※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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古槍の叫び(G度無し)

 アスガード。

 王国、帝国、公国のどれよりも小さく、アクラハイルと並ぶか並ばないか程度の面積、規模しか持たない山麓都市。美男美女と美味い酒が売り……の割に、そこまで活気がないというか、どこか静けさの滴る空気が流れているのは、魔素被害の増加が原因だろう。

 最近、魔素の被害が頻発している。魔素の被害──魔素中毒、魔化パンデミック。

 今コールドスウォームの噴火で魔族はてんやわんやのはずなので、またぞろ工作員がどうこう、という話ではないはずなのだが……どうにもおかしい。

 

 ただ何がおかしいのかを突き止めきれず、日々を……贅の限りを尽くすでもなく、かといって困に窮するわけでもない、みたいな生活を送っていた。送らざるを得なかった。

 

 そうしてとうとう、その日が訪れる。

 

「……ご主人様」

「マスター。アレは……なんですか?」

 

 落胆と疑念。

 俺は勿論、シーファ側。

 

 人工聖石。根絶が謳われたはずのそれが、アスガードに入って来たのである。

 

「シーファ。多分セールスかなんか来ると思うから、お前は家の中で大人しくしてな。対応は他の奴らに任せてろ」

「う、うん」

「俺はちょいとラムナザール四世のところに行ってくる。アイツが約束を違えたというのなら、研究院を潰す」

 

 やっぱり、無理か。

 一度知ってしまった欲の味を忘れるのは。

 

 

 

 

 ()()()()()

 激しい金属音。余波は窓ガラスを容易く砕き、衝撃を外部へと逃がす。

 

「……止めたか、メルキオル」

「早計だ、ヴェルグ。既に研究院は人工聖石の生産を中止している」

「な……な」

 

 レジーナ・イングリディアナ。

 彼女はまだ研究院にいて、その彼女が熱心に見ている資料が人工聖石のもので。

 

 これで中止しているだと。

 

「ラムナザール四世から研究及び生産の禁止令が出たはずだ。資料も焚書にするよう命令が下ったはずだ」

「ヴェルグ! 話を聞け!」

 

 たとえ善人であっても。

 人類の為を想う行動であっても。

 

 覚悟の対価に引き受けた誓約を違える気はない。

 

 が。

 

「……わかった。性急すぎた。聞かせろ、レジーナ・イングリディアナ。お前が今持っている資料は何で、お前は今何をしている」

「ヴェ……ルグ、なにを、そんなに怒って……」

「イングリディアナ殿。今は説明を。彼が私に抵抗できる程度まで力を弱めてくれている間に、どうか」

 

 思い上がらないのは流石だが、コイツ読んでたな。

 アスガードに人工聖石が来たら、俺がレジーナのところにまで来るって。だから張ってたんだ。

 

 ある意味俺を信用していないというか。……まぁいいけどさ。

 

「わ、わかった。説明する! これは人工聖石の資料……なのは間違いない! だ、だが、従来の魔物を使用する製法とは違うアプローチなんだ!」

「詳しく言ってくれ」

「い……今までは、聖水を餌にした魔物を石化させることで人工聖石にするという、()()()()な手法での人工聖石を作っていた。それは認めよう。ラムナザール四世からの達しの通り、あまりにも時間的、資金的なコストがかかり過ぎるから、」

「それが何なのかだけを簡潔に言え、レジーナ」

「これは、人工聖石となった魔物が体内でどういう処理をしているのかを観察した記録だ! つまるところ、魔物を介すことなく聖水を聖石に凝固させることができれば、魔物を使う必要がなくなる! そのための研究だ!」

 

 踏み込む。

 流石に守りながら戦うのは無理だと判断したのだろう、メルキオルが使った階梯の間に、大人しく飲まれてやる。レジストもできるんだけどな、コレ。

 

「レジーナはああ言っていたが、アスガードに販売された人工聖石は全て従来のものだった。出所は探れるか、メルキオル」

「正直、難しい。神殿は魔素を追うことには長けているが、聖気を辿ることは得意としていない」

「……レジーナ以外の研究者。それも帝国に属さない奴がやっている、か。……ああ、やっぱり最初に消すべきだった」

「少なくともイングリディアナ殿に悪意はない。ただ、抜本的な意識改革は為されていない。魔物と人間が同じである、という考え方は、宗教の面から見ても異端だ」

 

