※この作品はR-18です。

真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜   作:葉隠小太郎

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【依頼】怪死した動物達の死の真相を暴け〜前編〜

 

 

動物愛護法が設立以来、動物保護を念頭に入れる団体の数と捨てられる犬猫を中心とする動物の数が合わないケースが多々存在する。

 

グレーゾーンスレスレに存在していたペットショップや人気の血統種を繁殖させる繁殖工場(パピーミル)が逃走を図るために人出のない山中へ捨て、餓死させた話は珍しくない。

 

八神と海藤も荒川の河川敷にフラフラと迷い犬や様々な病気のリスクを持った猫等を保護する手伝いを行っていた経験があり、その闇についても熟知している。

 

また、半グレ等が関わっているケースが多く、団体へ圧力を掛けてきた者達を後悔させた経緯があるため、その団体から信頼されていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日 神室町 KJアート前

 

 

「まさかまた此処に来るとは思わなかったぜ…」

「何かあったんですか?」

「あ…まぁね…」

 

神室町一丁目、千両通りを横に入ったビルディング。

 

かつて両眼をえぐられた死体が神室町で発見される事件があった際、被害者全員が所属していた極道組織【関西共礼会】の活動拠点であった。

 

拠点というだけあり何十人も組員が出入りをしていたものの、被害者の1人である若頭の死以降は撤退したらしい事を風の噂で聞いたことを思い出し、今は動物保護団体が使用している。

 

「多分事故物件扱いで安くなったんじゃねぇの?」

「確かに。潜入した時から変わってなきゃ部屋は多いし、大部屋とかも譲渡会に使えるだろうね」

 

事情をよく知る2人からすれば、元ヤクザの事務所とそのヤクザが揃って殺人事件の被害者となれば、如何に歓楽街の一等地でも借りようとは思わないだろう。

 

「八神さん。このまま此処に居ても仕方がないので行きませんか?」

「ああ、そうだね」

 

ティーの一言で八神、海藤両人はビルの中へと入ることとする。

 

 

 

前の内装を知っている2人からすれば、動物保護を謳う団体の施設がそのままということは無い事は承知であるが。

 

「変わり過ぎ…だな…」

「ああ…」

 

玄関から出迎えられたのはポップに彩られた空間。

 

無香料の消臭剤や減菌マット、自動噴射機能のアルコールスプレーといった設備や受付等に置かれた譲渡会情報のカレンダーとデフォルメされた動物達のぬいぐるみ。

 

子供が遊ぶ用の積み木や滑り台等のプレイルームも完備されている所から、家族向けにも考慮されていた。

 

「お久しぶりです。八神さん、海藤さん」

「あっ、お久しぶりです」

 

受付に座っていた壮年の女性、この団体【クオリティライフ】の運営しているリーダー〔凪乃〕氏から出迎えられ、3人は頭を下げる。

 

「お久しぶりです凪乃さん」

「相変わらず逞しい姿で何よりですよ海藤さん」

「いえいえ」

 

壮年とはいえ、見た目からすればもっと若く見える。

 

ティーは初見でそう感じた。

 

「あら?初めての方ですね?」

「はい。昨日付けで八神探偵事務所に入りました、ティー・サリヴァンウォーカーです。宜しくお願いします」

「可愛いお嬢さんね。八神さんの所に紅一点の方が来るなんて思わなかったわ〜」

「凪乃さん…」

 

恐らく其れは所長自身も感じている事と思われる。

男所帯でかつ、2人で回している八神探偵事務所に就職する行為自体今まで想像がつくとは思わないだろう。

 

「さぁ、皆さん此方の方へ。応接室にどうぞ」

「では失礼します」

 

立ち話はそこそこに、凪乃は3人を案内する為エレベーターへ乗り込み、五階のボタンを押す。

 

以前の記憶から、共礼会の若頭補佐の〔村瀬〕が居た部屋を思い出す。

暗証番号が必要な部屋ばかりで大丈夫なのかと一瞬考えた八神だが、そもそも保護を目的とした団体であり、一部血統種を保護していたならば窃盗も辞さない連中も現れる可能性も示唆される。

 

そんな意味でも厳重なセキュリティだったあの頃のまま使用してもおかしくは無い。

 

