※この作品はR-18です。

アダルトMOD入ってるせいで超やりにきぃ   作:姫鼠まりあ

99 / 100
幸せになる国(G度無し)

 ファントムに実体はない。

 故に、当然ながらコイツも「イきすぎて疲れる」とか「呼吸困難になる」ということがない。

 ではどのようにして絶頂を迎えているのか。

 

 それは多分、呪詛スキルと天使スキルのどちらもが魂に作用するスキルであるからであり。

 

「……もう、いいよ。認める。……負けで良い」

「良いのか? まだまだヤれるだろ」

「慣れたよ。最初の十回くらいで、この魂の振動には。その後はかかったフリをして君に色んなスキルを使っていたけれど……どれも無駄に終わった。君だって気付いたうえでずっとふざけてたんだろ」

「まぁな。が、嘘は良くない。かかったフリをしていた、は嘘だろ。実際に絶頂していたし、実際に思考域が塗り潰される快感は得ていたはずだ」

 

 ただ。

 

「ただそれが、お前にとって何の意味も無かった、というだけで」

「……なんだ。もう答えに辿り着いているのか。……そりゃヴェルグだもんね」

 

 マスカルウィンと同じだ。

 気持ちいいことは気持ちいいし、反応自体はするけれど、それだけで思考が染まり切るということがない。

 魂の震えはコイツを狂わせるには足りなさすぎる。

 

「【潰えた夢の残骸】。これが()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「なんだよそれ。参ったなぁ、最後まで正体不明でいたかったのに……そんなのバレバレじゃないか」

「とはいえ俺も最近まで知らなかったよ。"夢"という言葉が何を意味するのか」

 

 普通にストーリーテラーがゆえのドロップアイテムだと思っていた。

 けど、北の孤島に行ったのは正解だったのだろう。

 

「夢の一族。彼女らは世界創世からこの世に存在し、上位種族を名乗っている。彼女らの法則は他生物と悉くが異なり、あるいは異様でさえある。そして彼女らには夢の世界という固有の世界への接続方法が存在していて、ここでスキルを使ったり、あるいは自在に彩りをつけたりすることは、夢の一族にしかできない」

 

 だけど。

 それはゲーム本編の話。メアリーを限界突破する時の話。

 

「お前は干渉できるな、夢の世界に」

「……そりゃね」

「何故ならお前が、夢の一族の一人だから」

 

 肩を竦めるファントム。

 この広い宇宙に垂らされた魔力()。そこから生まれ出でた影。

 世界の影。陰に潜むモノ。

 

 思えば草案世界のファントムが「口伝の創世神話を知っていた」というのもヒントだった。人間や魔物の行く末にこそ多大なる興味を示すけれど、個体名には何の頓着も無いようなコイツが、なんで人間や魔物の信仰やら口伝やらを知っていたのか。

 簡単だ。

 それは奴に生身があった頃に受け継いだものであるから、だ。

 

「それで? ボクが夢の一族の成れの果てだとわかったから、なに?」

「少し前。俺が世界を一新する直前に、この虚数空間へ一人の少女が訪ねて来た。彼女は自身を未来から来た存在であると語り、詳細は省くが【聖魔混水晶】を望んだ」

 

 この世が始まってからの聖気と魔素、その全てを詰め込んだ合成アイテム【聖魔混水晶】。

 そして俺は、彼女が持っていた【聖魔混水晶】を貰った。

 

「彼女が望んだのは壊れていない【聖魔混水晶】。そして【聖魔混水晶】が壊れるのはそれを使用した時のみ。つまり、その"未来"で少女……あるいはアイツは【聖魔混水晶】を使い、世界に元気を満たした。だから水晶は壊れ……そして一人取り残された俺を"心化"するために、もう一つ【聖魔混水晶】が必要になった」

 

 俺のやり方と違うのは、ラヴ・グラットルの聖気と魔素を使ったか、創世からの聖気と魔素を使ったかの、ただそれだけの違い。

 

「ってことは、君の仲間が今必死になって探している"君の対偶"は、その【聖魔混水晶】だって言いたいのかい?」

「少し違う。ここで大事なのは、異世界の【聖魔混水晶】でなければアイツを心化できなかったって部分だけだ。対偶は別の話」

 

 俺の命題。世界の論理式。

 

