※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

96 / 100
退屈のない国(G度結構倫理観マイナス)

 月の色の髪を靡かせる女性。裸であることが気にならない──神々しささえ覚えるソレ。

 俺は知らない。マール・イー・ガースエンディエトハ。それはゲームには存在しなかったはずだ。

 

 ──いつかファントムに聞かれた、「この世に神はいるのか」という問い。

 結論から言えば、神はいない。

 神の如き力を持つモノはいる。神と呼ばれるモノはいる。

 だけどそれらは神ではない。神官が崇めるのは聖獣で、司教が奉るのは魔物で、聖騎士や聖女が護るのも魔物。

 ハーミットでさえ魔物を崇めるばかりで、この世において神を名乗る者達は、結局神のような魔物を祀っているに過ぎない。

 

 でも。

 なら、どうして、「神」という言葉が存在しているのか。

 ゲームだから。ああ、そう言ってしまえばそれまでだろう。

 だけど──もし、それが存在していて。

 それと比較して、そうではない紛い物を、「神に似ている」から神と仰いだのであれば。

 

「ッ、魔法スキル:グルーハント!」

 

 初見の魔物。邪神。

 当然元の大きさなどわかるはずもない。ただ竜と言っていたから、おおよその形を思い浮かべながら対処した──つもりだった。

 

 全身を殴られて吹き飛ばされる。

 遥か彼方まで飛んでいきそうだったこの身体を繋ぎ止めたのは、直前に放ったグルーハント。ガースエンディエトハの本体の位置を直感的に察してグルーハントを撃ち、その粘着力を用いて自らの飛ぶ軌道を円運動に変える。

 極細にまで伸び切ったグルーハントは月光に照らされ、まるで真白の糸のようにも見えるだろう。気分は蜘蛛男──なんて言っている場合ではない。

 

 残念ながら今の一撃でさえ俺を殺すには至らなかったけれど、俺のことじゃない、北の孤島のことを考えると色々マズい。 

 グルーハントの巻き付いた感じからして、胴体の太さは七メートルから八メートル弱。一般に西洋ドラゴンと呼ばれる二足のそれではなく、東洋龍を思い浮かべた方が良さそうだ。

 

 ──仮にそれが北の孤島へ落下、ないしは直撃したら……まぁ、無理だな。俺が結界でも張らない限り、あの程度の岩山は簡単に崩れるだろう。ご丁寧に中空洞だし。

 あとはリーチ……体高もだけど、攻撃に使えるリーチとどれくらいの速度で動けるのか、手やヒレなどはどうなっているのかが知りたいところだ──け、ど!

 

 今度はしっかり防ぐ。

 体力面に問題が無いとは言えぶっ飛ばされてばかりじゃ戦うモンも戦えない。天空のブーツで空を踏みしめ、不可視のソレとソロヴォリヨを拮抗させる。

 鍔迫り合いは火花を生む。つまり生物の硬さじゃないってね。そんなの今更だけど。

 

「『適当レインボー』」

 

 昔検証用に使っていたbatコマンド。同じ階級の各種属性魔法を一度に放つもので、威力は無いに等しい。

 レインボーでもなんでもない六色がガースエンディエトハへ向かい──。

 

 途中で雲散霧消する。

 

「当然のように全属性耐性はエグいな」

「デーモンスキル:真黒不味」

「それは避けるけど、なんだ。外法なんだからなんか代償払ったんじゃないのか」

「払ったとも。──それが何かを教える必要があるか?」

「いいや。こっちが愚かだった」

 

 サンライトソードとかセフィロトとか、そういう「想定外だろう属性剣」による攻撃も意味を為さない。

 となるとソロヴォリヨでなんとかするしかないんだけど、さっきの通りソロヴォリヨ単体の威力ではその鱗と拮抗するに終わる。

 物理耐性も完備ってこった。

 

 いいね。

 とてもいい。

 