 知っている。

 俺がおかしい側であることくらいわかっている。レジーナが口にした費用面の話でキレかけたけれど踏みとどまったのは、こっちがマイノリティなのを知っているからだ。

 そういうことじゃないんだと理解できる奴はいないのだろう。ラムナザール四世でさえ、そういう理解で人工聖石の生産中止を認可したわけじゃなかったし。

 

「こちらの、魔物を使わない人工聖石の生産についてはラムナザール四世も」

「ああ、いい。そんなの聞いてない。……聖気を辿る。販売業者とルートを潰して……だが、根本は誰だ。クソ、ああ……面倒くさくなる。……いっそのことカワードの裁量で焼き払うか?」

「……ヴェルグ。神殿に所属する者としては、あまり目に入らない思考だが……聖気を辿るのであれば、聖堂を頼るのが一番良い。奴らはスペシャリストだ」

「聖堂ね。……ああ、そうだな。そうするよ」

「イングリディアナ殿を殺さないと言えるか、ヴェルグ」

「まだわからん。聖水を聖石に固めると言うのは()()()()からな。それを知った時、レジーナがどういう行動を取るか次第だ」

 

 聖水を聖石に固める。

 んなことできたらとっくに教会、聖堂、神殿がやってんだよな。メルキオルもそれには気付いている。

 そもそも聖石とは何か。聖気とは何かを知らない限り、レジーナが真実に辿り着くことはない。

 

「メルキオル」

「なんだ、ヴェルグ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 静かに。

 静かに──首を振るメルキオル。

 

 じゃあ、やっぱり、もうダメかもな。

 話したことがある。会話を交わしたことのある人間──それも方向性の違いこそあれど、善人であるレジーナを躊躇なく斬れて。

 事情は知っていて、破壊しなければ自身の掲げた主義主張すら揺るがしかねない「単なる魔物」にあんなに揺れ動いで。

 

 果たして俺は、どちら側なのか、なんて。

 

 もう。

 

「アモルファス聖に対人間の……魔素以外を使う奴との戦い方も教わっておけ、メルキオル。いずれ敵になるやもしれん」

「……その時が来たら、諦めが勝りそうではあるが」

「お前が諦めるのは構わない。お前が教える者への心配だ。じゃあな」

 

 聖気耐性を上げて、階梯の間の床をぶん殴る。殴って壊す。

 ふん、そうホイホイ一対一の空間なんか作れて堪るかよ。取り巻き厄介だけどボスは楽、みたいな敵だっているんだぞ。そういうのが楽勝になっちまうようなスキルは作らねーよ、このゲームは。

 

 階梯の間を出た先。

 そこに──彼女はまだいた。

 

「なんだ、逃げてなかったのか」

「……ヴェルグ。お前が何をそんなに怒っているのかはわからない。だがこれだけは信じて欲しい。私は人類を裏切ろうと思ったことはただの一度も」

「すまんが、知らん。じゃあな」

 

 そんなことは聞いていないし、そんなことは百も承知だ。

 ……ダメだな。無の境地も使ってないくせに、シリアスし過ぎだ。

 

 けど……もうちょっとやるか。

 

 

 

 神殿のような異空間とは違って、聖堂はその本部がちゃんとした現実空間に存在する。

 ヒーズァフローク。山一つを丸々都市に改造したそこは、居住区も存在する程度には公にされた場所となっている。

 神殿が黄金で豪華絢爛なら、聖堂は青と白を基調とした質素なつくり。荘厳であることに変わりはないけれど、どこか静謐で、どこか物悲しい。教会のような暖かさはない──"ただ在るため"の場所。

 

「ああ、申し訳ありません。聖堂では武器等のお持ち込みはご遠慮いただいております。ご了承ください」

「すまない、失念していた」

「いえいえ。それでは、どうぞごゆっくりなさってください」

 

 ホテルかアミューズメントパークか。

 なんか違和感バリバリの案内をされて、そこを行く。

 

 少し。

 少しばかり、心和らぐ場所だ。建材が石材ばっかりだから、魔物素材がほとんどない。あるにはあるから逆にドキっとするのはそれはそうなんだけど。

 