「前の使ってた人達はよくエレベーター故障のままにしてたわねぇ…。お陰で直すのにも余計お金がかかってちょっと失敗したと思ってたのよ」

「あ〜。確かにエレベーター故障したままでしたねぇ…。倉庫に物入れてたけどどうしてたんだ?って思いましたよ」

「あら?来たことあったの?」

「まぁ、以前に」

 

流石に暗証番号そのままではないことは考えつつ、五階に到着。

相変わらず極道組織の事務所感はまだ残っているものの、ぬいぐるみやポップアート。

 

「うおっ…!?びっくりした…」

 

いつの間にか足元に擦り寄って来ている猫に犬が複数出迎えられる。

 

「御心配は要りません。この子達は人懐っこいですし訓練も施してあります」

「此処で慣らしつつ…里親にって所ですか?」

「ええ。社会性を身に着けてくれれば自ずと里親家族と上手く付き合ってくれるのである程度は自由にしてあげています」

「成る程…」

 

廊下の至る場所に爪とぎ用の段ボールの束や砂の入ったトイレ、キャットタワー等の設備が置かれている辺り、相当自由な空間になっている。

 

「二階や三階は保護直後で栄養失調だったり病気だったりする子を治療しています。提携している動物病院のスタッフが週に2回往診に来てくれるのでその際に去勢避妊を含めた手術も予定として立てて貰います」

「ほぉ…、中々大変だなぁ…」

「いえいえ。これも自分がやりたいことですから」

 

愛し愛されている。

この光景を見る度に八神はそう考えた。

 

「一つ良いですか?」

「はい。何でしょう?」

 

その中でティーが問いかける。

 

「夜の就寝時間ではケージに入れるのですか?」

「ええ。ウチで雇っている警備の人と夜担当のスタッフで一旦四階の部屋に入れますよ?」

「朝は何時に?」

「7時頃です。基本的に朝昼晩のスケジュールで組むことが日課ですから…」

「………分かりました」

 

気になった部分があったのだろうか?

少しばかり細かい部分を聞き込むティーに感心するべきか、少しばかり疑い深いのでは?と思うべきか、まだ距離感が掴めない事に八神は小さなささくれめいた部分を感じる。

 

そんな少々の不安を覚えつつ、応接室へと入った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「初めまして。わたくしが別の地区で保護活動を行っている【アニマルライフ】の〔原口〕と言います」

「彼女とは十数年のお付き合いをしてまして、同じ様に大変な現場をやり繰りしてきた仲間ですわ」

 

先に応接室に待っていた女性、〔原口〕は言うでみれば病的な線の細さを持っている。

 

骨ばった手足、目元に隈、頬骨が浮き出た顔。

 

まるでハロウィンの仮装行列に居る骸骨と思い起こされる。

 

これらから察される動物保護の大変さが垣間見えた気がしながら、凪乃から促されるように用意されたソファーに座っていく。

 

「失礼します」

 

長めのソファーに八神、海藤、ティーの順に座る。

 

(……ん?)

 

何の気無しにソファーの端から糸屑のほつれが見える。

合成繊維で覆った安い素材のソファーをリサイクルショップで買ったのだろうか?

懐事情を考えれば珍しくもなく、余計な所に使わない紐の締め具合が見て取れた。

 

「どうぞ」

「ありがとう御座います」

 

早速、木製のソーサーに載せた湯呑へ茶が注がれ、提供されると、海藤が真っ先に飲み始める。

 

「…では原口さん。本件の方について、お話頂けますか?」

「………はい」

 

数秒の間を置き、原口が口を開いていく。

 

 

 

事の発端は2ヶ月前。

 

自身で経営している保護猫カフェの営業時間が終わりに差し迫った頃、奇妙な男が現れた。

 

『………ね…猫…。さ…さと…親…に…なれますか?』

『はっ?え…えっっ…と…』

 

目深く被った黒のフード付きパーカー。

若いと言えば若く見えるも、詳しい年齢は見える部分だけでは情報が足らず、ハッキリとは言えなかった。

 

『こ…ここなら…審査も…すす…少ないっ…て…聞い…た…ので…』

『あの…里親募集の登録は当店では行っておりません。当団体に所属している原口の名刺をお渡ししますので、そちらで聞いてもらえますでしょうか?』

『…………』

 

ただ、猫の引き取りが口頭程度では出来ない事を知ったのか、明らかに苛立ちと憤りを隠さない態度を示し、当時の店員も不自然に感じた。

 

