※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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豊穣と悲嘆の交配(G度中くらいR18ほんのり)

 腕が斬り飛ばされる。

 脚がすり潰される。

 心臓に穴が開く。

 

 ──思わず笑みを零す。

 

「限界か、一人目のヴェルグ」

「ああ、どうやらな。エリクシール五百本じゃ流石に無理か」

「分け身の分際でよくやったと、褒めて欲しいのか?」

「実際よくやっただろ? ノーダメとはいえさ」

 

 ノーダメージ。

 魔素の塊であり、魔素フィールドの恩恵を最大限に受けるドゥームスには、俺が現れてから今の今までに食らわせたあらゆる攻撃のダメージが通っていない。っつーか全部治癒されている。

 

 対してこちらは、もう回復手段がない。

 身体は崩れかけているし、グランギニョルも折れた。すまんな。

 

「まだ何かを、画策しているな。自爆の呪いでも、自身にかける気か」

「いやいや、んなことしねーよ。つーかスキルつかえねーんだっつの」

 

 分け身としての働きで見れば、上々も上々。

 ただ。

 

「惜しいわ! 心から!」

「……」

「全力出して戦うとかひっさびさだしさ、究極体ドゥームスとか、くっそー、スキルもアイテムも全部ありでやりたかった」

「別に、今から本体を呼んできても、構わないが」

「ハッハッハ、そりゃ無理だよ。スキルが使えないんだ、転移も虚数スキルも使えない。俺は最初から捨て駒さ」

「死が、恐ろしくなったか?」

「んー、どっちかっつーと逆? 勿体ねえって思う。この感情を本体にフィードバックできないのが」

 

 楽しい。

 ゲームをしていた頃の感覚だ。どうやっても勝てない敵に対し、今ある全てをやりくりしてなんとか辿り着こうとするこの感覚。感情。

 このドゥームスですら苦戦せずに倒せてしまう本体には絶対に味わえない極上の感情。

 

 プレイヤーとしての本懐。

 

 ざらり、と。

 身体が崩れていく。

 

「ま、なんだ。ドゥームス」

「……」

「ずっと泣きそうな顔してないで、ちったぁ楽しめよ、生存競争なんて中々できないぜ?」

「余計な、世話だ」

 

 ドゥームスの剣。【悲鳴】が振られ、俺の身体は袈裟懸けに両断され。

 

「代わりに俺が褒めてやるよ、分け身のヴェルグ」

「──お前のデレとか死ぬほど要らねー」

 

 フレースヴェルグが、来た。

 

 

 

 

 黒々とした大地に生物らしい生物はもういない。極高所の山脈には魔物が残るのだろうが、あるいはそれも時間の問題だろう。

 

 フレースヴェルグは。

 

「すまん。一応謝っておくよ」

「……理解が、できない」

「いやだって、ネレット達を人質に取られていたとはいえ、お前の牙になるって一度は頷いたんだしさ。それを反故にしたんだ、謝っておくべきだろ」

 

 呆気にとられた、と表現するのが最も的確か。

 フレースヴェルグはこういう奴である。そう知識として知っていても、実際にされると放心する。

 

 イサカリなんかが今のドゥームスを見れば、ケラケラ笑うことだろう。「だよなぁ、俺もそう思う」と。

 

「気には、なっていた」

「ん?」

「──お前は何故、魔素を生まない?」

 

 フレースヴェルグが魔化した理由。

 それは悪意を持ったからとか世界に絶望したからとかではなく、至極単純な魔素中毒からの魔化である。

 

 だとしても、魔化した時点でドゥームスの意思に侵され、魔素を生む──人間への恨みを、悪意を抱くはずだった。

 だというのに、フレースヴェルグが魔化してから、未だ、ただの一度だって彼は魔素を生んでいない。

 

「この世界が好きだからじゃね?」

「……理由は、なんだ」

 

 あっけらかんと言うフレースヴェルグに、ドゥームスは再度問う。

 

 何故好きなのかを。

 

「俺をこの世に生んでくれた。──だから好きだよ、この世界は」

「……感情を略取され、在り方を定められ、お前達を物語の一部としか見ない──この世界に生まれ出でた、ことを」

「ああ。ありがたいって思ってる。おかげでたくさんの仲間と出会えたし、たくさんの別れを経験した。たくさんの平和を知ったし、たくさんの諍いを見た」

 

