アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
襲い来る鋼鉄のトラップを左右に切り分けて、拳と剣が進撃を再開する。
目を引かれるのは勿論籠手も腕甲もつけずに鋼鉄を殴り割っている少女の方だが、後ろへ続く者達に一切の打ち漏らしを残さない剣──青年もまた等しく美しいものがあった。
最早パーティにおけるロールなど関係ない。共に強きを目指し、高め合う二人の前には、モノであろうとヒトであろうと立つことはできない。立ちはだかることも、立ち塞がることも、庇い立てることでさえも。
隣人。そう呼べるほど死が近いのは理解できる。二人の間には天と地ほどもの"経験の差"があるけれど、同時に死に対しての嗅覚は同じくらい鋭敏だった。ここから先が死地であると言われた理由もわかる。それはたとえば、生きるために迎撃を行う魔物や、人間を障害だとは思っていない魔族とは違う──殺すためだけに生み出された機械。
トラップだ。殺人のためだけに設計されたそれら機械には、生命の灯が存在しないというのに明確な「殺気」が存在していた。
外せば死。違えれば死。判断が遅れたら、何かに気を取られたら、足がもつれたら、少しでも怯えたら。
死が、眼球を掠めるほどの距離にある。
「は」
はは。
ははは、と。あるいは狂ってしまったかのような哄笑。けれど、けれど、あまりにも楽しそうで、あまりにも楽しそうで、あまりにも楽しそうな笑い声。
二人の男女が響かせるその声は、喜色に満ち溢れていた。
──けれど、それでも尚二人の前には死が在る。
否、正確な表現をすべきだ。二人の前にあるのではない。
仲間の前にあるのだ。
眼前ばかりを見ていれば済むダンジョンであるのなら、あるいはとっくの昔に誰かが機構の全てを壊し、"発掘"を終えていたことだろう。それが為されていないのは、封鎖されていたから──ではなく、危険極まりないからだ。
青年が異音に気付いた時にはもう遅い。壁の中に埋め込まれた機構は歯車を回し、後衛を狙う。後続にこそ最重要たるロール──ヒーラーがいるとわかっているそのギミックは、やはり人為的な悪意を以て作り上げられたトラップの要塞。
前ばかりを見て、高め合う気分の高揚に酔っていた二人では届かない。
神官と聖女。ご丁寧にもスキルの行使を始めたタイミングで襲い掛かって来たその凶刃は。
「後ろは任せてくれていい。前を見ろ、カラジェット、グラットル」
より強いモノによって打ち砕かれる。
それは人数の多い総合パーティだからこそできることだ。戦士を前後に配置するやり方であるならば、青年と少女は後ろを気にすることなく戦える。あるいはそれは、彼らの仲間からしてみれば歯がゆいことなのかもしれないが──。
「行こう。僕たちの剣が前を照らすのだから」
「うん。カンテラは、一番先の人が持ってないとね!」
進む。
実際、二人にはもう余裕がなくなってきている。
後ろを気にする余裕が、だ。ひっきりなしに命を狙い来るトラップたちは疲れを知らない。対して青年と少女は人間だ。疲労で動けなくなる、には程遠くとも、呼吸をしなければならないタイミングというものが存在する。集中は永遠には続かない。センスだけでは避け切れない罠もある。拳で打ち砕くにも刃の面を見る必要があるし、剣で切り裂くにも角度を考えなければならない。
思考の中で行う高速戦闘は二人の焦りを加速させ、防いでくれるとわかっていても、背後で響く悲鳴が嫌な光景を想像させる。
走る。傷口が。
ピシ、ピシと、対応しきれなかった罠が少女の柔肌を切り裂く。青年にはまだ余裕が残っていて、少女はこれ。それはリーチの差だったり経験の差だったりと色々な隔たりが関係しているものの、一番の要因はその心持ちだろう。
セーフティが無いのだ。
死を前にした時、青年はそれを完全に見極め、しっかりと下がって対処する。しかし少女は違う。眼前に死があれば踏み込んでそれを砕かんとする。自ら死地に飛び込み、「死」の間合いを惑わせて、そこに拳を入れる。
