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勇者一行の、世界を股に掛けたオーブ探しの旅が始まった。ロウに依ると外海へ漕ぎ出すためにはソルティコの水門を開けてもらう必要があり、知り合いであるソルティコの領主ジエーゴに頼めば開けてもらえるだろう、とのことだった。だが強い外海の魔物に対策するため、一行はまずホムラの里へとやってきた。
「うわー、何かドクトクの雰囲気の村だな!」
「ここへは儂も初めてきたぞい。」
ロウと兄妹はホムラに来たことがなかったらしく、物珍し気に周りを見回している。
「この村には”不思議な鍛冶台”があって、外海に出る前にそれを使って君たちの装備を整えようと思って。」
イレブンの説明にカミュが首を傾げて訊き返した。
「”不思議な鍛冶台”?」
「うん、数年前に旅の商人から長の息子ハリマさんが買い取ったんだって。火竜討伐で亡くなられたのは残念だったけど…村の人はもちろん、僕たちのような旅人も無償で使うことができるんだ。」
「へえー、タダで旅人にも使わせてくれるなんて随分と気前がいいな。」
「鍛冶台は無料だけど、村で休憩したり買い物するから村にもメリットはあるよ。」
イレブンが他の仲間を振り返った。
「僕はこれから暫く鍛冶に没頭するけど、みんなはどうする?」
「私たちはいつものように蒸し風呂でゆっくりさせてもらうわ。」
マルティナが言い、双子とシルビアも頷いた。
「ロウちゃんもカミュちゃんもマヤちゃんもアタシたちと一緒に行きましょ?」
ロウとマヤはシルビアのお誘いに足を踏み出したが、カミュは止まった。
「あー…、俺はその”不思議な鍛冶台”ってヤツを見てみたくてよ。イレブンの鍛冶について行ってもいいか?」
「もちろんよ♪さ、ロウちゃんとマヤちゃん、行きましょ?」
イレブンとカミュ以外の仲間はみんな蒸し風呂に行ってしまった。
「じゃ、僕たちも行こっか?」
イレブンはにっこりと笑って歩き出した。
鍛冶場は村の入り口の左前方にある階段を上った処にあった。イレブンとカミュが訪ねると、職人たちがイレブンを見て『また来たな、あんちゃん。』とか『久しぶりじゃねえか。』などと口々に声を掛ける。イレブンは微笑んで挨拶を返し、道具屋も兼ねている家屋の片隅に置いてある”不思議な鍛冶台”へとカミュを導いた。
「これが”不思議な鍛冶台”だよ。この蓋を開けて、中に素材を入れるんだ。」
「ふうん。それにしてもお前、すっかり常連なんだな?」
「ふふ、まあ、大抵レシピが手に入る度に来ているからね。」
イレブンが笑い、蓋を開けて脇に置くと、道具袋を掻き回した。そしてレシピブックを見ながら幾つかの素材を放り込み、蓋を閉める。少し経ってから蓋を開け、中から虹色に輝く塊を取り出した。
「見てて?」
イレブンがカミュを振り向いて良い、その塊をハンマーで懸命に叩き始める。それから暫くの間、一心不乱にハンマーを振っていたイレブンが漸く手を止めた。
「……できた。」
ハンマーを置き、完成した物を広げてカミュに見せる。
「…涼しそうな服だな?上なんて胸当てと肩当て、短いマントしかないじゃねえか。」
「うん、これレシピブックを手に入れたのは随分前なんだけど、誰も装備できそうなメンバーがいなくてさ。君なら装備できるかも、って思って…」
「俺に?」
カミュはイレブンから“大盗賊のマント”を受け取った。
「よう、兄ちゃん、装備してみたいなら、そこにある衝立を使うといいぜ!」
職人の一人がカミュに声を掛ける。カミュは礼を言って衝立の陰で着替えた。
「やっぱスースーするな…」
着替え終えたカミュが衝立から現れると、イレブンは頬を紅潮させた。彼の露わな腹筋や腕に思わず目が行ってしまう。
「いい!すごくいい!とってもよく似合う!」
「は…はは…そうか…?」
カミュが照れて後ろ頭を擦る。
「それとセット品の帽子があるんだ。すぐに造るから待ってて!」
イレブンは興奮気味に次の鍛冶に取り掛かった。
最終的にイレブンはカミュに大盗賊のターバンと大盗賊のマント、マヤにバタフライダガー、マヤとロウにバタフライマスクを造ってその日の鍛冶を終えた。
「今あるレシピで君たちに作ってあげられるのってこのくらいかな?」
イレブンは満足げににっこりと笑った。
「じゃあ、そろそろみんなの処に戻ろっか?」
「そうだな。」
「おい、兄ちゃんたち、腕が立ちそうだが、ヤヤク様の処に話を聴きに行ってみたらどうだい?力を貸してくれる人を探してるって話だ。」
イレブンとカミュが鍛冶場を去りかけたとき、職人の一人がそう言った。二人が顔を見合わせる。
「…行ってみるか?」
「そうだね。困っている人は助けないと…」
「お前って、いいヤツだよな。」
カミュは笑ってイレブンの肩を叩いた。
イレブンとカミュは鍛冶場を出て、その先に続く石段を上り、ヤヤクの社へとやってきた。力になりたい旨を伝えるとすぐに巫女ヤヤクの前へと通される。巫女は何か哀しみを抱えているかのような思い詰めた貌をしていた。巫女は人払いをし、その場にはイレブン、カミュ、そして彼女の三人だけが残された。
「そなたたちは旅の者か。少し長くなるが、私の話を聞いておくれ。」
巫女が重い口を開く。
「私の息子、ハリマは生きている。」
「えっ!?」
「驚くのも無理はない。実はハリマは・・」
巫女ヤヤクはハリマと火竜を討伐した際に、火竜の呪いによって彼が火竜の姿になってしまったこと、その呪いを解く神器である映した相手を真の姿に戻すという八咫鏡を手に入れたものの、鏡の力を引き出せずにいることを話した。
