アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
ミニマップは変わらずここを指している。奴隷やパーティメンバーが死んだときになる灰色表示。
それは重なるようにして変わらずここにある。
けど、いない。
さっき聞こえた唸り声の主も、ツバナ、ケル、ツゥも、誰も。
位相……ティル・ナ・ローグや天界と同じような位相にいる、として。……それがどこかって話。
つーか、だとしても、こういう表示にはならないはずだ。表示があるのにいないってことは、見えなくなっている、とかだけど……俺の目を欺けるスキル?
一旦ホームポイント帰還……はダメだな。アモルファス聖を眷属にしたのはミスったか。仮に粛清剣がシーファに触れたら、それこそあいつが死ぬ。肉体か核さえ残ってりゃ死者蘇生はできる。死者蘇生や回復は聖気関係ないから。
眷属メニューにHPゼロのまま表示されてるってことは、少なくともこの世に残っているということだ。
ん-、夜だから見えない……とか? 足跡ハイライトでも使う? いやいや三周目ステータス視力舐めんな。
「あの魔族のコ。別にあのコじゃなくても良いんじゃなかったの?」
「代わりがいればな。いないんだからアイツを助けようと躍起になるのはおかしくないだろ」
「ふぅん。ま、いいけどね。……ヒント欲しい?」
「こういう時のお前は信じられんから要らん。ああただ、お前が関わってるか、ドゥームスが関わってるかだけ言え」
「関わってたら」
「"二度はない"を履行する」
「関わってないよ。ああでも、ボクはちょっとだけ、間接的に、ではあるかもね」
「そうか。消えてくれ。俺の気が変わらない内に」
「りょーかい」
あの逃げた魔族だか魔化した人間だかが魔素を完璧にコントロールにできる奴だっていうんならアイツを捕まえて自意識無い状態まで眷属で捉えりゃいい話だけど、シーファくらい自発的に協力姿勢にあってくれる魔族はそうそういないだろう。フレースヴェルグがワンチャンくらいか?
んでカローライナは言わずもがな。助けるっつったんだから見殺しとか絶対ない。
……ダメで元々かね。
「神官スキル:死者蘇生」
戴冠の杖を使って範囲での死者蘇生を試みる。
すると。
「おお、ダメ元でもやってみるべきか」
思わず独り言も増えようというものだ。
眷属メニューの二人のHPが回復したのを確認。やっぱり位置がズレてるだけでここにいるな。ミニマップの表示も灰色から青に変わったし。
んじゃあとは、どうやってあいつらをこっちに引き戻すか、だな。
……うん、うだうだ考えるのは好きじゃない。頭がよくないから。
最も簡単な方法で行かせてもらおう。
さて、時は少しばかり遡る。
イグニス+ラヴ達と別れたカローライナ一行は、王都を一直線に目指して走っていた。幸いにしてこのパーティには魔法職や神官がいない。それは転じて、体力お化けばかりが集っているということでもある。
十分に食料を蓄え、先行するアサシン二人によって無駄な戦いを避けまくった一行は、体力を有り余らせた状態で王都を視界に収める段階まで来ることができた。
正午──日が高く高くへと昇った段階で、彼女らは。
「っ、止まって!」
「どうした、ケル」
「……何かいる。何かはわからない!」
ナニカ、と遭遇する。
ケルの指示通りに前進をやめて周囲を警戒する四人。
ナニカ。ナニカだ。
静寂。……静寂。
気の遠くなるような静寂が周囲を支配している。
草木がざわめく音も、風が通り抜ける音もしない。
「そんなわけ」
そんなわけがない。それは流石に"静寂"過ぎる。
まるで時が止まっているかのような──と口に出そうとしたシーファ。でも気付くだろう。
周囲。自分以外の全て。
"まるで"ではない、という事実に。
「みんな……え?」
停まっている。停止している。