『あの、大丈夫ですか?』

『…!?……や…やめ…ます…!!』

『あっ!ちょっと!?』

 

明らかに怪しい素振りを見せた事で追求しようとするも、警察沙汰になることを恐れてか、そさくさと店から逃げ出した。

 

流石に追いかける気にはなれず、店員も猫達の世話もあって直ぐに店を閉めて終わりとなった。

 

筈だった。

 

 

 

その3日後。

 

保護を迅速に行う為に幾つかの場所でキャットフードを置いて人慣れをさせる。

場合によっては治療必須の猫を保護するためにも捕獲用のカゴを使っていたが。

 

設置されていたカゴが壊(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 

 

「カゴ?あの長いステンレスのやつか?」

「ええ。猫エイズや寄生虫等で媒介しないように中から外には出られない物を使っていましたが…」

「其れが壊されてた」

 

海藤が今まで見かけていた捕獲用のカゴを想像する。

 

殆どの場合、去勢避妊をするために使うものであるが、猫間で媒介するサナダムシや猫エイズ等とてんかんや栄養失調の猫を捕まえて療養する施設に運ぶにも使われている。

 

そのカゴを誰かが壊した。

 

重い口調そのままに原口は続けていく。

 

 

 

万が一に備えて置いておいた赤外線カメラで撮影時期を探ってみる。

 

団体内に撮影した画像や動画を編集するスタッフの下、起こったらしい時刻まで早送りで見ていくと。

 

『……人影?』

 

仕掛けた場所は壁状に植え込みをした下部分。

人間は殆ど気付くことはなく、猫やその他小動物が通る程度の隙間であるため、此処におやつを入れて待っていた。

 

其れを何かでこじ開け、麻袋らしいものに詰め込む一部始終が撮影し続けられる。

 

警戒心の強い猫にバレぬよう隠していたものの、その知識が無いかのようにそのまま袋と道具のみを持ってその場から立ち去る。

 

明らかに器物破損で訴えられるのでは?

 

そう思ったものの、民事不介入の警察に相談もしにくく、そもそも猫を捕まえたかも判別しないままでは立証も難しい。

 

しかしそれから直ぐに刑事事件へ発展した。

 

『……えっ?』

 

カフェ敷地内に何かが投げ込まれた。

 

コンビニのレジ袋と思われるその袋に何かが入っており、其れをゴミ拾い用のトングで恐る恐る中を見たところ。

 

『…はっ?………ヒ…ヒィッ!?』

 

既に事切れて血だらけとなった猫の死体が入っていた。

 

 

 

「其処から数日ごとに担当区域へ地域猫の死体が投げ込まれているのです…」

 

あまりにも残酷な行為を目の当たりにした原口はその光景を思い出し、肩を震わせる。

 

これには屈強な海藤も顔を青ざめさせ、持っていた湯呑を傾けること無く、元のソーサーへと戻す。

 

「……殺害方法は?」

 

その中でも、顔色一つ変えずにただ無表情を続けるティーは聞きづらいであろう原因を問いかける。

 

一瞬止めることも考えた八神であるが、彼女の質問は後回しには出来るもので無く、むしろ聞いてくれたことに感謝しかけ、奥歯を噛みしめる。

 

「…頸動脈をスッパリと。カッター等の鋭利な刃物で行ったみたいです」

「つまり、睡眠導入剤や麻酔を行って眠らせた後に?」

「恐らく…。暴れ回った様子は無かったですね…」

 

幸か不幸か。

少なくとも痛みにのたうち回る事はなかった可能性も考えるが、加害者は引っ掻かれたり噛まれたりする前に眠らせた方が手っ取り早いと想定。

 

其処に慈悲の心など無いと直ぐに判断する。

 

「……六匹です。これだけ被害が出ているのに…警察は全く動いてくれません!!」

 

原口の声が部屋中に響き渡る。

 

悲しみと怒りの感情が折り混ざった其れは、無償の愛を捧げる存在を無惨に殺された事と、自身を含めた職員や協力者達への恐怖という名の悪意によるもの。

 

「捜査中と門前払いをされた挙げ句、都から休止通知まで出されました…!防犯カメラ映像も提供したのに…!」

「落ち着いて原口さん…」

 

