※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

89 / 100
沈黙と重圧の代価(G度無し)

 一つだけ。

 当然のことというか、はじめっから危惧されていたように、そして想定していた通り──この世界で唯一俺だけ種族が違う。

 種族というと少し混乱するから、概念と言った方が良いか。

 人間と魔物と魔族。それらはそれぞれ「心化」によって「元気」を得て、多少なりとも高次の存在になった。魔素と聖気の性質を併せ持つ元気を振りまく彼女らは、その祖……L.U.C.Aの部分が塗り替えられたのだ。「生物・ドメイン・界・門・綱・目・科・属・種」の生物部分のさらに上が違うって感じ。

 

「成程。つまり私達人間は役者ではなくなったし、魔物や魔族は舞台装置の消耗品ではなくなったけれど……君だけは観客のままである、と」

「ま、そーなる。つったって大した違いはないけどな。もう少しわかりやすく言うと、俺は観客にしかなれなくて、お前達はどっちにもなれる。そんな感じだ」

「では判議会は事実上の解体だね?」

「どうせファントムはもうすぐやられるからな。誰か運営したい奴がいるならソイツに任せりゃ良いが、そいつが常に公平で在れるとは思わない方が良い」

 

 ここから先は、これまでに起こらなかった「人間の悪意に因る悲劇」が起こりまくる。世界やファントムが手引きをしなくとも、胸糞悪い事件や心底理解のできない凶行、そして昨日まで仲の良かった隣人が殺意を抱く程の変質を遂げることだってあり得る。

 事実は小説より奇なり、なんて言葉があるけれど、そもそもが逆なのだ。

 創作物が事実に勝てるわけがない──それがこれからの世界の在り方であり、本来あるべき在り方となる。

 

「──ではそろそろ本題を聞こうか、ヴェルグ。私達が心化したことによるデメリットは何かな」

「お前ならわかってんだろ、オニキス・リオン」

「想像はついている。だが張本人から聞かなければ漏れがあるかもしれない。違うかな?」

 

 デメリット。

 そうさ。全部が全部良い方に転がる方法、なんてものは存在しない。最もリスクの無いものを選んだけれど、ゼロにはできなかった。

 何より事前にユグドラシルから聞いていたからな。「その」方法は苦痛でしかないと。

 

「究極的に。っつーか最終的には、お前らは飯を食わなくて良くなる。できなくなるわけじゃないし、今のところは前の感覚が抜けきってないだろうから幻肢痛的なノリで腹は減るだろうけど──飲食自体がお前達の生命活動の条件から消え去っている」

「であれば、私達の生命が活動し続けるために必要なエネルギーは」

「"元気"だ。人と関り、異種族と関り、人の中で活動していくこと。元気は他者から他者へと伝播し、溜まり、フィールドを作り上げる。──ゆえに、孤独死は加速する」

 

 小規模であっても良い。コミュニティの中にあれば死にはしない。

 だけど、どっかの山奥で一人っきり、魔物も魔族も精霊も寄せ付けないでソロ修行……とかやってると、多分弱って死ぬ。消える。

 これは魔素の性質そのまんまだ。体を構成するものがすべて魔素であった魔族は、魔素を吸収すれば強くなり、放出し過ぎれば弱体化していっていた。元気でも全く同じことが起きる。

 

 つまり。

 

「"元気"を放出することのない君は、次第に爪弾きにされる」

「別にソレがデメリットだとは思っちゃいないけどな、俺は。永遠の別れでもあるまいし、ただ毎日一緒にいない方が良いってだけだ。どうやっても俺の周囲だけは"元気フィールド"が薄くなるから」

「先ほど飲食が必要なくなるとは言ったけれど、それによって"元気"を摂取することはできるんじゃないかな」

「魔物素材ならいけんじゃね。ただ普通の植物からは取れない。……そういう意味じゃ、場所を取る普通の植物は段々駆逐されて行くかもな」

 

