※この作品はR-18です。

真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜   作:葉隠小太郎

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【依頼】怪死した動物達の死の真相を暴け〜中編〜

 

 

???

 

 

コンクリート製の壁に囲まれた空間の中で一つだけの電球が小さく揺れる。

 

湿気と鉄錆の匂いが籠もる中に、1人部屋の中央で両膝を付き、作業を行う。

 

グチャグチャと柔らかい肉の音を鳴らし、引き摺り出しては白い綿を詰めて行く。

 

「…ふんぐるい…むぐるなふ…」

 

両手は真っ赤な鮮血に染まり、爪の間に肉片と千切れた体毛が挟まる。

 

「…いあ…いあ…いあ…いあ…」

 

ボソボソと呟き、声が壁を反響させ、木霊していく。

 

「ふんぐるい…むぐるなふ…いあ…いあ…」

 

続けて繰り返す。

 

「…祖に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

鮮血で描かれた魔法陣へと自分の血を垂らし、言葉を続けて述べていく。

 

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)」

「繰り返すつどに五度」

「ただ、満たされる刻を破却する」

 

電球の光が点滅し、辺りから黒い影が粘度のあるコールタールのようにへばりつき、部屋全体を覆い始める。

 

「―――告げる」

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

「我が師〔■■■■■■〕と父【外なる神】の名に従い…この意、この理に従うならば応えよ」

 

揺れる。

 

現し世に喚ばれるべきではない存在が今、根を張り、大きく示し始める。

 

「誓いを此処に我は常世総ての狂気と成る者、我は常世総ての夢を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」

 

「汝異銀河の言霊を纏う神よ…抑止の輪より破り給え、星辰の守り手よ!!!」

 

言葉を終えた瞬間、強い光が魔法陣から発せられ、大きく花を咲かせるように何かが生まれ始めた。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

其れは此の世のモノではない叫び声。

 

生誕の産声を上げ、その金切り声は人の脳を無理やり震わせては心をビスケットのように割って砕き、自らのエッセンスで捏ねくり直す。

 

危険で恐ろしく、甘美で狂おしい、ファムファタールが目の前でくるくると踊りくねる様子が其処にあった。

 

「さぁ、師の願いを叶える事としよう」

 

顔を上げる。

人の顔とは異なる道化師(ピエロ)を思わせる面を付け、ケタケタと笑うように揺れ動く。

 

それと重なり合う様に現れた人型のナニカは黒い靄を身に覆い、叫びを上げる。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

綾部和也。

 

数年前、俺達が源田法律事務所の依頼で受けた探偵調査に利用した元神室署刑事であり、神室町の釣り堀の裏でカジノを持っていた汚職警官であり、有力な情報を取り扱う情報屋であった。

 

しかし、神室町を震撼させた事件の容疑者にされた挙げ句、裏カジノや警察内部の情報漏洩に関わっていた為、懲戒免職どころか、実刑判決まであと一歩のところであったが、俺達が阻止した。

 

「……道警か…随分島流しされたね」

「蟹とホタテ食べ放題でいいじゃねぇか!!」

「はっ、もう毛蟹は見たくねぇ…って!言うほど食えねぇよ馬鹿」

 

綾部がこの事務所に忍び込むのは2度目だ。

 

まさか既に合鍵の類も作ってあったのかも知れない。

 

「俺の居るのは北海道でも内陸部で殆ど芋か牧草地なんだよ」

「はぁ…でも車走らせれば何とか行けるだろ?」

「青看板で100km単位の道程だぞ?真冬なんて雪降る前に買い溜めしなきゃ死ぬ」

「わぁ…」

 

どうやら想像以上に厄介な場所に赴任させられたみたいだ。

 

「もう悪さなんて出来ないとみて間違いなさそうだな…」

「…って思うだろ?」

 

毒づいた表情から突然ニヤリと不敵に笑い始める。

 

「実は土地購入した外国人向けに裏カジノをやってるんだ。幸い店(たな)のデカい所もあるし、腕のいいディーラー雇ったから中々手堅い商売してる」

「マジかよ。タダじゃ起きねぇなお前さんは…」

 

割りと上手くやれてるみたいだ。

腐れても困るとは思っていたが、その心配はせずに済んだ。

 