まるで死ぬのが怖くないと言わんばかりの突撃は、けれど神殿における最高位のジョブである聖女がいればこそ成り立つものなのかもしれない。少女に走った傷は瞬く間に消え、その拳の威力はさらにさらにと力を増す。
青年があまり怪我をしないから、彼のパーティメンバーである神官もまた少女に癒しを与える。
危ういな、と。
青年は思う。常から感じていることでもある。
怪我をして、失敗をして、それこそがセーフティとなって経験となる。このダンジョンは「学びの場」とするには些か危険すぎる場所だけど、それでも活かせるものはあるはずだ。だが、聖女と神官が必死になって彼女を治癒するから──少女は永遠に学べない。
「大丈夫」
けれど、少女もまた、気付いていることだった。
彼女は突撃癖を持っているけれど、決して馬鹿ではない。「何故大丈夫なのか」を説明できる自分なりの根拠があるから、少女は自らを省みない。
殴り割った機械の金属片が腕を切り裂こうと、落ちて来たパーツが頭部を掠めようと──少女の目に宿る灯に陰りは一切見られない。そこでようやく青年は気付いた。
危ういのではない。
恐ろしいのだと。
追い越されぬよう高めると、高め合うと誓った相手が──いつの間にか自分より高い所にいる。傷の有無は経験の差ではない。状況の理解度の差だった。
「試されてる。だから私は、全力じゃないとダメ」
ああ、気付いてみればあまりにもありありと、だ。
後ろを振り向くことはない。集中を欠くことはない。
けれど、この場全体を俯瞰する視線がそこにはある。何かを推し量るような思考がそこにはある。
バーグ。
現在パーティの殿を務めている、仮面とローブで正体を隠している異質な戦士。その実力は誰もが認めるところだけれど、彼はオリランカ第二王女側の人間。その中身が如何ほどのものであるかなど、今更考える意味も無い。
ただ。──ただ、悪意のあるものではなかったから、少女も青年も、また前を向けるのだ。
「速度を上げよう。僕にはこれがまだ、序の口に過ぎないと……そう思えて仕方がない」
「全速力で行こうよ。私、走るの大好きだから」
魔物とではない。魔族とではない。
大昔に人間が作り上げたトラップと、現代の人間の戦い。
──轟音は地下の全てに響き渡っていく。
想像以上だった、と言わざるを得ない。
蘇生準備はしていた。正体バレも仕方なしにヒーラーに徹することも考えていた。
けれど、なんだ。
ここはゲーム内屈指の初見殺しダンジョンだぞ。
だというのに、なんだ。
何故あの二人は死なない。
カラジェット君の内部ステータスは知っている。ラヴ・グラットルが三人目だとしても、そのステータスが「カラバ村で育った少女」程度に収まっていることもわかっている。だというのに死なない。
あり得ない。
ちゃんと、あり得ない。
王国派騎士団所属ルートのラスボスダンジョンみたいな位置だぞ、このダンジョン。確かに魔素の有無の面でドゥームスの居るところには劣るとはいえ、トラップの攻撃力は最終盤主人公のステータスに合わせたものになっている。即死レベルも珍しくなく、不可避なのにHP90%持ってかれる、とかもザラなのに。
ヒーラーが二人いるから、とか関係ない。タンクなんか一切機能していない。
強すぎる。前衛二人が。
「……強いな、あの二人」
「いやぁ……俺も驚いてるよ。カラジェットの奴、なんだ、普段は……力を抑えてたのか?」
「否! ラヴ・グラットルのせいだろう! 互いに負けず嫌い! 此度敵が意思持たぬ鋼鉄である以上! 負けたくない、という意思の矛先は互いへ向く! その相乗効果は天井を知らぬと見た!」
「だ、だからってやり過ぎですっ、回復、追いつかなくなってきてます!」
「ヴァネッサ、貴女の精霊も回復に回して! そろそろ限界!」
「はい! セーちゃんたち、お願いします!」
アニス・ウォーズマンの言うことが正しいのだとしても、異様だ。
ダンジョンが易化しているわけではない。俺の記憶通りの王国地下ダンジョンだ。ヴァネッサ……というか精霊たちの精霊スキルがオーバーパワーなのはそうだけど、攻撃やバフより回復にシフトチェンジした今でさえ進撃速度は落ちていない。
