アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
でもたまに二回更新します。よろしくお願いいたします。
魔族大陸──。
暗鬱とした天気に荒み切った土地。遠くに見える峰々には雷やら雪やらが降り注ぎ、そうでない場所にも雹だの酸性雨だの毒の雨だのが降ってくるやべー土地。なお工業地域がどうので酸性雨になっているのではなく、酸性の巨大湖から汲み上げられた水が酸性の雨を降らしているとかいうトンデモ設定なので環境改善とかは無理。
そんな過酷な環境にありながら魔族が普通に暮らしていられるのは、彼らの適応能力の高さが故だろう。
酸性の雨が降り注ぐのなら酸耐性のある体になるし、酸を使うようになるし。
毒の沼地が広がっているなら毒耐性を持つとか中和する物質を体内で生成するとかするし。
それらは偏に魔素というものの絶対性に起因する部分も大きい。
魔素は聖気以外には負けない。だから魔素が尽きない限り、魔族らが自然環境に負ける、ということがほぼない。俺が魔族を殺す時に必ず聖剣の類を使うのもそれが理由だ。
「で……イサカリが来てるってのは本当なんだな」
「ああ。行くっつってた」
「あの馬鹿は……。なんか魔素耐性のある防具とか渡したのか?」
「なんで俺がそんなことしなきゃなんないんだよ」
大きく溜め息を吐く全裸美女フレースヴェルグ。
ちなみにそれとなく天女の羽衣を渡そうとしたら、「今更防具なんざ要らねえよ」って突っぱねられた。いやあの、そういうことじゃなくてですね。
んで、わかっていたことだけど……やっぱりキツいな、ここは。
人間がいないのだから当然だけど、視界に入る生き物全てがアダルトMOD適用の……あられもない恰好をした奴らばかり。そして生態系というべきかはわからないけれど、ここでも弱肉強食が行われている。
魔族が魔物を狩る。魔物が魔族を返り討ちにする。返り討ちにした魔物が魔素によって魔化する。……というような光景が毎秒起きていて、そのたびに美女美少女が血だらけになって行って。
今俺達は無駄な争いを避けるために空を行っている……んだけど、正直あまり眼下を見たくない。
ありがたいことがあるとすれば、魔族は何着ても全裸になるから、魔物素材装備が見えないって点か。人間の部位を使った装備が目に入らないだけで結構マシではある。全く同じことを問題にするなら、魔族なのか魔物なのか俺には判別つかないって点ね。近づけば魔素がどうのでわかるんだけど。
「お前の……その魔素耐性は、なんだ? 装備ももちろんあるんだろうが、素で魔素耐性持ってないかお前」
「20%くらいだけどな」
「他の生物が触れただけで魔素中毒、ないしは魔化するってわかってて発言してんだよな?」
「20%なんて微々たるものだろ。フル装備でも90%にしかならんから、マジで接敵する時は聖騎士スキルで魔素耐性あげにゃならん。常時100%で行きたいもんだよ」
その辺はまぁよくできてるというか。
魔素に完全耐性持てるようになったら魔族大陸に住み込めちゃうからな。その辺の調整だろう。
「ああだからお前、必要以上に俺に触れるなよ。怪我するぞ」
「聖石使った装備程度じゃ怪我はしねえよ。俺の身体の魔素はそんじょそこらの魔族のソレとは違うんだ」
「デーモンスキルに魔素を強めるとかあるのか?」
「いいや。だが、殺して食えば強くなる。ただそれだけだ」
……マスカルウィンの補繊毛はアイツ特有のものだろうけど、そこ以外でもそうなのか?
食えば強くなる。字面にすれば簡単だけど、納得いかねえ。
「で、これって今どこ向かってんの?」
「セーフハウス、みたいな場所だな。拠点らしい拠点は持ってないって前言ったと思うけど、危機的状況に陥った場合を憂慮して転移門を開ける安全地帯を各地に用意してんだよ」
「……この前飛ばした魔族もそこにいるのか」
「あいつらはまだ魔化した人間程度だけどな。ああ、そうだ」
成程。
人間の大陸に飛ばしたわけじゃなかったのか。
「……一人は死んだけどな」
「なんで?」
「自決だよ。魔化した己に耐えられなくて、自分に自爆の呪いをかけた」
「そりゃなんともまあ。覚悟のキマったやつだことで」
「本当にな」
エスカポーラスのメンバーだろうに、そこまで覚悟あるなら普通の職について普通に冒険者やってた方が昇りつめられたんじゃないか?