「っで?どうしたんだよ急に?神室町が恋しくなったか?」

「馬鹿言うな。こんなクソみたいな町さっさと出ればよかったぜ」

「じゃあ何なんだよ…」

 

海藤さんが疑問に思っているので俺から口を開く。

 

「俺が聞きたかった事があるんだ。まさか直接本人が来るとは思わなかったけど?」

 

そう。

呼んだのは昼前であったが、まさか来てたとは思わなかったけれど。

 

「ちょっと野暮用もあったんだよ。神室町の知り合いから頼まれごとでな」

「頼まれごと?」

「別件だから守秘義務がある。お前さんらには関係ないだろうし」

 

恐らく神室署時代の知り合いに会いに来たと言っているが何か電話では難しいのだろう。

椅子に座り直しながら、綾部は続けて口を開いていく。

 

「さて、ソッチの話だけど…動物保護団体の事について?そんな事知ってると思うのか?」

「だから聞いてみたかったんだけど?」

「ふぅ…」

 

そう言って足を組み直し、予め作っておいたウィスキーのロックを手にとって舐めるように飲む。

 

綾部は何処とは知れぬ場所を凝視しては目を閉じて考え、記憶を探る。

 

「【アニマルライフ】の原口…だっけ?」

「ああ。何かあったか?」

「…………」

 

またしても考え込む。

 

思い当たる節があるのか妙に長く感じてから。

 

「海藤。松金組がかつてやってたシノギは不動産と何だった?」

「あぁん?急にどうした?」

「頼むよ。ちょいと知りたい」

 

海藤さんに問う。

で、海藤さんも少し腕を組んで考え始め。

 

「例えば【シャルル】みたいなそこいらに無いゲーセンのケツモチやら直接経営してた店もあった。まっ、それも羽村のカシラが殺しで稼いで手に入れた店だが…」

「そうか…成る程」

 

其処からまた考え始める。

 

特に松金組の事情とかでなく、比較対象が欲しかったのかも知れない。

 

そして。

 

「……随分と古い情報だし、バンバン報道されてたから価値なんてねぇからタダで教えてやる」

「はっ?珍しいなアンタ」

「俺だって猫を殺すやつは嫌なんだよ。特に猫(・)を(・)ロ(・)ン(・)ダ(・)リ(・)ン(・)グ(・)の(・)対(・)象(・)に(・)す(・)る(・)や(・)つ(・)も(・)な(・)?(・)」

「………どういう事?」

 

信じられない言葉が聞こえた気がする。

 

「血統種の猫は数十万単位で金銭取引されてるし、昔から繁殖工場をヤクザがケツモチしてたケースもある。一時期は組対でも厚労省の感染症対策課と連携して強制捜査してたよ」

「あ…狂犬病の疑いありって名目でね…」

 

狂犬病を駆逐してきた日本からすればまた出てしまう可能性がある以上、公衆衛生をもって立ち入り検査も裁判所から許可されるだろう。

 

元組対の綾部にはある種、許されざる行為そのものだろう。

 

「それで、幾つか資料を見た時に。見つけたんだ」

 

 

 

「アニマルライフの原口…本名〔チョン・ヘヨン〕。【白白教】教祖〔チョン・ヨンへ〕の孫に当たるってな?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

白白教。

 

朝鮮半島で実在していたカルト的宗教団体で、後々に白白教事件と呼ばれる出来事を起こした。

 

発端は日本統治時代の1902年。

白道教と呼ばれる前身があり、東学の信徒であった〔チョン・ジョンウン〕が修行の末に悟りを開いたとして【白道教】を設立。

 

「一定の呪文を口誦し礼拝すれば、無病息災、不老長寿、神仙となり得べし」と過大な言葉で信者を獲得。

最大一万人以上が集まったとされる。

 

しかし、当の教祖は酒池肉林の贅沢三昧で妾を複数囲い、語る口とは裏腹な行為をし続けていた。

 

其れを不審に思った信者や飽きられて捨てられた妾達を秘密裏に殺害し、隠蔽を図る。

 

その後、教祖は脳梅毒により死亡。

 

官憲により実行犯や幹部らが逮捕、夢から覚めた者達もそのまま白道教は壊滅したと考えられた。

 

しかし、教祖の息子である次男の〔チョン・ヨンヘ〕が既に逃げおおせており、後に白白教を設立。

 