「私も火竜になったハリマが村を襲わぬよう、ヒノノギ山に食べ物を持って行っているが、それもこの先ずっと続けることはできぬ…」
ヤヤクは苦し気に瞑目したが、きっ、と顔を上げた。
「書物によると鏡の真の力を引き出すには、どうやら“ラーの雫”というものが必要らしい。旅の者よ……もしも旅先で“ラーの雫”を見つけたら、私に譲ってくれぬか。無論、礼はする。名刀斬鉄丸を授けよう。どうじゃ、頼まれてくれるか?」
「ええ。見つけられるかどうかわかりませんが…見つけたらあなたにお譲りします。」
「おお、感謝するぞ、旅人よ。」
イレブンが依頼を引き受けると、ヤヤクは頭を垂れた。
*
勇者一行はホムラの里で旅の準備を終えた後、ソルティコを訪れ水門を開けてもらった。そして狭い海道、ソルッチャ運河を外海へと航行する最中、白い霧の中に迷い込む。霧の中、”白の入り江”と呼ばれる場所に辿り着いた一行はそこでロミアという一人の人魚に出会う。海底王国に連れて行ってもらうのと引き換えにキナイという青年の様子を見て来て欲しいという彼女の望みを叶えるために、一行は彼がいるというナギムナー村を訪れることにした。
勇者一行はナギムナー村を目指す途中、成り行きで村の漁師たちに加勢して化け物イカを討伐した結果、その夜に村で開かれた討伐祝賀会に招待された。
「キナイのことを聞いて回ったが、この酒場には来ていないみたいだ。」
人々の楽し気な笑い声と話し声が満ちる祝賀会の最中、海を臨む海岸端の酒場でイレブンとカミュは落ち合った。
「僕の方も見つからなかった。」
「なあイレブン、こんなお祝いムードの中でキナイを探し出したとしても、とっくに酔いつぶれてるかもしれないぜ?探すのは明日にして、俺たちも久々に羽を伸ばさねえか?」
「そうだね。」
この夜はナギムナー村全体が宴会場となり、人々はどこでもたむろして料理を食べ、酒を飲んでいた。
イレブンは中央のカウンターから村の女たちが作ったという料理を、カミュは地元の酒に柑橘系のフルーツの果汁を加えたものをもらい、酒場の空いた小テーブルに向かい合って座った。円形のこの酒場に壁などはなく、帆布が屋根代わりに張られているだけで、吹き抜ける海風が心地いい。
二人はカチン、とグラスを合わせた。
「君とお酒飲むの、グロッタ以来だね。」
「そういやそうだな。」
カミュが答えて顔を綻ばせたとき、皓い歯が灯りに煌めいた。大盗賊のマントを装備している彼の、素肌の腕、脇、腹筋…とつい目で辿ってしまったイレブンは慌てて目を逸らし、グラスの酒を一口飲んだ。
「そ、そうだ、僕たちとの旅にはもう慣れた?」
「ああ、慣れたぜ?マルティナさんが何かと気にかけてくれて、マヤも姉さんができたみたいだ、って喜んでる。」
「そう、よかった。」
イレブンは安心したように微笑んだが、カミュの艶やかな唇につい目が行ってしまうのを自覚していた。ユグノアで彼と恋人同士になったものの、秘密の関係とは厄介なもので、大所帯の旅なら尚のこと二人きりになれる時間はほとんどなかった。
――今日ナギムナー村の人が用意してくれた宿も大部屋…
村の恩人ということで彼らのために用意してくれた宿も四人部屋が二つだった。イレブンは料理を食べながら、心の中で溜息を吐く。
「……ねえカミュ、そろそろ…僕たちのこと、みんなに言わない?」
「ん?ああ…別に俺は今のままでもいいけどな?お前と一緒に旅ができるだけで満足だからよ。」
「……」
――カミュは僕と二人で過ごす時間がないことを何とも思ってないんだろうか?僕は毎日でも彼に触れてキスしたい。彼が許してくれるなら、それ以上のことも……
「なあーに暗いカオしてんだ?勇者様?」
カミュが笑ってわしゃわしゃとイレブンの髪を掻き回す。イレブンの中で何かが切れた。
「子ども扱いしないで!」
カミュの手をパン、と払いのける。カミュが驚いてイレブンを見た。イレブンははっと我に返って。
「あ…ごめん。僕、もう宿屋に戻るね。」
料理も飲み物も残したまま、席を立つ。
「あ、おいイレブン!」
カミュの声にも振り向かず、イレブンは足早にその場を去った。
宿屋には他の仲間は誰一人戻っていなかった。まだ時間も早く宴もたけなわで、きっとみんな祝賀会を楽しんでいるに違いなかった。イレブンは宿屋に戻ったところで結局カミュも同じ部屋なのだから意味がないことに気付いたが、すぐに追いかけて来なかったということはほとぼりが冷めるまでカミュはイレブンを一人にしてくれるつもりなのかもしれないと思った。簾を下げて、イレブンは自分のベッドで丸くなる。
暫くして、両腕に色々な物を抱えたカミュが宿に戻って来た。
「お前ほとんど食べずに行っちまったから、適当に包んでもらってきたぜ?飲みかけてた酒も空き瓶に詰めてもらったから…」
カミュが食べ物と飲み物をベッドの間の床に置く。テーブルや椅子などはなく、部屋の床は萱で作られたぶ厚い敷物が敷かれていて、室外の板床とは一段高くなっている。靴は板床の処で脱ぐ風習らしい。イレブンは食べ物の匂いで、自身が空腹であることを思い出した。
「ありがと…」
素直にお礼を言ってベッドを降り、床にぺたりと座ると、カミュが持ち込んだものを食べ始めた。グラスなどはなかったので、酒は瓶から直接飲んだ。カミュもイレブンの向かいで胡坐をかいて座り、食べ始める。
「なあ……俺のしたことが気に障ったのなら謝るよ。」
「別に…僕もあんな…子供みたいな振る舞い…」
イレブンは自分で言って虚しくなった。カミュに年下扱いしてほしくなかったのに、していることは結局子どもだった。
「……寂しいんだ。」
