アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
六度の全滅を乗り越えて、俺達はとうとう王国地下ダンジョンの最終層──その最奥、ボスの眠る部屋の手前にまでやってきた。
ただ、そこにあるのは扉というよりは壁。壁画と紋様の描かれたただの壁。
でも、そのことに狼狽える者は一人としていない。
誰もがそうであることを知っていたかのように一歩下がって、ただ一人──カローライナだけが前に出る。
彼女は息を呑んで、問う。
「バーグ。……ここまでの評価から見て、私達は……何秒保つ?」
「良くて十秒。悪けりゃ、開けた瞬間に全滅だ」
本来なら開けた瞬間にバトルが一回挟まって、ほぼ負けイベみたいな強さのソレに退避を選択。ムービーが入ってからの王国全体レイドバトル。
ただしそれは十分に育ったメンバーであればの話。あの状態異常地獄からここに至るまでの、「ただただ魔物が強いだけのダンジョン」で六度も全滅している以上、戦線の維持とかそういう概念にないだろう。足元が見える奴が一人でもいればいい方、って感じ。
カラジェット君もラヴ・グラットルも、英雄ならばあるいは……とか思わないでもないけど、流石に挑む時期早すぎだったヌェ。
「なら、立ち位置が良くないね」
そう。
当然のことであるかのように、カラジェット君が前に出る。
カローライナの隣に。それを見て、他の奴らも。
「……言葉は無くて良いか。始めるぞ」
危険など十も承知。なればこそと、彼らは足を竦ませることなく前に出る。
「契約スキル:
そうそうこれこれ。
王家の長いスキル。この長い契約スキルシリーズはあと二つあったはず。そのうちの一つがこの封印解除のスキル。
どんだけゲームやり込んでたってこの長さは覚えられんて。
──壁に亀裂が入る。
黄金色の亀裂。罅。扉が開くとかってよりは、まるで卵の殻が破れる場に遭遇したかのような緊張感。
その亀裂は、けれど全体に行きわたらなかった。
壁の後ろの黄金が、壁を、そして全てを吹き飛ばしたからだ。
仙人スキル:無の境地。
「神官スキル:死者蘇生! あとは頑張れ、健闘を祈る!」
さて、如何に三周目ステータスゴリ押しマンと言えど、レイドボスを一人でやるにはどーやってもステータスに翳りが出る。だからまず先手必勝だ。アダルトMODを通したコイツがどういう姿になるのか、アダルトMOD導入前の大きさがどれくらいなのか。
それは全部頭に入っている。だから、深い谷のようになっているそこへ飛び込んで、バフ全盛りのペネトレイトスラッシュを使う。魔法防御が高いから
「──ERROR。……前回の終了時に正常な処理が行われていません。初期化を行います……初期化終了。右脚部に甚大な損害を確認。修復作業を開始」
「マジか、貫き切れないか。……けど、無の境地は要らなかったかな」
「脅威度を判定……」
谷底に鎮座する、超巨大な──少女。
背に伸びた髪はけれど、なびくことなく堅固。斬撃を食らった足はつるりとした柔肌に見えども、流血はない。
その姿を一言で表すのならば。
超巨大アンドロイド──セクサロイドver.
カローライナ達のいた所に極太のビームが撃ち込まれる。ノールックなのは俺に見えているヒトガタがそうというだけで、実際はちゃんと感知しているはず。
そう、こいつだ。
こいつが王国の地下に眠る化け物だ。
過去の文明──トラーヴァが世界を巡遊していた時代の最後期に開発・製造された、終末防衛機構。
剣と魔法の世界はなんだったんだとツッコミが入りまくった──けれど割とテンプレートな、前文明技術力高すぎ問題の遺産。
本来は人類の味方であり、「宙から降り立ったモノ」に対抗するために作られたこいつは、けれどすでにくるってしまっている。大量に出るERRORは感情に依るもの。そう、何を思ったか前文明の人類はこの終末防衛機構に感情を持たせ、だから制御できなくなって封印を選んだ。
機械に感情持たせんなってあれほど。
ただ、一個良かったことがある。
見た目は確かに少女だけど、斬っても流血しないし血肉もでない──中の機構が露出するだけだ。
これはこれでメカバレとして良い物ではあるんだけど、少なくとも俺はこれをグロいとは思わない。だから、遠慮なく行ける。
「姿勢変更……」
「させないために足を斬ってんだよ!」
もう一度、今度は反対側からペネトレイトスラッシュ。
これによって両足が崩れ……て、ない。
嘘だろ、もう修復終わったのかよ。いや流石だと言うべきか。
「召喚士スキル:サモン:ラスティオルゴイ!」
陣から出現するは、身の丈三メートル程のワーム……ではなく、乾燥地帯の民族衣装っぽいのを纏った少女。コイツは特別な状態異常を敵にかける。それは。
「ラスティオルゴイ、あれは錆びさせられるか?」
「……無理。鉄じゃない」