父親の失敗から信者は一般人と会わぬよう山奥に居を構え、疑問を思わせず焼畑農耕での生活を行ったと言われている。

 

また、父親同様ヨンへもまたとてつもなく贅沢三昧を行っていたとされ、父以上に妾を京城府桜井町(現ソウル特別市中区乙支路4街)で囲っていた。

 

異を唱える者も飽きられた者もまるで廃棄するがごとく殺害され山中へ捨てられた。

 

その数600人あまり。

 

重く見た警察がアジトに強制捜査。

幹部150人余りを逮捕したものの、ヨンへは逃走しており、各地を転々としていた。

 

しかし、全力の捜査により多くの関係者が捕縛され、身動きの取れなくなったヨンへは、自殺。

 

コレにより、白白教事件は終わりを迎え、完全壊滅となる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「…わぁお…そんな事件あったのかよ…」

「少なく見積もってもって600以上。身元不明の遺骨も見つかって今でも震撼する事件だな」

 

綾部が集めたであろう白白教の事件を聞き、背筋に寒さを感じ取った。

 

まさか自己中心的な考えで其処まで非道が重ねられるとは思わなかったが。

 

「…しかし綾部刑事、どうしてその様なカルト事件をご存知で?」

「おっと、その辺気になるのか?まぁ…道警の窓際みたいな所に居ると、古い事件調書漁りやらネットサーフィンが主になっちまうんだよ」

「性分故にですね…」

 

刑事ではなくなっても、情報屋としてはまだ続けているらしく、様々な事を調べてインプットしているみたいだ。

 

まぁその甲斐があって、代表の原口には後ろ暗い過去が見えたという訳だが。

 

「しかし、今の彼女には関係ないのでは?生まれた頃には既に白白教など全く知らないと思われますが?」

「まぁ、其処はそうだがな」

 

茶子ちゃんの言葉に、血縁以外の関連性は全くない事を綾部は少々憤慨気味に鼻を鳴らす。

 

祖父に当たるであろう教祖の存在は動物保護団体を運営している身では汚点にしかならず、帰化している所から、彼女は関わりたくないのだろう。

 

「さて…ってわけで本題に戻るが…。保護団体の設置したケージを壊して中の猫を捕まえてから残虐にぶち殺してる犯人を追っかけてるんだったな?」

「ああ。すがたかたちも見えねぇから一体何なんだろうなーって思っててよ?ちょっとでも良いから手掛かりが欲しいんだこれが…」

 

海藤さんの言う通り、徹底的な証拠となる部分が見えないで困っている。

 

「ケージの設置されてる所に張り込みってのも中々難しいな。場所だって複数箇所全部見ておくには……あれ?」

「……そう言えば」

 

しかし、よくよく考えてみたら。

 

「何でケージの設置場所知ってるんだ?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌朝、別の用事に向かった綾部と分かれ、八神はKJアート前へと赴く。

ビルの中へ入れば昨日と同じく凪乃氏が受付に座っていた。

 

「あら?八神さん。どうなさったんですか?」

「すみません。原口さんにお会いしたいんですが…何処で会えるかな?って思ってて…」

「あ〜、そう言えば連絡先を教えてなかったですね。すみませんねぇ…」

 

密に取っているが故に連絡先の事を失念していた彼女は直ぐに着ているエプロンのポケットよりスマートフォンを取り出し、電話帳を開く。

 

「えっ…とは行は…あら?ごめんなさい。プライベート用のに入れてなかったわ」

「プライベート用?お2つ持っているんですか?」

「ええ。法人用に契約してありますし、連絡が多いので分けたほうが便利ですよ?」

「確かに」

 

ビジネスマン等もコンプライアンス意識から2つ持ちにすることは珍しくない。

主にメールやLINE等のソーシャルメールサービス(SMS)で失敗談にある誤送信問題への対策が主であろう。

 

もう一つ、別機種のスマートフォンを取り出し、同じ様に電話帳を開いてから指でスライドをしていくと。

 

「あったあった。今送りますよ」

「あっ、はい…って良いんですか?」

「ええ。このアカウントは連絡用の物ですって原口さんから言われているの」

「成る程」

 

広義的な連絡用であればたとえ名前が載らなくても電話には出てくれるだろう。

そう思いながら、到着通知を開き、直ぐに電話に出られるようセッティングをしておく。

 

