アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
ホーリーウッドの森が寝静まった頃、俺達はこっそりとマスカルウィンの家を抜け出して、上空に来ていた。遮断結界を張れば見つからず盗み聞きもされない素敵空間の出来上がり。
さて──日中、俺と別れて情報収集に徹していてくれた二人に、聞く。
「この世界、俺達の世界と地続きの過去である可能性はどれくらいあると思う?」
「極めて低い──かと」
「同じ結論に至りました。ですがマスター、同じ過去を辿っている可能性もまた高いです」
「……ん、助かる。俺の至った結論と大差なくて安心した」
そう。
俺がざぁっと確認した感じ、そして彼女らが情報を収集した感じ。
ここが元の世界の過去そのものという可能性は低い、という結論に至った。
大まかな理由としては二つ。
まず。
「メモリーオーブは質量を持ちません。ですので私は、更新によって不要となったデータもスタックすることで保存しています。その中に、マスターの存在は欠片たりとも記録されていませんでした」
「俺の知識もそうだ。俺と言う存在は強大であるという自負がある。この先何があるにせよ、もしこの時代に俺がいたら終末防衛機構であるバルクスの収集するデータに必ず記載されるだろう」
「……一応反論をしておきます。私達が未来へ帰ってから、歴史が刻み直される……という可能性は?」
「無い。この世界は時間のズレに酷く厳しい。過去改変なんて絶対にやらせないはずだ」
そう、時間停止でさえあんなカンカンに怒るこの世界は、「時間は止まらず進み続けるものである」というしっかりとした固定観念を有している。初めはタイムパラドックスを気にした俺も、思いとどまったというか思い直したというか。
少なくとも世界は自らの手では時間歪曲など行わないし、過去改変もしない。
となれば──「最も近似のパラレルワールドの過去に来た」という考えの方がしっくりくる。
それは第二の理由でもある。
「『太陽』という単語に聞き馴染みが無さすぎます。ルウィン様のお母様含め、街の人々にもお話を伺いましたが、皆『太陽』という言葉をさも当然のように口にしていました。何のことかを問えば、決まって自分たちが田舎者であるからだと自虐し、そして教えてくれるのです」
「宙で輝くモノ。俺の認識が正しいのなら、俺達のいた時代での呼称はアルター。バルクス、これに相違は?」
「ありません。私の製造された地域でも同じ名前でした。また、こちらの大陸に過去点在した村々の情報を収集したデータを浚っても、あるいはこちら側出身だという方々との会話データを確認しても、太陽と言う言葉は一切出てきませんでした」
「それについても一応反論を入れておきましょう。バルクス様が製造されたのは一度目の滅亡の後なので、その時に途絶えた、という可能性はゼロではないのでは?」
「ゼロです、メアリーさん。前文明の一度目の滅亡は、種の全滅を意味しません。滅亡と言うから事が大きく見えるだけで、壊滅的なダメージを受けた、という言葉がちょうどいいと思います。また、魔族が魔族大陸を占有するにあたってこちらに住んでいた方々の半数は向こうの大陸に逃げ込みました。つまり」
「むしろ残ってる方が正しいくらい、か。迎合したにせよ衝突したにせよ、善悪のはっきり分かれたこの世界では片方の歴史を無に帰す、という行為はほぼあり得ない」
「はい」
太陽。
その名がバルクスの知識データにないこと。ほとんどただそれだけでここが地続きの過去じゃないとわかる。
ただ、同時に。
「ルウィン様が当然のように知っていた、という部分に関しては謎が残ります。一つだけある前述の"ここが過去ではない理由群"を覆すに足る理由──それは、ここが魔素の飛来などよりもっともっと前の過去である、という場合でしょう」
「……ま、それはそうなんだよな。俺達は勝手に"ルウィンの性格が変わった理由は魔素飛来だ"と考えているけれど、全く別の理由の可能性もある。今の時代の正確な年数が測れん以上、メアリーの説も大いにあり得る」
