アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
アヂ村。
カローライナ達が飛ばされた王国北西部から東へ進んだ場所に位置する小さな村に、彼女たちはいた。
とはいえここに長居するつもりのない一行だ。ある程度の食料と王国へのルートを聞き出して、さぁそろそろ出発しようか──というあたりで、ソレが起きた。
初めに聞こえたのは何かが壊れる音。続いて悲鳴。叫び声。
何事かと見に行く面子ではないものの、何事かはすぐにわかることとなる。
──民家を突き破り、漆黒の肌をした男……翼の生えた巨人が出現したのだ。
ジャイアントヘッドクレバス。その名の通り頭部に大きな切込みが入っている、紛う方なき魔族。
「下がって!」
一瞬で周囲が魔素に染まる。範囲はアヂ村を覆う程。シーファが全員に退避を促さなければ、ツバナなどは魔素に触れてしまっていた可能性があるほどに広い。
当然彼女らの周囲にいなかった……村の出口付近にいなかった村民たちは次々に倒れていく。渇水を訴えるように喉を掻き毟り、ァ、とか、ヵ、という音を出して、目を剥いて。
そして、それぞれが魔化していく。
背を突き破って出てくる骨の翼。肘から先が二股に別れた女。仰向けに倒れ、身体の側面から新たな手足を出して蜘蛛のようにかけ始める子供。
魔化だ。それも、かつてない進行速度の。
「魔法スキル:クレイウォール!」
「アサシンスキル:霧隠れ」
「風鎖!」
カローライナの土壁、ケルによる身隠し、ツゥの風でのノックバック付与。
ただ土壁は村全体を覆える量ではないし、ケルの身隠しもヴェルグのものと違って制限時間が短い。長居はできない。神官がいない以上、手立てもない。
あるとすれば。
「……いっちゃダメ、シーファ」
「うん。……可哀想だとは思うけど、流石にリスクが勝るかな」
魔族であるシーファにとっては、あの程度の魔素フィールドはなんでもないものであるし、魔化したての人間など種族階位の上がった彼女に敵うものではない。
だから沈静はできるだろう。
ただしそれは、シーファが魔族であることが露見するリスクを無視した場合の話だ。
奇跡的に生き残りがいたら。あるいは別方向から誰かが駆けつけてきたら。
魔素の濃いフィールドを当然のように歩き、魔素の棘を使って戦うシーファが見られてしまう。
どれほど無害なシーファであっても魔族は魔族。彼女と交流を持たぬものからすれば討伐対象以外の何物でもない。加えて言うなら、シーファは無害ではない……れっきとした魔族であるし。
ただ問題は──カローライナだ。
彼女は損得勘定だけで物事を考える。それは間違いない。
だけど彼女は第二王女であり、シアルル王国を想う"上に立つ者"。常識から「魔化した民草は救えない」ということは知っていても、それを放置してさらに被害が増えることに目を瞑る、というのはまた違う話で。
「カローライナ、行くよ」
「カローライナさん。気持ちはわかるけれど、今……手立てがないわ」
「ああ……わかっている」
わかっていない顔だった。
固唾を飲んで、拳をぎゅっと握りしめて。
だから──だれかの食指を動かすことには、成功したのだろう。
「みーつー」
遠方。何かが爆走してくる。
何かがこの土壁に向かって突撃してくる。
「け──ぇ、た──ぁ──」
それは五人が制止をかける間もなく土壁の前で急ブレーキをかけて、そしてその拳に──聖気を滾らせて。
爆発的な跳躍をする。
「だぁぁぁりゃああああああ!!」
「──!」
破壊される。
カローライナの張った土壁が、内側から。