 というか多分、あの二人の世界は既にそーなった世界だと思ってる。

 じゃなきゃ俺が隔離されている状況は中々作られん。

 

 魔素と聖気が元気に統一されたにもかかわらず、俺はまだスキルで聖気出せちゃうしな。邪魔だろ、色々。

 

「ま、周知の必要不必要はそっちが決めてくれ。孤独になればなるほど死にやすくなる、って発表するのは、それを利用した悪事や自殺が増えかねん話でもある。そこまでの責任は取れんし取らん」

「それについては最後の判議会にでも議題として提出しておくよ。ここでの私は単なる中堅神官でしかないのだし、教会においては立場も何も無いからね」

「……教会ねぇ」

 

 魔素の造物が溢れかえった時、氾濫する魔素に対しては聖堂と神殿が対応し、内陸の魔素には教会が当たったらしい……んだけど、その現場を見てないからなぁ俺は。

 教会関連のイベントはちゃんと覚えてるけど、それも特に起こっていないみたいだし。ちょいと気掛かりではあったりなかったり。

 

 ヴィシャスとオブセルウェルのテイムもなー。聖気が無くなったから多分集めてドーンのイベント起きないだろうし、もう必要はない。カワードはどうしようか迷い中。他の召喚獣は一周目と二周目の召喚獣だから、この世界に解放するとダブるんだよね。ラファエルとラファエルみたいに。

 だから解放は無しかなぁ。使わない召喚獣には自由を与えてやりたいとか思わないでもないとはいえ。

 

「繁殖や寿命などについてはどうなっているのだろうか」

「特に変わりはないよ。その辺は元の生物準拠。……いや、ないはず、と言っておいた方がいいかもしれん。知らん生態の生物もいるからな、一概にそうと言い切るのは危ない気がする。お前らが頑張れ知識人」

「生物学者はこれからてんやわんやだろうね」

「それが生き甲斐だろ」

 

 未知がドバっと出て来たんだ。あの潔さの塊であるリチャード・イングリディアナでさえ「も、もう少しだけ期限を遅らせたりはだめかナ、調べたいことがたくさんあるんダ」とか言ってきてたし。そもそもこの世界ではもう人工聖石なんか作れないので消滅の呪いも解いたけどさ。

 

「これくらいだ、報告は」

「うん、ありがとう。……これからヴェルグ、君はどう生きて行くのかな」

「個人的に言うなら特に変わりはない。普通に生きて、普通に過ごす。が、なんか俺を"元気"に馴染ませる計画とかいうのをやってる奴らがいてさ。本当にその手段があるなら大人しく受け入れるつもりだよ」

「そうか。……じゃあ最後にもう一つ質問をしてもいいかな」

「なんだ改まって」

 

 オニキス・リオンは。

 

「ヴェルグ。君は死ぬのだろうか。君に寿命、あるいは加齢という概念は存在するのかな」

 

 そんなことを。

 

 

 

 

 着弾する。

 

「よ、ドゥームス」

「……」

「だんまりか。なんだ、元気ないか?」

「……」

「それとも、元気だから死ねなくて塞ぎ込んでる──とかか?」

「わかっているなら、一々聞くな」

 

 魔族大陸──ではなく、赤土の陸地。

 神殿が異相に隠されていること以外は何もないこの地に、ドゥームスは一人ぽつんと座っていた。三角座りで。

 

「……私に強化を、促したのは、魔素で世界を、覆わせるため。全てお前の、掌の上」

「まぁお前くらいしか世界中に干渉できる奴なんかいなかったからな。完全に利用し尽くしたってとこは否定しないよ」

「悲観も、絶望も。阿鼻叫喚も、悲喜交々も。意味はなかったと、知った」

「別に人間を襲えなくなったってわけじゃないんだ。その無限にも等しい元気リソースを使って復讐なりなんなりをしたらいい。まだ復讐心が残っているのならな」

「残っている──わけが、ない。結局のところ、原動力となっていた復讐心は、他者の借り物だ。器に過ぎない、この身は……何を起こす、気力もない」

「だからこうやって孤独になって死のうとしている、と。けど変質したっつったって今ある元気は全部元が魔素……お前が根っこにいるから、何をしても死ねなくて苦しんでると」