「奇術師スキル:バルブデュアル、バルブデュアル、バルブデュアル。魔法スキル:サンドバースト」

 

 増やした砲門から放つは土属性の砂嵐。

 これまたダメージなど無いに等しいそれは、この高空において広く広く広がって行く。

 

「目晦まし? ──いや。契約スキル:借用:怪異スキル:鎌鼬!」

「良い判断だ。『ひれ伏せ』」

 

 最大主教スキル:光の鐘楼からのbatコマンド。

 これにより、空中にばら撒かれた砂のスクリーンに影が浮かび上がる。

 攻撃も兼ねたそれはガースエンディエトハの大きさを浮かび上がらせ──。

 

 

 直後、俺の胴体を熱線が横断した。

 

 

「──まぁブレス持ちだよな、仮にも竜なら」

 

 風属性のエアスラッシャーに似ているスキルを打ち払いながら、今の攻撃を考察する。

 溜めは見えなかった。前にフレイムドラゴンとやった時、彼女の一挙手一投足がそのままドラゴンの身体にも反映されていたはず。

 だというのにあの月色の髪の女性は動いた気配すらなかった。

 

 ……確かめてみるか。

 

 グルーハントで分断された下半身を掴んでくっつける。痛みは剣士スキル:無我の境地で消してある。

 どこまでいってもHPが消えなければ死なない──故に身体が欠損しようがなんだろうが、死んでいなければ死んでいないが通じる。

 

「魔術師スキル:フォグライン」

 

 ビッと伸びるいくつかの霧。

 フォグラインは魔法の痕跡……主に放射系の魔法に対し、どこから放たれたのかを確かめるためのスキル。

 けれどそれは、俺の胴体の合った場所とガースエンディエトハを結ぶこと無く、俺が放ったスキルにだけ寄り添っていく。

 

 エグいねー。

 溜め無しスキルってことか。スキル名なんか言う必要ないから、何の前触れも無しにあの熱線撃てるって?

 流石理不尽ゲー。ゲームの時に出てたら文句殺到だっただろうな。まぁみんな文句は垂れるけど公式には凸らないで攻略法探すんだけど。

 

「化け物め!」

「そう、一回お前を分断したかったんだよ。最大主教スキル:封印棺」

「ッ……こんなもの!」

 

 ワォスタクラインの時と同じだ。

 強大すぎて、一度は封印できても蓋を外して外に出ようとしている。まーじゃあインベントリに。

 

「──騒々しい」

 

 入れようとした封印棺が、ぶっ飛ばされた。

 ……。

 

「なんだ、喋れたのか。意思を封じられててスライムと同じ意識レベルにまで落ちてんのかと思ってたよ」

「……魂を視る者か。不快である」

 

 ()()()()()()()

 けど、流石にこの程度の威力じゃ基礎防御力と炎耐性が勝る。

 眼球も眼窩も焼き焦がすことができない火を宿したままに、ガースエンディエトハへ向き直れば……多少は、気味の悪いものをみたかのような顔をする美女。

 

 バーリアントゥに操られててスライム程度の自意識しかない、ってわけじゃない。

 今の今までは単純に興味が無かっただけ。ほぼ無意識のスキル行使であの熱線か。

 

 良いね、本当に。

 過去一だ。んでもって、気になったことがあるので無策に突っ込む。

 

 見えている美女の口が少しだけ開いたのが見えた。

 そこに口があるというヤマは見事的中していたらしい。

 

 自ら食われに行く。

 

「不快であると、言った」

 

 斬りつけようとした透明の口腔。喉。その表面から滲み出る月色。

 構わない。そのまま魔剣士スキルの斬撃を放ち──光に飲み込まれる。

 

「次元スキル:大地洞」

 

 元々システムスキルだった大地洞が何故次元スキル扱いになったのか。

 その理由がこれである。

 

 ──誰でも入れるとはいえ、一時ながら世界から消えることのできるスキル。

 それがどうして戦闘に役立たないと言えようか。

 

