アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
時は来た。
当初の予定よりちょっと早いしなんなら俺師匠らしいこと何にもしてないけど──裏切り、そして死の時間である。マスカルウィン達にパピルサグを抑えてもらっておいて、決行だ。
丘陵の魔素フィールド……というか魔素溜まりみたいになっているところの一つを浄化し終わったラヴ・グラットル。彼女に「夜少し付き合え」という簡素な呼び出しをこっそり告げて、姿を消すという意味深ムーブをかました後。
大きな大きな、満天とさえ表現できる程の月を拝す丘で、ラヴ・グラットルを待つ。
して、彼女はやってくる。
どこへ来いとも言っていないのに、ここ──初日、ラヴ・グラットルが弱さを見せたあの岩場に。
「バーグさん……?」
鋭いな。
来ました、とかじゃない。俺がおかしい雰囲気を纏っていることに気付いているか。
「すまないな」
「え──うっ!?」
彼女の瞬きに合わせて最速で動き、その首を刎ねる。
……防いだか。ちゃんと成長しているようで何より。
「ぁ……は、……え、え……」
いや、防ぎ切れてはいない。ギリギリで避けようとして無理だと判断し、咄嗟に右手を挟み込んで盾とした、って感じか。その証拠に右手はもう使い物にならない。
んー。できれば首を浅く斬って、の方がよかったんだけどな。ラヴ・グラットルは格闘家だから、腕が使えないのは痛いだろ。
判断は見事だけど。
「バーグさん……なんで」
「"ヒトの身でありながら聖気を宿し、自在に操れる脅威を滅せよ"──それが俺に下された命令だ。ラヴ・グラットル。聖石が何なのか、聖水とはどういうものであるかについては、ルーファスから教わったな」
服の一部を破き、それを止血に使うラヴ・グラットル。
逃げようとはしない。どころか……闘気が迸っているように見える。
裏切られた事への絶望などは無いらしい。ファントム、この少女からカタルシスを引き出すのは相当骨が折れるぞ。
「聖水は聖女が心を消費して作るもの。聖石とは長い寿命をもつ天使がようやく残骸となって出来上がるもの。──だから貴重だし、だから魔族は滅びない。それを」
右腕をだらんと垂らし、左腕……左手だけを握り締めた少女は、深い呼吸を落とし。
「ヒトの身で、自由自在に操り得る存在などあってはならない。──故に死ね、ラヴ・グラットル」
斬りかかる。
けれど剣は、横合いからの衝撃で逸らされた。ラヴ・グラットルの左拳──そのまま彼女は回転し、使えなくなったはずの右腕による裏拳を叩き込んでくる。
そんなもの効きはしないけれど、ちゃんと防ぐ。
自然治癒力が勝った、とかではない。止血こそされているものの、右腕は大きく切り裂かれ、白い骨まで見えている始末。それを武器に使うか。
「誰、ですか。それをバーグさんに命令したのは」
「魔素源王、ドゥームス」
「……魔王とは、違う人なんですね」
もう力も入っていないのだろう右腕をはじき返し、その腹に蹴りを入れる。態勢を整えるのが間に合わなかったのだろう、モロにそれを食らった彼女は吹き飛び、近くの岩に激突した。
軽い。いや少女だから体重が軽いのはそうなんだろうけど、それ以上に軽い。羽を蹴ったかのようなこの感覚は、戦士スキル:軽量化だろう。いつ発動したのか、良い判断をしている。
ただ──。
「……なんだ。この程度か。……これならもっと早く殺せば良かった。何が脅威だ、これなら」
「うるさい……」
「ん、気に障ったか。だが安心しろ、全てがどうでもよくなる。なんせ死ぬのだから」