抱え込んだ感情はカミュと二人きりになったことですんなり出た。
「寂しい?みんないるのにか?…ああ、ホームシックってことか?なら一度イシの村、ってとこに帰っても…」
「そうじゃないよ!」
つい大きな声が出てしまい、カミュが驚いて目を瞠る。イレブンははっとして声を落とした。
「……君と僕は恋人同士だ。」
「あ、ああ・・」
「なのに全然、二人だけの時間が持てていない。」
「……」
「僕はもっと君に触れたいし、キス以上のこともしたいんだ。…子どもや弟みたいな扱いは嫌だ。君に一人の男として見られたい。仮面武闘会で。君がサイデリアに魅了の術を掛けられたときのような、うっとりとした貌で僕を見てほしいんだ。」
「……あ…」
カミュが真っ赤になってイレブンを見る。イレブンは構わず続けた。
「僕たちのことをみんなに知ってもらおう。公認になれば、今までみたいに物陰で偶然二人になれた瞬間にキスしなくてもいいでしょ。……ね?」
イレブンがにっこりと微笑む。だがカミュからの返事はなく、赤い顔で目を逸らしてしまう。
「カミュ…?」
イレブンが不安になってカミュの顔を覗き込む。
「う……その、お前は、カッコよすぎて、俺みたいなのがお前と付き合ってる、って実感が未だに湧かない、っつーか…あー…山小屋、でのことも全部夢だったんじゃないか、って思い始めてたとこで…」
イレブンはポカンとしてカミュの言葉を聞いていた。『カッコよすぎて』? ――だが彼の言葉を脳が理解するにつれ、嬉しさが込み上げてきた。
「カミュ!…う」
イレブンは思わずカミュの手を握り、身を乗り出してキスしようとした――が、カミュが立てた人差し指を素早くイレブンの唇に当てたことで制された。
「…まず飯、食っちまおうぜ。」
「ふふ、そうだね。せっかくの祝賀会だものね?」
イレブンは元の位置に座り直し、はにかんだ顔で笑うカミュに微笑み返した。
宿で食事を終えた後、二人は再び祝賀会に繰り出して村人たちの輪に乱入して酒を酌み交わし大いに笑い、羽目を外す彼らを見かけたシルビアとマルティナについに宿屋に連れ戻されるまで、繋いだ手を離すことはなかった。
*
「……ロミアはずっと待ち続けるんだろうか。キナイ・ユキと同じように独りぼっちで……」
白の入り江を後にして、シルビア号の甲板で遠ざかって行く入り江を見つめながら、イレブンが言った。
「お前がしたことは、間違いじゃねえ。彼女が真実を知れば、もっと悪いことが起こる。」
入り江から目を逸らし俯いていたカミュが続ける。
「生きるには心の支えが必要だ……例えそれがどんな形であっても、な。」
ロミアに『キナイは迎えに来てくれる』と嘘を吐いた。イレブンは彼女にもらった、手の中のマーメイドハープを見下ろす。
「そう…だよね。これで、よかったんだよね。」
白い霧の向こうに、ロミアの待つ白の入り江は遠ざかって行った。
*
マーメイドハープを使って海底王国ムウレアを訪れた勇者一行は、女王セレンからグリーンオーブを賜った。そして女王の助言に従い、西の海にある光の柱を通り、訪れたメダチャット地方でシルバーオーブと魔法の鍵を手に入れ、バンデルフォン遺跡でパープルオーブを、クレイモランでブルーオーブを手に入れた。
「あとはレッドオーブだけだ。」
クレイモランを後にして、皆を振り返りイレブンが言った。
「デルカダールに赴けば、ウルノーガと決戦になるかもしれない。行く前にやり残したクエストを解決しようと思う。」
「ホムラの里のクエストのことか?」
カミュが訊き返す。
「うん、そう。」
イレブンは皆にホムラの里で巫女ヤヤクから受けた依頼の話をした。
「火竜の呪いですって?」
ベロニカが眉を顰める。
「まだ訪れていない処があるとはいえ、これだけ世界中を旅しても“ラーの雫”は見つからなかったわ。」
「魔法の鍵で開けられる扉はすべて開けたしのう。」
マルティナとロウが考え込む。
「何か手がかりはないのでしょうか?」
「セレン様に訊いてみたらどうだよ?」
皆からああ、と気づきの声が漏れる。
「ナイスよ!マヤちゃん、行ってみましょ!」
シルビアの掛け声にみんなが頷いた。
ルーラで海底王国ムウレアを訪れた勇者一行は、女王セレンが精神を集中するのを、固唾を呑んで見守っていた。そしてついに。
「……“ラーの雫”は峡谷の…大きな鳥の巣で見つかるでしょう。」
との助言を得た。
「峡谷…って、怪鳥の幽谷のことかしら?」
ベロニカが首を傾げる。
「シルバーオーブを見つけた処ですわね。」
「ふむ、まだ巣の中を探し尽くしてはいなかったの。」
「よし、行ってみよう。」
「私の助言が必要な時はいつでもおいでなさい。すべては大樹の導きのもとに。」
イレブンたちは女王に礼を言って辞し、再びルーラでメダチャット地方にある幽谷のキャンプに移動して怪鳥の巣を訪れた。その場の魔物を一掃した後、”巣”を皆で手分けしてくまなく探す。
「あったぜ!」
暫くしてカミュが叫び、“ラーの雫”の入った綺麗な瓶を掲げて見せた。
「やったな、兄貴!」
「ハリマさんを助けることができるかもしれないわね。」
「さっそくホムラに向かいましょ!」
シルビアの言葉に皆が頷き、イレブンはルーラを唱えてすぐにホムラの里へと向かった。
一行はヤヤクの社を訪ねたが、ヤヤクは供物を持ってヒノノギ山に向かったらしく、留守だった。
「きっと火竜の棲みかに行ったんだ。“ラーの雫”の効果を見届けるために僕らも行こう。」
イレブンは仲間とともにヒノノギ山へ向かい、地獄の窯のような熱さに耐え、闊歩する魔物を蹴散らしながら奥へ奥へと進んで行くと、辿り着いた最奥の洞に巨大な火竜が蹲るように眠っていた。そして火竜の前に佇む見覚えのある女性の後ろ姿。
