アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ 作:姫鼠まりあ
全存在全裸化計画──。
引っ張る意味はない。要は全人類どころか全存在にアダルトMODを適用しようぜ、という計画だ。これにより俺以外のあらゆるものは全裸になり、服を着ようがボディペイントをしようが局部を隠すことのできない美女美少女になる。
唯一の例外は天女の羽衣だけど、まぁどうにかして量産に成功したら「たまに見えない方がエロい奴が歩いている」感じになるだろうことが予見される。どっちにしろエロい。
俺調べ、アダルトMODの適用範囲は「意思を持つ、人間でないもの全て」。メアリーら上位種族の行う「魂の装飾」も、あれは結果としてメイド服に見えているだけでアダルトMOD自体は適用されている。
今まででアダルトMODが適用されなかった事例はカワードの取り巻きであるスフィンクスと変態途中のシーファだけ。
変態途中のシーファにアダルトMODが適用されなかったのは、あの時のシーファの周囲の肉塊って言わば「意思のない肉の塊」でしかなかったから、肉塊として調理された魔物にアダルトMODが適用されないのと同じ理由だと思う。
つまり大事なのは意思。意思ある存在は人間でなければ全て適用範囲内であると言える。
未だ会話することのなっていない──それでも人工聖石化で恐怖は感じていた──スライムでさえアダルトMODが適用されるんだ。その「意思」とは希薄なものでも構わないはず。植物が女性化していない以上、閾値はここだ。
植物より上の生きる意志。生きたいと思う意志。意思意志意識。
無論植物とて上等な意思を持っているのだろうことは理解しているけれど、一旦、だ。アレは無意識の成長だろうから。
「──しかし。まさか堂々と乗り込んでくるとは思わなかったぞ、低位種族」
「今は守らなきゃいけない奴がいないからな。こっそり侵入する意味がない」
「道理だ。お前は私達より強いのだから」
ここは天界。
アウラニに会う予定はない。ただ、ここに安置されているものが一つ欲しくて乗り込んだ。直後にウリエルに見つかって、今なぜかこうしてお茶をしている。
「しかし、下等生物って言わなくなったな」
「言論統制が敷かれていてな。第三位以下の天使は人間を下等生物と呼ぶと──」
突然ウリエルに雷が落ちる。
焼け爛れる肌。それは即座に修復されるし、ウリエルもまったく気にしていない様子だけど……俺がウゲェとなった。
「このように天雷が降る。全く、天使にも効果の出る天使スキルの開発など、ガブリエルの子でなければ考えつかなかっただろうな」
「……え、なに。アイツ今二位なの」
「ああ。つい先日ガブリエルをも降した」
「あれ、一位って誰だっけ。ミハエル? ラファエル?」
「ラファエルだ。先日お前を見たと言っていたが」
あああの超乳の。
……すんごいとこまで上り詰めたな。
「というか、お前がやられたのが意外なんだけど」
「私は早々に投降した。元より四天使に数えられること自体に不満があってな。この通り、天界の端でゆるりと過ごしているのが一番性に合っている」
ウリエルは今、天界にあるテラスの一つで、ソーマっぽいものを飲みながら本を読んでいる。俺に出されたのが普通の茶だっただけに、なんで自分だけ酒飲んでんだとか思ってたけど、そういえばこいつら酩酊耐性とかいうの持ってた気がする。
……『天の炎』という称号に似つかわしくない落ち着きっぷりだ。
「──もうすぐ天使はいなくなるのだろう?」
「ん。まーな」
「息を吞むことも、溜めることもないか。つくづく面白みのない男だ。……私はガブリエルの子がラファエルを討ち果たすところまで見てみたいと思っているのだが、どうだ」
