真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
雨が降っていた。
大粒の雨は落ちた場所を濡らし、喉を震わせた大声を掻き消すほど叩き鳴らす。
少女は立っていた。
"一人の男"が壁に寄りかかり、受けた傷から流れる鮮血が水溜りを赤く染めていくのを見ながら。
彼女は、それこそ雨の大きさと同じくらいに涙を浮かべながら叫ぶ。
でも、その声は木霊す事すら無くなり、ただ世界と切り離されるのみであった。
世界有数の経済大国、日本。
そう言われてピンと来る者は居ないかも知れないが、少なからずとも湯水の如く使える水と電気があらゆる場所でどんな僻地でも平均的に出来ることは早々無い。
必要最低限の生活を望むのであれば、生活保護を受給出来、場合によっては職業訓練学校や病院にも無料で通えると言えば縦に振らざる得ないだろう。
そんな国家の中でも、世界一乗客の乗り降りが激しいと言われる駅がある。
東京、新宿区の新宿駅。
JR東日本、東京メトロ*1、東京都交通局*2の3社を主に、西武新宿線や都営地下鉄大江戸線等の乗り換えも出来る関東圏の大動脈と言える駅であろう。
一日平均約二百万人。
その数字が破られる事は恐らくない。
その新宿駅を東口に向かうと、都庁や映画館、そして関東圏最大級の歓楽街〘神室町〙がある。
神室町はスナックやバー、キャバクラやホストクラブを中心とする大人の遊び場があれば。
居酒屋、様々な飲食店も建ち並び。
ホテヘルやソープランド等の風俗店も充実。
身体を鍛えるトレーニングジムからバッティングセンター、打ちっぱなしゴルフ場。
そして表の商売を隠れ蓑に違法な賭博場を経営する店も存在する。
そんな大人のパラダイス、神室町の中心から少し外れたチャンピオン街付近の古いビルディングがある。
再開発で取り残された昭和後期から存在する4階建てのビルは一人の持ち主が管理し、
名前は【宮本診療医院】
入口付近の電飾看板を見れば其れがクリニックであることを示している。
◇◇◇◆◆◇◇◇
「いてぇ…いてぇんだよ!このヤブ医者!!」
「痛いのは当たり前だろ?馬鹿の喧嘩相手に麻酔をする方が馬鹿だ」
悪態付く強面の男が足を押さえながら痛みを訴える中、大きな刀傷にスプレータイプの消毒液を吹きかけ、縫合を行っていく白衣を着た男は淡々と縫い合わせていく。
「…後3針待ってろ」
「畜生…滅茶苦茶いてぇんだよ…」
「テメェの不始末を此方で解決してるのに泣くんじゃねぇよ馬鹿が」
医者が怒りを露わにしながら、皮膚を細くカーブした針で刺して縫い上げ、傷口を閉じていく。
見た目から傷だと分かる跡が残るものの、暴力沙汰の多い自由業従事者である男に配慮する必要はなく、影響がない限り痛みが生じても放置するつもりで治療に当たっている。
「ハイ終わったぞ。診察台と治療費はいつも通りに請求するから早目に出せよ」
「……わかったよ…」
縫合された傷口に保護用シートを貼り、ガーゼを巻いていく。
「抗生物質と痛み止めの処方箋は近くの薬剤師から貰っとけ。患部に触れないように2週間はシャワーだけにしろよ?ビニール袋で覆ったりするのが一番だな」