「あマジ?」
「金属ってより岩石な感じする。そういうの得意な子呼んで。じゃ」
ふむ。
あれだな。本格的に召喚獣のカウンセリングというか、ある程度仲を深める会とかやった方が良い気がする。こんな簡単に自己送還されてたら堪ったもんじゃねぇや。
しかし岩石か。
んじゃロックイーター……は、多分顎が無理だろう。
……普通にやるか。できればバーグとして使えるスキル以外使いたくなかったんだけど、召喚士スキルの時点で今更かね。
「魔剣士スキル:物理上昇オーラ、クレイオーラ。狂戦士スキル:独擅場。戦士スキル:ガイアスラッシュ」
「脅威度を最高位に判定。攻撃の停止を要求。繰り返します。攻撃の停止を要求」
「同情はするよ」
先程から、俺の基礎防御力を容易く抜けるレベルのビームが降り注いでいる。
攻撃の停止を要求。そりゃごもっともだけど、自分のやってることと釣り合っていない。今パーティHPとか見てる暇無いからアレだけど、多分他の全員は死亡済みだろう。
そしてコイツが立ち上がれば当然シアルル王国は崩落する。聖堂がなんとかしてるらしいけど、果たしてどこまで推し量れているかってところ。
できるのならここで終わらせたい。取りこぼし無しを達成するなら、そうしなければならない。
「──言葉は通じているはずです。なぜ攻撃を止めてくれないのですか?」
「……お前がもう何も見えていないからだよ。眠るべき時に眠れなかったんだ。それがすべての呪縛を生んだのさ」
「視覚センサーに異常はありません。繰り返します。攻撃の停止を要求」
風圧。
多分脚部の振り下ろし。あー、やっぱり見えないのは厄介だな。とりあえずの居合スキルでカウンター決めて、さらにダメージを与える……けど、こりゃ。
「当機体に異常は見受けられません。繰り返します。攻撃を停止してください。私は貴方達の味方です」
「その巣食われた頭じゃ、そりゃ異常は見受けられないだろうさ」
「当機の機体名は『B.A.R.C.U.S』です。貴方の識別コードをお願いいたします」
「無いよ。俺はお前の時代の人間じゃないから」
「であれば新規コードを発行いたします。新規パイロット登録条件──識別コード無効。認識番号不明。敵対表示。ERRORを強制終了します。最重要条件、意思疎通が可能である。クリア。新規コード発行。貴方の識別コードはVelgrです。──どうぞマスター。搭乗を」
パカッと。
巨大アンドロイドの口が開く。して、掴まれてもいないのに吸い込まれる身体。
ん、これヤバいか。転移転移。
「次元への干渉を検知。出口を変更。ようこそ、マスター」
──なんだと。
転移先を強制変更させられた。そんでもって、口の中に放り込まれた。
巨女の丸呑みは確かにフェチとして存在するけど、今そういうこと言ってる場合じゃないんだよね。
ああでも、内側から壊せると思えばまぁまぁ良いか?
「魔法スキル:
「初めまして、マスター。私はBARCUSの内臓マザーコンピューターです」
「
聞く耳を持つつもりはない。
こいつはトラーヴァの魔本取る時に現れた
どうあっても、どうやっても、どう手をこまねいても、最終的に「破壊するしか方法はない」に落ち着く。
それが分かっている以上、あまり情は持ちたくない。
俺は決して無感情な人間というわけじゃない。だから、先手必勝早期解決。じゃないと俺は、試したいことを試してみたくなってしまう。
取りこぼし無しに反する可能性のあることを。
「……内部も魔法防御高いのかよ。なら──」
「自壊をお望みですか、マスター」
「っ!」
なら、わざわざ名乗ってくれたマザーコンピューターを叩っ斬って終わりにしよう、として。
少女が──拳銃のようなものを自身の頭蓋に突きつけている光景を目にしてしまった。
心臓が跳ねる。
「情報の統合を完了しました。どうやら私は壊れている様子。異常が見受けられないこと自体が異常──周囲の生命反応の消失が、敵対者ではなく、守るべき人類のものであるというのであれば、私は自壊を選択します。現時点における選択権はマスター、貴方にあります。どうぞご命令を」
やめろ。
……やめろよ。
馬鹿が。だから感情持たせんなって。ゲームだからってそうあるのが面白いからって。
「バルクス。お前が機械であるのなら……俺の目に見えているソレはなんだ」
今まで出会って来た魔物の中でも、少女はとりわけ幼かった。
子供がどうとかいう話をまた持ち出すつもりはないけれど、いつか考察したこのアダルトMODを通して見えているものがなんなのか、という話を思い返せば──それは感情なのだと。
意思ある者の感情そのものが、魂が見えていると。そう結論付けたはずだ。
幼い。幾星霜も前に開発されたこいつが、幼女と言って過言ではない姿をしている。
その理由はなんだ。ああ、考えるなよ馬鹿が。情が湧くだろうが。
自壊を選ぶだぁ?
