アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
突然だけど、魔族の繁殖方法について少し補足を入れておこうと思う。
シーファがそうであるように、魔族は基本的に生殖機能を有していない。膣や陰茎は存在していてるし、卵巣や精嚢まであるにもかかわらず、それらは生殖機能を持たないのである。精子を作り、射精までできるのに子種にはならない。卵子を落とし、子宮まであるのに子を孕まない。
これらは魔化した人間だけの話ではなく、純粋な魔族においても同じ。人間──あるいは生物と同じ構造を持ちながら、魔族は生殖活動をすることができない。
では魔族はどのようにして増えているのか。
それは先刻邂逅したネレット・テッペルヴィナの身の上話から少しだけ漏れている話の続き。
二百も年上の爺さんと番わされそうになった──とネレットは、正確に言うとフレースヴェルグは言っていた。
生殖機能を有さない魔族が番うとは何か。
答えは「足して三で割る」だ。
同じ魔族、違う魔族。魔化した人間。なんでもいい、魔素を持つ者同士が一度融合して混ざり合い、そうして三つに分裂する。妻と夫の混ざり物が三つできる。その内の一人を分類上の子供として扱い、魔族はそうして繁殖を行う。
これだけ見ると同じ魔族が三体出来上がるようにみえるけど、分裂時に自我を強く保っている奴が多くを持っていくので、終わってみれば「自分より強い自分が混ざった相手」と「自分より弱い自分が混ざった相手」と「自分たちより弱い自分たちの融合存在」ができあがるわけだ。
ただしこれだと魔族は何もしないでも絶滅する──ので、他の生物を魔化しにかかるのだ。無論種族が滅びないようにするために魔化を行っている自覚がある者はほぼいないはずだけど。ドゥームスがひた隠しにしてるから。
魔化の原理の全てが解明されたわけではないけれど、ドゥームスの目的はわかっている。そして──これは考察になるけど、魔素の存在理由も。
で、これらを踏まえた上で──ジェスター・ハーネットの申し出。
「お前の性格は知っている。お前の目的も今察した。つまるところ、魔王になり得る種族である己と、魔王を討滅した人間で融合することで、最強となる――そんな浅はかな妄想だろう」
「そんな……あまりひどいことを言わないで、お強い人。私にそんな悪事はできないわ。むしろ私は」
「"兄の被害者なの。兄は私にたくさんの酷いことをしたわ。この翼の半分を持って行ったのも、この顔の傷をつけたのも兄。それに、見て。この私の目を"……と言いながら、魅了をかける。そして相手を操り人形にしてから融合。これで自我の差は歴然。晴れて自身は最強を手にし、人間も子も思い通りにできる」
今のセリフは実際に主人公が言われるセリフだ。
結婚の申し出ではない。主人公が魔王攻略後、「隠された部屋」なる場所でボロボロな状態のジェスターを見つける。そこで彼女は今みたいな身の上話をして同情を誘い、主人公一行を手懐けようとするわけだ。一周目であっても大抵斬られるけど。
そんなバリバリのハニトラに引っかかる奴はおらん。
「さて──お前はいくつか勘違いをしている。まず一つ。ワォスタクラインは別にお前と同じ種族だったから魔王まで上り詰めたわけじゃない。アイツが強かっただけだ」
悲劇の英雄ワォスタクライン。
人類を一度救ったにもかかわらず、数々の裏切りと中傷を受け、故国どころかすべての国を追われ、嫌われ──それでも尚、もう一度人類を救い、けれど最後まで信頼していた"最愛の人"から背中を刺された男。
数百年前に起きた、当時の魔王率いる魔族侵攻を単身で退けるという偉業は、彼の彫像が建てられていてもおかしくないほどの功績だ。資料館でワォスタクラインのミニ小説みたいなのが読めるけど、マジで強い。魔素耐性無いのに魔族とやり合えるし、聖石の加工技術発見したのもコイツだし。