 

 そこまで言えば。

 ドゥームスは──縋るような目で俺を見た。

 

「殺せる、のか」

「できるかできないかで言えばできる。──が、やりたくない」

「後生だ、一人目のヴェルグ。この偽りの生に、終止符を」

 

 全存在全裸化計画の最大の被害者がドゥームスであるのは間違いない。

 人間の存亡をかけた決戦を邪魔された挙句、復讐心も絶望も無理矢理に返還させられ、死ぬこともできずに塞ぎ込むしかない。

 それは──苦痛だろう。前にも言った通り、「永遠」という名の死だ。

 

 で。

 まぁ彼女の言う通り、俺はドゥームスを殺すことができる。聖気も魔素も元気に統一された今、他のどんな強大な存在が彼女を攻撃したとしても、彼女を殺すに至らない。でも俺だけは普通に攻撃できるから普通に殺せる。

 

 永遠に等しい時間を宙の彼方で過ごし、永遠に等しい時間をかけてこの惑星へと舞い戻り、数万年をかけて力を蓄え、三つの並行世界の自身を食らいて究極体になり──そして今、全ての目的を失った。

 可哀想なのだろうし、哀れなのだろうし、何より俺の行動の被害者なのだろうことは重々承知している。

 

 だから。

 俺は、残酷な選択肢を落とす。

 

「忘れてみる気はないか、ドゥームス」

「忘れる、だと」

「ああ、そうだ。記憶失ってもう一度、ってな」

 

 それが死と何が違うのか。

 簡単だ。俺が殺すか殺さないかって最大の違いがある。

 

 ぶっちゃけ、ドゥームスが自殺する分にはどうでもいいと思うよ。それがコイツの決めたことなら。

 ただ俺が手をかける必要がある以上、そりゃ自殺にはならなくてさ。

 だったら俺は、死と同義の術を選択肢に上げる。

 

「外法:記憶の小瓶。契約スキル:タイムカプセルに似た効果を持つ外法だけど、違う所は単純、"その時点の記憶、感情、人格の全てを封印できる"ってトコだ」

 

 なお、ゲーム本編にそんな外法は存在しなかった。

 でもほら、祆国とかいう場所でハーミットの一人に出会って、それで色々繋がっただろう。ヴィシャスとセレマ、グノーシスとガーリー。

 あいつらの有していた「人格を消去する技術」や「知識を遠隔で奪い取る技術」は、召喚獣である妖精の種族特性やあいつら固有の能力なんじゃなくて、外法だったんじゃないかとあたりをつけたんだ。

 

 だからラムナザール四世が保管していた遺灰からガーリーを死者蘇生して、即座に【黒の偽典】を発動。写し取ったレシピは推測通り、記憶の小瓶という外法で。

 グノーシスが魔化して死んだ以上次の重要参考人がガーリーなのは間違いないんで蘇生ついでに受け渡しを行って、その足でここまで来た次第。

 

「この小瓶が割れたら全ての記憶、感情、人格は返還される。逆に言えば割らない限り絶対に返還されない。事実上の死をお前に与え、お前はこれから"なぜか莫大な元気リソースを持っているだけのナニカ"として生きて行く」

「それでも、構わない。ありがたく提案を、飲む。だが……その提案が、できるのは」

 

 案外あっさりと頷いたドゥームスに肩透かしを食らいながら、その言葉の続きを聞く。

 

「お前が、死なないからか、一人目のヴェルグ」

 

 また、それを。

 

 

 

 

 ぽろろんとハープが鳴って、その間を縫うようにペラリペラリとページを捲る音が響く。

 

