アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
正直言って、調査は難航していた。
それなりの数の中継地点を潰し、そろそろ本拠地か──と思ったあたりで、人工聖石の痕跡が二手や三手に分かれ始めたのだ。
つまり。
「一人二人じゃない、か」
「そのようだね」
「足跡や轍の数を見るに、少なくとも四種類の馬車が使われています。それぞれアダラ・マキアラダ、テンクスネ、アクラハイル……そしてジハルダ」
「え?」
ふむ。アクラハイル以外聞いたことの無い場所。これは恐らくバルクスの知識データが古いままだからなんだろうけど、逆に神殿によって"粛清"されたアクラハイルの馬車があるってなんだ? どういうことだ?
「ジハルダ……オニキスさん」
「ええ、キャスパー様。あまり快くはありませんね」
「すまんな、アクラハイル以外知らん。オニキス・リオン、今で言うとそれらはどこになる?」
「アダラ・マキアラダは今の学術都市アラダだよ。テンクスネがルト。そしてジハルダは」
「……ヒーズァフロークの麓にある街、です」
そりゃ。
堂々巡りも良い所だが。
「とりあえず面積の小さい所から潰して行こう。まずルトだ。転移する」
ルト。火燃石という鉱石が採掘される土地にある街……というか村で、温泉で有名。ただ火山は前述したように人間の大陸には存在しないため、温泉はその火燃石が温めている。
マップから今いる位置にピンを残し、ルト近郊に転移。ミニマップを見れば──無数の赤点が。
「何か起きているな。バルクス、カスパル。オニキス・リオンの護衛をしつつルトに近づけ。俺は先行する」
「承知いたしました」
「わかりました!」
この広がり様は魔化パンデミックか?
けど曲がりなりにも人工聖石の製造所、ないしは中継地点と思われる場所で魔化パンデミックなんて──。
「戦える者は東のゲートへ行け! 女子供は西の高台まで走れ!」
「クソ、どうなってんだよ! 人工聖石があれば安全なんじゃなかったのか、あの詐欺師共め!」
「人工聖石は結局のところ聖石だ! 魔物は防げない! 今は文句を言うより先に手を動かガッ!?」
魔化パンデミック、じゃなかった。
これは、ただの。
ただの、魔物の襲撃。
犬耳黒髪の女性、少女。裸体を晒す彼女たちが五十から百程ルトの中に入り込んでいて、手当たり次第に人を襲っている。
……それだけじゃないな。襲うだけじゃない。何かを探る、漁る……探している。
「許さんぞ……許さんぞ人間。どこだ、どこに隠した。言え!!」
「ひぃ、ぃいいっ! こ、ころされ──ぁ」
喉を噛み千切られ、絶命する男性。
丁度いいか。
「お前達、ブラックドッグだな? 何を探している?」
「人間──、ッッ!! 皆、気をつけろ! 強いのが来た!!」
「そう気を張る必要はないよ。俺は」
「多分、ワタシは死ぬ! だけど時間は稼ぐ! その内に、あの子達を!」
「任された!」
「必ず!」
……。
なるほど。
「子供達を攫われたか。それも一匹や二匹じゃないな。乱獲……理由は明白か」
「人間──人間──人間──!!」
「つまり、どこかに集められている。詐欺師と言っていたから、販売者がいるな。……こういう時に助かるよなー」
ミニマップを拡大表示して、赤点を見る。
街中に散らばった赤点は、けれど全てがせわしなく動いている。その中から一切動いていない集団を見つけるなんて容易いことで。
「すまんがお前の顎の力じゃ俺の基礎防御力は抜けん。そのまま顎を壊す前に一度話を聞け」
……離してくれそうにない。それ以上行くと顎壊れるぞ。
テイムする……のは、ちょっとな。呪詛スキルで眷属化するのもまた違う気がする。
用途は違うけど、百聞は一見に如かずかね。
噛みつかれたまま移動を開始する。