「あと三週間くらいでやってくれるなら。こっちも色々調整中でさ。あんまし他に気を回してらんないんだわ」
「わかった。ガブリエルの子にはそう伝えておくとしよう。……さて、そろそろお前が痺れを切らしそうだ。宝玉のもとに案内する」
「頼む」
宝玉。天の秘宝とも言われるそのアイテムは、ゲーム一周で一つしか手に入らない。
また、普通なら天界関連のイベントクエストで「臨時パーティに入るNPC天使に気に入られてそこへ案内された際に隙を見て盗む」という「オイオイ主人公お前今までの善性どこに捨て去って来たんだよ」ってアクションを取らなければ手に入らないアイテムであり、今回俺が天界の至る所を縦横無尽に探してもやっぱり見つからなかった。
案内される、がトリガーらしい。
して──真っ白な天界に、真っ白な扉が現れる。
扉は開かない。ただ扉としての形でしかないものを、ウリエルはすり抜けていく。ここはゲームと同じか。なんだ、「イベントシーンで扉が開かない」ってバグレポート送りまくったのに対応されなかったのは、そういう仕様だったからなのか。
「あの扉は別名をユニコーンの扉と言ってな。……あとは言わずともわかるだろう」
「え、じゃあお前処女なの?」
「無論。童貞ではないがな」
「何がどう無論なのかわからんが、聞いても無い情報ありがとう。ちなみに誰とヤったんだ」
「ラファエルだ。天使のほとんどはラファエルに童貞を食われているぞ」
「へー」
天使って超レア生物だと思ってたけど、天の軍勢で死ぬほどいることわかってて……だからあの時いたほとんどが食われてんのか。
「アウラニは?」
「心に決めた人がいる、だそうだ」
アイツも一途だねぇ。
そんな雑談をしながら、ユニコーンの扉の先、どこか階梯の間にも似たその階段を上って行った先に、ソレはあった。
──真っ黒な水晶。天界に似つかわしくないその黒は、似つかわしくなくて当然だ。
だって入ってるの魔素だから。
「多くの天使が知らないことだ。──天使も魔素を生む。あるいは同様に、魔族も聖気を生む」
「どちらにも心があるから、だろ」
「そう。天使と魔族は同類だ。お前は知っていたようだがな」
知っていた。アモルファス聖との問答の際にも言った。
天使と魔族は聖か魔に偏っただけの同族であり、そこに善悪はないと。
「魔族が多い理由は単純だ。魔族は祈ることがほとんどない。だから聖気が生まれることもほとんどない。ただそれは"しない"というだけで"できない"わけじゃない」
「逆に天使は割合簡単に悪意を持つ。主に低位種族に対してな。それが当然だと言わんばかりの欠落者……ガブリエルのような者も時折生まれるが、大半はしっかりとした悪意を以て人間を下等に見ている。自身でも気付かぬうちにその悪意は解消……否、この宝玉に吸い取られるが、下界に出ている天使はその恩恵が受けられず、魔素に呑まれて消滅する」
宝玉。水晶玉。
アイテム名を──【滂沱の黒雫】。
いつか俺がシーファの人体実験に使った避魔球。アレの最上位版だとでも考えてくれたらいい。魔族が近づけば、一瞬にして全身の魔素を吸い取られるレベルの避魔球だ。
「一応忠告しておくぞ。──それは創生から
「当然」
装備を魔素耐性特化にして、90%。聖騎士スキルで魔素耐性を上げて、110%。
でもこれは絶対ではなかったりする。濃縮された魔素は魔素フィールドの魔素と違い、中毒確率という隠しステータスを持っていて、それが150%だの200%だのだったりすると──まぁ、単純な対抗ロールになるって話で。
だというのに天界は「入った瞬間以外セーブができない」とかいう鬼畜ゾーンなので、苦心してここへ入って天使の目を盗んで【滂沱の黒雫】を手に入れても、その瞬間主人公が魔化してGAMEOVER、なんてこともザラだった。