彼女の主人が良く使う次元スキルに酷似した光景。だからこそシーファは身構えた。なればあの大馬鹿野郎に匹敵する使い手が近くにいる、ということだから。
だから、そのまま胸を貫かれて死んだ。
そんなわけがない。それは流石に"静寂"過ぎる。
腰を低く落とし、カローライナは耳を立てる。感覚を研ぎ澄ませて、一つの異音も聞き逃さないように。
曲がりなりにも彼女はこのパーティのリーダーだ。その責任は確かに彼女の胸に置かれている。
だから、そのまま首を落とされて死んだ。
「──っ!?」
「ぁ、え?」
明確にあった死の感覚に、二人が飛びのく。
そしてその行動は正解だったらしい。二人が今までいた場所に、ギロチンを思わせる刃が落ちて来たのだから。
「な……」
「良かった、二人とも意識戻ったみたい」
「ツバナさん! 離脱、離脱するわよ!」
「わかっておる! じゃが、く、どこへ行くというんじゃ!」
見上げれば──それは、巨大な暗幕のように見えた。
昼に降りた夜のように、ゆらゆらと揺れるローブの裾はどこまでも深い。
一番上には、顔があった。複数の顔。笑っている顔。怒っている顔。泣いている顔。肌の無い顔。
その周囲には無数の手。それらは様々な武器を……否、処刑道具を持ち、振り下ろすことを今か今かと待ちわびている。
「なに、これ」
「呆けてる暇はない! カローライナ、シーファ! 全力で離脱!」
「ケル、ダメじゃ! ──後ろからも来た!」
「そんなっ!?」
後ろ。
自分たちが来た方からも、同じナニカが来る。
いいや、後ろだけじゃない。遠方……全方位から、そのナニカが参列するかのように集まってくる。
「け、ケルち、簡潔な説明!」
「一瞬意識が飛んだ。気付けばここだった。二人だけ意識が戻らなかった。今からどうしよう」
「わぁ最適!」
非常に簡潔な説明。
けれどそれを役立てられる術を見つけられない。
どうしようもない。
その言葉が脳裏を過ったシーファ。
の、身体に突然豪華な鎧がつく。
「へぁ?」
次は手、足、頭。
同じくカローライナにもそれら装備が出現し、そして二人の腰にこれまた突然袋が現れ、そんな小さい空間に入るわけがない大きさの装備がどんどん詰め込まれて行く。
「……あ、そっか! えと、呪詛スキル:眷属、従属:アイテム分配!」
ほとんど初めて使う奴隷メニューにあたふたしながらも、シーファは自身に設けられた仮インベントリに入った装備をツバナとツゥに分配する。
ケルには手渡し。それは仕方のないことである。
「これは。……なんじゃ?」
「なんだ、この装備は。……なんだこの万能感は」
「これあれ! ご主人様が前に貸してくれた最強装備ってやつ!」
そう。そうだ。
それらは各々に合った最強装備。
あるいは最終武器。スイが早く脱ぎたいとまで思った──自身の力を過信してしまう程に強力な武具防具たち。
事への理解が及んだ彼女らに迫る処刑道具。
でもそれは、止まって見えるくらい遅かった。
否──速くなったのだ。彼女らが。
そして軽くなった。振り下ろされた処刑道具とその腕を駆け上れるくらいの脚力も得た。駆け上った先で複数ある顔を一撃で破壊する程の力も得た。
激しい呼気と共にナニカを一刀両断するほどの強さを。
これならいける。
だから、誰も気づかない。
昇った恒星が落ちて行っていることに誰も気づかない。
万能感と興奮の中で彼女らは戦い続け──そして。
「これで、最後!!」
「お、出て来た。んじゃ返せそれ。強すぎるから」
カローライナとシーファの装備が取られる。
──当然、件の換装……一瞬裸になる所も含めて、起きる。
「きゃ……!?」
「おーいそっちの三人は自主的に返してくれ。返さないならシーファに奪わせるぞ。ケルのは俺が引ん剝く」
余韻とか、情緒とか、達成感とか。
何もない。