「まさかこんな処に人が来るとはな。」
人の気配を感じて巫女ヤヤクが振り返った。
「そなたたちは……!まさか“ラーの雫”が見つかったのか?」
イレブンは頷いて巫女に“ラーの雫”を見せた。
「おお、それは……!そなたが持っているのはまさしく書物で見た“ラーの雫”……!それを八咫鏡に使えば火竜の呪いを受けた息子のハリマを元に戻してやれるかもしれぬ。」
ヤヤクが興奮気味に“ラーの雫”を受け取り、八咫鏡に滴らせると鏡は金色に輝いた。ヤヤクが意を決して八咫鏡を翳し火竜を映すと、鏡から眩い光が迸った。
皆が眩しさから目を庇っていた腕を下ろしたとき。火竜が居た処に黒髪を高く結い上げた一人の青年が立っていた。巫女が青年に駆け寄り、涙を浮かべながら彼の顔に触れる。
「よくぞ……よくぞ戻ってきてくれた。」
「母上……」
母子は再会の喜びに浸っていたが、すぐに我に返りイレブンたちを振り返った。
「ありがとう、旅の者たちよ。里に帰ったら改めて礼をさせておくれ。社で待っているぞ。」
ヤヤクとハリマは一行に礼を言って、その場を去って行った。
ホムラの里へ向かう路で。
「……ねえ、イレブン。あの鏡、ウルノーガに使えるんじゃないかしら?」
「私も考えていたわ。」
ベロニカの問いにマルティナが答えた。
「もしも…お父様がウルノーガに操られているのではなくて、ウルノーガが化けているとしたら…」
「うむ。可能性はあるの。」
「そうだね。それなら八咫鏡を借りられないかヤヤク様に聞いてみよっか?」
「ぜひお願い致します!」
セーニャが手を合わせてにっこりと笑う。その隣でシルビアが後ろを振り返った。
「カミュちゃんとマヤちゃん、大丈夫?」
「…あんま、大丈夫じゃねえ……」
「おれも……」
青髪の兄妹は火山の熱さにバテていた。
勇者一行はヤヤクの社でお礼の品”名刀斬鉄丸”をもらい、事情を話して八咫鏡を借り受けた。
「これでクエストは解決したし、偶然『策』も用意できた。シルビア号でデルカコスタ地方に向かおう。」
一行はルーラでクレイモランへと戻り、波止場に停泊しているシルビア号に乗り込んだ。数日かけて一行はデルカコスタ地方に着き、そこの船着き場で降りるとイレブンは仲間たちを振り返った。
「デルカダールでは恐らくウルノーガと決戦になる。みんな、準備はいい?」
「乗りかかった舟だ、俺は行くぜ。」
「私も、キミと城を出た日から覚悟はできているわ。」
「あたしは勇者を導くのが使命。当然ついていくわ。」
「私もですわ。」
「儂もじゃ。」
「アタシも!」
「おれも。」
イレブンは仲間たちを誇りに満ちた眼差しで見つめた。
「ありがとう、みんな。さあ、行こう。」
*
勇者一行はデルカダールに向かうため、デルカコスタの船着き場にシルビア号を停泊させた。彼らが着いたのが午後だったため、その日は波止場からほど近いデルカコスタのキャンプ地で一夜を明かすことにした。
「懐かしいわね、初めてキミとキャンプした場所だわ。」
マルティナが感慨深く周囲を見回す。
「ふふ、そうだったね。」
「…そう言えば、旅立ちの祠に向かおうとしてすぐグレイグに追いかけられたから、祠周辺を探索していないわね。」
「ああ…、そうだね。みんな、探索に行ってきてもいいかな?」
マルティナの言外の提案をイレブンが汲み取って皆に訊く。
「いいわよ、キャンプの準備はしておくわ。」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
姉妹が答える。
「二人で大丈夫かの?」
「一緒に行きましょうか?」
老人と旅芸人が心配するが、
「この辺の魔物なんて、今の僕たちなら余裕だよ。」
とイレブンが笑った。
「なー、兄貴、いいのか?」
「何が?」
周辺の薪を集めながらマヤがカミュに話しかける。
「彼氏をお姫サマと一緒に行かせてよ。」
「別に俺は…」
既にナギムナーでイレブンとの関係を仲間に明かして公認になっているカミュにとって、他の仲間と彼が二人で行動したからといってどうということもなかった。それが一番長く彼と旅をしているマルティナなら、尚更。
「兄貴がそんな風だから、きっとユーシャ様も不安になるんだぜ?」
「不安?」
「よーするに、『自分ばかりが好きみたい』ってユーシャ様が思っているんじゃないかってことだよ。」
「え…んなことねえだろ。あいつはあんなに…魅力的な奴なんだから。」
マヤは大きな溜息を吐いた。
「兄貴がユーシャ様をそう思っていても、伝えなきゃわかんねえだろ?」
「一度は伝えたぜ?……ナギムナーで。」
「どんだけ前だよ?しかも一度って…それに行動で示したのか?」
「仲間に話して認めてもらっただろ?」
「それだけ?その後は?」
「その後、は…仲間の前で手え繋いだり、寄り添ったりしてるの、お前も見てるじゃねえか。」
「だあーー!!そうじゃねえよ!兄貴のばか!バカ!馬鹿!!」
マヤが地団太を踏んだ。
「お、おい、そんな大きな声出したら、いくら離れているとはいえ…キャンプの準備をしている連中に聞こえるだろ?」
狼狽えるカミュにマヤがビシ、と人差し指を突きつける。
「いいか兄貴、イレブンを不安にさせないために、ちゃんと自分から行動しなきゃだめだぜ?」
「どーすりゃいいんだよ?」
「ますイレブンと二人きりになって、兄貴からキスしろよ。」
「え?け、けど、突然んなこと言われてもよ…」
「兄貴たち、恋人同士だろ?フツーのことじゃねえか。…そうだ、いい機会だ。今日イレブンが探索から戻って来たら『寂しかった』とでも言え!いいな?」
