真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
「知っているか?二兎追う者は一兎も得ずという言葉を」
………それは、二つ手に入れようと躍起になって一つも得られない諺だな。
「そうだ。だから物事は一つに注視した方が良い」
理解した。
「……因みにもう一つこんな言葉がある」
彼女がドレスを翻してから述べる。
「二兎から追われる者、逃げること敵わず」
………ん?
「お前の両手は存外大きいから溢すことは滅多にないだろう。まぁ其れでも掴んだ責任はちゃんと果たす」
「………良いな?」
分かっている。
分かっているさ。
だからもう夢から醒めないで…。
「……もう
「………またか」
もう掴むことの出来ない手の感触が酷く温かくて、名残惜しく空を握る。
また逢えるだろうか?と何度も思いながらもう逢えないのでは?と不安を抱えて、今日も始まる。
夏に向かおうとする時期には雨がよく降る。
今、まさしくその日であり、大粒の雫が大量に降る夜には不思議と救急搬送される事が多い。
「右手首から出血あり!リストカットと思われる!」
「くっせっ…!?殺虫剤ちょく飲みしたのかよ!?」
「3番に回して!直ぐオペ開始!!」
憂鬱の象徴なのか、助かるレベルでの自殺未遂が多い。
しかし近年、男性の自殺成功率も少なくない。
殆ど高い所の投身や電車等に轢かれるといった具合に確実に死ねる方法を選ぶ。
「50代男性!ドアノブを使った絞首による自殺未遂」
「あれ、結構失敗するケース多いんだけどなぁ…、全く」
ドアノブを使って首吊り自殺を行おうとしたのだろう。
結果として良くて部分不随悪くて重身体機能障害が起こる事は考慮していないが。
「やれやれ」
いつも通り、どうアプローチをするべきかを考えつつ、緊急オペへと向かう。
「ねぇ、知ってる?亡くなった三上さんの事」
「あ〜あ、肺炎で亡くなった人?確かお兄さんとお姉さんが見舞いに来てたけど随分嫌らしい目で見てたわ」
「そりゃ、あの人株で大儲けしたけど、家族には恵まれなかったって愚痴吐いてたから」
「お金じゃ品性も良心も買えないわけね」
急患も落ち着いてくればナースステーションから聞こえる愚痴や噂話につい耳をすませてしまう癖がある。
自分の事では無いのに気になるのは自意識過剰というのか小心者なだけなのだろうか。
考えれば考えるほどにドツボに嵌る気がしてきた。
「…………はぁ…」
事様々な理由もあってこの病院にいるものの、夜勤のスケジュールが多すぎてどうしようもならない状態が続いている。
お陰で付き合っていた彼女に別れ話を切り出され、浮気してると勘違いからの往復ビンタでは気も重くなる。
(辞めて実家近くにクリニックでも…)
心の中でそんな事を考えたが、大学で頑張ってきた事を思い出す。
まだ諦めるな。後一年我慢すれば戻ってポストを得られる。
そろそろ科の人事が始まるし、きっと助教授が。
「申し訳ない。ちょっと聞きたいことがあるんだが?」
「へっ?あっ…はい!!」
夜分遅くに女性が立っていた。
酷く雨晒しにされていたせいでか頭のてっぺんから靴の辺りまでびしょ濡れになっている。
どうやら僕はいつの間にか玄関まで歩いていたみたいだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、安物の傘が突風でひしゃげてトラックが水溜りで盛大にぶち撒けられて散々だ」
大丈夫じゃなさそうだ。
このままだと不味いな。
「流石にそのままだと風邪引くかも知れないのでもしあれだったら当直室のシャワーを使って下さい」
「………申し訳ない」
幸い、棟内のコンビニも使えるから其処でワイシャツやら買ってくればいいだろう。
「お湯は左側を捻って下さい。シャワーは右側のスイッチ押せば出ます」
「分かった、ありがとう」
とりあえず女性を当直室のシャワールームへ案内し、彼女が浴びている間に目的の物を買いに行く。
24時間営業でかつ無人のコンビニはクレジットカードか電子マネー決済しか受け付けてないセルフレジシステム。
まぁ、防犯上それのほうが良いのだろうな。
しかし、比べるのは悪い事だけれど、とても綺麗な女性だな。
身長はほぼ自分と同じく、麗しい美人な顔立ちをしていた。
若干濡れて貼り付いた衣服越しの身体も黄金比と言えるプロポーションをしていて、凝視しかけてた。
下手するとバレていたかも知れない。
そうなれば変態と見られてもおかしくはなく、考えてみたらナースステーションの女性看護師に頼んで見てもらったほうが良かった。
とは言えど、責務は果たさなければならない。
コンビニで透明なプラ袋に入っているワイシャツとスラックスを買い、直ぐに当直室まで戻る。
……待てよ?そういえば名前を聞いていなかった。
そもそも彼女は一体この病院に何しに来たんだ?
