アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
ハープーンは真っ黒な紅茶を飲みながら話を続ける。
「世界の真相──つまるところ私達は、生まれながらにして略取を受けている。ヒトという種、あるいは知的存在に当然あるべき権利──物事に対し、善悪を見極め、それに準えた心の形を作っていく成長権とでもいうべきものを、私達は奪われ続けている」
「世界が……」
「そう、世界だ。私達の敵は魔素でもその源でも、種族の違いでもなく世界なんだ。──さて、ところで」
ハープーン・テッペルヴィナは。
マグカップに入った紅茶に向かって──祈りを捧げる。
瞬時、シーファがその場を飛びのいた。
「シーファ?」
「なんじゃ、どうした」
「……聖気。嘘でしょ、魔化した人間なのに、どうして」
「そう警戒せずとも良い。ほら、見て欲しい。この紅茶に注がれた魔素と聖気は……しかし、互いに反発することなく混ざり合っている。普通なら魔素が散らされるはずなのに。これが何故かわかるかな」
真実だった。
真っ黒な紅茶に混ざった輝く液体。紛う方なき聖水は、聖気を発しながらも魔素を散らすことはないし、魔素もまたその聖水から逃げようとしない。
「察するに──完全に同一根源である魔素と聖気は、反発することがないのではないでしょうか」
「ああ、影に何か潜んでいると思ったら、上位種族だったのか」
「ここはあまり居心地がよくないので、長居をしたくありません。ので、如何でしょうか。先の返答は」
「正解だよ。そう、この魔素も聖気も私から出たモノ。だからこれらが反発することはないし──世界に略取され、零れ落ちていく魔素も、祈りを捧げることで消えていく聖気も、こうして取り込み直すことができる。聖火に囲まれた祆国は鳥籠、あるいは箱庭のようなものだからね」
それこそがハープーンの"消えない理由"。
彼女は他の魔族と同じように魔素を垂れ流しにしているが──失った分を還元率100%で取り戻すことができている。だから消滅しない。
「聖火と凍ったこの国は、魔素も聖気も逃がさない。そういう意味ではここは楽園となり得るポテンシャルを持っていると言えるだろう。人間、魔化した人間、魔族。あらゆるものがこの国にいる限り、変動することがない。けれど」
「それは……嫌われそうですね。世界から」
「勿論。所詮消耗品でしかない魔に奉ろう舞台装置が"使用不可"なジャンクになるんだ。世界からすれば一刻も早く消してしまいたい余分。仮に祆国の時間が解けるか、私がこの国から一歩でも出たら──私は陽炎のように消えてしまうだろう」
人間の大陸にいるのに消えない、のではなく。
祆国にいるから消えずに済んでいる。世界で唯一、世界から逃れられる場所だから。
「……これを世界全体に適用させるのはできないの? 世界全部が祆国みたいになれば」
「その時は、天使が絶滅するものかと」
「え」
くすくすと。
ハープーンは嗤う。
「君の仲間は理解が浅い様子だけど、情報を共有したりしないのかい? 上位種族──君は知っているんだろう。天使と魔族の関係について」
「……怪異スキル:影潜み」
「え、ちょ、待ってよメアリち! どういうこと? なんで逃げるの?」
「当然、言い難いことだからだ。そうだね、そこまで焦るということは天使に友達でもいるのかな」
天使とは何か。
魔族が魔素源王を根源とするものであり、魔素と聖気が心の片割れであるのならば──聖気の塊たる天使とは何なのか。
それは。
「よし。……ま、あとはなるようになれ、だな」
「マスター。ノーラさん、ポリウィックさん、ヴァネッサさんの洗浄完了いたしました。それぞれ増設した部屋に入ってもらっていますが、どうしますか?」
「今は特に何も。お前に頼むのは……まぁ、リシの捜索を続けて欲しいのと……ああそうだ、【月の石】って知ってるか?」
「知識データベースにはあります。所持はしていません」
「もしどっかで見つけたら拾っといてくれ。あれは電池……大容量外付け魔力増幅装置みたいなもんでさ。いざという時に役立つんだよ」
「マスターは所持していないのですか?」
「持ってるけど使う予定だからな。……オッケー。んじゃちょっくら行ってくるわ」
全ての準備をして。
家を、発つ。