ミラージュオウルの時から爆発しそうになるのを抑えてたけどさぁ。
馬鹿言わないでくれないか頼むから。
善行と信じての自殺とか、本当に馬鹿だとしか思えん。お前機械だから死者蘇生効かないんだぞ。わかってんのか?
「泣くなよ。……やりづらいだろ」
脚は斬ったけど、早くしないと修復してまた姿勢を変えようとするだろう。そうして王国をぶち破ればそれこそレイドバトルだ。
仲間がロクに揃っていない、育っていない状態でのレイドバトル。俺一人でも倒せる自信はあるけれど、「心臓が残っていないと蘇生できない」のがほぼほぼ確定的である以上、できれば範囲攻撃による大量死は避けたい。
アンダーテイカーよろしくアンデッド化してくれたら最高なんだけどな。それさえできずに磨り潰されたら、あるいは、だ。
だから斬ればいい。お前、情に絆されるような奴じゃなかっただろう。
ドライが売りだったはずだ。異様なほどと称されるくらいの。誰に対しても親身にならない、身内の線引きがあまりにも狭いクソ野郎。
知っていただろう、コイツの境遇くらい。
知っていただろう、感情を持つコイツの最期くらい。何度も何度も何度も。
救えないかどうか、自分で検証までしただろう。
「当機に涙を流すという機能はついていません。マスター、貴方の見間違いでしょう」
涙を流しながら、自身の頭部に拳銃を突きつける幼女。
趣味が悪いってレベルじゃない。けれど、それが最も効率が良い。
「マスター。あと三十秒ほどで脚部の修復が完了いたします。私が壊れているというのであれば、早期のご決断を。周囲の生命反応が全て人類であるのならば、当機に当機を止める術はありません。当機は彼らを敵対存在であると認識しています。──お願いします、私に人類を殺させないでください」
なんでこんなに迷っているのか。
なんでこんなに苦しんでいるのか。
そんなの決まっている。答えはわかり切っている。
──なんだかんだ言って、俺が今まで手に掛けて来た相手は。
自分が自分の意思で斬り捨てて来た相手は──全員、悪人だったから。
俺の前で命を投げ捨てる善人はいた。だけど俺自らが斬ってきたのは、その心に悪意を持つ誰か達だけだ。
ああ、余計なことをしたんだ、こいつは。あるいはそれが生存本能なのかもしれない。
俺に決定権を委ねることが──自身を生かす唯一の手段だと。ハ、それがわかっててそうしたんなら、天才だよ、きっと。
「申し訳ございません、マスター。当機は直立モードに移行します。上空、数十程の生命反応を検知。敵対存在ではないのならば、彼らの避難をどうか──」
取りこぼし無し。
できないことは言わない主義。
わかりきっていた問題にわかりきっていた答えを書くだけ。
……いいや。
いいや、違うね。
「俺は信頼しているよ。お前の描く英雄譚は、苦難や挫折に満ち溢れたものではないと。お前は爽快なストーリーが好きだから、自身の過去の清算こそあれど、後味の悪い結果は望まないと。……だから俺は今回言及しなかったんだ。なぁ」
響く。音が響く。
硬質な音が響く。
「EMERGENCY……頭部に強烈な打撃を確認。姿勢制御を中断し、迎撃に移行」
縁もゆかりもない相手じゃ、カタルシスには繋がらない。
そうだろう?