あくどいことする奴は心弱く在ってくれよっていつも思う。意志の強い奴は善人であれって毎回思う。
黒幕以外の……下っ端構成員が、そんなキマった覚悟持ってんじゃねえよ。相対した時にちゃんと相手取らなきゃいけなくなるだろ。
「っていうか今お前どうやって俺の隣にいんの? 魔素衝動は?」
「意思でねじ伏せてる。いつまで続くかはわからん。いきなり襲い出したら斬ってくれ」
「……そりゃ構わねえけどよ。ああそうだ、精神の蓋だっけ? お前が今やってるの」
「ああ」
「それどうやんの? あと俺の精霊力垂れ流しらしいんだけどさ、閉じ方とか知らねえ? 俺知らねえんだよな」
「んー……お前って精霊力知覚できてるか?」
「いや」
「じゃあそっからだな。精霊スキル……は使えるわけないとして、精霊剣の類は持ってないのか?」
「ある」
「んじゃわかりやすいので……あー、サラマンダーの尾剣を出してみろ」
……。
まぁ、教えを乞う身だ。仕方なく出す。
サラマンダーの尾剣。その……骨格標本における尾骶骨。仙骨が柄で、尾骶骨のこのクルっとした部分を長大にした、みたいな形状で、そこに赤らんだ肌が引っ付いている感じの……モロ魔物素材剣。
「なんじゃこりゃ。……これお前のメインウェポンか?」
「いや? ああ強化のことなら、俺は全武器最終強化までやってるよ」
「コレクターかお前。……まぁいいや。で、今コイツから熱を感じるか?」
熱。
……感じない。そういえば「炎の精霊力を纏う」ってテキストには書いてあった気がしないでもない。
「全く感じないって顔だな。んじゃ無理だ」
「マジか。諦め早いな」
「こんな純度の高い精霊力を感じ取れないなら才能が無い。見る奴がみれば、っつーか安置されてる場所が場所なら宝剣の類に数えられるくらいの純度だぞ」
「……そういえば精霊も……面と向かって相対したのに熱とか風とか感じられなかったな」
麻袋、じゃない、ヴァネッサはそういうの感じてたんだろうか。
「無理なモンは無理だ。諦めろ」
「無理かー。いやまぁ精霊力垂れ流しで位置バレすんのがダルいからってだけなんでいいんだけどさ」
「まぁ視覚として捉えられる奴は限られてるから我慢しろ。魔族も全員が全員見えるってわけじゃねぇしな」
そんなものなのか。
精霊力ねぇ。血の契りといい、種族特性とかじゃなくて天賦の……そもそも俺には覚えられない、みたいなスキルの多いこと多いこと。
まぁんなこと言ったらそれこそ魔素耐性だの聖気耐性だの、通常持ってるはずないパッシブスキルが俺には備わっているんだけど。三周目が故の一周目二周目のクリア報酬さんがね……。
「ん?」
「どうした、ヴェルグ」
「……なんか来るぞ。ものっそい速度だな。北……ほぼ水平方向」
「ああ……まぁ知り合いだ。攻撃すんなよ」
「いやお前、魔族全員滅ぼすとか言っておきながら魔族の知り合いつくるのエグくね? なんだっけ、イゴナだっけ。お前の女を公言してる奴」
「ありゃストーカーだ。……まぁわかってるよ。情を持ち過ぎちゃいけないことくらい」
わかってる顔じゃないけど。
……こいつと俺の違いはここも、かね。こいつ身内のライン結構広いな。極狭の俺とはかなり違う。
「俺は離れた方が良いか?」
「どの道顔を合わせることになるんだ、今でも早くはない」
「俺が人間なのわかって言ってるよな?」
「魔素の意思で、ってか? 襲われたら実力でねじ伏せろ。そこは止めん」
「攻撃すんなっていった割に──」
ミニマップの赤点が加速する。
こっち……に来ているな。フレースヴェルグ直撃コースじゃない。
俺目掛けて来ている。
「──あたしのフレースヴェルグに何用だコルァァアアア!!」
「剣士スキル:垓」
