※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

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最終章になります。


いつか見た国
言葉のない国(G度そこそこ)


 見渡す限り、背の高い樹木が密集する林。原生林且つ熱帯雨林って感じ。

 

「エクラカンシス。君達に伝わる言葉に直すと……ホームポイント帰還、になるのかな」

「……いやそりゃどうでもいいんだけど、ここ」

「ここは所謂"人間の大陸"と呼ばれている大陸の裏側。赤土の陸地と魔族大陸の北東。人間、魔族、魔物──そのどれもが訪れない"惑星の最果て"」

 

 それは。

 ……ゲームじゃいけなかった場所だ。当然だけど、どんだけ容量のあるゲームでも惑星丸々一つを探索できる、なんてクオリティは出せない。あのゲームはいける大陸が三つ+各島々という結構な広さを誇っていたとはいえ、惑星全土を歩けたわけじゃない。

 むしろ実際の縮尺とゲーム内の縮尺の合致に拘っていたから、遠方に行く、という発想のないコンセプトだったはずだ。

 

 とはいえ。

 

「人間や魔族はまだしも」

「何故魔物までもがここに来ないか。それはとても簡単な理由だよ。ほら、よーく目を凝らしてみるといい」

 

 周囲。もう一度見る。

 見渡す限りの原生林……。

 

 ……。

 

「植物魔物さえいない? ……というか魔力が」

「からっからだろ? そう、ここに生えている植物は文字通りの原生種でね。世界に遍く存在が使えるスキルや魔法といったものの源である魔力さえ寄ってこないんだ。だから魔物も住み着かない」

「……ってことは、これから賑やかになるな」

「それはそうかもしれないけど──えいっ」

 

 アウドゥムラが懐から少女の足を取り出す。それをえいっと軽く投げれば──ばくん、と。

 アダルトMODの適用されていない、確実にただの植物であるはずの巨大花がその花弁を開き、放られた足を飲み込んだ。

 

「こんな感じで雑食植物が多いから、たとえ心化した魔物たちが棲み処を求めてここに来ても……食べられちゃうだけじゃないかな」

「そんなところに」

「こればっかりは見てもらった方が早いから、付いてきて」

 

 言って、今しがた肉食植物と説明したばかりのそれの隙間を掻き分けていくアウドゥムラ。全裸で原生林入って行くのすげー危うく見えるけど、まぁ聖獣だし大丈夫だわな。

 しかし。

 

 ……こんなとこ、あったのか。

 最悪俺ここに住めばよくね?

 

 ただちょいと気になるのは……魔物がいないのに、なんでコイツら肉を。

 

 

◇

 

 

 アウドゥムラについていくこと十分くらい。

 彼我の差をわかっているとでも言えばいいのか、雑食植物は俺にもアウドゥムラにも噛み付いてくることなく、気のせいでなければ道を開けてくれているようにも思えた。

 アダルトMOD不適用な時点で「意思のない存在」なのはわかっているのに、そう感じるくらいには……どこか異質な場所。

 

 そうして、案内されるがままに歩いた先に。

 

「……ッ、精霊王!?」

 

 臨戦態勢に入る。魔素耐性ではなく属性耐性系ガン盛装備で──。

 

「……人間? いや……なんだ、その精霊力は。この私よりも上ではないか」

「や、エーテリア。ああ待った。余計な気は起こさないで欲しいかな。この場にいる誰も彼に勝つことはできないし、そういうことをしたくて呼んだわけじゃないからね」

 

 精霊王エーテリア。

 この世界に流れる属性元素を束ねる王であり、干渉力だけで言えばドゥームスに勝るとも劣らない。どっちも倒せるからどっちが強いとか比べたことはないんだけど、現状を考えればドゥームスに軍配が上がるだろう。

 見た所エーテリアも心化している様子だから。

 

「……お前がそう言うのならば」

「ありがとう、エーテリア。話が早くて助かるよ。──それじゃ、可愛げのない人間クン。君には会話をしてもらいたいんだ。この中で眠る子とね」

 

