※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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本能の叫び(G度薄め)

 アクラハイル。

 神殿の封鎖がなくなったそこは、もうただの「穴」でしかなかった。

 何の──何の建造物も、文明も無い穴。何もない穴。

 

 その穴の中で、底で、こそこそと動く影。

 

「げっへっへ、生まれてこの方魔物には恨みしかなかったが、まさかこいつらが金になるとはな」

「兄弟、俺もだ。見てくれよこの小指。昔噛み千切られて以来剣も持てなくなっちまって」

「そこ! 無駄口を叩くな! 早く運べ!」

「へーい」

「大親分、そう怒んなって~」

 

 それは十から二十の男達だった。

 彼らがやっていること。それは──。

 

「興味が無い」

 

 全てが暴風によって斬り捨てられる。あらゆるものが。

 指示していた男も、働いていた男達も、少しばかりの休息を入れていた男達も。

 

 嵐の過ぎ去った後に残るのは、石化した魔物たちだけ。

 揺らめく虹霓の液体が魔物に振りかけられるも、そこから逃げ出そうとする者は一体もいない。

 

 光が満ちて。

 

 

 

 

 ジハルダという言葉は国や街の名前ではなく、ヒーズァフロークの麓にある、という意味でしかない。この街に自治機能はなく、ヒーズァフロークに勤める聖堂関係者の家族や信者がいるばかりだ。

 故に、この場における悪事や謀り事というのはそのほとんどが「身内の不始末」になる。

 神殿程の縛りはないにしても、聖堂は聖堂のやり方を周知させている。そこで此度のことが起きたのだ。

 

 オニキス・リオンにとってジハルダは「勤務地の下にある街」程度の関心でしかないが、それでもそこを「身内」だと認識する程度には住民たちとの交流がある自負があった。あるいは「聖堂関係者」と呼ばれる者達の全てがそうだろう。

 だから理念も同じだと──「人工聖石は最悪の造物である」という認識は根付いているものだと思い込んでいた。

 

「此度仇になったのはその思い込み。そして隙の甘さかな。聖堂は考えを改めるべきだろう。余所者を受け入れるばかりが治世ではないとね」

「リオンさん……なんでだ。人工聖石は人類の未来を切り開くための第一歩だろう! 魔素に対抗する手段のない一般人でも魔素から身を守れる画期的な──」

「ならお前がなるか? 人類の為にその身をもって魔素を退ける礎に」

「……っ、マリアンさん。俺は今リオンさんと話してんだ。それにこれは人工聖石の話で」

「だから、お前もなれるんだって。お前のガキでもいいぞ。聖水飲んで身体に浸透させて、石化すりゃ……普通の魔物より楽に大量の人工聖石が作れる。人類の為にって抵抗しねーんだからな」

「はぁっ!? ……狂ってる。それは人間と魔物が同じだって言ってるようなものじゃないですか!」

「そうだ、つってんだよ。ったく、教育はどうなってんだ。ジハルダに住む時点で経典は全て読むはずだろ」

「カイヤナイト・マリアン。それは仕方のないことだよ。人というのは、自らの興味がある書物と、形式として読まされたものへの記憶力に差が出る。凡そ七割減と言ったところかな」

 

 今、リオンやマリアンら聖堂の神官の前に、ずらりと人間が並んでいる。

 並ばされている、というべきだ。彼らは手足と胴を縛られ、ここに連れて来られた。その中にはリオンやマリアンの知り合いも多くいたし、神官の家族もいた。

 

 人工聖石の製造、販売。

 それらに関わっていたすべての者達。

 

「曰く。かつてこの地にあった生命は"動物"だけであった。その内の一部が人となり、それ以外が魔物とされた。二つはただ機能が違うというだけの同一根源の生命であり、等しく"宙から降り立ったモノ"に対抗せんとする被害者である。……神殿や教会には別の教義があるけれどね、少なくとも聖堂の経典にはこう書かれているよ」

 