「ッ──!」
居合スキルの弱めの奴。
それが発動する直前で後方宙返りによるバックステップを選択する猫耳少女。
……久しぶりに見たな猫耳。王国で姫さん助けた時以来か。あれは魔物だけど、こいつは多分というか確実に魔族。
「おいフレースヴェルグ! 逃げろ! そいつヤベェ!」
「わかってるよネレット。けど状況をよく見ろ。俺は襲われてるか?」
「……いや。つーか……あれ、オマエたち、似てないか?」
「兄弟なんだよ。俺が魔化した人間だってのは知ってるだろ?」
「へぇ! 兄弟! ……じゃあ人間、オマエ名前は?」
「ヴェルグ」
「へぇ~……いやオマエ達の親どーなってんだよ! あたしなら兄弟で似た名前つけないぞ!」
太郎次郎三郎みたいなもんだと思えばそうでもないと思うんだけどね。
「っていうか、アレ? おいフレースヴェルグ! オマエの弟言葉通じるぞ! すげーな!」
「そういや気にしてなかったけどそうだな。スヴェロニカには言葉通じなかったのに」
「俺は色々特別なの。で? 俺に名前聞いといてお前は何も言わねえのか?」
「ん、そいやそうだった。あたしはネレット・テッペルヴィナ! フレースヴェルグの……友達だ! 多分!」
「姓持ち魔族? なんだ、どこぞの貴族令嬢か?」
「そういう知識はあんのか。そうだよ、ネレットは魔王領の良い所のお嬢さんだ。が、親の政治的都合で二百も年上の爺さんと番わされるってところを逃げて来たらしくてな。なんやかんやあって付き合いが続いてる」
そりゃまぁ。
……こいつ魔族になっても主人公してんのかよ。しかも剣と魔法のファンタジーの主人公じゃなくてラノベの主人公じゃん。一昔前の。
「魔王領の兵士は全員魔王軍……であってるよな?」
「退役した奴を除けばそうだな。……ああだから、魔王領にいる兵士は全員お前のこと知ってるよ。魔族侵攻邪魔した奴ってな」
「魔族侵攻を邪魔!? やるなーオマエ! 人間のクセに! 流石フレースヴェルグの弟!」
なんか勝手に弟になってるけど、好印象、なんだな。
シーファ然りだけど、やっぱ魔族も一枚岩じゃないというか、思想統一が為されているわけじゃないんだな。
「フレースヴェルグ。お前の味方と言える奴はどれくらいいるんだ?」
「ネレット含めて五人だ。イサカリがいるなら六人とも言える」
「そいつらはお前の最終目標を理解してんのか?」
「フレースヴェルグが魔族を滅ぼすって奴だろ? 勿論知ってるぞ! 四天王も魔王もぶっ倒して、最後にはあたしたちと戦って、フレースヴェルグが最後の魔族になるんだ!」
……。
これを今言うのは、毒かな。
でもフェアじゃないと思うから。
「神官スキル:遮断」
「おっ……っと。なんだ、フレースヴェルグの弟! やんのか!」
「違う。フレースヴェルグもネレット、お前も……俺の最終目標を聞いてほしい」
「お前の? そういや聞いたこと無かったか。お前何目指して動いてんだ?」
「魔族と魔素を切り離す。俺はもう魔化した人間を人間に戻す方法も確立している。あとはどうにかして純魔族を魔素から離すことができれば」
「え!」
その「え」は。
喜び……ではなかった。
「やめてくれ! いや別に他の奴にやるのはいいけど、あたしは魔族がいい!」
「そりゃ……なんでだ。世界の奴隷で居続けたいのか?」
「それはヤだよ。だから死にたいんだ!」
「だから、魔素と切り離しちまえば死ぬ必要はなくなるだろ。魔素は使えなくなるけど、普通の生物になれる。煩わしい声も聞こえなくなる」
「それになって何の意味があるんだ? そんな意味わかんないものになるくらいなら、あたしは魔族として戦って死にたい。あれだな、余計なお世話って奴だな!」
──ハ。