「"俺が心化しない"ならば、"世界に元気は満ちる"。"世界に元気が満ちない"ならば、"俺は心化する"」

「成程。つまり、世界から元気を取り除かんとすることで、君を心化しようと試む存在こそが君の対偶なわけだ」

「それは誰だと思う?」

「ボクじゃないのは確実だね。そして君の仲間でもない。いいや、生物ではないだろう」

「なぁ、どう思うよ、夢の一族。お前が初期も初期の夢の一族であればわかることがあるだろう」

「"()()"」

 

 あっさりと。

 溜めも前置きも余韻も無く、ファントムはそれを口にした。

 

「世界から元気を取り除きたくて、君が心化してくれないと困る。なぜか。そうしないと消えてしまうからだ。君はこれから世界を探求し尽くすだろう。君に寿命なく、どれほど強大な存在でも君を殺せない。その上で際限なく強くなり続ける君は、いずれ全てを知る」

 

 いつかオニキス・リオンが言った。

 俺は"万象と会話できる存在"であると。それ即ち、"万象に意思がある"証左にもなろう。ありとあらゆるもの、ことに意思があるのならば。"答えのないモノ"にさえああもはっきりとした意思のある世界ならば。

 

 当然、未知にもある。

 

「夢の一族は未知に好かれている。彼女らの存在自体が未知でできていると言っても過言ではないしな。そしてお前もそうなんだろう。未知をもストーリーに組み込めるんだから」

「まぁね。ただ、このボクでも声を聞いたことはないし、未知というものがどういう性格をしているのかなんてさっぱり知らない。だから、少しばかり同情するよ、君を心化しようと頑張っている子たちには」

「未知を見つけられない以上、俺を心化することなんて不可能だから、か?」

「だってそうだろう? 見つけられちゃったら未知じゃなくなっちゃうんだ。見つけられないから未知というのであって、その正体を知った瞬間それは既知となる。存在の変質は致命傷だよ」

 

 異論はない。

 だが、だからこそ、だ。

 

「だからこそ【聖魔混水晶】は"未知"足り得る。創世から溜め込まれた意思の片割れ同士は一生をかけても読み尽くせないものだが、同時にアイテムであるという縛りも課せられている。あの水晶であれば俺を"この世界的"にすることができる。未知を未知のままに心化すればいいだけだからな」

「じゃあ、何? 君も別の世界の【聖魔混水晶】を見つけに行くのかい?」

「いいや。それじゃ世界を跨いだループが出来上がるだけだ。だから俺は、もっといい方法を見つけた」

 

 どの道手元には【聖魔混水晶】も【壊れた聖魔混水晶】も無いわけだしな。

 

「現役の夢の一族曰く、今までは生殖機能を持っていなかった夢の一族も、心化の影響で子を成せるようになってるらしいんだわ」

 

 ──仰向けになって転がっていたファントムが、ビク、と身体を震わせる。

 

「話が早くて助かる」

「いや……あのね、ヴェルグ。確かにその快楽スキルとやらで、ボクでも絶頂できることが判明したよ。でも、セックスはまた別の話で」

「ん? あぁ俺とじゃないよ。俺とやっても子供できないし」

「……じゃあ、誰と」

「いるだろ。最後の最後まで付き従ってくれてる部下が二人」

 

 ゆらり、と。

 俯いた顔で……ファントムのいる間の扉を潜ってくる二人。

 リザとシエラ。

 

 先程快楽スキル:強制絶頂の餌食になった二人には、一つの問いをしておいた。

 

「言わせたわけじゃないってのを前提に置いておくけどな。──お前の子、欲しいんだってよ」

「は?」

「……申し訳ございません、主様。その……できる、と聞いた途端……欲が」

「クレイドルとヴェアトリチェが逝ったのを見たせいもあります。……お願いします、ファントム様」

「いや……いやいや、ボクと君達はあくまでビジネス的な」

「それじゃあ、後はおアツイ三人で。リザ、シエラ。もし上手く行ったら約束通りにな」

「ああ。──可能性の示唆、感謝する」

 

 ギャーギャー喚いているファントムを背後に、虚数神殿を後にする。

 ほらな。あんだけ言っても力で解決しないのが良い証拠だろ。

 

 草案世界のアイツがそうであったように。

 ちゃんと大事に想ってんだよ。……なんちて。

 

