アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
メアリー達を拾って事情を説明し、一旦別行動に移る。
説明した時の反応はまちまちだった。
「そういうことであれば、私に文句はありません」
「そう、ですか。……ヴェルグさんの、決めた、ことならば」
「……決して英傑ではないが……否、だからこその怪物、か」
とかなんとか。リシは全部知ってるから何も言わず。
ワォスタクラインとメアリー、リシをアスガードに送って、アウラニとはここでお別れ。曰く、「まだまだ、六位、ですので……ヴェルグさんが、まだ先を、目指すのであれば、私も、頂点を、取りに行きます」らしい。
とまぁそんな感じで別れて、別れた理由を回収しに来た。
魔族大陸──その異相。
アカシャの円盤。ゲームの時はなんでここがこの名前なのか、まーたごちゃごちゃネーミングの被害者か──とか色々思ってたけど、魔素とは何なのかがはっきりした今となってはちゃんとした理由があったんだなと納得できる。
魔素源王、ドゥームスのいる場所。中はあらゆる場所が魔素フィールドになっていて、普通の人間が入れば十秒そこらで魔化するだろう危険地帯。ここを守る魔族も外にいた魔族とは桁違いに強く、徘徊する魔物も漏れなく魔化しているので狂暴。
その最奥に、いた。
俺が。
俺と、フレースヴェルグと──ドゥームスが。
「よぉ、色男。人質取られて言いなりになってるらしーじゃん。だから仲間作るのエグいってあれほど」
「うるせぇ。……何しに来やがった。まさか俺を煽るためだけに来たんじゃねえだろうな」
「それは四割だよ目的の」
「一割であれせめて」
……呪詛スキル、だけじゃないな。
死ぬほど縛りを受けている。契約スキルかなんかも結んでんな。結局俺には契約スキルがよくわかってないから、またノズヴェルガーに診せるでもしないと無理……とか言う話をしに来たわけじゃなくて。
「魔素源王、ドゥームス。俺との雑談に割くリソースはあるか?」
「……二人目、と呼ぶべきか。一人目、と呼ぶべきか」
「なんでもいいよ。会話の余地があるなら最高だ。なんせマトモに会話できる状況になったのはこれが初めてなんでね」
ゲームでは話なんかほとんど通じなかった。
飛来してきた時は敵意しかなかった。
けど、今ドゥームスの中にあるのは──余裕。
クレイドルの言う通り、全魔族に注いでいた意識リソースを取り戻したから、自我を保てるようになったのだろう。
あの時のままの女性。
「何をしに来たと、そう、問うて欲しいか?」
「そうだな、その方がスムーズだ。ここに来た理由は雑談さ、ドゥームス。今後の予定についてのな」
「……虚数の、影と。手を組んだか」
「むしろ肩組んで首にナイフを突きつけ合う仲さ。んで、ちょいと頼みがあるんだけどさ、次の魔族侵攻もうちょい遅らせてくんね? 今来られると面倒なんだよ」
ファントムと俺が封印し続けるのは、まぁ、できなくはない。
ただ──話通じるならワンチャンあるくね? っていう。
「構わない。が──」
「へぇ、いいのか。で?」
「一度、戦え。今のお前と、こちらの差を知りて。お前達が力をつける間に、こちらも力を蓄える」
「成程、フェアだな、それは」
そうだな。
公平に行こう。折角言葉が通じるんだ、狩りじゃなく戦争で行こう。
「ヴェルグ……」
「黙ってな、フレースヴェルグ。ドゥームスの手駒になったお前に発言権はない。大人しくコイツの尖兵やってろ」
「否。一人目は、使わない。これより始まる、戦いは、ただ、お前との、彼我の差を、確かめるためだけのもの」
「どっちみち俺は今のお前を殺せないからな。良い判断だよ」
ドゥームスが、とーん、と。
空間に波紋を作る。
「次元スキル:大地洞」
「んじゃ行くか」
その波紋、縦の水面にドゥームスが入って行く。追従する。