 この、とアウドゥムラが指差す先には──超巨大なクリスタルが。突き刺さっているとでも言うべきか、かなり傾いた状態でそれがでん、とあって。

 中に、これまた全裸の少女がいる。

 

「俺である必要は」

「あるよ。"人語を解せる"ことと"意思疎通ができること"は違うからね」

「ん……人間なのか」

「え? ……ああ魔族かってこと?」

「ああ、魔族ではない。私が保障する」

 

 思念のキャッチ。

 思ったより万能ってわけでもなさそうだな。

 

 しかし……じゃあ普通に人間の少女がクリスタルの中で全裸になってるってことか。

 どゆこと。

 

 よくわからんけど。

 

「奇術師スキル:コンフュージョンデュアル」

 

 いつもの奴で少女の精神を外側に出す。

 ……ん?

 

「話せないのか?」

「……」

「今のお前は精神体だ。喉や肺が動かせなくとも声は出せるぞ」

「……」

「……死んでいるわけじゃない。ただ、失語症か……普通に黙ってるだけか。ふむ。呪詛スキル:眷属」

 

 鎖が伸びる。

 向かう先は本体の方。だけどそれは、分厚いクリスタルに弾かれた。

 

 呪詛スキルを弾く水晶……?

 いやいや、呪詛スキルってそういう物理的なモンじゃないんだけど。

 

「聖騎士スキル:葬列の花畑」

 

 コンフュージョンデュアルから本体の少女に向かって伸びる糸が可視化される。これは通るのか。

 スキルの一切を通さないわけじゃない……ならこの水晶ぶった斬って後で蘇生するか?

 

「ちなみにだけど、この水晶はエーテリアの精霊砲でもびくともしなかったよ」

「物理は?」

「ボクがやったけど傷一つなかった」

 

 アウドゥムラの攻撃力とかは知らないけど、エーテリアのビームでダメージ無いってことは属性耐性が200%くらいあるんだろう。

 とりあえず『最大物理』を吐いて、ビッグ・リップ。

 

 ソロヴォリヨと水晶が衝突し──止まる。

 ……ドゥームスでも斬れる一撃なんだけどな。

 

 ただこの感触、覚えがある。

 

「アウドゥムラ、さっきホームポイント帰還……エクラカンシスって」

「いいや、ボクが定めたわけではないね」

「じゃあそれだな。多分この大陸一帯がコイツのホーム扱いになってるんだ。ああ成程、だから魔力が入ってこないし、湧いても来ないと」

 

 大陸全土をマイホームとは恐れ入るが、原理が分かれば単純だ。

 

「無理だな」

「え、あれ。今の解決の流れじゃないの?」

 

 何度も言ってるけど、このゲームは本来ソロゲーである。

 プレイヤーは好きな場所にマイホームを設置できるし、マイホームはたとえビッグ・バンクラスの一撃を食らっても壊れたりしない。それはマイホームが内部処理的に別空間にあるからであり、マイホームの壁は外界と内側を空間的に隔絶している。

 その隔絶を乗り越える方法は存在しない。繰り込みですら乗り越えられない。

 侵入可能になるのは、家主であるプレイヤー……あるいはこの少女が相手をパーティメンバー及び許可したNPCの枠に入れた時だけ。

 

 できることがあるとすれば──いや無いな。

 外側からマイホームの中に声とか届けられないし。帝国にあったヴェルグ邸はインターホンっていうインテリアつけてたからポスト前に来たNPCの声が届く仕組みになってたんだけど、コイツは違うだろうし。

 

 お手上げ。

 

「あーでも」

 

 あと一個できることがあるな。

 普通に。

 

 クリスタルを、ノックする。

 

 

 こんちわー、っつって──ん?