 さらにここから、先ほどの空域へ転移を行う。大地洞からそのまま出たら二の舞だからな。

 

 大体わかった。

 

 内側も外側も、全属性耐性と物理耐性を兼ね備えていて、バフ無し攻撃だと一切ダメージが通らない。

 そして手応えからして、たとえバフを全盛りしたところでミリくらいしか効かない。

 

 本当に素晴らしい。

 小イベント(伏線)も無い。カタルシスもない。ただ奴隷と同じ種族がいると聞いて立ち寄っただけの、他に用もないその島に、易々と世界を滅ぼし得る魔族がいて、それがさらに邪神まで呼んで。

 何のストーリーも無い。何の読み応えもない。何の余地も無い。それこそが正しく、だ。

 

「──ようやく湧いた」

「快を浮かべるか」

「ああ、そうともさ。ようやくだ。ああ、ああ、ずっと感じてなかったさ。そりゃあな。ずっとずっと心はそこに無かったさ」

「不快である。──お前が笑う理由はなんだ」

 

 ソロヴォリヨをインベントリに戻し。

 虚数スキル:繰り込みを使う。

 

 ()()()()()()()()()()()──見えているガースエンディエトハに肉薄し、抱きしめる。

 

「現実感」

「何が湧いたと──、く!?」

 

 灼熱。

 炎耐性を突き破ってこの身を焦がす炎。

 それは今までにない激しい感情の発露。身をよじり、睨み、牙を剥いて俺を振りほどこうとする。

 

 いつか言ったな、リチャード・イングリディアナ。

 英雄足り得ぬモノは、何者にもなれぬが故に、突出するしかない。

 "変態"になるしかない。

 

 讃えよう。

 

 その通りだ。

 たとえば俺のような凡人は、そういうことをしなければ本物には至れないのだろう。

 

 抱きしめた月色の髪の女性。一糸纏わぬその身を抱き、背に回した手を──ぞぶりと突き刺す。

 

「ォ──」

「ああ、いいな。血を流さないのは凄く良い。傷ついてくれるなよ。恐れてくれるなよ。こんなに楽しいんだ、楽しいままでいさせてくれ。お前が傷つくのは見たくない」

「が……ぐ、ぁ……!」

「萎えるからさ。──最強でいてくれよ、邪神様」

 

 掴んで。

 引き抜く。

 

 月色の髪の女性の、背骨を。

 

「──!!!」

 

 大絶叫が響き渡った。

 インベントリにNewのマークがついたことを確認して、考えの証明に舌なめずりをする。

 

「次は、瞳。腕。脚」

 

 声にならない声とは裏腹に、背骨も眼球も腕も脚も、奪ったそばから再生している。魂まで堅固とは恐れ入る。まるで俺のためにいるかのような存在だ。

 これならモチベが下がらない。

 これなら同情しなくて済む。

 これなら俺は──どこまでも"人間"になれる。

 

「い──い、加減に」

「当然最後は心臓だ」

 

 今度は前から。その豊満な胸を突き破り、心臓を掴む。どくんと鳴る鼓動を感触として味わいながら、一気にそれを抜き取った。

 

 再度の絶叫。遠く遠く、全世界へ響き渡る竜の悲鳴。

 

 けれど、それでもガースエンディエトハは白目を剥かない。気絶しない。死なない。

 ありがたい。この巨体に落ちられたら面倒だったしな。

 

 最早取り繕うのはやめている。

 友人の故郷だけど、まぁ、潰えてしまえば仕方なかろう。あとで蘇生はするから、今気にするリソースは割かない。

 

 もう一度俺の身体に火が付く──その前に、大気圏外にまで転移する。

 既に懐かしき宇宙空間。落ち行く身体で使うスキルは。

 

 

「──スミススキル」

 

 

 

 

 ソレが現れたのは真夜中のことだった。

 少女、エリザヴェータは(そら)を見上げている。「母親が怒るから」なんて理由でやっている夜更かしが、まさかこんな御伽噺を魅せてくるとは思っていなかった。

 