何かを言いたげなフレースヴェルグには見向きもしない。ただ、ドゥームスが入り切ったタイミングでサッととあるアイテムだけ投げ渡して──俺も大地洞の中に入った。
だだっ広い空間。
今からここに洞窟のダンジョンを配置しますよ、とでも言いたげなそこ。
「敢えて、こう呼ぶ。──"一人目のヴェルグ"。自らの首輪を食い千切った者」
「おいおい、リードとして生まれ落ちた奴に言われるのは色々クるものがあるぞ」
「そうかも、しれない。──始めよう」
「いいよ」
戦いは──。
太陽のような娘だな、というのがマスカルウィンの感想だった。
旅から帰って来たかと思えば色々な面倒事を押し付けてまた魔族大陸に行った自らの主人。自分の人格を切り替える面白さに気付いてからはそれで退屈を凌げるようになったとはいえ、マスカルウィンは自他共に認める色狂い。
むしろ云万年の禁欲期間があった分、その激しさは増している。一人で慰めなかったわけではないが、やはり敵わないものがあった、と。
それで、"お預け"からの"褒美"かと思えばこれだ。不満も垂れる。
同時に──面白さも覚えていた。
マスカルウィンはユグドラシルからあれこれ聞いていたから、一度目にヴェルグが魔族大陸へ渡った理由も知っていた。概念空間で概念と対話をし、答えを持ちかえってくること。それが為されたら全ての懸念が断たれ、サクっと魔素源王を殺してあとは自堕落退廃ライフ──のはずだったのに。
断ったという。
それが面白くて面白くて。なぜって、あのユグドラシルはずっと「そこから先が完全に見えない。何をするつもりかは知らんが、せいぜい楽しみにしておけ」と言っていたから。
予知。予言。未来を視る力。
未来視を容易く上回る彼の存在を、面白がらずにどうしろと。
ユグドラシルの残滓と言える今の人格でも、本来のマスカルウィンという少女、あるいは女性らしい人格でも──趣味嗜好はそう対して変わらない。
子供が好きで、退屈に飽いていて、今はそれに加えて快楽を求める。
そんなマスカルウィンの感性をして、相手を「太陽のようだ」と思ったのはこれが初めてのことだった。こちらの世界には太陽自体ないというのに、だ。
まるで「世界には希望しか満ちていない」と言わんばかりの瞳。
けれどそれはおかしな話でもあった。
聞けば先日、少女は仲間を失っているらしかったのだ。仲の良かった同性で同年代の仲間。それを二人失って尚、どうしてこの瞳ができるのか。
「人間。人間とは全てが"ああ"か?」
「我を人間に含めるか、非人間」
「どうでもいい。だがお前は人間を多く見て来ただろう。……異様だと、そう思わないか」
「克己。あるいは不屈。……だが我には……強迫観念のようなものを感じる。危うい少女だ」
「……どうでもいいが、お前達一人称と口調が似通っていてわかりづらいな」
聖獣パピルサグに頬を舐められながら、快活に笑う少女──ラヴ・グラットルを見守る三人。
マスカルウィンと、ワォスタクラインと、アモルファス聖。
ここの三人だけで世界を敵に回し得る過剰戦力。ラムナザール四世も呼ぶことを考えたとヴェルグは言っていたが、流石に王国、それは叶わなかったらしい。
「うん。……決めた」
その少女が。
ラヴが、三人に向き直る。
「臨時パーティ、よろしくお願いします!」
「ああ。よろしく頼む」
──ある高ランククエスト。ギルドが長年請け負ったまま解決できていないそのクエストに、世界中の白銀章冒険者が集められた。それに応じたのがこの三人で、もう一人とは現地での合流予定。そこにラヴ・グラットルも同行してほしいと──白銀章持ちの一人が言い出した、というのが"物語"の導入だ。
無論、ここにいる三人の身分は全て偽造。ギルド章も完全なる偽造。ただその身の"確からしさ"はあの判議会が認めたということで、誰も文句を言わない。
判議会がどこぞのストーリーテラーの手先だなんて誰も思わないのだから。
