アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
そこは。
「またか」
──俺の部屋、だった。
"世界"もほとほと学ばないというか。ああでも今回トラベルチップは使えないから、ある意味正しいのか。
何にせよ。
「戦士スキル:ペネトレイトスラッシュ」
躊躇など一切ない。
サンライトソードで以て、PCを叩き切る。炎属性物理最強攻撃──など、使うまでもない。一応ゲームを入れてあったSSDの位置を斬るようにはして、それでも雑に斬撃を放った。
たったそれだけで世界は崩れていく。
俺の部屋の形を保つことすら不安定になり、そして、そして。
──そこには、「テクスチャを裏側から見たかのような」光景が広がっていた。
オブジェクトとして草木や人、魔物、魔族は存在している。けれど壁や地面といったものが無い。
旧データでアダルトMOD入りの世界を斬る。
……俺はそういうことだと解釈していたんだけどな。まだ俺の目に見える世界は肌色率高め。
「必然/当然」
「ん。お前が出て来たってことは、成功と見ていいのか?」
「成功という言葉は正確/的確ではない。本当に世界/世界を斬り伏せるのであれば虚数世界/世界の外側で世界/世界を斬った方が/殺した方が早い/楽」
「まぁ、確かに」
「考えて/想像してほしい。異邦人/アナタが改造/変更したこの世界/世界。その宇宙/フォルダに旧世界/旧データを叩き込ん/ぶちこんだらどうなるか」
いやだから、アダルトMODの世界が消えて、旧データの世界になるんじゃねーのと予想としていたんだけど。
「違う/馬鹿?」
「馬鹿だから馬鹿にもわかるように教えてくれ」
「既に/過去に旧世界からこの世界/変更になった時、世界の名前/この世界はリネームが為されている/オマエがした」
「ああ、まぁそうしないと導入できないからな」
「だから上書きは/代替は起こらない/必然」
はぁ。
ファイル名が違うから、バックアップデータぶち込んだところで上書きにはならないと。
けどそれって、ゲームがどのデータ参照していいかわからなくなるヤーツじゃないのか。そもそもパスが違うし。
「本来はそう/そうなっておかしくなかった。けど/でも」
「……あ」
「それ以前に/オマエがここに来る前、陰に潜むモノ/世界から抜け出たモノが、この世界/リネーム世界と他の世界/バックアップ世界にトンネルを作った。魔素源王/ドゥームス強化のために/馬鹿?」
「つまり……フォルダは違うけど互いに読み書きのできるファイルの片方をこっちに持って来たって感じになるのか」
「そう/そう」
つまり、アダルトMOD導入後のセーブデータの下部にさらにフォルダがあって、そこにバックアップデータが入っていると。パスが変わるからぶっ壊れはしないけど、旧いデータという巨大なファイルが突然現れたと。
だから、ある意味で……「世界を斬った」というか、「物理(超巨大データサイズ)で殴った」に近いのかね。旧世界で新世界をぶっ叩いたんだ。
「現状は理解したけど、それが"世界を斬ること"への成功の可否とどう関わってくるんだ?」
「馬鹿?/阿保?」
「そうだっつってんだろ」
「そのためにワタシ/この端末がいる。現在、埒外の攻撃を/干渉を受けた世界/世界は非常に脆弱な/弱っている状態にある。修復しかできない端末/ワタシは、けれど修復さえ/ですらもできない世界/世界より強い/堅固。だから──」
修復端末が手を伸ばす。
そこに、今にも消え入りそうな光が現れた。
それを。
「こうすれば/これで」
ぎゅっとやって、ぱくっと。
食べた。
「掌握/上書き」
「……終わりか?」
「うん/そう。先にも言った通り/最初から言っているけど、異邦人/アナタの役割は世界/世界を殺すこと/斬ることではなかった。弱らせること/乗っ取りやすくすることが目的。それは言い換えれば/逆に言えば、アナタ/オマエに世界をどうこうする/変更することはできないということ/必然」