「……ありがとよ。先生…っっっ…」
「ナイフやドス使うまで喧嘩すんなボケ。ったく」
「じゃあな…」
男は、医者に一礼をしてから足を少し引き摺るように歩いて診療所を後にする。
「………はぁ。疲れた」
帰った事を確認してから直ぐにため息を吐いては回転椅子の背もたれへ預けて身体を伸ばす。
「……本当に刀傷銃創には事欠かねぇなオイ」
彼が神室町で診療所を営んでからおよそ5年。
「あ〜あ〜!!可愛い女の子来ないかな〜!!治療と称してあれやこれしたいな畜生」
医師にあるまじきハラスメント行為を妄想するも、実際は触診なども必要最低限でかつ最近はインナーシャツ越しでも診断が出来るのでやれないだろうし、やらないだろう。
そんな阿呆めいた言動を吐きつつ直ぐ側の2ドア冷蔵庫へ椅子を滑らせ、ドアを開けた後に中から瓶を一本取り出し、蓋を開ける。
「今日は診察時間終了。一本飲んで夜の街をいざ往かんってな」
中身は比較的軽い味わいで飲めるドライタイプの麦酒。
アメリカなどでよく飲まれるコロナビール等と似てる度数が高めでさっぱりとした味わいが特徴だ。
「……ん、ぷはぁ〜!やはり仕事終わりの一杯は最高!」
まるでアルコール依存持ちの言い方に近い発言をしつつ、診療所内の照明を約80%まで落とし、戸締まりとclosedの看板を立てる。
「さてと。何処行こうかね…」
空になった瓶を回収用のケースに入れ、白衣を脱ぐ。
防犯対策を施した所内を確認後、隣の部屋へと行き、クローゼットの戸を開く。
中には皺一つなく仕立て上げられたテーラードスーツの上下とワイシャツ、ベルトが仕舞われていた。
医者は其れを普段から着慣れている様に鼻歌を歌いつつ、履いてベルトを通し、シャツの裾を綺麗に仕舞い、ネクタイを締め、ジャケットの袖を通す。
スーツはある種男にとっての戦闘服である。
乱世の時代でも、数十石程度しか無い侍大将であっても戦道具に事欠かさなかったと言う。
であれば、多少は無茶をしてでもこだわり抜いたスーツを着ることもまた重要と考えられる。
尚、スーツで飲食店という名の特殊な水商売の店に行くのは適さない気がするわけであるが。
「〜〜♪〜〜〜♪」
陽気に鼻歌を歌いつつ、鍵を閉めて階段を降り、診療所を後にする。
夜も更けた神室町はギラギラと欲望渦巻くネオンサインが光り輝き、多くの店で呼び込みを行う店員や端末機器を見ながら歩く人の流れなどが視界一杯に映った。
────逃げなきゃ。
と彼女は頭の中で反芻しながも身体を藻掻こうと足を動かす。
「んんっ…!むぐぅぅ!!!」
「クソっコイツ爪立てやがった!!」
「暴れんなって!!」
少女に組み付くのは二十代の所謂チンピラと分類される人種。
染めたような不自然な色合いの長い髪を持つ男に、スキンヘッドに髑髏のタトゥーを入れた男などの神室町では珍しくもないカラーギャングと言える風体の男達である
少女の着る衣服を無理矢理破くように剥ぎ取り、未だ発展途上と言わんばかりの下着姿へ変貌させる。
何故こうなったのか?