 天界。

 

「正直ハープはラファエルのイメージだったわ。お前が弾くのなミハエル」

「いえいえ、ラファエル様の方が上手ですよ。ただラファエル様は今ご自身との睦み合いに夢中で、ハープのお世話も全くしていないので、こうやって私がメンテナンスを兼ねて弾いているというだけで」

「素人にゃお前がどう下手なのかわからねーや」

「下手ではない。かと……低位種族……でもないが、男。お前がラファエルのハープを聞いたことが無いだけだ。ミハエルも並み以上の腕を持っている」

「そういえばそのことについてガブリエルの子が怒っていたぞ。戦おうと思った時には戦闘不能だった、と」

「ラファエルが悪いよラファエルが」

 

 天界トップの四天使が内三天使。ウリエルミハエルガブリエル。

 天使ではなくなったものの、天界が消えたとかではないので、こいつらも別に消えはしない。ただ元天使たちの中に生まれた「初めての悪意」の扱いで色々あって、あの苛烈なガブリエルがこうしてぐでーっとなっているくらいには疲れているとかなんとか。

 ドゥームスに次いで天使も全存在全裸化計画で大きな余波を受けた種族だ。俺がティル・ナ・ローグに籠ってた二週間の間にプチ殺し合いみたいなのも起きたらしい。

 尤も下界に降りても魔素に呑まれることが無くなったからな、これからはアウラニのように人間の大陸に住まう天使も増えるだろう。天界で折り合いの悪い天使はそうやって別のところに行って、意見の食い違いで殺し合い、みたいなのは減っていくんじゃないかと予想される。

 

 ……いやまぁどうだかな。元々天使って超実力主義社会……つまり蛮族みたいな社会構造をしていたわけで、殺し殺されの末に最後に立ってたやつが一番偉い! で片を付けて、しかもそれは別に悪いことじゃない、に終わりそうでもあるけど。

 その辺はこいつらの手腕次第だろう。

 

「それで? 何をしに来た。説明など我々には不要であることなどわかっているだろうに。──それとも早速耐えられなくなったか?」

「む。ウリエル、何の話だ」

「あはは……ガブリエルは昔から感覚が弱いからわかんないよね」

「ラファエルは様呼びでガブリエルはタメなんだな」

「まぁ、尊敬するところが無いし……」

「良い度胸だなミハエル……! 疲労を癒した暁には、正面からお前を熨してみせよう」

「ムリムリ」

 

 なんか仲良いんだな。知らんかったわ。

 

「言いに来たのだろう。聞いてやるから、話せ」

「……。……んー」

 

 まぁ、オニキス・リオンとドゥームスだけ、じゃない。

 色んな奴から聞かれたし言われたし問われたことだ。

 

 俺は死ぬのか。

 寿命は来るのか。

 

「実を言うと、俺は老衰じゃ死なない。というより加齢していない……一定の期間を体内時計がループしている、というのが正しいかなぁ」

 

 以前マスカルウィンが俺を噓つき呼ばわりしたのは──冗談でも何でもない。

 俺の寿命は長いなんてものじゃない。寿命が尽きて死ぬことは絶対にない。

 

 大体一週間だな。俺の調べた感じ。

 一週間で俺という存在はリセットされる。代謝やら何やらがパッと。だから一週間の間の加齢、老衰はしてるんだけど、八日目には元に戻っている。

 記憶とか知識に影響するものではない──そもそも肉体が違うのにゲーム知識を保持したままでいられるんだ。記憶や人格ってのは脳じゃなくて魂に宿るものなんだろう。

 

 この話は自分で気付いた奴ら以外は知らない。ケルやシーファたちは気付いていない。

 

「……時間流から外れた存在であったか。それは──残酷なことだな」

「今ここで殺してあげちゃダメなんですか? ウリエル様」

「できるものならやってみるがいい」

「じゃあ、はい! ……あれ?」

 