「ありがとう御座いました。それじゃ直ぐ解決出来るようにします」

「はい。頑張って下さい」

 

少々慌ただしく、八神が挨拶もそこそこにビルから出ていく。

 

その姿を見送ってから。

 

「……随分急ねぇ…」

 

早々と出ていった八神にため息をつきつつ受付の仕事に戻る。

 

 

 

一方で。

 

 

https://youtu.be/Q4KDA8r2aps?si=fyWh420rYd36m3H2

 

 

「………使えますね」

「それも買うのか?」

 

神室町のドン・○ホーテ内で買い物をしているティーと海藤は、缶のスプレーやガラスの瓶、花火等を買い物カゴへ次々と投入していく。

 

尚、何を目的としているかまでは分かっておらず、工具に使う釘やドリルを入れ始めたのを見ては不穏さを感じ取った。

 

「何するつもりだよ茶子嬢」

「ご心配なく。一度で済ませる予定です…マグネシウム粒入ってますね…」

「何入れるつもりだよホント」

 

不穏さが更に加速していくのを気にせずに買い物を続けていく。

殆ど置いてけぼりにされながらも、荷物持ちとして徹することと決めたのだった。

 

 

 

また一方で。

 

 

八神は神室町のカラオケルームへと入る。

 

中は完全個室の防音対策が施され、多少中で声を上げても外からは聞こえることはない。

中から隠されている防犯カメラは設置されてるが、特に怪しい動きをしなければ確認する事も無い。

 

「……すみません、"原口さん"」

「……っ…!」

 

先に入っていた原口の姿を確認し、軽く会釈と謝罪を行ってから向かい側のソファーへと座る。

 

「……あの…電話の内容については…?」

「俺達しか知りません。口外もするつもりは無いので安心してください」

「じゃあ、何で…?」

 

八神の知った内容は彼女にとって払拭出来ない物。

其れを言わない約束をする八神に何が目的か、不安が募り始める。

 

「よくよく考えてみたらおかしいんですよ」

「はぁ…?」

 

どういうことなのか。

其れをハッキリできず、疑問を抱いていると。

 

「…ど(・)う(・)し(・)て(・)犯(・)人(・)は(・)設(・)置(・)場(・)所(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)の(・)か(・)?(・)っ(・)て(・)こ(・)と(・)で(・)す(・)」

「…っ…!?」

 

八神の言葉に、原口の顔は隠し切れない驚愕に染まる。

 

其れが八神の中にあった一つの仮説を答えに成り立たせてしまう。

 

「…知ってたんですね、原口さん」

 

真実を知った八神の言葉は、彼女の心臓を締め付ける様に鼓動を鳴らし、喉に息が詰まって青ざめていく。

 

「……はぁ…っく…!?」

「知らない人間なら兎も角、少なくとも保護団体の手伝いをしてきた俺達には誤魔化せないでしょ?」

 

八神の発言はある種、判決を言い渡していく裁判官と同じであった。

 

注意深く隠してあった捕獲ケージは、光に反射しないよう緑色のシートで覆い、人通りの少ない路地で猫しか通れない場所に設置されている。

警戒心の強い野良猫を捕獲するにはそれぐらいしなければ難しく、中に匂いの強いおやつを入れて待つのが主でである。

 

其れを熟知している原口は、八神の言葉を理解出来ないはずがなく、次第に追い詰められ始めた。

 

「…………」

「知ってるんですか?…犯(・)人(・)の(・)事(・)」

「…………」

 

徐々に声高な様子へと変え、真実を話さざる得ない状況に寄せる八神に彼女はただ声にならないうめき声しか上げられない。

 

「貴方のことであれば幾らだって調べられる。調べられたくないことも隠したいことも…ただ」

 

目を閉じて、息を吸う。

 

「貴方から聞きたい。一体何があったのか、それだけでも」

 

静寂が続く。

 

呼吸の音のみがこの場を木霊し、刺すような視線が彼女の喉を鳴らす。

小さく震える歯の音が聞こえた。

もう彼女の限界が来ていることも八神は理解している。

 

「………どうして…って、思いました」

 

原口の泣き崩れるような声が溢れ、ただ話していく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

母親と町を転々とした日常が最初の記憶。

 

曰く、祖父の行いが自分達へ罰として下ったからといつも言っていた。

 

私は成長していくにつれて様々な事を知ると、祖父の行いは非道だと知りました。

 