その確率は、たとえ俺が三周目だとしても変わらない。
──触れる。
「最大主教スキル:完全再生、完全再生、完全再生、完全再生、完全再生、完全再生、完全再生……っと。じゃじゃ馬め」
「成程。自らの耐性が勝つまで腕を斬り落とし続けるとは、さては狂人だな?」
「あんまり体力減らしたくないんだがな。自切はノーカンにしてるんだ。自分ルール」
もう既に草案世界で計算ミスって体力削られてはいるんだけどさ。
それでもあんのよ、矜持って奴が。
ま、90%の確率で魔化するところを七回目で10%引けたんだからラッキーな方でしょ。
インベントリにしまう。
「……これより先、天界でさえ悪意を持った天使は魔化に見舞われる。それは怪異なる病と捉えられるか、排斥されるか……」
「自業自得だろ」
「違いない」
ただ今まで許されていただけだ。
この宝玉が無ければ自分たちの"高位"とかいう優位性も失われるのだと、ただ知らなかっただけ。
「良い世界にしろよ、人間。私がまたどこぞの畔でゆるりと本を読めるような、な」
「一人の人間の肩に載せるにゃ重すぎねぇ?」
「自分で背負ったくせに、何を今更」
「それこそ違いねーや。じゃあな、ウリエル」
「ああ」
転移す──。
「あら、避けられてしまったわ」
あっぶね。
王国地下でバルクスに転移割込みされた時の感覚覚えててよかった。危うく蚊よろしく両手でパチンいかれるとこだったぜ。
「なんか用か、ラファエル」
「ふふ、蜃気楼が喋った」
「……用が無いなら帰るけど」
「ああ、待って待って。ね、蜃気楼さん。──私があの子に負けちゃう前に、セックス、していかない?」
「性奴隷は間に合ってる。二人もいるんでね、持て余してるよ」
「性奴隷? ……あら、ふふふ。貴方がご主人様になることは決定なの? ──私が飼ってあげてもいいのに」
「魔法スキル:スーパーノヴァ」
なんか、普通のスーパーノヴァ久しぶりに使ったな。
まそんなことはどうでも良くて。さぁ転移転移……っと。
めんど。
「逃がさない。ね、奴隷とかはどうでもいいから、私と普通のセックスをしましょうよ。私のこの姿と淫気を受けて、勃起すらしない蜃気楼さんには興味があるの」
「全部が終わったら相手してやるから今は通してくんね?」
「噓吐き。全部が終わったら会えなくなっちゃうんだから、今するしかないでしょ?」
……。
この空間。先の祆国と似た結界が張られてる。転移封じだけじゃない、時間のずれに……HP回復? まさかこれ精力増強になったりすんのか?
「──召喚士スキル:サモン:
「えっ?」
「あらあら、初めて呼んでくれたわね……しかも天界? なぁに、私に同族のお掃除をしてほしいのかしら?」
「お前に相手してもらいたいのはお前だよ」
「自慰ってこと? ……あら。あらあらあら!」
「どういう……こと? 私?」
テイムした魔物は周回数関係なく呼び出せる。
それはネームドであろうと同じだ。実はウリエルやガブリエルもテイムしてある。二周目はコンプ狙いで収集しまくったからな。
「あら……少しだけ、ほんの少しだけ未熟な私……可愛い。綺麗ね、流石私」
「奇術師スキル? いいえ、でも、この気配は」
「踊りスキル:淫蕩の舞い」
召喚獣のラファエルがその超乳とデカ尻を揺らし、エロダンスを踊る。
こっちのラファエルの方がレベル高いからな。抗えないだろ。
「ラファエル。お前のやり方でいい、"わからせ"ろ。満足したら自己送還してくれ。俺は先に行く」
「はぁ~い! ふふ、これはご褒美ね。一番好きな自分を、最高の形で犯して調教できるなんて……夢みたい」
──悪は去った。
次!