「マスター。いつでもお帰りをお待ちしております。──道具ですから、帰ってきてほしいとは言いませんが──マスターが帰ってこなかった場合、私はここで風化して壊れるでしょう」
「結局脅しなんだよね。まーまー、よく考えてみろよ。ノーラ買ったばっかなんだぜ? 帰ってこないワケなくない?」
「従属の呪いを遠隔で解除できることくらい知らない私ではありません」
「そういうんじゃなくて勿体ないだろ。クリトリス1m20cmだぞ。使わんとか嘘だろ」
「わかりました。そういうことにしておきます」
ああ。
そうしといてくれ。
転移をする。
「む。……なんだ、やけに遅かったな人間。こちらはもう終わったぞ」
「終わったって……え、クレイドル倒したの?」
「是である。グラットルは現在休息中につき眠りに就いているが、彼女は単独であの魔族を打倒した」
「早すぎだろ」
まだ一か月くらいかかるんじゃねとか思ってたんだけど。
ドゥームス大丈夫かこれ。ラヴ・グラットルの方が強くなりすぎてあっさり終わったりしないかコレ。
「ヴェルグ。少し話がしたい。構わないか」
「人類全部を魔化する気なんじゃないか──とかだったらこの場でNOを返しておくけど、それ以外?」
「……何故わかった」
「俺が予定変更した時点でファントムが俺を絡めたストーリー作りそうだなって考えた結果、どーせ俺が敵に回るだの俺がすべてと敵対するだろうなーって読みから、魔素中毒以外の要素じゃ絶対に魔化しない俺が孤立する代わりに平和が訪れる、みたいな妄想をお前らがする……とこまで考えた」
これは俺の頭の回転ガーとかそういう話じゃなくて、ゲーム本編で一瞬示唆されるルートだから。
フレースヴェルグが人類種の天敵になるEND……別に世界を汚染する粒子とか垂れ流さないけど、GAMEOVERの画面に遷移する前に「そうなる未来の欠片」みたいなのが見える時がある。
ここ一番で負けると大体そうなるから一周目のプレイヤーの頭には結構こびりついてんじゃねーかな。
涙を流しながら愛した人々を屠り続ける修羅の姿が。
「んー、できないことは言わない主義だから、ラヴ・グラットルに稽古でもつけてやろうかと思って来たけど……なんか大丈夫そうだな。単独クレイドル討伐とか、普通にエグいし」
やっぱり太陽とアルターの焼き増しは来そうだな。三流台本はいなくなったとはいえ、それが蒔いた伏線はまだ残っているわけで。
一周目のラヴ・グラットルが三周目のヴェルグに並ぶ。それは少し、可哀想だけどな。
楽しめるものも楽しめなくなりそうだ。一周目二週目の、試行錯誤をし続けないと絶対に乗り越えて行けない壁が連続している感じが楽しめないんだから。
「ヴェルグ殿」
「……なんだ、粛清剣なんか抜いて」
「我らと一手勝負を願いたい。我らもまた己を高めた。ラヴ・グラットルに負けぬように。──故、自らを試したい」
「我もだ。魔王ではなくなりはしたが、新たに聖騎士スキルを習得した。この身この剣がお前に届くか試したい」
「ルウィンは?」
「不要だ。男どもの暑苦しさを持ってはいない。それに、試すまでも無い。お前に届くには、あと数万年足りない」
まぁ。
「そうだな」
「!?」
「ッ……!」
「あ、そっか。アモルファス聖は不意打ち無効だっけ。カッコ悪いな今の。ナシで」
膝から崩れ落ちるワォスタクラインと、攻撃の無効化に成功したアモルファス聖の喉を剣の柄で小突き、卒倒させる。
不意打ち無効やっぱ強いな。
「それで? こんな雑な時間稼ぎをした理由は?」
「当然、あの新人類を起こすためだ」
降り立つ。
上空にはパピルサグ。咥えられて降ろされた感じか。
「……今ここに、私が現れなかったら……どこへ行くつもりだったのか教えてください」
「ティル・ナ・ローグ」
「理由は?」
「ちょいとな。最後の用を熟しに行くつもりだった」
ラヴ・グラットルは──構えを取る。
格闘家の構え。
「今の私と、魔素源王の力の差。どれくらいですか」
「さぁ。案外とんとんなんじゃね」
「じゃあ、ヴェルグさんとの差は?」
「天地」
いずれ並ぶのだとしても。
今負ける要因は一つも見当たらない。
「まぁ、いいよ。最初からそのつもりで来たし。聖騎士スキル:階梯の間」
隔離する。
ラヴ・グラットルと俺しかいないその空間に。
「来いよ、ラヴ・グラットル。お前の最強を俺に打ち込んでみろ。そんで絶望しな。今のお前が立っているその場所が、どれだけ低いのかってさ」
「──行きます」