そうして今、ラヴ・グラットルが申し出を了承し──何故かペットになっているパピルサグを加えて、その"高ランククエスト"の依頼の地に行く、というのがこれからの流れだ。
「改めまして! 金章冒険者のラヴ・グラットルです。格闘家で、戦士スキルと剣士スキルを少し齧りました。魔法もちょっとだけなら使えます!」
「私はルウィン。白銀章冒険者で、オールラウンダーだよ。よろしくね!」
「……我はクラインだ。同じく白銀章持ちだが、剣と魔法が主体で、それ以外には明るくない。知識がないわけではないが、得意ではない」
「ルーファスという。白銀章を取ったのは随分と昔故、今の冒険者の質の高さには驚かされるばかりだ。ラヴ・グラットル。貴殿の強さ、確りと見届けさせてもらおう」
一瞬で切り替わったマスカルウィンに面食らった様子のワォスタクラインも、けれどなんとか取り繕うことに成功した。
マスカルウィンはルウィン。ワォスタクラインはクライン。アモルファス聖はルーファスとそれぞれ偽名を名乗り、偽りの身分で過ごすことになっている。たとえラヴ・グラットルが三人の名前を知らないとしても、どこからか「知っている者」に漏れた時が面倒すぎるからだ。
「それで、もう一人って誰なんですか? カラジェット……さんに聞いたら、帝国の人かもしれないって」
「ううん、その人じゃないよ。来るのは最近王国で白銀章に認められた人だから」
「え……それってもしかして、バーグさん!?」
一気に乙女の顔になるラヴ・グラットル。
乙女の顔……あるいは捕食者の顔。愛も恋もよくわかっていない彼女にとって、興味と憧れと、そして「いずれ追いつき、倒してやる」という想いは全て同じである。
「あ、それと! この子はパピルサグちゃん! なんだか懐かれちゃって……魔物だけど、賢くて良い子だから、倒さないでください!」
「魔物、であるか」
「……やっぱりだめですか?」
「否。構わない」
当然のことではあるけれど。
パピルサグは聖堂の聖獣だ。そしてアモルファス聖は神殿の長である。
聖堂と神殿はかなーりバチバチの関係にあって、パピルサグは長生き且つ諜報活動を得意とする聖獣であるので──アモルファス聖のことは良く知っている。それは逆も然りだが。
だからバチバチである。偽名を名乗ってラヴ・グラットルに近づいてきたアモルファス聖を最大限に警戒している。惜しむらくはここに彼女の言葉を聞き取れる存在がいないということだろう。
もし聞き取ることができていたら、驚くはずだ。
その美しい見た目からは想像もできないような汚い言葉が漏れまくっているから。
「……そろそろ移動を開始したいのだが、構わないか、クライン、グラットル」
「えー、なんで私には聞かないのー?」
「お前に準備など必要ないことは既にわかっている。……それが我に無かったものだということもな」
「あーあーあー、シリアス禁止シリアス禁止。じゃ、グラットルちゃん!」
「はい!」
「──着地、頑張ってね」
「え」
背負い投げ──の途中でリリース。
何を言う暇も無く目的地の方向へぶっ飛んでいくラヴ・グラットルの後ろ姿に、はぁ、とため息を吐くワォスタクライン。
「我が転移を使えるのだから、それで行けばいいものを」
「こっちの方が修行っぽいでしょ。正直あの子のポテンシャルがどれほどかは知らないけど、魔素源王を倒せるくらいにならないとダメらしいし」
「クライン殿。申し訳ないが、我は転移を使用できぬ。共に連れて行って貰えぬだろうか」
「ああ。……元魔王と聖王が共に、というのは、少しばかり可笑しな図だな」
「あれあれ、ちょっとちょっと、ナチュラルに私を置いていくような会話を」
「走っても追いつけるだろう。ルウィン、お前は存在比重が高すぎて魔力を多く浪費する。すまないが定員オーバーだ」
「……クラインさんを食べたら次元スキルとかデーモンスキル覚えられないかなー」
