アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
学術都市アラダ。
剣と魔法のファンタジーわい! ってなるようなビルの立ち並ぶ異様な都市。それはある意味で、前文明の遺産を隅から隅まで再利用し尽くした結果ともいえる。
バルクスやトラーヴァを造れるような文明の持ち主たちの遺した遺産は、アラダの人々に智を与え尽くした。ただ、それでも人々は魔素に怯えなければならない。その研究も日夜進められているけれど、そちらは遅々としている。
魔素。魔化。
人が突然魔族になる現象は何としてでも解き明かさねばならず──だからこそ、心苦しさはある。
「警備員と警備システムはどうした。警報すら鳴らないとは」
「すべて斬り伏せた。今この建物にいるのはお前だけだよ、アマネ・クラリッサ」
「……野蛮人め。自分が何をしているのか理解しているのか? この研究棟は対魔素研究の最前線にある。ここを破壊するということは、人類の歩みを止めることに等しい」
「知ってる。だから心苦しいとは思っている」
「野蛮人ではなく狂人の類か。……いや、これが世界の意思とでも言う奴か? だが、人類は負けないぞ。私達はいずれ魔素を打倒する。この世を聖気で満たし、魔素を一片残らずこの惑星から消し去ってみせる」
「……」
その目に揺るぎはない。
その意思に翳りはない。
アクラハイルやジハルダにいた金儲け野郎とは違う、純粋に人類を想う意志。
「俺は人工聖石の研究者を殺しに来たんだよ、アマネ・クラリッサ。学術都市の人間なら知っているだろう。人間と魔物に違いなどないことを」
「当然だ。けれど人間は知恵を得た。魔物を狩って衣服を作り、住居を作り、生活を彩った。お前はこう言いたいのだろう。それがどんなに人道に背くことか、と。だが、人を運ぶために育てられたリーディーホースは動けなくなれば食肉として加工される。聖石となるために育てられ、聖石として一生を終える魔物。この二つに何の違いがある!」
「一生を終えないからだよ」
ごもっとも、だ。
衣服に、装備に、食事に。
この世界ではあらゆるところに魔物が使われている。それと何が違うと言われたら、結局のところ何も違わないと答えるのだろう。
ただ一点、意識が残り続けるという部分を除いて。
「人工聖石となった魔物が死していたら。その魂が世界に還っていたら、俺はここまでの忌避を出さなかっただろう。だけど、人工聖石は生きている」
「育成時点で死んでいるに等しい。彼らに"石化していること"を苦痛に思う心は存在しない」
ああ、そうなのかもしれない。
あの小屋にいた人工聖石となった魔物たちや、ルトの魔物たち。パナケイアをかけられて尚意識を取り戻さなかった彼女らは、石であることを苦には思わないのだろう。思う心さえも奪われてしまったから。
「死んでいるに等しいことと、死んでいることは違う。その違いがわからない以上、この話は平行線だ」
「……そうらしい。だが、知識は絶えない。私が死んでも、いずれ誰かが希望の道を切り開くだろう。そして、それはあるいは、魔物にも恩恵を齎す。私達は同じ魔素の被害者だ。私達は世界に──」
パシュン、と。
サイレンサーみたいな音が聞こえた。
……倒れるアマネ・クラリッサ。
続け様に俺の頭にもソレが当たる。ノーダメ。窓に小さな穴。雲散霧消した風属性の魔力。
暗殺……けど、なんで?