だから成功もクソもないってか。
俺の行動は手順の一つでしかないのだから。そして今修復端末による上書きが行われたことで、ようやく成功と言える結果に落ち着いた、と。
「これで世界はもう余計な干渉をして来ないんだな?」
「ワタシ/この端末がやらない限りは」
「確約しないと天界に引っ張り出すぞお前」
「しない/約束」
「……で。他に何か変わったことは? 旧データを無理矢理ぶち込んで、それがまだ繋がってるんだ。なんか変な影響でたりしないのか」
「それはこれから/未来でわかること/自分で見て。前と同じには/変わらない事は絶対に/パーヒャク無いから、十分気を付けて/大丈夫でしょ」
「無責任な」
「アナタ/オマエに言われたくはない/鏡見ろ」
ごもっとも。
「最後に/終わりに」
「おう。魔素と魔族を切り離すことについて、だろ?」
「そう/そう」
「お前を殴ってる間に纏めたよ。何をすればいいかもわかった」
「本当に?/嘘吐け」
「なぁに、三流台本の残した最後の大イベントだ。それを読み解けない俺じゃあないさ」
「……孤独/独りになる」
「かもなー。んじゃあな、修復端末」
「見守る/見ている。修復したいと/初期化したいと思ったら来て/今度こそ」
「その日は来ないさ」
さて、後は。
王道をなぞる、かね。
禁じられた聖森。
かつてここにはある魔女が住んでいた。帝国の皇妃に呪いをかけた魔女。何気に唯一の「遠隔で呪詛スキルを使うことができる」という能力持ちであった魔女は──けれどラムナザール四世という圧倒的な暴力の前に消し炭となった。
そんな森に来ている一行。
ただ、この森に住まう魔物は一体一体が災厄級の強さを持っている。
故にその歩みは「ツバナを守りつつ」という形になる。考古学的知識を持つのがツバナだけであるため、彼女を聖森の奥地に連れて行かないことには始まらないのだ。
それを苦に思うような。
心苦しく思うようなツバナは──もういない。
果たして何があったのか。彼女は「何もできないこと」を悔やみ過ぎるクセを解消していた。
あるいは──自分にもできることがあると、他人に先んじてできることがあると、理解したからかもしれない。
そしてもう一人。
普段は歌唱スキルと踊りスキルでのバフ要員としてしか戦っていなかったシーファもまた、何の心変わりがあったのか──「魔素を武器として操る」彼女本来の戦い方で、このパーティの火力役を担っていた。
アウラニと並び、駆逐という言葉の似合う様で魔物を斬り殺していく。
「シーファ、南西方向にシードスナイパーがいる。気を付けて」
「ありがとケルち! ついでにお願いなんだけど、森の木より高い土壁とか作れない?」
「私は無理だけど、ツゥが行ける。今?」
「うん!」
少し離れた場所にいるツゥ。そんな彼女に向かってケルは叫ぶ──のではなく、指笛を奏でて合図を送った。
瞬間、ケルの真下から土壁が生えてくる。魔法スキル:クレイウォールだ。
「十秒くらい欲しい!」
「わかり、ました。皆さん、少し固まって、ください!」
統制は取れている。
この五人でいる時間が長いから。取れていないのはメアリーくらいだけど、メアリーはそもそも戦闘員ではないためだろう、今は誰かの陰に潜んでいる。
さてクレイウォールで森の上部にまで来たシーファは──目を瞑る。
彼女の種族はニンフからステュクスに変わっている。その性質は川。流れを感じ取り、それを支配する。
また、シーファはこのパーティ唯一の限界突破者である。強さで比べると難しいけれど、高さだけで言えば彼女はヴェルグに次いで高い場所に居る。
故に、こういう荒業もできるのだ。
「サーチスキル:看破……からの!」
レベル差を参照してステータスや名前、称号を見抜くサーチ系スキルの最上位スキル。