ツバナはゆらりと剣を構える。最強装備の最強武器。
その一撃を。一応剣の腹を使うあたりが彼女らしいけど、それでも一撃を。
「つまり野外露出が好きだと。俺は止めやしねーけどさ」
瞬時。瞬きの後にはツバナがひん剥かれていた。全裸に。当然武器もない。
「ケルとツゥは、さぁどうする」
「……普通に返すわ。だから、ツバナさんにも服をお願い」
「シーファに言え。あいつの仮インベにツバナの元の服が入ってる。ほらケルも返せ」
「返す。これ使ってたらアサシンじゃなくなりそう」
「おう。装備ステータスゴリ押しマンになるぞ」
懇願の目。
ちょっぴりの疲弊はあったけれど、シーファは急いで従属メニューを操作してツバナに服を与える。
「おっけー。んで? 何があったんだ?」
「……」
「えっと、私もよくわかんないんだけど……顔が四つで身体が無くて、手がいっぱいあってその手に処刑道具いっぱい持ってる魔物みたいなやつに襲われて」
「……」
魔物かどうかもわからない。
ゴーストのようにも見えたし、魔族のようでもあった。ただ魔素は漏れていなかったから、シーファ的にはあれは魔族ではないと言い切れるのだが。
「……まぁ、原因はわかった。以降は起きないだろうから安心しろ」
「あれは何なの?」
「んー。まぁアレだ。お前達ズレてたんだよ。主に俺のせいで。……あ、ほら、夜明けだ。なんかいい雰囲気だしこのまま王都行って全部忘れようぜ。悪い夢だったって。アウラニも待ってるぞ」
「……」
「カローライナも、何今更身体掻き抱いて震えてんだ。お前を買った時に全裸は見てるよ」
「それはっ! そうですけど! そうじゃないでしょう!!」
「口調口調」
結局。
ヴェルグはそれが何かを一行に教えることはなく──ギャーギャー騒ぎながらではあるけれど、カローライナは故郷に、他四人は初めての王都に足を踏み入れるのだった。
とまぁ、これが「あんまり広範囲で、あるいは同一の場所で時間を止めすぎてはいけない理由」である。
今回は発生が王国──次元スキルをほぼ使っていない場所──だったからよかったけど、帝国で発生していたら多分半日とか一日のズレじゃ済まないから、ワンチャン帝国民全員が半年単位のズレ空間に巻き込まれる、みたいな可能性もあった。
ズレ空間。
ティル・ナ・ローグや天界と同じく位相空間の一つだけど、正式名称がないためズレ空間と呼んでいる場所。
空間や物質、そして生物には「時間」が流れている。それは一般的に言う川の流れのようなものじゃなくて、ストップウォッチみたいなものだ。この世界では。
生まれた時から始まって、死ぬときに止まるストップウォッチ。
普通はそのストップウォッチの秒数と世界全体のストップウォッチの秒数がズレるってことはないんだけど、次元スキル:時間停止がそれを狂わせると、手に負えない量のズレが出てくる。
で、そのズレっていうのは個別に管理されるようになって、そうなると……まぁメタい話、データ容量が増えるんだわな。タグ付きのデータが増えるわけだから。変数だかオブジェクトだか、まぁその辺は知らんのだけど。
世界はそれを嫌う。
要らなくなった魔族が塵となって"消耗"されるように、邪魔になったズレも"消化"される。ああやって時間を強制的にゆっくりさせたり早めたりする位相空間に閉じ込めて、ズレたデータをデリートしにかかる。
ただそこはゲームだから、デリートしに来る、魔物でも魔族でもなんでもない"十六手四面相"と呼ばれるデリート役に勝てたら、時間を正しく合わせ直して死なずに元の世界に帰ることができる。言わば時間停止し過ぎたプレイヤーへのお仕置き&ミニゲームなわけだ。
にしちゃあ強いけどねアレ。
で、ファントムがなんでああも「ヤバイって~」って言ってたのかというと、今回と同じく巻き込まれるのが俺だとは限らないからだ。というか俺であることがほぼない。止まった奴の時間が狂うから。