天使スキルと格闘家スキル。成程合成スキルか。本来魔法使いスキルや魔術師スキルで遅延をかけて発射を同時にすることで行うPS側のスキルだけど、これも己が二人いるからこその、って技かね。
まぁ普通に防御しても止められるんだけど、折角だ。ドゥームスがやってくる技で防いでやろう。
「呪詛スキル:屈服:平伏」
「は──」
一秒に満たない速度で俺の眼前に来ていたラヴ・グラットルは、その身を呪詛に縛られ、頭を地に擦り付ける。縮こまった身体が起き上がることはない。無理矢理身体を動かそうとしているのは見受けられるけれど、どうにもできていない。
「こんな感じで、ドゥームスは呪詛スキルも使ってくる。魔素耐性つけて魔素対策ばっかやってただろ。ここ、ルウィンくらいしか呪詛スキル使えないし、ルウィンの中からもそういう考えはすっぽり抜けてただろから、今のお前がドゥームスに挑んでたらこれで終わってたな」
よっこいしょ、と。
平身低頭で縮こまっているラヴ・グラットルの背に乗る。
「王国地下でも教えただろ。各種耐性盛ってないと詰むって。麻痺耐性20%、毒耐性火傷耐性が10%ずつ……か。装備見る限り。足りないにも程がある」
「ゥ……」
「そら、早くレジストしろ。眷属の呪いじゃないんだ、これさえレジストできないなら勝ち目なんてないぞ」
「ど、う……やっテ……!」
「呪詛スキルのレジスト方法を知らないのか? そんなのギルドの手引き書に書いてあるだろ。王国ギルドの本棚で読んだ記憶あるぞ俺」
煽っても。
レジストする気配がない。……まさか本当に知らない?
「……なんだかなぁ。つーかお前、天使スキルと格闘家スキルと……あと戦士スキルと剣士スキルだっけ、使えるの。後半二つはちょろっとだけ。……舐め腐ってない?」
ああでも、舐め腐らせたのは俺か、やっぱ。
王国地下ダンジョンでも補助輪付きで、ワォスタクラインは俺がやっちゃって、四天王はフレースヴェルグがやっちゃって。
成長する機会がここだけで、ここにいる奴らは天使スキルの習熟度上げようとするだろうし。
良いこと考えた。
「呪詛スキル:屈服:行動制限:スキル制限:格闘家、天使、戦士、剣士。ステータス操作:レベル1相当」
「え、ぁ……」
「んじゃラヴ・グラットル。──やり直しだ」
階梯の間を解除。意識を取り戻しているアモルファス聖とワォスタクラインは二人で何かを話し合っていて、こちらを見ているのはマスカルウィンだけ。
「おい、人間。新人類に何をした?」
「今覚えてるスキル全部使えなくしてステータス下げた。クレイドルに勝ったのは良いよ、凄い凄い。だけど例えば今リザとかの……魔法タイプの奴が来たら、格闘家スキルだけじゃ話にならんだろ。魔法、呪詛、魔剣士、あと教えられるなら道士とか歌唱、踊りとかも。詰め込めるモン全部詰め込んでやってくれ。ちょっとこれじゃ弱すぎ」
こんなにも早くクレイドルを倒したのは凄いんだけど、それで良い気になるのはヤバ過ぎ。
あの目、自分なら俺を止められる、みたいに思ってたのがエグいわ。マジかって感じ。
格闘家スキル使える天使、みたいなもんだろ。そんなんに負けるかよ。
「一か月後かな。ドゥームスが出てくるのは。それまでに詰め込みが終わってなかったら、俺がやるからさ。それじゃ。っと、行動制限:平伏解除。ばいびー」
……こんだけ言えばもう少し躍起になるだろう。
で、えーとフレースヴェルグとイサカリは……まぁ良いとして、あとはあいつらか。
禁じられた聖森に何用で行ったのか知らないけど、ワンチャンツバナ死ぬぞ。あそこ魔物強いんだから。
「天使とは何なのか。それは──……おっと」
「なんだここ。……時間流が外と違うな。なんつー危ない場所作ってやがる」
シーファの表示頼りに禁じられた聖森の最奥へ向かってみれば、なんか国があった。
エー。ゲームに出て来てないんですけどー。
それに。
「こいつらに何したんだお前」
「何も。私は初めに忠告したんだけどね。違和感を大事にしなければ取り込まれる、と。そこで今影に潜んで難を逃れた子以外は、飲まれてしまったよ」
これは、凍っているな。コールドスウォームと同じだ。
この国全体と同じく、魔族と卓を囲んでいるケル達が完全に停止している。こーれ国の外に出た瞬間十六手四面に襲われます。
で、コイツはなんだ。
敵対表示じゃないから危険はなさそうだけど……んー?