 人間として最強を謳われ、魔化して頂点を目指し──尚も。

 

「俺の視界に映る世界は、お前が見ている世界よりちょっとだけ美しいんだ。多分そういうことだと思う」

「……ならばやはり、相容れぬ。この双眸に映る世界は、お前が見ている世界より、少しばかり醜い」

「んじゃ仕方ねえな」

「ああ、仕方のないことだ」

 

 それぞれに剣を取り出す。【悲鳴】と。

 

「……聖剣、だと?」

「魔素にはこれが一番だろ? 多少痛ぇが、それだけだ」

 

 多少どころではない。

 聖剣──【聖剣カリバーン】は確実にフレースヴェルグの腕を爛れさせていく。しかしその剣が魔素に呑まれることはない。

 反発していないのではない。

 抵抗していないのだ。

 

「それを持っているだけで、お前は消耗していく。勝ちを捨てたか、フレースヴェルグ」

「いや?」

 

 フレースヴェルグの纏う魔素は。

 一切の翳りを見せていない。聖石武器の聖気をモロに食らっているにもかかわらず。

 

「……どのような、理屈だ」

「なんだ、知らねえのか? 最強のスキルってものをさ」

 

 それは世界が遺した"焼き増し"の一つ。

 けれど──この時ばかりは、功を奏したのかもしれない。

 

「最強のスキルはな、アイテムボックスなんだよ」

 

 周囲。

 これでもかと満ちる濃縮魔素。その全てをアイテムボックスに入れていくフレースヴェルグ。

 して、アイテムボックスは精神と繋がっている。故にアイテムボックスに入った濃縮魔素はフレースヴェルグの精神へ流入し──その魔素を強化していく。

 

「俺が痛みで聖剣を手放すのが先か、お前の魔素が尽き果てるのが先か。──これでも元騎士団長、分の悪い戦いなら策を考えるんだよ」

「良いだろう、面白いぞ、フレースヴェルグ」

 

 第二ラウンド、開始。

 

 

 

 

 シーファたちが真っ先に向かったのはエイルニルス公国だった。

 王国と帝国は自己防衛ができるだけの戦力を持っている。アスガードにはアスガードの冒険者がいる。なおポリウィックは完全制限されているしヴァネッサは封印されているので戦力外。ノーラも戦士ではないのでマイホームに閉じこもってもらっている。

 

 エイルニルス公国は復興したばかりの国だ。兵団がいるとはいえ魔素対策に長けるわけではない。

 何よりリアがいる。彼女らがそこを防衛しに向かうのは当然の帰結と言えただろう。

 

「ッ……まだまだ来る!」

「シーファ様。こちら、クラーケンの魔核です」

「ありがとメアリち!」

 

 広範囲殲滅の担当者はシーファ。ただ彼女の戦い方ではすぐにガス欠になるため、アイテムボックス持ちであるメアリーが付き添っている。彼女のアイテムボックスに眠る高位魔物の素材をシーファに提供するためだ。

 

 その周囲で斥候を担うケルとツゥ。二人は森の中の魔素の造物の配置を逐一報告する役割を担い、時折戦線にも加わる。

 アウラニはラクニシェルらと合流し、この国の兵士と共に戦う。リアは魔法での支援。

 

 そしてツバナは──。

 

「バルクス、行くぞ!」

「準備完了しています、ツバナさん。どうぞ思いっきり」

「──ふんぬぁ!!」

 

 ヴェルグをして「重い」と言わしめるバルクス。

 その身を、てこの原理を利用して打ち上げる。

 

 飛行へのリソースを全て砲撃に回したバルクスは、その勢いのまま制動することさえなく砲門を解放し。

 

「ふぁいやー」

 

 殲滅、する。

 

 訂正しよう。

 広範囲殲滅の担当者はシーファだけではない。

 

 終末防衛機構B.A.R.C.U.Sとその投擲者ツバナ。

 この二人もまた広範囲殲滅を担っていた。

 

 

 