聖女、神官の有無も関係ない。
ただ単純に、あの二人が強いだけ。
「バーグ。……あれぞ英雄か。私の冒険者稼業がままごとだったことを思い知らされる気分だよ」
フレースヴェルグは確かに英雄だ。ワォスタクラインも英雄だろう。
だけど、現時点でのあの二人では、彼らに並び立てない。そのはずだ。ポテンシャルの面では同等かそれ以上だろうけど、まだ英雄足り得ない。
そのはずなのに。
「……食指が動く、というのは」
こういう気分か? ファントム。
見てみたくなる。
この二人が、この二人だけで、どこまで行けるのか。
ボスはレイドバトルになるボスだ。巨大且つ強大。あるいはそれをも二人だけでやれるというのか。それならば……確かに、フレースヴェルグも、ドゥームスも、そしてファントムも容易に倒してしまうだろう。
意気込みだけで人は変わるのか。意識改革だけで人は進めるのか。
……無理だろう。
まだ判断は早い。次の階層からは魔物も出る。アニス・ウォーズマンの理論が正しいのだとしたら、その相乗効果もここまでだ。
「見てみたいとは、思うよ。それでも」
「バーグ?」
次の階層への扉が開かれる――。
して。
「──っ、ぐ……」
「……負けないよ」
まぁ、無理だった。
心のどこかで安堵している自分がいるのが快くない。三周目ステータスゴリ押しマンより一周目で強くなられたら困るとか、ドゥームス守れないじゃんとか、いろいろ考えていたのが漏れてなきゃいいけど。
「酸……とは。鋼鉄のトラップと、打って変わり過ぎだろう……」
「は、範囲で回復をします! 、つ、きゃあ!」
「セーちゃん、お願──あ、づっ!?」
トラップ地獄の次は、状態異常地獄だ。初見殺しダンジョンらしさ全開。
酸、毒、石化、沈黙、暗闇、火傷、呪い、睡眠、そして──混乱。
一撃目で気付けたのは流石と言っておこう。
ただその一撃があまりにも強すぎた。
先頭を行く二人。
二人が二人して、互いに互いを攻撃した。それもわかっていたことだ。状態異常・混乱。コンフュージョンデュアルに効果は同じ。敵か味方かがわからなくなる。ただそれだけ。ゲーム的な処理では敵味方の識別ができなくなる、って感じだったけど、現実だと幻惑に近いか。
恐らく二人は今互いが互いを魔物だと思っている。いいや、見えている、止まりか。「そんなわけがない」と一撃目で気付いたようだけど、そこから先も「本物の魔物」と「味方」の区別がつかず、今まで出来ていた連携が完全に崩れた。
ヒーラーが状態異常を回復しても、その上から状態異常がかかる。
この階層のどっかにある「トーテムポール:混乱」を破壊しない限り一生この状態異常がかかり続ける。次は毒でその次は沈黙だったかな。
強さはある。
だが耐性系は常人通りだ。そして、状態異常は直感だけでどうにかなるものではないということもわかった。ラヴ・グラットルの獣染みた直感でさえ、インプットされる情報が全て乱されていては惑うのだと。
「見通しが甘かったな。王国地下に眠るのが奴だけならば、あるいはだった。お前のリサーチ不足だよ、カローライナ」
「契約は、成っただろう……!」
「取りこぼし無し。無論だ。が、英雄擁立は無理だな。もはや壊滅状態だろう……ん?」
立ち上がる影があった。
常時混乱+酸を吐く魔物。対策不足でパーティ全滅……だと思っていたら、一人だけ。
「負けないよ、まだ。私は……あたしは、負けない」
ふらふらと立ち上がり。
そうして──カラジェットでさえ倒れた戦場で、また一人アリアを踊り始める。
成程。
中々非道な判断だが、適切だ。
待っていたのか。戦場から仲間が一人もいなくなる瞬間を。だってそうすれば、後は敵だけだから。
霧隠れ状態の俺は目に入らないだろう。他のメンバーは全員瀕死で混乱の対象外。死体蹴りとかはないからなこのゲーム。
思い切りが良すぎるけれど、頭も回る。
