アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
その中で、一つ気になることがあって聞く。
「一つ気になることがあるんだが」
「一つですか本当に」
「……二つにしてお……いや一つでいい」
「はい。それで、なんですか?」
「ラヴ・グラットルはイグニスと共に行動していると言っていたな。他に仲間はいないのか?」
「二人ほど」
「やっぱり居はするのか。誰とかわかるか?」
三人目の台頭。ラヴ・グラットルがフレースヴェルグの代替なのだとしたら、仲間は多く獲得できているはずだ。メアリーやらラクニシェルやらは俺が事前に奪っちゃったみたいなものだけど、他にも仲間になるNPCはいるからな。
イグニスは仲間にならないにしても、誰か俺が知ってる奴が仲間になってるなら──。
「確か、聖女であるポリウィックさんと、精霊遣いのヴァネッサさんだったはずです。……どうしたんですか渋い顔をして」
「俺できないことは言わない主義を掲げてるんだけどさ。今回ばかりは前言撤回してもいいかな」
「何か因縁が?」
すっごく。
……ヴァネッサはまだワンチャンあるけど、ポリウィックは……やばそう。あれだよ、エラストマ聖の弟子の女。絶対俺に恨み抱いてるよ。
「……ヴェルグさん。報酬の上乗せをした場合、更なる結果を期待することはできますか?」
「事と次第による」
「前払いとして、私の伝手を使って
おっと。
一度は身を引く方向に傾いた俺の心が、俄然前のめりに。
……こいつ、わかってんな。
けど、たかだか仮面如きじゃ……ポリウィックはともかくヴァネッサは騙せ……いや待てよ、騙せないのは精霊であって、ヴァネッサはいけんじゃね?
精霊がワーギャーうるさいのだけ我慢すれば良いんだろ?
体格は……そっちもなんらかの装備で隠して、声はできるだけいい感じにして。
「更なる結果、というのは、何を指す」
「取りこぼし無し、です」
「欲張りな王女だな」
「欲を張らない者が、どうして国を救えますか?」
そんでもってこの覚悟と来た。
いーよ、そもそも尻込みするの自体俺らしくない。恨まれてたからなんだって話だしな。
前言撤回はしない。できないことは言わない主義は降ろさない。
「それで手を打とう」
餌に簡単につられてやるのも悪くはないのさ。そこに裏が無いのなら。
シアルル王国王都ギルド。その個室に集められたのは、イグニス、ラヴ・グラットル、ヴァネッサ、ポリウィック──と、俺。
仮面と体格を隠す変装、プラスしてアサシンスキル:霧隠れの範囲拡張を行う耳飾りをつけている俺は、その身長や存在感に関わらず「記憶に残り難い相手」となっていることだろう。精霊には一切通じないのでヴォーガー含む全精霊に胡乱な目を向けられているけど無視無視。アイツらの声はヴァネッサに届かないからな。
そしてもう一人。
銀閃のカローライナとしての装束に身を包んだカローライナが、今回の依頼者に駆り立てられたスヴェロニカ──の、胸座を掴んでいる。
「か、カローライナさん、落ち着いて、ね?」
「銀閃。君が私達のために怒ってくれるのは嬉しいけれど、手を出すのが早すぎるよ。もう少し彼の話を聞こう」
簡単に言うとスヴェロニカが今回の依頼をして、カローライナがその危険性をわかっているから瞬ギレした、みたいな状況。
「そーそー、勇玄クンと聖拳ちゃんは話がわかるな。というかこれは第二王女サマからの依頼だって最初に言っただろ? つまり俺への無礼も第二王女サマへのゴフッ」
「……わかった。続けろ」
俺の角度からしか見えなかっただろうけど、カローライナの口が「台本にないことを言うな」という風に動いたのが見えた。そーなんだよね、これ完全な茶番だから、カローライナが頑張って考えた台本通りにスヴェロニカも俺も動いてる……んだけど。
スヴェロニカのアドリブの多いこと多いこと。不必要に自分を悪くみせようとしたり、軽薄すぎる言葉を吐いたり。まるで誰かモデルでもいるんじゃないかってくらい「不和」を生む言動が見受けられる。