 

 

 

 ──それから、一年が経った。

 あいつらはいろんなところへ行って俺の"対偶"を見つけんと必死になり、けれど徒労に終わり。

 俺はそんなあいつらの近況を手紙なり転移なりで聞いて、頑張れ頑張れと応援したり笑ったり。

 

 まぁでも、そろそろ限界だな、と感じたので全員をアスガードの家に招集した。なぜかリアもいる。

 

「よっすリア。久しぶり」

「お久しぶりですわ。申し訳ないですの、最近国の方が忙しくて、全く来れていなくて」

「いいよいいよ。俺もこいつらもいろんなトコ行ってて家にいないことの方が多かったからな。来たところですっからかんの可能性もあった」

 

 なんて世間話を挟むも――集まった全員の面持ちは明るくならない。

 無関心であるパインズとマスカルウィン、バルクスはまぁ置いておくにせよ、他の奴らはどんよりしている。そこまで関わりの深くなったわけでもないノーラまで。まぁコイツ感化されやすいっぽいからな。

 

「ヴェルグ。話って何」

「……私達が、答えを、見つけられて、いないから……時間切れ、とか、言いません、よね」

「ああ、その通りだよ」

 

 緊張が走る。

 泣きそうな顔をしている奴もいる。

 

 ゴン、と。ちゃんと基礎防御力を抜いてくる威力で後頭部を殴られた。

 マスカルウィンだ。

 

「はいはい皆大丈夫だからねー。というかもう知ってるでしょ、ヴェルグさんの性格」

「──落として上げる。ご主人様はそういう手法を好みます」

「おいおいネタバレすんなって」

 

 緩和した空気は、けれどしきることはない。

 わかっているのだろう。だって一年だ。一年探してきて見つからなかったものが、そう簡単に手に入るわけない。

 

「まず──時間切れ、っつーのは嘘じゃない。ただタイムリミットじゃない。なんつーかな、俺はもう一年前に答えがわかってたんだけど、お前らが見つけるのを待ってたんだ。ほら、ラヴ・グラットルやらフレースヴェルグに会えって言われてただろ? どうだ、会って来たか?」

「ん。魔族大陸にフレースヴェルグという人物はいた。魔族狩りの魔族、フレースヴェルグ。……魔族狩りという割に、スノーメノウという魔族と一緒に住んでいたけど」

「ラヴ・グラットルにも会ったぞ。王国の英雄、新しい白銀章冒険者ラヴ・グラットル。快活で良い娘じゃった」

「けれど、その二人に会っても、あの時の、ヴェルグさんの、言った言葉の意味は、わかりませんでした」

 

 ラヴ・グラットルとフレースヴェルグを探せば対偶が見つかる。

 ま、わからんのも無理はないんだ。

 

 こっちの世界のあの二人は、誰ともくっついていないのだから。

 あっちの世界……少し先の未来の別世界の俺じゃ想像もつかなかったのだろう。フレースヴェルグが魔化していて、築いたハーレムと真っ向から戦い、殺し合い。

 ラヴ・グラットルが天使と人間の二重存在で、誰にフラグを立てることも無くしかし子持ち、なんて状況は。

 

「リア。この前結婚の儀行かせてもらったばっかだけど、子作りはいつするんだ?」

「……それはデリカシーの無い質問ではなく、ヴェルグさんの心化に影響のあること、なのですよね」

「ああ」

「……。もうすぐ、ですの。各国の研究院が出した発表曰く、私達は全員卵生に置き換わったらしく、さらに妊娠時に起きる様々な体調不良が見受けられないとありました。つまり、子を成して尚国政は続けられる、ということですの。ですから……まぁ、もうそろそろ、ですわ」

「そういえばスイちと結婚したカロちはまだまだ先にするって言ってたね。産むのも孵化するのもかなりの速度で起きるから、まだまだ子供の域を出たばかりの自分たちには早い、とか言って」

「いうてあいつらもう成人してからそこそこ経ってるような」

 

 ……これ以上は止めておこう。

 

「ヴェルグ。なんでそんな話をしたの?」

「それが俺を"この世界的"にするための存在なんだわ」

「?」

 

 気付いた、という顔をしたのは──天使のアウラニとツゥ。

 