少し場を巻き戻して伝えよう。
◆◆◇20分前◇◆◆
少女は夜の神室町、それも夜の亜細亜街に1人ある場所に向うべく足を進めていた。
「……此処かな?」
念の為に学校指定の制服は新宿駅のコインロッカーに入れ、別の服を用意し、出来る限り目立たぬように努めている。
彼女が高いビルを見上げ、何かを探し、見回し始める。
「………あった」
見つけたのはネオンサインが点滅する古びた看板が立つバーらしき店。
大通りに構えることのない不穏な雰囲気を漂わせたその店を前にすると、指先が小さく痙攣し、動悸が少し激しく感じる。
普通であれば用があろうとも決して入る事の無い店へ、緊張の眼差しのまま生唾を飲み込み、息を深く吸う。
────行かなければならない。
どうしてもと少女にとって深い理由を胸に、足を前へと出す。
靴底で割れた瓶と思われるガラス片を踏み、パキリと音が鳴る。
入口手前のコンクリート製階段の手すりは浮いた錆と何か蛍光塗料らしきものの付着で汚れており、触れないように遠ざけながら上っていく。
プッシュプルハンドル式のドアノブを握り、引いて開けるとけたたましいラップやドラムで耳を劈くような音を浴びてしまう。
「〜〜〜〜!!?」
思わず耳を押さえ、軽減しようとするも、隙間を縫って走る様な波長で若干三半規管へ影響を及ぼしていく。
「……ゲホッ…!?」
音だけではない。
少女は、店の中を充満する奇妙な匂いと煙を吸い、思わず咳き込んだ。
今まで経験してきた事の無い匂いに鼻と口を押さえ、直ぐにでも出たい衝動に駆られながら、意を決して中へと入る。
店内はバーカウンターと夜の店でも使われる革張りソファとテーブルで構成されており、ダークブルーの照明にLEDのヘッドライトによる光が場を輝かせる。
「イェーーイ!!」
踊る男女。
中央に立つポールを巧みに使い、自身の身体を見せつけるダンサー。
空になったグラスに酒を注ぎ、あおって飲み干す大柄の男。
そしてテーブルに直線上盛られた粉を紙製のストローを使い、鼻で吸っていく男。
明らかに厄介な客達が使うダンスバーと友奈は思った。
でなければ、目立たない路地裏で経営出来るわけがないからだ。
「……………」
どうすればいいのか。
あまりにもアウトローな雰囲気に入口横で立ち竦んでしまい、どうするべきか悩んでいた所。
「ようお嬢さん。君みたいな可愛い子がこんなアブねぇ場所になにか用かい?」
突然男に話しかけられた。
年齢は二十代前半。
大学生と思わしき様子の優男が少女の横に立っていた。
「えっ…!?あっ、す…すいません!?」
「いやいや。すぐ隣のトイレから出たもんだから大丈夫大丈夫。っで?どうしたの?」
「あっ…あの…少し聞きたいことがあって…」
「ふぅ〜ん?じゃあ立って聞くのもナンだし、席に座ろっか?」
「えっ、ちょっ…!?」
少女の肩を掴み、流されるがまま席へと連れて行かれる。
席には仲間と思わしき髑髏のタトゥーを入れたスキンヘッドの男と色染された長い髪の男、耳たぶや鼻にいくつものピアスを付けた男。
その間には店の嬢なのか、派手な色合いのミニや丈の短いドレスを着る女が座っていた。
「よう〔多間木〕。随分とちっけぇ女の子連れて来たな?」
「ロリコン疑惑あったと思いきやガチかよ」
「うっせージャンキー。そうやってイキり散らかすんじゃねぇよ」
多間木と呼ばれる男が少女を席へと座らせる。
「ハイ。君にはノンアンコールのコーラだ」
「あっ、ありがとう…御座います」
ガラの悪い中で唯一、普通な様子を見せる男に少女は一瞬だけ気を緩めてしまっていた。
◇◇◆20分後◆◇◇
少女は問おうとしたとき、突然視界がぐらつき、床にテーブルへと倒れてしまった。