 学術都市アラダでは二十一人の石像たちが興奮を隠せないでいる。

 突如世界を覆った魔素。けれど、それは自分たちに近づいてこない。

 

 英雄だ。何の取り柄も無い彼女らは、今、この瞬間……学術都市に住まう大勢を守る英雄となったのだ。

 

 

 

 王国にも英雄がいた。

 

「……まるで世界の終わりのような光景だね」

「だが! それを阻止するのが我ら! 敵が強大であるなど! 今更が過ぎようぞ!」

「ま、アニスの言う通りだな。にしても……ユナ。お前さん、さっきから何きょろきょろしてんだ?」

「へ? あ、いや、その……」

 

 イグニス。そして。

 

「キンゾイおじさん! 上!」

「わかってる! 戦士スキル:切り上げ!」

「わかってない! もう一匹来てる──ああもう、魔法スキル:カノン!」

 

 戦闘能力のない母親を守る、どこかちぐはぐな二人。

 

 

 

「馬鹿馬鹿馬鹿姫さん待てって気持ちはわかるが今は不味い! 触れたら魔化だぞわかってんのか!?」

「わかっています。ですが、最早封印を守る理由も失った王家がそこまで大切にされる意味はありますか? ──というかギルドが総力を挙げて戦ってるんだから、銀閃のカローライナが出て行かないわけにはいかんだろう」

「オリランカ」

 

 ドレスを脱ぎ捨て、冒険者装束に身を包むカローライナ。それを引き摺ってでも止めようとするスヴェロニカ。

 そんな二人に声をかけるは──カローライナをして愚昧と称された現国王。

 

「……なんでしょうか、お父様」

「王家に伝わる【月の石】……これを授ける。──そして銀閃のカローライナに依頼する。民を頼めるか」

「はぁ!? 親子そろって馬鹿なのか!? そういうのは俺達下っ端がやるっつってんだよ!」

「ありがとうございます、お父様。──そういうわけだ、スヴェロニカ。当然お前達も、そしてエリック・サンダーソンを失った騎士団も出させる。ああ、お父様。近衛兵は要りますか?」

「不要だ。全戦力を国防に回す」

「~~~っ! ああクソ、次転職の機会が来たら帝国行ってやる! もう懲り懲りだ!」

「安心しろスヴェロニカ。──お前はここに永久就職だ」

 

 現国王は。

 そして妃と、妹と違って戦う術のない姉は。

 

「……オリランカ」

「なんだ、姉様」

「無事で。……役に立たない、頭の悪い姉で、本当にごめんなさい」

「何を言う。私は第二王女を辞める気満々なんだ。姉様にはいてもらわないと困る」

「……この国を内側から変えて見せる、んじゃなかったの?」

「もう変わった。だから私は冒険者をしたい。今度こそ本気で」

「あら……どうしましょう。オリランカが私達を褒めるなんて、明日は嵐ね」

「お母様、煩いです。……明日の嵐を迎えるためにも、お三方は王城で大人しくしていてください。私の帰る場所を残しておくように」

 

 ヴェルグなら空気を読まずに言うだろう。

 ──「あ、ツンデレ化した」と。

 

 直後、カローライナは家族に抱きしめられ──スヴェロニカが守護の決意を固める。

 なんだかんだ言って。

 守らなければと。

 

 

 

 

 

 拮抗していたのは最初だけだった。

 聖剣カリバーン。フレースヴェルグはその痛みに耐え続けたが──残念なことに、カリバーンがドゥームスの濃縮魔素に耐えられなかったのだ。

 そこからは魔剣や徒手空拳での戦い。ただしそれでは有効なダメージを与えることができない。

 防戦一方でこそないものの、千日手──あるいはフレースヴェルグの劣勢。

 

 決定打がないのである。

 それが現状。

 

「万策尽きたか、フレースヴェルグ」

「いやそーでもない」

 

 ただ、彼はフレースヴェルグ。

 劣勢を打破し続ける者。まだまだ手数はあるし、まだまだやれることはある。

 千日手になろうと、ここでドゥームスの足止めをし続ける覚悟が彼にはある。

 

 今回ばかりは、相手が悪かっただけだ。

 

 ガクン、と。

 膝をつくフレースヴェルグ。

 

