アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
最近、王国──俺が行かなかった方の国──で「イグニス」というパーティが有名になってきているという。
男女混合パーティで、前衛中衛後衛斥候とバランスの取れた良いパーティ。依頼のクリア数も魔物の討伐数も群を抜いて多く、何より素行が良い。
敵対してこそいないものの、水面下でちょいちょい小競り合いをしている帝国にまで届く程の噂だ。相当なものだろう。
何を隠そうこのイグニスというパーティ、ゲームにおける主人公パーティ……ではなく、このパーティに憧れを抱いて主人公が旅に出る、みたいなポジションにいるパーティなのだ。だからめっちゃ強い。序盤に挑むとほぼ無理ゲー。負けイベに近い。ステータスゴリ押しでやろうとしても、その時はパーティメンバーいないからつらみざわ。
そういうパーティがイグニスなわけだけど、このパーティ驚くことにマジで素行が良い。
変な価値観を持っているとか、庶民や奴隷、低ランク冒険者を見下しているとか、実は裏で黒いのと繋がっているとか……そういう欠点が一個でもあってくれたらいいんだけど、マジのマジでいい奴らで最後まで終わる。マジでただの良い奴らパーティ。
「それが俺を訪ねてきていると。……門前払いは?」
「できるけど、最悪国家間の争いに発展する」
「スイ、お前がラムナザール四世の娘じゃなければな……」
「それについては本当に弁解の余地もない謝罪しかない」
スイから連絡が来て、「お、ラムナザール四世との模擬戦かな?」とかって馳せ参じたらコレだよ。
もうそろ帝国のギルドに到着するイグニスは、帝国の検問所で訪問理由を事細かに吐いたそうだ。
曰く、あちらの国の王女様がある冒険者を探している、と。
その者の特徴を聞いて、門の近くにいた帝国の冒険者が「ああそりゃ心あたりっつか色々知ってるよ!」とベッラベラ俺のことを話したのだとか。まぁ特に口封じしてなかったし。フレイムドラゴンの件、俺が思っている以上に目立ってたらしかったし。
それでずんどこどっこいよっこいさとイグニスは帝国ギルド本部までやってきた、と。
心当たりがあるどころじゃないのがまたね。いやほら、この世界来てすぐのあの、猫娘に襲われてた姫さん。あの国もねー。別に悪い国じゃないんだけどねー。ちょっと戦いが多すぎてネー。
とかなんとか考えていると、突然背後に赤点が出現したので命剣でぶっ刺す。
「っ! ……その姿勢から出て良い威力じゃない」
ほう。
止められた。止めたのはスイだけど。咄嗟に背負っていた鎌を出して、その腹で俺の命剣を止めた。
……だよな? やっぱスイって加入時レベルかなり高かったよな? 魔法防御が低いとかなんかなぁ。
「それと、貴方。無礼にも程がある。イグニスはこちらとの交渉を決裂させたいと見て良いの?」
「──これは失礼を。何分、王国内ではこの冒険者に指名手配がかかっておりまして。
「スイ。そいつイグニスメンバーじゃないぞ。本物は今北西支部で手続きを行っている。先に行かせられた斥候でもない。何故ならそいつは」
斬、という音がして、倒れる音がした。
いや聞けよ。
「……話は最後まで聞けよ。この後に言う言葉がなんかどこぞの国の王子だからだ、とかだったらどうする気だったんだ」
「言われてから感覚を研ぎ澄ませたら魔族の気配がしたから斬った。ヴェルグはわかってた。違う?」
「自分で気付いたんならいい。ああ、素手で遺体に触るなよ」
「魔族の片付け方くらいわかる。子供だと思ってるだろうけど、私ギルド長」
「はいはい」
魔族というのの説明はまーまー面倒なので、ラスボスの手先で魔化の原因の一つで魔化の被害者の一例とかその辺を覚えておいてくれたらいい。
なーんか知らんけど魔化すると人間と敵対するんだ。その辺はマジでゲーム。どれだけ国に篤い忠誠持ってても魔化した瞬間隣の王様ぶった切る、みたいなイベントあるくらいには敵対する。