「え、そんな、簡単なことで、いいんですか?」

「なんだ……それなら、我慢なんてしなくて良かったのね。……ケルもそうだけど、みんな……貴方が幸せになっていない内に自分の幸福を追い求めるのはダメだ、って」

「ま、そこは悪かったよ。だけど俺がポンと答えを提示したってそういう空気にはなってただろ?」

「……そうかもしれないわね」

 

 対し、わかってない組は。

 

「ぶーぶー。アウラニち、答えわかったなら教えてよー」

「そうじゃそうじゃー。なんじゃその、自分たちは通じ合ってますよ感は」

(アウラニ)が、わかっていて、アウラニ()が、わかってないのは、少々、不満です」

「……ん-、なんとなくはわかったかもなー、あたしは。でもあたしじゃどーしようもないことだわ」

 

 たはは、なんて笑って。

 ノーラがこっちに来て……メアリーの手を取り、俺の隣に来させる。

 

 こいつも結構な気遣いするタイプだよな。

 

 さて──引っ張る意味も理由も、特にはない。

 

 いつか聖獣の話にもあった。

 生まれる前の聖獣には意識があると。

 

「聞いて、ケル。──帰ったらすぐにでも子作り、しましょう」

「シーファ、さん。……吸収無効オーラ無しで、セックス、しましょう」

「?」

「……?」

 

 一拍置いて。

 

「え、本気で言っとるんかそれ」

「おう。つっても俺のために子作りを、っつーのは俺の倫理観的にアレだったからな。この一年間でちゃんと見させてもらったよ。ツゥの言う通り、愛し合いたいけど我慢、睦み合いたいけどギリギリで耐える……みたいなことばっかやってたな」

「見てたって……流石にそれは変態過ぎない? ご主人様」

「皆さんの情事記録は私が取っていました。申し訳ありません」

 

 とまぁ、そういうことで。

 

「結果から言えば、お前達が幸せになることが俺の幸せってのは間違ってなくて、お前達が幸せになれば俺も"この世界的"になれるし、俺が"この世界的"になればもっともっと幸福が満ちる。クサい話だけど、なんだ。──それが最高のハッピーエンドって奴らしくてな」

「……皆様。誠に勝手ではございますが、できればあと十年以内にシていただければと思います」

「ほう? なんだ、異族の娘。興味はないと言っていたではないか」

「お言葉ですが、ユグドラシル様。まだ試していない責め……人道に反する責めがございます。最近さらにマンネリ化してきてつまらなさそうですので、ええ、いいでしょう。──それがお望みとあらば」

「照れ屋さんは直らないねーメアリーちゃんは。それが可愛いとこだけどさ」

 

 心化によって元気の塊となったこの世界の存在は、世界の元気の一部を取り除くことでこの世に生を受ける。

 両親二人の心をそのまま受け継いで生まれ出でるその子供は、間違いなく俺を心化しようと考える未知の結晶の一つであり。

 

 これもまた陳腐な表現だが──未知とは、可能性と言い換えられる、と。

 子供は可能性の塊ってな。

 

「……」

「腑に落ちない、って顔だな、ツバナ」

「まぁ、の。……それだけで本当に良いのか?」

「言いたいことはわかるよ。でも、本当にそれでいいんだわ」

「……この期に及んで嘘はないと思うが……まぁ、信じてやろう」

 

 妙に鋭いなー、ホント。

 でもこの場は素直に信じてくれ。

 

 それが一番丸いからさ。

 

 

 

 さて、解散となった次第であるが。

 やはりまだ引っかかる部分があるのだろう、ツバナが「話をしたい」と言い出してきた。

 

「──仮に。ケルとツゥ、シーファとアウラニズが子を成したとして、恐らくじゃが最低三人、多くても五、六人じゃろ。それでお主が……"この世界的"じゃったか。それになるようには思えん。単純に数が足りないように思えてならん」

「神官スキル:遮断」

「音を漏らさんようにするということは、アタリか」

 

 ん-。

 

「当たりだ。足りないって部分がな」

「なら、私もやはり男を見つけ、子を成さねばならんか」

「子供を作るために結婚ってなダメだよ。魔族にさえそういう確認は取ってんだから。ただ心配はしなくていいんだわ」

「何故じゃ」

 

 簡単だ。

 