「あ……?」

「面白い、発案だった。ゆえに、利用させてもらった」

 

 指先に魔素を固めるドゥームス。

 空中に倒れ伏すフレースヴェルグは、未だ現状の理解が及んでいないという顔で、自身の精査を行っている。

 が──答えはドゥームスがくれた。

 

「アイテムボックスは、精神と繋がっている。ゆえにアイテムボックスに魔素を取り込めば、自身の強化が行える。──であるならば、アイテムボックスから、お前の魔素をコントロールすることも、できる」

「……」

「クリフォトの伐採により、支配権は得られなかったが、こうして魔素を凝縮させ、お前の力を削ぎ落すことは、可能だ」

 

 フレースヴェルグは自らのアイテムボックスを確認する。

 そこあるのは、騎士団にいた時に何度か使った避魔球のようなアイテム。ただしこんなものを持っていた覚えはないので、つまりそういうことだろう。

 ドゥームスはフレースヴェルグのアイテムボックス内で魔素の塊を作った。その精神から魔素を引き抜いて。

 

「魔族の原動力は、魔素だ。それは魔化した人間も、同じ。魔素不足に陥れば、活動を停止する」

「……魔素の扱いでお前に勝とうと思ったのが間違い、か」

「然り。そして」

 

 ドゥームスは【悲鳴】でフレースヴェルグの腕を斬る。

 直後、その腕が持っていた聖石が爆発した。

 

「二番煎じは、効かない」

「……アイツが余計な事やったせいかよ。クソ……」

 

 空中にいることもままならなくなったのだろう。

 フレースヴェルグはそのまま、真っ黒な濃縮魔素フィールドへと落ちていく。あそこで回復する、ということも敵わない。アイテムボックスが常に魔素を吸い続ける以上、フレースヴェルグはもう。

 

 そして。

 

「来た、か。──二人目の、ヴェルグ」

「ラヴ・グラットル。私の名前、覚えて」

 

 第三ラウンドのゴングが鳴り響く。

 

 

 

 

 いやはや。

 みんな頑張ってら。アモルファス聖はメルキオル達に、ワォスタクラインはエイルニルス公国に合流したようだけど、別にラヴ・グラットル一人に任せなくてもよかったのにネー、とか思わないでもない。

 ファントムがなんぞ発破をかけたんだろうけど、せめてポーション投げる役一人付けるとかさ。ヒール系使えるマスカルウィンは何故かラムナザール四世とバトってるし。

 

 そんな中で、全存在全裸化計画は着々と進んでいる。

 というかもうほとんど終わってる。あとはラヴ・グラットルがドゥームス倒したら終わり。ファントムには申し訳ないけど、アイツとラヴ・グラットルのアツいバトルは全存在全裸化計画が終わってからやってもらうことにしよう。

 

 ラヴ・グラットルさえ倒せばもう障害はない……と思っていそうなドゥームスには悪いけれど、アイツの勝てる未来が視えない。ラヴ・グラットルは天使と人間の二重存在。さらには修行終わりに俺の呪詛スキルまでレジストできるようになったからな、もう完全体だ。

 魔素源王は突き詰めると魔素でしかない。

 

 もーちょっと強くなってくると思ったんだけどな。三つの世界の自分を吸収しただけじゃ、無理だよドゥームス。

 ラヴ・グラットルを強化し過ぎたとも言う。すまんなぁ、公平を謳っておいてバランス調整下手なんだわ俺。頭良くないからさ。

 

「で」

 

 あそこで戦ってるのがお前ならさぁ。

 

「お前は誰なワケ? ──ラヴ・グラットル」

「私は私だよ、ヴェルグさん」

 

 虚数空間。

 そこに、ラヴ・グラットルがいた。

 

 うーん。

 

「いや、引っかかってやりたい気持ちはあるんだけどさ。明らかにレベルが違うんだわ。今ドゥームスと戦ってるお前と、こっちのお前。つーかお前限界突破してるだろ」

「そうだね。あのままの私だとヴェルグさんに負けちゃうから、強くなったんだ」

「……良く世界が許したな」

「もう、相変わらず理解が早いね。少しでもケルさん達に割いてあげればいいのに」

 