アマネ・クラリッサから情報が漏れることを恐れたのか? だとしたら阿呆すぎるが。
「神官スキル:死者蘇生」
「──ッ!?」
「そのまま伏せていろ、アマネ・クラリッサ。今お前は狙撃を受けた。心当たりは?」
「狙撃……いや、心当たりなどあるはずがない。私は……確かに魔物たちには恨まれているだろうが、人に恨まれることをしてきたつもりはない」
「神官スキル:虚偽開告」
「……」
表裏無しか。
はぁ。
「リチャード・イングリディアナ。奴はどこにいる?」
「イングリディアナ殿ならば、中央の学術院にいるはずだ。……っ!?」
「そうか。じゃあな、アマネ・クラリッサ。呪詛スキル:消滅:消滅実行」
「待──」
消滅するアマネ・クラリッサ。
……やっぱり、こんなにも……動かないか、心。
中央、ね。
そこは、想像していた空間とはかなり違った。
てっきり石化した魔物で溢れかえっているものだとばかり思っていたのに──これは。
「リチャード・イングリディアナだな」
「……おっと、これはこれは。侵入者かネ?」
今気づいた、と言わんばかりに。
その手を、止める。
「如何にも僕はリチャード・イングリディアナだ。それで、何用かネ?」
「人工聖石の研究、製造を行うものを皆殺しにして回ってる。とりあえずお前で最後だ」
「ふむふむ。君は人工聖石が許せないと。つまりそういうことであっているかネ」
「ああ」
「ではこれらを見て君は何を思う?」
これら。
──リチャード・イングリディアナの周囲。
様々なポーズで石化している女性たち。けれどこれは──魔物、じゃない。
「特に何も」
「それはおかしな話だ。彼女らも人工聖石だよ。人工聖石の発表から一か月間、飲食から湯あみ、就寝時。その全てで聖水を取り込み続け、浴び続けた女性たち。それを石化したものだ。帝国の研究院は随分とあくどい言葉を吐いていたけれど、こうして志願者を募って自らの意思で石化を選んだ者達を使った方が人道的だと思わないかネ?」
「……志願者?」
「そう! ここにいる女性たちはネ、自ら聖石になることを望んだのサ。それが人類の為になると知ってネ。帝国研究院の発表したやり方において、魔物にストレスを与えると聖石化が起こらないのは、当然のように聖石化することを魔物が拒むからダ。けれどネ、自ら聖石にならんとする意思があれば、成体となっていても、そしてたった一か月間でも、体組織に染み渡った聖気を聖石として発揮することができるようになるんダ」
「どうせ洗脳なりなんなりをしたんだろう?」
「まさカ! そんな非道はしないヨ、僕は。なんなら今石化を解いてもいいヨ。あるいは僕の嘘を暴くスキルを使ってくれてもいイ。僕は人類の叡智に誓って、人道に背くことはしていないと胸を張れるヨ」
……奇術師スキル:コンフュージョンデュアル。
石化した女性の一人の精神をはじき出す。リチャード・イングリディアナは「ワオ!」なんて言っているけれど、焦ったり逃げようとしたりする素振りはない。
「む……む? おや、リチャード殿。なぜ私の石化を解いたのですか?」
「解いてないヨ。隣を見なよ。君がいるヨ。ちゃんと君の指定通りのポーズでネ」
「おや本当だ。……それではこの私は?」
「僕に聞かれても困るヨ。そこの彼がやったことだからネ」
志願者。自ら進んで人工聖石になりたいと思う者。
そんな奴がいるのか。いて良いのか。
「問う。お前は何故自ら人工聖石にならんとした」
「む……初対面で不躾な。だが答えてやろう! ──人々のためになるからだ。アラダを囲むようにして私達が安置された暁には、私達という石像が未来永劫アラダを魔素から守り続けるだろう。──それは、どのような栄誉にも負けない褒章だ。英雄足れぬ力しか持たない私達が、人類を救える。そんな素晴らしいことが他にあるか?」
わかっているのか、とか。
どうかしている、とか。
そういう言葉を飲み込む。違う。生きている世界が。
俺とすらも噛み合わない。
「しかし、困ったナ。まだ志願者はいっぱいいるというのに、ここで僕が殺されてしまっては彼女らの願いを叶えてやれないヨ。ああ、知識の根絶をしたいんだろウ? その気持ちはわかるから殺されることに文句はないヨ。だけど、できたらこの事業が終わってからにしてくれないかナ。この娘たちを含む二十一人の聖石化志願者。彼女らを聖石に仕上げて、アラダを囲うように設置する。それが終われば僕の命も用無しだ。好きに摘み取ってくれていいヨ」