 そしてそれは、聖獣も同じ。

 聖獣──聖気を身に宿す魔物。高い知性を持ち、人語を解す。人語でない物も解すほどの知能は、けれど人々を諭した。

 我々は等しく同一である、と。

 

「魔物と人は良き隣人でなければならない。私達は魔物を狩ってそれを衣服や食事にするし、魔物は復讐したり侵略したりして自身の縄張りを確保する。やっていることは同じだよ」

「人工聖石。それを造ったり販売したりする愚かさがわかるか? 人道を説けるか?」

「──じゃあ、大人しく魔素の恐怖に怯えろってのかよ! お前らは良いさ、神官の適性がある。それがありゃ身を守れる! 簡単に! だが俺達は」

「神官スキル:隔断」

 

 突然リオンがスキルを使う。遮断結界よりも上位の結界。高い防御性能を持つそれは、けれど宙から降りて来た者によってバラバラに砕き割られた。

 

「な、んだぁ!?」

「早かったね、ヴェルグ。こちらも全て終わっているよ。ただ、裁きを下すのは私達にやらせてくれないかな。天災に呑まれたのでは、人々はそれを罰だと認識しないからね」

 

 リオンの張った結界など意にも介さぬ様子で剣を振り下ろしていたヴェルグ。その剣が止まる。本当にギリギリ──先ほどまでリオン達に文句を言っていた男の頭頂で。

 その瞳は──ああ、ぞっとするほどに冷たい。感情はないに等しいのに、その視線を向けられたら聖獣でさえも身を竦めてしまうだろうほどに、暗い。

 

「裁くか。……オニキス・リオン。それは反省を促し、生かすという認識でいいか?」

「さてね。私に裁きの権限はないよ。ただ、全てを殺すだけでは見せしめにはならないという話さ。竜巻の注意報が出たとして、それをどのようにして避ければいいか、どのような対応をすればいいかなどわからないだろう?」

「オニキス・リオン。俺はお前を信用している。だから問うておく。──その言葉に善意は含まれているか」

「一滴も」

 

 そうか、と。

 剣を戻すヴェルグ。

 

「人工聖石はどこに?」

「すべてディスペルして、今は聖獣様たちが診ているよ。どうにかして薬物やスキルを除去できないか試みるとの話だ」

「……オニキス・リオン。アクラハイルという残骸を隠れ蓑にしていた人間は、その全てが消えた。対応を間違えることだけはやめてくれ。あるいは俺は、この剣をお前達に」

「は、ははは! ははははっ! なんだ、なんだそういうことか! 神官、アンタらコイツが怖くてコイツの指示に従ってんだろ! 結局神官も人間だ、命は惜しいよなあ! こんな奴に脅されたら俺達くらい切り捨てるか! ははははっ! 何が経典だ、何が聖堂だ! 結局お前らも俺達と変わらねえ、どうせ人工聖石にだって何も思っちゃいねえんだろ! こいつが何も言わなきゃ黙認してたんだろ! ははははっ!」

 

 ヴェルグは剣を振らない。激情に駆られることはない。

 どころか──聞こえてすらいないかのように、言葉を続ける。

 

「向けることはしたくない。聖堂の神官が善人であることを俺は知っている。善人を斬るのは避けたい。──だが、できないことは言わない主義でな。情に流されたのなら、俺はお前達を斬るよ」

「わかっているとも。ああ、キャスパー様は聖獣様達のところにいるよ。アラダに行く前に会って行ってあげてほしいかな」

「何言ってんだ。お前も行くんだよ。カスパルとバルクスだけじゃ聖気の痕跡を辿り切るのは難しいからな。処理を終わらせたら来い。それを待つくらいの気の長さはあるよ、俺は」

「承知した。それではね、ヴェルグ。君の寛容さに感謝するよ」

「受け入れた覚えは欠片も無いがな」

 

 消える。

 素早く移動したのではなく転移したのだ。リオンはやれやれ、と肩を竦める。ロストテクノロジーだと何度も言ったはずなのだけどね、と。

 

