アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
ラクニシェルというNPCがいる。
こいつは昨今のRPGでは珍しい、「装備持って途中離脱する挙句帰ってこない」タイプのパーティメンバーだ。昔はよくいたそういうキャラも、今ではあまり見かけなくなっていたからプレイ当時は酷いヘイトを向けたものだ。
ただそういうキャラなだけあって素のステータスが高く、序盤中盤のお供としては最強に等しい存在だった。
ラクニシェルの装備は打杖という、まぁ殴れる魔法杖。所謂臼魔と呼ばれるような戦闘スタイルで、パーティ全体に回復を使いながら自分は殴るし打たれ強い……今考えてみればまぁそら途中離脱するわな、という優遇っぷりのキャラクター。
さて、何故ラクニシェルが途中離脱するかというと、彼女が亡国アンダーテイカーの住民であったから、というところに起因する。アンダーテイカー攻略後「ごめん、お前たちの旅にはもうついていけない。……探さなきゃいけない人がいるんだ」という台詞を残し、アンダーテイカーから出ていく主人公たちと反対方向に走り去っていくラクニシェル。
彼女を追いかけてアンダーテイカーに戻っても彼女の姿は無く、アンダーテイカーを出た後、彼女に会うことは完全にできなくなる。
……が、裏ボス攻略前。つまり二周目のラスボス攻略後に裏ボスへ直行せずにアンダーテイカーへ行くと、その最深部で何かグロい遺骸のようなものを抱えて襲い掛かってくるアンデッドのボスに遭遇する。
名をそのまま「アンデッドクイーン」。戦闘スタイルは常時リジェネと恐ろしいまでの物理攻撃&物理防御によるガン攻め。彷彿としない方が無理だろうというそのスタイルは、涙を禁じ得ない前に強い強い。育てているパーティメンバーによってはラスボスより強いとかいう恐ろしさ。
それをなんとか撃破すると、ドロップアイテムとして「戴冠の杖」という装備が手に入る。グラ的にも性能的にもラクニシェルやアンデッドクイーンが持っていた杖とは違い、じゃあこれはあのグロい遺骸から出て来たものなんじゃないか、というところまでの考察が為されていた。公式からの回答は相変わらず無し。
で。
「これ、ですか? これは戴冠の杖と言って……私の騎士が、この国の滅亡前に預けてくれた、大切なものなんですの」
まぁここに繋がるのである。
……あの遺骸、リアかー、って。
「……主。平気?」
「平気かどうかと問われたら、まぁ平気ではないな。あまり……長居したいとも思えない光景だ」
「で、でしたら、良いのですよ。私の国は……もう。ですから、この弔いに意味なんて」
今、俺達は亡国アンダーテイカー……を見下ろせる崖に来ている。
あの夜、リアは、アンフェルミーナ・リアライズ姫は確かに言った。「もしできるのであれば」と。
ならまぁ、やってやらんこともない。
別に魔物を、全裸の美女美少女を斬れない、という考えが変わったわけじゃあない。つーか今見てる美女美少女の死体たちだけでも結構キてる。
でもなー。
できる力があって、今尚苦しんでいる命があって。
それを成仏させるのが心苦しい、ってのは……ちょいと違う気がしたんだ。生きてるのを斬れないのはその通りなんだけどさ、死んでるのを楽にしてやるのは別だろ、って。
「ケル。リアを守れ。何があってもだ」
「わかった。主は?」
「近づくな。邪魔だ」
一息を吸って。
跳躍から──アンダーテイカーのど真ん中に着弾する。
何があったのだろうか。暴動か襲撃か、破壊された噴水と像の真横に着地した俺の視界に入ったのは、灰色肌の少女美少女美女少女。ちなみにこのアダルトMODは雄でも魔物は漏れなく女化するので、全員が女の国、ってことは無いと思う。
皆一様に。
首を切られていたり、腕が無かったり、腹に穴があったり、全身が焼け焦げていたり──。
あらゆる死因を以て、死んでいる。
……MOD入れてない時はグラ二種類くらいしかなかったのになぁ。
「問う」
意味のない問いかけだ。どうせ相手は魔物。ヒトガタをしていても意識などない。
それでそうしたいと思ったのは、俺が転生者だから、かね。
死して尚も魂はあるという存在証明が俺だ。だから、この世に留まらざるを得なかった者達へ問いをかける。
「お前たちの姫の安堵は──未だこの世にしがみつき続けるお前達への手向けとなるだろうか」
返事は勿論ない。
それでいい。喋られたらモチベ下がるし。だからこれは、自己満ぞ──。
「モ……チ、ロン、ダ」