ジャイアントヘッドクレバスの拳によって、だ。爆走してきた何かの攻撃でじゃない。
けれどその二つは示し合わせたかのように克ち合って──弾かれる。
双方が。
「っ……足りない!」
弾かれ、カローライナの近くに着弾したのは少女だった。
金髪の少女。「この世界には希望しか満ちていない」とでも言いたげな瞳はきらりと輝き、周囲の全てが見えていない様子でただ一点にジャイアントヘッドクレバスを見つめる。
ジャイアントヘッドクレバスもまた、仰け反った身体を立て直し、己が敵を見定めた。
周囲にいた魔化した人間を散らし、轟音と共に掌に拳を打ち付けてファイティングポーズを取る。
「……へぇ、やろうって? いいじゃん、魔族の癖に、話が分かるね。──殺す気で来てよね! じゃないと燃えないから!」
「──!!」
踏み込み。
互いに違い過ぎるリーチを、しかし互いにものともしない。またもほぼ同じ場所での拳の衝突は、魔素と聖気を周囲に叩きつける。霧隠れの中で、こっそりとシーファを自らの背後に隠すツバナ。
「
何も答えず、けれど折れた中指を見せるジャイアントヘッドクレバス。
双方、嗤う。互いの勲章を見せびらかすように。
そしてまた構えて。
「まだ身体出来上がってなくてごめんね! でも次があたしの最強だから! そっちも最強で来て!!」
オオオオ、と唸り声をあげるジャイアントヘッドクレバス。
集中する。
魔素と聖気が、互いの拳に集約し。
一瞬、音が消えた。
直後大気を叩く轟音。雷が落ちたのかと錯覚するほどに鼓膜を震わせるそれは、そのすぐ後に響いた骨の折れる音と身体の落ちる音で上塗りされた。
ジャイアントヘッドクレバスはその右腕をだらんと下げて。
金髪の少女はまた弾かれて……そのまま何も言わなくなる。
オオオオと勝鬨を上げるジャイアントヘッドクレバス。
「だから先行くなって言ったのに、あのバカ娘が!」
そんな魔族の頭部にハンマーがぶち当たる。どうやってそこまで上がったのか、そしていつ現れたのか。
目に付くはそのガタイの良さ。筋骨隆々で申し訳程度の三つ編みを後頭部に携えた女性。
彼女が魔族の頭部にフルスイングのハンマーをかましたのである。
「ゴロンド! そっち倒れたよ!」
「ああわかってる! 戦士スキル:シールドバッシュ! 大盾!!」
ジャイアントヘッドクレバスの身長ほどもある大盾──真白の幻影によって形作られたそれが、頭部を殴られて倒れた魔族を前方へ吹き飛ばす。
「ユナ。ラヴの治癒を頼むよ」
「はい!」
白銀のグリーブが地を踏みしめる。
彼に向って倒れてくる巨大な魔族。それを正眼に捉えて──切り上げの一閃。
無駄な呼気も叫びもない。
ただひたすらに静謐な一撃。聖剣コルネリウスによるその斬撃は、魔族の身体を両断する。
「アニス! 聖石を!」
「もうやってるよ!」
今だ空中に留まっているハンマーを持った女性が、アヂ村に向かってキラキラと光る石を投下していく。
それから逃げ惑うように魔素が散り、さらにさらにと落ちてくる石によって雲散霧消する。
「カラジェット! ダメだ、全員魔化してる! もう救えん!」
「そうか。……すまない、私は貴方達を救えなかった。これよりすることは、せめてもの詫びと思って欲しい」
腰だめに聖剣コルネリウスを構えたカラジェットが──瞬きを挟んで、既に剣を振り抜き終わっている。
「ガイアスラッシュ」
追いついてきた声。共に、上下に泣き別れる
カローライナのクレイウォールもツゥの風鎖も、すべてを無視した横薙ぎが村を割断した。魔化した人間たちも、残っていた魔素も、全て。
「魔素中毒は抑えられました! ラヴさんは無事です!