「……リオン。今のが再臨した最も偉大なる者(アジン・カリン)か?」

「もっと恐ろしいものだよ。ただ、言葉は通じるからね。誠意を以て対応すれば、誠意で返してくれる。祈りの通じる雨模様に、畏敬の念を抱かないことなどないだろう?」

「おい、無視すんじゃねえ! アンタらには失望したよ、結局強い奴にこびへつらうしかできねえんだって──」

「さて。今ここに捕らえられている君達に聞こう。君達もこの彼と同意見かな?」

「わ、私は違います! 魔物と人間が同じだと知って、心を改めました! なんと愚かなことをしてしまったのだと心より反省しております!」

「儂もじゃ。……儂らはあまりにも愚かなことをした。この罪は償っても償いきれんじゃろう」

「神官様、ああ、私達は貴方達への感謝を忘れたことなど一度もありません! ですから、どうか」

「ふむ。では彼に倣うとしよう。神官スキル:虚偽開告」

「クソが、どうにか隙を見つけ出して逃げ出してやる……元から聖堂なんかどうだっていいんだ。ここで得たノウハウを使えば」

「今は頭を下げておけばいい、今は頭を下げておけばいい! 野心なんか出さなきゃ敬虔な信徒になれる!」

「折角金が入ったんだ、ジハルダでのつまらねえ生活なんか捨てて、王国にでも引っ越せば……!」

「神官スキル:遮断」

 

 結界を使い、彼らを隔離したのはリオン……ではなく、マリアンだった。

 彼女は心底冷たい目で真白の結界を睨みつける。

 

「おや、私が使ってもよかったのだけれどね」

「お前はさっきの結界で魔力使い果たしてんだろ。……はぁ。クソ、私達が守って来たものの末路がこれとは、情けねぇ」

「小を見て大を判断するべきではないよ、カイヤナイト・マリアン。事実、そうではない住民たちも多くいる。自ら人工聖石の使用を拒んだ信徒もいたくらいだ。ただ」

 

 ただ。

 リオン。オニキス・リオンは知っている。彼らが悪人であると。

 だから──改心などしないし、彼らを罪に問わずとも「そうしなかった善人」は変わらず「そうしない」のだということを。

 

「……いや、判議会の一員である私がこれ以上"行く末"に関わるべきではないね。カイヤナイト・マリアン。この場を君に任せるよ。あとから来るご老人たちにしっかりと伝えて欲しい」

「慈悲は要らない、だろ? 上も重々承知だろうけど、わかってる。何より私自身が許せないからな」

「では私はヴェルグのところへ行って来よう。もう少しばかりの休暇を貰うことになる。なに、あの嵐を見るに、事は一瞬で片付きそうだけれどね」

 

 マリアンと違って、リオンは失望などしない。

 そこまでの期待を持っていない。人類とは一部がそうで、一部がそうではないものだと知っている。

 

 果たしてそこに己や彼が入るのかどうかは──。

 

「早く行かないと、今度は巫女たちが自信を無くしてしまいそうだね」

 

 そんなことを呟きながら、リオンは歩を早めるのだった。

 

 

 

 

 カスパルの元に降り立つ。

 

「あ、最も偉大なる者(アジン・カリン)!」

「聖獣が今魔物たちのケアをしていると聞いた。手伝えることはあるか?」

「……ごめんなさい。でも、僕に聞くより、聖獣に直接聞いた方が良いと思います。僕や巫女ではわからないニュアンスも、最も偉大なる者(アジン・カリン)ならわかると思いますから」

「成程。そうする」

「あの、その……バルクスさんは?」

「アラダに先行させている。アクラハイルで見つかった資料にかかれた名前はリチャード・イングリディアナに留まらなくてな。アイツの見た目は人間とそう変わらないから、人捜しにうってつけだ。ああ、心配はない。最終決定をどうするかは未定だが、本人の希望で従属の呪いだけはかけた。バイタル情報は常に監視できる」

 