研究者という生物は多かれ少なかれ狂っているものだと知っている。
だけど、これは。
「魔物の人工聖石が嫌いなんだったネ。であれば僕の方からアラダにおける魔物の人工聖石化を禁じようカ? ある程度偉いんだヨ、僕」
「……リチャード殿。何やら真面目な話のところ悪いのですが、ここ……腕の角度をもう少し上げていただくことはできますでしょうか。少し……気に入らないです」
「ハイハイ、君も凝り性だね」
「一生物ですからね! 最高に格好いい姿になりたいじゃないですか!」
マズイ。
言葉が出ない。口を挟むことができない。
俺はこの状況をどう否定すればいい。
成りたがっているのなら。そして魔物を使わないというのなら。
「……アマネ・クラリッサを狙撃したのは何故だ」
「狙撃ぃ? そんなのしてないよ僕。する理由がなイ。……というか、アマネ君死んだの? 可哀想に、頑張ってたのにねぇ」
「許せませんね。魔族の仕業でしょうか!」
「魔族が狙撃なんかするとは思えないけどネ。それじゃ一旦石化解除するヨ。……あ、君。こっちの幻術っぽいの解いてくれるかナ。これあると多分混乱起こるでショ」
言われた通りにコンフュージョンデュアルを解く。
リチャード・イングリディアナはうんうんと頷き、自身がかけた石化の呪いだからだろう、ディスペルを使うことなく石化を解き……女性の腕を少しだけ上げる。喋れるようになった女性は何やら楽しそうに笑っていて、それに対してリチャード・イングリディアナが困ったような表情を見せて……けれどやれやれ、と言わんばかりに肩を竦めた。
「もっと露出を多くしてくれって、僕が変態扱いされちゃうじゃないカ。全くぅ」
「折角石化するんですから、普段はやらないような恰好になってみたいじゃないですか」
「わかったわかったヨ、ちゃんと調整するかラ。それじゃ一旦このまま石化するヨ。呪詛スキル:石化」
……ダメだ。
これを殺すのは、違う。ルトの業者の口から出た名前がコイツだった以上、魔物の人工聖石に関しては絶対に関わりがあるはずだ。
リチャード・イングリディアナを見逃すのもまた、違うはず。
「ふむ。迷っているネ。なら折衷案を僕から出そウ! 侵入者君、君は僕に眷属の呪いと消滅の呪いをかけるといいヨ。それで、此度の事業が終わったら連絡するから、その時に僕を消せばいイ。魔物の人工聖石やその他の縛りは眷属の呪いでつけられるだロ? 僕は彼女たちを仕上げることにしか興味がないかラ、それ以外はどうでもいイ。どうかな、良い案だと思うんだけド」
「……」
「それか……あと数か月ほどかかるけれド、僕と一緒に生活してもらうとカ。志願者の聖石化を間近で見ていてくれたラ、君の疑念も晴れるだろうからネ」
「いや。……良い。最初の案でいい。呪詛スキル:眷属、消滅」
ダメだ。
この空間にいるべきじゃない。こいつらの考えを一生聞かされ続けるのは、毒だ。
「うん、それじゃあこっちも誠意を見せよウ。必ずアラダから魔物の人工聖石を根絶して見せるヨ。外国にある非人道的な人工聖石も大枚はたいて買い占めたんダ。ふふふ、妹の不始末は兄がつけるべきだよネ」
「妹……レジーナとは直接の兄妹か」
「おや、妹を知っていたカ。そうそう、今回の件はアイツの出した脇の甘い発表のせいで起きた悲劇だろウ? それで誰が何を思うのカ。何より魔物がどう考えるのかをわかっていなイ。魔物には人間並みの知性がないと見下し切っているからそういうことになル。アイツのせいで、今頃どこかの小国、ないしは村や都市が一つくらいは壊滅しているんじゃないかナ、魔物の襲撃デ」
ああ。
もう、いい。
「時折監視に来る。……じゃあな」
「期待していてくれていいヨ。僕と彼女たちの作り上げる最高傑作は、いつか聖域と呼ばれるようになるだろうからネ」
「聖騎士スキル:聖域」
「ワオ」
意味が無いのだとしても、最終通告はしておく。
「お前の善が、俺に寄り添うものであることを願うよ」
「……お手本をありがとう。それじゃあね、侵入者君。今にも吐きそうな顔だ、早くここを出た方がいいだろうネ」
言われずとも、だ。
アラダから出て、合流地点へ。
俺以外の三人には商人の洗い出しをやってもらっていた。