広範囲で止めれば広範囲の時間が狂う。同一箇所で止めるのを繰り返せばそれはもうぐちゃぐちゃになる。
単一個人の時間を止めるのであればそこまで狂いは生じない……というか世界も見逃してくれるんだけど、ま今回は止まった対象が一堂に会し過ぎたのが原因だな。
ちょっとは自粛しよう。時間停止便利過ぎて使い過ぎたのは認める。
ファントムは何も人類を滅ぼし尽くしたいとかってスタンス持ってるわけじゃないからな。こういう無為な大量殺戮が起きかねないことについては「ヤバイって~」とか「マズイって~」で止めてくるんだと思う。
まぁなんにせよ、スヴェロニカ、アウラニ達と合流を果たした。
今カローライナはスヴェロニカと面談中。事の経緯や起きてしまったことについての謝罪、及びこれからどうするかについての話し合い。
十割スヴェロニカが悪い……と俺は思ってたんだけど、なんかカローライナも非を認めるところがあるとかで、今互いに謝ったり謝られたり今後の相談をしたり謝られたり謝ったりしてる。お前らいつものドライさ取り戻せよ。話進めろ。
「そう言えば、ヴェルグさん」
「ん?」
「あの、唸り声の、ようなものは、なんだったのですか?」
「……そういやなんだったんだ? ケル、お前らが遭遇したのって」
「唸り声なんかあげなかったよ。むしろ終始無言で怖かった」
「だよな」
アウラニが聞いているから俺の幻聴ではない。
唸り声……あんな声をあげる魔物、あるいは魔族。……んー?
「すまん、待たせた。話が着いた」
「そりゃよかった。一応聞くけどスヴェロニカ、お前昨夜っつーか今朝がたの唸り声みたいなの聞いたよな」
「ああ。……まだなんかあるのか?」
「今考え中。それで、どう纏まった?」
スヴェロニカも聞いている。
俺やアウラニは特別な体質である自覚があるけれど、スヴェロニカはただ強いだけの暗部だ。人間。
なので彼が聞いているということは、やっぱりちゃんと響き渡った声で。
「このお転婆姫は、第二王女へと戻ることを決意された。だから」
「誰がお転婆姫ですか。迷惑をかけたことは謝ったでしょう。……ですから、申し訳ありません、皆さん。……ついてきてくれたところ……本当に、その……」
「今回はここでお別れで、でもまた会える、ってことで良いんじゃな?」
「おおツバナち、成長したねぇ」
「なんじゃそのニマニマした顔! やめい!」
「第二王女って実権的にどうなの?」
「普通に考えたら発言権は低そうだけど……逆にたまに抜け出して遊びに来たり行ったりはできるのかしら?」
おー。
本当に仲良くなったんだな。
……なら。
「お前ら王国に住めば? いっそのこと」
「ご主人様ちょっと黙ってて。今割と良い所だから」
つめてー声。
いいじゃんかなぁ、俺からのシーファへの用事って魔素研究のことだけだし、まだ粉末魔素の出回ってる王国じゃ対魔素戦闘の出来るシーファは引っ張りだこだろ。折角パーティ組んだんだから、シーファとその奴隷+ケルで王国に移り住んじゃえばいい。金は出してやるからさ。
「また、会ってくれる……のですか?」
「勿論!」
「まぁその辺はお転婆姫の頑張り次第だな。姫さん、アンタが王国を変えない限り帝国との蟠りはどうにもならねえ。つってもそっちの嬢ちゃんたちの言う通り第二王女に発言権も実権もほとんどねぇから、夢のまた夢って、痛っでぇ!?」
「スヴェロニカ。今は黙っていてください。私はお友達との感動的な別れをしています」
「……お主ら、なんかあれじゃな。人の気持ちがわからん以前に空気が読めんというか……」
えー。良い案だと思ったんだけどな。
どうせ俺といたって今みたいにイラつくだけなんだからさ。俺はマスカルウィン抱いてメアリーの飯食ってハルフィーさんのとこで働いてって生活を送るだけに戻るよ。ああ研究は続けるけども。