段々何が背中に寒々とした震えが走り、思わず怖気を感じる。
自分の方が風邪をひくとは思わなかった。
後で薬でも飲んで一旦仮眠を取ろう。
「さて、申し遅れたが〔ニアス・グローリア〕だ。今は無職…趣味は手芸で特技は1kg内なら誤差10gの範囲で正確に手量り出来る。因みにピチピチの19歳だ」
買ってきた衣類に身を包み、出来たての肉まんの如く湯気を立てる彼女が正座をしながら僕に自己紹介をし始める。
「あっ、僕はこの病院に勤めている〔伊集院登〕と言います。27歳です」
何だこれ?
マッチングアプリで初顔合わせしたみたいになってるけど?
「…で、ニアスさんは何故此処に?入院患者へのお見舞いは既に出来ない時刻でして…」
「いや、入院患者の方ではなく。此処で勤めている医師に用事がある」
「医師?誰ですか?」
正直羨ましい限りだ。
こんな美人に用事がある医師が知ってる人だったらぶん殴りたくなる。
「〔ミヤモト・シンノスケ〕。此処で外科と循環器内科を診てると聞いた」
…………ミヤモト?
「ミヤモト…先生?」
「ああ。何時も飄々としてて軽いようで重いものを持っていて、まるで
「…………」
思い当たる節は一つしか無い。
へらへらとしてて苛立つ様な軽い男でその癖に女性ウケしやすく、老人会のお婆ちゃん達とお茶会する守備範囲の広いふしだらな人間性。
だが時として的を得た様な言葉で相手を突き刺し、ぐうの音も言えない正論を放って意気消沈させる論者でもある。
ぷかぷか浮いている風に見えて実は根っこが深いと評される男は今の所"アレ"しかいない。
「……ええ。知ってます…時々此方でアルバイトしにくる開業医の先生ですよ」
「そうか。開業医をしていたか…」
特に驚くまでもなく、何だか無性に腹が立つ。
「しかして、伊集院先生」
何故か宮本の名前は若干音程違うのに僕の方は完璧な日本語を言えるのだろう。
奇妙な愛着感が漂う所も憎らしい感覚を覚えた。
「シンノスケの事が嫌いか?」
僕の表情から何かを察したのか。
ニアスさんは此方を見透かすようにその目で貫いてくる。
「………ええ。同世代からしたら好きになる印象は無いでしょうね」
だから本音を話す。
どうせもう会う理由は無いだろうし、ハッキリと言ってしまったほうが良いと思った。
「そうか?少なくとも〔ナガセ〕やら〔ホル・ホース〕は邪険にしなかったらしいが?」
誰だソレ?
知らない人間の話をされても困る。
「……話が逸れたな、申し訳ない」
「いいえ」
僕の苛立ちに反応してしまったせいでもあるけれど。
「で、シンノスケは何処を住まいにしてるか分かるか?」
「えっ…と…確か」
とりあえずすぐに済ませよう。
夜に女性一人なんて思ったけれどそもそも一人でこの病院に来た辺り、まぁ大丈夫なのだろう。
「新宿の神室町って街で診療所構えてます。まぁ行けばなにか分かるでしょう」
「そうか。すまないが持ち合わせが少なくて…立て替えてくれた代金は後日払いに来る」
「良いですよ。そんなに高いものじゃないので」
「必ず来るよ。絶対に」
「……はっ、はぁ…気長に待ちます」
本当に来なくて良いんだけど。
正直今の自分では対応が塩になってて良くないと思うし。
とは口が裂けても言えないので飲み込んでおく。
玄関まで送り、雨が上がっていることを見るとそのまま彼女は歩き出す。
「……この国では今は梅雨と言うんだな?」
「ええ。まぁ…」
「夏が楽しみだ」
何だか嬉しそうな笑みを浮かべ、未だ暗く分厚い雲の空を眺めては軽いステップを踏んで歩いていく。
「それじゃ、伊集院。また」
「………はい。また」
何だろう。
自分から手を引いた筈なのに何故か尾を引く感じがたまらなくそこに残る。
踏み出せば良かったかも知れないけれど、自分の中にある踏ん切りがつかないので多分玉砕するだろう。
結局、彼女の姿が見えなくなるまでずっと目で追い続けてしまった。
「……あっ、そういえば」
あの人、確か…。
「
朧気な記憶が蘇り、僕の眉間に皺が寄る。
2週間前。
マンション騒動から数日明けた日。
一皮剥けた様子の友奈からこんな話を聞く。
「実は学校から校外学習のプリントが来たんですけど…」
「校外学習?あ〜…」
何かを思い出したかのように宮本はそのプリントを手に取り、その内容を目で追っていく。