魔族の中にも良い奴はいる、というのがゲームというか創作におけるテンプレートだけど、それもない。魔化したら謎の意識に操られるとかなんとかで、あらゆる魔物、NPCが敵対状態になる。
まそのために聖水があるんだけど、コイツに使うにゃ流石に勿体ないし。
「ヴェルグ。これは由々しき事態。帝国内に魔族が紛れ込んだ」
「魔族を魔族であると一目で見抜けないのか? 先程も感覚を研ぎ澄ませるだのなんだのと言っていたが」
「……申し訳ない。私の技量では集中しないと無理」
スイでそうってことは、この国の八割そうってことね。
うーん。
でも俺さっきは牽制のために命剣突き出したけど、マジで相対したとしても斬れねーからなぁ。ゲームの時はそりゃもうTHE・魔族って感じの見た目してたから簡単だったんだけど、絶対美女になってるだろうし。さっき後ろからした声は少女くらいのものだったし。
俺にはミニマップという最強のシステムがある。MMOでもなんでもなかったこのゲームに「プレイヤーがプレイヤーを騙す」みたいなアイテムやシステムは存在しないので、赤点は100%敵だし青点は100%味方だ。無色なのはこっちに欠片も興味を抱いてない奴ね。
んでそれが隠れることもジャミングされることもないから、奇襲は効かないってスンポーなんだけど。
いや待てよ。そうじゃん。
「イグニスに依頼すればいい。確かあのパーティには
「……それをしたとして、報酬にヴェルグを要求されない?」
「彼らが噂通りの高潔な人物ではなかった場合、されるだろうな」
「なら」
「だがまぁ、安心しろ。彼らは噂通りの人物だよ。……その"何故知っている?"という目線には答えられないが、保証する」
いやほんとに。いやいやほんとほんとに。
特にリーダーであるカラジェット君。彼マジで好青年。アダルトMOD入ってなくても好青年だった。他NPCと違って細マッチョという優遇されっぷり。他の男性NPCはゴリマッチョな中、彼だけ細マッチョなのだ。
そこにアダルトMODが入ると絶世の美男子になる。流石に女体化はしないけど。
「彼らについていくかどうかの話はギルドを通さず俺個人でやる。だから気負わずに魔族退治を依頼しろ。俺の家の住所を教えるくらいはしてもいいしな」
「……そんな、恩を仇で返すようなことはしたくない」
「もしかして指名手配という言葉を信じているのか? ありゃ魔族の拡大解釈だ。確かに探されているのは事実だろうが、懸賞金はかかってないだろう。別に罪を犯したというわけでもないしな」
「そうなの?」
「信じられんなら信じる必要はない」
「……じゃあ、わかった。彼らに依頼を出す。でも、本当に困ったら言って欲しい。最終手段にお父様がいる」
「そりゃ確かに心強いな」
さしものイグニスもこの段階でラムナザール四世倒すのは無理だろうし。
一応言っておくと、俺は彼らと事を構えるつもりはないし、王国に行く予定もない。
話せばわかってくれるのがイグニスという連中だ。こっちにその気がないと知れば、自分たちがクエスト失敗することも辞さずに帰ってくれるだろうし。
敢えて問題点を挙げるとしたら。
……イグニスメンバーの武器、全部高位魔族素材使ってんだよね。
どうか見た目エグくありませんように。
そんな感じで、ちょっぴり騒がしい帝国内お掃除イベントがあったあと、彼らは俺の家を訪ねてきた。
「突然の訪問失礼する! ヴェルグ殿はいらっしゃるだろうか!」
家主の断りが無ければ敷地内にさえ入らない徹底っぷり。感服ですこっちは。
そして。
そして、なんということでしょう。もといなんということだろうか。
イグニスメンバーは全員武装解除した状態で俺の家の敷地前に立っているのである。流石に衣服までは脱いでいないからそれに使われている魔族素材……主に肌っぽいそれらが気になりはするんだけど、いやいや、どんだけ高潔なパーティだって話。
まぁたしかカラジェット君はアイテムボックス持ちだから全くの無手ってわけじゃないんだろうが。
「ケル。案内を頼む。手は出すなよ」
「む。主人の客に手を上げるほど狂犬じゃない」
ほんとにぃ?
