※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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賢人の運び(G度少し)

 アスガード周辺にあるソルクス街道という、もう一つある街道と比べてガッタガタな道を四人で歩く。

 四人。俺とオニキス・リオンとカスパルと。

 

「興味深いな……私も聖堂関係者として王国地下に眠るモノの存在は知っていたが、こういう形態にもなれるとは」

「否定します。現在のボディとなっている当機はマスターが製作したものであり、シアルル王国地下にて建造されていた私は現ボディの7058.8倍ほどの大きさとなります。その形態においては、こういったコンパクトサイズになることはできませんでした」

「僕、僕より年上な方に、久しぶりに会いました!」

 

 仲間でも奴隷でもない状態のバルクス。一応魔物という扱いであるコイツを家に置いておくのは、人工聖石が蔓延っている現状を考えると憚(・)ら(・)れ(・)た(・)ので、此度の人工聖石潰しの旅に同行させた。

 オニキス・リオンには聖気を、カスパルにはそれに伴うものを、そしてバルクスには目に見えない痕跡などを。それぞれの出来ることを遺憾なく発揮してもらう、探索専用パーティって奴だ。俺? 護衛か傭兵じゃね?

 

「ふむ。方向は間違いないようだね。人工聖石と思しき純度の低い聖気。その残滓がこの道をまっすぐに進んでいる」

「ソルクス街道をまっすぐっつーと……森が二つと、洞窟……ああここリペアストーンの洞窟か。それと……」

「マップデータ照合中……照合完了。素晴らしいですね、マスター。データにある通りの配置です」

「凄いのは森と洞窟の方だろ。お前の製造時期のデータから変わってないってことだろ?」

「このあたりは地殻変動が少ない。シアルル王国や鬼の国周辺海域などであればいざ知らず、そこまで地形が変わるということは無いのだろうね。それを差し引いても、森という一つの生命体が変わらぬ位置にある、というのは素晴らしいことだが」

 

 流石に歩いてたら日が暮れるんで走るなり転移するなりしたいところ……だが、聞き出したいこともあるからなぁ。これで最初の森がアタリだったら……いやそれはそれで全然かまわないっていうか心情的にはそこぶっ潰して終わりにしたいんだけど、タスクが増えた分優先順位の付け直しが面倒と言うか。

 

 はい、うだうだ悩むの終わり。馬鹿の考え休むに似たりってな。

 

「一つ、はっきりさせておきたい。カスパル、お前は何故その姿になった? "なぜ"……つまり、理由と手段を言って欲しい」

「それは」

「それはキャスパーさんが聖石で製造された武器だから、ではないでしょうか。私の知識データベースは前文明のままですが、長い年月を経た聖石武器が人格を持ち、肉体を得るケースは記録されています」

「はい、バルクスさんの、言う通りです。ただ……僕は、ごめんなさい。最も偉大なる者(アジン・カリン)が現れることは、もう無いのだと思って、肉体を得る選択を取りました。僕にもっと忍耐力があれば、今も武器として、最も偉大なる者(アジン・カリン)の手元に在れたのに」

 

 ……。

 ……これは、つまりそういうことか。

 ふむ。ちらりとオニキス・リオンを見れば──驚いた顔一つしてねーや。やっぱ知ってんだな。

 

「ヴェルグ。私は表情に出ないだけだよ。しっかりと驚いているとも。キャスパー様の出生については聖堂でも秘中の秘。……ただ、聖石というものの成り立ちを考えれば、"あり得る話"だとは常思っていたけれどね」

「流石だ、と返しておく。……カスパル。お前の種族は今人間だが……それは故意にそう見せているだけだな?」

「そうです。そうしないと、混乱させてしまうので」

 

 さて、では引っ張りに引っ張った話をするとしよう。

 聖石とは何なのか。

 俺はかつて、アモルファス聖との戦いの際に、聖気とは輝かしき者達の血であると言った。

 そうだ。聖気とは天使を構成するすべて。血も肉も骨も翼も、意識も記憶もスキルも思考も、全てが聖気で出来ている。だから奴らは存在するだけで果てしない聖気を放っているし、それを抑える、なんてことは常に真綿で自身の首を絞め続けるような……苦痛の伴う行為となる。