ただしそれは、やはり「世界は時間歪曲を許容しない」というところに阻まれるのだが。
……まぁこれらを解決する説も提示できる。
これは俺が現代人だった故の観点だろう。あるいは俺自身がそうだから、かもしれない。
「ルウィンはそもそもこちらの世界から転移してきた者である、という説ならば、全てに説明がつくと思う」
「成程。それならば『太陽』の概念を知っているまま、あちらの世界でルウィン様としての生活を歩めますね」
「加えて言うのであれば、どうにもこの街の住民は長命種であるようです。ルウィンさんの多様なスキルは補繊毛という彼女にしかない特性だとしても、何万年もの寿命や、今回の里帰りでも当然のように家族が生きているような振る舞いをしていたあたり、元々そういう種族である可能性が高いでしょう」
ちら、と。
眷属メニューを開いて、マスカルウィンの種族を確認する。
そこには──。
「種族:ハイエルフ……はぁーっ、成程ねー」
「エルフ? ……というのは、どういう種族ですか?」
「ご主人様は知っておられる様子ですが、私達の知識にはありませんね」
そう、このゲーム、こんだけ剣と魔法のファンタジーをしておきながらエルフが存在しない。
仲間になるNPCにもならないNPCにも、エルフは、というかエルフという単語すら出てこない。けど、ホームページのコラムで見た覚えはある。"なぜエルフを出さないのか"という質問に対する開発側の答えが、「居はするけど明記はしていない」だったはずだ。
……あとそう、「我々はエルフに夢や希望を抱いていない」「樹上で暮らしたり、肉を食べなかったり、排他的であったりするエルフは思い描いていない」とかも書いてた気がする。
そして──「ゲームの初期草案にはたくさんいたし、エルフの住む森があった。が、魔素がある以上聖樹にでも囲まれていない限り生存の可能性が低すぎるので没になった」とも。
眼下。今日の当番なのか、寝ずの番を行っている衛兵君を看破して種族を見れば、種族:エルフの文字が。他、飲み歩いている住民なども皆エルフ。
エルフとハイエルフの違いはよくわからんが、まぁ特別な血筋とかそういうのだろう。
ここはゲームの初期案にあったエルフの村。ホーリーウッドの森。
……となると。
虚数スキル:繰り込み。
「……驚いたな。異邦人くん。もしかしてボクが監視していることに気付いたの?」
「いいや。お前とよく似た存在を知っているだけだ」
「それは……嬉しくない情報だね。苦心に苦心を重ねてようやく世界の外を手に入れたというのに、先駆者がいたのか……」
「俺が異邦人だとわかっているのなら、俺が誰のことを言っているのかわかるだろう」
「……ああ。成程、別世界のボクか」
虚数神殿。
そこに──いた。天女の羽衣を纏っていない、全裸包帯の……超ダウナーなファントムが。
これも初期草案の話。ああいうおちゃらけたキャラになったのはゲームシステムの開発段階で、草案時点ではこういうダウナー系……コンプライアンスを気にしないのなら陰キャ系だったと語られていたのを覚えている。
「それで……異邦人くん。何用なのかな」
「お前の目的を聞いておこうと思ってな。俺達は何事も無く元の世界に帰れたらそれでいいんだけど、どうにも世界が許してくれそうにない。お前的にはどうなんだ。俺達を監視していたそれなりの理由があるんじゃないのか」
「いや……そこまで大した理由はないよ。ふ、不快だったなら謝る。まさか気付かれているとは思ってなくてさ」
「気にならんから別に良い。ただ余計な手出しはしないでほしい。勝手に入ってきての物言いだ、こちらに非があるのはわかっているから、ある程度の要求は飲むが」
「ううん、何も要求しないよ。ただ……」
「ただ?」
「帰るまでの間でいいから、時々顔を出してくれると、嬉しいな。……世界の外に出たはいいものの、部下も仲間も……みんな寿命で死んじゃったから。こうしてボクを認識できる相手がいるなんて思ってもみなかったんだ。……ど、どうかな」
……ふむ。
前も言ったけど、アダルトMODを通したファントムの姿は、俺的にはそこそこ欲情できる。