そうだよ。お前、今「魔族は思想統一が為されているわけじゃない」って考えたばかりだろうが。
なんで全魔族がシーファと同じ考えを持ってるって思ってたんだ。
「ヴェルグ。お前にとってさ、魔族は
「いや。勇敢、だろうな」
「そういうことだ。だがまぁ勿論お前のその目標をありがたがる魔族もいると思うぜ。ネレットみたいに戦って死にたい奴らばっかってわけでもないんだ。魔王軍じゃない、魔族大陸の片隅で死に怯え、世界を嫌って過ごしてる奴らにとっては救世主も良い所だろうよ」
「……お前は? フレースヴェルグ。人間に戻りたくはないのか?」
「俺はお前みたいに魔素耐性を持ってない。魔族を滅ぼすと言う目標を掲げている内は魔族でなきゃな」
「あ、アレだぞ、フレースヴェルグ! あたしたち殺し尽くしたら人間に戻ったっていいんだぞ!」
「そりゃダメだろ。魔族だって意思を持って生きてるんだ。それを殺し尽くしておいて、自分だけ人間に戻ってのうのうと暮らす、なんてのは虫の良すぎる話さ。俺は最後の魔族になって……コイツにでも挑んで死ぬつもりだよ」
「弟に兄を殺させるのか? フレースヴェルグ、ダメだぞそれは! ヴェルグが可哀想だ!」
「うっ……そういうところの倫理観は高いよなぁお前」
俺の目的は変わらない。
だけど、フレースヴェルグを想うやつらのために、って考えは今なくなった。
俺にとって魔族は「可哀想」か。
沁みたね。そこは唯一の傷口だったからさ。
結界を解除する。
「ネレット・テッペルヴィナ。お前と話せて良かった。礼は言っておくよ」
「ん? 何がだ?」
「しかし流石だなフレースヴェルグ。良い仲間を集めるもんだ」
「そうだな。最強だのなんだのと言われちゃいるが、俺の最たる部分は仲間運って奴だろうよ。本当に、いつでも、どこでも、仲間に恵まれる」
確かに。
どのルートを辿ったとしても、主人公がソロになることはほとんどない。
故意に仲間を殺していく場合のみソロになることはできるけど、そうでもしない限りずっと誰かがそばにいる。
……あるいは俺も、か?
「行こう。こうしている間にもワォスタクライン達の俺へのヘイトは高まり続けてるはずだ。それだけならいいんだけど、最悪魔族大陸から直接人間の大陸に渡って来かねん。俺が魔族大陸にいることをアピールしなきゃな」
「なら、フレースヴェルグの弟! あたしに良い案があるぞ!」
「うん?」
「一回フレースヴェルグとヴェルグで戦えばいい! オマエら強いからな! 戦いの余波で魔族大陸の全魔族がオマエたちのこと認知するだろ!」
それは。
「……アリだな」
「やるか」
んじゃ。
三度目の正直、って奴だ。
ネレットを遠くまで退避させて、俺達は対峙する。
「精神の蓋、外して来いよ。なぁに、俺が死者蘇生なり完全再生なりを使えるんだ、どんだけ怪我しても治してやる」
「お前が死ぬ可能性は一切考えねえのか?」
「勿論その可能性もある。だが、俺には自己蘇生系のスキルもいくつか用意があってな。ちょっとやそっとじゃ死なねえよ」
「そりゃいい。──じゃあ、行くぜ、ヴェルグ」
聖域と魔域が展開される。
本来これら二つのスキルは互いに相殺し合い、中和されてしまう。その上でMP90%持ってかれるんで使う意味が無い……んだけど、今回のはアピールだからな。
どっちも最大範囲での展開を行う。
「ネレットォ! もっと退がれ、蒸発すんぞ!」
「聖騎士スキル:裁断」
「不意打ち上等ってか! 流石だなヴェルグ!」
いや戦い始まってから他人の心配する方が悪いだろ。隙だらけってレベルじゃねーぞ。