「良かった。……それで、いつまでそこで覗き見している気なのかな、貴女達は」
ケルの霧隠れとて決して練度は低くない。持続時間がおかしすぎる馬鹿がどっかにいるだけで、アサシンスキルとしてみれば既に頂点に近い練度を誇っている。
けれど見抜かれた。
青年は──カラジェットは、まっすぐにケルを見ている。
霧隠れを解くケル。
「! 君は……それに、銀閃のカローライナ?」
「場が混沌とし過ぎている。全員集めてから一気に話をする。それでいいか、勇玄」
「ああ……わかった。アニス、ゴロンド! 武器を聖水で清めてから戻ってきてくれ!」
さて、では。
何が起きたのか──何が起こっているのか。
話し合いの時間だ。
曰く。
「今、王国内ではある薬物が流行していてね。ブラックパウダー。聞いたことは?」
「すまない、しばらく王国を離れていて、今帰って来たばかりなんだ」
「そうか。わかった。……ブラックパウダーは炭を細かく削ったような真っ黒な粉でね。その場にただあるだけなら問題はないんだけど、人間がそれを摂取すると狂暴化……最悪の場合は魔化する。いいや、魔族になるケースもある」
「それは……つまりさっきのジャイアントヘッドクレバスは、それか」
「銀閃のカローライナ。君はその現場を見たのかい?」
「直接じゃないが、あそこにあった民家からジャイアントヘッドクレバスが出現するのは見た。恐らく住民の誰かがそのブラックパウダーを摂取したんだろう」
「だろうね。私達はブラックパウダーの密売人から聞き出した販売ルートを一つ一つ潰して回っている最中で、アヂ村もその一つだったんだ」
ここへ来た経緯。そして。
「大体は把握した。だが勇玄。イグニスに格闘家などいたか? 新メンバーか?」
「いいや、彼女は……なんというか成り行きで一緒に行動をしているだけだよ。まだ銅章冒険者なんだ、こんな危ない仕事に連れてくることはないしね」
「それよりお前だろう銀閃! 常に孤高であったお前が仲間など! 驚いたぞ!」
「お前はいつもうるさいなアニス・ウォーズマン……。まぁ、こっちも色々あったんだ。それに長期パーティというわけではない。私が王国へ帰るから、目的地が同じ、という理由で組んだ臨時パーティだ」
「……わかった。とにかくあまり時間が無いから、深くは聞かないでおくよ」
こくりと頭を下げるケル。
ヴェルグの関係者で帝国の民であるケルが王国を目的地とする。
カローライナは気付いていないけれど、さぞ複雑な事情があるのだとカラジェットは察した。
「時間がないというのは、何故だ?」
「販売ルートはまだたくさんあるんだ。今回は間に合った……と言うのはアヂ村に礼を欠く言葉だけど、私達の知らないところでこういう事態になって、そこから魔族や魔化した人間が溢れ出る……という結果はなるべく抑えたい」
「承知した。時間を取らせて悪かった。そしてすまない、私達には魔素への対抗手段がない。力にはなれない」
「問題ないさ。ただ……一つだけ」
「来ている。これでいい?」
「……! ああ、それは……心強い」
主語の無い会話は、けれど通じ合えば問題ない。
「アニス、ラヴをお願いするよ」
「いいだろう! なんだったらここで銀閃に押し付けるのも手だと思うが!」
「いや、起きたら彼女たちから離脱して勝手に他のルートを潰しに行きそうだからね。ある程度彼女のカバーをできる私達が共に居た方が良い」
「子守りは大変だなぁ、カラジェット」
「原石を見逃す程私の目は曇っていないつもりだよ」
原石。
ラヴと呼ばれた少女。未だ意識のない少女。
銅章冒険者でありながら、特別な武器もないのに聖気を操り、魔族の腕を一本持って行った少女。
成程、これを原石と言わずして何を、だ。
「……なんでわかるかは聞かないで欲しいんだけど、あっちに魔素の濃いフィールドがある、と思う。行くなら急いだ方が良いよ」