 さて──どうしよっかな。

 メルキオルと違ってあちらさんから接触してくれるわけでもなし。NPCとして知っている奴ならともかく、俺が聖堂関係者で出会ったのって聖獣のパピルサグと……まぁ一応イグニスのユナくらいか。知り合いってほどじゃないけどどっちも。

 ここの構造は覚えているけれど、それは神官スキルを育てるために聖堂所属になった時の……つまり裏側のマップだけだ。むしろ表側の一般開放されているマップや居住区なんかは最初の案内くらいでしか見ないから、まーったく知らん。

 

 加えてここダンジョン扱いなんだよね。魔物は出ないけど、だからミニマップが塞がれるって言うアレ。

 

「お兄さん、迷子ですか?」

「絶賛」

「よかった! じゃあ、案内してあげます! どこに行きたいですか?」

 

 答えてから、そっちを見る。

 ……少年。修道服の少年。あどけない可愛らしさは持っているけど普通に男。所謂ショタ。男の娘とかって可愛らしさじゃなく、少年! って感じ。

 

 ネームド……か?

 

「お兄さん?」

「あーっと……蔵書室……は」

「ごめんなさい、蔵書室は聖堂関係者にのみ解放されている場所で……あ、でも、本が読みたいのであれば、図書堂という場所に案内できますよ!」

「ああ、すまない。確かそっちの名前だった気がする。案内を頼むよ。……えーっと」

「ごめんなさい! 名乗りもせずに、失礼しました! 僕はキャスパーって言います!」

「じゃあキャスパー、よろしく頼む」

「はい!」

 

 ネームドではない。

 ゲームに出て来たキャラクターではない。ただ……メルキオル同様、名前がきな臭いな。

 

 てくてくと歩いていくキャスパー。全裸にも美少女にもなっていないので人間であるのは確実だけど、にしても気になる。

 

 俺霧隠れしてたんだけど、どうやって見抜いたんだ?

 

「ここです!」

「ああ、ありがとう」

「はい! では、失礼します!」

 

 着いた場所は、確かに図書堂。あああったわこんな場所、って感じのところ。

 キャスパーはぺこりとこっちに頭を下げて、またてくてくと歩いて去っていく。

 

 看破が効く程度には低レベル。……だというのに霧隠れを見破ったのは、そういう能力だろうか。

 

 

 入り口につっ立ってるわけにもいかないので、図書堂に入る。

 ずらりと並んだ書籍……は、しかし。

 

 魔物素材だなコレ。……選択ミスだ。最近の魔本で油断してた。

 すぐに退出し……ようとして。

 

 知っているNPCが見えたので、わき目も振らずに彼の場所へ向かう。比喩じゃない。わき目を振ったらエグいからだ。

 

「オニキス・リオンだな?」

「……いきなりなんだね君は。私は今読書中だ。用なら後にしたまえ。というかアポイントメントを取りたまえ」

「神官スキル:遮断」

「む」

 

 メガネをかけた七三分けの男性。「私は几帳面です」と顔に書いてありそうなその男性は、聖堂関係者における数少ない常識人だ。あ、他の奴らがそうじゃないって言ってるワケじゃ……あるか。いや非常識というか、他の奴らはこう……なんだろう、そう、社会的に不適合な、というか。

 これ以上はコンプライアンスを重視しておくとする。

 

「ふむ。最高練度の遮断結界か。どうやら上官のようだな、失礼をした。言葉を改める必要は?」

「ない。聖堂で敬語使ってる奴を見たことがあるか?」

「末端の者であれば。上へ行けば行くほど堕落……オホン、不適切……ンンンッ、まぁ、そう言うのであればそうと納得しよう。それで、私に何用か」

「パピルサグか、それに連なる聖獣を一匹貸し出してほしい。今の俺にはその権限がない」

「聖獣を。……成程、君は噂に聞くヴェルグなる人物だな? 上官のフリをして私を騙ろうとしたことは水に流そう。詳しく話したまえ。なに、上官たちを知っていればいるほど詳しく話すことの重要性がわからなくなるのはわかるが、私は話の通じる方だ」

 