「ああメアリー、出て来なくていいぞ。お前も耐性あるわけじゃないだろ」
「そうだね、その方が良い。次元耐性など、持っている方が珍しいけれど」
「なんだお前。純粋な魔族ってわけじゃなさそうだな。魔化した人間でもない。ただの人間でもない。……精霊に近いな」
「そういう君は、精霊王によく似ているね」
……。
レベルは然程高くない。名前は……ハープーン・テッペルヴィナ。ん、ネレットの親戚? いやだとしてなんで人間の大陸に。
「なんでもいいや。とりあえずこいつら持ち帰るよ」
「おや、どうしてかな。今私と彼女らは学術的なお話を」
「俺がハーミットの名前知らないとでも思ってんの? わざわざ見せびらかすように称号付けといて、そりゃ流石に喧嘩売ってるだろ」
「──……教団は二千年前に解散したんだけどね」
「その後再集結して今も世界転覆を狙ってる。信奉する神の名はヴィシャス。"スキル"というこの世の法則の穴を突き、幾つも外法を生み出す司祭セレマ。その二存在によって大陸に広く分布する邪神崇拝教団ハーミット」
仮にここがコールドスウォームのように「何者かの代償契約」で時間が停まっているのだとしても、誰の記憶にも残らないとか、ここに近づくまで俺でさえ気づけなかったとか、そういうことはほぼあり得ない。
その上ここにいたら取り込まれるだぁ? スノーメノウに謝れよ。つーか俺の大好きなコールドスウォームを穢すような発言すんじゃねえ。あそこは覚悟と代価の幻想の地だ。それを外法で再現した程度で調子に乗るな。
「これは、ドラゴンの尾を踏んだかな」
「別に。いつかヴィシャスをテイムしに行く気はあるけど、外法自体は俺も良く使うからな。何を言うことも無い。ただ、所有物に手を出されたんだ。奪い返すくらいはする」
毎度言っているけれど。
勝手に幸せになればいい。隣にいるのが俺である必要はない。俺から出せるものなどほとんどないし、こいつらにはこいつらの人生があるのだから、いつまでも俺が保護者面してんのはキモいと素直に思う。
それと、命を脅かされんとしている知己を助けるのに、何の関係があろうか。
「やるなら俺の目の届かないところでやりな」
「君の目が届かない場所はあるのかな」
「自分で作れよ、棲み処くらい」
五人全員と影の中にいるメアリーをアスガードに転移させる。
解凍は……まぁバルクスかメアリーができるだろう。また十六手四面に襲われるだろうけど、今のシーファなら多分大丈夫。最悪の場合いつかアイツの仮インベにいれたエリクシールを使わせればいいし。
「……まだ何か用かな。君に言われた通り、私はここから出るつもりはないのだけど」
「外法:【黒の偽典】」
「ッ!」
表紙が真っ黒で何も書かれていない本を取り出し、発動させる。
外法でありながらアイテムでもあるこれは、ある意味で外法への完璧な対抗策になり得る。即ち。
「待──」
「──たない」
あらゆる外法の写本。トラーヴァの魔本、バルクスの魔本と同じく、魔本を作るための偽典。
外法のレシピ書にして、
「外法:拝火の
消える。
"時の止まった国"が。この国そのものが丸ごと外法だったのだろう。残されたのはハープーン・テッペルヴィナを名乗る魔族ですらない何か一人。
「返して欲しいな。──私の二千年の結集。これでも苦労したんだよ。著作に情報を散りばめて、好奇心に駆られた冒険者や今の子のような人間、魔族を取り込んで……あと少しで完成だったのに」
「ネレット・テッペルヴィナという名に心当たりは?」
「……誰かなぁ、この身体の縁者かい? そんなことより──」