「とにかく! 変な茶々が入ったけど……カロち! また会おうね! そんな、いつか、とかじゃなくて、それなりの頻度で!」
「はい。脱走、頑張ります」
「あら? それならそこの暗部さんを抱き込めばいいんじゃないかしら。脱走経路から理由付けまで全部やってくれるでしょう?」
「いや……あのですねお嬢さん。俺達がこのお転婆姫の監視にどんだけの時間と暇を割いてたか……。直属の血筋だってんのにフツーに遠征依頼受けて魔物倒しに行くんですよこのお転婆姫。バレないようについていきつつ、もしもの場合助けられるようにって距離を保つスキルを暗部全員が覚えてるくらいの大変さで」
「だから、事前に相談しておけば、その大変さも薄まるでしょう?」
「だからって帝国まで行かせんのは無理があります! つーか無理です!」
「んじゃやっぱお前ら王国に」
話が堂々巡りし始めたあたりで──ミニマップに赤点が一つ表示された。
……誰も気づいていない。
まぁそりゃそうか。ミニマップさんが便利過ぎるだけだもんな。
「まーその辺の取り決めは勝手にやっててくれ。俺ちょっと行くとこあるから」
「あ、待てヴェルグ! 逃げんな!」
「ご主人様、行く前にカロちの眷属の呪い解いていって」
「ああそうか。ほい。解除したよ。んじゃーなー」
「あの、帰りは、どうすれば」
「……今日は泊まっていけよ王国に。ああ永住しろとかは言わないからさ。流石に全員疲れてんだろ」
ホームポイント帰還はアモルファス聖巻き込むから使えないし。
普通の転移……は、できるけど。まぁあの赤点どうにかしてから考えたいし。
「スヴェロニカ、宿泊費は全部俺にツケてくれていいからさ。どっか適当な宿とか、なんなら王城に泊めてやってくれ。積もる話もうんたらかんたらだろ、その辺」
「……わーったよ。お前が今激しく面倒くさがってんのはよく伝わった」
「おお人の情緒がわかるようになっててよかったよスヴェロニカ。じゃあな」
「あ──お待ちください、ヴェルグさん……ヴェルグ様!」
「待たない。どうせ感謝の言葉とか言う気だろ。知るか。依頼は成立したし報酬は無しで決定してんだ。余計なもんは貰わないよ。じゃあな」
はいはい転移転移。
長ったらしい感謝、あるいは全裸見た事への愚痴、他全て。
知らん要らん聞かん。
俺はできないことは言わないの。
だから、助けるっつったら助けるの。
「っつーわけで、すまんな。あれからずっと考えてたんだけど、あの唸り声出せるのお前しか思いつかなかったから──斬るよ」
「こっちこそすまん。コールドスウォームにさえ送ってくれりゃなんとかなるとか言っておいて、こんな早くにまた来ちまって。思ったより身体が言うこと聞かねえんだわ」
王都壊しにフレースヴェルグが来てるなら、その相手をするのが主義を通すって奴なんだわさ。
ラヴ・グラットルは手を握ったり開いたり、ぐーっと伸ばしたり、また握ったり開いたりしていた。
「……驚いたな。もう銀章冒険者になれるんじゃないか?」
「ほんとに!?」
「ああ。……魔化したてとはいえ、デーモンになりつつあった相手を殴って倒すなんて……前代未聞だよ」
ここはディアン村のはずれ。
村の中で発生した魔化パンデミックは、けれど事前にイグニスが敷いておいた聖石の聖気によって防がれた。そして聖気に焼かれたデーモンの逃げ先がここで、イグニスらは追いかけてから倒そうと計画していた……ことなんか一切考慮せずに、この少女がデーモンを殴り殺してしまったのだ。
ラヴ・グラットル。グラットル家の教えを受けた、格闘少女。
「それに、その体質は……いずれ人類の導き手となるかもしれない」
「ほんとに!? なんか盛ってない!? ほめ過ぎじゃない!?」
「私は本当のことしか言わないよ、ラヴ。……今は右手だけとはいえ、聖気を体内から放出できる、なんて能力は今まで見たことが無い。あるいは君ならば、魔王をも倒せるかもしれないんだ」