それに……気付かれている、かな。全滅しても俺がなんとかできる、って。一切こっちに目を向けない彼女だけど、だからこそわかることもある。
後先を考えない全力だ、アレは。
あるいは「既にセーブしてあるからとりあえず全力でぶつかって後から対策考えればいいや」ってなってるプレイヤーくらい後先を見ていない。死さえも手段。
状況をひっくり返せる奴が一人いるのだから、全てを試し得る。
脳筋少女、じゃねーなアレ。ちゃんとラヴ・グラットルなりの思考回路が存在する。
……が。
べちゃ、と。
倒れる。ラヴ・グラットルが。
当然だ。四肢の全てを溶かされてしまえば、如何に意志の力が強かろうと関係ない。格闘家スキルといくらかの戦士スキルしか用意していない彼女では、立ち上がることはできない。
「ぅ……ぁ、あ」
「ぐ……ぞ……」
「ここまでか……」
そしてこの階層の怖いところは、中々死ねないところだろう。
魔物は酸を用いるけれど、素の攻撃力は高くないどころか低い。その分身軽なんだけど。
だから彼女らは酸で獲物が死んでから近づいてくる。死ぬまでは静観する。窮鼠猫噛でしっぺ返しを食らうのが怖いから。
だが。
精霊たちも動けない。
ヴァネッサが完全に死んだら蘇生してやるつもり満々なんだろうけど、死んでいないから二の足を踏んでいる。……違うな。あいつらは完全に死ぬまで待ってるだけだ。「死なないと回復できない」なんて嘆きは存在しない。早く死なないかな、くらいにしか思っていないだろう。
……まぁヴォーガーだけこっちをジト目で見てきているけれど。それは多分「助けないのか?」だと思う。
「言っただろう、カローライナ。即死のできる毒を用意しておけと」
「……」
ありゃ。
もう無理か。……あー、顎がね。うつ伏せで倒れてたらそりゃそうなるか。
「次に期待、ってことで」
エコーロケーションを使ってトーテムポールの位置を探り、転移して殴って破壊。
全員に状態異常回復をかけて、一人一人封印棺に入れて牽引。某RPGの死者を引っ張るみたいな絵面で混乱階層を爆走し、次の階層へ。
またトーテムポールを……とやろうとして、いやもう良くね? ってなって破壊を中止。俺に効かないし。魔物はできるだけ避けて、どうしようもない時は弛緩や催眠、あと奇術師スキルで避けて、またスルー。
それを状態異常地獄分全階層で繰り返す。
全十階層のそこを抜けきった段階で足を止め、封印棺を解除。
まだ息のある奴は完全再生、死んでるのは死者蘇生で復活させて……まぁ、起きるまで待つ。叩き起こすのもできるけど、一度死んだ、死にかけたって精神的疲労は睡眠で癒されるべきだ。トラウマになる可能性もあるけどまぁ大丈夫だろ、このメンバーなら。
「あ、ヴァネッサも回復させちまった。……なんか文句あるか?」
「いや、ない。安心しろヴェルグ。前回の事についての記憶共有は既にしてある。全員ちゃんとお前に怯えている」
「有能」
だから話しかけてこなかったのか。
ヴォーガー。彼女もちゃんと"精霊"だけど、そういう気配りはマジでありがたい。最悪ヴァネッサだけまた孤島送りとかしなきゃいけなくなる可能性もあったわけだし。
……ま、小休止だ。
もうちょい続くからなこのダンジョン。焚火と……簡単な食事でも作っておくか。俺の精神安定的な問題で肉を一切使わない料理になるけど、そこは勘弁してほしい。どうせ携帯食料は持ってるだろうから、足りない栄養素は後で自分たちで食ってくれ。
ごそり。
料理を始めてから十分としない内に、安置してあった死体……じゃねえ、生き返った奴らのうちの一人が動く。
ラヴ・グラットルだ。
最後まで立ってたのも彼女で、最初に起きるのも、ってか。
「……良い匂い」
「肉の類は一切ないぞ」
「……」
いや、腹減りで起きただけか。
ちょいと俺も英雄視し過ぎかね。
他の面々もいずれ起きるだろう。もうちょい量作っておくか。
「私……負けた、はず」
「ああ。だから全員酸の海から引っ張り出して、魔物全無視してここまで持って来た」
「……やっぱり、バーグさんは、私達を試してたんだね……ですね」