 

「……あ、これ入れた感じだ」

 

 アウドゥムラとエーテリアがいない。どころが原生林もない。

 周囲にあるのは──爛れ切った焼け野原と、あり得ん量の死体の山。心化していない普通の人間の死体。

 

「だれ?」

「ヴェルグ。お前は?」

「……パインズ」

「OK、偽名ね。別にいいよ、特に気にしない。で……なんかお前と話して欲しいんだとさ、外の奴らが」

「はなし?」

「そう」

 

 少女。

 服を着た少女。一般人っぽくはないけど、貴族や兵士ってわけでもない。

 

 幽霊──という印象を受けた。

 

「……なにを?」

「さてな。お前はなんでここにいるんだ?」

「なんで……。……ころした、から?」

「さもありなん。なんで殺したんだ?」

「おこる?」

「理由がない」

「おそってきたから、ころした」

「正当防衛か」

「……そう」

 

 ふむ。

 ……俺にどーしろと。

 カウンセリングでもすればいいのか? 何が起きたのかも知らないのに?

 

「こいつらは誰なんだ」

「たみ」

「民? どこの?」

「わたしの、くにの」

「どっかの国の姫様なのか、お前」

「そう」

「んじゃここはお前の国か? 何も無いけど」

「……ぜんぶこわしたから、ない」

「ああそういうこと」

 

 んー。うーん。

 まぁなんとなく掴めては来たけど。

 

「こいつらのこと、まだ恨んでるか?」

「……うん」

「そりゃ何を? 襲ってきたことを? それとも裏切ったことをか」

「どっちも」

「健康的だわな、それは。んじゃ──俺がこいつら生き返らせたら、喜ぶか?」

「できるの?」

「できる。どうする」

「やってほしい」

 

 んじゃ、久方ぶりに取り出しますは【戴冠の杖】。使いまするは神官スキル:死者蘇生。

 あーら不思議、エイルニルス公国全土には遠く及ばないまでも、視界に映る死体の山々が一斉に息を吹き返したではありませんか。

 ……ただまぁ、刺さったままの剣とかは抜いていないので、生き返った直後に絶命したのも何人かいたみたいだけど。

 

「ぁ──♪」

 

 そんな蘇生した人間の山に、それはもう嬉しそうな声を上げて突っ込んで行く少女。

 

 起こるのは殺戮。息を吹き返した人間はまたも死体の山となり──。

 

「もういっかい!」

「はいはい」

 

 また生き返り。殺戮され、生き返り、殺戮され。

 

 それを三十回ほど繰り返した。

 

「満足したか?」

「わかんない」

「そうかい」

 

 破壊衝動。

 ストレスの典型的な吐き出し口。他者への攻撃衝動もか。

 

「お前の国なのに、民衆はお前を裏切り、お前に襲い掛かって来た。だから殺し尽くしたし壊し尽くした。あってるか、パインズ」

「うん」

「なんで民衆はお前を裏切ったんだ?」

「わかんない」

 

 なら、わかる奴に聞くか。

 

 死体の山の一角。一人の男性に死者蘇生をかけて、突っ込んでくるパインズを片手で止めながら"話"を聞く。怖がられても暴れられても面倒なので、眷属の呪いをかけた状態で。

 

「何故パインズを裏切った? なぜこの子を襲った?」

「う……裏切られたのは、俺達の方だ。……戦争のあと、疲弊した国を必ずや平和に導くと言って……パインズは、他国に戦争を仕掛け始めた。こちらの疲弊など一切省みることなく、国民を総動員して血を求め、税を巻き上げてそれを軍事に使い、さらに、さらにと……」

「はぁ。だからクーデター起こして殺そうとしたわけだ。できなかったけど」

「そいつは、悪魔だ。そいつは……そいつには、人の心が無い」

 

 ばちゅん、と。

 男性の顔面が弾け飛ぶ。……石を投擲して殺したか。

 

「だそうだけど、全部本当か?」

「うん。でも、へいわにするなら、ころさないと」

「まぁ確かに。戦争した後ってことは他国からも恨まれてただろうし、その国を平和にするなら軍事力上げてできる時に他国潰して行かないと難しいわな」

「うん!」

「パインズ、お前親は?」

「てきに、ころされてしんだ」

「まぁ、そうだよな」

「うん」

 