「攫われてから時間が経っていないのであれば、まだ救えるやもしれん。だがひと月以上だと危ういだろうな」
薬物やスキルを使って自我を破壊する、というのにどれくらいの月日がかかるのかわからない。
魔物はそこそこ頑丈だから、ちょっとやそっとじゃ死なない……からこそどれほどのことをされているかも想像に易い。
人間とは斯うも――と、今入ってきても丸わかりだから後にしろ。あとで相手してやるから。
「ついた。ここだ」
「……この匂いは!」
ブラックドッグが俺の腕から口を離す。
その歯がいくらか欠けているのが見えた。……無理だとわかってくれよ。一ダメも入んないんだよお前じゃ。
鉄の扉に石の壁。他の建物とは強度の違うそれに苦戦するブラックドッグ。
武器を見せると余計警戒されると思って出してなかったんだけど、これ無手で破壊した方が脅威に思われそうだよな。
インベントリから【祝福を受けた木の剣】を取り出して、斬る。テイムの時に使う剣で、斬った相手を回復させる効果がある……けど斬撃自体は普通にくり出されるので、回復よりダメージが勝った場合は普通に傷がつく。
正直奇跡の命剣の方が使い勝手がいいので滅多に使わない武器だけど、見た目が木剣であるというただ一点のみ優れている部分であると言えるだろう。魔物素材でもないしな。
斬る。
鉄の扉を。
駆けだすブラックドッグについて行けば……そこには、鎖や錠で体の至る所を繋がれた少女たちがいた。傷も……凄いな。あらゆるところを。
レジーナのプレゼンじゃ、痛めつけちゃダメとか言ってたと思うんだけどな。傷つけて自我を壊してから癒し、聖水を飲ませて育てる……とかそんなんか。周囲。聖水は見つからない。まぁそれなりに値が張るからな、せめて聖水だけでもと持ち出したか、そもそもここにないか。
「お母さん……?」
「痛い……痛いよ」
「なんで……人間、食べて、ないのに……」
お。
意識がある。なら。
「ああ、ああ! 良かった……今外してやるから、待っていろ!」
「最大主教スキル:完全再生」
「っ! ……?」
完全再生の範囲拡大武器を使う。うわ持ってかれるMPエグ。はいはいエリクシールエリクシール。
「ブラックドッグ。暴れないでいてくれたら拘束を外せる。すまんが錠前がないんでな、力技でやる」
「気をつけろ、コイツは強い! でも大丈夫だ、母が守る!」
話を聞いてくれない……というより、もう憎しみで何も聞こえなくなってんだろうな。
まぁ、範囲での、じゃなければいいだろう。次元スキル:時間停止。
カチン、と固まるブラックドッグ。その光景に騒ぎ出す子供たちの時間も停めていく。
「最大主教スキルに時間停止。……聖騎士スキルを扱えることは知っていたけれど、君の覚えているスキルは果たしてどれくらいあるのだろうね」
「バルクスとカスパルはどうした?」
「二人には街全体を監視してもらっているよ。こういう有事の際、真っ先に逃げ出すのが商人という生き物だ。況してや人工聖石は高価であるようだからね。あるいは隙を見てここに戻ってくる可能性も考えたけれど、君とブラックドッグが共に入って行ったのをどこからか確認したのだろう、少なくとも周囲に人影はいないよ」
「……神官スキルの希薄存在。そんな乱用して大丈夫か?」
「実を言えばそんなに大丈夫じゃないね。私の総魔力はそう多くはない。自然回復速度もね。……と」
「飲んどけ。エリクシールだ」
「ふむ。ヴェルグ、知っているかい? エリクシールは国によっては国宝級のアイテムだと」
「いっぱいある」
「ではありがたく」
ブラックドッグの幼体についた鎖や錠を丁寧に外していく。力業で。
……俺の目には裸の幼女の手足に錠があったり、胴体に鎖が付いているように見えるんだけど……流石に元グラと違うので、割合場所は勘。ブラックドッグの形を思い出して、足に錠があったら後ろ足、手にあったら前足、という風にアタリをつけて外していく。