「気に障ったか?」
「ううん……弱い自分には怒りがこみ上げてくるけど、それ以外には何も」
おお。
太陽太陽してない時は喋りやすいな。普通の女の子って感じだ。
「スープ、貰っていいですか?」
「勿論」
「ありがとう! ……ございます」
「無理はしなくていい。楽にしろ」
一瞬太陽が出かけた。
……ふむ。落ち込んでいる様子はない。ただスープをちびちび飲みながら、何かを考えている。
「今、何を考えている?」
「敗因」
プレイヤーかよってくらいストイックだな。
負けてセーブに戻った瞬間に編成見ながら敗因と対策考えてパーティ組み直したり装備見直したり。懐かしいわぁ。
「状態異常……の、耐性。……格闘家スキルと戦士スキルだけじゃ、無理……?」
「まぁ、そうだな。更なる強さを求めるなら、耐性系をいくつか取っておかないとキツい。装備を固めるのもアリだ」
「……でも、鎧とかは……動きを阻害するから」
「装備は鎧や兜だけじゃあないさ。耳飾り程度のものにも状態異常を防止する効果を持つ奴がある。強さばかりを見ていて、そういう細かい部分に目が行っていなかったんだろう。確か王都の装飾品を扱う店にもその類の装備は売っていたはずだぞ」
初見殺しで死に覚えが基本のゲームだけど、対策を取れるようにはなっている。
王都地下ダンジョンに繋がる扉。その最も近くにある装飾品店に、各種状態異常耐性20%の指輪が売られていたはず。層ごとに使い分けないといけないものの、0%と20%とでは雲泥の差だ。
まぁ王都地下ダンジョン攻略する頃に耐性系スキル一個も持ってないとかあり得ないんだけど。
「いくらか余りがあるが、いるか?」
「……買います。貰うのはダメなので」
「何故だ。仲間だろう? 少なくとも現時点では」
「お金も努力だと、教わりました」
へぇ。
いい先生だな、ソイツ。誰だか知らんが。
「まぁ、今じゃなくていい。これ以降の階層に状態異常を扱う奴はそう多く出てこない。ポリウィックとユナで対応できる範囲だろうよ」
「じゃあ、ここから生きて帰ったら、全種類買います」
「ああ、俺からではなくちゃんとした店からな」
相場わかんねーし。
あと俺が持ってるの最終強化済みだから値段多分エグいんだよな。
「バーグさんは……なんでそんなに強いんですか?」
「強く見えたか? 俺はお前らが全滅するのを待ってから、瀕死の全員を回収して魔物から逃げ回っただけだぞ」
「強いから待てたし、強いから逃げられた。排除せずともいいってわかった。違う……ますか」
「だから楽にしろって。……まぁ、現時点のお前達よりは確かに強いだろうな。んで、なんで強いかと問われたら」
……三周目だからです。
実際それ以外に答えが無い。俺に意思の強さなんてものがあるはずもなし、大それた夢や希望を語れる精神も持ち合わせていない。強くなるための研鑽もしてきていない。
んじゃ、まぁ。
「それを聞いて、どうする。それを答えにする気か? ラヴ・グラットル」
「……」
うやむやにする、が正解だ。
実際ダメだと思うんだよな。なんで強いのかを聞けたら、そこを目指しちまいかねん。この少女がフレースヴェルグであれそうでなかれ、ポテンシャルを最大限に伸ばすのなら暗中模索が一番適ってる。攻略wiki見ながらやってたら最強にも英雄にもなれないよ。
そいつはただ"効率が良い"だけだから。
「……お肉食べたい」
「持ち合わせがなくてな。食料はイグニスが持っていただろう。欲しけりゃ叩き起こせばいい」
「そうする……」
え。
流石に待つとか、ないの。
あ、カラジェット君の頬を殴りに……あ、あ、いけませんお客様、寝ている人にスキルまで使うのは。
結果的にそのドタバタで全員起きた。
俺の作ったスープと、イグニスの持って来た食料をそれぞれが分け合って、ようやく本当の小休止。俺は貰ってない。携帯食料がどう見ても少女の腿とか腕とかにしか見えなかったから。
彼らは俺が回収したと聞いても、礼は言えども文句は言ってこなかった。
イグニスメンバーはともかく、ヴァネッサとポリウィックまでもが、だ。