全壊した元魔王城。
周囲は未だ溶岩で煮え渡り、滾る炎が時折噴出する。
ミニマップに映る赤点表示および青点表示なし。完全に死の空間。
そこで探すのは【微笑の白滴】という、【滂沱の黒雫】の対になるアイテム。ゲームやってる際はなんでこれがここにあるのかわからなかったけど、今なら、って奴。
効果は【滂沱の黒雫】と逆で、そこにあるだけで天使を弱体化させるほどの聖気を吸い取る感じの奴。名付けるなら避聖球か?
……しかし、見つからない。
どーこだっけなー。いやこーなるとわかってりゃ、魔王城に繰り込みしに行った時に取っときゃよかった。あの時はこーなる未来なんか見えてなかったからなぁ。
こう、魔王城入ってからの位置はわかるんだけど、こんだけ崩れ去ってるとどこがどれだか。
ちなみにジェスター・ハーネットのいる部屋は壊れていない。あそこはアイツの魔眼が強化に強化を重ねた部屋だからな。その程度じゃ壊れんし解放されん。
ジェスター・ハーネットに宝玉の在り処を聞くのは……アリだけど、知らない可能性の方が高い。つーかワォスタクラインも知らないんじゃないかな。アイツ結局配置されただけの魔王みたいなとこあるし。
こっちは「案内されないとダメ」みたいなトリガーは無かったはずなんだけど……どこだっけね。
「何やってんだお前」
「ん? あぁフレースヴェルグか。ちょっと探し物をな」
「探し物?」
「おう。お前は? イサカリは見つかったか?」
「いや。マジでどこ行ったんだアイツ。この俺が本気で探してるってのに見つからんとか嘘だろ」
……。
「……」
「なぁ、お前も一応フレースヴェルグなら、わかるよな言いたいこと」
「一応ってなんだ一応って。俺がフレースヴェルグだよ。お前はヴェルグだろ」
「良いから。──"この"俺がどんだけ時間かけても見つからないアイテムと、"あの"お前がどんだけ時間かけても見つからないイサカリ」
「……まぁ、予感は大事にするよな、そういう」
なんらかのアクシデントで、一緒にいる可能性大──。
「アイツが俺の探し物持ってるから見つからないし、持ってるせいでお前からも見つからない説は大いにある。なんでって俺の探し物聖気纏ってるから。魔素耐性の無いアイツが持ち歩くにはうってつけのアイテムだしな」
「マジか。なんでそんなものが魔王城にあんだとか、イサカリってつくづく馬鹿なのか頭良いのかわかんないよなとか色々言いたいことあるけど、とりあえず見つけるか」
「おう。なんかいい案ある?」
「俺も今それ聞こうと思ってた」
「奇遇だな。気が合うかもしれん」
「多分根っこのトコで絶望的に合わないぞ」
う、うーん。
どうする。
「なんか無いのかデーモンスキルに良いの」
「お前こそ死ぬほどスキル持ってるくせに何もないのか」
「……」
「……」
使えねー奴。あっちも思ってんだろうけど。
……いや待てよ?