20代になり、母も亡くなってからは正式な帰化申請を行い、地道に人生を生きていく。

此れが私にできる精一杯の罪滅ぼしだと思いながら。

 

幸いにも夫と出会い、息子を産み、順風満帆な生活を過ごすことが出来ました。

 

しかし、それも三年前。

 

息子は大学二年になると同時に、ある団体へ入りました。

 

当時は私も知り得ていないので保護団体仲間から又聞きで入った程度です。

 

名前は【ブリーチジャパン】。

 

グレーゾーンを漂白することで社会全体が良くなると信じていた団体だそうです。

 

 

 

原口のご子息が所属していた団体に八神は苦虫を噛み潰したような表情を取る。

 

かつて源田法律事務所で飲食店名目で経営していた風俗店の店主から営業妨害を受けたと話していたのを思い出す。

 

「………よりにもよってあの団体かぁ…」

 

尚、ブリーチジャパンはバックにかつて存在していた極道組織【近江連合】がいた事で、絶妙なブーメランとして跳ね返り、今は規模縮小したことを耳にしている。

 

「…それから息子は引きこもり状態で、いつのまにか退学届も出していたんです…」

 

 

 

 

一年間は酷い有様でした。

 

夫は外に愛人が出来たのでしょう。

週に2回家に帰ってきたと思えば洗濯物を出しに来るだけ。

あの時は全く何も思わず淡々と過ごしていました。

 

どうやら此処で罰が下されたのだと。

 

そんなある日。

 

『母さん。俺も動物保護団体に入るよ』

 

今まで光もなかった瞳が輝いていたんです。

 

私は気付くべきだったかもしれないけど、その時はとても嬉しかった。

 

あの子に傷ついた動物達を保護をする意義を教え、時として辛い決断に迫られる事もあると言い、ただ救うだけでは意味が無い事を念を入れて教えました。

 

ただ、やはり男手が少ない団体であると、息子の手が入るだけでも届かなかった所が届いて良かったのは間違いありません。

食事をあげるにも注意を払ったり、多くのフードを必要としますし、年齢や体格でも違ってくるので種類も用意しなければなりません。

 

息子はまだ知らないながらも周りと馴染むように努力し、勉強もしていたと思います。

 

そんなある日に、私が家の中で母の遺品整理を行っていたら"あるもの"を見つけました。

 

 

 

「あるもの?」

「…ええ、中国語…漢字とは異なる字体が書かれた本です。ただ…その本を触れると不気味というか背筋に寒気がするものでした」

 

 

 

最初は気味が悪くなって捨てようと考えましたが、どうにも捨てる気になれず、そのまま奥へしまいました。

 

ただ数日経ってからふとしまった本を思い出して奥を調べましたが、何処にも無かったんです…。

 

その時、息子と2人しか居なかった事もありもしかしてと思いましたが、そもそもあの本が何なのか分からなかった事と忙しかったこともあり、程々で頭の隅に追いやっていました。

 

それから、猫の殺害が起こったのです。

 

最初、団体に反対していた近隣住民によるものかと考えましたが、アリバイは取れ、少なくとも関わりはなかったと思います。

 

ただ調べていくにつれて証言をしていた人達から妙なことを聞きました。

 

『庭を何かが這ったような跡が残っていた』

『魚が腐ったような臭いがする』

『時折夜中に不気味な声が響いた』

 

聞く度に不穏な気持ちがふつふつと湧いて出て来ては、あの本が関わっているのでは?

そう考えて、一度この国で最も書籍管理を行っている図書館へ向かい、調べてみました。

 

 

 

「名前は【螺湮城本伝】。夏王朝に伝わる本とのことです」

「夏王朝…。確かめっちゃ古い中国の王朝でしたっけ?」

「ええ、恐らく。紀元前2000年以上ですね」

 

どうしてそんな古い文献が?