 コンパクトサイズになったとはいえバルクスは終末防衛機構。生半の相手には……というか大体の人間には負けないだろうし。ネームド以外は、だけど。

 だからあくまで人捜しで、戦闘に発展しそうになったら空に逃げろと伝えてある。

 

「聖獣は……アレか」

 

 人皮の上に寝かされている多種多様な少女たち。

 それらを熱心に見る美女が三名。全員パピルサグと同じような修道服を着ているけれど、時折見える中身は全裸。シリアスシーンでそれやめてくれないかなホント。

 

 何か言いたげなカスパルから離れ、そこへ向かう。

 巫女、かな。多分そうだろう少女や女性が俺を止めにかかるけれど、見たことのあるネームド神官たちが彼女らを止めた。目配せで促される。

 ふぅん。成程、オニキス・リオンがジハルダに先に戻ると言ったのは俺の特性を伝えるためでもあったか。

 

「人間……? いや、精霊力からして……」

「すまん、俺の詮索は後回しにしてくれ。俺の目的はこいつらを助けることにある。今何に困って治療が進んでいないのか教えてくれ。この世に存在するものであれば、ほとんどのアイテムを有している自信がある」

「言葉が……いや、いい。……体内に残っていた薬物は除去したし、それに冒された組織も除染した。けど、精神が戻ってきていない。世界に還っている様子はないのに、自我が戻らない」

「問う。お前の感覚でいい。それは"どこかへ行っている"という感じか? それとも壊されているか?」

「"どこかへ行っている"、だな」

「聖騎士スキル:葬列の花畑」

 

 瞬時に周囲を花畑が覆う。幻覚に近いそれらは、けれど彼女らも聖獣。目を見開いて、そして今抱いている魔物や寝かされている魔物に目をやった。

 伸びる糸は。

 

「地下……? 宙じゃないのか」

「聖獣スキル:水先案内」

 

 聖獣スキル、なんてあんのか。

 知らんかったよソレ。

 

 そして……そいつが使ったスキルにより、葬列の花畑で可視化された糸が輝きを持つ。その光は少しずつ糸を辿って行き、地面に潜っても尚光を見せ続ける。

 けれど──途中で見えなくなった。

 

「この近辺に地下空洞はあるか?」

「無いはずだ」

「そうか。魔法スキル:クレイランス」

 

 地面の土を槍の形状にして撃ち出す魔法スキル。

 それを用いて、細く深い穴を造る。槍は空中で停めてから解除。

 

「すまんがそのスキル維持しててくれ。魔力が足りないなら今エリクシールをやる」

「この程度なら半日は保つ。……だが人間、その先は物質的な空間ではないぞ」

「わかってる。発動、苦闇のお香」

 

 魔化した人間を人間に戻す時に使う手法。

 それと同じ奴で行けるかと思ってのアイテム使用は──しかし。

 

 ……無い。いや、前と同じ樹木は見えるし、こっちに全力で向かってきている黒無常は見えるけど、水先案内とかいうスキルで光を持っているはずの糸はない。

 ここは人間専用か。

 黒無常の相手をしている暇はないので光心のお香で現世に戻る。

 

「聖獣」

「ガルーダだ。人間、お前は生死を操れるのか?」

「ヴェルグ。ある程度は操れる。そんなことより聞きたいことがある。ガルーダ、お前達聖獣は生まれる前から意識を持っていると聞く。その意識はどこにある? ……ああ、言葉を違えた。その意識がある空間はどこだ。名称などはあるか?」

「いや……すまない、暗く、暖かい、洞窟のような場所である……というのはわかるが、名称は」

 

 暗く暖かい洞窟のような場所。

 ……心当たりはあるが、今行ける場所かというと微妙だな。俺が故意に顔を出せる場所じゃない。

 

「ふむ。そうだな……ガルーダ。お前らにとって方石とはどういう存在だ?」

 

 方石。聖獣とされる魔物のドロップアイテム。

 インベントリの中での方石は心臓の形をしている、とかではなく、真っ白いキューブのグラフィック。特に気にしてなかったけど、そういえばレジーナに与えた魔素とそれを完璧に封じた半透明の物質も人体になってなかったな。