それを禁じられた聖森全体に使えば、無数の魔物がシーファの視界に映り込む。
あとはそれを、魔素の槍で刺し貫けばいいだけの話。
その光景は。
「あれじゃな。ペットは飼い主に似る、というか」
「ツバナちなんか言ったー!?」
「言っとらん言っとらん! 流石シーファじゃと言っただけじゃー!」
「それならいいけどー!!」
非常に高いその殲滅力は、彼女のご主人さまを彷彿させたとか、なんとか。
そんな感じで進んで行って、一行はそこに辿り着く。
「……これが祆国の跡地?」
「みたいじゃな。……不思議じゃの、これは」
「ええ……普通ではあり得ないわ」
あり得ない。
そうだろう。ツゥの言う通りだ。
これだけ森に囲まれていて、二千年もの時が経っていて──何より誰にも言及されていなくて。
だというのに植物で覆われていたり、風化していたりしない。
どころか。
「篝火がついてる。……誰かいるかもしれない。気を付けて」
「気配はしないけど、ってことは私達より強い敵かも」
所々にある燭台や篝火。それがまだ火を揺らめかせている。
あり得ないことだ。だけど──全員が心のどこかでそれを感じていた。
まるで時が止まっているようだ、と。
「──その感覚は非常に正しい。以後、この場ではその感覚を大事にするように。でないと取り込まれてしまうからね」
「ッ!」
声は建物の裏から聞こえた。
そこから。
魔族が、出てくる。
「おおっと、不躾なことを言ったのは自覚しているし、突然現れた私を警戒する気持ちもよくわかるけれど、魔族だからと言ってそう親の仇を見るかのように睨みつけるのは種族差別というものだよ」
「……私は、喉を人間が扱う言語が出せるように変えているけど。……貴女は違うでしょ。なんで言葉が通じるの?」
「無論、人間の発声を学習したからだよ。永い時があれば、種族を超えた言語交流も難しい話ではない。発声にこそ苦労すれど、知能指数でみれば人間と魔族はそう変わらない。私が魔化した人間であるのならば尚更にね」
魔族。
本来顔があるべき場所がつるりとしていて、目や口といったパーツが一切ないその魔族は、辛うじて女性だとわかる身体的特徴を持っていた。
それが、肩を竦めたり腕を振ったりと、大仰なボディランゲージを使いつつシーファと会話をしている。
その会話の内容はしっかりと他の皆にも伝わるもので。
「ああ、いけないいけない。まずは自己紹介からだね。私の名はハープーン。ハープーン・テッペルヴィナ。君達の捜し人だよ」
また一気に強まる警戒。
ハープーンはくすくすと笑う。
「私の書物を読んだのだろう? でなければこんな場所に訪れようとはしないさ。推理としては簡単な部類だ。違うかい?」
「貴女は……魔化した人間。なのに人間を襲わない。なぜ?」
「こんな話を聞いたことはないかな。魔物が人間を食らい、しかし人間の魂に負け、人間の自我を持つ魔物となった、という話を」
「目にしたことはないけど、事例としては知ってる」
「それが私だ。元の魔化した人間の名が何だったのかは知らないけれど、私、ハープーン・テッペルヴィナは魔化した人間に食われ──けれどその魂を食い返した。そうしたらどうだ、魔素の声は聞こえるけれど、それを私が聞いている声と認識せずに済むようになったんだ。あるいは魔化した人間が未だに聞いているのかもしれないが──私の魂には干渉してこない」
さて、と。
ハープーンは。
「まずはお茶にしよう。聞きたいことがたくさんあるのはわかるけれど、立ち話は落ち着けないからね」
そう、皆を祆国の中に誘うのだった。
宙に浮くティースプーン。注がれたままの紅茶。丁度人の口くらいのところで固まっているフォーク。
割れ砕け散乱した窓ガラスは、しかし地面に落ちることなく浮かんでいる。テーブルにおかれた燭台の火だけがゆらゆらと揺らめいている。