 特に驚きも同情も無い、なんとも平坦な話だ。

 国王も妃も死んで、幼いこいつが王となり、合理的な考えを以て国政を執ったら民の反感を買ってクーデターされてそれが失敗した。

 ツッコミどころが一個も無い。強いて言えばにしたってお前強すぎだろ、ってのはあるけれど、マイホーム設定できるような奴だからなぁ、プレイヤーみたいな強さしてたっておかしくはない。

 

 ……え、わからん。

 俺にどうしろとホントに。なに? こいつに倫理観覚えさせろとかそういう話? 俺の方が散々心が無いって言われてんのに?

 

「あー。えーっと、なんでまだ怒ってんだ、パインズ。お前を裏切った奴も襲ったやつも全部死んだのに」

「なんで?」

「ああ、理由が知りたい。殺せばすっきりじゃないのか」

「つけられたきずは、いたいままだよ」

「無傷じゃん」

「こころのきず。……がんばったのに、うらぎられた。こいつら、きらい」

 

 はぁ、そりゃ。

 なんとも。へぇ。

 

「つたわらない?」

「ああいや理解はしたけど」

「つたわってない。ヴェルグには、ふくしゅうが、りかいできない?」

 

 ──……。

 

 復讐ねぇ。

 別に良いとは思う。だって復讐心なんてもん抱えてるだけ疲れるじゃないか。きっちり解消した方が健康的だし、その後に虚無感や虚脱感しか残らないのだとしても、復讐心よりは軽いだろう。

 復讐が復讐を生むというのなら根絶やしにすればいい話で、よく言う「復讐は何も産まない」に対しては否定派。

 

 だけど、俺にその心があるかっつーと……。

 

「たいせつなひと、いないの?」

「お前にはいるのか?」

「おとうさん。おかあさん」

「んじゃお前の復讐は国民じゃなく敵国に向くものだろう」

「うん。だからほろぼした」

 

 大切な人に関する復讐は完了した、と。

 心の傷に関しては別だと。

 

「いないなー、大切な人。昔いた恋人も……大切な人達の括りに入ったから、個人じゃなくなったし」

「たいせつなひとたち。ころされたら、おこる。ちがう?」

「怒りはするよ。でも復讐しに行くかっつったら特には。そこまで熱量が保てん。怒るって疲れるんだぜ、パインズ。俺はイライラもしたくないんだわ。するくらいなら逃げる」

「にがしてくれなかったら?」

「それでも逃げる。……ああ、そういうこと?」

 

 お前、逃げ出してきて、しかも閉じ籠ったって?

 

「うん」

「……成程、この焼け野原は、お前に引っ付いてきてんのか。ああだから呪詛スキル効かなかったのね。あの水晶はお前の心の表れだろ。呪詛、呪縛。こいつらの怨嗟が嫌いで嫌いで仕方ないと」

「うん」

「んじゃ俺がぶっ飛ばしてやるよ、コイツら全部」

「だめ」

 

 だと思った。

 

「あくまで自分がやりたいと」

「うん。──やっぱりヴェルグは、ふくしゅうが、わからない」

「認めるよ。俺に復讐心はない。これでいいか?」

「なのに、ヴェルグのこころには、きずがある」

「ん? ……無いと思うけど」

「わたしにはわかる。ヴェルグのこころは、きずついている。だからここにはいれたし、だからわたしはここにいる」

 

 ……。

 この適当人間ヴェルグ君の心が傷ついていると。

 それは……快挙では。やったなアウラニ、ヴェルグ君が人間性を獲得したぞ。

 