「残念だな。お前からはジェスター・ハーネットにさえあった信念を感じない。生きるための邪悪でも、前に進むための善良でもない。もう一度言うぞ、ハープーン。俺の目の届かない所へ行ってくれ。そうして細々と生きてくれ。こんな目立つことをしないで、ひっそりと」
記憶。知識。代償契約。月。太陽。シアルル王国。
邪神崇拝。ヴィシャス。セレマ。そしてグノーシスとガーリー。
はいはい、大体繋がった。
「──……次元スキル:転移門」
ギリ、という奥歯を噛み締める音がしたものの。
ハープーンは転移門を開き、どこぞかへ転移していった。引き際はわかる奴か。ふぅん。
聖王の粛清剣で十六手四面の攻撃を受け止め、ふつーの蹴りでぶっ飛ばす。
あーあー来たよ。
それもこの数。これは相当歪めてんな。祆国と外で二百倍くらい時間の流れが違いそう。
障害にはならないが……これ上手く使えばラヴ・グラットルの精神と時の部屋とか魔法球的なアレソレに代用……いや、やめとこ。外法は外法だからな。絶対ろくでもない代償があるわ。
んで。
やってきましたティル・ナ・ローグ。【死霊のローブ】を纏い、道士スキル:ガイディングライトを使って歩く。
転移は使えない……というか使うと違う面倒が発生するので、歩いてそこへ向かう。
そこ。
──聖樹ユグドラシルの根っこ。
「……なんだ、人間。死した樹に愛着でも湧いたか」
「いや。……つーか、なんでお前いんの?」
「吾がいたらおかしいか? ここは樹木の墓場のようなもの。吾も此奴も魔族や魔物ではないからな、死者の国でゆるりと余生を過ごしていてもおかしくはないだろう」
「余生も何も死んでるが」
「汝は時折冗談が通じないな。尤も、時折、などと呼び合える程吾と汝は仲が深くないが」
ユグドラシルと……クリフォト、じゃない。反対になってないし汚染されてないからセフィロトか。
それがいた。ユグドラシル目当てで来たけどセフィロトに会うとは思ってなかったのでちゃんとビビってる。コイツ消えたんじゃなかったのかっていう。
「黒無常と白無常は世界に還った。吾が特別なだけだ」
「ああそう。まぁなんでもいいけど。……ユグドラシル、一個聞きたいことがあってさ、はるばる死者の国まで来たんだ」
「聞きたいこと。……ふむ。人間、お前の未来は視えぬ。それでも構わないか?」
「ああ」
この世界において、死は然程恐ろしいものではない。
俺を含め、死者蘇生のスキルや死ぬ直前に発動して死したら復活、みたいなスキルがそこそこある。死がバッドステータスでしかないこの世界において、ならば最も恐怖すべきこととは何か。
──当然、永遠だと俺は思う。
「意識から無意識。無意識から意識。そこには閾値が存在していて、明確な境界とはいえない。だから聞きたい。今でこそマスカルウィンの人格は使い分けの出来る多重人格扱いでしかないが──元はお前自身だったはずだ。お前がこの世界のお前なのか、あちらの世界のお前なのかは知らないが、どうなんだ」
意識体でしかなかったお前にとってあの数万年は苦痛だったのか。
問う。
「吾は理解したぞ、汝の企み事を。これでも元邪悪の樹。汝、相当な悪行を成そうとしているな」
「人間。お前の言う苦痛とは何だ。苦しみを感じることか? 痛みを得ることか? それとも」
「自身が自身であると認識できなくなること、だ」
「それならば、是を返す。──あの少女を生かすためだけに、己が代価を支払うためだけの永き時は間違いなく苦痛だった。一時には己をあの少女だと勘違いすることまであった。幸を得て、それを手放さなければならない事実を初めから知っていて、な」
うーん。
やっぱりそうか。聖樹でもそうなのか。
じゃあ普通の人間にはもっと、かぁ。