しかし其れを、男達は気にする事なく、女達に顎で使って少女を運ばせる。
バーの店主へ多間木が話し、頷いてからカウンター裏の床を開ける。
すると、其処から地下へ続く階段が現れ、一行は下へと向かっていく。
地下空間は、拘束を行う為に用意された台や器具が幾つもある。これを見ているならば、誰もが怯えて逃げ出そうとしただろう。
しかし。
「……ァァ…ゲボッ…」
「うわきたねっ!?ったく暴れるからって腹パンはねえだろ〜〜www」
「どうだ?これでも総合じゃあ名の知れてるんだぜ?」
「って言っても単純所持弟ワッパ掛けられた阿呆じゃねぇかギャハハハ〜〜!!」
ぐらつきが若干無くなり、逃げ出そうとした際、スキンヘッドの男から腹部を一発拳がめり込む。
ギリギリと肝臓、脾臓、小腸等に拳が埋め込まれ、思わず昼に食べていたうどんやその具が胃から吐瀉物として吐き出される。
「あ〜あ。可哀想可哀想」
「どーすんだ?ヤクキメさせて
「いやいや。もっと良いのがあるぜ?」
今か今かと待ち遠しく、少女の手足を拘束し、猿轡代わりに開口器を付けさせる中、多間木がズボンのポケットから携帯端末を取り出す。
「……良し。お前ら…
「「……ハイ」」
連れて来た女2人が頷き、服を脱ぎ始める。
ドレスが脱がれ、徐々に肌の色が変化をし始めた。
\カカカッ!!/
〔鬼女:リャナンシー〕
\カカカッ!!/
〔妖魔:アプサラス〕
方や〔リャナンシー〕はアイルランド伝承に伝わる愛を囁き、技工を授ける代わりに精を吸い取る魔性の妖精。
方や〔アプサラス〕はインドにて修行僧を自らの肢体で誘惑し邪魔をするとされる乳海攪拌で生まれた水の精。
どちら共に並みの女とは違う美貌と肢体を有する悪魔が行うストリップに周りの男から声が上がる。
「さて、お前等も楽しめ。女の子の方は挿れなきゃ後は好きにしろ!!」
「イェーーイ!」
「流石多間木っちゃん!!サイコー!!」
男達の歓声が上がる。
「まず一番!!」
『んっアッ゛!!』
我慢の限界と言わんばかりに、ズボンを下ろし、固く膨れ上がった陰茎を露出させ、リャナンシーの濡れそぼった秘部へと挿入をする。
「んっっ゛っ゛〜〜!!むぅ゛ぅ゛ぅ゛ゔゔ!?」
いつ自分に行われるか分からない少女は身体を揺らし、拘束具を解かんと動かす。
が、ガチャガチャと留め具と繋がった鎖を揺らすのみで終わる。
『あまり動かぬほうが身の為であるぞ?…んふふふっ…』
少女の抵抗もこの場からすれば一種の強壮剤にしかならない。
妖麗に微笑むアプサラスは、少女の頬を伝う涙を自身の舌でゆっくりと舐め取り、両手から粘性を帯びた水を浮かび上がらせる。
『これを塗ると気持ちいいぞ?』
水の精の指先が少女の肩に触れる。
段々と五指が張りのある素肌に密着していくと、ぬるついた液体を塗りたくるように滑らせ始めていく。
べちょりべちょり。
ゆっくりと艶めかしく透明で糸を引くほど強い粘り気のある水っぽい物が少女の身体を覆い始めると。
「……あっんっ…///!」
奇妙な感触が皮膚を撫でる。
ゆっくりと丸く尖ったゴムの先で擦られている様な不可思議で味わったことのない感覚に思わず目を見開き、声にならない嬌声を発してしまった。
「アプサラスのローションって何入ってんだ?」
「さぁ?坊さんの座禅とか邪魔するって聞いたが?」
粘ついた水音をわざとらしく鳴らし、身体をくねらせては少女の肌に密着し、染み込ませるように塗りたくる。
その姿を見ながら、男の1人が少女の尻に手を伸ばし、薄く透き通ったショーツ越しに軽く握り締める。
「ウンウン。あどけないガキンチョの身体も悪くねぇな。ぴっちりしてて、そのくせ尻はいっちょ前に女してやがる」