 言動と能力でわかる。

 こいつは。

 

「未来のラヴ・グラットル……虚数世界ならでは、だが……」

「外法をね、使ったんだ。──自身の存在を代価に、過去を変える外法」

「……意味わかってんのか?」

「うん。──私はね、ヴェルグさん。貴方が孤独になった世界から来た私。貴方がいなくなってから、世界は色々変わったよ。ヴェルグさんが変えたんだもん、知ってると思うけど」

「まー、色々変わるだろうな。さっきの言葉から察するに、ケル達とは仲良くやってんのか」

「うん。でも、みんなずっと悲しんでた。ようやく人も魔物も魔族も分け隔てなく過ごせる楽園になったのに、一人だけいない、って」

 

 強いな。

 少なく見積もっても俺と同等か……以上か。

 うーん、マトモに相手してたら機を逸しそうだし、逃げるのはアリ。

 

「なんであんなことしたのか聞いても良い?」

「それ以外に思いつかなかった。魔族と天使が共に在れるようにするにはこうするしかなかった」

「ヴェルグさんが一人になる理由は?」

「一人になるっつったって、セックスはしに行ってるだろ、多分。ノーラとまだシてないんだ、俺がそれを放置するとは思えん」

「……自分の事、よくわかってる」

「そらみたことか。……ま、悲しむやつは悲しませておけばいいのさ。永遠の別れじゃないんだ、何も」

 

 言い切る前に拳が来た。

 避けるけども。

 

「言ったよね、ヴェルグさん。私、存在を代価に過去を変えに来た、って」

「……説得は無駄だ、って? いやぁ馬鹿なことをしたもんだと思うよ。意味わからんしな。永遠の別れになったわけでもない奴の選択を変えるために、自分を消費? ふざけんのも大概にしろよ自己犠牲精神とか」

 

 拳。拳。天使スキル。合成スキル。

 基礎防御力は普通に抜かれる威力だけど、速度はまだまだだな。さては虚数空間での戦闘に慣れてないな?

 

「つーかお前が代価を支払う意味が分からん。お前にとって俺そこまで大事な存在じゃ」

「愛してる人だもん。そりゃこれくらいするよ」

「……」

「あ、凄い怪訝な顔。……まぁそうだよね、この頃の私って愛も恋もわからないっていうか、憧れと戦闘意欲の区別もついてない子だったし。でも……ヴェルグさんがいなくなってから何年も経って、ようやく私は貴方への気持ちに気付いたんだ。そうしたら、居ても立っても居られなくなって……来ちゃった」

 

 ……。

 さてどこまで信じるべきか。愛は暴走感情だと俺は思っているから、まぁ本当に愛を覚えたのならそれくらいするのは別におかしなことじゃないとは感じる。

 が、ラヴ・グラットルが俺に愛を、ってところがどーにも。

 ケル、シーファ、マスカルウィンあたりならまだわかる。関係値あるし。

 

 でもラヴ・グラットルは……一緒に戦って、その後ボコしたくらいの関係性だぞ。

 愛する要素あるか?

 

 ラヴ・グラットルvsドゥームスは……もう少しかかりそうだ。

 だから考える時間はある。こっちに攻撃してきてるラヴ・グラットルのそれも、対応可能な範疇。

 

 えーと。タイムパラドックス的にー。

 

「……考えるのやめた。俺はやりたいようにやる」

「させない」

「俺の行動を制限するには実力不足だよ、ラヴ・グラットル。せめてもう少し……というか俺を圧倒できるくらいの強さを手に入れてから来るんだったな」

「ヴェルグさん」

「何より」

 

 眼前に迫ってきていたラヴ・グラットルの──その顔を、掴む。

 

「お前やっぱラヴ・グラットルじゃねーだろ。アイツの目、そんな目じゃねーんだわ」

 

 どんな状況にあっても、「世界には希望しか満ちていない」という瞳をしていたラヴ・グラットル。

 けれど目の前の少女……いや、もう女性と言ってもいいくらいの年齢の彼女の目は、どこか影を帯びている。

 

「そりゃ、好きな人があんなことをしたら、こうなるよ」

「ならない。俺はラヴ・グラットルを信頼している」

「嬉しいけど、私だって普通の女の子だよ」

「違うね。ラヴ・グラットルは太陽だ」

「太陽? なぁに、それ」

 

