真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
魔王モロク
旧約聖書にも登場するカナンの国の男性神であり、子供を生贄に捧げる風習として伝えられている。
しかし、唯一神を信仰するユダヤによって子供を生贄にすることを禁じられ、モロクは悪魔の手先と称される事となる。
そんな悪魔の伝承には、炎で生贄を焼く事が多く、属性相性でも火炎は無効の表示が為されている。
かつて同じ分霊と戦ったという〔ガウェイン〕曰く、電撃に弱く、氷結に強い耐性を有していた。
しかし、何かによってステータスの一部が読み取れず、氷結のみ弱点と表示されたのを見つける。
(通常、隠すとすれば反射や吸収がセオリーですが…)
十中八九相手が仕掛けた罠と見てもおかしくはない。
故に、こちらの対策は唯一つ。
「ガネーシャ、メリジェーヌは物理での属性攻撃をお願い」
『氷結じゃなくて?』
「ええ。氷結は極力無しで」
属性相性だけではなく、スキルに反射や吸収を仕掛けておくケースも存在する。
他が見辛く隠されている以上、狡猾さという観点では向こうのサマナーは持ち合わせている模様。
敢えて受ける考えもあるけれど、其れを今するつもりはない。
『了解…たたっ斬る』
『おやおや怖い怖い』
ガネーシャとメリジェーヌがモロクへと攻撃を畳み掛ける。
『【刹那五月雨斬り*1】』
『【霞駆け*2】』
突き出された刃が交差するようにモロクの身体を切り裂く。
反射の様子は無く、効いていると思っていたが。
『んっフフフ…』【BLOCK】
『…効いていない』
「ちっ、やはり罠か」
フローチャート的に考えれば広範囲な物理攻撃にも対応する。
此処まで露骨とは思わなかったけれども。
『では、貴方の頑張りに免じて教えてあげましょう。私の属性相性は
勿体振るように口を開き、わざわざ自分の情報を話した。
牛頭の下品な笑みが癇に障るけれど。
『万能に至っては反射を持っていますので悪しからず…それでは…!!』
無効になった以上。
『燃えて差し上げましょう。【焼き尽きる炎炉*3】』【火炎バッデス*4】【火炎ハイブースタ*5】
優先権は向こう側に有る。
「…グッ…!?」
骨が軋む。
両腕でのガード越しですら、意に介さず、その膂力の高さを示すように海藤の身体は宙に浮き、3m後方へ弾き飛ばされる。
「海藤さん!?」
「余所見は禁物ですが?」
「うおっ!?」
飛ばされた方へ目を向けた瞬間に、大ぶりの刃が八神へ襲いかかる。
しかし、体勢が崩れたことで前髪数本を切り落とすのみで済んだ。
「ぬんっ!!」
「やっば!?」
一度触れれば大出血になりかねない鋭い刃を縦横無尽に振り回す。
こればかりは手を出す隙もなく、斬られまいと避けることしか出来ない。
「ハッハハハ!!後どれくらい避けて居られるかな!!」
刃が地面を抉る鋭さは如何なる刀剣でもなし得ない代物であり、避けた先の船留めですら真っ二つに裂けた姿を晒す。
(畜生…!逃げるしかねぇな!?)