「……アノオ、カタノ、ナミダ……ナド」
「ワレワレ、ハ、……望ンデ、イナイ!」
あーあー。喋りかけた俺が悪かったですよ。ったく、フレイムドラゴンで学べってな。
美少女たちが。全裸のアダルティな死体たちが。
そして、明らかに他より隔絶したオーラを放つ、長身長髪の女性アンデッドが。
「スマナ──イ──!」
「意思とは別なのか。そりゃもうちゃんと哀れだな」
斬りかかってきた。来て、斬り伏せた。
同じく亡国アンダーテイカー最奥部で手に入る「アンデッドキング」がドロップアイテム【終章】。不死特効40%とかいう壊れ性能を持つこの武器は、攻撃力こそ高くないものの、アンデッド相手ならまず苦戦しなくなる。まぁ手に入るのが道中のアンデッド全部倒した所な辺りが「クリア報酬感」凄いんだけど。
それを用いて俺は、斬ったのだ。
女性を。その腹部を、割断した。
……。
ああ。
「嫌な感触だな。……これは多分、アダルトMOD関係なしに」
腐った肉を断つ感触。ふわふわしているようで湿り気があり、乾燥している部分と硬い部分の差が激しい。ああいいんだ。切り口の詳細な感想なんかどうでもいい。
今必要なのは、早く終わらせること。それだけだ。
「仙人スキル:無の境地。続けて戦士スキル:神速」
本来は状態異常の恐怖・混乱などを自己治癒するスキルである無の境地。神速は言わずもがなだろう。
それをかけて、あとは──。
「【終章】二本目。三本目も回収する予定だよ」
三周目ステータスで、爆走するのみだ。
サラサラと塵になって消えていく、冠を被ったアンデッドの王。アダルトMODで女性骨格になっていたから女王なのやもしれんが、ここばかりはアレを彼と称そう。
彼の亡骸からドロップした【終章】をインベに入れて、左手の【終章】もまた収納する。
そして──膝を突き、剣を地に突き、胃の中の物を全て吐瀉した。
「う……ぐ……」
無の境地が切れたのだ。
そして嫌に鮮明に残る感触。人体を斬る感触。死んだ人体を切り刻む感触。アンデッドは別に首を刎ねたって死なないから、コアをぶっ刺したりぶった切たりする必要があって、あらゆるところを切り刻んだ。
血は噴き出るモノと噴き出ないモノがいたけれど、その全てが悲痛な顔をしていて、その全てが可愛らしい少女たちで。
キチい。
「マッドボール」
背後の青点は見えていたから反応しない。
俺の真下にあった吐瀉物が土によって丸く包まれ、そのまま地中に潜っていく。お掃除か、メイドらしくなったな。
「……本当に、おひとりで。ヴェルグ様、貴方は……」
「主。大丈夫?」
「……ああ。まぁ。……大丈夫じゃ、ないな」
なんだろう。
本気の心配が伝わってくる。リアからは感動の混じったそれだけど、ケルのは慈愛の籠った心配だ。なんだ、奴隷と主人の関係だろうに、そこまで情を持たれるイベントを熟した覚えはないぞ。
というか何終わった顔してんだ。
まだやることあるからここにいるんだよ。
「……リア」
「は、はい」
「俺は、問うた。国を取り戻したいか、と。お前は答えたな。もしできるのであれば、と」
「はい。……ありがとうございますわ、ヴェル……いいえ、ご主人様。あなた様のおかげで、この国の民は救われました。私は貴方様の奴隷。ですから、返せるものなど何もありま」
「言ったな? もしできるのであれば、国を取り戻したいと、そう言ったな?」
「せ、え、は、はい。言いましたわ。で、ですから……」
──できないことは言わない主義だ。
ならばその願望を叶えんとしたのだから──俺は外聞を気にすることなく禁じ手を使う。
「魔術師スキル:マナエクステンド。魔法使いスキル:マナエクステンド。神官スキル:マナエクステンド。聖騎士スキル:マナエクステンド。魔剣士スキル:マナエクステンド。召喚士スキル:マナエクステンド」
マナエクステンド。それは、一分間の間現在MPを三倍にする、という効果を持つスキルだ。なお、効果が切れた後は魔法の使用有無にかかわらずMPがゼロになる。ゼロになると昏倒状態という状態異常になる。死にはしないがぶっ倒れるって話。
それを、六回。カンストにも等しい俺のステータスのMPを729倍した。
して、インベントリから【戴冠の杖】を取り出す。リアが息を吞む音が聞こえた。ま、申し訳ないけど彼女の持つ戴冠の杖は未強化未改造。俺が持っている奴の方が効果も効率も桁違いなんでね。
アンデッドクイーンがドロップする、大切に抱かれ続けた遺骸の遺品。
戴冠の杖の効果は──「蘇生系魔法の範囲拡大」。