「臍もいじってあげるよ〜〜♪」
「い…い…やぁぁ…///」
男達の鼻息が顔や敏感になっている肌に当たり、身を捩らせて悶える。
嫌悪感が心に多く犇めく中で、心拍数が上がり、血流が大きく広がっては外気の冷たさを感じない程に熱く身体が燃え上がりそうな感覚に陥る。
原因はアプサラスの分泌液である。
修行僧を邪魔するに出来たとされる潤滑液に皮膚組織から入り込む成分によって、毛細血管や幾つもの神経を活発にし、アドレナリンやオキシトシンを分泌させ、興奮状態に持っていく。
これが妖魔アプサラスと呼ばれる厄介な悪魔である。
ふと遠巻きに見ていた男が何時もであれば参加しているはずの多間木を一瞥し、問いかける。
「多間木よぉ…。このガキンチョどうすんだ?」
「ん?そうだな…バッグの中にあった学生証…確か
「マジかよー。じゃあもう数日置いておいてセットでオークションかければ良かったなあ!!」
「まぁ、処女は必須だから有意義にケツの穴開発してクソ漏らすときもイける様にしとこうぜ」
興に乗り始めたのか、多間木がテーブルの上に用意されたシリコン製の拡張具を手にし、歩いて少女の前へと立つ。
「さて嬢ちゃん。このビーズが君のケツの穴に入るんだぜ?サイコーだろ?」
「…………」
ピンク色をしているシリコンゴムのビーズを目にしても反応が薄く、多間木の顔は少し渋り、ため息を吐いた。
「…はぁ。ちょっとヤク打つか」
これでは楽しくはない。
下卑た考えの中で多間木が手にするのは細い注射。
中には透明な液体に満たされており、シリンジを軽く押すと針の先から飛び出す。
「これでも医者だからね?結構やり方知ってるんだよ」
少女の腕を掴み、静脈を浮き立たせ、針を刺す。
シリンジを押し、中の液体を血流に乗せていく。
「…ァァ…ゥァァッ!?」
少女の身体が震える。
ガチャガチャと拘束具を鳴らし、自分の身体に起こっている事が訳も分からずおかしな痙攣が起こると、視界が強烈な光に晒され悶え苦しみ始めた。
「んんっ!!?〜〜〜〜〜!!?」
「いやぁ〜!トんでるトんでる!!」
「ギャハハハ!ガキンチョにはよく効くだろうな〜!」
少女の想定外の反応が男達の琴線に触れ、場が笑いの渦に惹かれ始める。
眩しさに苦しみ、身体中が熱く、気絶しようにも無理矢理意識を覚醒させられ、何もかも全てが壊れてしまいかねない衝撃と感覚で脳を汚染されていく。
ふと思った。
もう無理なのだと。
このまま楽になりたいと。
そう思いながら、何もする気になれなくなる中。
神室町での食事を考えてみたが、時には別の所も良いだろう。
そう思いながら、駅の構内で財布に取り付けていたICカード入れを取り出そうとポケットの中を探っていた。
「…ん?あれ?」
視界に一瞬だけ見慣れた色合いの服を見た気がする。
見間違いか?と思うものの、そもそもその服でやって来る街ではなく、事情を知っているとむしろ不味いと思い始める。
「……向こうのコインロッカー。確か女子トイレのすぐ近くだったな…」
流石に怪しまれないかと考えつつ、向かっていったと思われる方向へと足を進めた。
結果は案の定、医者の勤め先の1つである
「まじかよ畜生」
その中学校の校医でもある医者にとって、夜の街でしかもガラの悪い大人が犇めく中を進んでいく姿を見た以上、放置するわけにも行かない。
仕方がなく、制服から私服に着替え終わった少女がトイレから出て、神室町方面へと進んでいくのを静かに追跡し始める。
「もしもし。ああ…【ウルヴァシー】って店だが?……はっ?摘発された?ああ…強姦と淫行条例違反でね?分かった。15分後にお願いします。では」
電話を切り、