 アウラニの場合は彼女がハーフだったから、「ストレスを感じ続ける」程度で済んでいたのだ。

 

 では、それと全く同じ性質を持つ聖石とは何なのか。

 

 答えは単純。

 

 聖石とは天使の「残骸」である。

 遺骸、死骸ではない。彼女らも魔物扱いだから、死んでしまっては世界に還るだけだ。ゆえに残骸。

 天使の寿命は果てしなく長いが、決して不死ではない。ただ、彼女らは老衰を酷く嫌う。それをするくらいならば自(・)棄(・)を選ぶ。

 自棄。これもまた自死や自殺とは意味が少し違う。

 彼女らは自らの人格、意識、記憶を破棄できるのだ。

 

 それを行った天使は残骸となる。

 それが聖石だ。あくまで魔物素材ではなく聖石となるからだろう、アダルトMODは聖石を鉱物として認識している。

 

 で……その聖石で作られた武器。聖王の粛清剣や聖剣コルネリウス、そして聖槍カスパール。他様々。

 バルクスの知識データが真実であるのならば、「天使の残骸」は長い時を経ると「人格」を取り戻すと……そういうことになる。

 

「一度己を解放してみてくれるか? すぐに戻してくれていい」

「わかりました。オニキスさん、少し離れてください」

「ああ」

 

 カスパルがゆっくり目を瞑る。

 ──瞬間、爆発的な聖気が辺り一帯を支配した。

 

 カスパルの姿は……元のショタからは考えられない程長身の、背中に二対の黒翼を生やした全裸美女になっていて。

 

「種族:堕天使……か」

「はい。も、戻りますね」

 

 戻る。

 一瞬にしてカスパルは全裸美女からショタになった。

 

 堕天使。ただこの場合は、堕ちた天使というより堕天して人間となった天使、という意味になるのだろう。堕天使状態はちゃんと魔物。けれどそれらを抑えると人間に、か。

 

「カスパル。その状態……今の状態に苦痛はあるか?」

「いえ、ないです。こっちの肉体も僕のものですから」

「……人間の肉体を得る時に、何か特別な手法を用いたか?」

「それもいいえ、です。……あの、最も偉大なる者(アジン・カリン)は、僕に何を求めているのでしょうか?」

 

 いいえ、か。

 そこのプロセスが分かれば、あるいは魔素と魔族の関係に転用できそうだったんだけど。

 流石に横着したかな、これは。

 

「ヴェルグ。君が何を目的としているかは聞かないし、あまり興味もない。ただ私の頭というのは厄介でね。君が漏らした言葉の一つ一つだけで、"君が何を目的としているか"を察せてしまうんだ。そればかりは許してほしい」

「知られて困ることではないし、お前の口の堅さは開示権限が物語っている。許すも何もないよ」

「マスター、オニキス・リオンさん。私達にもわかる言葉でお話しいただければ幸いです。情報収集機能は私にもついていますが、推測や憶測の面においては一般的な人間の域を出ません。あるいは演算機能のアップデートをお願いいたします」

「知らなきゃ知らなくていい。知りたいなら請え。どうする?」

「それでは知らないままにいたします。私は道具ですので、先ほどの発言は全て記憶から消して頂ければ幸いです」

「最も偉大なる者(アジン・カリン)……僕は知りたいです。僕は貴方の武器なので、貴方の行く末をしっていなければいけません」

「む」

 

 おっと。

 オニキス・リオンも肩を竦めている。

 

 本当に一瞬だけど、火花が散ったね今ね。道具と武器。成程、そういうとこでライバル意識って生まれるんだ。

 

「すまんがカスパル。お前が知っても何もできん」

「……僕は役立たず、ですか?」

「この目的に関して言えばそうだな」

「そう……ですか」

 