 白金色の竜と、白銀色の星。

 

 竜の大きさは途方もない。この島よりも確実に大きく、見渡す限りの海よりも広く見える。

 対する星はちっぽけなのに、怖気の立つ存在感があった。

 

 世界は美しい。世界は美しい。世界は美しい。

 脳裏に直接語り掛けてくるような純美。その身を美しい世界へと駆り出させるかのような婉然。

 

 エリザヴェータは初めて恐怖を覚えた。今すぐにでも冒険の旅に出て、悪鬼羅刹を倒さんとしていた自身を恐怖した。

 世界は美しい。世界は美しい。世界は美しい。

 白金が白銀を食む。ああ、あちらの方がずっと危険で、自分たちを脅かす可能性があるのに──本能があちらを応援したくなる。

 世界は美しい。世界は美しい。世界は美しい。

 

 気付けば多くの人々が家から出て、天上を見上げていた。

 魅せられるように。慄くように。

 目を覚ましてはいけないものが、ようやく瞼を開いたことを──祈り、願い、閉じさせるかのように。

 

 苦しみのたうつ白金。その身が暴れる余波だけで、パルサ・アイルの住居は少なくないダメージを受ける。風圧で建材が吹き飛び、衝撃波で田畑が捲れる。余剰魔力で全身が総毛立ち、皆大切に想うモノを抱きしめる。

 

「……不思議です」

 

 ぼそり、と。

 よく知る声があった。

 エリザヴェータが振り向けば、他の人々と同じように然と呆ける同じ顔が二つ。

 曰く姉妹であるらしい二人は、けれどその身に宿す感情を極端に分けている。

 

「……彼の世界を救った時のあの方は、まさしく希望でした。愚かしくも危機感を抱いていなかった私達は漆黒を見てから恐怖を知り、たった一人で立ち向かう白銀に畏敬を抱いたものです」

 

 ですが。

 エリザがよく知る方──アリスは言葉を繋げる。

 

「今のアレは漆黒よりも恐ろしい。たまたま矛先がこちらに向いていないだけで、偶然彼の存在の"お眼鏡に敵わなかった"というだけで、あるいはアレこそが世界を蝕み尽くすモノではないかという錯覚さえ覚えます」

「ならばそれは、喜ぶべきことでしょう。少なくとも(メアリー)貴女(アリス)でも貴女達(メアリー・スー)でもないと知れたのですから」

 

 遥か天空。

 落ちてくる。落ちてくる。落ちてくる──。

 

 ちっぽけな白銀の流星が、白金の尾を手にしながら落ちてくる。

 

「心から、ご主人様の勝利を願います。──どうかご存分に」

 

 静かに目を瞑り、祈るのではなく礼をしたメアリーを見て、エリザは。

 

「……アリス」

「はい、なんでしょうかエリザヴェータ様」

「あれが……愛ね」

「そのようですね。ただ本人の聞こえるところでは言わないように。非常に照れ屋なので、恥ずかしがると攻撃してきます」

 

 アリスの背後で不可視のナニカが衝突しあったけれど、流石のエリザもそこまではわからない。

 ただ、そっと。

 家から出て来たデルフォイアーに背後から抱きしめられて……その背を預ける。

 

「あの星……泣いているみたいで、少し可哀想」

 

 あるいはそれは「いつもの」言動か。

 それとも本質を見抜いた言葉が。

 

 もうすぐで夢が終わる──。

 

 

 

 

 仙人スキルは使っていない。だというのにこの高揚感と──あまりにも惨たらしい所業。

 

 無間。

 

「……ああ」

 

 既に"一線"は越えていたのだと、この時になって自覚した。

 

「それを、構わないと思うほどには」

 

 ガースエンディエトハから引き抜いた素材。

 それで作り上げたるは長剣。銘を【神降(ひあもり)】。

 