「子供の成長速度が早いからだよ。今成された子供は、お前らの思ってる何百倍も早く成長し、また子供を作る。繁殖のサイクルが今までと比べて格段に違って来ててな。今の世代……つまり元人間、元魔族、元魔物であった者達は、あるいは自身の産んだ子に成長を追い抜かされる可能性もある。寿命についてはすまんがわからん」

「それは」

「ああ。だから、メアリーの希望通りの十年後までにそうなるかどうかはわからんが、あいつらが幸福に満ち足りて行く過程でいつかは必ず俺も"心化"するだろう」

「なるほどの。……わかった。お主のために、という考えは捨てて……自身の幸福とやらを探してみることにする」

「ああ。つーか子供作らなくたって幸せにはなれるしな。子供作ったら副産物として俺が"この世界的"になれるってだけで、お前はお前の幸せを掴みに行け」

 

 なお、茶化す気はないけど、俺は知っている。

 既に「ツバナとイイ雰囲気」の奴が何人かいることを。男女関係なくモテんだわコイツ。

 

「しかし、何故音を遮断したんじゃ。別に普通のことじゃろ、今の内容」

「いーや。俺に負い目を覚えてるあいつらが聞いたら、できるだけ沢山産もうとか子供に早く結婚しろって迫るとか、変な暴走するに決まってる。特にシーファとケル」

「ああ……なんか、想像つくの……」

 

 なまじっか時間と愛がちゃんとあるからな。

 四六時中ヤってポンポン産んで……ってなりそう。繫殖のサイクルが変わったとはいえ、親の責任ってのが消えてなくなったわけじゃない。初めての子供なんだ、育て方にノウハウある奴はいないだろ。

 俺だって兄妹や親戚の子供が育っていく過程を見てただけだし。

 

「ところで、別にケルとツゥ、シーファとアウラニズだけじゃなくとも、お主を思う者の子であればいいんじゃろ?」

「遠くなれば遠くなるほど効果は薄れると推測されるが」

「なら、この事実は、誰に言いふらしてもいいんじゃよな」

「……まぁ。判議会ももう機能してないだろうし、何より俺の情報なんかそこまで機密でもないだろうし」

 

 言うと、ツバナはニヤりと笑った。

 

「舐め過ぎじゃよ、皆のことを」

「何が言いたいかはわかったけど、頼むから強制とかしてくれんなよ」

「わかっとるわかっとる。そら、結界を解いてくれ。すぐにでも帝国に帰らねばならんくなったのでな」

 

 言われるがままに結界を解けば、びたーんと倒れ込んでくる全員。

 ミニマップで見えてたけどさ。流石に俺の結界は聞き耳立てても無理だって。

 

「帰るぞ、お主ら。私はギルドに行かなければならなくなったのでな!」

「何話してたのツバナち。なんか異様に元気になってるけど」

「教えん!」

「えー」

 

 文句をぶー垂れるシーファたちを、ツバナはその怪力で担ぐ。

 そして俺に向き直り。

 

「お主が気付いていない、お主が繋ぎ止めて来たもの全て! 仕返しの日は近いぞ!」

「あーはいはい。じゃあなー。……あ、でも今日の夜とかアレだぞツバナお前」

「?」

「お前以外がヤりまくるだろうから、気が散って仕方なくなると思うぞ」

「……どこか宿場に泊まるわ。じゃあの!」

 

 じゃあのー。

 

 

 

 

 ところで。

 

 覚えているだろうか。

 魔族大陸で魔素から逃げ回った挙句、特に何の成果も得られずに俺とフレースヴェルグに見つかり転移でロサビスまで飛ばされた彼のことを。

 

「ようイサカリ。遠泳中すまんがちょいとお願いがあるんだわ」

「……ヴェルグ。俺はな、好きで遠泳してるんじゃない。迷ってんだよ!」

「いやそりゃ、何の目印も無しにこの大海原泳いでたらそりゃ迷うだろ。ちなみに今何時間くらい?」

「四日」

 

 エグ。

 心化のせいでコイツも全裸美女に見えてるので普通に全裸水泳には見えるんだけど、流石に四日泳ぎ続けてるのは全ての感情を無視して遭難にしか見えない。

 