 相手を慮って気遣う言葉を吐く、という機能が俺には無いんでな。

 だったら真実を告げてやった方が万倍マシだと思ってる。だから不和が起こるってソレ。

 

「荒んだ空気を変えようと思うのだけど、同意は得られるかな?」

「ああ、すまん。頼むわ」

「頼まれたよ。というのも、ヴェルグ。君が徒歩などという効率から最も程遠い手段を選んだのは、私やキャスパー様から情報を聞き出すためだろう? それが終わった今、もう少し歩みを早めるのも良いと思うのだが、どうかな」

「そうだな。んじゃ……転移だと痕跡を見逃しかねんから、走っていくか」

「蘇生もそうだが、転移もそれなりのロストテクノロジーだということを忘れないで欲しいものだね」

「神殿の粛清部隊がバンバン使ってんだ、俺に言うならあいつらにも言え」

「あの暴力集団に物申せとは、ヴェルグ。内勤の私に死ねというのかね?」

 

 俺もそこそこな暴力野郎だがそれはいいのか。

 

「マスター。高速移動をするのであれば、オニキス・リオンさんは私が運びます」

「それは構わないが、どうしてだ」

「マスターの最高速度と並べる機体が当機しかいませんので」

 

 ああライバル意識ね。

 勝手にやっててくれ。あんま目に余るならお互い元の場所に戻すよ。ダルいから。

 

 バルクス基準、俺がカスパルを持つ、というのは特に問題ないらしい。まぁ元武器だしな。

 

 して、オニキス・リオンを乗せたバルクスがちょっと浮く。ホバー移動……にしては風圧も何も感じない。いや魔本で創ったのは確かに俺だけど、自動クラフトだからどこがどういう仕組みとかはわかんないんだよね。

 ホント、前文明がオーバーテクノロジーってのはテンプレートだけど、オーバーテクノロジーが過ぎるよ。

 

 なんにせよ──時短で行こう。何事も。

 

 

 

 

 やっぱり転移にしなくて良かったというべきか。

 ソルクス街道をまっすぐ進んでいた人工聖石の残滓は最初の森に辿り着く前に道を逸れた。オニキス・リオンは高速移動の中でも人工聖石の残滓を見逃すことはなかったし、時折あった長距離跳躍にも何の文句も言わない。

 内勤で戦闘できない奴ってこういう時に騒ぎがちだけど、流石護衛してて苦に思わないNPC第一位だ。

 

 そして──まず、一つ目。

 

「如何にも、って感じの小屋だな」

「ただ、ここは中継地の一つでしかないようだ。あちらの方角にも残滓が続いている」

 

 中に人間はいない。

 ミニマップにも森の中の魔物以外映っていない。

 

 入る。

 

「……在庫。あるいは」

「これが、人工聖石……。僕はこれを、好みません」

 

 あった。幾らか、程度だが。石の裸体を晒す美女たち。

 そして……そのほとんどが、砕けている。腕が無かったり、腹に大穴が開いていたり。指先が無い程度のものから、半身を失ったものまで。

 

 恐らく運搬中に砕いたか何かだろう。でも、砕けているのに死んでいない。

 全員成体で、けれど……誰も悲痛な顔をしていない。

 

「ディスペル」

 

 俺、じゃない。

 使ったのはオニキス・リオンだ。というかそのスキルはNPC専用なので俺には使えない。

 

 解呪(ディスペル)されていく人工聖石──石化魔物たち。

 

 だけど。

 

「ぁー……」

「う、う」

「……」

 

 レジーナがプレゼンの時言っていた。

 人工聖石にする魔物は……初めから意識を混濁させたり、自我を持てないようにする、と。

 

 石化が解けた美女たちは、襲い掛かってくることも、喋りかけてくることも、何もない。

 ただそこで、虚ろな目で蹲っているだけ。

 