神官スキル:死者蘇生:使用MPALL。
瞬間、ぐらつく視界。そして身体を気合で支えながら──戴冠の杖を地面に突く。
走る。光だ。光が走る。
五芒星か。六芒星か。いいやもっとか。わからない。俺では読み解けないレベルの超複雑な魔法陣が、戴冠の杖を中心に果てしない速度で広がっていく。
早くしろ。保て。俺の意識。早く広がれ。広がり切れ。
眠るなよ。言動適当人間なのは認めるが、できないことは絶対言わないんだよ俺は。それだけは自分ルールで決めてんだよ馬鹿が。
魔法陣。
その拡大が──止まった。
「よみ、がえれ!! アンダーテイカー……いや、エイルニルス公国!!」
視界が、暗転した。
次に目を開いた時、良質なベッドの上だった。
そばには誰もいない。……いや。
「ケル。すまない、今起きた。……俺はどれくらい寝ていた?」
「もう起きたの? まだ七時間くらい」
「……まぁ、全快までそれくらいはかかるか」
これはステータスが高すぎるのが問題だ。
昏倒状態は状態異常なんだけど、ポーションだのスキルだの魔法だのでは治せない。自然回復するMPが満タンになると治る。で俺の場合MP高すぎ問題さんがいるので、昏倒状態から回復するまでに七時間もかけてしまったってことだ。
体は……痛みとかは無いな。
よし。
「ケル。一つ聞きたい」
「安心して、主。そのベッドに魔物の素材は使っていない」
「完璧だ」
めちゃくちゃ安心して目を開ければ、本当に魔物素材を使っていないベッドのようだった。
いやさ、ケルとリアの家具を一緒に見に行ったことがあってさ。その時ベッドが……まぁ多分羽毛布団的なノリだったんだろうけど、全部腕で構成されてたことがあったんだよね。それはもうトラウマだったよ。そんでもって枕の方は目玉が敷き詰められてた。ビーズ感覚なんだろうねウン。
一番ひどいのがベッドで、全身の皮を引き延ばされた少女が木製の箱に縫い付けられているっていう……まぁお金だけ渡して退散したよねウン。
それが無い。
ありがてー。
「……魔法は、成功したのか」
「成功どころじゃないけど。主、もしかしてどこかの大司教だったりする? 最大主教?」
「まさか。俺は流れの旅人だよ。今は帝国に居を構えているだけの、な」
自分の目で確認するまでもない。
ミニマップには無数の青点。それがヨタヨタではなく元気に走り回っているのを見れば、どうなったかはわかる。
さて、と。
「ケル。お前もここで暮らすか?」
「意味が分からない」
「リアはここに置いていくつもりだと言っている。従属の呪いを外してな。ここ出身でここの姫だ、俺が連れて行くわけにもいくまい」
「……成程薄々気付いてはいたけど鈍感系」
「ん?」
「しかも難聴」
鈍感でも難聴でもないよ。
でもそりゃ「救われたことによる恋心」ってもんでさ、人間関係に恩義なんてのは邪魔でしかないのよ。救われたから貴方をお慕いします、なんてのは呪いだよ呪い。
「どうする」
「いい。ここは眩しすぎる」
「そうか。じゃあ帰るぞ」
「ん」
今度は皇妃様を巻き込まないように、ホームポイント帰還ではなく転移を使う。
リアの従属の呪いを解除して、と。
彼女が結構離れた位置にいるのも確認済みだからな。ま、追ってきてももぬけの殻、そんでもって自国の大切な姫様をそう易々と他国へ訪問させにいったりはしないだろう読みで。
「達者でな」
アデュー。
次の日、街で新聞モドキ(羊皮紙一枚だから(あと多分魔物の皮な気がするから(つまり美少女の……やめておこう)))を購入した。滅多に、というか買ったの初めてだったけど、見た目はグロさがなくて安心。
見出しは大きく「一夜の奇跡!? エイルニルス公国復活!!」というもので、リアを含む彼女の家族と、そしてちょっと見切れてるけどラクニシェルがいるのも窺える写真が。あ、普通にカメラはあるよ。素材がなんなのかは知りたくないから購入はしてないけど。
うん、満足。
家に帰ってリアの部屋を開けるも、特に変わった形跡は無し。ワンチャン国を抜け出して帰ってきている可能性まで考えたけど、そういや従属の呪い解けてるから扉開かないわなガッハッハと安心。
そのまま自室に戻れば、なんかケルがいた。
「なんだ」
「……これ、返しておく」
「ん? ああ、拾ってくれたのか」
それは【戴冠の杖】。最終強化してある方……つまり俺の杖だ。
それで向けてくる目が疑念と心配。疑念はわかるけど、心配は本当になんなんだ。
「あー。聞きたいことがあるなら聞いても良いぞ。答えるかどうかはわからんが」