「拝す火の里、祆国。火を愛し、火に愛された国。君達が感じているように、この国の時は完全に止まっている。祆国全体が停まっている。停まった時間は約二千年前。存在を代価にその空間の全てを凍て付かせる契約スキル──行使者の名は記録も記憶も消えてしまっていて調べようがないけれど、事実としてこの国は凍り付いた」
「……にしては、生物の気配がないけれど」
「それは当然だよ。時が止められたのは全てが去ったあとだったからね」
「誰もいないのに、そのような、代価を払ったのですか?」
「誰もいないから、だ。約二千年前──祆国の人間は、老若男女問わず魔化した。そうしてその全てが魔族大陸へと渡ったんだ。丁度その時外に出ていた私、ハープーン・テッペルヴィナを除いてね」
お茶にしよう、とは言ったけれど。
当然ハープーン・テッペルヴィナは魔族であり、シーファと違って魔素の制御ができているわけではない。彼女が触れたものは魔素が付着するから、お茶なんてできるはずもない。
ただ座って話そう、の意だったのだろう。
「ああ、正確ではなかった。私と、そして魔族の誰かを除いて、だ。その誰かが保存を選んだのだから」
「歴史を愛するものとして国を保存する、という考え方に異はない。じゃが、魔族が……元々自分たちの住んでいた場所とはいえ、魔化した人間が文化を遺そうとするのは……どうなんじゃ」
「まさしく同じ質問をしたよ。今にも自らをくべて祆国を凍り付かせようとしていた魔族に、私はそれを尋ねた。けれど当然言葉は通じなかった。いや、私の言葉を理解することはできていたけれど、あちらの発声ができなかった、が正しいね。けれど、言葉が発せなくとも私達には文字という素晴らしい文化がある。そこからは一定の距離を保っての筆談が始まったよ」
ハープーン・テッペルヴィナは、自らの魔素に浸された紅茶を飲む。
人間には真っ黒い液体にしか見えないソレを美味しそうに美味しそうに飲んで行く。
「曰く──"意思"に。"声"に負けて、私達の痕跡を消すなんてあってはならないと。誰なのかも、名前も見た目も覚えていないけれど、その魔族だったのだろう相手は必死に書き残してくれた。自由が奪われる前に、心が奪われる前に、美しき火の国を遺したいと」
「その相手は魔化していたのじゃろう。それを」
「だから彼、あるいは彼女も打ち勝ったんだよ。声に。意思に。君達の連れの魔族もそうなんじゃないのかい?」
「あー……私は助けてもらっただけだから、違うかな。そんなに強くない」
「そうかい」
紅茶を飲み干して。
「ま、昔話はこれくらいでいいだろう。その後契約スキルを使った誰かが消え失せ、誰もがいなくなったこの国で細々と暮らしていた私も魔化した人間に食われ、今に至る。それで、君達の聞きたいことを聞こうか」
「うむ。……お主の著書の中に、『そこは意思の住まう国。天の声降り注ぐ美しき国』とあった。その意はなんじゃ」
「祆国に入ってまず篝火や燭台を見ただろう? 二千年が経っても未だ燃え続けるアレを。時が凍っても尚燃えるアレを。祆国の火は聖火と呼ばれる火でね。火の精霊とは少し違うけれど、意思を持っている。あるいはそれらがあるから、私やこの国を凍らせた誰かは正気を保っていられるのかもしれない」
「この意思は魔素の意思ではないんじゃな」
「私はアレを天の声だの降り注ぐ美しき国だの、そんなポジティブな表現にはしないよ」
くすくすと笑うハープーン。
シーファは納得する。だってあの声を「美しい」なんて感じる相手であれば、まず人間と交流しようだなんて思わないはずだから。
殺せ殺せと。滅ぼせ滅ぼせと──永遠に囁いてくるあの煩わしい声を。
「シアルル王国との関係については?」
「シアルル王国は私の元勤め先だね。シアルル王国に出ていたから国一つ丸ごとの魔化から逃れられた、というべきだろう。家族は皆魔化してしまったから、幸か不幸かはわからないけれど」
「王国では何をしていたの?」
「ある機械への入力作業を」