「次元スキル:転移」
あ、と。
本当に置いて行ったな、と。
マスカルウィンの中のユグドラシル人格……偉そう人格が鎌首をもたげる。
けれど、ふるふると首を振って。
「逃げるってことは、可能性あるってことだよね?」
ニタァと笑いながら、疾走……爆走を始める。
ラヴ・グラットルを投げた場所。ワォスタクライン達の転移地点へ。
着いた。
まだラヴ・グラットルは落ちてきていない。もう少し強く投げればよかった、なんて思いつつ……転移で来て、野営の準備を進めている男二人に飛び膝蹴りをかましてみるマスカルウィン。
掴まれるでも阻まれるでもなく避けられ、背後にあった樹木が消し飛んだ。
「仮にも仲間に対して行う威力ではないな」
「そう言うな。これでも多少心は踊っている。あの人間とは違う、同等程度に渡り合える者が二人もいるのだ、今回の目的とは別にいくらか手合わせをしたいとは思わないか?」
「良い。それは我にとっても益となる話だ。だが、申し訳ない。この場、この件において最も弱きが我である。手合わせになるよう努力はするが、失望をさせてしまうだろうことを謝罪したい」
「真面目に考えすぎであろう、ルーファス。この女は暇を潰したいだけだ。……あと話しやすさの点において今の人格より先ほどの人格の方が楽だ。ずっとあっちでいてくれ」
「酷いことを言うな、流石は魔王だ。ふふ、まだ出会って間もないというのに人格否定と来た。今まで悪逆非道の限りを尽くしてきただけはあると褒めるべきか?」
「……言い返す言葉はない。その通りだ」
「む。おい、認めるな。それでは悪者がこちらになるだろうが」
「悪者っつーか悪ガキだろ。はぁ、お前ら全員堅苦しいからスムーズに行くと思ったら、なんかバチバチなのな」
お、と。
聞こえて来た声に喜色の顔を返すマスカルウィン。振り返れば──まぁ、なんかおかしな仮面を被り、体格を完全に隠したやつがいるのだけど。
「……なんだその恰好は」
「言っただろ、これがバーグって変装なの。ラヴ・グラットルは鋭いからな、ヴェルグと体格が一緒だとバレかねん。ルウィン、お前も人格切り替えて遊んでないでどっちかに統一しろ。アイツマジで鋭いぞ」
「えー。こっちからあっちに変わるたびに変な顔する魔王が面白かったのに、おしまいかー」
「やはり揶揄っていたか。……すまない、我はそういうものへの対応に慣れていない。面白みを損なったのであれば謝罪する」
「否。そういう話ではないように思うぞ、クライン殿」
「うわこいつら口調似てんな。声でわかるからいいけど」
マスカルウィンと全く同じ感想を抱いたヴェルグは、ふと顔を上げる。
数瞬遅れて、三人もその気配に気付いた。
「……ワォ……ああいや、クライン。知り合いか?」
「否。お前こそ知り合いではないのか。行って帰って来たばかりだろう」
「ばっかお前、俺がドゥームスの条件飲むためにどんだけ魔力吐いたか知らねーだろ。そんな誰かと会ってる時間なんかなかったわ」
「ボロが出る、というのであれば、人間。お前こそ今から徹底しておくべきだろう」
「ヴェルグ殿。貴殿は未だ魔物や魔族を殺し得ないのだろう。ならばここは我が出よう」
敵性存在──ヴェルグにとっては「赤点表示」、他三人にとっては濃密な魔素の気配。
ただ妙なことに、そいつは歩くような速度でこちらに向かってきている。
聖剣アガベー、聖王の粛清剣を抜く男二人と、魔法使いスキルで魔法スキルの充填を開始するマスカルウィン。
果たして──現れたのは、襤褸布と包帯を纏った、マミーのような男だった。
普通のマミーと違う所は纏う魔素の量と──圧倒的強者の気配。魔族であるから、ではない。それは武芸者としての、剣客の圧。
「なんだクレイドルかよ。どうした、わざわざ」
「……」
「お、マジ? ナイスだなそれは。ファントムに言っといてくれ、そこまでやってくれたらこっちもやり遂げるってさ」