ずっと黙っていたシーファが告げる。それは彼女だからわかることだけど、あるいは彼女の正体を晒すような行為でもある。察しの良いカラジェットを前にそんなことをすれば、何が起きるかなどわかっていただろうに。
ただカラジェット。彼は空気も読めるし間違えもしない男である。
「情報提供、感謝するよ。──みんな、全速力で行くぞ! ユナ、疲れたなら私が背負うが、どうする?」
「だ、大丈夫です! まだまだいけます!」
なら、と。
今度はツゥが口を開く。
「ツバナさん、前に話したアレ、上手くできるようになっているかしら?」
「む……まぁ、できるが」
「それは良かったわ。じゃあ、えーと、イグニス、の皆さんで良いのかしら」
「ああ、何かな、お嬢さん」
「貴方達、戦士スキルの軽量化は使える?」
「無論だ。ユナ以外全員使えるよ」
「じゃあユナさんはカローライナさんが軽量化して頂戴」
「ええと、まずは何をするつもりなのか聞かせてくれるかい? お嬢さん」
簡単よ、と。
ツゥはにっこり笑って。
「目的地に最も早く辿り着ける手段。シーファさん、正確な位置がわかるなら、距離もお願い」
「え、うん。……え?」
ぐるぐると腕を回し始めたツバナ。角度の計算を始めるケル。
なんとなく理解して顔を蒼褪めさせているユナ。
「大丈夫。私達も昨日経験したばかりだから──いってらっしゃいな、空の旅」
その日、イグニスは空を経験した。
「すまねぇ、ヴェルグ。魔族の女ってのは見つけられなかった」
「シーカーホークが自己送還を選んだのを見るに、やられたか増援があったか。……なんにせよテンパランスはほぼ崩壊したと言っていいだろう」
あの魔族だか魔化した人間だかが魔素を完璧にコントロールできる奴じゃなければ、だけど。
ただ既に出回った粉末魔素はどうしようもない。これから起きる魔化パンデミックについては地道に潰していくしかない。
「アウラニ。王都をざっと見渡して呪いがどうとかわかるか?」
「……すみません、お役に、立てそうに、ありません」
「いや、無理を言った。……だがまぁアレだ。スヴェロニカ。一気に問題は二つ解決したから、ちったぁ楽になったと思うぞ」
「テンパランスとフレースヴェルグ、か。……確かに半減したが、山積みなのは変わりねえ。つーか、そう、そうだ、聞き忘れてたがお前ヴェルグ、あのお転婆姫をどこへやった? まさかとは思うが一緒に来たりしてねぇよな。帝国……に置いておくのもちと問題だが」
「王国北西部に転移させた。なんもないとこだから大丈夫だろ」
「……」
王国北西部の地図を見ても、印は何もついていない。魔族もいないし密売組織や売買組織もいないってことだ。我ながらナイスチョイスだと思う。
「最悪だ……」
「お前最悪だって言えば俺が悪いことにできると思ってね?」
「じゃあお前考えてみろよ。北西部に転移した奴が、通常通りの思考でどこをどこをどう通って王都に辿り着くのかを」
「そりゃ北門通って……」
……。
北門近辺にある、バツバツバツバツ。
ふむ。
「人身売買組織の仮称は?」
「エスカポーラス」
「あー……んじゃ俺北門で先にそいつら潰してくるわ」
こっちもゲーム内での呼び方と変わっていない。
なら拠点も同じだろう。ただ一人強いのがいるからなぁ、ツバナとケル、ツゥは多分勝てない。上手くやれば仲間にできるNPCってだけあって、伸びしろエグいんだよな。
「スヴェロニカ。お前はエリック・サンダーソンをなんとかしろよ。アイツがいる限りカローライナは何度も狙われ続けるだろ」
「腐っても騎士団長の後釜だぞ。そいつが魔化したらどうなるかわかるだろ」
「……じゃあ俺が行くか? 俺のこの顔で、王家がうんといる王城内を通り抜けて、エリック・サンダーソンを闇討ち?」
「暗部の面をやるよ。それでいいだろ」
「諸事情で仮面の類付けられねえんだよ」
「なんだ諸事情って」
なんだろうねぇ。
まさか魔物や魔族が全裸の美女美少女に見える呪いなわけがないもんねぇ。