「魔王! それは……うん、ぶん殴る!」
掌に拳を打ち付けるラヴ。
その姿にどこか眩しさを覚えつつ、カラジェットは「でも」と続ける。
「仮に君がそうなる未来を掴めるのだとしても、まずは人の話を聞くところから覚えなければね。仲間がいなければ、人は弱いよ」
「白銀章冒険者でも?」
「ああ。心の支えこそが最後の最後という時に力を引き出す。守りたいと思う心。誰かの為を思う心。仲間。友人。家族」
「家族はいるし、友達もいる……けど、仲間かぁ。……仲間ってなに?」
「一緒に居たいと思える相手だ」
「うーん。まだ出会ってないだけかなぁ。思い浮かばないや」
「ふふふ、そう焦ることはないさ。それに、君の強さとそのひたむきな姿勢があれば……自ずと仲間も集まるだろう」
カラジェットはコルネリウスを撫でさする。
彼とてまだまだ若輩。それでも──こういう"可能性の塊"を目にすると、その言葉を言わずにはいられない。
「君なら……彼にも辿り着けるかもしれないな」
「彼?」
「ああ。私が敬意を表し……そして、絶対に辿り着けないと思ってしまっている方だ。……私はまだまだ強くなるつもりだけど、彼ほどの高みには一生をかけても辿り着ける気がしない。……いや、すまない。こんな弱音を聞かせるつもりはなかった。忘れてほ」
「じゃあ私の仲間になる? 私がその人に辿り着けるなら、私の仲間になってれば一緒にそこまでいけるでしょ!」
あまりにも。
その目はあまりにも輝いていた。「この世界には希望しか満ちていない」とでも言いたげな瞳。
「いや。私は私の道を行くよ。君には君の道があるだろう? ラヴ・グラットル」
「ありゃ、振られちゃった。……くぅ、やっぱりあの人を捕まえられなかったのが痛いかぁ」
「あの人?」
「私を王国まで案内してくれた人! 戦士の人でね、スキルで山を三つ四つ越えて行ってさ。私は格闘家だけど、えへへ、戦士スキルの跳躍だけは覚えちゃった。とりあえず当面の目標がその人! で、カラジェットさんも目標!」
「私を超えるかい?」
「勿論!」
即答だ。
そして、できると信じて疑わない目。
カラジェットは──懐かしいものを見た気がした。
そうだ。そうだった、と。
彼もそうだったと。
「負けないよ」
「じゃあ諦めるのナシね! カラジェットさんもその尊敬してる人に追いつくこと! じゃないと私が勝っちゃうから!」
「それは、そうだな。……ああ、そうだ。私は……いいや、僕は、君にも敬意を表すよ。だけど、君に追い抜かされないように強くなる」
「その意気だ! よーし、それじゃあ最後の販売ルート? に行くぞぅ! おー!」
「いやまずは物資の補給を」
「そんなの! 道中で! 魔物を狩ればいい!!」
「……まずは人の話を聞くところから、と言ったはずなんだけどね」
爆走していくラヴ・グラットル。
仕方がないのでカラジェットはイグニスの皆を呼びに行く。彼女は驚異的な速度で強くなっていっているけれど、たまに……アヂ村の時のように、まだまだ負ける時があるから。
できると信じて疑わない事。
「……あれは良い強さだ。そして僕が忘れていたもの。……ふふ、礼を言うよ。僕はまだまだ強くなれる」
「良い雰囲気だったので出るに出られずにいたが! なんだかいい雰囲気過ぎて砂糖を吐きそうだったぞカラジェット! お前ああいう小さいのが好みだったのか!」
「……アニス。君の欠点はそれだ。すぐ恋愛事と結びつけたがる」
「だがお前は顔も良いし未婚! しかも童貞だろう! ああいう一途そうな女ならばお前の性格にも合うだろう!」
「アニス。早く二人を呼んできてくれ。すぐに彼女を追うからね」
「──戦略的撤退!」
後にアニス・ウォーズマンはこう語る。
アイツ怒ると笑顔が怖いな!!