どこで聞きつけたか知らないけど、彼らが俺を迎えに来た、みたいな噂を信じてか、今日ずっとそわそわして、なんなら得物であるナイフを研いだりしてたの俺見逃してないぞ?
んな心配しなくても捨てやしねーって。仮に王国行になっても連れて行くしな。
……うん、特に喧嘩とか売ってないようで安心した。
それじゃあ御対面といこう。アダルトMOD入った状態の、現実となったゲーム世界で見るカラジェット君及びイグニスメンバーに!
「初めまして。私はカラジェット・キェルダン。王国内でイグニスというパーティのリーダーを務めさせてもらっている者です」
んー、マジ美男子。
超爽やか系イケメン。いるだけで清涼剤。
「ヴェルグだ。冒険者だが、半ば引退した身。特に有名でもない」
「いえ、お噂はかねがねです。……いや、貴方は単刀直入な話し合いの方が好みのようだ。ですから、どうでしょうか。私達と共に王国へ来てはいただけませんか? 王女様がお礼をしたいとのお話で」
「断る」
さて、俺の見立ては。
「……そうですか。わかりました。王女様にもそう伝えます。ただ、そうですね。出来得るのならば、理由をお聞かせください。これも出来得るのならばで構いません」
やっぱりサッと身を引いた。いやマジで好感持てるはカラジェット君。そんで、そうだよね。理由が無いと王女相手に「断られた」っていう時「何故」が飛んでくるもんね。
だから俺は、いつも通りの身の上話と、料理とかの話もしようとして──目を剥く。
カラジェット君の後ろにいるイグニスメンバーの一人、長い髪を後ろでまとめた長身の女性が、
露出癖──とかって思うはずがない。ミニマップの点が青から赤になっている。つまり。
「ッ、カラジェット!」
「何が──」
「手荒で悪いな!」
肉迫し、その口に聖水をぶち込む。今回もコリジョンが微妙に違うけど、まぁドラゴン程じゃない。
じたばたともがくその身体は腹部のあたりから黒い染みのようなものが広がってきていて、背中からは翼、手からは長い爪が生え揃い──自身の口に手を突っ込んでいる俺の腕に攻撃を仕掛け始めた。
が防御力ゥ……ですかねぇ……。
さて、魔化した魔物から魔素を剥がす手段はこれでいいんだけど、魔族化した人間を人間に戻すというのは完っ全な機密情報だ。魔素中毒をどうにかする、なんて話メじゃない。
裏ボスを倒して、その後に「資料館」という、なんだろう語られなかった設定置き部屋みたいな場所に入れるようになるんだけど、そこでようやく明かされるフレーバーテキスト的な奴だ。なおゲーム中にそれをやろうとしてもまず選択肢が浮かばない。
「ァ、アアア、ァアアアアア!!」
「ケル!
「え」
「ヴェルグ殿、何を!?」
え、なんて戸惑いつつも、従属の呪いがケルの身体を動かす。
暗殺者らしく最善且つ最速の動きで女性の背後に回り、その背にナイフを──止められた。
「ッ……迅速な判断、お見事です! ですが彼女は私達の仲間! どうか思いとどまってください!」
「──時間がない! ケル、ソイツを抑えておけ!」
女性の全身が黒に染まり切るまであと数秒も無いと判断した時点で、俺はそれを実行する。
格闘家スキル:貫手。
ぞぶ、という。
嫌な感触があって──俺の腕は、女性の左胸やや中心よりを貫き、そこにあった心臓を掴んで抜いた。
悲鳴が上がる。うるせぇ俺だってあげてーよ魔物ですらない人間の心臓抜きとかマジ無理なんだよ。
だから文句はあのフレーバーテキスト書いた開発者に言えバカヤロー!