どうやらこの位置関係の情報は連動しているようで、今んとこ外れなし。
「来てもやれることないだろ。何しに来た?」
「既に人工聖石化している可能性も考えられたからね。君はディスペルを使えないようだし、手が必要かな、と思ったんだ」
「パナケイアがある」
「……それも秘宝クラスのアイテムだね」
「使わないアイテムに何の価値がある。使わずにとっておくくらいなら、使った後に勿体なかったと嘆く方が健康的だよ。尤も俺は、治癒においてのアイテムの損耗を勿体ないとは思わないが」
これで全員解除完了。
地下の類も無し。秘密の通路とかも無さそうだ。
「それで? この後はどうする気かな、ヴェルグ」
「離脱してから時間停止解除でいいだろ。その後は知らん。人間が勝つかブラックドッグが勝つか。そこの生存競争にまで手を出すつもりはないよ」
「なるほど、あくまでターゲットは人工聖石関連のものだけか」
「ああ」
ま、この勢いだとブラックドッグが勝ちそうだけど。ルトにはギルドもないし、戦える奴なんてほんの一握りだろう。
「助けたいか?」
「いいや。私も聖堂の一員。どこか特定の国や団体に手を貸すことはないよ。ただ君の人物評価と報告書の内容が少し変わるだけだ」
「構わない。むしろ誇張して書いてくれてもいいくらいだ。人工聖石関連は……今はこいつらが石化してなかったし、自我も喪っていない様子だったからよかったけど、昨日の中継倉庫のようなことをされていたら」
「問答無用で消し飛ばしに来る、だろう? 念を押すよ。私も聖堂が君の敵に回る事態だけは避けたいからね」
まぁ、聖堂は変人の巣窟なだけでほぼ善人だから大丈夫だとは思うけど。
……転移しよう。時間停止を解除して、あとは自分たちで生きるんだ。
ああでも、決して許さないことをお勧めする。目撃者や被害者が一人でも残れば、お前らが討伐対象になってしまう。
世界の割り込みでもないのに、こういうことを考えている時点で……って悟りは、そろそろくどいかね。
ルト西の高台を避けて、転移。
バルクスとカスパルも俺達を見つけて合流してきた。
「逃げた商人はいたか?」
「NOです、マスター。恐らく避難民の中にいるものかと」
「面倒な……オニキス・リオン。人混みの中から人工聖石の残滓を持つ奴だけを見つけ出せるか?」
「流石に不可能だ。というより、人工聖石の残滓を持つという点に絞るのなら、ルトの住民のほとんどがそうだね。何せ彼らは人工聖石を使っていたのだから」
……。
ん?
「そういえばそうだな。だが、街中で人工聖石を見かけた覚えがない」
「言われてみれば、確かに。ブラックドッグたちが持って帰ったのだろうか」
「えと、街から去るブラックドッグは、まだ一匹も出ていないと思います! 僕たちが来る前だと、わかりませんけど……」
「んじゃどっかに集められたと見るべきか。オニキス・リオン」
「申し訳ないけれどね、それは無理だ。私にできるのは聖気を辿ることだけ。どこに聖石があるか、に関しては──」
「ぼ……僕が、できます!」
ふん、パス出しが上手いな。
これが調和か。俺には無理無理。適材適所だよ。
「堕天使の状態なら、同じ残骸の位置はわかるか」
「はい! 僕を使ってください、
「じゃあ、頼む」
戦士スキル:過集中。
成る。
本当に一瞬だ。一瞬で周囲一帯を聖気が満たし、一瞬でカスパルは全裸美女になる。プロセスとかは観察できそうにないな。過集中でも一瞬だったってことは、フレーム単位で変わってる可能性が高い。グラデーションじゃないって話ね。
「……ありました。でも、散らばっています。動いてはいません」
「んじゃこの地図に印をつけてくれ」
「はい」
荘厳なる黒翼の天使が、地に敷かれた地図にマークをつけて行く。オニキス・リオンからの「もっと格好の付くやり方はないのかね?」みたいな視線を無視。しょーがないだろそういうアイテムなんだから。