あっちのアイツの性格もまぁプレイヤーとしては好きだけど、こっちのファントムのこの感じは……なんかそれはそれでソソるというか。
全然シリアスシーンをして来なさそうだから、普通にエロく見れるっていうか。
「わかった。ただすまんが、最優先事項は俺達の帰還、及び世界の攻略にさせてもらう。その間暇があれば来るよ。……あとは、そうだな。俺達に協力して情報を落としてくれるというのなら、来る頻度も上がる」
「ほ、ほんと? ……正直、君達が純粋な人間のパーティだったら、ここで身を引いていたけれど……君達はどうにも違うっぽいし、うん、協力するよ」
まぁ上位種族と魔物(機械)だからな。マスカルウィンも含めるならハイエルフか。
「早速だが、幾つかのすり合わせがしたい。構わないか?」
「構わないけど、そんなに長くこっちにいられるの?」
「ああ。なんならここにマイホームを設置できるくらいには虚数適性がある」
「……すごい。ぼ……ボクは、だめだめで。肉体を失わなければ、ここに定住することはできなかったのに。異邦人くん、君は……何の影響も受けないんだね」
「ヴェルグだ。短い間だが、よろしく頼む」
「ん。よろしくね、ヴェルグ」
とまぁ、そんな感じで。
特大ネタバレ装置と言えるファントムとの「答え合わせ」を終えて、俺は虚数神殿を離れた。
「マスター?」
「ご主人様?」
「ちょっと考え事してた。結論としてこの世界はパラレルワールドで間違いない。ただ、もうすぐ魔素が飛来することも間違いない──つまり第一次滅亡の直前らしい」
「考え事なのにらしい、ですか」
「なんだ、今からでもだろうな、に変えた方が良いか?」
「いえ。余計な茶々を入れました。特に気にしていませんので、続きをどうぞ」
「マスターには何か外部との交信手段があるのですね」
「ああ、そんな感じ」
さて、未だストーリーテラーになっていない初期案ストーリーテラーさんから「別世界であるから、君達が何をしても君達に影響が出ることは無いよ」のお墨付きを貰った以上──派手に動けるな、と。
「メアリー、お前は引き続きホーリーウッドの森での情報収集を頼む。バルクスはメアリーの護衛兼、逐一天体観測をして欲しい。出来れば魔素の飛来時期を完璧に予測しておきたい」
「天体観測……ですか」
「ああ、そういう文化ないか」
「いえ、知識にはありますが……これは恐らく、意識の汚染でしょうね。私に格納されている一部のメモリーオーブが、天体観測に対して非常に強い嫌悪感を覚えています」
「まぁ、前文明の滅亡の最たる要因だしなぁ」
「……今そのメモリーオーブを厳重に封印しました。これで可能です」
「ん。それじゃよろしく頼む」
「はい」
そういう細かい情報も脳裏には入れておく。
天体観測に対して非常に強い嫌悪感を持つメモリーオーブ。
「んじゃ俺ちょっと太陽の民って奴らを見に行くから、お前らはルウィンの家に戻ってくれ。朝には帰るよ」
「承知いたしました」
それじゃあまぁ、小難しいこと考えなくてよくなったんだ。
俺らしく行こうかね。
マスカルウィンに教えられた通り、山の向こうに村があった。
太陽の民の村。
住民の様子は……あまり変わらない。やっぱり比べて見ても月の民との違いが分からない。
ただし、種族は。
「種族:ダーティエルフ。……これ差別用語とかじゃねーだろうな」
看破で見た種族名がこれだった。
ダーティて。
にしても……悲しいかな、アダルトMODの弊害で、街の建築様式だの市場の感じだの、何がどう違うのかとか全く分からん。全部美女美少女の部位を使っているように見える。
ん-。
まぁ月の民より太陽の民の方が夜に起きている奴が少ない……気が、する。それくらいか? 名前に引っ張られてそう感じてるだけかもしれん。
ガチン、と。
人体の、それも首から鳴るには硬質すぎる音が響いて、直刀がはじき返される。
「ッ……!?」
「ご挨拶が過ぎるだろう。……しかも魔物か。すまん、魔物と戦いたくない。どっか行ってくれ」
「……お前は、なんだ? 人間ではないな」
「いやフツーに人間だけど。そういうお前は」
んー。
……ん-?