「バーグさんには、言ってない!」
大声。ウォークライと覚醒の同時使用? それにポーションも飲んだな。
「なんだ、じゃあ誰に怒っている。錯乱でもしたか?」
ただ、死に体なのは変わっていない。
いくらステータスを上げたとて、何が変わるということも。
「うるさい、うるさい、うるさいうるさい……口を挟まないでよ。……私の中から、出ていけ……」
「遺言はそれでいいか。まぁ、誰に伝えるということもないが」
「消えて!!!」
「!」
声と共に──デルヴァーザン丘陵の九割が、聖気によって満たされる。
なんだ。なんだこの出力は。エラストマ聖でもこんな規模の広域浄化はできないぞ。あるいは、俺の聖域より広いんじゃないか、これ。
「私は……あなたの、おもちゃじゃないから……」
ゆらりとラヴ・グラットルが立ち上がり、そして蹴りを入れてくる。これも当たったところでどうにもならないけど、ちゃんと避ける。ちゃんとバックステップして距離を取る。
「……バーグさん、ごめんなさい。時間を、取らせました。……これで邪魔者はいなくなったから、ちゃんと勝負ができる」
「裏切りと不意打ちをくらって、ちゃんと勝負、か?」
「魔族は"今から攻撃するぞ"って言ってくれるの?」
……。
ふん。
「ドゥームスって人は、強いの?」
「強いし、悪辣だ。俺がこうして反抗することもなく従っているくらいには」
「そっか。だからバーグさんは私をこのパーティに入れたんだね」
「ああ。お前を殺すために」
「私を強くするために」
んー。俺そんなに大根かな。
まぁ本心じゃないのが透け透けなのはあるんだろうなぁ。
「それじゃあ、この後の流れは、バーグさんが私を瀕死にして、でも殺さないで……私がもっと強くなってからまた現れて、私に殺される、とかかな」
「……」
「馬鹿にしすぎかも、それ」
だってよ、ストーリーテラーさん。
「ホントにバーグさんが私を殺す気なら、私が防ぐことのできる攻撃なんかしないよ。防御が間に合ったのがあり得ないもん。さっき接近戦に持ち込んだ時もわざと蹴って距離を取らせたし。必殺の覚悟があるなら、こっちの腕を掴んで引っ張って、そのまま首でもなんでも斬っちゃえばよかったのに」
それについては、俺のせいか。
戦闘の本気感。うん、俺が出せるものではないな。
「……そうだな。まぁ大体認めるよ。お前の言うことは大体合ってる」
「!」
だから。
「安心するなよ、ラヴ・グラットル。そういう理由があるからと言って、殺さないなんて言ってないぞ」
斬り捨てる。
奇跡の命剣を使ったこと以外は、本気の斬撃。
バフなんかを盛っていないとはいえ三周目ステータスゴリ押しマンの最速の一撃だ。防ぐことはおろか、認識できる存在も限られてくるだろう。
当然のようにラヴ・グラットルのHPは1まで落ちる。HPが残り1であるというのは、果たしてどんな感覚なんだろうな。死の際。淵。それはどのような世界なのか。
「……」
少女が立ち上がる。
……ん? いやいや、瀕死だぞ。確かにHP1でも死んでないから動けることまではわかるけど、奇跡の命剣はしっかり全身を斬っている。両断こそしていないとはいえ、臓器類に致命的なダメージが入っているはずだ。
気合とか精神論で立てるものじゃない。
幽鬼が如く立ち上がったラヴ・グラットルは、強い目で俺を見る。
何故だ。なぜまだ「世界は希望しか満ちていない」という瞳をしている。俺が生き返らせてくれるとでも思ってるのか? 王国地下で死に過ぎて、死とは終わりではない、なんて勘違いをしたのか?