「終わりました! これで全部です!」
「召喚士スキル:サモン:カワード」
「……魔素の気配ないけど」
「今共有したマップの箇所にセイントレインしてくれ」
「魔物と……ただの人間? それに、微かだけど聖気……? あまり気が乗らない」
面倒な。
自我が強すぎるのも問題だな。……いや、待て。
事を急くなよ俺。
「すまん、今の無し。戻ってくれていい。ありがとう、気づかせてくれて」
「ん……勝手に啓示と受け取ったのなら、それはいいこと。じゃあ」
自己送還するカワード。
そうだった。危なかった。
まだ自我が残っているケースも考えられるんだ。消し飛ばしたら蘇生はできない。ちゃんと確認するべきだ。
「……私の記憶違いでないのなら」
「全部あってるよ。んじゃ俺は転移で一つ一つ潰してくるから、お前らは見張りを頼む。西の高台と、ルトから逃げ出そうとする奴。ブラックドッグが襲ってきたら上空に逃げな」
返事は聞かない。
カスパルの地図を頼りに転移して……
彼女らを箱から出してパナケイアをふりかければ。
「ぅ……」
「……ぁ」
「……」
「……ダメか」
スーパーノヴァ。
次。
……次。
すべての地点をスーパーノヴァで消し飛ばした後、また元の位置に戻って来た。
「お帰りなさい、マスター」
「ああ」
「……人の業は、とんでもないものを招聘してしまった、というべきだろうね。かける言葉はないよ」
「すまんな、さっき話を切って。俺はそんなに気が長くないんだ」
「いいや、火急の事態において知的好奇心を満たそうとした私の方が謝るべきだよ。そして私達の人間関係などより、キャスパー様が上げた"収穫"の方に興味を持って欲しいものだね」
「収穫?」
言われてカスパルの方を見れば……そこには、目隠しと拘束を受けた三人の男女がいた。
隣にいるカスパルが何かを囁いて、三人が時折コクコクという頷きや首振りを返している。……あれは虚偽開告か? いや、似て非なるものに見える。
「逃げ出そうとした奴らか?」
「
「随分と詳細に聞き出したな。クライアントは?」
「わからなかったです。多分、知らないんだと思います」
「呪詛スキル:眷属。お前達に人工聖石を売った、あるいは作り方を教えたのは誰だ?」
一人の口枷を外し、そう問う。
外した瞬間に何かを叫ぼうとしたソイツは、けれど呪詛スキルの強制力によって阻まれる。
「リチャード……」
「姓は?」
「い……イングリディアナ」
……。
まぁ、家族だから同罪ということはないが。知識の根絶を謳うならレジーナも消すべきなのはそうなんだよな。
リチャード・イングリディアナ。まず、一人目。
「そうか。呪詛スキル:消滅:消滅実行」
「嘘──」
消滅する三人。
自爆の呪いの最上位。消滅の呪い。
……すまんな、ブラックドッグ。お前らの仇を奪った。
「アクラハイルに転移する」
「待て、ヴェルグ。ジハルダの調査は私とキャスパー様が行うよ。何かと顔が利くからね。その間に君とバルクスさんでアクラハイルを調べると良い。聖気は辿れずとも、今のアクラハイルならバルクスさんの機能だけでどうとでもなるだろう。その後ジハルダに来て欲しい。君が来るまでに調査を終わらせておくよ」
「わかった。お前とカスパルをお前の自室に転移させる。その後は自分でなんとかしてくれ」
「勿論だとも。なに、がっかりさせることはないよ」
確かに全貌が見えつつある今ならその方が良いか。
マップ指定での転移を行う。転移際、カスパルとバルクスが何か見つめ合っていたけれど、バチってる感じはなかった。昨夜ホントに仲直りしたってんなら凄いことだな。
「いくぞ」
「はい、マスター」
さて──壊滅したアクラハイルから出てる馬車とは、なんなのか。
ある程度予想は付くけどな。
未だ慣れない転移の感覚に若干の酔いを覚えつつ、リオンとキャスパーは聖堂へと帰って来た。