 槍。ガブリエルのそれよりは小さいけれど、ちゃんと高威力の武器が俺の身体に突き刺さり──止まる。

 刺さらない。

 

 以前アウラニを分けた時、俺はガブリエルの攻撃を防御していた。だけど。

 

「基礎防御力が上回ったか。天使を超える攻撃力など、それこそ魔素源王かリヴァイアサンクラスの魔物でなければ出せまい」

「食らった直後には回復してる。自然治癒もぶっ飛んだ」

「なんと……」

 

 当然の話ではあったんだ。

 三周目ステータスゴリ押しマン。散々言ってきたことだ。そんでもってステータスは大体カンストしてるとも言って来た。

 ただ──流石にな。

 草案世界のドゥームス倒したのと、全存在全裸化計画は、世界規模過ぎたらしい。

 

 カンストしたと思っていたステータスが伸びちゃったんだなーコレが。

 最早リヴァイアサンとか本体バルクスのブレス食らっても一撃で消し飛ぶことはなく、一撃食らったとしても瞬きの間には全快している。

 俺を殺すのであれば初撃でHPを消し飛ばす他無いのだけど、戦士スキル:忘我の意地というパッシブスキルがあって……それが「フルヘルス時にHPを全損する攻撃を食らった場合、HPを1残す」っていう効果で。

 ネフティスのタリスマンを普段つけてないのはこれが理由ね。アレは「HPが半分以下の時」って条件だから。

 

 だから正直微妙なところではあるんだ、契約スキルの奴も。

 最悪──耐性無効化ポーションも効かない可能性がある。そうすると俺は「できないことは言わない主義」を降ろさざるを得なくなる。

 

「天使スキル:調停……ふ、これも弾かれるか」

「エグいよなー」

「なんだか全然気にして無さそうですね……」

「いや別に気にはしてないんだよ。ただ気にする奴が周りにいるのがな」

 

 なんぞか。

 愛されているらしいし。なんぞか、俺のために今頑張っている奴らがいるらしいし。

 

 それをまー無下にするってのは、多少、思う所があるというか。

 記憶の小瓶がもっと応用利く外法なら全員から俺の記憶だけ奪って雲隠れ、が一番よかったんだけどな。そんな便利な外法じゃなかった。

 あるいはセレマを探し出してそういう外法を作らせるとか。それこそ何千年とかかるだろうけど。

 

「私達に話しに来たのは、私達にできることがあるからだろう。話せ、力になってやらんでもない」

「……最悪全部だめそうだったら、一芝居打ってくれないかな、って。ほら、ガブリエルとか俺の事嫌いだったじゃん。一番理由として強そうなのが天使なんだよね。今回の【聖魔混水晶】の影響っつーか被害を一番被ってるのが天使だから、とか適当な理由がさ」

「天軍の総力を以てお前を殺し、お前はどこぞへと逃げる、か。お前の縁者からのヘイトが私達に向くが、些細なことだな」

「またアウラニに嫌われるのか……」

「アイツならわかってくれる読みで抱き込んどくのもアリ」

「それは、無理ですね。私は、そこまで、物分かり、よくないので」

 

 その場にいた全員の口が「あ」の形になる。

 ……ヒュウ。天界限定の天使スキルでの転移か。ミニマップに映らないはずだ。

 

「なんだよアウラニ。そんな乳押し付けてオティヌティヌも押し付けて。俺はあんまりそっちの趣味ないぞ」

「お三方、ヴェルグさんは、貰っていきますが、よろしいです、よね?」

「無論だ。というより折角情報を流してやったのだから、そうしないのであれば徒労になる」

「あ、お前かよアウラニにチクったの」

「正確にはミハエルだ。そのハープは遠くに音を届ける機能を持っていてな。初めはただ弾いていただけだったが、どうにも雲行きが怪しくなってきた時点でリークを始めた次第だ」

「えへへ、私達はアウラニ様に勝てませんから、仕方ないですよね?」

 