奇跡の命剣、やめるか。一度殺して……パピルサグが死者蘇生使えたはずだから、完全に殺してから去ろう。俺のせいで命を舐めたというのであれば、俺が認識を変えなければ。
「バーグさん」
「なんだ」
「この世界は、好き?」
笑み。
あと一撃、何か、小突かれでもしたら死ぬ状況で。
あるいは失血死もあり得るのだろう。ここがゲームではない以上は。
だというのに、なんだその質問は。
「答えて」
「……好きだよ。俺はこの世界が大好きだ」
「そっか。──私はね、大嫌い」
「そうか」
そんな瞳をしておいて。
そんな言動をしていて。
そうなのか。
「でもね、嫌っていたのは、煩かったからなんだー。ずーっとずーっと、生まれた時からずーっと頭の中で、魔素を消せとか、魔物を殺せとか、魔族を滅ぼせとか……本当にうるさい声がしてて。だから世界が嫌いだった。この声が世界だってわかってたから」
三人目のフレースヴェルグゆえ、だろうな、それは。
同情はするよ。世界がうるさいのは俺もそう思うから。
「バーグさん。なんでバーグさんは世界が好きなの?」
「美しいからだ」
まぁ。
この返答で何かが変わってしまうのだとしても、構わない。
「この世界に住まう者。この世界で抗う者。この世界で死にゆく者。人だろうが魔物だろうが魔族だろうが、俺は全てをして"美しい"という表現を使う。あるいは脳内に語り掛けてくる煩わしい声も、今もどこかで俺達を見ているストーリーテラーも。あらゆるものへ俺はその言葉を贈る」
それは俺が、この世界を愛しているから。
「……そっか」
「そうだ」
「なら──私とおんなじだね」
何を言っている、と言おうとして。
眼前に拳があることに気付いた。
"ちゃんと防ぐ"、"ちゃんと避ける"ができなくて、モロに受ける。
当然、拳が負けて砕ける……けど。
「どう? 私、死んでる?」
「いや。……死んでいない」
「良かった。ならまだできるね」
拳が砕ける。
それは明確なダメージだ。HP1でそれをやれば、それだけで死んでもおかしくない。
なのに、死なない。確実にHPは全損しただろうに、死なない。
なんだ? 月の民と同じか? 月のフィールド効果で死なないとかそういう?
「死ぬまでやろうよ、バーグさん。どっちかが死ぬまで」
「戦士スキル:ガイアスラッシュ」
もう奇跡の命剣は使っていない。
一応月の民の線も考えて聖騎士スキル:不死殺しの拡張武器である【ハル・ピュリオン】で行うガイアスラッシュ。蘇生封じにもなるこの攻撃は、さらに浅く斬るとかを考えない、ラヴ・グラットルを両断するつもりで放った。
果たしてそれは、迎撃に拳を繰り出した少女の腕さえをも巻き込み、胴体を上下に割断する。
「……あー」
「すまんな、もう少し上を狙うべきだった。痛めつけるつもりはないんだ、すぐに」
「……折角なら、お願いがあるんだけど」
あと数秒もすれば死ぬ。
その状態で、ラヴ・グラットルはまだ。
まだ──あの瞳をしている。
「なんだ」
「王国地下で……バーグさんが、使ってた奴。……あれで、殺してよ」
「意識あったのか」
「うん。……あれで、憧れたんだよね」
……うーん。
ビッグ・リップで殺すと、心臓も消し飛びかねん。それは本意じゃない。
悪いけどここは首を刎ねて終わりにさせてもらいたい。
「お願い。弟子から、ししょーへの、お願いです」
「……」
師匠、か。
できないことは言わない主義だ。だというのに、「この期間だけは弟子にしてやる」とか言っておきながら、師匠らしいことはなにもしなかった。
細心の注意を払って心臓に当たらないよう攻撃を放てば、いけるか。
よし。
「『最大物理』」
毎回毎回スキル名を並べるのもダルいので、光の鐘楼の『ひれ伏せ』と同じくbatコマンドに変えたビッグ・リップのバフ。
一気にMPとHPが消費され、世界が震撼する。
「……どこまで走ったら、そこまでいけるんだろう」
「答えが欲しいか?」
「ううん。これは独り言」
「そうか」
じゃあ。
「
振り、下ろ──。
「嘘吐いてごめんなさい。
最初に出たのは「ハ!」という笑い声だった。
いや。いやいや。いやいやいや。
良いじゃないか──なんだ、なんだ、そういうことか!