「キャスパー様。私は報告と準備を整えてきます。その間」
「はい。聖獣と巫女、司教に、声をかけてきます! ……人工聖石。あんな非道が聖堂の付近で製造されているという事実は、あるいは
「人間の不始末をつけていただき、申し訳ないことです。それでは」
身を翻し、踵を返し。
リオンは自室を出る。
「と」
「おわっ……あれっ、リオンお前帰ってたのか!? なんか仕事に嫌気が差して超長期の休暇を取ったって聞いてたんだけど……」
「カイヤナイトか。丁度いい、キャスパー様と共に行動してほしい」
「キャスパー様と? ……っとと、キャスパー様、なんでリオンの部屋から」
「カイヤナイト・マリアンさん。ごめんなさい、今は急を要します。説明は皆さんが集まってからしますから、僕についてきてください」
「……茶化していい雰囲気じゃねーな。承知いたしました、キャスパー様。ご同行いたします」
目配せ。
キャスパーはリオンにそれをして、聖堂の奥の方へ向かう。
普段はふわふわとした、ともすればあどけない、と表現できる雰囲気のキャスパーだが、その立場は最大主教に並ぶ。あるいは上とも言える。
彼の言葉はそれほどに重い、という話だ。
聖堂の奥。神殿の粛清部隊と言わずまでも、実働部隊が揃っている方へ下って行ったキャスパーを見送って、リオンは上……偏屈で偏狭で変人の巣窟である聖堂本部へ。
歩きながら彼は考える。
考えるのは勿論ヴェルグのことだ。
アレは少なくとも人間の味方ではない。
今は敵でもないが、敵になる可能性を秘めている。生存競争に関わらないとは言っていたが、心情は魔物に寄り添っていた。それくらいはわかる。
何よりあの瞳に映る世界は。
バン、と……わざと大きな音を立てて両開きのドアを開ければ、中にいる者達の目が全てリオンを向く。
驚き半分、怪訝二割。
残り三割は……リオンが
「オニキス・リオン。どうした、お前には休暇を」
「サードニクス。下がっておれ。緊急事態かの、
「ええ、あるいは聖堂という存在意義を揺るがしかねないような」
「……第二階位から下の者は全員退室せよ。そしていつでも動けるよう準備をしておくように」
偏屈で偏狭で変人、大いに結構。
けれどそれで時間を取るようではならない。故にオニキス・リオンはその称号を用いる。
その例外である二人の老人の命により、開示権限が第二階位以下の者達が退室する。
残ったのは五人だけ。
「懐かしい面々だ。そう思わないか、オニキス・リオン」
「失礼ながら、スフェーン・ジン。思い出話をするつもりはないよ」
「おっと……第一階位のみを残しても尚その態度か。余程だな。許せ」
「ええ。ジハルダで人工聖石が製造されている痕跡が見つかった。私はこれを由々しき事態だと見ているし、聖堂の管理不足だとも思っている。申し開きがある者はいるかね?」
「人工聖石……帝国が産み出した最悪の造物か」
「申し開きなどあるはずがない。それが本当だと言うのなら、我々は聖獣に頭蓋を砕かれる覚悟をしなければならない」
「情報源の信頼性など今更聞かないけどね、リオンちゃん。それだけじゃ
普段はマトモに話もできない……すぐ脱線する彼ら彼女らが、これほどまでにスムーズな会話をすることに若干の感動を覚えつつ、リオンは話を続ける。
「ヴェルグ。此度人物調査をする対象となった彼もまた、ジハルダに人工聖石の製造の疑いがあると知った。何の対策もしなければ、良くてジハルダ消滅、最悪の場合このヒーズァフロークそのものが消えてなくなるだろうね」
「噂のはぐれ神官か。けれど、物言いはまるで神殿の粛清部隊のようじゃあないか」
「神殿の神を召喚獣として使役していた、と言えばもう少し急いてくれるかな? スフェーン・ジン」
走る激震。
スフェーン・ジンとて知っている。神殿が祀り上げる神。そしてそれを守護するアモルファス聖の強さを。