一昔前に爪の生えたヒグマサイズの化け物と対峙し、斃した男の噂は耳にしていたものの、実際そんなモノと戦うことは想定していない。
故に避けることだけに専念しながら、跳び退いては出来得る限り、周囲にあるものを見ては方法を考える。
(鉄パイプとかじゃ斬られて終わりだし、鋼鉄製ワイヤーで絡ませるにもちょいと難しいな…)
鞭のようにしならせた腕を避け、其れが近くの貨物コンテナの壁に当たり、出来立ての飴のごとく拉げた様子が未来の自分を想像させる。
壁のシミになるか前衛的現代美術にされるか。
どちらにせよ、死としか言いようがない事は間違いなかった。
「ほらほらどうしたどうした?」
「うるせぇな!キモいんだよ!!」
此処で八神が取った行動は1つ。
予め隠してあった酒瓶を手にし、口に詰めた布をライターで燃やし、其れを投げつける。
目の前に迫った其れを、刃で切りつけた瞬間。
「…!?」
瓶が割れ、気化したアルコールとガソリンが飛び散って浴びせられ、引火。
瞬く間に身体中を炎に包まれる。
「お代わりどうぞ!!」
次に手に取った物を投げ込み、コンテナの陰へ逃げ込む。
付けていた導火線に火が点き、ソレが爆発する。
モロトフカクテル以外に用意していた手製パイプ爆弾である。
但し、中には殺傷能力を高める為に有刺鉄線の破片やカッターの刃、五寸釘等の破砕片を詰めていた為、如何に巨体を誇っていてもダメージは免れない。
「…………」
落ちてくる破片から頭を守りつつ、物陰から顔を出す。
ガソリンによって辺り一面が濃いオレンジ色の炎で包まれる中を細目で観察する。
「………やっ…てねぇか」
あれだけの事をしても斃したという実感が湧かない。
其れは、かつて法廷でも勝ちが決まったと思っていた裁判にて、逆転された苦い記憶とよく似た感覚だった。
「………良い点突いてたさ。只それなりに俺だって自分の身体には"処置"はしていたさ」
炎の中から、原口武雄が出てくる。
辛うじて残っていた衣服は燃え、皮膚の所々を黒い焼け焦げた跡と、釘などの破砕片がめり込んだ姿を晒す。
少なからず、身体へのダメージを与える事が出来た。
(隠してあるパイプ爆弾とカクテルで何とかイケるか?……って何考えてるんだ俺は…)
若干、彼女の考え方に引っ張られている気がする。
如何に人を容易く切断出来たり、潰れたトマトに出来る厄介さを持っていてもやることは過剰ではないか?と思ってしまう。
が、その過剰な火力でさえも根本的な危険になり得ていない事が驚きでもある。
「パイプ爆弾とモロトフカクテルか。対人戦では有効なのは分かるけど、これじゃどっちがテロリストだかわからないね?」
「………まぁ、其れは言える」
ある種図星だ。
そして、これ以上頼ったとしても恐らく対策を練られて意味を成さない可能性を考える。
(皮膚の再生は時間がかかり、刃は形成出来ない)
一方で原口武雄もまた、自身の身体機能に異常をきたしている。
焼け爛れてズタズタになった皮膚を再生させるに時間がかかる事と、それに伴って武器を作ることができない事。
その2つが重くのしかかっている。
(ハンデにしては頗るやり辛い)
これも、自身が招いた驕りと舌舐めずりしながら嬲ろうとした浅はかさが原因だと理解している。
故に、どうするべきか。
(其れでも、頭部が弾け飛ぶ位は出来ますがね)
選んだ答えは。
「さて…轢き潰して差し上げます」
「……やだね」
両腕に筋力を増す事。
まるでゴリラが両手を使って歩くように肩から腕の筋肉が異常発達が起こり、その拳の大きさに驚く。
「まるでプレス機みたいだ」
何でも圧縮する機械を思わせる巨大な拳は、当たれば八神と言えども粉砕骨折は不可避。
まさしく、死の鉄拳と名乗っても良いほどに。
「じゃあ、圧縮してあげるよ?」
「やれるものならやってみな?」
互いに構えを取る。
体格差は歴然。
だが今まで多くの難敵を斃し、乗り越えてきた八神は決して退くことはしない。
数秒、沈黙が流れ。
熾烈な攻防が始まる。
私は燃やす事が大好きであった。
生贄に差し出された子供達を如何にして丁度いい焼き具合で殺すのか楽しみにしていた。
表面をこんがりと、中はジューシーに。
泣き叫ぶ声の具合でも、火加減を誤ると酷く残念な仕上がりになってしまうのでそこらへんも注意しなければならない。
とはいえ、最高の仕上がりになるまでの道程は果てしなかった。
そんなある日、私はあの四文字の使者である〔■■ト■ン〕に破れ、彼方の国まで敗走した時。
私は見た。
とても神々しい御姿。
私では絶対に勝てない高位の存在。
人は其れを〔異星の神〕と呼んだらしく、今尚地下深くで眠り続けているらしい。
何れは地上に君臨し、全てを統べるつもりで居るらしい。
私は感涙にむせぶ。
この様な素晴らしい方に出逢えたことに。
ではどうするべきか?
其処で考えたのは、あの御方を復活させるために幾つかの龍脈を確保しておく必要がある。
それには感銘を受けた人間も必要だった。
まさか、あの御方を書いた写本を持っていたとは思わなかったけれど、此方としては都合がいい。
全てあの御方の為に。
『………燃えたか?』
無論油断はしないが、私には【血の揺籠*6】が存在する。
この力があればそう容易く防ぐことも難しい。
あの御方から得た防御の力も含めれば多くの悪魔祓いを火葬してきた素晴らしい代物。
それである以上、勝てるわけが無い。
が…。
『……ん?』
人影が見えた瞬間、燻された煙を掻き分けるように、高速で何かが放たれる。
『ぐっはっ!?』
痛み。
其れは防御の力を得てから久しく無かったそれである。
一体何故?