俺の視界。
そこにはラヴ・グラットルが立っている。いや、佇んでいると表現するべきかもしれない。
「聖気を自在に操れるんだ。最初に思った通りだ。ハハ、やっぱりそうだよな。カラバ村にはお前の両親はいなかったもんな」
「……ああ、じゃあ、こっちもやっぱり、かも。バーグさんは、ヴェルグさんなんだね」
少しばかり浮いて。
不可視の翼をはためかせて。怪我は全て治癒されている。体も腕も元通り。
けれどアダルトMODは適用されていない。
つまりこいつは、
あるいはそれも小イベントと大イベントか? つくづく三流台本だな。
「今のは攻撃の威力を吸収して回復に回すスキルか?」
「ううん。攻撃の威力に合わせて時間を戻すスキル、かな。自分の時間だけだけど」
……ポーズ画面から行う手動セーブの条件が違う版か。
いよいよ主人公らしくなってきたな。
「今までそれを使わなかったのは、世界が嫌いだったからか」
「うん。聖気は武器だけど、こういう"ズル"は、私が嫌だったから。世界が私に植え付けた、私が死なないためだけのスキル。私は世界に何かを期待されていて、そうであるように、って調整されてる。だから使わなかった。でも」
拳を握るラヴ・グラットル。その拳に、周囲の聖気が収束する。
ああ、今にして思えばこれは天界降誕か。天使が二人いないと使えないスキルを単身で。あるいは一時的に人間のラヴ・グラットルも天使と見做して二人であることにしたとか?
なんにせよ滅茶苦茶だ。
「でも……ズルだから嫌だとか、そういうこと言ってたら、ヴェルグさんには追いつけ無さそうだから」
「……名乗れ。お前の種族を知って、一つ予感がした」
「
「
どうせもう裏切って死ぬとか無理だからな。バーグとヴェルグが繋がった時点で。
ならもうストーリーなんざ知ったことか。やっぱ俺に役者は向いていないんだよファントム。あくまで俺は一ユーザー、観客で消費者で読者だ。
「すまんなラヴ・グラットル。なんざ覚悟してくれたところ悪いが、俺の敵がお前じゃなくなった」
「……それは私が天使スキルを使っちゃったから?」
「そうだな。そしてお前が名前を明かしたからだ」
「むぅ……やっぱりズルはするものじゃないかも。こっちも今の本気でヴェルグさんとぶつかれると思ったのに」
すまんすまん、なんて軽口を叩きながら、それを使う。
いつか──そう、リチャード・イングリディアナの前で、一度だけ使った。
口には出さなかったけれど、あの時俺は「人間が使えてはならないスキル」の一つを使った。
今回使うのもそれだ。
「
瞬時、周囲が変わる。
真っ暗。そして光。そしてブツンという何かが切れた音がして、また暗闇。
して。
「セーブデータを修復しますか? 修復する場合、初期化が行われます。それでもよろしければ『はい』を選択してください」
「成程、万象と会話し得る、ね。ああ、システムログじゃない。ちゃんと声として聞こえるよ。──んじゃ、やろうか"世界"。ちょいと目に余るからさ」
返事は待たない。
ただ、ぶん殴る。
「ふざけた話だわな。つまり太陽とアルターの関係も小イベントだったんだろ? 元々は太陽で、それが別たれたのがアルター。もう一つの太陽。二つは別々の世界にありがながら影響し合い、そしてその下に生まれた生き物たちもまた世界間をリソースとして見合っている。聖樹ユグドラシル然り、今回俺達がドゥームスに仕掛けたこと然り。太陽の民と月の民も同じだな。元々一つだったものが二つに分かれて、互いを互いに奪い合うことを繰り返す」
ドゥームスの飛来と撃退はミスリードというか入れ子構造なだけだろう。
三流台本は俺とファントムをもそれに巻き込んだのだ。小イベントと大イベント、その単調なストーリーに。