 俺の人選ミスってか。

 

「ヴェルグさん。……私達に、相談を、しないのは……私達を、気遣っての、ことですよね」

「まぁ」

「であれば、それは、余計なお世話、です。そろそろ、気付いて、ください。貴方のことで、一喜一憂するのも、私達にとっては、大切な事です」

「それは」

「勝手に、私達の、機会を、奪われては、迷惑です。──そろそろ、学習、してください」

 

 ぷっ、と。

 ウリエルが噴き出す。そのまま彼女に似つかわしくない下品さで、ゲラゲラと笑い始めた。

 

「クククッ……お前、ガブリエルにそっくりだな」

「ああ~、感じていた既視感はそれでしたか! 子の気持ちが分からない親! まさにそんな感じですね!」

「オイ待て何故我を攻撃する」

「いや子じゃねーし。一人一人が自立した大人なんだから」

「だから、お前のそれは余計な世話なのだろう? くく、語るに落ちたな」

 

 ……うわ。

 ホントだ。

 

 俺、思想は押し付けないとか散々言っといて……がっつり押し付けてたか、これ。

 うわ。

 うわー。

 

「やっぱ俺もう何もしないでティル・ナ・ローグに籠ってるわ。それがいい」

「次元スキル、絶対配置」

「え──どこで覚えたんだソレ」

「ヴェルグさんが、知らないだけで、私達は、前に進んで、います。貴方の、庇護下に、あった、私達は、貴方から、返し切れない、恩を、いただきました。ですから、貴方が、何を言おうと、無理矢理にでも、恩返しを、させて、いただきます」

 

 天使のアウラニ。

 あの家から一時離脱し──恐らく最も強くなった存在。

 スキルもだけど……心も。

 

「お母さん」

「む、な、なんだアウラニ」

「前に、お話した、通り。私は、元魔族の、シーファさんという、方と、結婚する、つもりです。というか、もう、決めました」

「ああ……その話であれば、うむ、お前が決めた相手ならば我は何も言わん」

「私と、もう一人の私と、シーファさんの、恩人が、ヴェルグさんです。私は、どんな手段を、使ってでも、この人に、恩を返したいです。……力や、知恵を、貸してください」

 

 感嘆と感動。ガブリエルの口から漏れた呼気には、それが乗っていた。

 

「勿論だ。よし、よし! 決めたぞウリエル、ミハエル! 今は色に狂っているラファエルも――いや、我らが交渉できる全存在にアプローチをかけ、アウラニの意に応えようぞ!」

「いや、私は静観させてもらう。親だろう、ガブリエル。頼られたのはお前だ、お前が張り切ればいい」

「私も遠慮しておこっかなー。こういうのって部外者が口を挟むべきじゃないし。頼られて嬉しいのは伝わったから、私達巻き込まないで一人で全力尽くしててよ」

「くぅ、冷たい奴らめ! だが、だが──アウラニ! 我が愛娘! ──母に任せろ!!」

 

 死ぬほど疲弊してぐったりしていたはずなのに、ガブリエルは立ち上がり、その瞳に闘志を燃やし、ばるんばるんと乳を揺らして──どっか行った。

 ……。

 

「では、帰りましょう、ヴェルグさん」

「因むとお前の次元スキル程度俺抜けられるんだけど流石に抜けるのは空気読めないか」

「……もっと、強く、なります。ですので、ここは一度、空気を、読んでください」

 

 まぁ、そんな感じで。

 洗いざらい話すハメとなったのである。

 

 

 

 当然沈黙だった。

 サイレンスでもかけられたんじゃないかってくらい沈黙だった。

 

 この世界の人間の平均寿命は六十歳くらい。鬼が百年ちょいで、妖狐族とかだともうちょい長いんだっけな。

 マスカルウィンは……月の民だからよくわからん。もう十何万年と生きているだろうコイツに寿命の概念があるのか知らん。魔族も微妙。種族によりけり。ニンフとステュクスの平均寿命とかわかる奴いるんだろうか。

 メアリーは……全く分からん。分裂もどのタイミングでしてんのかわからんし。

 天使はバリクソ長いはず。バルクスは……バルクスは風化しない限り永遠か?