それ以上話す気は無い、と言わんばかりに、トーンを低めるハープーン。
けれどそこは既に通り過ぎた話。
「バルクスに祆国の情報を入れたのが貴女。そういうこと?」
「終末防衛機構を知っているのかい? なんだ、それならそうと言ってくれたらよかったのに。そう、当時、各国から一人ずつ、王国で自国の歴史を紹介してほしい、という招待があったんだ。小競り合いをしていた帝国へさえもね。そこに選出されたのが私だった。故に祆国の歴史と、そして滅んだ後の事も入力をしたよ。滅んだ理由について事細かに書こうとしたら、言葉は呪いだからやめてほしいと断られてしまったが」
「ああ……当時の言葉狩りが原因じゃったか」
魔素だの魔化だの魔族だの。
文字にさえ呪いがかかるという迷信。それはバルクスにまで及んでいたのだ。
「聞きたいことはそれくらいかな?」
「どうやって生きてるの?」
「おおっと……やっぱり魔族の目は誤魔化せないか」
「当然……って、あ、そっか。みんなはわからないのか。えーとね、見てわかる通りハープーンは魔素を垂れ流しにしてる。というか大半の魔族はそうなんだけど……それだと魔族って死んじゃうんだよね」
そうだ。
魔族が人間の大陸に居座らない理由。魔素の薄い場所では生きていけない──体内の魔素が切れたが最後、存在を保てなくなってしまうから。シーファのように「完璧に魔素が漏れない体質」でもない限り、無理だ。
「ま、やったこと自体は非常に簡単なんだけどね。──この世界の真相の一つに辿り着いた。それだけだよ」
「君の出す話題はいつも面白いネ。この世界の真相。主観で物事を考える者には決して辿り着けないお話」
「"魔素"が私達の失った心の半分であるというのなら、まず当然の疑念が生まれるね。──どうして私達は心を失ったのか。善とされた者は何故悪を。悪とされた者は何故善を。理由があるはずだ。何故なら赤ん坊に善悪というものは存在しないのだから」
「けれどこれは、とても簡単な話なんだヨ。赤ん坊と僕たちの違いは何カ。そんなもの決まっていル」
気が合ったのか、二人でいることが多くなった賢者と智者は。
「
「育まれゆく命かラ心の半分を奪イ、魔素として集めル。それがこの世界の業ダ」
「もし仮に、その世界の機能が失われたら、どうなると思うかね?」
「簡単だヨ。悪意を芽生えさせることハ今からでも遅くなイ。悪人が改心することハあり得ル。そういう世界になっテ、そうだナ、まず僕の研究が全てパァになるネ。人工聖石化した彼女たちを解放しなけれバ」
「あるいは全人類が魔化した世界になるだろうね。それが当然と言わんばかりの世界に。だから唯一、だ。唯一──心が欠片も成長しない者だけが、取り残される」
「──ヴェルグさんの危険性?」
「是である。ヴェルグ殿はあらゆる物事に対し、情動を動かしこそすれど取り込むことが無い。完成しきっている。それはあのファントムなる化け物の言葉の裏付けとなり得る」
「我らは、たとえどれほど成熟していようと、日々前に進んでいる。魔物も魔族も、だ。この世界に住まう者は、"この世界的"である者は、あらゆる経験を以て自己を成長させる」
そうしてブラッシュアップを繰り返した人格が、新たな己となって未来を歩んで行く。
これこそが"この世界的"な魂であると、ワォスタクラインとアモルファスは言う。
「私も最初からヴェルグさんと一緒にいたわけじゃないけど、アレは別格だよねー。なんというか、心の時が停まっている、っていうかさ。一貫してスタンスを変えない、っていうと凄い信念を持っている人みたいに聞こえるけど……頭打ちだ、って言うと途端に悪く聞こえるでしょ?」
「頭打ち……」
「これもまた是である。ヴェルグ殿は強い。弱き心を強く強く保ち、肉体も存在もスキルも最上位であるヴェルグ殿は、変化というものをしない。嫌悪ははっきりと口に出し、無理なものは絶対に受け入れない」