なぁ、ストーリーテラーさんよ。
「──決めた。俺はお前にこう命令する。生きろ」
「不明な命令です。現在、独立したサブコンピューターを構築中。当機のスキャンを行い、異常個所の修復を試みます。打撃を確認。脅威度は低。生命反応の増大を確認。脅威度は依然変わりません」
「そして、そうだな。良いことを思いついた」
自身のこめかみに拳銃を突きつけたまま新たな入力への対処を始めるバルクス。
その手を、掴む。
……やっぱりか。
気になってはいたんだ。ここはバルクス本体の中。だから、仮にこいつがマザーコンピューター……なんだ、画面とケーブルだけの生き物だとしても、ある程度は見た目通りの……このサイズ感の相手なんじゃないか、って。
そしてそれは、その手を掴んだ感覚でさらなる気付きを得る。
触れる。
ケーブルの塊じゃない。これは人肌の感触だ。
「……マスター。魂への干渉を検知しました。その手段であっても問題はありません。私が人類を殺す前に、壊してください」
魂への干渉?
……よくわからん。メアリーのメイド服と似たような話か?
まぁいい、触れるんならあとはどうとでもなる。
「バルクス。お前の人格の記憶媒体はどこにある?」
「メモリールームに保存されています」
「そこまで連れて行け」
「承知いたしました」
身体が何かに引っ張られる。多分アーム的なソレ。
そのまま、メカメカしくもあり、同時にアンドロイドというかヒューマノイドというか、人工皮膚みたいな見た目の区画をいくつか通り過ぎた後、そこに入る。
「軽微な打撃を検出中……脅威度を低から無へ変更。迎撃モードから直立モードへ再度変更」
メモリールーム。
そこは、何かオーブのようなものが所狭しと浮かぶ部屋だった。
ゲーム本編じゃ一切見たことの無いそれを、けれど迷わず手にする。
「ぁ……」
バルクスの声を無視して、それを。
インベントリに入れた。
「ぁっ……あ、あっ」
入れる。次から次へと、浮かんでいるオーブをインベに詰め込んで行く。
メモリーオーブというアイテム名のソレ。
「ああ、ああ、だ、だめ、だめだめ、……それは、私の、大切な──記憶」
「知ってる。だから抜き取ってる。スワンプマンもどこでもドアも、俺にとっては同一だ。元が機械であるお前ならばなおのこと。人間が眠って起きるのと変わりない」
「ぬ、け、抜け落ちる、ERROR、ERROR、メモリーの損壊。直ちにメモリールームから排除を、排除、徐、推奨ししし」
「お前の記憶の全てを抜いて、別の機体に読み込ませる。すまん。俺はお前を殺せん。その引き金を引かせる判断ができない」
「大切、な、思い、出……」
俺には前世がある。
俺は前世からこっちの世界に来て、目覚めた。名前も肉体も違う、ゲームのキャラクターになった。
が、俺は俺である。その自認を見失ったことは一度もない。
そこには意識の断絶があるし、肉体の変更があるし、存在と世界の隔たりもある。だというのに俺が俺だったのだから、お前もお前のままだろう。
最後の一つを手に取る。
「……なんでこれを最後に残した?」
「持って行って欲しくないからです。それは──私が封印された時の記憶」
「そうか」
インベントリにしまう。
トラウマであっても。
お前を形成するメモリーに変わりはなかろうよ。
白目を剥いて、口を半開きにして涎を垂らして。
"人格"というものが抜け落ちたバルクスを背に、転移で外に出る。
今だ立ち上がっていないバルクス本体の上に乗れば、拳が来た。
パシっと受け止めて投げる。
ははぁ、なるほどね。
「暴走か。なんだ、狂戦士スキルにまで手を伸ばしていたのか。あるいは、今覚えたか?」
いつか、ラムナザール四世も使っていた奴だ。
ラヴ・グラットル。その身はボロボロ。怪我のない部位が存在しないほどボロボロで、服もほとんど残っていない。激しい流血。肋骨の何本かは突き出していて、危険極まりない無い状態。
それでも、それでもと──彼女はバルクスに拳を突き立て続ける。
もうほとんどダメージは出ていない。バルクスの装甲に彼女の拳が負けている。
「助かったよ。俺はお前らみたいな英雄じゃないからさ。決断ってものにそれなりの時間を要するんだ。最大主教スキル:完全再生」
「……」
「よっこいせ」
完全再生をかけても暴走は止まらない。チロチロ動かれても面倒なのでアサシンスキル:弛緩をかけて、俵抱きで担ぐ。
んで他の奴らのとこにも行って、死者蘇生をかけたり完全再生をかけたり。
メモリーが死んだからか、再起動に時間がかかっている様子のバルクスを背に、ラヴ・グラットルらを入り口付近に安置した。
一人目は魔族について、魔族を滅ぼさんとしている。
二人目は魔物について、魔物に情をかけている。
三人目は人類について、人類を導いていく灯火となっている。
ああ、この地に眠る大秘宝【悠遠の灯火】だっけ?