「わ、わかったよ…」
カミュは妹の剣幕に負けて頷いた。
黄昏時にイレブンとマルティナが探索から戻って来た。夕食を食べ終えて皆が寛ぎ始めた頃、マヤがカミュに目配せした。
――うぅ…やっぱりマヤの言った通りにしなきゃダメなのか…
カミュは心の中で溜息を吐いた。
「イレブン、ちょっと…、いいか?」
「いいけど…何?」
カミュは立ち上がり、イレブンと連れ立ってキャンプ地の北東へと歩き出した。月が明るい夜で、キャンプ地から離れても歩くのに困らなかった。カミュは海の見える岩山の切れ目まで来ると足を止め、振り返った。月光に輝くイレブンは清かで美しく、一瞬見惚れてしまう。…が、すぐに我に返った。
「あ…その、……寂しかった。」
「え……」
暫しの沈黙。
――何、固まってんだよ?何か言ってくれねえと、俺もどうしていいかわかんねえ。
『兄貴からキスしろよ。』
カミュの頭にマヤの声が響いた。――やってみるしかねえ。カミュはイレブンに近づき、彼の肩に片手を掛け、伸び上がってキスをした。
「!…ん…う…」
即座に抱き締められ、深く甘いキス。
「……は、イ、レブン……」
「……ごめん。君の気持ちも考えずにマルティナと探索に行って…」
漸く口づけを解いた後、イレブンが言った。イレブンの手がカミュの腰にそっと添えられる。
「あ…いや…」
「今日もさ、探索しながらマルティナに君のことを相談してたんだ。公認の関係になったものの、君に触れるのはいつも僕からで、僕ばかりが君を好きみたいで、虚しくて。あのとき…山小屋でも君は自分の気持ちがよくわからない、って言ってたから、やっぱり僕を好きなのが勘違いだとわかったのかも、とか思ったりして……」
「……」
『ちゃんと自分から行動しなきゃだめだぜ?』
再びマヤの声がカミュの頭に響いた。カミュはイレブンの首に両腕を廻して、彼に軽く凭れかかった。彼の温もりと香りが心地よい。ふいに、カミュは気づく。
――俺は心の何処かで『俺はこいつに相応しくない』とか『こいつの気が変わったら笑って手放してやらなければ』と思っていた。いつか離れるとき傷つかないために無意識に自分の気持ちを抑え込んでいたんだ。こいつに触れれば、こんなにも好きだと思い知るのに。
「……俺、お前のこと、愛していると、思う。」
「え……?」
「お前といると、世界が輝いて見える。お前と過ごす時間がとても…大切に思える。お前と離れたくない。ずっと一緒にいたいんだ。」
「カ、カミュ…」
「お前の存在が眩しくて、自分にも自信がなくて、今まで何も言わなくて、ゴメンな?」
「カミュ…!僕も君を愛してる…!」
イレブンは力いっぱい目の前の愛しい人を抱き締めた。
*
翌朝。皆の出発の準備が整うとこの辺りの地理に詳しいマルティナがこれからの予定を説明した。
「私とイレブンがいたら、デルカダール城下町に正面から入ることはできないわ。回り道になるけれど、南西の道からイシの大滝、旅立ちの丘を通り、ナプガーナ密林を抜け、デルカダールの丘を越えて城下町の下層に入ることにしましょう。」
「イレブンの故郷、イシの村には寄らないのか?」
カミュの問いかけにイレブンは首を横に振った。
「今はいいよ。先を急ごう。」
「さあ、出発よ!」
ベロニカが元気な掛け声を上げ、皆が頷いた。
一行は途中イシの大滝で休憩を挟み、ナプガーナ密林の中程まで歩いた頃には昏くなり始めていた。
「あそこに小屋が見えますわ!」
木橋の向こう側に灯りのついた小屋が見え、皆がほっと胸を撫で下ろす。木橋を渡るにつれ、小屋の近くに女神像があるのも見えた。
「今日はここでキャンプをするとしよう。」
ロウが腰を伸ばしながら提案すると皆が頷き、キャンプの準備に取り掛かった。人の話し声を聞きつけたのか、暫くすると人のよさそうな小柄な男が小屋から出て来て、『オラは木こりのマンプク』だと名乗った。そして薪や以前狩った獲物の干し肉や木の実、茸をくれたので一行はありがたく頂戴し、その日の夕餉の食材にした。
「いんやぁ~、オラぁ、前にいたずらデビルっちゅう魔物に犬に変えられたんだべや~」
「えっ、おっさん、大丈夫だったのかよ?」
薪や食材を分けてもらったお礼に招いた夕食の席でマンプクがした話にマヤが驚いて訊き返す。
「ああー、何日かしたら元に戻れただ。」
「んまあ!よかったわぁ~~」
皆が色んな話しをして、マンプクが差し入れてくれた酒も(ベロニカ以外)嗜みながら、密林の夜は更けていった。
*
次の日。一行はマンプクに別れを告げてデルカダールの丘に向けて出発した。途中、導きの教会で休ませてもらい、夕刻にはデルカダール城下町の下層に続く、岩壁に設置された木の登り板の下に辿り着いた。
「この後の手筈だけれど…まずは私が一人でデルカダール城に行って様子を探ってくるわ。」
マルティナが皆に向かって話す。
「ウルノーガとの決戦でグレイグとホメロスの二人が私たちに敵対するとしたら脅威よ。二人はお父様が変心した後も変わらない忠義を尽くしているから、彼らもウルノーガに操られているか、ウルノーガが化けている可能性がある…だからイレブン、八咫鏡を私に貸してくれないかしら?誰が黒幕か見極めないと。」
「それはいいけれど、マルティナ、一人で大丈夫?」
「大丈夫よ、イレブン。私はデルカダール王の娘ですもの。万が一捕らえられたとしても酷い目に遭うことはないと思うわ。けれどもしも…私が明日の夜になっても帰って来なかったら、ある人物を頼ってほしいの。」
「それは誰?」