「ヴェルグ。……君の眼には何が映っている?」

「今俺言葉発してないんだけどな。仕草でもわかるか」

「ああ。視線の動き。表情の強張り。脈拍……いや、今はそんなことを話している場合ではないね。行こうか、この魔物たちが私達を襲ってこない内に。私もこの状態にあった彼らを殺すのは快くない」

「襲ってはこない。だから」

 

 神官スキル:遮断。

 結界で覆うのは、俺以外の三人。

 

「魔剣士スキル:プリズムオーラ。……魔法使いスキル:座標指定。魔法スキル:スーパーノヴァ」

 

 すまない。

 俺はお前達の境遇を苦痛であるとしか思えない。あるいは別の奴なら救いがあると、生きているのならばどうとでもなるという希望の言葉を吐けたのやもしれないが……俺はもうお前達を死んでいるとしか表現できない。

 だから、世界へ還すことでしか。

 

「すまん。俺の感情の整理でしかないよ、これは。……ちゃんと恨んでくれ。その方が心が軽くなる」

 

 小屋も、自我の壊れた魔物も、地下の"素材"も。

 全て消し飛ばす。立ち上る光の柱を墓標に見立てるのは、エゴが過ぎるだろう。俺のクソどうでもいい感傷に巻き込んだことを心から謝罪する。

 

 結界を解けば。

 

「これは」

「光属性の魔力を検知。それにこの大穴は」

「最も偉大なる者(アジン・カリン)? ……怒っているのですか?」

 

 怒っている。良かった、泣いているのか、なんて聞かれなくて。

 そんな烏滸がましい感情を抱いていなくて、本当に良かった。

 

「オニキス・リオン。次の場所へ行こう。ここはただの中継地点。製造所じゃない」

「……承知した」

 

 気をつけろよ、俺。

 激情に駆られて敵を見誤るなよ。斬り殺すならともかく、消し飛ばせば蘇生は効かないからな。

 

 

 

 二つ、三つと。

 在庫置き場兼中継地点のような場所を潰して潰して、潰して。

 やっぱり一日ですべて、というのは難しい。日が暮れてしまった。

 

 一度転移で戻って再度……とか考えている内に、オニキス・リオンが手早く野宿の準備を終わらせてくれた。

 

「内勤じゃなかったのか?」

「現地調査を行うこともあるからね。自身の身体を休ませるために最適なことは、休息の準備に体力を使わないことだよ」

「違いない。……俺は食わずとも雨に濡れても平気だからなぁ、こういうのはちゃんとした冒険者やお前らの方が長けるんだろう」

「そこは人間らしく風邪を引いておくべきだと愚考するがね」

 

 ホントにな。

 

 んで……まぁ、やっぱりそれはそうか、と。

 オニキス・リオンが取り出した携帯食料を見て、先に寝る旨を伝える。「食べずとも良くとも、食べることは彩になるぞ?」という好意は、けれど申し訳ない。食欲が湧かないからな、ソレにはさ。

 

 建てられたテントはそこそこ上質なもの。だけど、テントの素材も中に敷かれたシートも寝袋も……全部魔物素材。

 だーめだわ。

 

 適当な樹に寄り掛かって目を瞑る。

 

「最も偉大なる者(アジン・カリン)……お休み、ですか?」

「ん。何か話したいことがあるならいいぞ、カスパル。俺は一週間くらいなら寝なくても平気だし」

「……少し、考えました。最も偉大なる者(アジン・カリン)の目的と、今日の行動。僕が役に立たない理由も」

「真面目だなぁお前は。いいよそんなの考えなくて」

「武器から生命へと転じた時に、僕は考えることを覚えました。だから、考えたくて、考えました」

「そうか。じゃあ何を考えたのか言ってみな。聞いてやる」

 

 言えば、ポツ、ポツと……雨の降り始めのように言葉を紡ぎ始めるカスパル。

 

「最も偉大なる者(アジン・カリン)は、魔物と意思を交わせるのですね」

「ああ」

「だから、昼の行動は……彼らから何かを聞いたのだと考えました」

「いいや、違うよ。あいつらは何も言わなかった」

「……言えなかった。だから、世界に還したのですね」

 