そこから割り出した答えは1つ。
『…万能属性か…!?』
万魔の力。
もっと上の個体であれば使いこなせる防御の力だが、私には不相応と判断された其れだが、使えたとしても万能属性を使える者はそうそう見つかるわけがない。
故に防げなかった事の恐ろしさを感じ取った。
『なっ…!?クソッ!!』
2発目が放たれる。
これが銃である事は分かっているが、おかしな点がある。
銃での攻撃は物理属性に該当する。
其れは我が身で判明している事だが、防御の力【極・全門耐性*7】を有している自分には其れを防ぐことも出来る。
だが何故?
「不思議な顔していますね?」
瞬時に3発目が撃たれる。
腹部に着弾した其れは、深々と大きく痛みを伴わせた。
『がぁっ!?』
有り得ない。
そう考えている中で煙の晴れた切れ目から1つ現れる。
フルフェイスのヘルメットを被り、古風なリボルバーを手にした少女の姿。
見覚えのあるその格好に通りでと理解できた。
『……貴女…まさか、【シュバルツバース】の…』
「存じ上げてるとは思いませんでしたが…まぁ良いです」
彼女は背負っていたらしい両刃の大剣を手に取り、構え始める。
「貴方のターンはもう来ないので」
『…何?』
いつの間にか振りかぶった大剣の一撃がいきなり身体を裂いた。
『…ま…まさっ…!?』
見たことがある。
耐性を持っていたはずの属性が"貫通"した状況を。
シュバルツバースに降り立った
『き…さまぁ…!?』
「口を閉じてろ」
冷酷な声に遮られ、私の視界に映った最後の光景は。
【モーンバレット】
無慈悲に射殺す銃口であった。
鉄塊。
そう表現出来る巨大な拳が振るわれる。
当たれば其れが胴体であろうとも手足の先であろうとも、文字通りに砕け散って破壊される。
「…シッ…!」
だが、その一撃を受け流すように回避し、その勢いのままに八神は回し蹴りを一発、原口武雄の首元へ叩き込む。
「ガァッ!?ゴハァッ…!?」
ギロチンとも称されるその蹴りは如何に筋繊維を肥大化させ、防御力を高めたとしても威力を殺し切れない。
巨体が数歩後方へと下がり、地面へ片膝をつく。
揺れる視界を直し、素早く復帰しなければ八神側に戦況が傾きかねない。
そう考え、まだ回復しきっていない身体を立ち上がらせる。
「…何故…当たらない…!!」
憤慨した気持ちを鳴らし、返ってくる訳のない問いを洩らす。
意味など無い事は知っていても其れを呟いてしまうのは未だに人間性の発露が残っている。
そんな考えを覚えながら、八神は息を整え、答えとして言葉を発する。
「場数が違うんだよ」
場数。
その言葉で、武雄の顔は唖然とする。
八神は職業柄多くの荒事にも介入せざる得なかった事もあったが、それ以前でも喧嘩に明け暮れていた時期もあり、其処から一対多数の戦い方や相手の動きでどう避ければ最小限で済ませられるか等を肌感覚で知っている。
如何に強い身体への変貌を遂げた武雄であろうとも、その未経験が尾を引いている。
攻撃をする際の余計な予備動作、全て振りかぶるばかりで当てるためのジャブやローキックなどの小技が足りず、技術な差が出てしまっていた。
故に、カウンターを当てられては不必要なダメージを負うこととなってしまう。
「…ふざける…なぁ!!」
大きく拳を振るい、八神の頭をかち割ろうと渾身の殴りを放つ。
「…ったく」
分からない訳では無い筈。
がむしゃらに振るった所で当たることはなく、ただ無情に避けられてはカウンターを入れられる。
焼けただれた皮膚にめり込んだ拳は痛覚過敏を引き起こさせる要因となり、苦悶の表情を作る。
これ以上何をしようとも、後退る様に勝機は下がっていくばかりだと判断。
このまま決めてしまおうと、八神は右腕を振りかぶり、顔面へと向けて放つ。
「……ふはっ♪」
「…!?」
一瞬、武雄の口端が大きく吊り上がる。
その意味を知るまでに3秒、考える間にその肥大化した身体から何かが飛び出し。
「ぐっ…!?」
拳表皮を大きく裂き、細かい破片が多く刺さった。
「………まさか最後の最後でそうなるとは思わなかっただろ?」
溢れ出す鮮血。