「結論から言うと、リチャード・イングリディアナは白だね。各国にある人工聖石を買い占めて、石化を解除する、という奇行をしていた、との話だ。元から奇人変人で通っていたようだけど、此度の行動は特に奇異に映ったらしい」
「ああ、今話してきたよ。……奇人変人というか、別の生き物と話している気分だった」
「そうかい。それで、知識の根絶は?」
「……気分じゃない。それに、多分……任せていいと、そう思う」
「リチャード・イングリディアナに、かい? ふぅん、興味をそそられるな。君にそこまで言わせるとは」
決定的なまでに価値観の違いはあったけれど、あれは善人だ。
そして事態への理解度も高い。アマネ・クラリッサとは格が違う。
「バルクス。俺が戻ってくるまでの間に、風属性の魔力を検知しなかったか?」
「申し訳ありません、マスター。検知モードは起動しておらず……今観測します」
「頼む。あっちの西の建造物周辺だ」
「……検知不能。ただ、何者かによって痕跡が消されている可能性があります」
「ん。ならいいよ」
アマネ・クラリッサを狙撃した奴。
気になりはするが……俺を殺し損なってるんだ。不安になったら直で来るだろう。わざわざ追いかけにいく気力が今の俺には無い。
シリアスし過ぎは体に毒。
そろそろ適当人間ヴェルグ君に戻らねば。
「解散にしよう。すまんな、呆気の無い最後で」
「構わないとも。それでは引き続き、聖堂は人工聖石の販売ルートを潰す他、人工聖石を見かけたら回収して保護することを約束するよ。時折君に便りを出すから、その時まとめて魔物たちを治癒してやってくれるかい?」
「ああ、そりゃ願ったりかなったりだ。んで、オニキス・リオン。お前とはこれからも仲良くやっていきたい。こっちからもよろしく頼むよ」
オニキス・リオンと握手をする。
そして……カスパルに向き直る。
「カスパル。気付いていると思うが、俺はお前を使っていた
「はい。わかっています」
「だから
「……?」
「それは凄いことなんだ。
「おや? 今私と君は良き友人、という形で別れをしたように思ったのだけどね」
「はい! オニキスさんは働き者なので、これからはこれ以上に働いてもらいます!」
「キャスパー様も……私は今十二分に働いていると知っているね?」
んじゃ、と。
転移を準備する。
「今回は助かったよ。お前ら目線、自分が役に立ってるかわからないとかあると思うけど、案外できることの少ない俺にとってはありがたいことが多かった。信頼してるぞ、聖堂。敵となる未来を引かないよう祈っておいてくれ」
「君が祈るのではないんだね。……私としても実のある旅だった。ありがとう、また会おう。ああ、けれど、その時はアポイントメントを──」
「
「ああ。じゃあな、キャスパー」
「はい!」
消える二人。
「帰ろう、バルクス」
「はい、マスター」
んじゃこれで、シリアスヴェルグ君一旦終わりね。
ああ……本当に疲れた。メンタル来るわー、ああいうの。
帰ったらリアがいた。
……住所教えた覚えないんだけど。
「あら、お帰りなさいヴェルグさん。……と、そちらの方は?」
「終末防衛機構B.A.R.C.U.Sと申します。バルクスとお呼びください」
「これはご丁寧に。私はエイルニルス公国公姫、アンフェルミーナ・リアライズという者ですの」
「エイルニルス公国……賢者シルドラの建国した国ですね。彼の著書は私のメモリーオーブに多く記録されています」
「まぁ! 建国の父を知っておりますの? 素晴らしいことですわ。国民ですら知らぬ者もいるというのに」
「白紙の紙などがあれば、シルドラの著書の写本を作ることも可能ですが、如何ですか?」
「女子トーク長引きそうなら勝手にやっててくれ。じゃあな」
「はいですの。それではバルクスさん、こちらに」
……引き留めもなし。
何しに来たんだアイツ。マジで遊びに来ただけか? 別に良いけどさ。
自室に戻って、ベッドに寝っ転がる。
うん。
久しぶりに休んだ気がする。
「よいしょ」
「休んだ気がする、とか思っちゃいけないんだよな。絶対こうなるから。フラグでしかない」
「え、邪魔だった?」
「いやいいよ。なんか話したいことあるんだろ、シーファ」
何故か馬乗りになってきたシーファ。相談ごとに馬乗りになる必要ある?