「……」
「ああいいよいいよそれについては。お前も知らなかったんだろうし。とはいえお前だって自分の限界がそこだって思いたいわけじゃないんだろ? だったら……ああ、そうかい。頑張んな」
「……」
会話である。
まるで友人と話すかのような。あるいはマスカルウィン達と話すかのようなテンションで、ヴェルグはその剣客と談笑する。
三人が飲み込んでいる唾など気にも留めないままに。
ワォスタクラインは魔王だ。アモルファス聖は聖王だ。マスカルウィンは"二周目"だ。
それをして――このマミー、クレイドルと呼ばれた魔族には。
「まぁ今日から例の修行期間に入るから、あんま近づかないでくれ。ワンチャンラヴ・グラットルが突っ込んでいきかねん」
「……」
「そんな猪突猛進なの。わかったら帰る帰る。そろそろ飛んでくるからな」
「……?」
「ああ、なんか投げたらしい。……いや殺さない殺さない。死んでも生き返らせるから大丈夫。ああはいはい、じゃーなー」
突然地面に黒い穴が開き、男がそこに沈んで行く。
男が沈み切れば穴は閉じ、残るは当然のように草木だけ。
「聖騎士スキル:聖域。……アイツも大変だな。直で伝えにくりゃいいのに、パシられてやんの。……それとも解析に力使い過ぎて動けないとかか?」
聖域により残留魔素が消える。完全に消えたことを確認し、聖域を解き。
「……なんて顔してんだお前ら。そろそろラヴ・グラットル来るからボロ出すなよ」
「人間。お前こそ当然のような顔をして魔物や魔族と会話を始め、怪しまれるようなことはするなよ」
「あー、確かにありそう。その忠告は結構助かるわ」
何も不思議なことは無かった、とでもいうかのように。
慣れているマスカルウィンはともかく──二人にはやはり、異様な光景に映ったらしい。
さらには二次被害として。
「……言葉が、わからなくなった……か」
元魔王が、少しばかり寂しそうな雰囲気を纏っていたとか。
飛んできたラヴ・グラットルをマスカルウィンがキャッチ──せず、彼女はスキルで減速して自身だけで着地。そうして、ようやく修行パートの開始だ。
ある程度ファントムが"ストーリー"を組んでいるので大枠はシナリオ通りに動くつもりだけど、細部は自由にやる。
しかし、パラレルワールドへ繋がる転移紋の解析、及び「フレースヴェルグが出現しなかったこと」で完全にドゥームスの手に落ちた世界が三つも見つかったのは重畳と言えるだろう。
今回の手合わせでドゥームスは自身の足りない部分を見つけている。そこに他の世界のドゥームスのリソースを取り込めば──まぁビッグ・バン三秒くらい続けたくらいじゃHP消し飛ばない完全体……究極体ドゥームスになるんじゃないかな。
それを倒せるようラヴ・グラットルを育てる、と。
いやぁ、育成ゲーとかシミュレーションゲームは全然やってこなかったからなぁ。この中で一番「誰かに何かを教える」ことに長けているのがアモルファス聖なので、大体の方針は彼に任せるつもり。
結構な無理ゲーだとは思ってる。まぁできなくてもいいんだ、俺にとっては物語とかどうでもいいし。
それよかどうにかして三人に修行パートを任せて、俺は研究を進めていきたい。バーグのメインウェポンが剣であるのは知られているだろうし。反対にアモルファス聖は格闘家スキルを織り交ぜて戦うので師匠としては持って来いのはずなのだ。
マスカルウィンも格闘家スキルはマスターしているので、体格差を考えた戦いなんかもできる。そして戦闘経験値で言えばワォスタクラインが最強だ。対魔族の経験もな。
ほーら俺やることない。
「バーグさん! お久しぶりです!」
「……ああ」
「先日は本当にありがとうございました。……その、それで、お願いがあるんですけど」
「今は依頼達成が第一だ。その後にしてくれ」
「弟子に! してください!」
話聞いてた?