「天災か、厄難か。オニキス・リオン。彼の逆鱗はどこだろうか」
「魔物だよ。彼は魔物に、人に注ぐのと同じくらいの愛情を持っている。無論溺愛しているというわけではないけれど、彼の目の前で魔物を痛めつけたり、況してや自我を奪い、石化させて道具として使用する、なんてことをすれば──彼はその怒りをしっかりとぶつけてくる。我慢できないわけではないけれど、故意に我慢しないことを選んでいるように見えたかな」
「早急にジハルダの調査を行うぞ。……む? この聖気は……キャスパー様?」
「ああ。此度の話にはキャスパー様も絡んでいてね。今キャスパー様が聖獣や巫女たちに事態を説明している。包み隠さず、全てを、だ」
「それは構わない。隠して意味のあることではないし、咎はここにいる全員が受けて然るべきものだ。だが、何故キャスパー様はヴェルグなる者に協力している?」
「彼が
またも彼に走る激震。先程の震度よりも大きい。
先程のが最大だと思ったのだけどね、なんて心内で笑うリオン。
「そうか、スフェーン・ジン。お前はあの時いなかったのだったな」
「そんな重要事項は俺が起きて来てすぐに報告をしてくれ……。
「こらこら、スフェーンちゃん。ヴェルグちゃんは魔物を愛しているんだろう? 人工聖石自体は最悪の象徴だけれど、愚物なんて言ったら怒るんじゃないかい?」
「ルチル・メイアー。彼はそこまで短慮ではないし、狭量ではないよ。ただ、言葉に気を付けた方が良いのは事実だろう。彼自身も言っていることだけど、気は長くないからね」
「そのはぐれ神官……
「アクラハイルだ。私達が見つけた痕跡から割り出した製造元、あるいは中継地点はルト、アラダ、ジハルダ、アクラハイルの四つ。内ルトは既に調査済みで、人工聖石を売っていた商人は魔法スキルのスーパーノヴァと呪詛スキルの消滅の呪いで跡形もなく消え去ったよ」
ふむ、と。
この場で最も高い地位を持つ老人が口を開く。
「
「理不尽。暴力。厄難。言い表す言葉は星の数ほどあるが、総評とするのならば"天候"だ。穏やかな時は晴れ渡るほどだし、荒々しい時は破壊の限りを尽くす。彼を見ていると、彼の中にたくさんの人格があるかのように感じられるけれど、それは違う。ただ違う空模様を見せているに過ぎない。そして、だからこそ」
「天候を変えるには祈るしかない。天候からの害を減らすのならば迅速に行動するしかない。成程、言い得て妙じゃな」
「話は以上だ。各自己にできることをしてほしい。私はこれからキャスパー様たちとジハルダに降りるからね」
「ならばそちらは任せた。俺は他の聖堂関係地域に人工聖石製造に関与している者がいないか洗っておこう」
「ふふふ、なら私は聖堂内のお掃除をしておきましょうかね」
「聖堂全体への触れは儂らが出そう。ヘリオトロープ・アラン」
「わかっている。全世界に対し聖堂の姿勢を表明する」
「いや、それは止めた方が良いね。人工聖石の存在を知らない国もまだ多い。ヴェルグが望んでいるのは知識の根絶……存在自体を知る者が少ないに越したことはない」
「知識の根絶……オニキス・リオン。ざっと計算して何人死ぬ?」
「さてね。それこそ空模様次第だろう。彼がどこまでを許すのか、許さないのか。未だ私も彼を推し量り切ったとは言えない状態だ。もう少し観察が必要だよ」
あるいは、「知識の根絶」という概念が生まれている以上は──それとも、なんて。
リオンは心の中で舌を出す。
さて、慌ただしく動き始めた聖堂。
その中心点に居ながら、リオンは気負う様子を見せない。
目立つ称号は付け替えて、キャスパーのところへ向かう。
「迫る嵐に対して、どこまで粘れるかな、人類は。……けれどここは、自ら嵐に突っ込むべきだろうね。それはあるいは、美しいものを見る唯一の手段となるのだろうから」
そう、呟いて。