「フレースヴェルグ。お前ってさ、魔化してから得た魔素関係のスキルはどーなってんの?」
「今俺も同じこと思いついたがリソースが足りねえ。なんか高位魔物の素材持ってないか?」
「あるよ。死ぬほどある」
「んじゃいける。ほら、デーモンスキルの魔域ってあるだろ。俺の魔素技能はその範囲を広げることにあってさ。リソースさえあれば魔族大陸覆うまで行ける」
「んで聖気に弾かれたらイサカリはそこにいるってことだな。ほれ、パーティ組めよ。ヒュドラの心臓二百個くらいぶち込んでやる」
「なんでヒュドラ……まぁ食うけどさ」
それでもまだまだあるからな。倉庫見りゃ十倍以上あるはず。倉庫は容量無限だから。
「うっし……んじゃ行くぜ。デーモンスキル:魔域」
ぶわっと魔素が広がる。
この中毒確率はそこまで高くないので、魔素耐性で防げる。
して。
「見つけた。……北北西、距離1300」
「転移しろってか。人使いが荒いこって」
するけどさ。
「──どうなってんだ、いきなり魔素が濃くッ!」
「おい馬鹿何本気で攻撃してきてんだあぶねーだろ」
「ッ……フレースヴェルグ!? くそ、やっぱ魔化したってのは本当だったのか……おい、俺だ! イサカリだ! 聞こえねーかフレースヴェルグ!!」
「あー。言葉通じねーんだった。ヴェルグ」
「ようイサカリ。俺が本物のフレースヴェルグだぜ。そっちは偽物の魔族だ、騙されんな」
「!? ……ヴェルグ? お前どこから、っつかいつから」
あれ。騙されてくれねえ。
なんでだ。声色まで完全に寄せたのに。
「俺は"俺は本物のフレースヴェルグだぜ"とか言わねーから」
「ああそういう? にしては気付き方がおかしかったけど」
「ヴェルグ、危ねぇ!」
「危ないのはお前なんだよね。はいこれ貰って、お前は転移」
イサカリが抱えていた【微笑の白滴】を奪い取り、ロサビスに転移させる。これでしばらくは魔族大陸まで渡って来られないはず。
「……説明とかさ。いいのか」
「いいだろ。お前の声が聞こえない以上、どうやったって説明は無理だよ。……よーし、おっけー、これで第一段階終了。計画は第二段階へ、ってな」
「計画? 何のだ」
「教える義理はない。……もうすぐ最終決戦だから、色々スキル磨いとけよ。お前の場合、弔い合戦も兼ねるんだからさ」
「別に、アイツらはもう世界に還ったんだ。弔う必要はねーよ」
「よく言うよ。大した効果も付いてないアクセサリ六個も付けておいて、まるで未練はない、みたいな顔しやがって。お前はまだ人間として、仲良くなった奴の死を悲しめる心を持ってんだ。大事にしておけよ、それくらいさ」
似合ってもいないアクセサリじゃらじゃらつけやがって。
惜しむんだったら相手を変えるくらいの信念見せろっつーの。
ま、思想を押し付ける気はないってトコが俺らしいっつーかなんつーかだけど。
「じゃあなーフレースヴェルグ。達者でやれよ」
「お互い様だろ」
「違いない」
転移する。
虚数スキル:繰り込み。
「や、ヴェルグ。全部が順調、って顔してるね」
「おう。……ん? お前だけか?」
「リザとシエラはドゥームスの四天王を倒しに行ってるよ。邪魔になるからね」
「あー。別にラヴ・グラットルにやらせりゃよかったのに」
「ボクもそう思ったんだけど、もうすぐ帰ってくるだろうドゥームスは四天王とも隔絶した力を得ているだろうから、邪魔にしかならないって気付いたんだ。ラヴ・グラットルに関しては、クレイドルが殺されちゃったから、次は完全魔法特化のヴェアトリチェを行かせたよ」
「一応ナイス判断とは言っておく。んでお前は今何してんの?」
「演算」
「繰り込みで来た俺と今のお前が戦った場合の勝率、か?」
ファントムは──。
「それも魅力的な話だったんだけどね。今の世界は君がどうにかしてくれたみたいだからあんまり嫌いじゃないし、何よりこれから君がやろうとしていることを思えば……そっちの方が楽しみでさ」
「ラヴ・グラットルたちにどーでもいいこと吹き込んだのお前だろ。やめとけよ、世界に影を落とすなんて真似。消耗するぞ」