 吹き飛ばされた封印棺からようやくの生還を果たしたらしいバーリアントゥに、召喚しっぱなしのポイニクスをぶつけて。

 

 さぁ準備は整った。

 長ったらしい前置きも、斬り合いという名のくどい時間稼ぎも、報酬とかいう無粋な余韻も要らない。

 

 今ここで、俺の考えた最強をぶつける。

 

「全バフスキル開門──」

「……ッ! 言葉も、感情も、行いも、何もかもが背反している──問う。お前はどこにいる……!」

「全デバフスキル照射──」

「生きる理由を言え。勝るものか、命に!」

「全スキル、収束」

 

 マール・イー・ガースエンディエトハ。

 月色靡かす彗星の琥珀竜。

 

「俺が世界を愛し、誰かが俺を愛している。──不足か、邪神」

 

 もう一度ちゃんと認めよう。

 ようやくこの地に根を下ろそう。

 

 

世界に希望が満ちる刻(ゴルズィフル・ロングテール)

 

 

 返事は聞いていない。覚悟も要らない。

 無心。音と記録を置き去りにした一撃は、不可視の彗星も大気も、そして海をも割る。割り砕く。

 

 そして──。

 

 

 

 

 どさ、と。

 簀巻きにしたバーリアントゥをデルフォイアーの前に置く。

 

「……ノスフェラトゥ?」

「お前らにどう見えてるかは知らんが、コイツは魔族でね。それも魔素に唆されたわけじゃない、れっきとした悪い魔族……人間嫌いの魔族だ。お前らに近づいた理由はよくわからんが、なんか探るために何年も何年もここで"人間が好きなフリ"を続けていたらしい」

「そんな、本当かい?」

「真実は本人に聞いてくれ。お前の契約スキルがあればどうとでもなるだろ。ただまぁ外法を使った代償で全ステータスを削がれているっぽくてな。レベルと種族階位だけは高いから、エリザヴェータの戦闘訓練相手くらいにはなる、程度の力しか持ってない」

「……なんだか急いでるね。別に追い出しやしないけど……」

「ああそうじゃないんだ。ちょっとわくわくが止まらなくてさ。早く帰ってやりたいことができたって感じ。だから、すまんな。色々押し付ける形になるけど」

 

 メアリーを抱き寄せて。

 

「今からがっつり公衆の面前で転移するから。ノズヴェルガーも転移で送り届けるから。後処理よろしく!」

「そりゃもう構わないけど──」

「待、待って! 悪鬼さん!」

「待たなーい♪」

 

 言いたいこと、聞きたいこと、後ろ髪を引くような重大話。

 色々あるんだろう。だけど知らん知らん。

 

 俺は今最高にテンションが高いんだ。伝言はノズヴェルガーに言うか──。

 

「永遠の別れでもないんだ、言いたいことがあるなら言いにくりゃいい。じゃあな!」

 

 

 転移する。

 アスガードの俺の家の前に。

 

「あの、ご主人様? ええと……どうしたのですか? 人が変わったようにはしゃいでいるようですが」

「聞いちゃうかメアリー。聞いちゃうかそれを」

「はあ」

 

 文句なしに最強だった魔族と、それが呼び出した初見のドラゴン。いや、邪神。

 結果的にこれらをあっさり斬り伏せて終わらせておいて、何故俺がこうもテンション高くあれるのか。

 

「──宇宙があるんだよ、この世界」

「……はぁ。まぁ、知っていますが」

「今までの俺は思い込んでた。すげー馬鹿な勘違いをしていた。けどさ」

 

 もうこの世界は遊び尽くしたと思ってたんだ。

 大好きだし、愛している世界だけど、知っている以上のことは起きないと──勝手に見限っていた。

 

 けど、どうだ。

 三流台本がいなくなって、ファントムもなんか知らんが萎えてて、その起き抜け一発目にコレがあって。

 しかも彗星の竜だと。全く知らない邪神。神。神を名乗る魔物。何でもいいけど。

 