「……いや、そうだな。いい方法が一個ある。アウラニ、頼まれてくれるか。ちと危険ではあるが」
「はい。お役に、立てなかった分、取り返します」
「スヴェロニカ。お前が北門の方へ行ってくれ。俺がエリック・サンダーソンを殺す。……一応聞くが、もう裏は取れてんだよな?」
「ああ。いつでも死罪にできるレベルの証拠がある。ただ公にした瞬間に魔化したら、と思うと二の足を踏む」
「踏んどけ踏んどけ。死んでりゃ関係ないだろ」
さて──んじゃ。
スピーディに行こう。俺はこういう作戦フェーズあんまり好きじゃないんだ。だって手元に解決できる力があるんだもの。まずはやろう。やってから考えよう。な?
さて、作戦は非常に簡単である。
まずアウラニがエリック・サンダーソンに近づく。残念ながら今の彼女には魔素の感知は難しいとのことで、普通にエリック・サンダーソンに会いに行く。つかず離れず暗部が彼女の護衛及び誘導役を担い、そうして辿り着くは騎士団長室。
正直マジかって思ってる。堂々としすぎだろ。
あとはその青点に向かって俺が転移で飛んで──もいいんだけど。
折角だし、あと混乱を余計な混乱を考えると色々俺が面倒だからさ。
「召喚士スキル:サモン:カワード」
「……こんなに早く、用?」
「呪詛スキル:眷属:行動制限:全力退避、よしカワード、今共有したマップの建物にイノセントレインだ」
「……魔素の気配する。やる気は、出る」
数秒の溜め。
その後に放たれる――極光。
それは一度天へと上り、そして。
「……流石。消し飛んだな」
「こんなに潤沢な魔力。久しぶりだから」
「ああ俺の魔力勝手に食ったのかお前。……良いけど次やる時は断り入れろ」
「わかった。還るね」
自己送還するカワード。
なんだ。ちょっと扱いづらいなアイツ。というかアレか、魔素に怯える必要がなくなったから、臆病じゃなくなった感じか。そんで逆に欲張りって言うか図太くなったっていうか。
窓から見える騎士団の詰め所。騎士団長室のある端の塔のその全てが無に帰っている。と言うか多分あの下大穴空いてる。
ふ……洞窟内でのビームより大陸全土に向けて放たれるビームの方が威力高いのはゲーム時代に知ってたからな。俺の聖気耐性でも防ぎ切れんダメージが入るんだ、人間なんて蒸発必至だろう。まぁ聖気耐性で防ぎ切れないだけで防御スキル組み合わせればノーダメいけるんだけど。
紛い物であっても神と崇め奉られるだけはある。
カワード。これから面倒な時はメインウェポンに使ってもいいくらいの火力だな。
「ヴェルグさん」
「帰ったか。……どうした、一応人が死んだってのに、なんでそんなにこにこしてるんだ。頭ヤったか、アウラニ」
「はじめに、説明を、してください」
「しただろう。お前が囮でマーキング係。あとは俺がやるって」
「その時は、転移で、ヴェルグさんが、来ると。そう、言っていました」
「気が変わることくらいあるだろ。特に王家の連中にこの顔を見られるのは面倒なんだよ」
「じゃあ、初めに、思いついて、ください」
「無茶言うなぁそりゃ。初めに思いつかなかったから今思いついたんだろ」
俺のやることなすことに突っかかってたらキリ無いってもうわかってるはずなのに、なんで今回だけこんなに怒ってるんだ。
……あと何で涙目……ん-? 怖かったとか? いやいや自分……元自分であれの倍以上の聖気使ってただろうに。
「
「ああ。成程ね」
一瞬でも期待したわけか。
無いとわかっているのに、なまじ先日手紙が届いたばかりだから。
……知らんがなだけどもさ。
「怒ってても怒ってなくてもどっちでもいいけど、そろそろ行くぞ」
「どこに、ですか?」
「どこって北門だよ。スヴェロニカに押し付けてはい終わり、で済めば楽だけどな。まだ魔族も粉末魔素も残ってるんだ、安心はできないだろ」
言えばパァと顔を明るくするアウラニ。
なんだ?