「ああ、だからドゥームスは俺を一人目っつったのか。……アイツはアイツで何か掴んでんのかね。はぁ、踊らされたわけだ。ファントムも俺も、お前から逃れたと慢心していた。ヴェルグともう一人のヴェルグがぶつかり合うこと自体がお前のストーリー。ならその末に何が起きるのかも想像がつくってな」
殴る。
虚数世界とは違うけれど、世界に世界由来の剣が通じるとは思えないので、ただただ殴る。
「太陽とアルターの戦いは、今のところ全てアルターの勝ち。存在もリソースもアルター側が全部吸収している。太陽の民と月の民の戦いは互いに勝ち負けを繰り返している。そして俺とラヴ・グラットルは何度やっても俺が勝つ。つまり、勝つのはどっちでもいいってことだ。どっちかが勝って、どっちかがそれを吸収して強くなる。その結果さえ得られたらそれで良い」
だからあるいは、俺とラヴ・グラットルはいつか同等になるのだろう。
そして彼女のその気質上俺との戦いは避けられず──どちらかが勝ち、もう片方を糧とする。
それは結果であり報酬で、勝った方は全てを手に入れるのやもしれない。
全てとやらが何かまではわからないけれど、ロクなもんじゃあないだろう。
「セーブデータを修復しますか? 修復する場合、初期化が行われます。それでもよろしければ『はい』を選択してください」
「割合、俺は頭が悪くてね。"これ以上やっても無駄だな"とか"こいつには話が通じそうにないな"とか──そういう頭の良い答えが出せないんだわ」
「セーブデータを修復しますか? 修復する場合、初期化が行われます。それでもよろしければ『はい』を選択してください」
「だから──耐久勝負をしよう。馬鹿が音を上げるのが先か、お前が諦めるのが先か」
「セーブデータを修復しますか? 修復する場合、初期化が行われます。それでもよろしければ『はい』を選択してください──」
ついでにこの間に魔素と魔族についての考察もまとめ上げようかね。
頭は良くないけど、マルチタスクは得意だからさ。
さて、ヴェルグのいなくなった丘陵。
置いてけぼりにされたラヴ・グラットルは、ふぅ、と一息を吐いて……自らを元に戻した。
「もう出て来て良いですよ、皆さん」
「……気付かれていたか」
「気付いたのはさっきのですけどね。……あの状態の私は、いつもの私の何倍も強くなるし、何倍も……色々できるようになるので、やっぱりズルにしか思えなくて」
空間を切り裂くようにして、そこからぞろぞろと三人……と、ガッチガチに拘束されている一匹が出てくる。
「パピルサグちゃん……もしかして助けに来てくれようとしたのかな」
「是である。聖獣ゆえ、抑えるのに苦労した」
「ん……心配かけてごめんね。でも、この先また私とバーグさん……ヴェルグさんがぶつかろうとした時は、絶対来ないで。たとえパピルサグちゃんでも、邪魔されたくない」
言われてしゅんとするパピルサグ。その様子を見て、アモルファス聖は彼女の身体を縛っていたあれこれを外す。
「……皆さんも、私を強くするために集められた人達……なんですよね」
「む」
「……ううむ」
「もー、なにうんうん唸ってるの? それじゃ話進まないじゃん。別に言っても良いでしょ、ヴェルグさんが全部話しちゃったんだから」
「……確かに。これで我らがとやかく言われるのであれば、全てはヴェルグの責任か」
「では、まず謝罪を。グラットル。我が真名はアモルファス。神殿にて聖王を務める者。此度貴殿を騙し、身分を偽ったことを深く謝罪する」
「え゛」
強い人たちで、
それを見たマスカルウィンはニヤァと笑みをこぼし、同じように白状しようとしていたワォスタクラインを制し、自分が先にやる、と言わんばかりに前に出た。
「私はマスカルウィン。名前の通り、マスカルウィン帝国の初代皇帝! ──以後よろしく頼むぞ、新人類」
「へぇぁ?」
「お前、その性格どうにかならないのか? ……我はワォスタクライン。元魔王だ。既に身体から魔素は抜けているし、元より魔族ではないが……人類の敵であったことは間違いない。他の二人と違い、我とよろしくするかどうかはお前が決めろ」