 なんだ、頭は回るのか。

 いや……ずっと考えていただけかな。

 

「んで、それと俺の目的はまったく別の話だけど、大丈夫か?」

「はい。別々に考えてます」

「そうか」

「……僕が役に立たないこと。ヒントはそれだけでした。でも、だからこそわかるのは、それが魔素に関連することだということ。僕は聖石で創られた武器ですから、魔素の話であれば、確かに役立たずです。魔素を散らしてしまうので」

「あってる。そういう意味で言った」

「だから、ここからは推測で……提案、でもあります」

「提案?」

 

 オニキス・リオンが焚いている焚火。

 それがカスパルの影を揺らめかせる。

 

「最も偉大なる者(アジン・カリン)は、魔族とも意思疎通ができる。そう、ですよね」

「……まぁ、そうだよ」

「そして貴方が興味を持った、僕の種族に関する話。……申し訳ありません。僕の頭では、これを統合することはできませんでした。あるいはオニキスさんなら、できたのかもしれません。ただ、僕には一つ言えることがあります」

「断(・)る(・)」

 

 その覚悟を決めたような顔に。

 思わず言った。反射的に言った。

 

「ま……まだ、何も言ってないです!」

「お前が実験台になる、って言おうとしただろ。大方今の状態なら聖気漏れないから魔素に触れて魔化して、その状態で堕天使になるプロセスを見せて観察しろとか……そういう話だろ」

「え、あ……す、すごいです、流石は最も偉大なる者(アジン・カリン)! 僕が半日をかけて考えたことを、一瞬で……」

「んでそれナシ。あのな、俺は確かに人でなしだしろくでなしな自覚はあるけど、そういうラインは絶対超えないの。命を用いる実験とか……ソイツの本質を変えかねないコトとか」

 

 他者が再生するところを見て勃起したって、それを故意にやろうとは思わない。

 俺が大事にしているのは多分命そのものじゃないけど、だからこそ魔化を実験に使おうとは絶対に思わない。

 

 道具だからとか武器だからとか、どうでもいい物差しで俺を決めつけんなマジで。

 魔物だからとか魔族だからとか、クソどうでもいい話で身を切ろうとするな。不快だ、本気で。

 

「……そう、ですか。僕は……やっぱり役立たず、ですね」

「ああ」

 

 慰めの言葉とかはかけない。

 快不快ははっきり伝えるし、今んとこ役に立ってないのも事実だ。それで思い悩むのならそれは良いことだろう。余程人間らしいよ。問題に対して悩んで、悩んだことをそのままにしておくのは人間だけだ。他の生物はその場で解決するために立ち止まるからな。

 

 答えはやらん。誰かに貰うのはいいけど、誰かに請いに行くまでが成長だ。

 俺はそこまでの面倒を見る気が無い。知り合って一日くらいだし。

 

 トボトボとテントの方へ戻っていくカスパル。

 

「お前はあっちに居てやった方がいいんじゃないか?」

「いいや、バルクスさんとキャスパー様の間には言い知れぬ確執があったからね。今こうして彼女がキャスパー様を慰めることで、二人の間が縮まることを願っているよ」

「そりゃなんとも、計算高いことで」

 

 わざわざNPC専用の神官スキルまで使って身を隠して。

 肉体での戦いができないコイツにとって、MPはそのまま命を守るための防具に近いものだ。それを他人の仲直りのために使うかね。

 

「初め。君がヒーズァフロークに来た時、キャスパー様に蔵書室の場所を聞いたそうだね」

「ん」

「残念ながら、君の求める資料は蔵書室には無いよ。あそこに蔵書されているものは全て読み尽くしている」

「そうか。……どうだ、お前の眼から見て。俺の目的は成し遂げられそうか?」

「可能性で言えば限りなくゼロに近い数字が出るだろう。何せ彼らは宙から降り立ったモノ。ほぼ同郷と言って差し支えの無い二つを別々の存在にするというのは、果たして何が必要で、何が障害となるか」