ただ、彼の人生は裏切りと苦難に満ち溢れ──そして最後は失意によって。
「仮にお前が魔王となれたとして、ワォスタクライン程の治世は敷けないだろう」
「……貴方が、兄の何を知っていると」
「だいたいほとんど」
全てを知っているわけじゃない。
ほとんど知ってるだけだ。
「そして次の勘違いだ。お前の自我は俺に勝らない。仮に俺が魔化し、お前と融合することがあったとしても、俺はお前を取り込んで分裂を行わないだろう。お前も子も作らないということだ」
「それは、強がりにしか聞こえないわ」
「最後に。ジェスター・ハーネット。お前が四天王に加えられなかった理由は、
核心の一つ。
魔王撃破後ではなく、一周目クリア報酬のうちの一つである「ひみつの部屋のカギJ」を使ってワォスタクラインと会う前にジェスター・ハーネットのところへ行き、ジェスター・ハーネットを仲間……ではなく同行者扱いにしてワォスタクラインの元へ向かうと、意味深な言葉を吐かれる。
そのまま彼を倒すと、その意味深な内容がどういう意味かが語られ──主人公一行は背後からの強襲に遭い、強制GAME OVER。セーブからやり直しになる。
「お前が全体の益を考えない、ただ欲望のためにだけ生きる邪悪だから、だ」
「──ああ、そういうこと。大した戦闘音もなくあっさり倒されたと思ったら、なるほど、兄と結託しているのね? ふふ、ダメじゃない。兄に言われたことをそのまま言うなんて、折角の作戦も台無しよ?」
ワォスタクラインが放つ意味深な言葉。
それが「……我を倒す者とするには、あまりに邪悪なものを連れているな」だ。
「どれほど特別なスキルを有していても、結局人間はおバカさんよねぇ」
直後、四方の壁、天井床。六面に目が開く。
種族スキル:邪眼。呪詛スキルとほとんど同じ内容のスキル効果を、対象の精神耐性無視して食らわせる理不尽スキル。
今更気付いても遅い。今更思い出しても遅い。今更焦っても遅い。
俺はあらゆる呪いによって行動を、意識を制限され──ジェスター・ハーネットはそんな俺に、口づけを落とす。
「さっき最後と言ったが、俺は適当人間でな、ジェスター・ハーネット。最初に言っただろう、いくつか勘違いをしていると」
「……は? ……え、いいえ、そんなはずはない。分け身ならわかるもの」
「最後と言っても最後とは限らないし、三つだと制限した覚えもない。四つ目の勘違いだ、ジェスター・ハーネット。ソレは俺じゃない。
奇術師スキル:コンフュージョンデュアル。アサシンスキル:弛緩、霧隠れ、ミラードール。
コンフュージョンデュアルでジェスター・ハーネットを二つに分け、本体である方に弛緩を使い、俺は霧隠れ。あとは弛緩したジェスター・ハーネットをミラードールで覆ってやれば俺の皮を被ったジェスター・ハーネットができあがる。
そして彼女は意気揚々と邪眼を使うのだ。仕掛け部屋であるこの部屋のあらゆる魔力をフルに使った、自身の邪眼の増幅効果の全てを──弛緩して何もできないでいる自身の本体に。
「さて、五つ目の勘違いがあったな、ジェスター・ハーネット。分け身ならわかる。──そりゃお前より練度が低かったらの話だろ」
三周目ステータスゴリ押しマンだぞこっちは。
お前より練度低いワケねーじゃん。
「ぁ……んっ……ああっ」
「……あ、そっか」
さーてひと段落、と部屋を出て行こうとした矢先。
なんか艶めかしい声が響き始めたな、と思ったら──ジェスター・ハーネットは自慰を始めていた。
そいやそうだった。アダルトMODの追加オプションが有効になるんだ、この状況。
以前マスカルウィンにした奴。自己を対象に魅了を使うと、オナニーになる、って奴。そんでもって……俺は未だジェスター・ハーネットのコンフュージョンデュアルを解除してない。
故に彼女は、自身で自身を責め合い、感じ合い、高め合う……というめくるめく一人えっちの世界に入り込んで行っている。