身体を強張らせ、テーブルへと手を叩きつける原口へ凪乃が肩を抑える。

 

これ以上自分を責めたとしても解決するわけで無い。

 

八神はこの状況を打開するべく、重い口を開いた。

 

「…原口さん。今回の件…俺等に任せて下さい」

「…八神さん…」

 

静かに、説得力を込めた言葉を彼女へ向ける。

 

そうして落ち着きを取り戻し、原口の顔も幾分か良くなったようにも見えた。

 

「…宜しくお願いします」

「はい。八神探偵事務所は、依頼者に寄り添い、最善を尽くす事をモットーとしています」

 

力強く、任せられる様に背筋を伸ばし、その姿を見せる。

 

信頼を掴む立ち振る舞いに、原口は頷き、今自分が知っていることを話していく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

原口からの情報を元に、担当区域である町へと車を走らせる。

 

「…しっかし…。犯人はその怪しいフードの男じゃねぇのか?一応目撃したんだろ?」

「って、思ったけど…其れが目深く被っててよく見えなかったみたいだって話だろ?そもそも提供された防犯カメラ映像とかその定点カメラ?の映像でも顔は全然映ってなかったし…」

「チクショウ!そこら辺は上手く隠せたってことかよ」

 

かつての舎弟〔東徹〕から借りたワンボックスカーを海藤が運転し、助手席の八神がスマートフォンの地図アプリで目的地の案内を行う。

手掛かりの一つもない中で悪態をつく海藤はドリンクホルダーに入っているニコチンガムを口にし、苛立ちを隠さずに噛み始める。

 

「………映像と周りの物の配置から察するに身長は173cm程度の痩せ型。ステンレス製の捕獲カゴを破壊した際には厚手の手袋かゴム手袋を着用していたため指紋は採取出来ず、特定可能な遺留品も見つかっていないみたいですね…」

「映る事は仕方がないから出来る限り特定させない方針にしたのか?」

「ですがおかしいです」

「おかしい?」

 

車内の中腹部であるソファーに座るティーは自前のタブレットを操作し、映っている映像を八神に見せる。

 

「少なくとも3方向。どれかは確実に捉えられる筈の配置でもどれも特定可能な映像は撮れていません」

「……ってことは?」

「まだ結論を出すのは早いということです」

 

立て続けに起こった猫の惨殺死体遺棄事件を終わらせるべく投入したカメラ複数台でも捉えられない事に疑問を浮かべる。

 

言うであれば、まるで煙(・)に(・)巻(・)く(・)行為そのものであり、人の業(ワザ)とは到底考えられない。

 

「顔の見えない殺猫鬼か…」

「このままエスカレートすれば人にも見境なく行うと考えられます。海外のシリアルキラーは動物虐待が初期行動の一つと考えていますから」

「……存外に深刻な依頼になっちまったな」

 

殺人犯が動機について供述していた事を思い出すと海藤の顔も苦虫を噛み潰したように歪ませる。

 

「で、どうする?聞き込みでもするか?」

「其れは荒方してるだろうし…俺達にしか出来ない方法を取ろう」

「俺達…しかねぇ…」

 

八神の捜査方針から一つの方法を思い出す。

 

そうとくればと言わんばかりに車線を変更、右側の道へ曲がっていく。

 

一時間程走らせた後、到着したのは。

 

「………空き家?」

 

ブロック塀に囲まれた、平屋建ての小さな造りの家。

 

猫の額ほどの庭は家庭菜園をしたであろう、錆びついた棒と金具はそのまま放置され、廊下には経年劣化で割れかかったガラス窓がチラホラと見える。

 

完全なる空き家物件。

 

昨今の日本で問題となっている所有者不明の宙づり物件であり、未婚で誰か譲渡する前に亡くなる場合や、買ったは良いものの、後々になって忘れ去られた場合等、理由は多くあれど殆どが高齢化による物が多い。

 

そんな空き家の中を八神はコソコソと周りを見つつ、細いピンを2本取り出し、引き戸式の玄関を開け始める。

 

「………よし、開いた」

「良いんですかね?」

「そう何日も居ねぇしここら辺は昼間の方が人っ子一人いないから」

「成る程」

 

入ること自体が犯罪では?と思われるが、家屋を壊すような事でないことと、その是非を問う暇が無い。

 

本来土足厳禁であるが、今は其れを咎める者は居らず、足場を確認しながらかつての居間と思われる部屋へ足を踏み入れ、周りの窓などを確認する。

 

家の中央に位置する部屋は外から中を見る事は難しく、覗き見をしようとなれば此方側が見つけることが出来る。

 

「さて、茶子嬢が此処に来た理由を知りたがってると思って俺から説明してやる」

 

多分知らないだろ?