 

そう考え、原口は自分なりの答えを示す。

 

「曽祖父は本当に力があったのかもしれません。その本には魔術の呪文が書かれていると書いてありました」

「魔術の…呪文?」

 

彼女の言葉に目を丸くする八神。

 

とんでもない事が起こってはいるものの、まさか本当にとんでもない事態となるとは想定していなかった。

 

もしもその本の通りに行うことが目的であればある種厄介極まりない事が起こり得る可能性が見えてしまう。

 

「あの…流石に其れは…」

「父や祖父が行ってきた所業を考えると、人を操ったり洗脳を行える魔術は存在していてもおかしくはないです」

 

そう言われればと考え込む。

 

酒池肉林によって思考能力が低下していた節はあるものの、教団内の強さは変わらずにあり、力自体が存在していた可能性も示唆される。

 

無論、其れが存在している事を前提であるが。

 

「…では結論は…その本を息子さんが読み、何かをしようとしている…ということで?」

「ええ、少なくとも」

 

流石の八神もこの手のオカルトには頭が痛くなる。

 

神室町でその手の話題は尽きたことはないが、自身がそれに巻き込まれるとは思ってもなかった。

 

「…はぁ…、分かりました。この件は内密に処理します」

「………お願いします」

 

どのようにと彼女は聞かない。

 

今後の事を考えるならば致し方ないと決断してしまったのだろう。

 

「…では。俺は行きます」

「…………」

 

原口が口に出さないまま頭を下げる。

 

その表情は、ある意味未来を予言しているかのように苦悶に満ちたものであった。

 

本来なら自身で動きたいと思っていてもどうすることも出来ない不甲斐なさで押し潰されそうになりながらも。

 

八神達へ託す事しか方法は無いと知っているがゆえに。

 

「…………」

 

その意志を胸に、八神は部屋から出ていく。

 

事件解決のために。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

壁から目が生える。

 

眼球がそのままギョロギョロと忙しなく動かし、アオミドロに覆われたゼラチン質の身体を動かす。

 

「テケリ リ…」

 

発される音は管楽器を思わせる高い金属音。

 

直立している壁を大きく這っては広がったり、縮こまったりなど伸縮性の高い様子を見せる。

 

コイツラは言わば警報装置。

 

見た目の割には頑丈で、食事を与えさえすれば言うことも聞く。

ぬらぬらとナメクジめいた粘液はあれども、この忠誠心は人間よりも遥かに高いから重宝する。

しかも仲間を呼ぶ"声"は相当響く為、直ぐに攻撃に展開出来る。

 

とはいえ、此処まで厳重にした所で誰かが来るとは思っていない。

 

気を付けるべき場所には極力避けて通っており、通りがかった程度でちょっかいを出してくるとは考えられない。

 

一部、馬鹿が空き家かと思って入ってきたが、今となってはコイツラの腹の中だ。

 

『…オッホホ。精が出ますねサマナー?』

「…〔モロク〕か」

『ええ、いつも規則正しく貴方のためにがモットーで御座います』

 

燃える炎から出てきた1体の【悪魔】。

 

ヨルダン川流域で信仰されていた神だが、旧約聖書に書かれている話によれば、子供を贄とする儀式をする悪魔として危険視されており、石を投げつけてでも止めたという。

 

何処かの山奥に居る秘神辺りにもそんな風習を持った悪魔は見かける故に、ある種神の格を堕とされた存在であろう。

 

「……で、召喚出来そうか?」

『ええ、恐らく…あの"御方"の端末体であれば其処まで難しくはありません』

 

牛の顔がニンマリと酷く歪ませる笑みを浮かべる。

 

悪魔に堕とされた理由がよく分かる。

 

だからこそ、必要なのだと考えられるが。

 

『……お気を付けを。今日は妙な空気が漂っております』

「なら、番犬達を使え。時間稼ぎになるだろう」

『御意に』

 

モロクが頭を深々と下げ、そのまま消えて失せる。

 

高レベルの悪魔である以上流石にやられる事は無い。

 

「………いあ、いあ、ふんぐるい!ふたぐん!!」

 

此方も準備を整える。

 

讃える歌を奏で、あの御方をこの世界に顕現させることが自分の使命だと言わんばかりに。

 

「いあ、いあ、ふんぐるい!!ふたぐん!!」

 

声帯が割れ引き裂かれようとも声を張り上げる。

それが必要だから。

それが自身への言葉だから。

 

「いあ!いあ!いあ!いあ!!」

 

言葉とともに、集まる感覚が肌に触る。

 

後少しだ。

そう思いながら。

 

頭(・)上(・)に(・)揺(・)れ(・)る(・)爆(・)音(・)で(・)邪(・)魔(・)が(・)入(・)る(・)。

 

 

 

            to be continued

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