 ああ、知ってる。

 仲間にならないNPC……というか神官スキル以外は一般人とそう変わらないから護衛イベントがあるくらいの非戦闘員。だけど言ってることがマトモ過ぎて、基本ダルい「NPCの護衛」イベントが全然苦じゃないNPC第一位。

 オニキス・リオン。几帳面なのは見た目だけで、その実めっちゃ良い兄さんである。

 

「図書堂に遮断結界を張ったままでは騒がれるだろう。まずは私の自室に来たまえ」

「そうさせてもらう」

 

 遮断を解除する。

 した瞬間に跳んでくる錘付きの鎖をキャッチ。流石にそれくらいは見えるよ。ミニマップ無くても。

 

「む、図書堂で武器を持ち出すとは何事かね。ベリル・トラウオン」

「──図書堂に無断で遮断結界を張る方がどうかしていますよ、オニキスさん」

「張ったのは私ではない。そしてこれ以降の話は君に関わり得る権利が無い。行こうか、()()()

 

 こういう気も遣えるのがオニキス・リオンだ。

 俺が正式な手続きをせずに来たのを察して名前を呼ばない。偉すぎだろコイツ。カラジェット君並に好感度高いんだよな。

 

 ちなみに今攻撃してきた少女ベリル・トラウオンは聖堂関係者における仲間になるNPCである。バリッバリの戦闘者で、ちょっと特異な……プレイヤーにではできない神官スキルの使い方で戦う。

 どういうのって、武器に結界纏わせて殴るって言う超脳筋殺法。

 

「オニキスさん。その方、誰ですか?」

「言ったはずだよ、ベリル・トラウオン。これ以降の話は君に関わる権利が無い。開示権限が足りない」

「む。……判議会関連ですか。ちぇ、オニキスさんの汚職を見つけたと思ったのに。おにーさんも運が良いね。オニキスさんが証言してなかったら、今頃その頭カチ割られてたよ」

「神官スキル:虚偽開告」

「何だコイツ……オニキスさんが張ったんじゃないとしたら、さっきの結界はコイツの……。だとしたら、少なく見積もっても第三階位、いや第二階位くらいは……はっ!?」

 

 聖堂所属してからのイベントでしか使わないスキルだけど、うん、やっぱりちゃんと実力が見えているな。

 仲間になるNPCなだけはある。ただイサカリとかと違ってまだ「なっていない時期」なんだな。この辺の違いって何なんだろう。

 

「なんだこれ、思ったことが口に出た!? ……っ、か、考えちゃだめだ。考えないようにしないと、でも考えないってどうやって──」

「行こうか、オニキス・リオン」

「構わないが、可哀想だから解いてやってはくれないかね?」

「遠隔でも解除できる」

「そうか……では、行こうか」

 

 神殿が問答無用なら、聖堂はまだ調査とか尋問とかをする。だから遮断結界だの死者蘇生だのといった「現状維持」みたいなスキルや、今の虚偽開告のような心理的スキルが多い。同じ理由で聖堂関係者は呪詛スキルもいくらか覚えていることがある。

 尋問、あるいは……拷問に使うから。

 決してやさしいわけじゃないんだよね、聖堂。

 

 オニキス・リオンについていくこと五分程。

 俺が知っている裏側……関係者しか入れないマップに来たあたりで虚偽開告を解除しておく。ま、開示権限の話をした以上無理には追ってこないだろう。あの場での揶揄いが面倒だったから対処しただけだ。

 

「虚偽開告。昨今では使う者も少なくなってきたスキルだが、流石は、と言っておこう」

「ああ、俺のことを噂で聞いていたっつってたな、さっき。どんなことを聞いた?」

「聖なりし御業たる死者の蘇生をフレイムボール感覚で乱用するはぐれ神官、と」

 

 ……まぁ正解だけど。

 確かに乱用しているけど。はぐれ神官て。

 

「まだつかないが、こちらからも質問を一つしてもいいかね?」

「ああ」

「パピルサグとはどこで出会ったのだ?」

「神殿本拠地と自宅前で」

「……はぁ」

 

 大きな溜息。

 そういえば同業者なら邪魔すんな、とか言ってきてたし、やっぱ無断で出て来てんのかアイツ。

 