と言わんばかりに、海藤が近くにあった座布団を一枚引き寄せ、それに座り、八神も同じく隣にある座布団へ座る。

 

「此処、実は俺が前に居た事務所の置き土産みたいな物でさ。何ていうか…」

「【松金組】の地上げした不動産で、金にならなかったから若衆以下の組員の住まいだった場所だよ」

「ちょっ…オイ!?ター坊!!」

「では何故鍵をピッキングで?合鍵などは?」

「新しいの作る前に解散しちゃってさ。何にもないけど防犯上の問題もあって仕方がなく…」

 

松金組。

海藤がかつて所属していた極道組織で、3年前に組長が死亡。

親組織の東城会が解散の前に自然消滅してしまった為に、所持していた塩漬け物件が複数宙づり状態に変わってしまった。

 

故に権利上の問題から鍵を替えることも難しく、出来る限り怪しまれずにピッキングで開けることしか方法が無い。

 

「一応掃除と換気は完璧に出来ているし、土足なのには理由があってな?」

「理由…ですか」

 

空き家にしては小綺麗にされている。

 

そう一瞥して分かる情報に加え、もう一つの理由を海藤が話す。

 

「右左折何回かしてたんだが…尾行(つ)けられてた」

「…其れは本当ですか?」

「ああ。左折一回右折一回してみたら取っ付いて来ててた」

「車種は軽自動車。4人乗りで見た限りKJアートからだな」

「つまり…、例の殺猫鬼?」

「さて…。其れは聞いてみてだな」

 

2人が同時に立ち上がる。

 

会話の内容からティーも察し、それぞれ違う柱の陰に隠れ始めた。

 

息を潜めて数分。

 

静かにだが、玄関の引き戸が開かれる。

 

ドタドタと足音が響き、部屋の渡り廊下から現れたのは何処かで見た容貌の男達が4人。

 

一人の手には拳銃らしき物が握られ、辺りを見回して探りを入れては口を開く。

 

「何処へ行きやがった…!!」

「車は停められてたから間違いありません」

「探せば見つかりますよ」

 

残りの3人も木刀を所持しており、如何にも物々しい雰囲気を見せている中で。

 

「よう!」

「はっ?」

 

海藤が真っ先に飛び出し、拳銃を持った男の顔面へ飛び蹴りを放つ。

 

「ぐぎゃっ…!?」

 

見事に靴底を見せつける様に鼻の頭を潰し、その勢いのまま渡り廊下の窓ガラスをぶち破って外へ突き飛ばされた。

 

「あ、あに…「余所見は止めとけ?」へっ?がぁっ!?」

 

何が起こったのかを理解せぬまま八神のアッパーカットが一人顎にクリーンヒットし、脳を揺らされるまま後ろへと倒れる。

 

「てっめ…「はっ…!」ぎゃっ!?」

 

木刀を振ろうと利き手に変える最中、ティーの正拳突きが肝臓付近にクリーンヒットし、悲鳴を上げるままに泡を吹いて気絶するのだった。

 

「えっ?……えっ?」

 

瞬時に3人が何も出来ずに戦闘不能にされたことで、最早戦意が起こるわけもなく、只々立ち尽くして周りを見ることしか出来なくなる。

 

「さて…おっ?てめぇ等昨日の?」

「ひっ…ヒィィ!!?」

 

見覚えがあった。

 

そう。

この男達は昨晩牛遊宴に脅迫をしに来ていた半グレ集団である。

 

「焼肉屋さんでの迷惑客ですか?」

「はぁ〜?何でここに?」

 

何故?の言葉に男は睨まれ、声にならない声を発しながら左右を見回すしか出来ずに居る。

 

「おい、こっち無視すんな」

「ひぇっ……」

「海藤さん。ガンつけんの止めなって…」

「では私が聞きますか?」

「ヒィィィィ!!?もう蹴って潰さないで!?」

「茶子ちゃん怖がられてる」

 