大した魔力消費量でもないし、コンフュージョンデュアルはこのままにしておこう。
見た目はちゃんとアダルトMOD入ってるからな。目の保養だ。
「ゃ、あ……嫌っ、ダメ、動けない、嫌、石、石になる、いやぁっ!」
……。
邪眼。呪詛スキル:石化も入ってたか。
人工聖石には嫌悪感を覚える。でもそれは多分、彼女らを道具にする、というところに嫌悪しているのだと思う。
今こうして、二つが……片方は幻覚に過ぎない二つがオナニーしながら石化していく姿を見ても、何とも思わない。
「嫌、いやよ、こんな惨めな終わり方、いや、助けて……助けて、人間! 見てないで助けて、嫌ぁ!」
「神官スキル:遮断」
今から言う言葉は、世界からの介入の無い言葉だ。
そして──最低なことを言わせてもらう。
「た、たす、たすけ」
「正直ヌける」
「ぇ──」
そうして、ジェスター・ハーネットは完全に石化した。
自身の秘所を中指でこじ開け、人差し指でクリを擦りながら、左手は乳房を揉みしだく……そんな恰好で。
全体の益を考えない、己が欲望のためだけに生きるジェスター・ハーネットを、ワォスタクラインは「邪悪」であると言った。
なら俺も同じだ。
俺だって全体の益なんか考えていない。己の欲望のためだけに生きている。
紛う方なき邪悪。
「ふぅ」
石化したジェスターに精子をかける。
正直最初から勃起はしていた。魔物素材で彩られたこの部屋は、当然のように俺のオティヌティヌを刺激する。その前から全裸の女性が野外ではしゃぎまわっているところを見続けていたんだ、勃ちもする。ただその発散先に石化した魔族がいたという、ただそれだけのこと。
「……何かの衝撃で石化が解けた時、俺の精子と融合できたとしても……俺の精子が勝つんじゃねぇかな、自我バトル」
マスカルウィンのレビュー曰く──「強烈」らしいから。
魔王が行方不明になったことを受け、俄かに騒がしくなった魔王城上空。なおジェスター・ハーネットは騒がれない。あの部屋に近づくことを彼女自身が禁じていたから、誰も彼女が石化していることに気付かない。
正直な話、ワォスタクラインがいなくなれば魔族侵攻も止まるんじゃないかな、っていう淡い期待はあった。頭が取れたら烏合の衆、なんてのは良くある話だし。
淡い期待は、やっぱり淡かった、というべきだろう。
バサバサと──翼をはためかせる音が聞こえる。
見た目的にそんなことはないのに、その不可視の翼を何度か震わせて、銀髪の美女が空中に降り立った。
「久しいな、ヒポクリフ」
「……そうね、二人目のフレースヴェルグ」
「喜べ、というとサイコパス過ぎるがな。魔族大陸に入ってから出会った魔族の中に、テュアナを超える魔族はいなかった。未だにアイツだけだよ、俺にダメージを与えたのは」
「そう。……慰めにはならないけれど、あの子も浮かばれるわ」
ヒポクリフ。
コリジョン問題が厄介だ。ワォスタクラインもジェスター・ハーネットもフレースヴェルグも、運よくヒトガタ……見えているグラフィックと当たり判定がほとんど変わらない三人だったから気にしないで良かったけど、こいつは違う。
完全なヒポクリフ。テュアナとやり合った時のことを思い出しながらやらないと、ちゃんと抜かれるだろう。
──油断なんてものであの武人の功績を霞ませるのは、勿体ない。
「臨戦態勢のところ悪いとは思いけれど、私は貴方とは戦わない」
「あ、そうなの?」
「……相手を簡単に信じすぎでしょう。そこまでリラックスされると反応に困る」
「──簡単には信じられねえな。それがブラフで、いきなり不意打ちって可能性もある」
「もう取り繕うのは無理よ」
俺もこの世界来てそれなりに経ってるからな。
戦闘意欲がないことくらいはわかるようになってきた。これが殺気をうんたらかんたらって話なのかどうかは知らん。
「先約か?」
「ええ、一人目の方から。私達四天王を全員倒すと……豪語していて」
「もう来てんのか、アイツ」