「最大主教スキル:完全再生!」
最早お馴染みになって来た、スイやケル曰く大禁呪らしい死者蘇生……の一歩手前にあるスキル。生きてさえいればどんな欠損でもたちどころに治すことのできる、
すると、魔族になりつつあった元の身体の方はザァっと塵となっていき、反対に俺が未だに心臓を掴んでいる方はメキョメキョなんて音を立てながら人の形を成し始めたではないか。
頃合いを見計らって心臓から手を離せば、あとはもう勝手に再生していく。肉も骨も血管もないのにドクドクと脈打ち続ける心臓が、段々と覆い隠されて行って──。
最後には、生まれたままの姿の女性が残された。
「アニス!」
「おい、アニス! 大丈夫か、返事をしろ!」
「アニス! アニス!」
さしものカラジェット君もこっちを無視して仲間の方へ。まぁそれでいい。その方が人間味がある。これでこっちを気にしているようなら幻滅していたさ。
ああそれと、ケルへの命令を解く。
そして。
自分の、右手を──見た。
「主! 良い、今は見ないでいい! 消えるまで洗ってあげる、剥がしてあげるから、大丈夫だから!」
明らかな震え。
おいおいお前、この前アンデッド少女どんだけの数殺してきたんだよ。何今更ビビってんの?
吐き気も。自分でやったことだろ。つーか結果的に救えたんだからそこは安堵しろよ。
ああ。
これアダルトMOD関係ないってマジで。
ただ俺が、覚悟できてないだけだってホント。
「主! ごめんなさい、罰は後で受ける! アサシンスキル:催眠!」
「……ありがとうな、ケル。でも……俺とお前とじゃ、実力が遠すぎて効かないんだ。……血を洗い流すのだけ、頼む」
「う……。力になれなくて、ごめん」
右手に水が纏わりつき、付着した血液を全て持って行ってくれる。
アンダーテイカーの時のマッドボールもだけど、本当に魔法の精密操作が上手い。本当にありがたいよ。
……。
吐くのは、耐える。だって失礼だろ。
「……ん」
「アニス!? 起きたか、良かった……ああ、ユナ、何か服を!」
「うん、私用のだから、ちっちゃいけど……」
「良かった……どこも痛い所はないな? 違和感は? 大丈夫か?」
そんでもって、成功もしたらしい。
魔族化した人間を人間に戻す方法はただ一つ。
完全に魔族化する前に、つまり魔素が心臓に到達する前に心臓をぶち抜いて、その後心臓から本体を再生させるという超荒業のみ。最初に聖水を飲ませたのは魔化の進行を遅らせるため。ケルにバックスタブをお願いしたのは俺が女性の胸に腕突っ込んで心臓抜き出すのを躊躇ったから。
あとはもう見ての通りだ。
……問題は。
「魔化……原因不明なの、マジでエグいな……」
前にも述べたけど、魔素を介しての魔化以外の魔化は原理不明だ。
今みたいに突然そうなることもある。その予兆を掴む術は今のところない。いや俺が知らんだけで学術都市とかにはあるのかもしれないけど、少なくともゲーム内のテキスト全部読んだ俺で知らないのだから、恐らく全世界のほぼほぼすべての人間が知らないと思っている。
加えて今回は目の前で魔族化してくれたからよかったものの、どっか遠い所で、となったらもうお手上げだ。完全に魔族になってしまった者は、もう殺すしか道が残されていない。
この辺マジでアダルトMODとか関係なしにエグいよなぁ。
「主。終わった。気になる所ある?」
「いや。……残ってる感触以外は、大丈夫だ」
「それは……ごめん。私には、取れない」