「宇宙にも、魔物がいる。生物がいる。おいおい、じゃあこの世界どんだけ未開拓なんだよって話だろ!」

 

 創世神話において、初めに生まれた白は魔力を指すという。

 ならば宇宙には魔力が満ちているのだろう。そして夢の一族の死骸が惑星となって、膨大な世界に広がっていて。

 そんなにわくわくすること、他にあるか。

 

「飽きたとか、寿命がどうのとか、ああ、死ぬほどちっぽけだった。知らないってマジで罪だな。無知は視界を狭めすぎる」

「……異論はありません。……ですが、どうか」

「わかってるよ。シーファたちとの約束は守る。できないことは言わない主義だ。勝手にどっか行ったりしないし、帰ってこないってことも絶対ない。けれど、覚めない夢を見ることくらい良いだろう。俺だって男の子だからな」

 

 若干どころではなく引いているメアリーを置いてけぼりにしながら、色々な構想を立てていく。

 必要なもの。そうでないもの。考えられること。

 あと今回の全スキル収束を経て一つ忘れていたことがあったのを思い出した。正直全存在全裸化計画実行後である今それができるのかはわからないけど、試してみる価値はあるだろう。そう、アダルトMODの男女差撤廃による女性専用スキルの習得。

 もっと火力を出せる。もっと幅を広げられる。

 

 なーにが飽きた、だ。飽きるには早すぎるぞこの世界。

 

「まぁ、ご主人様が元気そうで何よりです」

「まだ元気は生み出せてないけどなー。……そうだ、それで思い出したけどメアリー。お前俺の子孕む気ある?」

「は?」

 

 極寒の「は?」が帰って来た。

 オイオイ、話と違うぞアリス。

 

「いやなんかお前あと十年くらいで分裂するらしいじゃん」

「……アリスに何か吹き込まれましたか。まぁ否定はしませんが」

「で、今のお前……っていうか心化した奴は子供作れるらしいんだよ。だから分裂して記憶共有する前のお前で子を成したいなら言ってくれって」

「結構です。分裂後の私に私を共有すればそれは私です。……と、今までの私なら言っていたかもしれません」

 

 お?

 いつものドライな感じで断られる流れだと思っていただけに、その感触が珍しく感じる。

 

「ご主人様があの巨竜と戦っている時、私とアリスで意見が割れることがありました。元を糺せば同一存在であるはずの彼女と私が。……それは、私という個体が夢の一族という総体から外れたことを意味します」

 

 メアリーは、そこまでの流暢さから……突然、「で、ですからそ……その」と言葉に詰まって。

 

「私は……私である感情を大事にするために、ご主人様の心を望むのかも、しれません。それに……分裂後の私にご主人様を取られると考えると、少々どころではなく腹が立ちます。私は土へと還る他ないのに、元気な私……私そっくりな私がご主人様の……ちょ、寵愛を……」

「いやこの前の暴露大会でケルについてああは言ったけど、俺が一人の女に愛情を注げないっていうのは別に変ってないから寵愛とかは無縁だと思うけど」

「……怪異スキル:玉手箱」

「おっと。すまんな、ガースエンディエトハ倒してさらに色々上がったっぽくて、もうお前のスキル全部効かんぞ」

「さっきまでの話、全て忘れてください。別に分裂しても私は私です。特に変わりません」

「怒るなって」

「それに、アリスの話には穴があります。──恐らくですが、ご主人様の子を孕むには、ご主人様も心化する必要があります。"対偶"とやらを見つけられていない以上は夢のまた夢かと」

 

 ああ、それか。

 まぁ確かに俺の心化が先だわな。けど。

 

「俺もう何が俺の"対偶"なのかわかっちゃったわ。教えないけど」

「……今ケル様やシーファ様たちが血眼になってそれを探しておられるのですが」

「だからだよ。探せって言われたのあいつらだろ。俺が答え教えちゃ意味ねーじゃん。俺を引き留めたいのはあいつらなんだから、あいつらの頑張りを水泡に帰すようなことはしないよ」