ラヴ・グラットルにアテられて覚悟キマってんのかね。
いいじゃんな、知ってる奴がいるんだから。「この先何があるのか言え! 命がかかってるんだぞ!」くらい言って来たっていいのに。
聞いてこないでやんの。
「大丈夫ですよ、バーグさん。──私達は死を忘れていません。貴方の力がどれほど強力でも、それに頼ることはしないと約束します。私達は死を状態異常に見ない。危険を省みる。……彼女だけは、それに適応されないかもしれませんが」
「好きにしろ。俺は第二王女との契約を守る」
「はい。……それじゃあ、休憩も終わった。行こうか、皆!」
残る階層の特色を語るのならば、「ただただひたすらに魔物が強い」ということだけ。
魔物殺しに関与する気は無い。殿としての役目は果たすけど、それ以外では助力しない。そう勝手に決めた。全滅したら全員引っ張ってまた蘇生させてやる。
ゾンビアタック上等、回復装置……あるいはセーブポイントとしての役割で、英雄にならんとする者達がどこまで行けるのか見定めさせてもらおう。
そして──自身の弱さを痛感する、英雄足れない者達の行く末も。
「情けないな。……私は恐ろしくなったよ、バーグ」
「何がだ、カローライナ」
「私は家族をデメリットとして切り捨てた。……けれど、あの化け物を守る機構だけでこの強さだ。あるいは頑なに意見を変えなかった家族の言い分も、決して間違ってはいないのだと……ああ、そうだ。思い切りの良さだけが成長ではないのだと、今身に染みて理解した」
「まぁ、そうだな。何のために王家が呪縛を身に受け続けたのか。当然恐ろしいからだし、当然脅威だからだ。お前が俺という切り札を手に入れたからといって、その恐ろしさと脅威を完璧に理解する前に決行に踏み切ったのは、些か早計だったと言えるだろう」
レイドバトルで倒すボス。
三周目ステータスゴリ押しマンを味方につけたからと言って、そう易々と手を出していい相手じゃない。
仮に俺がカローライナの立場で、同じく三周目ステータスゴリ押しマンを味方に持てたとしても……まずはもっと仲間を集めるし、装備を整えるかな。
封印するってことは、せざるを得ない状況にあったってことだ。倒せるなら倒し切っている。倒せないからせめてもの封印を施した。
今までの歴史の中で、誰かが希望を見出していたのなら……あるいはワォスタクラインが人間であった頃に依頼が来ていたかもしれない。王国地下に眠る化け物の討伐も、ワォスタクラインならば、と。
それがなかったのは、単身で倒すには難しい化け物だと当時の王家が知っていたからだ。単身で倒すには、というか、単体一人がどれだけ強かろうと、というべきか。
討伐者全員が強くなければ倒せない。
それについてどれだけの知識があるか、という部分に関しては、長らく放蕩していたカローライナではわからない部分も大きかったのだろう。伝承だけではわからない核心は、結局自分で調べるしかないのだから。
けれど。
「だからこそ、踏み切った事実は讃えられる。お前が浅い知識で家族を切り捨て、浅い理解でこのダンジョンに挑み、浅い理由で俺を味方につけた。──だが、お前自身が言ったんだぞ、カローライナ。常に眼前にある幸運を、何を捨ててでも掴み取る、と。そうだ、それでいい」
どれほど浅くとも、どれほど愚かでも。
幸運を掴み取った奴が勝ちだ。死者を蘇らせることのできる世界である以上、「終わり良ければ総て良し」「大団円」「ハッピーエンド」は全て成立するのだから。
最後には笑っていようぜ、善行であると信じた以上はさ。
「……本当に。……本当に、お前は誰なんだ? あの家にいたお前。周囲の人間から聞いたお前。短い間ながら、共に過ごしたお前。……今のお前。全員別人なんじゃないのか?」
「多面的であればこそ、深い人間になれるってものだろ」
「浅い言葉だな」
適当人間ですからね。
ひたむきな人間には、異様に映るんだろうさ。一色じゃない、マーブルな奴ってのは。
大丈夫、お前も英雄になれるよ。もう踏み出したんだから。