「先ほど焦った顔で乗り込んできたわ。今フラム・ブラムと戦闘中」
魔王の四天王はわかりやすく属性分けされている。
ヒポクリフなら風、今出たフラム・ブラムなら火。残りの水と土もちゃんと水と土の魔法やスキルを使ってくるし、ワォスタクラインはワォスタクラインで物理攻撃と光or闇属性魔法しか使わない。使えないのか使わないのかは知らないけど、使ってこない。
だから魔王戦は前座って言われるんだ。対処しやすいから。
ラスボスがドゥームスなのはこれが理由。
「二人目のフレースヴェルグ」
「ヴェルグと呼べ。俺の名はフレースヴェルグではない」
「そう。では、ヴェルグ。……私はここで果てるでしょう。だから、一つお願いを聞いてはくれないかしら」
「内容による。俺はできないことは言わない主義なんだ」
三人目を待たずして、フレースヴェルグが全部やっちゃう、か。
それどうなんだろうね。果たしてフレースヴェルグはドゥームスに勝てるのか。魔素を宿している内は勝てないと思うんだけど、そうなったらフレースヴェルグとドゥームスの四天王とドゥームスを三人目が連戦で倒さなきゃいけなくなるわけで。
キツくね。
「──お願い。人工聖石なる外道を根絶して」
「……」
「私達グリュフォンは、魔族の中でも魔物寄りの存在。だからこそ……アレが如何に最悪であるかがわかる。テュアナの散り様を美しかったと言ってくれた貴方にならば、頼める」
ここでも、か。
人工聖石。レジーナ、お前はどうやら大罪を犯してしまったらしい。
「報酬は如何とする。ヒポクリフ。お前がここで散るのならば、人工聖石を消して回った俺に与えられるべき報酬はどこから出る」
「コールドスウォームの凍結を解除する。そうすれば……魔族は魔族大陸内部の問題でかかり切りになり、人間へ目を向けている暇がなくなる。実質的に魔族侵攻を止めることができる」
うわぁ。
的確だな。コールドスウォーム……えー、凍結解除か。一回生で見ておきたかったけどなぁ。確かにコールドスウォームの凍結を解除すれば、魔族大陸はとんでもないことになる。とんでもないことになるからあそこは時間が凍り付いているんだ。それを解除したら、そりゃ。
……凄いな。天秤の釣りあいが完璧だ。だってそれをすれば諸問題が粗方解決する。俺が追ってる魔素と魔族を切り離す研究はそのまま続けられるし、人工聖石が無くなれば俺もまた帝国に出戻りできる。出戻りを恥ずかしいと思わない性分なんで、「ちょっとアスガードに旅行してただけだったわ~」ができる。
人工聖石の根絶も、シーファには難しいと話したけれど、同じく彼女に話した通り可能ではある。全員殺して云々、みたいな荒業を取らなくてもやれることがある。
メリットは十二分。
デメリットは──コールドスウォームが見られなくなる。それだけ。
交渉天才か??
「コールドスウォームの解除は、いつやるんだ」
「今すぐに。ただし、あそこの時間は長い間凍り付いていたから、解凍に少しばかりの時間を要する。それは恐らく、フレースヴェルグが私たち全員を倒し切るまでの時間と同等」
「んじゃついていこう。契約の履行は見届けないとな」
「……人間が近づいたら死ぬ。わかっているのでしょう?」
「それくらいで死ぬと本当に思っているのか?」
ヒポクリフは──少し逡巡した後に、「いいえ」とだけ言った。
「急ぐわ。ついてきて」
「ああ」
天空のブーツで空を蹴る。
飛翔を始めたのだろう、激しい風を纏うヒポクリフに並んで魔族大陸の空を行く。
眼下に広がる城下町。魔族には魔族の営みがあり、生活がある。
……だというのに、魔物程感情移入できないのは、おかしな話だよな。
「そういえば、魔王様は?」
「封印した。アイツを殺す気はないんでね」
「ありがとう」
「礼? そりゃ変な話だな」
「そうね。でも、そう思ったから」
嫌な情報。あまり考えないようにしていた情報。
何故邪悪が四天王になれないのか。