「続けるも何も、今言った通りだって。今をときめく大英雄、聖拳のグラットルちゃんとそのパーティの二人。王国じゃ知らん奴はいないって程有名でその功績も輝かしいイグニス! んでドライな判断ができる銀閃のカローライナと、アンタが最近いっつも一緒に居る冒険者バーグ。アンタらで王国の地下に眠る大秘宝【悠遠の灯火】を見つけてきてほしい」
「だから、それが危険だと言っているんだ。何より王国地下自体一般の立ち入りは禁止されている」
「だーかーら、そこが第二王女サマの力なんだって。一般の立ち入りじゃなく王女サマの依頼だから通っても問題はないし、危険は十も承知だけど、それに対処できる面々だってのもわかってる」
スヴェロニカは大仰に手を広げて、酷薄な笑みを浮かべながら言う。
「イグニスに関しちゃ言うに及ばず、グラットルちゃんのパーティの活躍も目覚しい。魔族をぶん殴って殺せるグラットルちゃん、四大精霊通り越して五大精霊を従えているヴァネッサちゃん、その歳で聖女にまで至ってるポリウィックちゃん」
「ふむ。……スヴェロニカさん。確かに私達イグニスはそれなりの実力があると自負してる。だからその依頼を受けるのも吝かではない。けれど、グラットルさんはまだ若い。ある意味で未攻略のダンジョンとも言える王国地下は、拳の強さだけでどうにかできるものではないと愚考するのだけど……どうかな。こういう言葉を吐くのは語弊を生むとは思うのだけど、彼女らは今回の作戦に必要不可欠、だろうか」
「その判断は俺にはできない。ただ一つ言えることは、第二王女サマってのは英雄譚が大の好物だ。それで察せないか、優男」
「……察したくない、が本音かな」
この辺全部アドリブ。
スヴェロニカ自身のストレスも混ざってんじゃねーかなコレ。
「カラジェットさん。カローライナさん。庇ってくれているところ申し訳ないんだけど、私は行きたい。……ヴァネッサ、ポリウィック、どう思う?」
「ラヴさんのお好きなように! 私はラヴさんの真っすぐさに惹かれてここまで来ましたので!」
「私もです。……私はヴァネッサさんのようなひたむきさはありませんが……貴女からは、今尚潰えぬ神の威光を感じます。貴女の判断がきっと良い物になると、私は信仰しています」
ラヴ・グラットル。
前に連れて行った時と同じ、明るく快活でまっすぐな少女。太陽の無いこの世界において、俺が太陽と表現してしまうほどに眩しい娘。
彼女が本当に三人目のフレースヴェルグなのだとしたら、あるいは単身で。
……いや、余計な偏見は持たずにおくべきだな。期待を超えてくれたら嬉しい。そう思うだけにとどめておこう。
「だそうだが、銀閃のカローライナ、アンタの腹は? そっちの旦那もずぅっとだんまりだが、何も言わないのか?」
アドリブが過ぎるって。
極力バレないように俺に話振るなって取り決めだっただろうが。
「……構わん。己は銀閃の手足。彼女の行く先ならば、どこへでもついて行こう」
「そりゃ一途なこって。んじゃあとは銀閃、アンタだけだ。アンタが頷けば、この依頼は成立になる」
「……命の危機を感じたら逃げさせてもらう。依頼の未達成によるペナルティはあるか?」
「ナイナイ。第二王女サマは英雄譚が好きだが、同時に懐が深くてな。失敗したら次の英雄を探すだけさ。ま、失敗した時点でこの先見向きもされなくなるってのがペナルティっちゃペナルティだがふっ」
カローライナも、いちいち突っ込んでたらキリ無いぞ。
スヴェロニカが懲りることなんてないんだから。
「わかった。それでいい」
「ん、んじゃあ、成立だ。これが王国の地下道へ続く扉のカギと、古いモンだが地下の地図。秘宝の在り処までを詳細に描いたもんじゃないのは許してくれ。何分古いもんでな」
「承知した」
ここの茶番が終わればあとはとんとん拍子。
正直ここいるの? とか思ってはいるんだけど、「第二王女が依頼したこと」と「銀閃のカローライナが合流すること」を自然なていで行うにはそれしかないとかなんとか。いーや、絶対もっとスマートなやり方あったね。
こういう茶番はむしろファントムの領域だ。あいつはこういう小芝居好きだからな。
……一応可能性として頭に入れておくか?