「ゼロとは言わないんだな」

「可能性がゼロであるものなどこの世にはないよ、ヴェルグ。死ですらも覆す力が私達にはあって、存在の消滅ですら観測次第で如何ともできる。それは良いことでもあるし悪いことでもある。今回の件に限って言えば良いことだけれど、此度の旅の目的を考えれば悪いことだ」

「……知識の根絶は難しい、か」

「果てしなくね」

 

 わかっていたことではあるけれど。

 この世総ての人間を滅ぼして、大陸の全てを消し飛ばして、新たに作った大陸に新生児放り出す、くらいでしか知識の根絶は成し遂げられない。悪魔の証明を机上じゃなく現実でやらなきゃいけないんだ。そりゃ無理だってな。

 それでもやるんだけど。

 

「一つ、君の興味を惹けるかもしれない話をしてもいいかな」

「聞かせてくれ。今は何の情報も魅力的だ」

「そうがっつかれても出る情報に変化はないよ。……君は聖獣と話す巫女の存在を聞いて驚いていたね。ああ、すまない。忘れていた。ここから話すのは、私が君の隠していることを大体理解している、という前提で聞いてほしい」

「無論だ。続けてくれ」

「うん。では、初めから。聖堂には聖獣と話す巫女が存在する。聖獣にはそれぞれ独立した役割……機能があるからね。ただ、彼女らは彼女らの担当する聖獣としか話すことができない。他の担当者の聖獣とは言葉が通じないんだ」

「……契約スキルか何かか?」

「察しが良いね。そう、聖獣と巫女は血の契りを結んでいる。その契りは聖堂が独自に開発した……正確に言えば、"聖獣から教わったスキル"になる」

 

 成程、俺が知らないわけだ。

 ストーリーに関わるでもない話な上に、NPC専用、あるいは魔物専用スキル。

 んで契り系はハナからなーんも知らなかったからな。家族の契り、運命の契り、だっけ。グノーシス関連で出てきたのは。

 一見今の俺の目的とは関係ないように聞こえる……が、オニキス・リオンがそんな見当違いな話をするはずがない。

 

「わかるかい? つまり、過去の聖堂は、聖獣と言葉を交わす前に、聖獣からスキルを教わっているんだ」

「……人語を解す聖獣がいるのか」

「恐らくね。残念ながら私は見たことも聞いたことも無いけれど、いるのは確実だろう。それはたとえば、神殿や教会が崇める神なんかも似た事例だと推測する」

「それこそ秘中の秘だぞお前」

 

 カワード。そして教会にいるもう一柱。邪神崇拝のとこにいる一柱。

 それだけじゃない可能性がある、と。

 

 でも、そりゃそうか。バルクスだって人語を解す魔物扱いだし、天使も似たようなもの。

 いたっておかしくはない。

 

「で? そのいるかも知れない奴に、知っているかもしれないスキルを教えてもらえってか?」

「いいよ、ヴェルグ。君が私を信頼してくれていることは伝わっているから、そうやって思考を潰さずとも話すさ」

「……すまん。ちょいと急いた」

「君にとっては最重要課題のようだからね。気持ちもわかるよ」

 

 して。

 オニキス・リオンは、口を開く。

 

「概(・)念(・)に(・)も(・)意(・)思(・)が(・)あ(・)る(・)」

「──……」

「結論を急くのならば、これに尽きる。そして……その反応を見るに、君には心あたりがあるね?」

 

 ある。

 俺は遭っている。「鬼の国」と。

 

「聞けば、キャスパー様も聖槍であった頃から意識そのものはあったそうだ。新たに生まれてくる聖獣たちも、生まれる前から意識を持っていたという。"概念"。それはあるいは"役割"、"使命"、"理"……世(・)界(・)に(・)意(・)識(・)が(・)あ(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)、あらゆる事象もまた意識を持つ」