簡単だ。ワォスタクラインは魔素の声に全力で抗い──四天王は全て──魔族基準ではあるものの──善人で固められていたのだから。
今フレースヴェルグと戦っているフラム・ブラムも、ヒポクリフも。
善人だからどう、悪人だからどう、ということはないけれど。
……いや、余計な思考だな。
余計な思考だ。
そうして辿り着く、極寒の山麓。
ゲーム画面越しに見ていた絶景。だけど、生で見るとやっぱり違う。
圧巻。荘厳。高遠。崇高。雄大。
このゲームで最も好きな景色。ファンタジーの真髄。時間さえも凍り付いた山。
「まず、スノーメノウに一言だけ入れてこないと」
「律儀だな」
「棲み処を追われる苦しみは、身を引き裂かれる思いと似ているから」
ヒポクリフが種族スキルで寒冷耐性らしきものを纏ったのを見て、俺も寒冷地仕様の装備且つ寒冷耐性を発動させて後を追う。
当然のように時間凍結空間に入って来た俺を見て、ヒポクリフは一瞬何かを言いかけて……やめた。いちいち突っ込んでいたらキリがないと学んだらしい。
飛翔んでいく。
その最中、空中で両手を広げたまま動かなくなっている全裸の少女を見つけた。
……俺の愛した光景にも入ってくるか、アダルトMOD。
ノズヴェルガーとの語らいの思い出に余計な色をつけやがる。
「ヒポクリフ。一つだけ聞いておきたい」
「なにかしら」
「お前は魔族であることを嫌悪しているか?」
「……ええ、とても」
なら。
「でも──魔族であってよかったと、そう思ってる」
「そりゃ」
「私達は世界の消耗品。だけど、あの子のように、世界に突き動かされることの無いままに輝きを残すこともできる。世界の奴隷だからこそ、私達が放つ輝きは他の追随を許さない」
思い出す。
テュアナの全力。それにより巻き上げられた海水と、露出した海底。そこにいた魔物たちの表情を。
唖然。絶望。──尊敬。羨望。
ああなりたいと。あれがいいと。
人間のための試練としての役割なんて嫌だと。自らの意思で自らの魂の輝きを刻み付けたいと。
「それが何?」
「……いいや。なんでもない。ただ、当たり前のようにそれを"救い"だと思うのはやめにしようと心に決めた。それだけだ」
「?」
魔素と魔族を切り離す術を見つけたとしても、かならず意見を聞こう。
問答無用にやる、というのは……絶対になしだ。
「こちらからも質問、いい?」
「ああ」
「まだしっかりとした返事を聞いていない。貴方は人工聖石の根絶をすると口にして。しないのなら、私もコールドスウォームの解除を行わない」
「ここまで付いてきたんだ、言わずともわかるだろう?」
「できないことは言わない主義、なんでしょう。それは言い換えれば、口にしたことは必ずやり遂げる信念でもある。誓約と言っても良いはず。違う?」
……。
正直、決めかねていた。それは認めよう。
人工聖石に対する嫌悪感は消えていないけれど、ファントムが言っていたようにアレは「進歩」だ。魔素に無抵抗すぎる人間が開発した対抗手段。ただし、同じく魔素の被害者である魔物を使うというのが──メルキオルでさえも嫌悪した邪悪である、というだけで。
大抵の人間には魔物と魔族の違いなんかわかってない。魔素がなんなのかなんて知らない。
だから仕方のないことだと俺は身を引いた。
進歩を潰すのは違うだろう、と。
でも。
「
「ちゃんと言って。全文、口にして」
「
そうだ。
そして人間をも根絶させれば、万々歳だろう。
「虚数スキル:エンタングル」
セピアに染まる世界。
俺は俺の身体から抜け出し、少し離れた位置へ魔法使いスキル:短距離ブリンクを使って移動。そして「こっちが俺である」と決定する。
すると、ものすごい勢いで俺の元の身体が俺に近づいてきて──だから、
「思考に入ってくんなつったろうが」
俺の身体が俺に重なると同時、ぶん殴ったことで排出されたソレが浮き彫りになった。
だから殴る。世界由来の武器は使わない。ただ三周目ステータスでボコボコにする。