「なに、淘汰される者のことを気にしていては、新たな一歩など踏み出せぬ。吾は背を押すよ、異邦人。汝の行く末に幸多からんことを」
「……お前、今セフィロトなんだよな?」
「生命の樹が邪悪でない証明はされていないだろう?」
まぁ。
「とりあえず、うん。決めた。──やると決めたからにはやり切るよ。それで俺が……最悪次のドゥームスになるのだとしても、まぁ、野となれ山となれだ」
「その時は吾をまた建てるがいい。汝の精なら受け止めよう」
「言い方よ」
「ちなみにこの人格はな、人間。お前やあの異族の女に責め立てられていた聖樹ユグドラシルだ。──あとはわかるな」
「色狂いの方ってことね。……背押し、サンキュ。ちったぁやる気出たわ」
振り返る。
そこには美しい世界が広がっている。長閑な裏世界。死の国。
「──じゃあ、準備を始めようか」
全存在全裸化計画を──!!
十六手四面の怪物。
聞いていたから前回ほどの混乱は無く、見事に撃退を果たした面々。その中でシーファは、何度か手をにぎにぎし、魔素を出してみたりなんだりをして感触を確かめる。
祆国は危ない場所だったらしい。自分たちはご主人様に助け出されたらしい。
メアリー曰く、場に取り込まれかけていた、と。
シーファの最後の記憶は天使がどうのこうの、のあたりまで。ただ、体感時間……アスガードを出て禁じられた聖森に向かってその話を聞くまでの時間は凡そ半日足らずだった。そのはずなのに、帰って来た今一週間以上が過ぎているというではないか。
それこそが祆国の効力なのだとか。メアリーに効かなかったのは、メアリーの怪異スキル:竜宮城が似たような効果を有しているからだとか。
何一つ実感の湧かない話だけど、時間が進んでいるのだけは事実で。
そして──ヴェルグが家を出てから、シーファたちが転移させられてからもずっと、ヴェルグは帰ってきていないのだとか。
「買うだけ買って放置とか、ちょっと酷くない?」
「酷いとは思うけど、私もまだ一回もセックスしてないし、そんなものなのかも」
「え! そんな痴女みたいな恰好してて襲われてないの!?」
「うん……。あ、でもノーラちは、性奴隷として買われたんだよね? この家にはルウィンちっていうもう一人性奴隷やってる子がいて、その子はよく抱かれてるから……今忙しいだけなんじゃないかな」
「ほはへぇー。……ところでさ、アウラニさんって……アレ生えてるよね」
「アウラニちは私のだから、ダメ」
「おおっと! 危ない危ない。……性欲溜まって仕方ないんだけど、良い発散方法知らない?」
その間に買われていた新しい奴隷。ノーラ、ヴァネッサ、ポリウィック。
内ポリウィックは明らかに聖女なので一切近づきたがらないシーファだけど、メアリーが「これで大丈夫です」というからちょろっとだけ見に行ったら、目隠しされて猿轡嚙まされて椅子にガッチガチに拘束された上でエロ魔物にいぢめられていたので大丈夫だろう。
ルウィンがあまりにも気持ちよがっていたのでシーファもやってもらったことがあるのだけど、アレは良いものである。
「ところで、ノーラちはどういう訳ありなの? 言えない事なら良いんだけど」
「いやー、それ皆に聞かれるけど、マジでなんも無いよあたし。強いて言えばクリが長いくらい」
「へぇー……。長いってどれくらい?」
「シーファちゃんの足から胸までくらい?」
「は?」
アスガード、ヴェルグ邸。
久方ぶりの嬌声の宴が開かれる。しばらくヤっていなかった色狂い二人は、途中でアウラニも巻き込んで──エロの限りを尽くしたとかなんとか。
あるいは。
脳裏を過る嫌な予感を、考えないようにとするかのように。