空飛べて、けど翼は無くて、刀持ってる魔物? 全裸だから魔物確定なんだけど、何だコイツ。
「太陽の民の村の守護者……かなんかか」
「そうだ。化け物め、この村に手を出すな」
「手を出すつもりはないが、日中ホーリーウッドの森に来たのはお前らの方だろう。その報復に来ただけだ」
「……月の民はこんな化け物を呼び寄せたのか!?」
化け物化け物言いなさんなや。
しっかし、考えても考えてもわからんな。この魔物なんだ? こいつもパラレルワールド原産か?
「報復と言ったな。……僕の命一つで許しては貰えないだろうか」
「さっき命を狙ってきておいて?」
「ッ……! すまない、先程は」
「加えて言うとさっきも言った通り魔物とは戦いたくないんだよ俺。だからお前の命なんざ要らん」
「な……なら、何をすればあの村を見逃して貰える? 僕は君には敵わない。……頼む! この通りだ!」
態度ガラっと変わり過ぎだろ。
……うーん。
「まず、お前の種族はなんだ」
「八咫烏だ」
ワオ、有名どころゥ。
ただ、パラレルワールド原産確定。ゲームにいなかったし。
「そうか。八咫烏、お前があの村を守っている理由を言え」
「恩義がある。……十年程前、僕はこの周辺を襲撃した。ただの食料調達だ。……けど、月の民のある少女によって討伐された。……されかけた、が正しいか。その後僕は太陽の民に救われたんだ。魔物である僕を癒し、食べ物までくれた。以来、僕はこの里の守護を行うようになった」
十年前ねぇ。
合致し過ぎだねえ。
「太陽の民と意思疎通ができるのか?」
「いや。……そういえば君とは言葉が通じるな。どういうことだ?」
「意思疎通しないでどうやって守護者やってんだ。勝手にやってんのか?」
「そうだ」
いやそうだ、じゃないだろ。
それこの村の住民は知ってんのか?
……良いのか、別に。言葉なんか通じなくとも、魔物が人間を守りたいならそれでいいわな。
「わかった。今日は退く。縄張りを荒らしてすまなかったな」
「えっ……あ、い、いや。退いてくれるならありがたい限りだ。……ただ、すまない。信用できない。下から頼む立場で言えたことではないが、君が僕の知らぬ間に村を襲撃する可能性もある」
「別に警戒したままでも構わんが、警戒したところでお前に止められないだろう。んじゃ気にするだけ無駄だよ」
「それでは困るんだ! 僕は命を救われた! だから僕も相応の代価を支払う必要がある!」
「すまんがお前の事情は知らん。俺には関係がない」
……なんで魔物ってこう簡単に命捨てようとするんだろうな。消耗品だから自分の意思で使い切りたい、って気持ちはわからんでもないんだけど、にしてもだろ。
「な──ならせめて、僕の棲み処にきてくれ! おもてなしをする!」
「んー?」
どういう思考回路でそこ行った?