 これらはなんだ。アダルトMODに染まっていないということは、フェンリルの尾に同じく人体には無いものなのだろう。

 

「……お前は何者だ、ヴェルグ。その存在を知るには──聖獣を殺す必要がある。誰を殺した」

「頼む、詮索は後にしてくれ。俺はこいつらを助けた後、元凶の研究者を殺しに行かなきゃならん」

「……。……わかった。方石は私達の源だ。聖獣と魔物の違いは、この方石の有無。方石は聖気を内包し、私達に知性を与える。性質としては聖石に似て非なるものだが、聖石は天使の残骸で、方石は天使の成り損ない、とでもいうべきものだろう」

「……」

「何か糸口が見つかったか?」

 

 方石。天使の成り損ない。暗く暖かい洞窟のような場所。地下に向かって伸びる糸筋。

 あと一つ。何か足りない。

 答えを導くためのピースが一つ足りない。

 

 

「昨日話したことを覚えているかな、ヴェルグ。聖堂と聖獣が過去に交わした契約の話だよ」

 

 

 波の収まってきていた水面に、一石が投じられる。

 オニキス・リオン。だがこいつは。

 

「聖獣様の言葉は聞こえないとも。残念ながら私の耳には唸り声にしか聞こえない。けれど万象との会話ができる君だ。聖獣様の言葉をスキルを介すことなく聞き届け、尚も悩んでいると見た。であれば聖獣様からも出せないようなアイデア……それが当たり前だと思っているものを、私から提示するべきだと考えたんだよ」

「……が、すまん。期待されてるところ申し訳ないが、方石と会話できるわけじゃない」

「方石なるものの存在を今知った私からすればなんのことやらだけど、私が言っているのは万象と会話できる君の特性の話ではないよ、ヴェルグ。聖獣様にとって当たり前になっていることで、君が思い至ることがないものについてだ」

 

 聖獣にとって当たり前で、俺が思い至らないもの。 

 それは。

 

「それじゃあ、私が問おうか。聖獣ガルーダ様。あなたの使用できるスキルの種類を教えて欲しい」

「聖獣スキルと一部の天使スキル、そして交信スキルだ」

「……ううん、やはり私が聞いても言葉には聞こえないね。……けれどヴェルグ。君の顔を見るに、何かが繋がったのかな?」

 

 そうだ。俺は俺の知っているスキルにばかり気を取られがちだ。

 今さっきだって聖獣スキルというものがあると知ったのに、何故それを深掘りしなかった。使用者であるガルーダが既に試したと思い込んだから──なんて言い訳だろう。

 "NPCにそれ以上はない"という先入観が期待をしなかっただけだ。

 

「ガルーダ。お前の持っているスキルの中に"遠隔で他者を操る"類のものはないか?」

「交信スキル:理元操作がある。……だが、これは操作対象が覚えているスキルを使わせることくらいしかできないぞ?」

「それは"遠隔でアイテムを使わせる"も可能か?」

「恐らくは。ふむ、今やってみるか。交信スキル:理元操作:シャプタインの錫杖を掲げろ」

 

 ガルーダの視線の先で、神官に止められていた巫女の一人がその手に持つ錫杖を掲げた。

 行けそうだな。

 

「今から俺とその魔物がこの場から消える。消えたらすぐにこの魔物にスキルを使ってくれ。操作内容は二つ。一つはアイテム【疑念の塑像】の使用。二つ目が【トゥルー・トゥース】だ。ただしトゥルー・トゥースの使用は疑念の塑像使用から十秒後にやってほしい」

「どちらも知らないものだが……」

「知らないと使わせられないか?」

「知っていた方が事故が少ない」

 

 なら、と。疑念の塑像とトゥルー・トゥースを見せる。前者は「?」の形になっている粘土で、後者はサメの歯の首飾りみたいなもの……のはずなんだけど、ヒトの歯になってるな。これはアダルトMODの弊害だけど、これくらいならまだ許容できる。