相手は6人。
1人は頭部に見事な華を咲かせて倒れているのでおよそ5人と想定。
イチモツを晒しながらも拘束台や柱などに隠れ、様子を窺っている。
「クソっ!誰だテメェは!出てこい!!」
声を荒げ、所持しているリボルバーを医者がいると思われる方へ向けて引き金を引く。
44マグナム弾を使用しているためか、壁の一部が剥げるほど強力な弾頭が柱に爆ぜる。
「流石に当たったら痛そう…」
────痛いどころではないか。
明らかに違法所持と言える厄介な危険物に攻めあぐねるものの、ここは致し方ないと腹を括り。
『……【テトラカーン】』
何処からか声がし、医者の周りに薄くなにかが張られる。
「……しゃっ!!」
それを見越して、柱から飛び出し、全速力で向かう。
「死にたがり野郎が来やがったぜ!!」
「殺せ殺せ!!」
男2人、手にはそれぞれ
普通であれば胴体や腕脚等を引き裂き、絶命させる力を有する武器である。
しかし多くの弾は医者の目の前で何故か弾かれ。
「何だギャッ!?」
「おいどうしグバァッ!?」
跳ね返る様に2人の男が身体中をボロ布のごとく散り散りに変わり果てる。
「なっ…!?何なんだ一体!?」
愕然した。
仲間が途端に3人殺されたことを。
いとも容易く、突然現れた謎の男が少し動いただけで不利な状況に変わり、嫌な汗が吹き出る事。
既に距離は詰められ、いつ撃ち殺されてもおかしくない。
不安にかられた男は落ちていたカッターナイフを手に取り、人質として少女の首元へ突きつけた。
「オイ!銃を置け!!じゃねぇとこのガキの首が引き裂かれるぞ!!」
カッターナイフの刃が上の照明を反射し、ギラリと光り輝かせる。
ある程度柔らかいものもスパスパと切れる素材である以上、少女の頸部にある大動脈やリンパ等を容易く切断し、血の濁流を作って出血死させる事も容易であろう。
この場から逃げるであればこれが最善の策と言えるかも知れない。
現に、拘束台を遮蔽物にしたまま動きを止め、伺う医者の様子に男は確信する。
男の要求通り、銃が置かれ、少し遠い所へと滑らせていく。
これには一先ず安堵の表情になり、カッターナイフの持つ手が緩まった瞬間。
医者が立ち上がり、両手を振り上げ、何かが飛翔する。
「…はっ?」
男の腕に刺さったのは数本の針だ。
5cm程度の短い針が深々と上腕と手の甲に刺さっており、激痛を帯びた。
「ギャッ!イッ…イテェ!!?」
「馬鹿離すな!?」
「ウギャァァァァ!!!?」
痛みにのたうち回る男に追い打ちをかけるよう、医者がもう数本針を投擲。
両目、口、喉、これらに刺さった針の痛みは想像を絶し、耐えきれずに転げ回る。
残りは後2人。
医者は動きを止めていたリャナンシーとアプサラスを一瞥、2人の悪魔を制止させつつ、気を失っている少女の拘束を解いていく。
「オイ、リャナンシー!!ヤツを【ムド】でぶち殺せ!!」
リャナンシーの主である多間木が声を張り上げ、命令を下す。
しかし手を出すつもりは無いと言わんばかりに、命じた行動を行わず、そのまま立ち尽くすのみ。
「何で命令を聞けねぇんだよ!!早くしろ!!」
悪魔を使役しようとするも、動くことはなく、ジッと医者の行動を窺うのみ。
リャナンシーとアプサラスはまるで"金縛り"を受けたかのように動かない状態に晒されていた。
「クソっ!何でだ!!」
一体どういう訳か分からず端末に表示されたステータスを見る。
「……はっ?"緊縛"状態?」
いつの間にと思いながら、表示された状態異常がどういうものなのか理解する。
ほんの数十秒間動けない。
つまり。
「フンッ!」
「ほびょっ……!?」