「助けは必要か?」

「お前が俺に何か頼みたいなら」

「んー。まぁ別にお前じゃなくてもいいや」

「まぁ待て待て待て。助けて欲しい助けて欲しい」

 

 引き上げて結界に入れる。

 

「はぁ……助かった。なんか食料ないか」

「俺もうほぼ食わなくても平気になったからなんも。……あ、ゴールディってフルーツならあるぞ」

「んじゃそれくれたらお願いとか言うの受けるよ」

「あマジ? ほい」

 

 丁度インベにあったゴールディ……あの後から普通にハマって定期購入してる奴を渡す。

 美味いんだコレマジで。あと数年でエイルニルス公国のエインドフルーツも生るだろうし、楽しみ楽しみ。

 

「うま。……水くれ水」

「魔法スキル:ハイプレッシャーウォー」

「それ貫通力エグいスキルだろ馬鹿!」

「冗談だよ。はい」

 

 MPを消費し、大気中の水元素を水の形にする。

 これは最近練習してる奴。魔法スキルという形じゃなく、魔力を操作して元素に干渉する。実はこの世界に生きる人々なら誰でもできること……つまり契約スキルとかと同じ扱いのそれは、俺にとっては結構な難しさを持っていて。

 今はマスカルウィンから魔法の初級手引きを学んでいるところ。曰く「正直言ってセンスは無いめ」らしい。うっせー。

 

「魔力精製水か……。あんまり美味くねーんだよな」

「味とかあんの?」

「ん、流石に自然を通った水の方が美味いな。水元素そのままだと多少の拒絶反応……他人の魔力っつー、何とも言えない味になるんだわ。お前水飲まないから知らねーだろうけど」

「いや勉強になるわ」

 

 剣もな。

 ちゃんと習ってみたい感じはある。アモルファス聖、ワォスタクライン、イサカリ。

 技巧の面で剣に優れる奴はいっぱいいるからな。先生は誰でも頼めるだろう。

 

「っぷはぁ。……いや助かった。で? 頼みたいことって?」

「フレースヴェルグについてなんだけど」

「ああ。……なんだ、また暴走かなんかしてんのか」

「お前あれからフレースヴェルグに会ったりした?」

「いやだから、遭難してんだって。お前にロサビスへ転移させられてから一年間、島見つけては狩りして次の島まで泳いで。……俺自身、しっかり日数数えられてるのが不思議でならねえよ」

「原始人でもしないことしてんなー。流石イサカリ」

 

 魔物も普通に出る海域なのに、よくもまぁ。

 

「フレースヴェルグがな。魔素漏れがなくなって、別に今すぐにでも王国へ帰ったって良いって状況になってんのに、帰らないんだわ。俺には資格がないだの生き恥曝して生きてるだの言ってさ。魔族狩り名乗っておきながら最近は魔族の女にべったりで……いや俺がどうこう言えた義理はぶっちゃけないんだけどさ」

「ケツ叩いてくれってことで良いか」

「そういうこと。戻るにせよ戻らないにせよ、ケジメっつーかなんつーか、王国に席を置いた最強の騎士団長様がさ、慕ってる部下もいるってのに断り無しでぐーたらしてんのは……どうなん? って」

 

 まぁ俺の発案じゃないけど。

 

 俺はその辺好きにしたらいい派だからなー。まぁ依頼受けたんで。

 

「成否は?」

「まぁケツぶっ叩いて、それでも戻らないってんならそれでいいよ。流石にそれは仕方ない」

「りょーかい」

「それと」

 

 インベから封印棺を四つ取り出す。

 開けば。

 

「エリス、タルバダ、キロン・シトロン、カルヴァーン……」

「蘇生しておいた。が、何の説明もせずに封印棺ぶち込んだんでな。今もこれまだ解除状態じゃなく、中身見せてるだけ」

「まさかとは思うが、全説明を俺に」

「そゆこと。じゃ頼んだぞイサカリ」

 

 封印棺を半解除状態にし、イサカリと共にフレースヴェルグの下へ転移させる。

 ちょっと上空めにしたから*かべのなかにいるにはならないはず。着地は必要だけど。

 

 ……これでまぁ、依頼達成かね。

 しっかしこれがご祝儀ってのは……なんというか損得勘定抜けてないっていうか。

 

「お幸せに、とは」

 

 思うけど。

 

 けーるかねー。

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