 

「……記憶した。使用するとは、具体的にどういうことをする?」

「心を込める、念じる、みたいな感じだ。スキルを使うような感覚で良い」

「ふむ。まぁやってみるか」

 

 オーケー。

 丁重に自我の無い魔物を……全裸の少女を預かり、ガルーダから少し離れる。

 そして使うは虚数スキル:繰り込み。

 

 すぐさま少女が疑念の塑像を使用する。虚数空間にまで届くスキルなあたり、交信スキルも天使スキルの派生クサいな。

 クエスチョンマークをしていた粘土がぐにゃぐにゃと形を変えて──少女と同じ形を取る。

 もたもたしてはいられない。俺が持つ少女と疑念の塑像の少女、それぞれに奇術師スキル:コンフュージョンデュアルを使用。トゥルー・トゥースが使用され、幻術が実体を得る。

 

「え……あれ、私」

「召喚士スキル:テイムモンスター:フィニーボア」

「!?」

 

 トゥルー・トゥースは一時的に幻術……幻惑系スキルで出てくる幻に実体を持たせるアイテムだけど、効果時間はかなり短い。故にこれが成立している間に魔物の精神……あるいは魂に眷属の呪いをかけて、また夢幻に戻ってもらう。

 俺の周囲のセピア色も収束していく。

 気付けば元の位置にまで戻っていて。

 

「……成功だ」

「何だ……? 今の十秒間、お前という存在自体が世界から消えていたように感じたが、何をした?」

「召喚士スキル:サモン:フィニーボア」

 

 俺が抱いている魔物のしたに陣ができる。眼前にもまた同じ陣。

 抱いている少女が陣の中に沈んで行き、そして眼前に開いた陣からその少女が出てくる。

 

 ただし──。

 

「あ、あれ……私……なんで」

「召喚士スキル:リリース:フィニーボア」

「あうっ……う?」

 

 出てきた少女にはちゃんと自我がある。

 大成功、だ。

 

「ガルーダ、すまん。説明はオニキス・リオンにする。疑念は尽きないだろうが、今はこいつらの治癒に努めて欲しい」

「やれやれ、私は聖獣様とは話せないのだけれどね。巫女キティ、ガルーダ様との通訳を山ほど頼むことになるだろうから、覚悟をしておいて欲しい」

「へ、ぁ、はい!」

「……良いだろう。私達とてこの子たちをそのままにしておくのは心苦しい。サムパーティ、治癒された子らを出来得る限り元の棲み処へ帰してやってくれ」

「構わないが、ガルーダ。気をつけろ。その人間……何かおかしいぞ」

「少なくとも今味方である事以外必要な情報じゃないだろう」

「ふん、それもそうだな」

 

 聖獣同士の会話。

 この場で聞ける奴俺だけか。面と向かっておかしいって言われたってより、聞こえてないと思ってんのかね。どうでもいいけど。

 

「よし、では次をやろう」

「ああ」

 

 

 その後、ガルーダと共に治療を行った魔物の内、凡そ半数の魔物の自我を取り戻すことができた。

 残りの半数は、糸が切れていて打つ手なし。その後の処理は彼女らに任せることとなった。魔物のことは魔物が一番わかるだろうしな。

 

 

 

 して。

 改めて学術都市アラダへ向かっている。

 

「こうして徒歩を選択したということは、何をしたのか聞かせてくれる……ということで良いのかな、ヴェルグ」

「ああ。ガルーダへ説明しなきゃならんだろうしな」

最も偉大なる者(アジン・カリン)、オニキスさん。周囲の警戒は任せてください!」

 

 何をしたのか。

 