「今は依頼達成が第一だ。その後にしてくれ」
「弟子にしてください!」
「今は依頼達成が第一だ。その後にしてくれ」
「弟子に!! してください!!」
「今は依頼達成が第一だ。その後に」
「してください!! 弟子に!!!」
……おーいファントムさんや。
聞いてないぞ。こんな熱量は。あとお前やっぱおかしいよ。なんでまだその目ができる? ヴァネッサとポリウィック失ったばっかりだろ。
……良い感じに裏切って、良い感じに死ぬ。
あー、うー。
まぁ……恋、あるいは憧れは、便利だけど。……これ効かないまでないか? 本当に何も感じていないのだとしたら、ファントムが望むような"ストーリー性"なんて夢のまた夢──。
「こーらー!! ああっ、やっぱ居やがったな変なの!! 前代聖王がいる時点でおかしいとは思ってたが、やっぱりラヴを狙ってたか! くそ、ラヴコイツから離れろ!」
「あ、パピルサグちゃん! 良かった、私だけ行っちゃったから迷子になっちゃうかと思って、きゃ、あーわー、舐めないで、引っ張らないで~!」
「抵抗するなばか! こいつはあたしでも敵わない奴だ! ラヴ、お前はそろそろ相手の格を悟れるようになれ! でなきゃ死ぬぞ!」
「引っ張っちゃダメだって~! 今私バーグさんに弟子入りを申し込んでるんだから! あ、もう、どうしたの、いつもはとっても賢くて良い子なのに!」
「少なくとも今のお前よりは賢いよ!」
うーむ。
マスカルウィンの助言があってよかったな。普段の俺だったらツッコミまくってた。
そーだったそーだった、魔物や魔族と話せるのは特殊スキルなんだよな。あぶねーぜ全く。
そしてナイスだパピルサグ。そのまま持っていけ。俺は逃げる。
「何がダメなの? バーグ。良いじゃん、弟子にしてあげたら」
「ふむ。バーグ殿の腕であれば、弟子を取ることもあるものだと思っていたが」
「どの道彼女は金章冒険者。此度の依頼は我らがメインだ。その傍らで稽古をつけてやっても問題はないだろう、バーグ」
うわ。
ひっさしぶりのバックスタブが。
……ワォスタクラインとアモルファス聖は本気で言ってるけど、マスカルウィンだけニヤついてやがる。あんまり度が過ぎるとまたエロお預けにするぞオイ。
「ち、やっぱりこいつらも敵か! 前代聖王に……あたしの記憶違いじゃなきゃ、魔王……だけど魔素がない奴に、あと変な奴二号! ……いや、よく見たらマスカルウィン帝国の皇帝、か? ……なんだここ、やべーのしかいないぞ! ラヴ、ここは危険過ぎ──」
アサシンスキル:サイレンス。
まぁ流石に話が進まないので黙らせる。他の奴らにとっては聞こえない、あるいは魔物の唸り声程度にしか聞こえないのだとしても、俺の耳にはキンキン届いているからな。
「──! ──!? ……ぐぐぐぎぎぎぎぎ!!」
あー、そうだった。コイツちゃんと聖獣なんだった。
「……もー。パピルサグちゃん? めっ! あんまりふざけると、嫌いになっちゃうよ?」
「っ! ……」
「うん、偉い偉い。ごめんね、今仕事中だから」
「仕事中に弟子入りするのもどうかと思うが」
「じゃあ改めて、弟子に!! してください!!」
「ちょっとは話聞けよ」
……。
まぁ、埒が明かないのはそうだ。あっち三人も手持ち無沙汰だろうし。
「……依頼期間中だけだ。それが終われば俺は第二王女の狗に戻る。いいな」
「はい! お願いします!」
さて。
どう「いい感じに裏切って」「いい感じに死ぬ」べきかなー。
野営。
例の如く俺は携帯食料だろうとなんだろうと食べる気はないので、少し離れた岩山で周囲のマッピングしながら、考察資料を整理する作業に入っている。
色々前提条件が変わったからな。捨てて良い考察と残しておくべき考察の区別をちゃんとつけないと、間違った答えに行きつきかねん。
一応。
本当に一応だけど、奴隷メニューはしっかり見ている。シーファ、バルクス、メアリーのバイタルサインに乱れはない。その下に続くアモルファス聖もまた然り。
リシをアスガードに置いてきたのがどう出るかはわからないけど、まぁ悪いことにはならんだろう。