神経へと刺し込まれた破片で耐え難い激痛が走り、口の中で歯噛みをする。
「………びっくり人間も程々にしとけよ」
「それを言うなら…"ウルヴァリン"って言って欲しいな?」
原口武雄の身体から飛び出された鋭利な物体。
八神は其れを見ながら口を開く。
「…骨…か」
鋭く尖った其れは、まさしく硬質化された武器。
軽く触れただけでも皮膚おろか筋肉にまで達する凶器は、徒手である八神を不利にさせる。
「さぁ…どうする?此処で見逃してくれるなら、その怪我だけでことを納めますが?」
「するわけねぇだろ?」
「そう…ですか…!!」
八神の答えを聞くや否や、高速の右アッパーが放たれる。
速度にして先程と同じ。
何度も避けられ、カウンターを入れられた同じ物。
「くっ…!?がぁっ!?」
1つ違う部分があるとすれば、不意に足腰への力が抜け、肘が地面へとつきかけた中で胸部を圧迫する一撃へ変わった事。
ミシリと嫌な音を響かせ、身体がくの字に曲がってはその場を転がされる。
右肺への強打、肋骨は数本折れ、食道の何処かが傷付き、其処から噴き出した血が喀血となって口を赤く染め上げる。
「……ぶふっ…ご…ぁ…」
「もう容赦しません。どこの誰かは知りま……あ〜…そうか…」
頭を捻り、1つ何かを思い浮かべる。
「母が雇った探偵…ですね?前にも二人組で活動してたのがウロチョロとしてましたね。まぁ…今となっては骨も残さず"腹の中"ですがね?」
鋭く尖った歯を見せつけるように頬を吊り上げた笑みを示し、その末路を語る。
もっと前に犠牲者がいた事を八神は知っている。
ただ、その後がどうなったのかを原口から聞くことは出来なかった。
本当の意味でバケモノへと変わり果てた息子を直視させたくは無かった。
その思いが強く出てしまった故に。
「………さて、貴方もまるかじり…という趣向も凝らして見ますか。肉体も悪くなさそうですし?」
だが、食べられる事のみは拒否しなければならない。
「……やられたまんま…って訳行かねぇよ…!!」
血の止まらない右腕、呼吸のままならない肺、そして動悸が荒波のごとく押し寄せる不整脈。
有利な立場から一転して不利に持ち込まれながらも、構え戦う意志を示す。
「………では、死ね」
拳が振るわれる。
構えるまでしか出来なかった八神は、迫りくる鉄拳が顔を砕くことを予想しながらも、碌に動くことが出来ず、避けることもままならず。
「…くっ…そ…」
抜けかけた時。
「ター坊!!!!」
とてつもない轟音と共に、原口武雄の頭部を鉄塊が綺麗に入り、転倒大きくその場に叩き伏せた。
大きく振りかぶった。
飛ばされた後、加勢するためにその場にある物を見定めていたらドでかい杭を打ち込む建設工事用のハンマーを見つけた。
これならドタマを叩き抜くに良い武器になると見込んで。
其処からすぐ、手前に警棒サイズの鉄パイプを二本。
これも持って走り出した。
「…!?ター坊!!!」
異常に変わった〔原口武雄〕がター坊の頭部を砕かんと振るう中、俺は全身を捻り、思いっきり力を込めた一撃を相手の頭部へとぶち当てた。
「ガァァアッ!!?」
だいぶ拉げた感覚が持ち手の方まで伝わる。
確実にクリーンヒットさせたであろうその威力は、巨体を転倒させ、地面へと叩き伏せた。
「………海藤…さん?」
「よう、ター坊。早くこいつ飲んで何とかしてくれや」
とりあえず、怪我をしている部分に茶子嬢から貰った栄養剤っぽいのを掛けておく。
「あっででで!!?」
「うお、ホントに塞がってきやがった」
みるみる内に裂けた皮膚からうっすら膜が貼る辺り、この薬は物凄い効果なのだと理解させられる。
「……大丈夫そうか?」
「一応…」
「じゃあ、ほい」
「ん?…これ…か…」
ター坊に拾った鉄パイプを渡す。
全身から尖った骨を出してくる所を見たらそりゃ得物位は必要だろ?そう思いまして。
「……さて、ゴングもこれで最後だな」
「ああ、徹底的に打ちのめしてやるぜ」
起き上がろうとしてる奴に視線を狙い定め、俺とター坊は走り出し。
互いの得物を大きく振るう。
to be continued