裏拳一発、多間木の頬に当たり、その場でトリプルアクセルを決めながら床へと叩きつけられた。
「"カジュアル"か。中途半端に金があるのがやってるとたちが悪い」
床に落ちている多間木が持っていた端末を踵で踏み潰し、ため息を吐いてから緊縛の解けたリャナンシーとアプサラスに顔を向ける。
「君等は自由だ。良いか?」
了承したように沈黙をしたまま頷き、その場から消えて失せる。
終わった事を確認後、ひどい状態の少女にスーツのジャケットを脱いでかけ、右腕で抱えるように持ち上げて足を踏み出そうとしたとき。
「……まだ終わってねぇぞ…!!」
スキンヘッドの男が前へと立ち塞がる。
「…もう警察が来るぞ?逃げたほうが身のためじゃないか?」
「うるせぇ!テメェを倒して引き渡せば無問題だよ!!」
「ああ…そうかい」
────呆れる。
このような状態でまだ言い続けられるのかと思いながら、仕方がなしに空いた左手を前に出す。
「来な。
左手で挑発し、スキンヘッドは口端を吊り上げた。
「これでも総合で15連勝無敗なんだぜ?」
「ああそうかい」
総合格闘技のプロと称するだけあり、低い体勢の構えで医者へと目を向ける。
スキンヘッドが飛び出す。
狙いは足を絡めての寝技と思わせて膝関節や舟状骨辺りを叩く方針で攻める。
如何に鍛えていようとも破壊されれば歩行不可能になり、のたうち回る事となる。
1秒 制空圏に入ったスキンヘッドの顎に無拍子の前蹴り。
2秒 頭が上へと持ち上がった瞬間に左手刀で側頭部と右頚椎に2連打。
3秒 返す刀で貫手を喉に一撃。
4秒 最後と言わんばかりに顔面に掌底一発。
「……ごぉっ…」
5秒間で呼吸困難と三半規管の揺らし、そして視界不良によって男は前歯をすべて失い、顎と鼻の骨を粉々に砕け、何も出来ぬままに床へ倒れ付せられた。
「……初めての地面の味はどうだ?リングの上のファイターさんよ」
ぶっきらぼうな問いを投げかけるも、男は血の混じった泡を吹きながら気絶しており、答えを言えるわけが無い。
鼻で息を吐き、仕方が無しにその場を後にするのだった。
「………よう〔宮本〕。"仕事"か?」
「やあ〔両さん〕。いや…少し"ごたついてた"だけだ」
店の扉を開けると、赤いテールランプが点滅する白と黒のツートンカラーの車両が複数台止まっていた。
中からは青を基調とする治安維持法に基づいた公務執行機関の職員。
つまり警察官が取り囲んでいる状況である。
「………みたいだな。儂等は必要か?」
「ああ。3人発砲して2人はお互いに撃ち合い、1人は暴発。残りはギリギリ生きてる」
「………そうか…」
医者、〔宮本〕と呼ばれた男は事の状況を述べる。
警察官である〔両さん〕は少し呆れた表情をしながらも、ため息を吐き出し、宮本の言い分を信じることとした。
「……そっちの娘さんは?」
「俺が治療する。ちょっと急ぐから」
「……分かった。じゃあ終わったらでいいから後で書かなきゃならん書類にサインを頼む」
「ああ。了解」
これ以上呼び止めるつもりはない。
多くの警察官から見られている中、宮本は亜細亜街の外へと足を進め、診療所の方へと向かっていく。
沈黙が場を支配する中、1人の若い警察官が問いかけた。
「…〔両津〕巡査長。良いんですか?重要参考人でしょう?」
「……良い。あくまでも"民間協力者"だからな?」
「はっ……はぁ?」
それはどういう意味なのだろうか?
不可思議な謎が浮かび上がる宮本という人物に警察官は周りを見渡す。
自分と同じく動揺の表情をする者も居れば、またかと呆れだ顔をする者も少なからず存在する。
ただ今は何者か分からない男、宮本の背を視界から消えるまで見続けるだけしか出来ない。
to be continued