「ああいや困らせるつもりはなかったんだ。ありがとうな、ケル」
どうやら右腕以外の飛び散った血糊も全部取ってくれたらしい。ホント、マジで助かる。
こういう言い方はどうかと思うけど、暗殺者なのにデリカシーあるというか……暗殺者だから、なのかな。よくわからんが。
……念には念を入れよ、か。
召喚士スキル:サモン:セイントバード。
まこんなカッコイイ名前付いてるけど実際は光る鳩だ。それをちょいと出して……あの、なんか光ってる全裸の少女が出てきて……。
「ご用命かポ! ご主人ポ!」
「語尾よ。ああいや、ちょいと周囲一帯に魔素を帯びた何かが無いかの捜索を頼む。あったら報告してくれ。無かったら戻ってこい。そして、あったとしても決して突撃したりするなよ。いいな?」
「わかったポ! 行ってくるっぽー!!」
あーあー。
召喚獣も魔物、だもんなぁ。アダルトMOD適用されるし人語も喋るのなぁ。
ミニマップの範囲を広げて、と。
ようやく、溜息を吐く。
「ヴェルグ殿」
「やめて。今主に近づかないで」
「……そう、だね。また後日……改めて礼をしに来るよ。今日は本当にすまなかった」
別に良いのに、なんかケルが庇ってくれて、今日はお開きになった。
椅子……とかじゃなく、壁に凭れ掛かる。項垂れるようにして座る。
「主。水持ってきた。飲める?」
「……ああ、ありがとう」
いやアンダーテイカーの時からだけど、本当にどうしたんだろう。
ケルは……なんでこんな慈愛のような感情を俺に向けている? リアとなんか喋ったのか?
「人間を殺すのは、もう……これが最後だと、いいんだがな」
「殺してないよ。主。主は人を殺してない。むしろ救った。ちゃんと認識して」
「……考えてないで聞く方が早いか。どうしたんだ、ケル。少し前からちょっと過保護になり過ぎじゃないか? 俺はこれでも白銀章持ちの冒険者だぞ?」
「おんなじ風に壊れていった仲間を私は見てる。あの思い出すのも嫌な施設で、優しかったから壊れてしまった子を、たくさん知ってる。主も同じに見える」
あーね。
そうか。実体験か。そりゃ強いな。
「……ごめん、主」
「何を謝っているのかさっぱりなんだが」
「あの女……の人の胸を突けと命令された時、私は一瞬躊躇ってしまった。だから従属の呪いに突き動かされるまでに数瞬の間ができた。それが無ければ、主が手を下すことはなかった。……だから、ごめんなさい」
「時間が無かったのはあるが、理由を説明しなかった俺が悪いでいいだろう」
「私は知っての通り暗殺者だった。道具だった。……それを、ここで人間扱いしてもらって、浮かれてた。もう私は普通の子になれたんだって調子に乗ってた。……私は主の奴隷。道具。主の命令を前に躊躇う道具なんか、不良品も良い所」
あーのねー。
俺だって落ち込みたいんですよ、ケルさん。俺もね、いやまぁ確かに救助だったよ。唯一無二の方法だったし、人目に触れるやり方で大禁呪っぽいの使ってまで自分が苦手なことまでやって人命救助したよ。でもね、落ち込みたいんだわ。その一瞬でも人を殺してて、血だらけの腕を見た時の胸中とか、吐瀉物と一緒にぶちまけたいんだわ。
やめてくれ。
自分よりヘラってる奴見ると……そっち優先したくなっちゃうからさぁ。
「ケル。その服、脱げ。全部だ」
「っ! ……わかった」
「今躊躇ったな。じゃあお前道具失格だ。ああもう脱がなくていいよ、お前はもう要らん。ほい、今従属の呪い解いた」