「やるじゃないかヴェルグ! それだよ、それが世界の欠片だ!」
「わかってるよ。わかっててやってる。で、なんだファントム。お前も殴りに来たのか?」
「そうしたい気持ちは山々なんだけどね、ボクはそれに触れないから、痛めつけるのは君に任せるよ。ボクの用事は別」
殴る殴る殴る蹴る殴る。
蹴りは遅いから殴った方が良いなコレ。
「で、用事って?」
「さっきの宣言。君が言った、人類への敵対宣言。アレでようやく三人目が開花したみたいだよ。三人目のフレースヴェルグの影が薄かったのは、君がずっとどっちつかずだったのが原因だったみたいだね」
「ああそうかい。ダブスタ嫌いとは取り澄ましてんな」
「いや正直ヒヤヒヤしてたんだよボク。ワォスタクラインは君が封印しちゃうし、四天王はフレースヴェルグが倒しちゃいかけてるし。その上コールドスウォームの解凍だろ? 三人目が介入する余地が無いじゃないか──って思ってたんだけど、これなら良い"ストーリー"が書ける。ありがとうヴェルグ。君が心を決めてくれたおかげだ。そのきっかけをくれた隣の魔族のコにもお礼を言いたいくらいだよ」
人類への敵対宣言。
……ま。
「ん、なんだ。消えたな」
「ソレはあくまで欠片だからね。君の猛攻に耐えられなくなったんだよ。それにここは虚数空間だから、世界はただここにいるだけで目減りしていく。体を保てなくなるのは当然さ」
「……で、今の。ここから戻ったらまた憑りついてくんのかね」
「うん。でももう対処法はわかったでしょ? 世界も三流ではあるけど馬鹿じゃないからね。何度か撃退してやれば学ぶでしょ」
そうか。
それを聞くと、やる気が出るな。
「ファントム」
「何かな」
「──お前に辿り着かせる前に三人目を俺が殺しちまったら……その時は流石に、俺がお前を殺しに行くよ」
「アハハ! それは楽しみだ。三人目を殺せるかどうかも含めてね。じゃ、ヴェルグ。またね~」
「ああ、またな」
世界が色を取り戻す。
世界が時を取り戻す。
「……? 何故後退した?」
「気のせいだろ。行くぞ、ヒポクリフ。急がないとフレースヴェルグが待ちぼうけ食らうぞ」
「ノルンとフォールワインはそんなに弱くないから、大丈夫よ」
「そうかい。フラム・ブラムはもう負けたとわかってんだな、そりゃ」
「相手はフレースヴェルグ。実力を見誤ることはない」
ああ。
ああ、そうだな。
やっぱり美しいよ、お前達はさ。
頂上へ辿り着けば、そこにはいつぞやの青肌全裸少女。
スノーメノウだ。
「は? ヒポクリフ? アンタ何しに来たの?」
「立ち退き勧告。今からコールドスウォームの時間を動かすから、別の所に住んで」
「……まぁ、なんだ。ほら、凍り付いてない雪やるからさ、頭冷やせよ。な?」
「私は本気よ、スノーメノウ。それに、一言を入れに来ただけだから──逃げるかどうかは、好きにして」
「マジ? ……ダル~。ここ以外の雪山、フェンリルとかが住み着いてて面倒なんだケド」
「別に食料は競合しないでしょう」
「暑苦しいんだよあいつら。尻尾ブンブン振ってこっちのことなめまわしてさ。溶けるっつーの」
「そう。私には関係のないことね」
「あ、おい! ……行っちまった。マジか。マジで言ってる? なぁ、さっきからぼっ立ちのフレースヴェルグさん」
「マジだよマジマジ。ヒポクリフが冗談言ってるのみたことあるか?」
「ない。……マジかー。あー、じゃあ、逃げっから。つーか魔王の許可……は、取ったか。ヒポクリフが無断とかあり得ないし。んじゃーな、フレースヴェルグ。今度また冒険の話聞かせろよ~」
「おーう」
……スノーメノウ。あんなチャラかったっけ。
終始俺が人間であることにも気付いていないみたいだったし。なんか。……なんかな。
「私達も行くわよ、ヴェルグ。時間が無いことは事実なのだから」
「あいよ」
さて、では。
目指すは──コールドスウォームの地下。
噴き出したまま凍り付いたマグマのある場所へ、だ。