「数年前にデルカダールにやってきて、少ない元手で商売を始め、あっという間に大商人にのし上がった、城下町の城前広場で店を構えるデクという者よ。」
「すげえな。」
カミュが感嘆して言う。
「いろいろ贔屓にしていたから、私の頼みだと言えば城に潜入する手立てを考えてくれるはず。…まあ最悪、兵士に賄賂を握らせるくらいのことはできるわ。」
「わかった。」
「それでみんなが待機する場所だけれど・・・私も下層はよく知らないの。行ってみて決めましょ?」
皆が頷き、木の登り板を上って行った。そしてデルカダール城下町の下層に入り緩く湾曲した通りを東へと歩いて行くと、三又の形に二階部分が通りに張り出した特徴的な建物を見つけた。近づいてみて、そこが下宿であることがわかった。
「ここにしましょう。」
「…まあ、ギリギリ合格点ね。」
マルティナの提案にベロニカが腰に手を当てて頷く。
「ところで姫よ。どうやって城に潜入するつもりじゃ?」
「潜入?いえ、正面から堂々と入ります。」
「まあっ!?」
セーニャを始め、皆がどよめく。
「私だけなら、『心変わりした』とでも何とでも言って城に帰ってきたフリをすればいいだけよ。」
片手を腰に当て、長い黒髪のポニーテールを手の甲で掃う。
「はあ~~、キモ座ってんな、姫さん。」
「カッコいいわあ~~、マルティナちゃん!」
「ふふ、それじゃ、行ってくるわね。」
マヤとシルビアが感心して自分を見つめるのに微笑むと、マルティナはイレブンに八咫鏡を借りてデルカダール城へと向かった。
*
「ひ、姫様!?」
兵士からマルティナ姫の帰還を聞き、グレイグ将軍は大慌てで城のホールへと駆け付けた。
「久しぶりね、グレイグ。ミルレアンの森で見かけて以来だわ。」
「何故お戻りに…」
「自分が愚かだったと気づいた…それだけのことよ。あなたの方は『やるべきこと』は済んだのかしら?」
グレイグ将軍は耐えるように下唇を噛んで俯いた。
「はい…あれからいろいろ調べ、兵士たちや他国、街人からの証言も得て、ホメロスを…投獄しました。」
「ホメロスを?」
「ホメロスは…裏で魔物と通じていたのです。氷の魔女の封印を解いたのも奴でした。王はひどく立腹されて、その場で切り捨てようとしましたが、私がお止めしました。まさか問答無用で斬ろうとするとは…」
グレイグは瞑目してかぶりを振った。
「それでホメロスは今…」
「あ奴は今、最下層の地下牢獄におります。」
「ホメロスに会えるかしら?」
「面会は可能ですが、それよりもまずは王に目通りされるのがよろしいかと…」
「いいえ、ホメロスに会うのが先よ。グレイグ、あなたもついてきてちょうだい。」
マルティナは有無を言わせず歩き出した。
ホメロスは、かつてイレブンが投獄された牢にいた。
「久しぶりね、ホメロス。ダーハルーネで会って以来だわ。」
「マルティナ姫……なぜここに?」
暗い牢の奥から幽鬼のように立ち上がり、ホメロスが格子の近くにやってきた。
「そんなことより、あなたに確かめたいことがあるの。」
マルティナは荷袋から八咫鏡を取り出し、ホメロスに向けた。鏡が眩い光を放つ。だが光が収まってもホメロスの姿に変化はなかった。
「違う…」
マルティナは呟いた。
「あなたはウルノーガではない。操られているわけでも…」
――なのに何故、ホメロスは数々の企みを?…まさか。
「ウルノーガ?」
グレイグ将軍が訊き返す。
「後で説明するわ。…ホメロス、あなたはウルノーガに仕えているのかしら?」
だがホメロスは眉を顰めて俯き、頑なに口を閉ざしてしまった。
「……わかったわ。これで確信が持てた。」
マルティナは鏡を仕舞い立ち去りかけたが、今一度ホメロスを振り返った。
「ホメロス、あなたはイシの村の襲撃も、ダーハルーネでイレブンを庇おうとした私にドルマを撃つのも思い止まってくれた。私はあなたがやり直せると信じている。……すべてが終わったら、また来ます。行くわよ、グレイグ。」
マルティナはそう言うと踵を返し、地下牢獄を後にした。
「ここなら誰も来ないわ。」
マルティナは城の一階にあるホメロスの私室に入り、ドアを閉めグレイグ将軍に向き直った。
「念のため、あなたも確かめさせてちょうだい。」
荷袋から再び八咫鏡を取り出し、グレイグ将軍に向ける。だが眩い光が収まっても彼に変化はなかった。
「やはり黒幕はお父様のようね。」
マルティナは溜息を吐くと、亡国ユグノアの先王ロウから聞いたウルノーガという魔物についてグレイグ将軍に話した。
「……あなたやホメロスがお父様を操っているのでなければ、きっとウルノーガがお父様に化けているのよ。」
「まさかそんなことが…」
「この八咫鏡なら本性を暴くことができるわ。それでグレイグ、あなたにも協力してほしいの。」
「はい、何なりと。」
「実は…」
マルティナは計画をグレイグ将軍に話した。
*
そして翌日。
「王よ。我が部隊に新しく入隊する者たち…と、その家族です。どうぞお見知りおきを…」
玉座の間でデルカダール王を前にしてグレイグ将軍が恭しく頭を垂れる。彼の後ろには4人のフルアーマーのデルカダール兵と若い二人の女性、旅装束の老人、赤い帽子の幼女が控えていた。
「グレイグよ。入隊する兵士はともかく、兵士の家族まで紹介は不要ぞ。」
王が笑ったそのとき。老人が荷から円形の鏡を取り出し、王へと掲げた。
「!?」
鏡が発する光のあまりの眩しさに王は思わず腕を翳したが――
「ぐぁっ!?」
王の身体が歪な動きをし、暗紫色のオーラが噴き出すとともに、王座の前にツノの生えた土気色の肌の、巨大な杖を持つ大柄なローブを纏った男が現れた。
「とうとう正体を現したわね!」