「りかいされないかぎり、ヴェルグは、しあわせにはなれない」

「そこまでにしときなパインズ。俺はもうちょっと無知を楽しみたい」

「ここにはいったときから。わたしのなまえをきいたときから。ぜんぶわかってたくせに、いまさらとりつくろうのはむり」

「んじゃお前も取り繕うのやめろ。舌足らずな感じが語彙力のせいで台無しになってる」

「──幼女ロールプレイ。欠片も同情してくれないの、どうかしてると思う」

「生憎と復讐心と一緒に同情心とかいうのも置いてきちまってな。──さて、仕切り直しと行こうか、悪魔」

「パインズって呼んで。心の欠けた人」

「ならヴェルグって呼べよ」

「でも本名じゃないでしょ」

「お互い様だろ」

 

 このゲーム、エンシェントデーモンやらデーモンスキルといった「悪魔」を示唆するモノやスキルは存在するけれど、もっぱらデーモンは魔族のことを指し、「悪魔」という言葉は出てこない。

 

 ただ、ゲーム本編に出てこないだけで、それ以外には出てくる。

 その場所は──スタッフクレジット。

 

 スペシャルサンクスにいるのだ。

 ラプラス、マクスウェル、ヒルベルト、トゥーリング、ハンソン、グリム、ヴェブレン、そしてパインズ。

 勿論人名じゃない。いや人名だけど、実際のスペシャルサンクスとして携わった人名じゃないのは確実。

 でも、それを記載していた意味はあるはずだと──攻略wikiや掲示板では考察が為されていたはず。

 

 生憎と他ユーザーの考察を全部把握しているような嗜好は無かったから、最終結論までは知らない。だけど覚えてはいるって話で。

 これらは悪魔か、難題か、法則か。いずれにせよこのゲームに関係あるとは思えないものの列挙ではあったのだけど──。

 

「草案世界か」

「走り書き程度。だけど、縁は繋がっている。だからこうして干渉できる」

「そりゃまた、世界の怒りそうなことで。……ああいや」

「そう、貴方のおかげで、入れるようになった」

 

 修復端末は修復しかできない。

 異物を弾くとか、三流台本を用意するとかはできない。成程、俺の知らんとこでやるべきことはちゃんとやってたわけだ。

 だとして後悔はないけれど。

 

「で? なんで別世界の悪魔様が俺のカウンセリングなんかやってんだ」

「気付いているのに、知らないふりをする。よくない」

「まぁ、異世界の姫つったらノーラだわな。前世が草案世界だってんなら理解もできる。……しかしアイツ、そんな過去だったのか」

「心の一側面でないと、この世界には入れなかったから。でもそれも、貴方が解決してくれた」

「何もかも俺のおかげだと。んじゃなんだ、恩返しに俺の幸せを考えてくれるって?」

「少なくとも"ノーラ"は、ヴェルグから心の傷を感じ取った」

 

 ……。

 アイツと接した時間なんかほんの一瞬なんだけどな。

 

「ってことはあれか。俺についてを解決しない限り、こっからは出してくれない感じか」

「うん。でも、無理矢理出ることはできる。ここは許可されない限り入れない場所だけど、出ることについての制限は無いから」

「家だからな。基本内鍵だ」

 

 さて──そんじゃ。

 

 お膳立てされたカウンセリング。

 心についての対話をしようじゃあないか。

 

 傷ついているらしいヴェルグ君を癒して貰おうか。

 

「ところでお前も1m20㎝なの?」

「それはノーラの肉体がそうなだけ」

 

 ああそう。

 ちょっと残念。

 

 

◇

 

 

 まず。

 

「確認だ、パインズ。俺の幸福というのは、俺の心が癒されたら掴めるものなのか」

「心の傷が癒されない限り、幸福なんて夢のまた夢」

「ああ、前提条件ってことね。りょーかい。……しかし、心の傷か。難しいこというな」

「理解されないこと。それがまず、第一の傷」

 

 まぁ。

 心当たりは、ある。

 

 それは例えば、アスガードについた初日の夜、メアリーが当然のように魔物を狩った時とか、概念空間の時とか、修行の時とか。

 人工聖石の件なんか全部そうだな。

 