「頼む!!」
「……朝までならいいよ。朝には帰るけど」
「ああ、ありがとう……! それまでに僕の誠心誠意を見せてみせるよ!」
なーる。
せめてもの心尽くしを、と。
……でも大丈夫かな。魔物のおもてなし、っていうと。
「ど、どうだろうか。僕が今まで獲ったものの中でも、最高に味が良い肉だ」
「ほーらね」
目の前の石台に乗せられた、少女の腹部。輪切り。
うーん。いや俺激痛系がダメなだけでエログロそのものには耐性あるから無の境地とかは使わないけどさ。
食えんわー。
「もしかして肉は食べないのか? な、ならこっちはどうだろうか! セルヴィネクの葉だ!」
どさ、っという音に反して、骨が置かれる。
セルヴィネク。……トレント系の最上位種の内の一匹だな。こっちはゲーム本編にも出てくる。
「食欲がない。それ以外はないのか?」
「ああ、そういうことか! じゃあこっちに来てくれ!」
八咫烏はそう言って、彼女の棲み処の中でも最も奥まった場所に俺を連れて来た。
ここは。
「宝物庫だ。……その、十年前までの僕が集めていたものだから、人間のものも……あるけど」
……ほー。
割合見たことあるアイテムだけど、一部知らんものがあるな。魔物素材の武器は意識から外して、そうではない鉱石系をガチャガチャ漁っていく。
その中で最も気になったもの。
「サンライトソード……これ、何の石だ?」
「太陽の石だよ」
「太陽の、石?」
「見たこと無いかい? たまに太陽から落ちてくる燃える石。燃えている間は山火事を引き起こす危険なものだけど、やっぱり人間は凄いよね。それを打って武器を作ってしまうんだから」
「……これ貰っていいか。代わりに太陽の民への村への報復はしないと約束する」
「本当!? ああ、是非貰って行ってくれ! あ、そうだ。燃え尽きた後だけど、太陽の石もあるよ。これもどうだろうか」
「ありがたく貰う」
サンライトソード。
太陽の石。
バルクスに解析回すか。いやー助かるわバルクスマジで。
俺は結局ゲームの事しかわからんからな。
「んじゃそろそろ俺は帰るよ。八咫烏、初めは衝突だったけど、これからはいい関係であれることを望んでいる」
「うん、僕もそれでお願いしたいかな。僕じゃ君には傷一つつけられなさそうだし」
後ろ手を振って──転移する。
八咫烏。
……鬼の国とかにいそうなのに、なんでいないんだろうな。
朝、日が昇る前にホーリーウッドの森に帰って来た。
空を見れば、快晴。雲一つない空に日の光が差し始めていて、こういう光景って都会じゃ見れないよなぁ、なんて今更過ぎる感想を抱く。
今マスカルウィン家に戻ると彼女らを起こす可能性があるので、適当な場所に座ってのんびりしてみる。マスカルウィンのステータスは元のままだからな。霧隠れで行っても足音聞こえてないクセに板材の軋みとかで気付きそうだし。
……清々しい朝だ。
ユグドラシルのおかげだろうか、聖気を感じられるような……気がしないでもない。
「──異質過ぎる気配があると思えば、人間。お前が根源だな?」
「……魔物?」
青点だったから気にしてなかったけど、なんか来たわ。
全裸だから魔物確定だけど、まーた知らん魔物だよ。……アダルトMODマジで弊害過ぎるなこういう時。
美女。流れるような緑の髪に、少し勝気な表情。
「魔物であるつもりはない。だがお前にはそう"視"えるか」
「んー。まぁ俺察しが悪いつもりはないからさ。驚きとかは無いんだけど。……なんだ、何かを託しに来たか?」
「なんだ、つまらん人間だな。この森に住まう者を見習え。皆生き生きとし、皆快活で、皆情動に溢れている。……失うのが惜しい光景だとそう思わないか?」
「あんまり。失われるべきだとは思わないけど、失うのが惜しいと思えるほどの関係値がないよ、俺には」
「薄情な奴め。……三日後、だ」
「それは予知……つまり確実な情報か?」
「ああ」
「そうか」
俺の隣に座り、ホーリーウッドの森を眺める女性。
"彼女"と酷似した口調の女性は──けれど半透明だ。ゴーストではないけれど、だから。