あまりの恐怖に震え上がる男に聞き込みをかけようとするも、ティーから受けた仕打ちで股間を庇い始めて悲鳴を上げる。

 

これでは埒が明かない。

 

仕方がなく、八神が2人の前に立ち。

 

「ちょっと俺が聞くから待ってて?」

「……了解」

「わーったよ…たくっ」

 

下がらせてから男の前に座る。

 

「…あんたら何しに来たの?俺達もその娘の行方を追ってる身だから訳わからないんだよ」

「…………」

「まぁ話しといたほうが身の為になるし、もうちょい待ってやるよ」

 

落ち着くまで待つことが最善と判断。

八神はティーと海藤に倒れたままの男達を持っていた結束バンドで手首を固定し、口元にガムテープを貼って寝転がせていく。

 

生殺与奪の権利が此方側にあることを見せつけ、口の紐を解かせていくと、覚悟を決めたように歯を鳴らしながら口を開いた。

 

「…あ…アンタ等が…錠(・)前(・)の(・)居(・)た(・)ビ(・)ル(・)か(・)ら(・)出(・)て(・)き(・)た(・)か(・)ら(・)!何か知ってると思って…!!」

「……錠前?……〔錠前サオリ〕ちゃん?」

「そうだ!近くでたむろってた奴らからアニマルライフって動物保護団体に居たって聞いたんだよ!!」

 

4人が来た目的が判明する。

 

錠前サオリ。

牛遊宴の店長から依頼された探し人の名であり、この半グレ達の目的でもある女性。

 

彼女が昼間、何をしていたのか八神は気がついた。

 

「そうか。じゃあ猫殺しとは関係無いんだな?」

「何だよソレ!?俺は言っちゃなんだが実家に猫五匹飼ってて懐いてんだぞ!?」

「へぇ…そうかい」

 

やって来たのは全く関係が無い相手で落胆しつつも、少なくとも別件の糸筋だけは手に入れられた。

 

八神は立ち上がる。

 

「じゃあこうしよう」

「は?」

 

人差し指を半グレの方へ向け。

 

「そっちのいざこざを抜きにするなら探し出してやる。俺等立ち会いの元で解決したらもう彼女に付き纏わない。いいな?」

 

一つの提案を見せた。

 

「………」

 

流石に言い吃るものの、昨晩の状況と今の状況を考えると選択の余地は無く。

 

「…わ…分かった。兄貴にも説得する」

 

心が折れて了承した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、半グレ達を拘束を解いてから見逃し、一旦帰路へつく頃には夕暮れも落ちる時刻となっていた。

 

「結局、捜査の進展は無く…中々掴めませんでしたね」

「徒労に終わるのも探偵業ってやつだ仕方がねぇ」

 

少しばかり急な階段を昇り、第一ビルディングの2階にある八神探偵事務所まで足を運ぶ。

 

昨日の今日では満足な成果は得られない事もあり、致し方ない事を海藤は語る。

 

「さて、ただいまぁ…と?」

 

八神は事務所のドアノブに手を触れた瞬間、鍵が開いている事に気がつく。

 

それに伴い、海藤とティーへ目配しては構える様に促す。

 

突撃のタイミングを右手3本指で見せてからゆっくりと折ってみせ、最後の人差し指が折れた瞬間。

 

勢いよく中へ入った。

 

「……オイオイ、ドッキリ大賞に申し込むつもりは無いぞ?」

「…お…お前っ!?ぐえっ!!」

「……俺の椅子使うなよ…」

 

勢い余って転ぶ海藤。

そして、八神は自身が座る机を悠々と利用する人物を見て苦言を吐く。

 

「良いだろ?態々…"北海道"まで御足労したんだぜ?勘弁してくれよ?」

 

草臥れた顔を見せる中年男性。

ティーは初めて見る人物に顔を若干顰め、口を開く。

 

「どちら様ですか?」

「おっ、八神探偵事務所も可愛い女の子雇う懐が有ったんだな〜?」

 

男は立ち上がり、ゆっくりとティーの前へ歩み寄る。

 

「初めまして、お嬢さん」

 

上着のポケットから手を出し、握手のポーズを取る。

 

「元神室署組織対策課刑事の〔綾部和也〕だ。今は道警交通課の課員ですけどね?」

 

自身の今を皮肉るようにニヒルな笑みを浮かべる。

 

 

 

             to be continued

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