「ほひゅ……」
魔王が最後の方が絶対にインパクト大きい、と判断したマスカルウィンの嗅覚は本物である。
事実聖王、初代皇帝、そして元魔王というネームバリューにくらくらして腰を抜かしたラヴ・グラットルは、そのまま倒れ──る前に、パピルサグに支えられた。
「じゃあ……もしかして、ヴェルグさんも凄い人……?」
「それは、どうなのだろうな」
「否である、とは言い難い。事実ヴェルグ殿は『最後の聖王』であるが、我はまだ聖王である」
「帝国で就いていた職も自ら辞めたのだ。今の奴は資産家、あるいは冒険者が関の山だろう」
パピルサグが「あいつは
「えと……それで、これからどうしたらいいんでしょうか」
「変わらん。奴は今別の戦いを始めた。だがお前の戦いが終わったわけではない。お前は魔素源王を倒さねばならない。先程の力を使えば魔素中毒になることなく魔素源王と戦うことはできようが、倒すまでは難しい」
「是である。先程の力をズルだのなんだのと言っていたが、否定する。今日よりの修行はそれを用いた上でのものとする」
「東の廃砦。そこに先日バーグ……ヴェルグと引き分けた魔族がいるそうだ。少なくともその魔族に勝てるようにならなければ、魔素源王など夢のまた夢」
「どうせ力に引け目を覚えてロクな修練もしていないのだろう、新人類。格闘家スキルも勿論大事だが、天使スキルの修練も行う必要がある。あるいはそれが完成されたものであったとしても、戦闘に組み込む必要があるからな」
「……はい! ただ一つ良いですか!」
元気よく返事をしたラヴ・グラットルは。
マスカルウィンを、ぎゅんっと見る。
「なんだ」
「口調、戻してほしい。お願いだから元のルウィンちゃんに戻って……お願い!」
「やはり話し難い。そうだな、グラットル。我もそう思う」
「我は意見を控えさせてもらおう」
「……ぶー。初代皇帝は威厳があった方が良いでしょー? それに、あっちの人格も私なんだから」
「話しやすさの問題だ。誰を呼ぶにも種族で呼び、主語を使わない。そのようでは、単純に無駄な脳のリソースを会話に割かねばならなくなる。人格の否定をしているわけではない。そちらの方が我らが楽だ、という話をしている」
「あと可愛い!」
パピルサグが「可愛いって……あたしにも可愛いって言うけど、もしかしてコイツと同等扱いなのかな……。ラヴ、コイツとんでもない化け物だけど、わかってるか? 大丈夫かよラヴ……」とか言っているけど、それもまた当然聞き取れる者はいない。
と。
「──楽しそうなトコちょっといい?」
聖剣アガベー、聖王の粛清剣、聖獣スキル、格闘家スキル。
それぞれの最強が一点に集められ──止められた。
影。襤褸布。
見た目だけならゴースト系の何かなのに、今にも膝を折りそうになる圧がある。
「……陰に潜むモノか」
「ああそうそう、君とは一回だけ会ったことあったね、元魔王。でもそういうのどうでもよくってさ」
ソレはラヴ・グラットルを見る。
顔なんて無いのに、見られたことをラヴは理解した。
「初めまして、もう一人のヴェルグ。ボクはファントム。有り体に言えば君の敵だけど、今は協力者と言えなくもない関係かな」
「……私はラヴ・グラットルだから、そういう名前で呼ばないで」
「ああごめんごめん。じゃあラヴ・グラットル。聞いての通り、あっちの廃砦にはボクの部下が一人いる。でも彼、元魔王より全然強いから、そこの元魔王を倒した程度で挑んじゃダメだよ。せめてこの三人を同時に相手取って無傷で勝利する、くらいにならないと勝てないんじゃないかな」
「部下なのに、私がどう勝つか、なんて話をするの?」
「君に勝ってもらうために彼を配置したからね。……もしかしてまだ気付いてないの? ボクだよ、そもそも」
ファントムは──楽しそうに笑って。