「ありがと」
「何が」
「色々」
……結局俺が動いちまったから、シーファの決意とか無駄になったのかね。
ほら、アスガードに来た初日の夜の話。シーファの好きにやればいいとか言っておいて、結局俺が好き勝手やったわけだし。
成長の機会を奪ったというか……別に俺コイツの保護者でも何でもないんだけどさ。
「ありがと、って言ってるんだけど」
「だから何がって言ってんだろ」
「……ほんと頭悪いよねーご主人様って」
「自覚あるよ。もっと頭良ければもっと巧く立ち回れてたシーンが山ほどある」
ぺたん、と。
俺に覆いかぶさってくるシーファ。なんだ、溜まってんのか? アウラニと最近シてないとかか。
「ご主人様ってさ、家族とかいないの?」
「いない」
「……それって、いなくなっちゃったの? それとも初めからいないの?」
「んー……もう会えない、が正しいかね」
「そ……っか」
前世の両親。兄貴と妹。どっちも俺より早く結婚しやがって。俺が一番稼いでるからって色々せびりやがって。……まぁ、死ぬほど幸せそうで、俺自らが色々贈った部分も大きかったけど。
確かに会えないけど、十二分に関わったからな。寂しくはない。
「友達は?」
「ノズヴェルガーと……今回の旅で知り合ったオニキス・リオンも友と呼べなくはないかもしれん」
「帝国来る前の友達は?」
「そいつらとはもう会えんから気にしても仕方がない」
「……」
思えば、前世の俺は酷く恵まれていたのだろう。
なんせ周囲の人間が皆笑っていた。幸せを掴んでいた。周囲に悲しみが溢れていないというのは、ただそれだけで幸福だと言える。
「好きな人は?」
「あー、まぁいたこともあったけど、いなくなったな。好きじゃなくなったってより、好きであるより友達でいた方が楽しくなったというか。説明は難しいんだけどなー、俺はこう……特定個人を愛する、っていうのがどうにも向いてなくてさ。幸せな不特定多数を眺めているのが性に合ってんだわ。それだけで十分っつーか」
俺自身がその輪の中にいる必要は無くて。
だから純愛もハーレムも無理なんだよな俺。だから多分、そういう感情を向けられそうになると、無意識に偽悪的に振舞っている節はあると思う。
できれば俺の手と俺の目の届く範囲で幸せになってくれてたらそれでいいよ。そういう知り合いが増えてくれたら俺も幸せだよ。
「ご主人様」
「ん」
「私は……ご主人様の家族には、なれない?」
「お前はアウラニと番うんだろ?」
「別にお嫁さんにしてって言ってるわけじゃなくて。娘とか……どう?」
「どう、って言われてもなぁ」
見る。
ステュクスとなって色気の増した全裸のシーファを。
曲がりなりにも美人である彼女が俺の上に乗っかり、ぺたんと身体を預け……だから潰れた胸に上に顔があって、その顔が上目遣いになっていて。
「んー、無理じゃね?」
「なんで」
「どこの誰に吹き込まれたか知らないけどさ、良いよ別に。家族とか求めてないよ俺」
「……でも、ご主人様のラインって、家族、仲間、奴隷、それ以外……なんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ家族がいい。奴隷からの格上げをしょもーする」
「仲間通り過ぎるのか。ケルと同じじゃ嫌か」
「嫌。仲間とか言いながら全然ケルちのこと連れて行かないじゃんご主人様」
「家族だとしても連れて行かんだろ。むしろ奴隷の方が連れて行きやすいわ」
「むー」
ついでに言うと、ケルじゃ弱すぎるからな。