「じゃあ、単刀直入に聞く。──主、貴方は何歳?」
「二十四だな。今年で二十五だ」
「……嘘を言っているようには見えない。でも……」
「なんでいきなり年齢なんだ。何を考えてそれを聞くに至ったか、経緯を話してくれ」
「……だって」
そこから展開されるは、なるほどなぁ、という推理だった。
俺が持っていた戴冠の杖は、エイルニルス公国の建国当初、初代の神官が使っていたものを、何代も何代も経てリアにまで渡った代物だそうで、この世に二本とない至宝中の至宝なんだと。この時点でやっべ、とか思っているところに更なる追い打ち。
ただし明らかに性能の違う戴冠の杖を前に、エイルニルス公国で蘇った歴史家の意見を交えての考察を行ったところ、これは「本物の杖である」と断定されてしまったと。
さて、では唯一無二の杖が何故二本あるのか。その理由は。
「俺が未来の人物で、過去にタイムリープねぇ」
「戴冠の杖が二本ある理由がそれしか考えられなかった。違うなら違うと言えばいい。私達の智が貴方に及ばなかったのだと納得する」
「違う」
「……そう。わかった、主。これ以上はもう聞かない。……ただ、倒れるなら倒れると事前に言って欲しい。流石に心配する」
「ああ、そっちは悪かった。謝るよ」
多分だけど、ケルはアサシンスキルの真偽判断あたりを持っているんだと思う。レベル差的に俺は自動レジストしちゃうんだけど、だからこそ信じられたのか、疑われたままなのか。まぁどっちでもいいわな。
そしてタイムリープ説。まぁ三周目だからあっちゃあいるけど、ちょいと違うのでノーコンテスト。完全一致したらそうだって言ってやるよ。
「主」
「なんだ」
「リアの部屋はどうする気? 片付ける?」
「一週間は残しておくよ。なんか大切なものとかもあるだろうし。使者とかが取りに来たら渡してやって、そういう片付けが終わったら本格的な片付けでいいだろう」
「……わかった」
物分かりが良いようでコレぜんっぜん納得してないな。
リア置いてきたの相当怒ってんなーコレ。いやでもさ、よく考えてみ? 奇跡の復活を果たした国だぜ? その姫が、どこの馬の骨とも知れねえ冒険者に連れ去られるなり慕ってついていくなりしてみそ??
最悪俺が指名手配で、良くてもリア幽閉だろ。考えが変わるまで、って。
アイツが国を取り戻して姫らしく姫をやれるのはこれが最善なのサ。
「主」
「なんだ」
「……私は、邪魔?」
「家事炊事はお前の仕事だろう。戦闘に関して言うなら邪魔だな。弱すぎる」
「……でも、主は魔物と戦うのが苦手。というか無理」
「ああ。今でも……アンダーテイカー、ああいやエイルニルス公国のアンデッドを斬った感覚が手に残って離れない。俺のトラウマって奴は、全く癒えてなかったみたいだ」
「つまり戦闘者は必要」
「ん? まぁ、そうだな」
「私はとっても必要」
……アレか。
リアみたいに捨てられないように、有用性をアピールしてる感じか? 別に捨てたわけじゃないけど、コイツの場合身寄りないから不安なんだな、成程成程。
それじゃあちょいと意地悪しちゃおっかな。
「リアがいない分も働くんだ。大変になるが、もう一人くらい奴隷を買うか?」
「要らない。私一人で十分」
「お前に戦闘を任せている時、誰が家事炊事をするんだ?」
「……皇妃様を呼べばいい。あの人も一応奴隷」
「いや屈服の呪いかけただけで奴隷じゃねーよ」
結構言うようになったな。いや元からか?
ま、いいや。
どうせいつか限界が来る。その時まで使って、倒れたら休ませて新しい奴隷を買おう。ああ勿論従属の呪いのサブステータス画面で体力とか状態異常とか見れるからな。完全に使い潰す、なんてとこまで行く気は無いのでそのつもりで。
しかし、戦闘ね。
確かにどうしようもなくなった時は、少なくともスイレベルのは欲しいかなー。
ケルは料理が上手いし美味いので絶対に手放す気は無いから、彼女と要素と被って無さそうな子で、彼女が敵意を抱かないような子にしないと……なんだ、家猫の相性でも考えてんのか俺は。
喧嘩したら呪い強めればいいだけか。
ま、どこまで保つか見物ってことで~。
怒っていた。
彼女はとても怒っていた。
「姫様、顔色が優れないようですが……」
「……大丈夫です。ただちょっと許せないことがあって、次会ったらぶん殴ってやろうとか考えていただけですので」
「ひ、姫様。あまりはしたない言葉は」
「次にお会いしたらあのお顔の原形を留めない程に殴打してやりますわ!」
「そういう意味では……」
とかなんとか、あったとか。