大前提にしないのは、作戦立案後カローライナがドヤ顔で「どうですかこの脚本」と自信満々に見せて来たからだ。損得勘定もあるんだろうけど、やっぱりまだまだ子供、かね。年齢じゃ十分なんだけど。
「では改めて。王国ギルドに籍を置くパーティ、イグニスのリーダーを務めているカラジェットだ。ロールはアタッカー兼オーダー。異論がなければ、今回の総合パーティにおけるオーダーも私がやらせてもらいたい」
「異論はない。勇玄の頭脳の良さは私も耳にする」
「私も大丈夫! カラジェットさんが強いのは知ってるから!」
「ありがとう。それじゃあイグニスのメンバーの紹介を簡単にさせてもらうよ。まず、アニス。彼女はアタッカーにもなれる斥候だ。天賦能力で一定距離の空間を自由に行き来できる」
「うむ! どこへでも行けるぞ!」
アニス・ウォーズマン。
改めてキャラクターの性能……というかその能力について語ると、「空間を殴り割って、A地点からB地点までを短縮することのできる能力」である。ワープとはまた違う。殴って割った空間に立ったりできるから。
超限定的な異空間を創る能力、なのかもしらんね。
「こっちのがゴロンド。彼はタンクだ。戦士スキルに加えて各種様々なスキルからタンクに必要なものを全て習得している、タンク分野でのオールラウンダー……というと理解が難しいとは思うけど、そういうものだと思って欲しい」
「おう。俺の後ろに居りゃ、どんな攻撃が来ても守ってやるよ」
ゴロンド。彼について特筆すべき点は無い。タンクだ。ただ総合防御力は俺の基礎防御力と並ぶんじゃないかってくらい高かった……はず。つまり、本気で守れば一撃二撃程度なら完全防御できるって話。
「最後に、彼女はユナ。ヒーラー兼バッファーだ」
「……神官、ですよね」
「あ……は、はい。そういう貴女は神殿の……」
「いえ。余計なことを言いました。今はお互い仲良くしましょう」
ああそうか、そこギスんのか。
正直アモルファス聖とアポトシス聖が主導している再編において、ポリウィックの立場がどーなってるとかは全く分からないんだけど、多分赤土の陸地に帰ることもままなってないだろうからまだ神殿が機能してるの知らないんじゃないかな。
方針を変えた、というのも。聞いてみない事にはわからんが、聞いてみたら流石にバレるのでやらない。
で、えーとユナは……まぁ何の変哲もない神官だ。回復兼バッファー。単体回復より広域回復やリジェネを多用するので、威力の高い一撃には弱い。そこをカバーするのがゴロンドなわけだけど。
「それじゃ、次私ね! ラヴ・グラットル! 格闘家……だから、アタッカー!」
「ヴァネッサです。精霊遣い見習いですけど、さ、最近はちょっとだけみんなが言うこと聞いてくれるようになって……だから、少しはお力になれると思います!」
「ポリウィック。神殿の聖女です。ここにいる理由はあまり聞かないでいただけると助かります」
この三人については紹介する知識を持たない。ゲームにいなかった……いやラヴ・グラットルはいたんだけど、全然違うし。
精霊遣い自体はNPCにいたからある程度わかる。魔法スキルに近いことを、
んで聖女は、それこそもういいだろう。散々戦ったぞ。
「カローライナだ。剣、短剣、鞭がメイン武器だが、その他もある程度使える。投擲を最も得意としている自負がある」