 

 ただそれらも、心化によって変化したもしれないし、してないかもしれないし。

 

 だから。

 

「まー、つーわけだけど、特に何も変わったりはしないよ。それよかエロいことしようぜノーラ。ようやくだ」

「流石に今そーいう気分にならないかなー」

 

 デスヨネ。

 ……言って変わらないことは、やっぱり言わない方が良いと思うんですよ。こういう空気になって抜け出せなくなるから。

 

「ツバナ」

「わかっとる。じゃが足がない。任せるぞ」

「うん。ツゥ、シーファ」

「得意分野ね」

「うん。……やることは、変わんない」

 

 主語が無い会話だ。

 

「では私は、記憶にある限りの棲み処を当たってみましょう」

「ユグドラシルと相談するねー」

「知識データベースの更新のため、各地の書物を調べに行きます」

「私は、スキルの、開発を」

 

 あー。

 逃げたくなるなー、これ。

 良いって良いって、って言いたくなる。

 

 つーか。

 

「すまん。──俺この空気ダメだわ」

 

 虚数スキル:繰り込み。

 転移だと辿られかねんからな。虚数神殿なら──。

 

「──やぁ、ヴェルグ。よくのこのこと顔を出せたね」

「なんか久しぶりだなファントム。ラヴ・グラットルとの決戦はまだ終わってないのか?」

「……」

 

 にっこり笑顔のファントムが空間を撫でる。するとそこに、なんか投影ディスプレイみたいなのが現れて。

 

 ──"たとえそうなのだとしても、私にはもう貴方を殺す理由がない。……そんなに死にたいなら、勝手に死ねばいい。それじゃ"

 

 映ったのはラヴ・グラットル。

 だけど彼女は殺意の籠った目を向けるわけでもなく、完全な無関心の様子で別れを告げた。

 

 えーと。

 

「すべての黒幕はボクで、全ての悲劇の元凶はボクで、彼女を取り巻く環境や事件事故恨みつらみは全部ボクのストーリーだ、ってバラした直後の彼女が、これだよ」

「……演出足りなかっただけだろ。お前の力不足」

「いーや違うね。君がボクの台本を悉く無為に帰したからだよ。──あと!」

 

 まだ空間を撫でるファントム。

 そこには──またもラヴ・グラットルと。

 

 彼女に手を引かれて歩く、どこか怯えた様子のドゥームスの姿が。

 

「あれは、なに」

「いやだって、記憶失ったドゥームス誰に預けるのが一番かなーって考えたら、そりゃラヴ・グラットルだろ。アイツが一番因縁あるわけだし。まさかお前に預けるわけにもいかねーだろうよ」

「そういう話をしてるんじゃないんだけどなぁ。……あーもー、久しぶりに頭にキたよ、ヴェルグ」

「お、なんだやるか?」

「虚数スキル:入口呪鎖」

 

 ぐんっと。

 セピア色の世界が遠のく。

 

「君、居た堪れない空気から逃げるためにここに来たでしょ。──嫌がらせ。もう繰り込みではここには来れないよ。正規の入り口から正規の手段で入らないと無理にしたから」

「八つ当たりだろ」

「八つ当たりだよ。じゃあね、ヴェルグ。ボクはこれから君の逃亡生活物語でも眺めて悦に浸るとするよ」

 

 そうして世界は元に戻り。

 

「……えー、じゃあ、普通の転移!」

「次元スキルに干渉します。──逃げられませんよ、マスター」

 

 この重苦しい空気に、再び晒される結果となった。

 だれかー。

 助けてくれー。




次の話は幕間及び小話(たくさん)になります。
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