「まず、疑念の塑像というアイテムがある。これは使用すると自分になる。自分の粘土細工になる」

「ダツラの塔で手に入るアイテムだね?」

「おおよく知ってんな。そうだ。んじゃトゥルー・トゥースもわかるのか?」

「いいや、そちらは知らないな。何かの魔物の歯だとは思うけれど」

「魔族大陸に"内陸の海"と呼ばれる塩水の湖があってな。そこに住んでいるトゥルー・シャークという魔物の歯だ。トゥルー・シャークは単体ではそこまで強くない魔物なんだが、強力な幻惑スキルを使う上に、種族特性でその幻術を一瞬だけ実体にできる。魔物でありながら魔族大陸で生き残っていられる理由がそれだ。幻術は魔素に冒されないからな」

 

 で、その種族特性を借り受けられるのがトゥルー・トゥース。

 

「虚数スキルについての理解は?」

「無いね。存在すること自体は知っているけれど、取得方法も使用者を見たこともない」

「まぁ使ったやつは例外なく虚数空間に行くから見れんのは仕方ない。とにかく、このスキルは使うと虚数空間という……んー、まぁ世界の外側みたいな場所に行くんだ。そこは何もない場所であり、あらゆるものの影響を受けない。当然、世界との繋がりがあれば、その存在は浮き彫りとなる」

「葬列の花畑……と言っていたかな、先ほどのスキルは」

「そうだ。肉体と魂を繋ぐ糸を可視化するスキル。本来聖騎士スキルは世界由来のスキルだから、虚数スキルで世界の外に出てしまうと消えてしまうか見えなくなってしまうんだけど、聖獣が有していた交信スキルが天使スキルの派生だったからな、俺の目にはその繋がりが消えることなく見え続けていた」

 

 なんで虚数スキルが天使スキルと相性悪いのかは……まぁまた今度で。

 さて、ここまでくれば後は簡単。

 

 疑念の塑像で自分自身を造った自我の無い魔物は、コンフュージョンデュアルで自身の精神の複製をつくられる。そしてそれをトゥルー・トゥースが実体化することで、システムとして魔物のテイムが可能になる。

 テイムした魔物は、けれどトゥルー・トゥースの効果時間切れで夢幻となって消えるけれど、テイムした事実は変わらない。

 

「後は戻って召喚し直してやれば、そいつの魂がどこにいようと肉体と魂を強制的に引っ張り出してのサモンが成立するって感じだ。んでリリースでフィニッシュ」

 

 方石が天使の成り損ないであることと、暗く暖かい洞窟のような場所から連想されるのは、召喚獣の待機空間。思うに聖獣たちは、生まれ出でるその前段階において召喚獣の待機空間と似たような場所に安置されているのだと思う。そこなら聖気が満ち溢れていてもおかしくないから。

 ある意味であそこは完全に独立した安全な空間だ。魔素が入ってくることもなければ、外敵が来ることもない。召喚士に呼ばれない限り出て行けない、という点だけがネックな浄土と言える。

 

 んで、その召喚獣の待機空間がどこにあるのかを考えた時、そういえば召喚獣って必ず地面の陣から出てくるよなぁ、ってのに思い至った。地下に伸びる糸筋はそこを指し示していたんだと思う。

 

「つまり、魔物たちの自我が戻らなかったのは、テイムされていたことが原因だったんだよ。最初にテイムされて、その後薬物やスキルにより自我を封印された。その際に自我が壊れてしまった奴もいれば、生存本能だろうな、魂だけを自己送還して難を逃れた奴らもいた。肉体は現世にあるのに魂だけが待機空間にあるという異常事態への対処方法は、力業で魔物たちをテイムの呪縛から解き放ち、またも力業でテイムし直して現世に召喚し直すこと、と。そう相成ったわけだ」

「説明に骨が折れそうだ、ということは理解したよ」

「一を聞いて十を理解する奴が何言ってんだか。説明は全部任せた。巫女の存在意義を奪うわけにはいかないからな」

「とうとう君まで私に雑用を投げつけるようになったか……。私の休暇申請はこれからもまた蹴られ続けるのだろうね」

 

 ああ。

 やっぱりお前の休暇申請が通らないのって、色々ワンオペだからなんだな。

 誰だって有能な奴には休んでほしくないってね。

 

 さて……バルクスは上手くやっているかな。

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