「え……」
「今日は疲れたから飯もいいや。俺はもう寝る。じゃあな、ケル。身支度適当にして、出て行くと良い。そうだ、リアのところにでも転がり込んだらどうだ。同じ元奴隷仲間、待遇は良いだろう」
まだ胃がむかむかする。幻覚なんだけど、右腕が真っ赤に染まっているような錯覚を覚える。指先と掌に脈打つ心臓の鼓動が響く。
っとにさぁ。
アダルトMODだからやりにくい、だけであってくれよ、この世界。キチーんだわエグいんだわ。
「ま──待って!」
「ん? なんだ、何つっ立ってんだ? 自室戻っていいぞ、っつーかまぁ許可出すとかないが。もうお前は俺の奴隷じゃないし」
「もう一回従属の呪いをかけて! 謝るから! もう躊躇わない──貴方の命令は一秒も迷わずに遵守するから、だからお願い!」
「いやいや要らん要らん。そもそも俺の方が強い。飯もまぁ、俺は山の中の果実だけ食ってりゃなんとかなる。そうなるとこの家も要らんな、売り払うか。ああそれともお前が使うか? 別に譲渡してやってもいいぞ」
「捨てないで!!」
「捨ててないよ。良いじゃんか、浮かれろよ。暗殺者の足洗って人間になれたことを喜べよ。お前は躊躇えるようになったんだよ。人を殺せって命令に。お前は女の子になれたんだよ。服を脱げって命令に一瞬でも躊躇できるようにさ」
まー、なんだ。
頼むわ。
俺結構もキャパいっぱいいっぱいだから、そういう、なに?
人間的成長は、自分で気付いてくれ。
「ケル。お前は道具じゃなくなった。奴隷でもなくなった。捨てられたんじゃなく一人の人間になったんだ。んで、俺は別にお前要らないけど、お前は俺要るの?」
「要る。凄く要る」
「どんなところが?」
「……」
「別にお前は俺に好意を持っているわけじゃない。恩義を抱いているだけだ。恋心を有しているわけじゃない。昔失ったものと重ねているだけだ。まぁ一晩くらい時間やるから、考えて見なよ。案外要らないぜ、俺」
もうヴェルグとしての口調崩れまくりだけど。
ま、この軽薄さ加減が俺だわな。正直ヴェルグ口調疲れるし。
「──もう、思いついた。言っていい?」
「へえ。なんだよ。俺が要る理由」
「別に恋心じゃないし、恩義でもないし、失った誰かと重ねているわけじゃないけど……一緒にいて、楽しい。それが理由じゃダメ、かな。足りない……かな」
泣きそうな笑顔で。
ケルは。
「いいや、十分だよ。んじゃ今日から俺達はパーティだ。この家はパーティホームとして新しく使おう。ほれ、イグニスの連中、めちゃくちゃ仲良かっただろ? ああいうの目指そうぜ、俺達も。恋人とか家族ってより仲間でさ。それで一緒にいる理由なんざ十分さ」
「うん」
「──が、一つだけ頼みたいことがある」
俺の神妙な顔つきに、ケルは今度こそ笑って言葉を紡ぐ。
「料理は私がやる。掃除は主……ヴェルグもやってくれる?」
「おう、それで成立だ」
「わかった。今日のご飯、本当に要らない?」
「いる。正直めっちゃ腹減ってる」
「うん。あ、でもお肉はやめておく?」
「……だな。そうしてくれると助かる。流石にキツいわ、まだ」
「じゃあちょっと待ってて。仮眠しててもいいからね」
「あいよ」
そうして、トタトタとキッチンの方へケルが消えていくのを確認して。
仙人スキル:無の境地。
「……ま、流石にここで吐くのはな。カッコつかねーからさ」
ちょいとカッコつけすぎたかなー、なんて思ったりしなくもない。