「先にヴェルグと概念空間へ行ったが……その時もそうだった。あと一歩ですべてが手に入る。あと一つ考え方を変えれば、己を変えれば、全てが上手く行く──という場面で、奴は"変わらないこと"を優先した」
ワォスタクラインは知っている。
自身の部下で在りながら、ただただ「人間憎し」となっていなかった魔族の存在を。そしてあの一人目、フレースヴェルグという男を。
魔素ごと操られでもしなければ、フレースヴェルグは人間を襲いに行く、など絶対にしなかっただろう。
何故そうなったのか。
報告を受けたことがある。曰く──絆されていた、と。
魔族の声が聞こえるようになり、魔族に理解を示すようになり。
フレースヴェルグは変わったのだと。
「危惧していることがある。もし仮に、ヴェルグの追っている魔素と魔族を切り離す研究のその先にあるものが──全人類の魔化を手段とするものであれば」
「ただ一人、ヴェルグさんだけが取り残される、か」
「それで結局、ヴェルグさんは私達の敵に……?」
「是であるとも否であるとも言わぬ。だが、魔素源王を討伐する前に、ヴェルグ殿と深く会話をしなければいけないのは事実であろう」
意気込む三人。
それを余所に──マスカルウィンは一人、誰にも聞こえない声で呟く。
「奴が言葉で変わるものか。……人間。頼む。"別に構わない"などというお前らしい言葉を吐いてくれるなよ」
と。
「別に構わないんだわ。そーなったってどーなったって、俺が俺でいることに何の支障も無いからな。っつーわけで、最大主教スキル:完全再生」
「……今回ばかりは言っておく。助かった」
「おう。んで、後ろに引き連れてんのがお前の女たちね。……モテモテだなオイ」
「うるせー。……が、ヴェルグ。頼みがある」
「誰にも邪魔されない空間の作成、か?」
「ああ。……もう全員で決めた。また良い様に使われないように――この辺で目的を果たしておく」
覚悟の決まった目で。
ああ……ほとほと、俺はこの目に弱い。
「明らかに弱いのもいるけど、ホントに良いんだな」
「構いません。私達はフレースヴェルグに殺されるためにここにいるのです。それが早いか遅いかの違い。たとえ世界が魔族だらけになるのだとしても──そんな安穏とした世界で生き恥を晒すつもりはないのです」
「ふん、言葉だけは一人前だな。だが同意見だ」
「フレースヴェルグの弟! 前にフレースヴェルグが問うた言葉を、私からも聞く! ──私達は、可哀想か!?」
溜め息が出る。
それを言うのはズルいんだって。
「いいや。勇敢だとは言わないけれど……少なくとも可哀想ではないし、俺の手の届かない所にいるな、と感じたよ」
「おう!」
次元スキル:大地洞。
ドゥームスも使っていたそのスキルは、本来「スキルの試し打ちをするためのトレーニングルームを呼び出す」という効果を持つスキルだ。システムスキルに組み込まれなかった理由は二つ。大地洞のある空間が虚数世界であるというものと、ちゃんとスキルとして戦闘に組み込むことができると判明したから。
最初はデバッグ用のスキルだったこれが、アプデによって次元スキル扱いとなり、プレイヤーが使えるようになった稀有なスキル。正直ドゥームスが使えるとは思ってなかったからあの時内心びっくりしてた。
「あ、そうだ。フレースヴェルグ」
「ん」
「別にお前が負ける可能性も大いにあるだろ。イサカリとかその辺に伝言無いのか」
「……自由にやれよ、バカ共。そんなんでいいだろ」
「おう」
大地洞に入って行くネレットら少女五人とフレースヴェルグ……と、女性。イゴナだったか。
その口が、閉じる。
さて……中の戦いが終わるまで、小休止と行きますか。
この所ずーっと動いてたからなー。
つーかイサカリといえば、イサカリを保護してたリシをアスガードに送ったわけで……じゃあイサカリ今どこにいるんだ?
……まぁアイツならどこでも生きてるか。剣を使えるGみたいなもんだし。