「次に見つけたら連れ戻してやろうか?」

「いや、構わないよ。各聖獣にはそれぞれその言葉を解すことができる巫女がついているのだがね、パピルサグの巫女曰く、"一目惚れしたからちょっくら行ってくる!"と言い残したきり帰ってきていないそうなのだ。私達は聖獣の恋路を邪魔する程愚かではないよ。ただ悩ましいだけだ」

「聖獣の言葉を解す巫女。……そんなのいたか?」

「ああ、やはり君は聖堂所属ではないのだな。ではないにも関わらず蘇生までをも修めていることが末恐ろしいが……今は栓無きことか。ついたよ、私の自室だ」

 

 聖獣は魔物の一種だ。

 その言葉を解す、というのは……俺やメアリーだけの話だと思っていたが。

 

 出来る奴は、いるのか。

 じゃあそいつらにとって、人工聖石はどう映っているのか。

 

 ……上手く行けば抱き込めそうだな。

 

「音が漏れない材質にはなっているが、念のため結界を敷いてくれるかね?」

「ああ、もうやった」

「流石の練度だ。──さて、巷で噂のヴェルグ。君は私に何を望みに来た?」

 

 オニキス・リオン。

 聖堂所属にして、末端でも高位でもない中間の位に居ながら、()()()()()()()()()()()()()()

 口の堅さも、世界の真相も、恐らくこの世界においては彼が一番「近い」。

 

「まず──人工聖石を知っているか、オニキス・リオン」

「勿論だとも。マスカルウィン帝国で研究、製造された、魔物を用いた聖石。従来の聖石より純度は劣るものの、魔素を退けるには問題ないとされているもの。そして先日、同国の皇帝ラムナザール四世により回収及び研究、製造の中止が命じられた──人類史に残る最悪の創造物だろうね」

「そこまで理解が及んでいるのなら話は早い。俺にとって、人工聖石は存在を許すことができないものだ。帝国の研究員はその製造を中止した。ラムナザール四世の独裁はしっかりと効いている。だが、外部のものが研究、製造を続けているようでな。況してやその販売まで行っているんだ」

「……察したよ、ヴェルグ。つまり聖獣の貸し出しとは、聖気を辿るためだね?」

「ああ。別に聖獣である必要はない。聖気を辿ることができるのなら、聖堂関係者……人間でも良い」

 

 テュアナへの礼儀。そしてヒポクリフへの誓約は必ず果たす。

 ここでNOを突き返されるというのなら、俺は最終手段に出る。

 

「私ではダメかね、ヴェルグ」

「……お前、そこそこのポジションだろ。最悪二日三日かかるぞ。仕事、溜まるんじゃないのか?」

「有給休暇が一年分ほど溜まっている。聖堂はホワイトな職場であることをアピールする必要がある。……それに、他の者達は好きに休暇を取れるというのに、私だけ四つも五つも申請書類を書かなければならないというのはおかしいと思わないかね?」

「それちゃんとおかしいから掛け合った方が良いぞ」

「過去四度掛け合って、四度とも突き返されたとも。だが、今回は大義名分がある。聖堂としても人工聖石は快くないものだし、何より()()調()()()()()()。上も文句は言わないだろうさ」

 

 いいね。

 こそこそされるより、そう大っぴらであった方がありがたい。

 

「そうと決まれば早速申請を通して来よう。なに、君は今注目されているからね、その名を出せば一発だとも」

「いや、直接乗り込んだ方が早い。言葉だけで信じる奴らじゃないだろ」

「……それもそうだ。では行こうか」

 

 

 

 行って来た。称号『最も偉大なる者(アジン・カリン)』をつけて。

 称号見抜ける奴は目を瞠っていて、見抜けない奴は見抜けない奴で異様な空気にアテられていて。

 

 多分オニキス・リオンからしたら考えられない速度での休暇申請が通ったのである。

 

「つーか休暇で良かったのか? 俺の観察はれっきとした仕事だろ」

「だからこその有給休暇だとも。なに、私は読書以外無趣味でね。有給休暇を消費するのにちょうどよいのだ。奴らめ、休ませないよう仕事を振ってくるくせに休め休めと言ってくるからね」

 