 メアリーやマスカルウィン、オニキス・リオンと言った「俺の視界に一定の理解がある者」であっても、俺が何にグラついてんのかはわかっていない。

 そりゃまぁそう見えてないから当然だし、アダルトMOD入れたの俺なんだから傷つくも何も──ってのが俺の考えなんだけど。

 

 その理性と心は、どうやら乖離していたらしい。

 

「貴方の傷は、些細な常識の差異。それを起点としている」

「らしいな。で、それを癒すにはどうするんだ」

「理解者を作るしかない。けれど、どう足掻いても理解者と出会うことはできない。断言する。この世界に貴方の理解者はいない」

「そりゃまあた、ありがたい断言だ」

「──けれどそれは、今の話。作ればいい。知識の植え付け。視界の改造。意識の洗脳。手段はある。そうでしょ」

「外法を使えば出来るんだろうな、確かに。あとはクラフトゴーレムとかでなんとかするか? なんでもいいけど、そんなことをするくらいなら」

「違う。最も適した個体が貴方の近くにいる。──名を、終末防衛機構」

 

 ああ、そうか。

 バルクスは……ヤろうと思えば、俺と同じになれるのか。自己を改造して、心化した存在を全部全裸美女美少女化けするフィルターを……つまり。

 

 バルクスにアダルトMODを入れたら、まぁ、できるわけだ。

 

「そしてその子もまた、そうなることを望んでいる。貴方がいなくなっていた間、"ノーラ"は情報収集をずっとしていた。終末防衛機構は貴方の悩みを共有してほしいと思っているし、貴方に寄り添いたいと考えている。その手段も持ち合わせている」

「そりゃおかしな話だ。ノーラが俺の現状を知ったのはついさっきだぜ。っつーか俺ノーラに関しちゃ特に助けたりなんだりしてないんだ、アイツがそこまでの行動をする理由がない」

「無くて良い。"ノーラ"は無自覚だからこそ意義がある。彼女から悪意や思惟を感じなかったから、貴方はノーラを買った。もし彼女に"理由"があったら、貴方は眼中にさえ入れなかった」

「だから、それだと時系列がおかしいだろうよ。お前が俺を助けたがってんのはノーラに感化されたからなんだろ? だってんなら、仮にお前がノーラの行動を遠隔操作できるのだとしても、ノーラが動くにゃ俺の話を聞いた後からじゃないと無理だろう」

「──理解した。貴方は帝国にリシという未来視持ちが来ていたことを知らない。彼は"ノーラ"に告げた。その言葉を"ノーラ"は覚えていないけれど、私には伝わっている」

 

 ……。

 はぁ。

 あー、あー、そういやなんか聞いたような詳しくは聞いてないようなだったけど、アスガードに強制転移させたはずのアイツはずっと行方知れずだったんだよな。

 バルクスはそんな奴見てないって言ってて……あーあー。

 

 余計なことをするもんだ。カローライナといいノーラといい、奴隷フェチかアイツ。つーかアイツが優しくするのは昔の仲間だけだと思ってたよ。

 

「言葉を届ける。『……帰ってこい。お前も仲間だ』」

 

 成程俺向け、と。

 

「補足事項は以上でいい? なら、続ける。終末防衛機構は貴方に寄り添える唯一の存在。貴方の心の傷の一つ目はこれで癒せる。寿命の面でも、貴方に寄り添い続けられる」

「まぁ、俺はバルクスにも自由を謳歌してほしいとは思うが」

「言葉を再取得して伝える。『人並みの幸せでは満足できません。道具並みの幸せを求めます』」

 

 うわぁ、外堀全部埋まってら。

 言われた言われた。あの時は躱し方が上手い、とかって片付けたけど……あーあー、そうか、そうか、そんなにか。

 

「ん、一つ目? 二つ三つあるのか」

「当然。"ノーラ"……パインズの傷が癒えないように、貴方も傷だらけ」

「そうかい。ま、とことん付き合うよ。俺が幸せにならないとあいつらが幸せになれない、ってのはわかったからな」

「意気や良し。次の傷は──」

 