せめてマスカルウィン、イサカリくらいの強さが無いと。……そういやイサカリって今どうしてんだろ。魔族大陸今ヤバいはずだけど。
「むー!!」
「奴隷が不満なら、眷属の呪い解除してやってもい」
「そーゆーことじゃない!」
「ああはいはい」
何度も繰り返したやり取りではある。
難しい年頃だねぇ。女心と秋の空ってか。この世界四季らしい四季ねーけど。
「ご主人様が寂しくなくても、私目線寂しいから、家族を作って!」
「無茶言うな」
「背中を預けられる仲間とか、そういうのでもいいから!」
「難しいなぁ」
「このままだと一人になっちゃうよ、ご主人様」
それ、ファントムにも言われたなぁ。
んー。いやしかし、なんだ?
なんでこんな躍起になってんだコイツ。誰かになんか吹き込まれたとしか思えないんだけど、じゃあ誰が問題。
……リアか?
「アサシンスキル:弛緩、催眠」
「ぁう」
「まぁ心配してくれんのはありがたいけど、俺は満ち足りてるからさ。んじゃアウラニ、後は頼む」
「……気付かれて、いましたか」
「恋人が別の男にべったりなんだ、心配にもなるだろう」
「こ、恋人と、いうわけでは……」
「ああすまん夫婦だったか。おい無言で自爆の呪いはやめろって」
ぷんすかしながらぐてんぐてんになったシーファを持ち帰るアウラニ。
家族。仲間。恋人、ねぇ。
行動阻害になるな……とか。
今の俺は考えちゃうかなー。
月日が過ぎるのは早いもので。
俺が聖気や概念の考察と魔素と魔族の研究と対比したり理論を立てたりしている間にそれはもうどばーっと過ぎて行った。人工聖石事件から早ひと月以上。
特に戻る理由もないのでアスガードに定住することになった俺達は、けれど前みたいにどこかで職を取ることも無く、ギルドの依頼で日銭を稼ぐ日々。稼がなくていいレベルの資金がまだまだあるので、休みたいときは休む。そんな生活。
それがある日、唐突に終わりを迎える。
「独立? おお、いいよ。金は? ……へぇ、自分たちで。成程、だからあんなに頑張ってたのか」
「……もっと名残惜しんだりは」
「別に今生の別れってわけでもないしなぁ。お前の眷属の呪いは解いてないから、魔素について研究したくなったらすぐ会いにいくつもりだし」
「……ふん!」
シーファ、アウラニ、ツバナ。
さらにはケルとツゥまでも。
帝国に一軒家を購入し、そこで暮らす……のだそうな。
「じゃあなー」
「……むー!!」
「シーファさん、抑えて、抑えて」
「自分でやっといて自分で台無しにする気かお主は」
「ツバナ。口を噤んで」
「あらあら、ケルも、それを言った時点で……ねぇ?」
とのことなので、なんか企んでるのは間違いないけど、まぁ知らん。
帝国なら顔も利くだろうし、上手くやるだろう。頑張れ。
「よし、奴隷を買うか……とは言わないのか、人間」
「俺別に穴埋めするために奴隷買ってるわけじゃないぞ」
「ですが、お世話をする方が一気に五人もいなくなると、色々寂しくなりますね」
「えー。どうせあいつら一旦俺から離れて家族や友人というものの大切さをわからせてやろうキャンペーンとかやってんだろ」
「……」
「……おい異族の娘。黙るな。そこで黙ったら是と言っているようなものだろう」
「ルウィン様も同じでは?」
ほーらね。
「お前らも心配してんの?」
「私達は心配しているというより、楔が無いな、と思っていまして」
「楔?」