「はい、行きましょう。すぐに、行きましょう」
「……ああ、シーファに会えるからか? なるほど、ラブラブ変態ふたなりレズセックスの効果はそこまで」
「呪詛スキル:自爆」
「効かんが、人の股に自爆の呪いかけようとするのはやめろ」
照れ隠しにしちゃ物騒すぎる。
つーか呪詛スキルって。新しいジョブ呪い師にしたのか。元天使が呪詛スキル……闇堕ち感あっていいな。
「今回は、いつもより、面倒くさがって、いないようですが、どうして、ですか?」
「依頼だから。これでも白銀章冒険者なんでね、"助けてください"なんて依頼だ、カローライナが本当に助かったと思うまでは助力するよ。出来ないことは言わない主義ってのは、そういうことでさ」
「……少し残念ですが、今回は、その回答で、良しとします」
「何の話だ」
「目指せ、ヴェルグさん、人間性、獲得、です」
「まるで今無いみたいに言うじゃん」
どうでもいいものとして扱っているだけであるにはあるよ。
まぁ勝手にしてくれたらいいけどさ。
んじゃ──転移転移。
「ん、来たか」
「なんだ、全部終わらせたのか?」
「ああ。粉末魔素も要は飲ませなきゃいい話だってわかったんでな。懐やら腰やらに手を伸ばした瞬間に手首斬ればどうにかなる。俺以外の連中もアサシンスキルに長けてんだ、投擲で腕の腱を斬るくらいわけねーんだよ」
転移した先は、もう、それはもう血みどろ、血だまりの血の池地獄だった。
スヴェロニカの言う通り倒れている者達の手は投げナイフが刺さっていたり手首そのものが無かったり、いやそれはもうそれはもうだ。それはもう過ぎてそれはもうしか言えん。
そして安心した。やっぱりこいつはスヴェロニカだ。顔色一つ変えてないあたりが流石スヴェロニカだ。
「カリギュラは?」
「……人名か?」
「ああそう。カリギュラっていうエスカポーラスの護衛……っつーか用心棒みたいなことやってる奴がいるはずなんだけど、そいつは」
スヴェロニカの口が「見てねえな」という風に動く。
けれど声は発せられない。なぜって飛んだから。
真一文字に斬られた彼の首が、ぽーんと宙を舞ったからだ。
キャッチして完全再生を使う。
「──っは、っはぁ!?」
「ああやっぱり、斬首でも即死判定にはならないんだな。心臓が核か、この世界は」
「今どっから斬られ、ガッ!?」
左胸。
心臓を貫いて刀が出てくる。ああ余計なこと言ったか俺。ダメだな、考えは口に出しちゃあ。
「そんでチョイスミスだ。狙うなら先にアウラニにすべきだったな。俺にそんなん刺したらそっちが刃毀れするよ。んでもって、神官スキル:死者蘇生」
「ぐ……ぅ」
「スヴェロニカ。出来る限りのバフを自分に盛れ。それでギリギリ渡り合えるくらいだ。相手はAGIとDEXが人間の域じゃねえから、感知系最大で行け」
ご丁寧に、と言えば良いのか。
俺のアドバイスに従ってアウラニを狙うカリギュラ。ただ、流石に「そうだ」と聞かされた上での対応じゃ、不意打ちにはもうならない。
一気にバフを……自身の使えるバフを全盛りにしたスヴェロニカとアウラニ。だからだろう、彼女の身体に生傷は増えていけども、致命傷にはなり得ない。
……その、なんだ。
少しずつ破れていく服は、その、傷があるから激痛系であんまり抜けないんだけど、破れていく服の方は、その、なに?