が、まぁ流石に見慣れられたか。ノーモーションで放てるとはいえ、スキルのモーションは数パターンしかない。その全部を見極められたらお手上げだ。結局俺は三周目ステータスゴリ押しマンであり、圧倒的手数初見殺しマンであるから──三回も戦う相手となると、ようやく頭を使わなきゃいけなくなる。
声に出さない格闘家スキル:烈破。その後道士スキル:軌道補正を用いた蹴りで空中に弧を描き、聖騎士スキル:聖断を使う。
「!」
「意表を突いたってのに普通に反応してくるのやめろ」
「いや! 過集中を使っていなけりゃ反応できてなかった。そういうこともできるのか!」
過集中も使える、か。当然。
クソ、完全ソロゲーなんだ、PvPの知識とかゼロに等しいんだぞこっちは。
……いや、そうじゃん。
だから、PvP知識じゃ絶対勝てないんだから、俺は俺の強みを活かさないと。
「最大主教スキル:光の鐘楼」
カラァン、と、
陰鬱とした魔族大陸にはそぐわない、聖なる鐘楼が周囲に聖歌を響かせる。世界を輝き照らす。
「……スキルの存在自体は知ってるが、どういう効果を持ってるのかは知らねえな」
「ああそうなのか。まぁこいつの効果はちょいと特殊でね。このスキル自体には大した意味はないんだけど──『ひれ伏せ』」
ずん、と。
周囲……光の鐘楼が見える範囲の全てに凄まじい重力がかかる。
前述した通り、光属性と闇属性は表裏一体。そして重力関係のスキルは大体闇属性。
光の鐘楼はその表裏一体を内包したスキルであり、最大主教スキルの最後の一つ。
自身の光によって作り出された影に対し効果を発揮するスキル──なお『ひれ伏せ』はそういうスキルとかじゃなくて、「最大主教スキル:光の鐘楼:光の増量:影の縮小:重力増大」という細かいオプションをショートカットワードで呼び出しているだけ。所謂batコマンドだ。
普段から使わないのはそこまで細かいオプションのあるスキルを使ってないってのと、細かく設定され過ぎてて融通が利かないから。
「な……んだ、これは。……対策がわからん!」
「じゃあもっと効いてる素振りみせろ」
「今バフ盛ってなんとか耐えてんだよ……!」
光の鐘楼で作られた影。
それが光によって小さくなれば、本体もその影響を受ける。対処法は簡単。遮蔽物に隠れりゃ効かなくなる。ただしここは空中。逃げ場はない。
ああ影って地面に落ちるのだけじゃないからね。自分の身体で自分の背中にできる影も対象だ。
「──よく、のこのこと、顔を出せたものだな」
「おお一本釣りじゃねえか!」
さぁこっからゴリ押しマンの本領発揮だ、ってところで、俺達の上に立つ者がいた。
ワォスタクラインだ。
「フレースヴェルグ。お前の容疑は晴れたものにしてやる。疾く失せろ」
「……ああ」
こっちにアイコンタクトを送ってくるフレースヴェルグ。けど返さない。んなことしたら通じ合ってんのバレバレだろ馬鹿か。
「ヴェルグ。我ら魔族の転移先を塞いだのはお前だな」
「ああ。ご丁寧にドッから来るか教えてくれてるんだ、塞がない理由が無い」
「成程、我の迂闊か。あの時殺さなかったことがこうも悪しを呼ぼうとはな」
「それで? のこのこと出て来たってことは、やるんだろ?」
「──違う」
「ん?」
違うらしい。
……違うんだ。
「我が城に来い、ヴェルグ。そこでお前に恨みを持つ魔族全ての相手をしろ」
「ヤなこった」
「そうか。ならば転移を用いず、魔族を人間の大陸へ渡らせよう」
ああ。
あー。それ俺に効くと思ってんだ。人間が大事だから魔族侵攻を防いだって思われてんだ。
なーほーねー。
「魔王城に行くのは良いけど、お前を殺してからでも遅くないだろ、ワォスタクライン」
「この我は分け身である。我を殺したところで我に傷はつかん」
「じゃあ、試してみるか」
「なに?」
虚数スキル:繰り込み。