「聖霊と。そういう種族になる。無論、ここで途絶える種となるが」
「俺が知っているお前は、もっと小さかったし、もっと萎れていたよ」
「ほう? それでも尚身体は残るのか。ふふっ、それは良いことを聞いた。……その時もまだ、人の子を守っているか?」
「ああ。ある賢者を一人」
「良い。良い未来だ」
"彼女"の身に起きた事。
それはもう、大体理解した。
あとは──。
「ユグドラシル。あるいは"ホーリーウッドの森"。聞きたいことがある」
「なんだつまらん。もっと引っ張れよ、人間」
「生憎と堪え性が無くてな」
「まぁ良い。なんだ、聞きたいこととは」
「お前は──普段はどこにいる? あの樹に、ではないだろう」
「あの樹に。……おっと、潰されてしまったか」
「お前達"概念"が住まう空間に行きたい。行き方を教えて欲しい」
「……」
ユグドラシル。ホーリーウッドの森。
"鬼の国"と同じだ、彼女は。
「どの概念に会いたい」
「この世界にはまだ生まれ来ていない概念だ。だから連れてくる、とかは無理だぞ」
「つまらんな。そうやって言の葉の先を取り過ぎるな。つまらん奴になり果てるぞ」
「成り果ててるよもう」
「はぁ。これだから結論を急くモノは。……だが、そうだな。ただでくれてやれる情報ではない。取引と行こうじゃないか、人間」
「……」
既に死した鬼の国。
死を予期しているホーリーウッドの森。
両者の違いは、既に死しているか否かと──姿の違い。
少なくとも俺は鬼の国の裸を見ていない。……死ぬと服を着るのだろうか、概念は。
「何をすればいい。聞いてから決める」
「ダメだ。決めてから聞け。それが前提条件だ」
……。
またとないチャンス、だ。次"概念"といつ出会えるかなんてわからない。
だけど、これで「魔素全部潰せ」とか言われたら流石に……いや、ワンチャン……?
「……つまらん。慎重すぎるなお前。若い人間ならば報酬につられてなりふり構わず食いつくものだろう」
「悪いけど、できないことは言わない主義でな。その辺固いんだ」
「いいだろう。特例だ。──三日後に飛来する災厄。これを、お前の持てる限りの全力で止めてみろ。別に止まらずとも構わん。どれほど異質とはいえ、人一人に限界があることくらい知っているからな」
「……」
「無理か?」
「いや……もしそれを言われたらどうしよう、を的確に言われたから、驚いていただけだ。んで、
「一応世界滅亡の危機ではあるのだがな」
「そうでもないさ。いずれは打ち砕かれる暗雲でしかない。なら、俺が砕いても別に良いだろう」
ここはパラレルワールド。こっちのファントムのお墨付きの世界。
ならば何をしたところで俺達の世界に影響はない。
ここでドゥームスを倒したって、シーファが消えることはない。バルクスもまた同じ。
「悲劇をな。見るものだと思っていた。恐らく……俺の知識におけるこの村は、一撃での全滅を経験している。両親がエルフであるのに娘がハイエルフな時点で、アイツは生まれつき強かったんだろう。だから生き残ってしまった。あるいは壊れてしまったのかもしれない。……それを補ったのがお前だったんだろう、ユグドラシル」
「だろうだろうと、憶測ばかりで物事を語るものだ」
「確認しようがないからな。……だが、二度も悲劇を体験する必要はないだろうし、あるいはそれが殻なのであれば──ここで払拭するのも手だろう。ユグドラシル。取引は成立だ。俺はこれから宙より降り立つモノを斬る。代わりにお前は概念空間への行き方を教える。良いな?」
「……構わないが、一つだけ」
「ん」
ユグドラシルは、俺の前に来て。
──片膝をついた。
「
「ネタバレも良い所だなオイ」
「なに、言う暇もなく消えてしまうのが"視"えたのでな。……人間。名を聞かせてくれ」
「ヴェルグ。それが見えたのなら、長生きしろよ。んでまぁ、こっちにいるんだろうアイツには、悲劇を与えないでやってくれ」
「善処しよう」
三日後、だな。
んじゃ準備をしますかね。さしもの俺も、NO準備で初見ドゥームスと渡り合えるとは思ってないからさ。