「バーグさん」
「……なんだ、ラヴ・グラットル」
「グラットルだけでいいです。……その」
「まず口調をもう少し崩せ。初めて会った頃に戻っている。……まぁ今回は初対面が三人いるからだろうが」
「あ、……えへへ、ごめんなさい。でも、弟子入りするんだし、師匠って呼ぶべきなのかもって」
「要らん。で、何用だ」
「あ、うん。……ちょっとね、最近色々あって……自信を無くしちゃって……まして」
ああ。
良かった、ちゃんと参ってるんだな。仲間が死んでも何とも思わないサイコパスってわけじゃないならいいさ。それはファントムの"ストーリー性"とかに関係なく、人として。
俺が人道を説くのはちゃんちゃらおかしい話だけど。
「聞いた。精霊遣いと聖女が死んだとな。魔物に食われた、だったか」
「……はい。ヴァネッサちゃんとは歳が近くて、話も合って……ポリウィックは凄くひたむきな人で、ちょっと影を帯びることもあったけど、前を見続ける人で。……でも、二人とも……私の、あたしの……力不足で死んじゃって」
「冒険者だ。そういうこともある」
「……はい。他の冒険者の人からも、そう言われました。冒険者は、思ったより夢がなくて、思ったより華がなくて……思ったよりも残酷だ、って」
イグニスのような完璧超人が四人も集まることの方が珍しいんだ。
冒険者パーティなんて簡単に瓦解する。一人のミスで、あるいは敵との相性で。王国地下ダンジョンにおいてはイグニスだって何度も死んだんだ。
今更だろ、とは……まぁ、俺なら言ってたけど、バーグは言わないな。
「俺の死者蘇生を頼っているのか?」
「違います。……でも、この先……私が誰かと仲良くなった時、その人が死ぬかもしれないって考えちゃったら……私はもう仲間を持てないかもしれない。だから、強くならなきゃ、って」
「そうか」
そういうメンタリティなら、ポリウィックとヴァネッサを見つけても引き合わせない方が良いかもしれんな。ドゥームス倒したら会わせる感じで。じゃないと「仲間は戻ってくる」って印象に行きかねん。
「バーグさんは、仲間って」
「いない。過去も。……理由は大体同じだ。仲間を作った所で、どうせ誰もついては来られない。そんな弱者に気を遣っていられる程俺の気は長くない」
「……前に、なんでそんなに強いのかを、聞きました。……あ、聞いた、よね」
「ああ。聞かれた」
「合ってるかどうかはわからないけど……バーグさんが強い理由は、わかった、と思う」
「へえ」
「……強くないから、だよね」
……。
さて、どう答えるべきか。三周目だからだよ、と素直に言ってやるのももう良い気はしているが──。
「バーグさんは、心が強くない。だから仲間を作らないし、人からも距離を置く。多分、怖いのとは違う。ちゃんと自分で自分のことを理解してて……傷きたくないから、でもない。傷つくことよりも、怖いことよりも、痛いことよりも……もっと大事にしてることがある」
──……。
「自分を変えたくない。弱い自分を成長させたくない。そのままでいたい。強く強く、弱く弱く。……バーグさんは、誰よりも強い意志で、弱く在り続けることを望んでいるから……そんなに強いんだ、って」
「どうだかな」
「うん。本当がどうかはわからない。けど……それはあたしが目指す強さじゃない」
「ならなんで俺に弟子入りをしたんだ。あっちの三人の方が色々適していただろうに」
「得るものがあると、確信したから」
淀みなく。
ラヴ・グラットル、ね。
「あるいは本当に、俺を超えるかもしれないな」
「ううん、まだ。それだけじゃ足りないって自覚がある。……私はもっともっと強くならなきゃだから」
そういう意味じゃあない。
この三周目ステータスゴリ押しマンを。圧倒的手数初見殺しマンを。
プレイヤーという名のチート野郎を。
超えていく可能性が、越えていく可能性があると。
つい、本心から思っただけだ。
「もう遅い。今日はとりあえず寝ろ、ラヴ・グラットル。明日が万全であるようにな」
「はい! 師匠!
「夜だ。大声を出すな」
「はーい」
それが誰かの悪戯でないのなら。