そりゃお前のことだろうよ。
「ゆっくり準備できるのなら、やり方ってのはもう一つあってな。
戦士スキル:ウォークライ、パワーアップ、ライフゲイン、重量化、諸刃の剣、虎穴虎子。剣士スキル:無我の境地、明鏡止水、以水滅火、雲竜風虎。狂戦士スキル:独擅場、桃源郷。魔剣士スキル:マナエクステンド、クレイオーラ、物理上昇オーラ、HP上昇オーラ。魔法使いスキル:マナエクステンド、集中。魔術師スキル:開始位置重複。歌唱スキル:鼓舞のロック、闘争のオーヴァーチャー。踊りスキル:集中舞踊、過熱音頭。弓兵スキル:標的固定。呪詛スキル:ステータス代替【DEX、回避率→STR】【AGI、スタミナ→STR】。
ここまで来て……一つだけ謝罪を入れる。
すまない。お前の功績は忘れないから、使わせて欲しい、と。
「呪詛スキル:身焦がしの炎【HP50%→STR】」
傷はできないけれど、身体を袈裟懸けに斬られたのかと錯覚する痛みが俺を襲う。
なんだ。50%でこの程度か。
「呪詛スキル:身焦がしの炎【HP40%→STR】」
参照は現在のHPではなく最大HPだ。
一瞬、身体に穴が開いたのではないかという錯覚が来る。トラックにでも撥ねられたのではないかというほどの衝撃が来る。
「……児戯だな」
フレースヴェルグとの戦いで使った魔剣を取り出す。
柄にいるのは四人の女性。彼女らはそれぞれ右手を伸ばし、前方にいる女性の左目を潰している、夥しく流れる血涙は波を打って固まり、大きく開いた口に流れ込むようなデザインとなっている。彼女らの身体は丁度へそのあたりで両断されていて、そこから背骨や内臓が突き出ては螺旋を描き、自身の後方の女性の断面へと繋がる。
刀身は骨。幾重にも連なり、重なった骨が、滑らかでしなやかな無数の指によって支えられている……直視していたくない美貌。
悍ましいとしか言いようのないこの魔剣の名は、ソロヴォリヨ。
最終強化、最終改造済みの、二周目で作った最大威力調整済みの魔剣。
「戦士スキル:ガイアスラッシュ──あるいは」
躊躇いも溜めも無い。
ただその一撃を振り下ろし。
「
割断、した。
揺蕩うような死途の瀬戸際。
強制的に引き戻された命の隙間で、ラヴ・グラットルはそれを見る。
一振りの剣が振り下ろされて、世界に隔たりが生まれるその光景を。
あれぞ最強だ。あれが最強だ。あれこそが辿り着くべき場所だ。
敗因はいくらでも考えられる。原因はどれほど考えても足りない。
今回彼女は負けた。それはあるいは、不相応なダンジョン、敵に挑んだから、と捉えることもできるけれど、彼女は、ラヴ・グラットルはそう考えない。
身に宿る聖気は道を開くのに必要なものだけど、彼女は決して呑まれはしない。
聞こえてくる煩わしい声も、彼女にとっては聞く価値のないものだ。
人類のためとか。
人間のためとか。
そういう曖昧なもののためには、彼女は戦っていない。
「……超えないと」
超えて、越えて。
そうするには、どうしたらいいのか。あの絶対を、あの超絶を、あの最強を超えるにはどうすればいいのか。
弟子入りするのはどうだろうか?
誰かが一つ、選択肢を消した。
彼に稽古をつけてもらうべきだろう
世界が一つ、選択肢を消した。
もっと殺せばいい。たくさん殺せば沢山強くなれる。
その煩わしい声を無視して、消えていく決意を無理矢理に掴み取る。
どこかでストーリーテラーが頭を抱えているのかもしれない。
どこかで世界が必死の修正を加えているのかもしれない。
けど──もう。
「憧れちゃったら、どうしようもない」
光が収まり、崩れていく化け物。
その全容は掴み切れず、事の全貌は把握できず。
ただ彼女は、彼女の目指すべきところを目に焼き付けて──ようやく、気絶した。
七度。
否、ある精霊が一縷の望みをかけて蘇生対象を変更したことを含めれば八度。
八度の死を乗り越えて、少女は、そう。
──恋をしたのだ。
どこぞの村の長老が、とても良いタイミングでくしゃみをしたとかなんとか。
ラヴ・グラットル。
惹き付けて止まない憧れと、愛恋の違いなど、なーんにもわからない少女である。