 色々。

 ……異世界に来てまでそういう話聞きたくなかったなぁ、って。でも確かに聖堂所属になるとクッソ忙しくなるんだよねこのゲーム。

 

 ん。

 聖堂の裏側からまた表側マップに来た……あたりで、その影に気付く。

 

「オニキス・リオン。なんか見られてんぞ」

「……これはこれは、キャスパー様。如何されましたか?」

 

 様。

 ……え、このショタ偉いのか。でもさっきの場にはいなかったけど。

 

「お兄さん……『最も偉大なる者(アジン・カリン)』なんですか?」

「ああ称号変え忘れてた。まぁそうだよ。それがどうした?」

「……お久しぶりです! ごめんなさい、この二千年の間で、姿形を変えてしまって……わからなくなってしまっているでしょうが、僕です。カスパルです!」

 

 いや。

 スマン、わからんけど。

 ただオニキス・リオンの反応的とキャスパーの言動を加味するに、聖獣かなんかか? でもアダルトMOD適用されてないぞ?

 

「お忘れ、ですか……?」

「スマン。お前のような子供は見た覚えがない」

「そう、ですか……」

 

 しょぼん。

 落ち込んでしまった少年。無言で俺を見つめてくるオニキス・リオン。

 

 いやしょーがねーじゃん。知らねーんだよ。多分本来の最も偉大なる者(アジン・カリン)の関係者なんだろうけど、俺のこれは『最後の聖王』と同じで聖堂の最高位になった時に付与されたものだから、記憶とかねーんだわよ。

 キャスパー。カスパル。いや名前はわかるよ。メルキオルと同じだろ。

 でもゲーム内にいなかったよお前。資料室にも……。

 

 ……。

 

「聖槍カスパール、か?」

「はい! そうです! 思い出してくださいましたか!?」

 

 いやいやいや。

 武器だよ武器。しかも鉱石武器。なんで人間になってんだよ。え? マジで何事?

 人工聖石も考えなきゃだし魔素と魔族の話も全然ケリついてないのにまだ悩ませる気? マジ?

 

「ごめんなさい、もう槍としての姿には戻れませんが、槍としての誇りを忘れたことはありません! 最も偉大なる者(アジン・カリン)の称号を持つお兄さん。お願いです、僕をまた使ってください!」

 

 さ……て、と。

 どうするかな、これは。

 

 聖槍カスパール。資料室に置かれている「ストーリー武器」という、プレイヤーは扱えないけどストーリーでNPCが使っていたりムービーで登場したりした武器の一つ。

 聖石で作られたその槍は、かつて聖堂を拓いた最も偉大なる者(アジン・カリン)が使っていたもの。聖堂の歴史に関係するムービーシーンでたびたび出てくるその武器は、今の聖堂の在り方や紋章、彼らの纏う服のデザインにまでリスペクトされている特別なもの。

 性能だけで見れば聖王の粛清剣とそう大差ないけど、主人公に槍の適性がないため使用は不可。仲間NPCに持たせることはできる。ただし資料室から持ち出せはしないので、そこまで印象に深い武器じゃないんだけど。

 

 で。

 えーっと。

 ……何度も言ってるけど俺は頭良くないからさ。

 キャパオーバーだよ。どうしよう。

 

「お仕事の邪魔はしませんので、お願いします!」

「きれいごとじゃないぞ、今回は。汚れ仕事に近い。それは理解しているのか、カスパール……カスパル」

「武器ですから、大丈夫、です!」

「ヴェルグ。キャスパー様ならば、私では辿れないものも辿れるかもしれない。連れて行ってあげてはくれないかね」

「……それは同情か? オニキス・リオン」

「いいや、効率だとも。ただし、私が役に立たないというわけではない。双方が佳き結果を得ること。それを効率と呼ぶのだよ、ヴェルグ」

 

 酔ったカローライナと気が合いそうなことで。

 ん-。

 まぁ、ポンコツとかでないのなら、良いか。

 

「わかった。じゃあ行こうか」

「はい! ありがとうございます! オニキスさんも!」

「ええ、礼は受け取っておきますよ、キャスパー様」

 

 んじゃ。

 人工聖石潰しの旅、スタートだ。

 

 ……ついでに、色々聞き出して、な。

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