デルカダール兵の一人がフルヘルメットを脱ぎ捨て、素顔を現したマルティナが鋭く叫ぶ。
「マルティナ……ククク……ハハハハ……!我は魔導士ウルノーガ……16年前にユグノア王国を滅ぼし、デルカダール王に成り代わった者……」
「貴様が魔導士ウルノーガ……こうして会える時を16年もの間、待ちわびたぞ!」
「ウルノーガ……貴様……!今までずっと王に取り憑いて私をたばかってきたというのか!」
ロウとグレイグが叫び、他の3人のデルカダール兵も次々とフルヘルメットを取り、イレブン始め勇者一行が姿を現した。
「お前たちだったのか…正体がばれた今、もう逃げも隠れもせん!勇者よ、今ここで貴様の力を奪ってくれるわ!」
ウルノーガが邪悪な笑みを浮かべて杖を一振りすると、紫色の靄が玉座の間に満ちた。イレブン・カミュ・マルティナ・シルビアがロウ・セーニャ・ベロニカ・マヤを後方に庇うようにバトルフィールドの前へと進み出て、その端にグレイグが並ぶ。
戦闘が開始された直後イレブンはゾーンに入った。プラチナブレードを振り翳しウルノーガに全身全霊斬りを放つ。ウルノーガは一瞬よろめいたもののすぐに立ち直り、不気味な呪文を唱え杖を高く掲げた。魔導士の左右に杖が一体ずつ現れる。ウルノーガは続けざまにドルモーアを唱えた。
「ぐっ!」
カミュは闇の呪文を受けて呻いたが、痛みに耐えながらジバリカを唱えウルノーガの足元に仕掛けた。ベロニカは後方から勇者にバイキルトを唱え、セーニャはカミュにベホイムを唱える。
「これでも喰らえ!」
マヤがブーメランを投げ、ロウがドルマを放つ。そしてグレイグが両手剣でウルノーガに斬りかかった直後、左右の杖の一つはベギラマを、一つは二度のメラミを放った。前列のメンバーが魔力の火に焼かれ、呻く。そしてウルノーガが消えたと思うと次の瞬間には勇者の前に現れ、杖を振り下ろすと凄まじい衝撃がイレブンを襲った。更にウルノーガが唱えたドルクマがグレイグを襲う。
「うおおおお!」
イレブンは先ほどの攻撃で大ダメージを受けたにも関わらず再び全身全霊斬りを放った。
「イレブン様!」
セーニャがすかさずベホイムで勇者を癒す。ここでグレイグは皆の前に仁王立ちして、全ての攻撃を一身に受け始めた。
暫く激しい攻防が続いたが、戦闘の最中、ウルノーガが冥界の霧で辺りを包み込んだ。カミュのかけたジバリカもそのとき消滅した。
「回復と復活の効果が反転するわ!みんな気を付けて!」
ベロニカが叫んだとき、ウルノーガが瞬間移動してカミュを杖で攻撃したが、グレイグに阻まれてしまう。その後はダメージを回復できないまま、体力が尽きる前にと、イレブンの全身全霊斬り、マルティナのタイガークロー、カミュの名刀斬鉄丸、シルビアのはやぶさの剣、グレイグの大剣、マヤのブーメラン、ロウは装備し直した鉄の爪で、ベロニカのイオラ、セーニャのバギマで攻勢をかける。
勇者たちの猛攻の中、ウルノーガがメダパニーマを唱えたが誰にも効かなかった。次いでマホステを唱え、ウルノーガの身体を紫の霧が包み込む。それを見て攻撃魔法が効かなくなったことを悟ったベロニカはメンバーにバイキルトを、セーニャはスクルトをかけることに専念した。
ウルノーガのマホステが解ける頃、勇者のゾーンも切れた。再びメダパニーマが一行を襲う。イレブンが混乱し、続けざまに凍てつく波動が皆の良い効果を消し去った。
「なんでやねん!」
シルビアがすぐにイレブンをツッコミで正気に戻し、皆が総攻撃をかけ続ける中、左右の杖が破壊された。ウルノーガが再び不気味な呪文を唱え杖を高く掲げて左右に杖を召喚したが、マルティナのタイガークローが立て続けに会心の二撃を決め、ついにウルノーガは倒れた。
「……ぐふっ!」
ウルノーガは苦悶の表情で渦巻く暗紫色の靄に呑み込まれ、消え去った。後には玉座で気を失っているデルカダール王が残されていた。ウルノーガが倒れるとともに冥界の霧も消えたことで、セーニャとロウが傷つき疲れ果てた仲間を癒す。
「う、うぅ……」
傷を癒してもらうのもそこそこに、デルカダール王の呻きにマルティナが駆け寄った。
「お父様……お父様っ!どうか目を開けて下さい……!」
「う、うぅ……マルティナ?そなた、マルティナなのか……?随分長い間、夢を見ていたようだ……ユグノア王国が魔物に襲われてから儂は一体何を……?」
「お父様……!あまりしゃべってはいけません。ひとまず身体を休めましょう。私はお父様の容態を看ることにするわ。イレブン、みんな、今日はお城に泊まっていって。明日になったらまたこの玉座の間まで来てちょうだい。」
デルカダール王はマルティナに支えられながら玉座の間を出て行った。
*
デルカダール王が魔物に取り憑かれていたことはたちどころに城中に広まった。本物の王はすぐさま介抱され……イレブンたちは王の目覚めを待ちながら一晩休むことにした。そしてその夜……
「俺たち、とうとうやったんだな。」
マルティナが用意してくれたデルカダール城の貴賓室。燭台がささやかな光を室内に投げかける中、イレブンとカミュは手を繋いでベッドヘッドに並んで座っていた。今日ついに、イレブンの故国と父母の仇を討った。
「……うん。結局、“魔王”はウルノーガのことだったのかな。それなら僕たちの旅も、もう終わりだね。」
「何か……長いようであっという間だったな。」
「グロッタで君と出会って……今、こうして一緒にいるのが、正しい鍵で扉を開けたときのようにしっくりくる。」
「ふはっ、何だよその例え!」
イレブンの言葉にカミュが噴き出す。少しの間、肩を震わせて笑っていたが、笑いが収まるとぽつりと言った。