「バーグ。戦士だ。他、多少の呪詛スキル、魔法スキルを覚えている」
……こうしてみると、大人数ではあるけれど、結構バランス取れてるな。
タンク一人、オーダー一人、斥候一人、ヒーラー二人、後衛一人、アタッカー三人。
それこそここでのレイドバトルとか、海沿いでのvsリヴァイアサンの時とかこういう編成にしがちな気がする。オーダーはまぁプレイヤーだからいないんだけど。
「それと、私達イグニスは全員がアイテムボックスを持っている。食料などは任せてほしい」
「あ、アイテムボックスなら私もあります!」
「おや、そうなのかい?」
「私は無いが、バーグが有している」
「……レアスキル持ちがこんなに集まっちゃってまぁ。本当に英雄譚でも作る気かね、第二王女サマは」
だから余計なことを言うなと。
本当に作るつもりなんだから、カラジェット君に思考の余地を与えるんじゃないよ。
とにかく。
ようやく長い長い前置きが終わったのだ。
では──ダンジョン攻略、と行こうか。
快進撃だった。
いやもうね、当然相手は魔物だから俺は目を逸らしてるんだけど、それはもうね。
「ラヴ・グラットル、か」
彼女を王国に送り届けたのは、まだ二か月と経っていない前の話だろう。
あの時は……いやまぁあの時から片鱗はあったけど、にしたって成長が早すぎる。
殴る。殴る蹴る殴る。
格闘家スキルを存分に使いつつ、スキルを使わない攻撃も織り交ぜる。その拳から時折聖気が漏れ出でているのをみるに、本当に体内で聖気を生成できるんだろう。
……けど聖気が何か知ってんのかな。マジで生成できるんだとしたら、その血は。
「問う。ヴェルグ……お前はこの先に眠るモノを知っているな」
「ああ。んで、ラヴ・グラットルがそれを倒して英雄になる。それが第二王女サマの魂胆だよ」
溜め息混じりに声をかけてきたのはヴォーガーだ。他の精霊は遠巻きにこちらを眺めるばかりで口出しはしてこない。んで現状、アタッカーが強すぎて後衛の出番がないのでヴァネッサも暇をしている。
雑談するにはもってこいってな。
「無理だ。恐らく私達の全精霊力……全存在を射出したところで、アレを倒すことはできない。ラヴ・グラットルが立てているさざ波も、聖剣を持つあの男達の力を束ねても……無謀という他ない」
「わかってるよ。死んだら全員蘇生させてやる。ギリッギリまで奴をボロボロにしたあとでな」
「……迂遠な計画を立てるものだ。だが、そうか。ならば私達は、今回ばかりはヴァネッサを守る方向で動くべきか?」
「毎回動いてやれ、と言いたいところだけど、その在り方は宿命だったか。んじゃまぁ仕方ない。んで、守る方向で動いてくれても構わんが、守れるのか? 一撃で消し飛ぶだろ、お前ら」
「私達は精霊だ。死にはしない。だが……そうか。一撃しか保たないか」
「いや、言葉を違えた。一撃保つかどうか、だ。守った所で後ろのヴァネッサごと消し飛ぶ可能性もある」
死んだら蘇生してくれとは言われたけど、心臓が残ってなかったら……完全に塵となるまで消し飛ばされたら多分俺でも無理だ。その塵芥を完全再生して蘇生を、という手段が通じるかどうかはやってみないとわからないけど、多分無理。
世界はそこまで優しくないと思う。
「はぁ。ヴァネッサが遭う苦難は私達が対処できるものでなければならないというのに……今回は度が過ぎる」
「ま、安心しな。今回の俺はちょいとやる気が違うからさ」