 

◇

 

 

「次の傷は、一人を愛せない、という傷」

 ──"そりゃお前、俺の根っこの話だよ。どう癒せって"

 

 アスガードはヴェルグ邸。

 一度全員に集まってほしいというノーラの頼みに、どうしたのかと集まった一同は──その"投射映像"を見て、固唾を飲んでいる。

 どこか虚ろな表情で何かのスキルを使い続けるノーラ。

 彼女の手が翳された先にその光景が映し出されていた。

 

「そこにいるべき奴は、そこにいるべき。それが貴方の持論。貴方の根幹」

 ──"よく知ってるよ、ホント"

「貴方はケルという少女を奪われた時、激しく怒った。あの時貴方は必要を感じた。存外、自分はあの少女を必要に思っていると」

 ──"そりゃな。未だに唯一の仲間だぜ? 他の誰にもその敷居を跨がせてない、今生じゃ唯一の仲間だ。ああまぁリシがそう思ってくれてんのはありがたいけど、俺には俺の矜持がある"

「たとえ向く先が違っても、あるのが愛情でなくとも、貴方にケルという少女は必要」

 ──"何回確認すんだよ。そうだって。ただまぁアイツにはアイツの幸せがある。ケルはツゥを失ってたから、あの時まで無感情貫いてたってのに、俺にツゥを重ねて激しく取り乱す程の感情って奴を見せたんだ。そのケルとツゥが一緒になれた以上、そこに茶々入れんのは野暮だろうよ"

「けれど"ノーラ"はケルから聞いている。"私は別に、ヴェルグに恋愛感情を抱いているわけではない。けど、それはツゥにもそう。恋愛感情は、私の中ではそこまで優先度の高いものじゃない。──ただ、私が救われた分、幸せになってほしい。そうなるために何か遠慮しているのなら、それは勘違いだって教えてあげたい"と」

 ──"……まぁ、じゃあ、いいよ。認める。恋愛感情じゃあないんだけどな。──今に至って尚、俺はケルをたった一人の仲間だと思っている。それは確かに、一人を愛せない傷を癒すに足る事実なんだろう"

 

 ヴェルグはまさかその「対話」が中継されているなんて思っていない。

 思っていないから、赤裸々に……この家にいる者達には言わない言葉を全て吐く。

 

 無論、ヴェルグに伝えるつもりで言葉を吐いたわけではないケルも赤面している。隣にいるツゥから脇腹を小突かれたり、シーファとメアリーからニマニマした目を向けられているけれど、後者二人には後で仕返しするにしても――ケルはごくりと生唾を飲んだ。

 

 だってケルは、自分はもう不要になったものだとばかり思っていたのだから。

 だから彼の行く末を眺めて、彼が幸福になるための手伝いができればそれでいいと、そう考えていたから。

 

 まさか自分にフォーカスが向くだなんて欠片も想定していなかったのだ。

 

「次、三つ目の傷」

 ──"まだあんのか……。自分で言うのもなんだけど、俺マジで超適当人間で楽観主義だから、大体のことはなんとかなると"

「貴方は善人ではない。だから善人の心が理解できない」

 ──"えらくぶっこむな。いやまぁ善人ぶるつもりはないけどさ"

「善人になる必要はない。悪人になる必要もない。ただ、心が理解できないのは、苦しい。貴方は苦しむのが嫌いだから、理解できないのを少しでも感じ取った時点で"意図が伝わっていないフリ"をする」

 ──"……"

「魔族の少女。シーファの言葉。貴方に吐かれた彼女の忠告や苦言の全てを貴方は理解している。言葉として理解して、けれど真意を察するのを故意に中止している」

 

 次のフォーカスはシーファ。

 

 ──"ノーラ=パインズ"の「対話」は続く。

 

 聞き逃す者はいない。

 だって皆──。

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