「はぁ。……優しいのか頑固なのか意味が分からないのか……本当によくわからない方ですね、ご主人様は」

「安心しろ。その内()れるよ、お前達も」

「もう()れていますが」

 

 それは微かなアンジャッシュ。

 良いんじゃないか、否定はしないし肯定もしないよ。今俺テンション爆上げだからな。

 

「メアリー」

「はい」

「まず飯で」

「はいはい、今準備しますので、少々お待ちください」

 

 ほら、段々成ってきている。

 良い傾向だろうさ。

 

 

 

 

 そのテンションのままシアルル王国に来た。

 あれ。ほら。カローライナが呼んでる云々で。

 

「……隠す気とかないのね」

「おや、ヴェルグ。久しいね」

「カラジェット。……よくこれ置く許可下りたな。場所食い過ぎだろ」

「はは、それはグラットルの普段の行いの為せる業だろうね」

 

 でん、と置かれたトラーヴァ。

 ちゃんと作れたようで何よりだけど、こう……もう少し、ない? 情緒とかさ。

 お前が言うなって。はは。

 

「人捜しをしているようだけど、私で良ければ案内しようか? これでも顔が広いつもりがあるよ。王国でなら、だけれど」

「ああカローライナを探してるんだ。銀閃のカローライナ」

「彼女、また冒険者に戻ったのかい? それは知らなかったな」

「ん、なんだ辞めてたのか? それこそ知らんかったが」

「ふふふ、君がバーグ殿の正体だというのはグラットルから聞いているから、白を切り通さなくてもいいよ」

「……あの口軽娘め。口止めはしてないけども」

 

 知らないフリ作戦は一瞬で撃沈した。……バーグの時ちょっとどころじゃなく礼を欠いた態度取ってたからなぁ。こう……なぁ。

 俺の中だとカラジェット君は未だ超イケメン部門第一位にいるんだよ。……たとえ全存在全裸化計画によって眩しい笑顔の全裸美女に見えているとしても。彼はイケメンなんだ。大丈夫、まだ俺の記憶に彼のイケメン具合は残っている。

 

「オリランカ第二王女であれば、王城にいるはずだよ」

「ん、サンキュ。……ちなみに聞くんだけどさ、最強の騎士団長とかいうの帰ってきてたりする?」

「うーん? それは聞いたこと無いな。調べて欲しいというのなら、依頼として承ることもできるけれど」

「いや、お前が知らんってことはマジで帰ってきてないんだと思う。だから大丈夫」

「そうかい。まぁ、私の方に何か情報が入ってきたら君に手紙を出すとしよう」

「そりゃありがたい。……と、じゃあ俺はこの辺で。またな、カラジェット」

「ああ、また」

 

 そこらじゅうが肌色になった王国を歩く。

 サッと路地裏に入ってサッとバーグの恰好になれば仮面もつけて超ハッピー。肌色さえ見えなくなるからな。

 

 んじゃ適当に王城に転移……んん?

 

 ミニマップのこの赤点……ええ、バーグに敵意向ける奴なんかいるの?

 それともあれか? フレースヴェルグ襲撃事件の時に逃がした魔族……とか? あいつそういえば捕まってないとかって話だったし、あり得るな。

 

 ……引き付けるか。

 

 

「というわけで飛んで火にいる夏のナントヤラ」

「きゃあ!?」

  

 という悲鳴が耳をつんざく。

 はいはいテンプレテンプレとか思いながら──いやいやいや。

 

「──すまん、人違いだった」

「え……あ、その声はあの時の!?」

「ジュワッ!」

 

 転移で逃げる。 

 おいおいなんで第一王女がバーグのストーカーしてんだよ。

 

 ……面倒になる前にカローライナに用件聞いてかーえろ。

 

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