「君を強くすることをヴェルグに持ちかけたのも、このストーリーを書いたのもボク。君には強くなってもらわないといけない。君が強くなって、君がドゥームスを倒すんだ」
「……拒否したら?」
「してもいいよ。ボクは基本的に自主性を大事にするからね」
「拒否したら、何が起こるのか。教えて」
ニタァ、と。
目も鼻も口も耳も、顔のパーツなんか一つもないのに、影でしかないのに──ファントムが笑ったのがわかった。その場にいる全員が。
「ヴェルグが君達の敵に回る」
「……下らん。あの人間はそこまで早計ではない」
「初代皇帝ちゃんはさー、彼を理解しようと頑張るとこまではいいんだけど、でもやっぱり理解できてないよね。ラヴ・グラットルを強くしようって言ったのはボクだけど、ならドゥームスも強化するって言い出したのはヴェルグだよ。加えてヴェルグはドゥームスに稽古までつけて、異世界のドゥームスを取り込ませて更なる強化を図ってる。なんでかわかる?」
「……」
「曰く、フェアじゃないから、だってさ。初代皇帝ちゃんも、聖王も、元魔王も、ラヴ・グラットルも。ボクも。人間もそうでないのも、魔物も魔族も。──彼にしてみれば等しく他人なんだよ。だから誰かに入れ込むことがないし、世界の危機を前に公平かどうかなんてことを気にする」
君は覚えがあるだろう? 聖王。
ファントムに問いかけられて、押し黙るアモルファス聖。
あの時カワードに言われた言葉。
全てに対して平等だから、全てが無価値。かつてのアモルファス聖は確かにそれが根底にあった。
「ラヴ・グラットル。君がドゥームスを倒さなかったら、ヴェルグが倒す。それで平和になる――と、本当に思うかい?」
世界は焼き増しが好きである。
マスカルウィンはそれを知っている。
「魔物と会話し、時には人間から魔物を守るために人間側を滅ぼすような動きを見せる彼が、次に向ける矛先はどこだろう。果実だけ食べれば生きていける彼にとって、当然のように魔物を狩り、食らう君達は……果たしてどう見えているのだろう」
「ふん。新人類が魔素源王を倒しても同じ結末になるだろう。今更だ」
「いいよ、そんなに否定したいならしておけばいい。さっきも言ったようにボクは自主性を大事にするからね。世界の厄介ごとは全てヴェルグに任せて、君達はのうのうと平和を夢見て過ごす──それもアリだ。未来のことは未来の自分に任せてしまえばいいのだから──」
拳。
それがファントムの頭部を貫く。
「なんか、話し方がイライラする」
「怖い怖い。でも残念、ボクに実体はないからね。効かないよ。……うーん、なんだか怒らせちゃったみたいだから、ボクはこの辺で。それじゃあエキストラ諸君、じゃあね~」
それだけ言って消えるファントム。
消えた。影も形も無く。まるで元からいなかったかのように。
ただ。
「……グラットルちゃん。聖気ってどうやって獲得するの? 教えて」
「であれば我が教えよう。マスカルウィン。貴殿を聖女にする」
「その手があるじゃんそういえば!」
「ふむ。我も聖騎士スキルに手を出してみるか」
「じゃ、じゃあ私も」
「グラットルちゃんは天使スキルの修練! ──しょーじき乗せられてるのはわかりきってるけど、確かにグラットルちゃんとヴェルグさんだけに任せっぱなしっていうのはダメだったかも。何より
「であるな。我も一層の精進をする。グラットル。貴殿と共に」
「して――その重荷、お前だけには背負わせんぞ」
「──(あたしもだ!)」
──ここに。
更なる強さの獲得を目指す集団が現れたことは。
「はぁ、全くヴェルグは……。なーにが予定変更だ、だよ。ボクはこういう物語が見たかったわけじゃないのにさ。……急いで組み直したプロットだから、粗がないか見直さないと……」
とかなんとか、虚数神殿にてぶつぶつ呟くストーリーテラー以外は、まだ知らない事である。