「え、なに? 心配してくれてるの?」
「今やドゥームスはお前に肩を並べる強さを手に入れてんだ。そのドゥームスを倒したラヴ・グラットルの次の標的がお前になる以上、くだらんことで損耗してたらあっさりいかれるぞ。──自分が死ぬときは最高にアツい展開で死にたいんだろ?」
「ヒュウ、流石はボクの理解者。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
そう言って──ファントムは眠りに就く。
果たして何千年ぶりの眠りなのか。
体力回復に勤めんとするファントム──から遠く遠く離れて。
「残り二週間で、やれるか、俺」
虚数空間で隔断結界を張り、影響が外に漏れないようにしたうえで虚数スキル:エンタングルを使用。
二人になった俺は、せーのっ! で。
アイテム【滂沱の黒雫】と【微笑の白滴】をぶつけ合う。
完全再生と死者蘇生を何度も何度も互いにかけあって、あって。
それが一つになるまで続ける。
間に合え~。
「……そう。誰も見てないんだ」
「ごめんなさい。力に慣れなくて」
「ううん。ありがとう、スイ」
「……うん」
帝国のギルドを出て、ケルは一つ伸びをする。
──ヴェルグが姿を消してから、もうすぐひと月が経とうとしている。
突然姿を消した彼。けれど、曰く知り合い方々に挨拶巡りをしていたとか。
リアは「私のところには来ていませんけれどね!」なんて怒っていたけれど、それはケル達も同じだ。
祆国での顛末においてはまた救われてしまったらしいが、書き置きの一つも残さずに彼は行ってしまった。
「ケル、どうだったかしら」
「ダメ。目撃情報無し」
「そう……。……シーファさんやメアリーさん曰く、呪詛スキルは生きているから、死んでいる、ということはないみたいだけど」
「ん」
「死んでいなければいい、という話ではないわよね」
ヴェルグに家族の暖かみを思い起こさせ、彼を繋ぎ止める作戦。
主にシーファが主導して行ったプチ家出。けれどそれは、逆効果だったのではないか、と思えてさえ来る。
いなくなるのなら。
あの家で、ただただ傍にいる、ということを、しておけばよかった。
「あら?」
「ん。どうかし……あ」
ツゥが向いた方向。
そこに。
「──お久しぶりです……じゃない、久しいな、お前達」
「いや別に、もう王国と帝国が戦争する理由無いんで、口調とか気にしなくても良いんじゃオグフッ」
「久しぶり、カローライナ。それともそっちの人の言う通り、オリランカって呼んだ方が良い?」
「いや、カローライナで頼む。終戦宣言が為されたとはいえ、まだ王国に恨み……というか蟠りを持つ者も少なくはない。それに、ここへ来るときはカローライナがいいんだ。皆の友人であるカローライナがな」
「ケル、カローラさん。完全にスルーしたけれど、こっちの男の人はいいのかしら? 見事な肘鉄を食らって悶絶しているけれど」
「丈夫だから大丈夫だ。それより、帝国に居を構えたと聞いたぞ」
「それよりって、ひでぇ……」
銀閃のカローライナ。あるいはシアルル王国第二王女オリランカ。
彼女が、付き人としてスヴェロニカを引き連れてそこにいた。
「カロち! お久~!」
「久しぶりだなシーファ。……と、ツバナ? どうしてメガネなんかかけて」
「あ~、ちょっと前にね、ツバナちの歴史考察の結果私たち全員が窮地に陥った、みたいなことがあって……それで今猛勉強中なの」
「なる、ほど?」
「すまんのカローライナ。私は今知識の詰め込みで忙しい。……いや、王家の知識は垂涎モノじゃが……」
「流石に教えないぞ」
「じゃよなぁ」
二階建ての一軒家。
ケルの名義で購入したこの家は、元々住んでいた家よりはこじんまりとしているものの、女五人で住むに十分な広さを持っている。元の家が広すぎたのはそう。
「アウラニはいないのか?」
「アウラニちは今ラムナザール四世と鍛錬中~」
「だ、大丈夫なのか?」