「何だか怖ぇな……」
「え?何が?」
「お前とこうしているのが幸せ過ぎて……怖くなるんだ。もしも…お前が俺の前からいなくなったら、って思うと、不安でたまらなくなる。何か…その、勇者であるが故に?勇者にしか果たせない何かを成すために何処かへ行ってしまうかも、なんて……はは、何言ってんだろうな?俺。」
イレブンが息を呑む。初めて恋して初めて愛した人が、自分をこんなにも想ってくれていることに、嬉しさでどうにかなりそうだった。イレブンはカミュの顔を覗き込み、繋いでいない方の手で彼の顎を そっと捉え、自分の方を向かせた。
「愛しい人。邪悪な魔導士は倒れて、すべては終わったんだ。僕が君の許を去らなければならなくなるようなことは何も起こらないよ。」
「はは、そうだよな。」
「ふふ。」
暫しの静寂。
「……ねえ、カミュ。その……いい?」
清潔で安全な部屋に恋人と二人きりで、尚且つ恋人からそんなことを言われて、イレブンはもう自分を抑えられそうになかった。
「……ああ。」
「その、最後、まで?」
結局のところ、まだ最後までしたことはなかった。大所帯での旅であることと、一日が終わる頃にはクタクタで、次の日に備えて休まねばならなかったから。
「いいぜ。けどお前、その…やり方、わかるのか…?」
「うん。マルティナがメダ女で・・・あとロウも、エッチな本を手に入れて僕にくれたんだ。『参考にしなさい。』って。」
「な…」
驚き顔を赤くするカミュに、イレブンは笑ってキスをした。
「カミュ、綺麗…」
「あ…あんま、見んなよ。」
二人は衣服を脱いで生まれたままの姿でベッドの上で向かい合った。イレブンの視線に居たたまれず、カミュは頬を染めてさり気なく腕で身体を隠そうとするが…イレブンはくすくす笑いながらカミュを押し倒した。
「ん……」
重ねられる唇。目を閉じて互いの唇を食む中で青髪の恋人が誘うように艶やかな唇を開いたので、イレブンはすぐにその隙間から侵入した。
「ん…ん…」
互いの髪や身体を撫でながら、夢中で舌を絡める、甘美なキス。息苦しくなって漸く顔を離すと、カミュがイレブンの頬に触れ、潤んだ蒼瞳で見つめた。
「愛してる。」
「僕も。」
イレブンはカミュの身体中にキスをすると、彼を横向きに後ろから抱き締めた。上側にある手で脇から腰骨をなぞった後、兆し始めた彼自身を優しく掴む。
「あ…」
カミュが震え、身を竦ませた。
「怖がらないで。僕に全部、委ねて?」
イレブンはカミュの耳元で愛の言葉を囁きながら、彼自身を巧みに扱き、高めていった。そして――
「あ…ああ!」
短い悲鳴とともにカミュはイレブンの手の中で達した。
「はっ…ぁ…」
「気持ち良かった?…ちょっと待ってね、手を拭くから…」
イレブンは起き上がり、ナイトテーブルの引き出しにあったタオルで手を拭った。
「俺も…お前の、してやるよ。」
「え…あ…」
カミュはイレブンの脚の間に蹲り、とっくに勃ち上がっていた彼自身を口に含んだ。舌を這わせ、片手で幹を掴み扱く。イレブンがカミュの撥ねた青髪を優しく梳いた。上手くはなかったが、愛しい相手の口と手というだけでイレブンには充分だった。やがて。
「う…っ…出、る、カミュっ…!」
イレブンが思わずカミュの髪を引いて合図した。カミュが素早く起き上がると一拍遅れてイレブンのものが弾け、カミュの胸元に白濁が散った。
「は…はは…、ちゃんとイかせることができてよかったぜ…」
カミュが安堵の溜息を吐き、同じようにタオルで身体に付着したものを拭った。
「う…わっ、ぅ……」
カミュが拭き終わるか終わらないうちにイレブンが勢いよくカミュを押し倒し唇を奪う。
「……次に進んでいい?」
顔を上げたイレブンが熱っぽい碧瞳で尋ねた。
「お、まえ、いつの間にこんなっ……あっ、あ…ん!」
イレブンに激しく突かれながら、カミュが途切れ途切れに言った。
「……はっ、初めて、…だ、ろ!?」
「そうだけど、きっと僕たち身体の相性がいいんだよ。」
イレブンが事も無げに答え、にっこりと笑う。
「んなっ…あ…っ…」
イレブンがぽつりとささやかな影を成す胸の粒を弄ると、カミュはそれから逃れようと身を捩り、シーツに足を滑らせた。そして。
「あっ……ん!」
性器を掴み扱きながら先端を弄ると、カミュが仰け反り髪を振り乱す。
「カミュ…」
イレブンは愛し気に自身の下で乱れる青髪の恋人を見つめた。
――君を何も考えられなくなるくらい快楽で溶かしたい。
「も…イ…レブ…ン!あ…あ!」
カミュの中を激しく穿ち、至る所を愛撫して、何度も口づける。
――もう、僕を失うかもしれないなんて不安に囚われることのないように。
「カミュ……!」
――僕の愛を信じて僕だけを見るまで。
*
旅は終わらなかった。
翌日、デルカダール王に謁見した勇者一行は、王に請われて突然墜ち始めた勇者の星の調査へと出向き、禍々しい気配を放つものを確認する。
「……あれが勇者の星なのかしら?このまま放ってはおけないけど、空の上にあるんじゃどうしようもないわ。」
「お姉様、長老様に訊けば何かわかるかもしれませんわ。」
「そうね。」
ベロニカが皆を振り返る。
「あたしたちの故郷、ラムダの長老に訊いてみましょ?ユグノアで視た祭壇のあった場所は命の大樹の真下……おそらく始祖の森のことだわ。ラムダは通り路よ。」
「レッドオーブも手に入れましたし、これで命の大樹へ向かえますわ。」
姉妹の言葉に皆が頷き、イレブンが仲間を見回した。
「行こう、命の大樹へ。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。