、次元スキル:転移門!」
「涙ぐましいな。けどいいのか? どこぞへ放り出そうと魔化した人間だ。人間を襲うか、魔素不足で死ぬか。どちらにしろ幸せな未来には程遠そうだけど」
「生きている限りなんとでもなる。それでも死を選ぶのなら俺は止めないが、意識のないこいつらの運命を俺達がどうこうするのは違うだろ」
「そりゃなんともまぁ、人間味のある答えだ。魔法スキル:スーパーノヴァ・コンプレッション」
集束:脈動、内側、充填、遅延。
魔法使いスキルで事細かに設定した通りに、スーパーノヴァが普段とは違う様相を呈してこの世に降誕する。
光の球体。
その奔流は全て内側に向かっていて、対象であるフレースヴェルグを中心へ中心へと追いやる。
魔化した人間の転移は間に合ったみたいだけど、まぁ後は野となれ山となれ。勝手に死ぬか討伐されるか、好きに選べ。
構造物無視設定をつけていないので、スーパーノヴァの球体はこの拠点の全てをかきむしる。そしてあらゆるものが消し飛んでいく。
フレースヴェルグ以外。
「飛ばすぞ。精神の蓋とやらを閉めろ」
「今やってるよ。……ほら、しまった。つーかお前、あんだけ俺の魔法直撃して無傷かよ。自信無くすぜ」
「何言ってやがる。バフ無し魔法なんか効くわけねーだろ手加減しやがって。そういうお前もスーパーノヴァ全く効いてねーだろ」
「同じ言葉を返すがな、ヴェルグ。お前直前にダークオーラ使っただろ。自分で光属性弱めておいてよく言うよ」
ならば、益を見出したのは互いに同じか。
いやだねぇ、そっくりさんってのは。
「魔族大陸のどこだ、お前の拠点」
「拠点らしい拠点は持ってねぇが、コールドスウォームに飛ばしてくれたら後はなんとかできる」
「壊すなよ? 俺あそこの景色好きなんだから」
「行ったことあんのかよ。魔族以外はほぼ死ぬはずなんだけどな」
「頂上でいいか」
「ああ」
次元スキル:絶対配置。虚数スキル:繰り込み。
一瞬で景色が変わる。
俺と、俺に配置されたフレースヴェルグ。そして球体のスーパーノヴァ。
セピア色の世界で、頂上……みるからに「ボス戦が始まりますよ」みたいなフィールドに佇む青肌全裸女の前にフレースヴェルグを置く。
流石にまだ虚数スキルの域には至れていないらしいフレースヴェルグは何の反応もしない。この時点で覚えてたらファントムがびつくりぎゃうてんしちまうからな。
……。
しかし、どうするか。
フレースヴェルグにも天女の羽衣渡すか、これ。
いやずっと我慢してたよ。言わないようにしてた。
魔族化したフレースヴェルグ。当然だけど──全裸美女になってるって、ずっと言わないようにしてた。
「やぁ、ヴェルグ。彼が一人目だね」
「ああ。一人目のフレースヴェルグ。見事に魔族化してるけど、意識は元の奴のままだったよ」
「それは凄いね。もう一年経ってるのに。……一応聞くけど、彼に関してはドゥームスも拒否すると思うよ?」
「別に良いよ。俺こいつに何の意味も見出してないし」
「ヒュゥ、流石ヴェルグ。情ってものがないね」
わざわざ出て来たファントムを見る。
……天女の羽衣。うーん、やっぱり、必要では。気が散らないもんそれだけで。
ただファントムは素直に着てくれたけど、フレースヴェルグは着るかなー天女の羽衣。目の前において置いたらこっちのスノーメノウにあげたりしそう。でも他人のアイテムボックスとか開けないからなー。
「お前こいつに接触することあんの?」
「ううん、ボクは基本的に虚数神殿から見える相手にしか干渉しないし」
「ふーん」
つまりファントムにそれとなく渡させるのもダメ、と。
……まぁ当分は会わないだろうから、次会った時でいいかなぁ。
「三人目は見つかったか?」
「見つけてないよ。探そうとも思ってない」
「そうか。楽しみは最後までとっておくタイプだったなお前」
「そそ。でもまだ芽吹きは終わってないって感じだよね。ボクが探さなくても名前が聞こえてきてたっておかしくないのにさ」
そうだ。
王国にいるのか、別の国に行ったのか。
三人目のフレースヴェルグがどうにかなってくれないとなぁ。俺も考え事増えちゃって面倒がなー。
「お前的にはどうなの? 人類が全員魔化した世界は」
「いきなりしてくる質問にしては考えることが多すぎるけど、嫌だよボクはその世界。魔族ってみんな短絡的思考になっていくから面白くないんだよね」
「そりゃ種族差別だろ」
「事実だよ。ボクがどれだけの間魔族と人間を見て来たと思ってるの?」
「シーファを見てみろよ。エロ特化の短絡的思考だぞ」
「じゃあそうじゃん」
「じゃあそうか」
……ダメだ。考えても天女の羽衣をフレースヴェルグに着てもらう手段が思いつかん。
呪いのアイテムにして外せない装備とかにできないかな。そういう呪詛スキルあればいいのに。メアリーとかマスカルウィンが覚えてたりしないかな。
「ああそうだ、イサカリって今どうしてるとかわかるか?」
「……。……? ……、……ああ! あの剣士か! フレースヴェルグの仲間の!」
「そうそれ」
「いや、観測してないから知らないけど、なんで?」
「フレースヴェルグ探しに魔族大陸に渡ったはずなんだけどな、フレースヴェルグこっちに来てたし、すれ違ったのか会えてないのか、アイツも魔化したのか」
「え、単身で魔族大陸に行ったの? 魔素耐性とかあるタイプ?」
「全然。純粋アタッカー」
「馬鹿?」
「まぁ」
「……もー。ボクの関わらないところでそういう馬鹿な行動するのやめてくれないかなぁ、勿体ない……。わかったよ、君に教えるかどうかはまた別の話だけど、ちょっと探しておく」
「魔族になって自意識無くなってたら教えてくれ。斬りに行く」
景色が後退を始める。
そろそろ時間か。
……フレースヴェルグ問題が解決したとて、まだまだやることあるからな。解決した……とも言えないし。
「じゃあな、ファントム」
「うん。三人目を見つけたら、色々急かしておいてね。早くしないと介入できる物語がなくなっちゃうからさ。ボクの方で用意したストーリーのほとんどを君が塗り潰すせいで」
「じゃーなー」
愚痴を聞くつもりはない。
そうして戻って来た場所には──当然、何もない。
王国の住宅街にぽっかりと空いた空洞。
さーて見つかる前にかーえろ。
今日(11/6)の夕方更新はありません。