「さらっと言ったけど、お前それは考察でどうにかなる域じゃないぞ」

「私の思考にも割り込んでくるからね。自身の思考回路からは決して生まれ得ぬ考えを外部からの干渉だと判断するのにそう材料は必要ないよ」

 

 だとしてもだけど。

 ……けど、そうだ。この世界、このゲームのことを少し忘れていた。

 このゲーム、本当にごちゃ混ぜなんだ。宗教観も世界設定も魔物や魔族の姿かたちも。神話通りのものもあれば、全く違うものもいる。スレイプニルとかバジリスクとか。

 だから当然、道教の死神がいる世界で、八百万の神々の概念があってもおかしな話ではない。無論、付喪神というよりは形而上学やアニミズムに近い話だけど。

 

 鬼の国に意思があって、世界に意思があって。

 魔素だってドゥームスの意思があって……だから。

 

「もう少し踏み込むのならば、君がそれを考えた時点で、それは一つの芽を出す、ということだ。対象の規模は関係が無い。概念だよ、ヴェルグ。野営、野宿の概念。人間関係の概念。ヒトというものの概念。それらにもそれぞれ意識があり、意思がある」

「……」

「聖獣には聖獣の意思がある。彼らは消耗品ではなく、確立した個を持った概念だ。ただ、不便なことに、今は言葉が通じていないだけ。スキルを通してしか意思の疎通が図れないだけ。……ならば、どうだろうか、ヴェルグ」

 

 君は。

 スキルを介さずに万象との会話ができる君は。

 

「君の目的とする概念とも対話ができると……そう思わないかい?」

 

 そう、締めくくる。

 

「正直な感想を言っても良いか」

「勿論だとも」

「胡散臭い」

「……よく言われるよ。だから普段はこういうことを語らないようにしている。適切な社会人の姿勢を保つようにしているんだ」

 

 だけど、思い当たる節があり過ぎて、光明は見えた気はする。

 鬼の国。世界。

 思えば黒無常がいた世界も似たようなものだ。あの樹木も……ティル・ナ・ローグだって。

 

「けど、参考になった」

「それは良かった」

「……ついでと言っちゃなんだけど、一個聞いていいか、オニキス・リオン」

「なにかな」

「いや全く関係ないんだけどさ。……お前ってなんで聖堂にいるの?」

 

 それはゲーム時代からの疑問。

 開示権限最高位。世界の真相に最も近い男。

 ……それがなんで聖堂の中堅なんかやってんの? って。

 

「図書堂の俗称を知っているかな」

「いや」

「あそこは寄書堂とも呼ばれていてね。世界中からあらゆる書物が寄書されるんだ。蔵書室の本を全て読み尽くした私が図書堂で読書をしているのは、毎日のように新たな書物が寄書されるから。つまり」

「本読みたいから聖堂の中堅ポジにいるって? ……お前、実は頑張ったら幹部クラスまで行けんじゃねーの?」

「頑張る気力が無いからね。そこについてもまた、可能性は限りなくゼロに近いよ。なるとしたら……上が神殿やシアルル王国騎士団のように腐り切ったその時、かな」

「成程、絶対にならない、と」

「無論。彼らは偏屈で偏狭で変人だけど、善人だからね」

 

 善人が悪人になることだけは"絶対に"無いからな、この世界。

 ホント、どこまで知ってんだか。

 ……こいつが休み取れない理由って、こいつが有能過ぎて居なくなられると困るからだったりして。

 

「さて、私はそろそろ眠ろう。君と違って睡眠を要するからね」

「ああ、お休みさん」

 

 少し弱まって来た焚火の方へ戻っていくオニキス・リオン。

 胡散臭さはあったけど、実のある話だった。

 

 んじゃま、今日の寝ずの番は俺が務めるとしよう。カスパルとバルクスの方もなんか盛り上がってるみたいだし。

 

 ──意思があるなら、接触してきてほしいものだが。

 なんか無いのかね。意思陳列室みたいな場所。資料室とかも……あんのかな、この世界に。アクセスできるんだろうか。

 

 何はともあれ、まずは人工聖石だがね。

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