「本気モードの私を除けばこの家で一番強いのはアウラニちだからね。自分の長所をもっと生かすためには、強い人と戦う必要があるんだってさ」
「強い人が過ぎるように思うが……」
「ラムナザール四世ねぇ。一手死合ってみたいもんだが、流石に立場上無理か」
と。
「──王国の第二王女に、王国暗部。はぁ、堂々としすぎて叱る気にもならんな」
「あ、おかえりアウラニち。丁度アウラニちの話してたとこだったんだよ」
「ただいまです、シーファさん、皆さん……に、カローライナさんと、スヴェロニカさんも」
「どーも。お久しぶりで。……んで皇帝陛下、俺達お忍びなんで、公的なアレソレじゃないってことで見逃してくださいや」
「あちらの王家で騒ぎになっていやしないだろうな」
「キーロという、王国暗部で最も私と背丈が似通っている者に私の恰好をさせて来た。だから大丈夫だ」
「この一点張りで。損得勘定でしか動かない銀閃はどこ行ったんだっつー」
ラムナザール四世は顔も知らぬ王国暗部の構成員にエールを送る。
どこの国にも苦労人はいるのだと。
「で? ヴェルグがいなくなったんだって?」
──空気が凍る。
スヴェロニカのみぞおちにカローライナの肘鉄が突き刺さった。
「まー、事実じゃから、そう過敏に反応せんでも良い。じゃからこうして私は勉学を、アウラニは強さを追い求めているわけじゃしな」
「そうか。落ち込んでいるだけではないのであれば、良かった」
「俺が無駄に肘鉄食らっただけですかい……」
しかし、スヴェロニカがそれを問うということは、カローライナはその件で来たのだろう。
「現在、王国ギルドでも彼の足跡を追っている。……一応、王国での奴の変装名であるバーグという冒険者がひと月前にある依頼を受けて国を発っている」
「どこへ行ったとかは」
「デルヴァーザン平原だ。んで俺達暗部がそこ行ったら、戦争でもあったんじゃねーかってほどの戦闘痕があった。で、詳しく調べようとした……んだが、判議会が出張ってきてな。止められた」
「判議会だと? 何故判議会が出てくる」
「どうにもバーグに依頼をしたのも判議会っぽいんだわ。名義は確かに王国人のモノだったけど、そいつは蒸発しちまっててどうにもきな臭い。バーグの身分証明も判議会がやってて、一緒に依頼を受けた世界各国の白銀章冒険者……クライン、ルーファス、ルウィンって奴らの情報も、どこをどう探しても出てこない。ウチの国の英雄ラヴ・グラットルも連れてかれてて、こっちはてんやわんやだ」
名前を聞いてある色狂いの顔が思い浮かぶ面々。
さらに魔王と聖王の名を知っているアウラニは、舌足らずな自分の口でどう伝えたものかと悩む。
「とにかく、これが王国から出せるヴェルグの足跡だ。……役に立っただろうか」
「うん、ありがとう、カローライナ」
「ただ、追うのはお勧めしない。さっきも言った通り判議会の連中が出張ってくるのと……魔王か、それ以上の強さを持つ魔族がいた。俺が手も足も出せずに負けそうな奴がな」
「余でも無理か」
「知らねえよ。アンタの強さは遠巻きにみたことしかないんだ。ただ……なんつーか、次元が違ったな」
でも。
「追うのがダメなら、もう、何をしていいかわからない」
「そりゃまぁ、そうなんだが」
「ふむ。であれば余が同行し──」
ピリ、と。
その場にいた全員が。いいや、帝国中の、世界中の全てがそれを感じ取ったはずだ。
怖気。
今。
今、この世界に。
復讐者が帰って来た、と。
「……なんかやべーな。姫さん、一旦帰るぞ」
「そう、だな。……皆も十分気を付けてくれ。この肌が粟立つ感覚は……」
「うん。帰り道、気を付けて」
世界の外側でストーリーテラーが目を覚ます。
聖堂の片隅で賢者が溜息を吐き、聖槍が薄く目を開き、聖獣が天へと吠えたてる。
学術都市で智者は頭を抱えた。王国で青年たちが装備を整えた。帝国で商人が総毛立ち、調剤師が空の瓶を一つ落とす。
来た。来た。
不吉がやって来た。
平原の奥で。
少女はその拳を、強く握りしめた。