 説明をしようとして。

 ……。

 

 ある考えが浮かんだ。

 

「お前さ、まだ天使スキル使えるってことは、天使ではあるのか?」

「種族としては違うよ。ヴェルグさんがそうしたんじゃん」

「ああそうなのか。スキルは残るのは知らなかった。でもまぁなんでもいいや」

 

 ぽーん、と。

 ソレをラヴ・グラットルに渡す。

 

「え」

「ほれ、欲しいのそれだろ。【聖魔混水晶】。俺が二週間かけて作り上げた【滂沱の黒雫】と【微笑の白滴】の合成アイテムだ」

「……折れてくれる気になったの?」

「さぁ? どちらにせよだろ。それが無きゃ俺はアレを発動できない。もうすぐドゥームスとお前の決着も着く。これで万々歳だ。違うか?」

 

 ラヴ・グラットルは。

 

 泣きそうな顔をする。

 

「……なんで気付いちゃうかなぁ」

「露骨すぎるからな。ほれ、それ持って元の世界に帰れ。んで、()()()()を俺に寄越せ」

 

 取り出されるソレ。

 今俺が投げ渡した【聖魔混水晶】は黒と白が混ざり合うことなく水晶の内部でぐるぐるしているものだけど、ラヴ・グラットルが取り出したのは完全な灰色の水晶で。

 

「一応聞いておく。──気付いてほしくなかった理由はなんだ。お前にとっちゃ俺は他人だろ。たとえお前が愛した奴のパラレルな存在だとしても」

「……だって」

 

 彼女が零した言葉。

 それが──なんというか、あまりにも可愛らしいもので、笑ってしまう。

 

「わ、笑わないでよ!」

「すまんすまん。……瞳、戻ったな。やっぱりお前はそれが一番だよ」

 

 翳りは消えて。

 再び彼女の瞳は、「世界には希望しか満ちていない」ものになった。

 

「なんか……ヤだな。本当に私が【聖魔混水晶】だけを求めてきたみたいじゃん」

「事実だろ。さぁ、帰りな帰りな。同一世界に同じ人間が二人いるのはマズい。あ、ちゃんと込め直せよ? んでもって、お前のおかげで俺も答えを得た。お前の世界と同じにはならないから安心しろ」

「……ホントに?」

「ふむ。……じゃあ、宣言しよう。()()()()

「できないことは言わない主義のヴェルグさんの、約束?」

「ああ」

 

 パァ、と顔を輝かせるラヴ・グラットル。

 

「ああ、それと。システムスキル:セーブデータ修復」

「え」

「……虚数世界/世界の外側に呼び出す/呼びつけるとか、どうかしてる/馬鹿?」

「コイツのデータ修復頼む。初期化は無しで」

「はぁ/はぁ。……たまにいる/馬鹿だと思う。自分から/自らデータを消す/存在を代価にする奴/阿保。……うん/はい、直した/修復完了」

「サンキュー」

「え……え?」

「存在を代価にする、っつーのまぁ世界で生きる奴からしたら大層なことだし、時間が経ち過ぎてるとサルベージしようがないからもうどうしようもないんだけどさ。目の前でそれが起きたってんなら話は別でな。存在抹消程度であれば世界による上書きでなんとかなる」

「何もしてないくせに/自分がやったみたいに」

 

 さて──ドゥームスとラヴ・グラットルの戦いが佳境なので。

 早急にお帰り願おうか。

 

「ど、どういう」

「だからお前は戻っても消えないってこと。お前の愛したヴェルグとやらによろしくなー」

「こっちとしても/世界から見ても邪魔だから/余分なデータだから送り返す/強制送還」

「せめてお別れの言葉とか──……」

 

 虚数世界の虚空に穴があいて、そこへ落ちて行ったラヴ・グラットル。

 ……まー大丈夫でしょ!