「人間。お前は気付いていないのだろうが、あれらにはお前を引き留めるための材料がないのだ。友人だろうが仲間だろうが去る者追わずなお前は、いつの日かふらっと失踪してもおかしくない。事実、この家の住民たちのしがらみのほとんどが解け、各々の幸福を掴み始めたあたりから……お前は幾度となくこの家を出て行こうとしていただろう」
「まぁ、もう用ないからな。シーファの体質以外」
「それだ。奴らはそれが嫌らしい」
嫌と言われましても。
「マスター。マスターはいつか、いなくなってしまわれるのですか?」
「俺がいることで引け目や負い目を感じる奴がいるんなら、そうしてやろうかな、とは何度か思ったよ」
「ケル様とツゥ様、シーファ様とアウラニ様。そしてツバナ様。……ですね」
「そーそー。ケルとツゥは再会できて、いつも一緒に居る。幸せそうだろ? シーファとアウラニは言わずもがなで、ツバナはツバナで最近町の住民や冒険者たちと積極的にかかわりを持とうと……交流を広げようとしている。でも俺が主人だからとか、俺がいるから、って理由でそれを謳歌しきれてないように見えんだよな」
別に嫌えって言ってるわけじゃないし、愛想尽かせとも最近は思わなくなったよ。
でも俺要らなくね? っていう。ただそれだけの話。
恋人をくっつけたキューピッドが、けれどいつまでもそこに居座ってたら邪魔だろ。
「私、今回の別居においてご主人様の様子を逐一報告してほしいと言われているのですが、どうするべきでしょうか。ありのままを報告するとシーファ様が泣いてしまいそうです」
「だが虚偽の報告をしてどうする。意気揚々と帰って来た魔族の娘らの目に映るのは、平時と何ら変わらん人間の姿だけだぞ」
「マスター。どこかへ行くときは当機を持って行ってください。召喚契約でも構いませんし、更なるコンパクトサイズに挑戦してみるのも良いことだと思います」
「そうは言うけどお前も人並みの幸福を求めたっていいんだぞ。機械かどうかを気にしない奴なんざいくらでもいるだろ」
「人並みの幸せでは満足できません。道具並みの幸せを求めます」
躱し方が上手いな。
まぁバルクスは魔物だから、また別枠だよなー。
「人間。お前は何に執着するのだ。やはりこの身体か?」
「まぁ性奴隷は確かに重要だな」
「ならば奴らには一生かかっても無理か」
「食事も重要でしょう」
「変な形にしてこなきゃな」
「資材さえ頂ければある程度の物は作り得ます」
「そーだなー」
……普通にしてるのは、ダメなんかね。
いいじゃんなー。なんでもなく一緒に住んでて、なんでもなく一緒に居て。
好きな時に離れて、好きな時に来て。それこそリアみたいにさ。
それじゃダメなんかね。
「……よし、決めた」
「お」
「何を、ですか?」
「考えるのやめよう。エロいことしようぜルウィン」
「来たな、人間。お前のそういうところは本当に信頼できる」
「問題の後回し……というより、些事であると見限っての行動。はぁ、じゃあ私はお洗濯をしてきま、ひゃあ!?」
「馬鹿を言うな、異族の娘。そこな機械も交えてヤるぞ」
「ちょ……る、ルウィン様!? どうやって掴んで……!」
「ふふふ、そう何度も何度も見せられたら流石にわかる。この辺りだろう? そしてこうして力を籠めれば……引きずり出すこともできる」
シリアスは終わり!
こっからはエロのターンだ!!
リチャード・イングリディアナの件と、あとジェスター・ハーネットの件で……そこそこキてたんだよね。
理解はできない。意味が分からない。
でも、それはそれとして、って奴が。
──思いっきりヤろう。盛大にな。
次の話は幕間になります。