あれだ。なんだ。……大破、みたいなさ。なに? 俺は中破くらいが一番エロいと思うけども。いや何言ってんだって話だけどもさ。
「見えた!」
「!」
感知系、知覚系バフを全盛りにしたスヴェロニカが何かを掴む。
そのまま掴んだそれを大きくぶん投げた。ばふんと舞う肌色の粉。……ああ、小麦粉か。小麦もね、魔物だからね……。
「……女? いや、子供……?」
「
「知らねえ渾名だな。外国の傭兵か?」
「いや、一応王国のギルドに所属してたはずだけど、ただ無名なだけだろ。コイツ人と話すの苦手だから依頼とか受けられないだろうし」
小麦粉が爆発する。
その肌色を纏った小さな影が俺に突っ込んできて、粉を振り落としたナイフが俺の眼球を捉える……が。
「イサカリで斬れなかった目をお前が斬れるわけねーってな」
「!?」
ガチン、という眼球と刃物がぶつかったとは思えない音がして、刃も、そして影も止まる。
いや先端恐怖症だったら失神してると思うよこの絵面。でもノーダメなんだなーこれが。基礎防御力さん最強!
「ヴェルグ……そこは大人しく斬られておけよ。そこまで行くと人間じゃねえだろ」
「何言ってんだ。眼球なんて露出した弱点柔らかくしてる方が馬鹿だろ。首とか関節とか、柔らかい場所こそ防御力上げないとな。そんなんだから簡単に死ぬんだぞお前達」
「呪詛スキル:釘打ち藁」
お。
アウラニの眼前に出現した藁人形。
彼女がそれに釘を打つ──寸前、彼女に向かって駆け出した影……の足を掴んで転ばせるヴェルグ君。
ガン、という音と共に釘が打たれたが最後、影と彼女の間に消えないパスができた。
「アサシンスキル:弛緩!」
「……! ……戦士スキル、ウォークラ」
「おら、黙っとけ坊主」
ザク、と。
引き倒された影の喉にナイフが刺さる。
さもありなん。
マスカルウィンのように「子供だから」という理由で殺害を考えない面子がここにいない。アウラニだって普段は慈愛、って感じに振舞ってはいけるけれど、既にちゃんと冒険者だ。
闘気と殺気を失わない凶手の処理手段なんかわかりきっている。
「ヴェルグ、情報の小出しはやめろ。他は?」
「こいつがエスカポーラスの奥の手のはずだ。人身売買の末にどこぞから取って来た最速の剣士」
あるいは。
アサシンじゃなくて剣士だしな。
「ふぃー……んじゃ終わりか。ああよかった、姫さんらが来る前に終わって」
「まだ粉末魔素の件が残ってるだろ。根絶するまで気は抜けないぞ」
「それはそうだが、本来こういう表沙汰の奴は騎士団が……ってああ、それもか。エリック・サンダーソンは?」
「消滅した」
「んじゃあとは騎士団内部にいるエリック一派の掃討か」
──視界の端。
一応、という保険に浮かべておいた眷属メニュー。
そこに表示されたカローライナとシーファのHPが──共にゼロになった。
直後何か、びりびりと鼓膜を叩きつける音が……声が響き渡る。
「先に行く。スヴェロニカ、アウラニ。自分で体力回復してから来い。準備は整えていていいぞ」
返事は待たない。
奴隷二人の位置に転移すれば、そこには。
「……何もない? それに、誰も」
いない。
いなかった。