 

「けど、意外だった。お前もう傍観ポジにいて出てこないもんだとばかり」

「そのつもりだった/馬鹿? けど、アナタ/オマエが気付きを得た/考えを変えたから、出て行く価値を見出した/もっと早くに気付け」

「そりゃごもっともだ。三流台本の最後の置き土産……気付いてたはずだったんだけどな」

「それじゃあ、後は任せた/る」

「おう」

 

 修復端末も消える。……「ラヴ・グラットル」に関しての種明かしはまた今度で。今時間無いからね。

 

 さて、それじゃあ。

 

 全存在全裸化計画最終フェーズと行こう。

 

 

 

 ()()()()

 

「!?」

「フレースヴェルグ……いや、一人目のヴェルグ!」

 

 転移先は二人の間。

 両者ボロボロで、あと一発殴り合えば決着が付きそうな、そんな雰囲気のところに割り込む。ファントムなら「えええええええ今良い所だったのにええええええ馬鹿なのねぇ馬鹿なのねぇ!!」とか言ってきそうなタイミング。

 

「何をしに、来た!」

「全存在に心を戻す。そのために必要なことをしに来た」

 

 全存在全裸化計画。それは聖も魔も人も魔物も、全てを同じにする計画。特別なものなどいない。誰もが心を有し、誰もが善人にも悪人にもなり得る世界。

 そういう、"普通の世界"へと世界を変貌し直す。

 

 ──さっきまでは。

 

 討伐されたドゥームスの魔素に干渉し、【聖魔混水晶】に入っている「遍く心の片割れ」を世界全体に流し、そうして彼女らに心を戻させるつもりでいた。その際、どうやっても魔化が起きる……正確に言えば魔化とすらいえない、心化(しんか)とでもいうべき現象が彼女らを襲うから、絶対に人間でなくなることは確実。

 ゆえの全存在全裸化計画だった。

 

 だけどこの計画には欠点が一つ。

 

 俺だ。

 俺別に心失ってないからな、100%の確率で俺だけ心化から外れる。とはいえそれは欠点とは言えない欠点で、特に失うモンもないから良いかなー、とか思ってたんだけど──もっといい方法在りけり、ってな話で。

 

 灰色の、壊れた【聖魔混水晶】を。

 

「くらえー」

「へ──にゅぎゃ!?」

 

 ラヴ・グラットルへと、押し付ける。

 胸に。まだ少女らしさが抜けていないその発展途上の胸に。

 

 直後、起きる。

 灰色の【聖魔混水晶】が再起動し──ラヴ・グラットルから聖気と魔素を吸い取り始めたではないか。

 魔素。彼女が持っていた魔素。それは、先ほどの成長した彼女が見せていた翳りと同じ。

 

 ずっとずっとひた隠しにしてきた、彼女が本来有している暗い部分。天使の自分に押さえつけられていた、彼女の"人間"の部分。

 

「魔法スキル:グルーハント」

「っ、何を、する気だ」

「計画の根本は変わってないんだわ。ただ」

 

 無理矢理にドゥームスを抱き寄せ、ラヴ・グラットルも抱きしめ、【聖魔混水晶】がその効力を発揮する。

 白、ではない。透明になって行く濃縮魔素。消えたわけではないから、気を抜いた人々は漏れなくその力に晒されることだろう。

 

「──歴史に淘汰されてきた遍く人々の片割れの感情なんてものより、ラヴ・グラットル一人の太陽みたいな心の方が、あったかくて良いだろうって話でさ」

 

 三流台本が残した最後の最後の伏線。

 

 全存在全裸化計画。

 いいや、俺の名前が小イベントだったんだ。

 

 ヴェルグ。フレースヴェルグ。

 その名の意味は──北風。

 

「北風と太陽で、旅人たちの服を脱がすのは、寒々しい北風じゃあなくて、暖かい太陽なんだよ。知ってたか?」

「そ、それどころじゃない! 嫌、なんかこの球、吸ってる、吸ってる……出ないって、まだ私出ないよ~!」

「何かが、入ってくる。……暖かいが、これは」

 

 あー。

 そうなるんだ。

 

 ……間接的にラヴ・グラットルの母乳をドゥームスが飲んで、それを全世界の人々が……と。

 

 マニアックだな、大分。

 まぁ。

 お前の尽きることの無い太陽さ加減で、世界中の赤子たちへの授乳プレイ、頑張ってくれ。

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