距離や条件の一切を無視して、魔王城の椅子でふんぞり返っているワォスタクラインの本体に斬撃を。
「とまぁ、こういうこともできるんだけど、それでもやるか、ワォスタクライン」
「──……お前、どこから」
セピア色の世界を解除して、剣を寸止めの状態で止める。
彼……なんだけど彼女に見えるのが色々アレだな。うわ上から覗く全裸美女の体エロいな。中身が男だとわかっているけど流石だよアダルトMODさん。普通にドエロイ恰好してる。
「ヴェルグ」
「答えが出たか」
「
「ああ」
「ならばやれ。魔素の声は今我ではなく分け身の方へ囁きを行っている。……我の復讐は既に完了している。罪無き人間の国を滅ぼすなど、意味の無いことをするつもりはない」
──ああ。
お前もかよ。
そうだよな。善人はどこまでいっても善人なのがこの世界だ。たとえ魔化しても――善人はずっと。
「魔素の声は嫌いか、ワォスタクライン」
「当然だ。この煩わしい声さえなくなれば、我は……魔王になど、なってはいない」
「そうか」
「早くやれ、ヴェルグ。気付かれる前に」
「遠慮するよ」
「なんだと?」
ネレットは違った。
けどワォスタクラインがそうだというのなら、俺はその意思の尊重はしない。
「最大主教スキル:封印棺」
「……時間稼ぎにはならんぞ。我を封じるには、これでは無理だ」
「それがそうでもないのさ。……もう少し待ってな、ワォスタクライン。世界には"そういうこともあるんだ"ってのを教えてやるよ」
ワォスタクラインが入った封印棺が、閉じる。
けれど溢れ出す魔素がその蓋をギチギチと軋ませ、ドカンと開け放つ──前に。
「知っているか。最強のひみつ道具は──四次元ポケットなんだぞ」
封印棺を、インベントリにしまう。
蜘蛛の農村で殺した少女にあった魔素の結晶体と同じだ。
外に在っては危険なものでも、インベントリにあれば問題が無くなる。時間が止まるから。
ゲームにおいては封印棺をアイテム扱いできなかったんだけど、ゲームに存在しない結晶体や「鬼」の根付をインベに入れられたんだ。いけんじゃねって前々から思ってたんだよな。
ただ生物が入らないことは確認済み。前にこっそりメアリーを入れようとしたことがあったけど、無理だった。だから封印棺で疑似非生物にすればいけるってなスンポーよ。
──これにて魔王封印完了。
あとは、ミニマップに映る無数の赤点をどうするか、だ。
できりゃ殺したくない。戦って死にたい奴にしろそうじゃない奴にしろ、俺が手を下したくない。そこの感情は変わっていない。
虚数スキルで逃げるか、転移で逃げるか、あるいは。
「こっちよ」
「お前についていくか、か」
さっきからなんか誘って来ていた魔族。
……野となれ、かね。
通された部屋は、何と言えばいいか……ファンシーな部屋だった。
何度も述べている陰鬱さとは正反対の、どこかきゃぴきゃぴとした部屋。
目をぼやけさせてみれば、の話だ。
その全部がピンクっぽい色味の魔族素材でなければ、俺はここを女の子の部屋だと感じられただろう。
「いらっしゃい、お強い人」
「何用だ、ワォスタクラインの妹」
「まぁ、私が誰なのか知っていてついてきたのね」
妹──とは言うけれど、ワォスタクラインは元人間。
分類上の妹。あるいは同族。魔化した人間であるワォスタクラインには当然種族が存在し、その種族におけるワォスタクラインの妹にあたるのがコイツだ。
「ジェスター・ハーネット。用を答えろ」
「そう怒らないで、お強い人。兄を……魔王を討伐せしめた人間の方」
討伐はしてないけど。
それに、いずれ出すつもりだけど。
「──結婚を申し込みたいの」
「断る」
うわぁ……。
なんか……そういう感じかぁ。
色々察しちゃったなー。