「……」
「猜疑心しかない目をするなよ。珍しいこと言ってる自覚はあるよ。……ただ、今回のは報酬がちと多すぎる上に、依頼が"取りこぼさないこと"なんでね。ヴァネッサもその対象になる」
「此度の依頼人、か?」
「そそ。第二王女サマ」
「……成程、全ては組み事か。ならばもう何も言わない。私達は私達の"やるべき"を全うする」
言ってヴァネッサたちのもとへ戻っていくヴォーガー。
アイツも苦労人だねぇ。精霊として生まれていなかったら、もっと楽に生きられただろうに。
さて。
もうそろ初見殺しの階層だ。ちょいと前に出ますかね。
「下がれ」
十七層の扉をこじ開けたラヴ・グラットル。
その首根っこを引っ掴んで後ろに投げる。
「っ!?」
「わっ!?」
して、扉の向こうから出現した銛のようなものを掴み、折る。
悲鳴が上がる、とかはない。
「バーグさん……今のは?」
「トラップだ。アニス・ウォーズマン。扉の向こうの探知は可能か?」
「今行っている! ……む……これは、なんという量の罠だ! 今までの階層には一切なかったというのに!」
「今までの階層はただの緩衝材だ。これより先は侵入者を阻む、このダンジョン本来の姿。そしてその先に、件の秘法を封印するための機構が広がっている」
「……封印? いや……バーグさん、君は何故そんなにもここについて詳しいんだい?」
「それは今必要な情報か、勇玄」
「
カラジェット。
彼は間違えない男だ。空気を読める男でもあるけれど、うやむやにしてはいけないものを問い詰めるタイミング、というものを理解している。他の皆が詮索を嫌う──自身にも隠し事があるから──中で、唯一彼だけが踏み込むことのできる位置にいる。
あ、ラヴ・グラットルに隠し事があるかどうかは知らないけど、脳筋だから多分気付いてない。
「……」
「話せないのなら、私達はここで引き上げる。それでは困るのでしょう?
「……悪い男だな、カラジェット。いつから気付いていた?」
「第二王女からの依頼と聞いた時からです。私達イグニスやグラットルさんは"英雄に担ぎ上げる"ために十分な知名度を有していますが、銀閃のカローライナとそのお供バーグさんがそうだとはとても思えません。だというのに第二王女は貴女達を含めて依頼した。それは貴女達をこの作戦に含める必要があったと、そういうことでしょう。こう言ってはなんですが、単なる冒険者である貴女達を作戦に含めなければならない理由は何か。簡単です。この先にあるのでしょう。王家の血でしか開かない扉や封印の類が」
察したくないが本音、と言っていたけれど。
あれは多分、ラヴ・グラットルだけの話じゃなかったんだろう。
「えっと……カラジェットさん、それってつまり……大秘宝は」
「事を急いてはいけないよ、ラヴ・グラットル。彼女の素性は明らかになったけれど、目的を聞き出せていない。……何の意図があって私や彼女らをこのダンジョンに連れて来たのか。それをはっきりさせなければ」
「先ほどお前が言った通りだ、勇玄。お前達を"英雄に担ぎ上げる為"。それが目的だ」
「違いますね。それは副次的な目的でしかない。オリランカ第二王女様。貴女には何か別の目的があるはずだ。だって、王国の地下に眠る秘宝を取って来たところで、私や彼女を英雄に担ぎ上げることなどできないのだから」
急いては事を仕損じる、かね?
損得勘定が過ぎたか。あるいは、他人を駒としてしか動かせないところが仇と出たか。
「認めよう。私には別の目的がある。そして今ここに宣言する。ここから先は別の依頼だ。第二王女オリランカの名のもとに、新たな依頼をお前達に出す。──王国地下に眠る化け物を退治してほしい。私達王家は二千年もの間、アレを封印するためにこの地に縛られて来た。その封印が破られそうになるたびに国土を広げ、封印を強め……そうして出来上がったのがこの国の円形の国土だ。それは今、帝国をも飲み込まんとしている」
「……成程。この国の歴史のいびつさは、そこから来ていたのか」
「帰ってくれていい。この先は真に死地だ。化け物を倒すには化け物を起こす必要があり、それを起こせば今の王家への信用は失われるだろう。先の戦い……魔族の侵入や住宅区での大崩壊の、あらゆる災害を説明できずに終わらせている。だが、今度こそ逃げ場はない」
住宅区での大崩壊。
あそれ俺だね。
「私がお前達を英雄に擁さんとしたのは、王家という頭を失くした国民たちをまとめ上げる存在が欲しかったからだ。人々は希望を盲信する。戦い得る力が自分たちと共に在ること。それをこそ人々は安全という。──だが、その安全はお前達にも与えられるべきものだ。故にここから先は行かずとも咎めはしない」
「……はいはーい! 質問質問!」
重くなりかけた空気を切り裂くように、明るい声が上がる。ぴょんぴょんと跳ねる金髪。
「なんだ、ラヴ・グラットル」
「仮に私達が帰ったとして、カローライナさんとバーグさんはどうするの?」
「無論、進む」
「それじゃあ私も行く!」
……シンプルだな。
もういいや。ラヴ・グラットルが三人目であるかどうかとか関係ない。
コイツは主人公だ。肌でわかる。
「私達が進むことは、ラヴ・グラットル。お前が命を懸けるに足る理由になるのか?」
「少なくとも!」
彼女は──ビシッと、俺を指差す。
「私は目標にしてる人がいて、その人は戦士で。で、バーグさんも戦士で、現状私より遥かに強い! 強そう! ……だから、バーグさんを超えなきゃ私はその人を越せない。カローライナさんが二人だけで行くって言うのは、つまりカローライナさんとバーグさんだけでなんとかなる、って意味でしょ? ──なら、私はせめてその隣か、数歩後ろにでもついていかないと、突き放されちゃうから」
「それが命を懸けるに足る理由か? 些か釣りあっていないように思うが」
「最初から天秤は私に傾いてるよ。私にとって命を懸けるに足ることは、自己の研鑽だから」
思わず「ハ」と笑みが出てしまった。
いいねぇ。気持ちいいじゃないか、ラヴ・グラットル。
「諦めろカローライナ。そいつは"王国の英雄"なんて小さなところに収まるタマじゃあない。そいつを英雄にするには、シアルル王国の格が足りん」
「……だったら尚更帰ってほしいが」
「だから諦めろと言っている。ラヴ・グラットルはこの下に眠るモノを最終目標にしていないのだ。彼女にとって奴は通過点であり、それを踏み越えない選択肢が存在しない」
仮面が無かったら、俺はかつてないほどの破顔を晒していたことだろう。
善人。主人公。意志の強い奴。
いいじゃないか。俺には無いものだからな、眩しくて眩しくて、その先を見たくなる。
世界の「三流台本」も、ファントムの"ストーリー性"も否定しがちな俺だけど──本当に物語が嫌いなら、剣と魔法のファンタジーなRPGなんかやってないのさ。物語に興味が無いのならハクスラとかばっかやってただろうし。
「やれやれ。ラヴ・グラットル。君にそこまで言われたら、僕もさがるに下がれなくなってしまったじゃないか。……皆、すまない。久方ぶりの"我儘"だ。聞いてもらえるかな」
「野暮なことを聞くな! 私達はお前の在り方を気に入っている!」
「おうよ! ハハッ、それに、さっきから黙って聞いてりゃなんだなんだ! 本来俺達の力は要らなかったって、そう言いてぇみてぇじゃねえか! 聞き捨てならねえだろ! なぁカラジェット!」
「……頑張りますっ!」
間があったのは……ユナはちょっと勘づいているか。
王国の地下に眠る化け物。聖堂でも軽くは教えられているだろうし。
「異存はない。神殿の聖女としても、対処しなければ問題だったと思いますから」
「お役に立てるかわかりませんけど、頑張ります!」
カローライナの肩にぽん、と手を置く。
彼女は。
ああ──笑っている。本当に気が合うな。
見たんだろう?
英雄を。幻視したのだろう。
「ありがとう。──なら、探索再開だ」
さーて。
蘇生準備しておこうか。初見殺しトラップは意気込んだところで避けられないからネー。