内容は、日本国内の職業体験や地域社会見学等を主とする学習制度であり、必然的に異能者の多い【聖華学園】ではサマナー、バスターを目指す生徒達の交流の時間として利用されている、
尚、引率者には高ランクのサマナーかバスターに加えて教員1名の最低二人組を必須とする。
「っで、教員枠として俺が?」
「はい。良いですか?」
「ああ大丈夫だ、家は零細診療所で何時だって休みに出来るんだ」
「良いのかなソレ?」
休みくらいは自由に優雅に孤独にと貼り紙に休業の知らせを書き始める。
神室町で生きていくにはこれくらいのズボラさと無責任感無ければ出来ない。
そんな様子を垣間見える。
「それで、一緒に行く人達は決まってるのか?」
「はい、同じ部の〔風〕先輩と〔樹〕ちゃんの2人で、同じクラスの人で〔シノア〕ちゃんもって感じに」
「ふむふむ…」
幾つか注意事項を読みつつ、引率者の選定をし。
「……あっ、そうだ」
一つ思い出し、携帯端末を取り出す。
電話帳から名前最初の一文字の欄を見つけ、電話をかける人物をタップする。
「さて、いま何処に居るんだろうな…」
相手へコールが鳴り、何回目で出るのか楽しみにしていると。
『………もしもし?』
「オッス!おら悟空!!」
『はっ?………はっ?』
突然の電話と突然のボケに電話口の青年は思わず声が出た。
そもそも、何なんだと言いたいかけくちだが。
「ってのは冗談で、よ!〔佐々木〕ぃぃ!!」
『………切るぞ?』
「切らなくても良いでしょ?酷い」
『アンタのその行為が嫌いなんだが?』
明らかに温度差がある対応にどうしてと呆れた様子の友奈。
しかし其れを意に介さない所が宮本という男である。
「まぁまぁ。色々と相談したいことあるし、頼みがあるから聞いて欲しいって訳だし」
『…………何だ?』
「それはな…」
とあらましを説明していく。
『………引率か…』
「ああ。オッケー?」
『………6,000』
「たけぇよ、2,000が相場だろ?」
『……………』
「しゃあないな。6,000で手を打ってやる」
無言の圧力に屈した宮本は仕方がなく相手の要求額を支払う事を決めた。
尚、後ろに万円が付くのは友奈は知らない。
『それで何処に?』
「あー、うん…」
校外学習先の部分を見る。
「………北海道の登別温泉。随分遠いな…」
『………訂正、〔ぐんちゃん〕も追加で払ってもらう』
「うわキツ…!?」
一気に億単位に変わった事を友奈は知らぬまま、相手との業務交渉が終わる。
出発当日
未明の朝はまだ暗く、診療所の前には一台の黄色のバンが停まっている。
「……ぶぅ〜〜!!」
「駄目です。単位足りなくなるでしょが!」
「行きたい行きたい行きたい行きたい!!単位なんて何とかできますよ!!」
「今週から実習続きでしょうが!」
「畜生!知られてた!?」
駄々をこねるない世を宥めつつ、落とせばどうなるのか説得する宮本。
「……グスン。お土産宜しくお願いしますよ…」
「ハイハイ。二度寝でもしてなさい」
「へーい…」
敢え無くどうしょうもなくなってはトボトボとため息をついて歩いて帰る。
大学生という存在は小中高の今まで授業を受ける物であったが、大学では選んで受ける事が必須であり、ある程度好きな科目やればいいわけでは無い。
得意不得意双方合わせてやらねば単位が取れず、進級も卒業も出来ずに留年という不名誉な称号を得てしまう。
勿論、その意味でも宮本の愛の叱咤であることを承知の上でさめざめと泣いて帰るのである。
「……えっと、大丈夫なのかな?」
「大丈夫大丈夫。ない世ちゃんは其処の所は理解できる人ですし」
(私達と変わりなくて大人なんだなぁ…)
明らかに自身より低いと思われたり、散々な印象を持たれつつある。
「えっと…、〔犬吠埼風〕さんと〔犬吠埼樹〕さんですね…後は羽田で合流と」
「宜しく宮本先生!まさか友奈が校医の先生と一つ屋根の下とは思わなかったな〜!!」
「別に?なにか?」
「ええぇ…、其処は顔赤らめて否定する所だぞ…!?」
「………分かんないです」
友奈と共にする3年生の少女、犬吠埼風は長い髪をサイドテールに束ね、笑って弄ってみたりする姿は年相応な部分を見せる。
「あっ、ど、どうも…先生」
「やぁ。樹ちゃん」
対して若干離れた位置で宮本を見るのは妹である犬吠埼樹。
友奈より1年下の学年におり、姉の校外学習に付いてきたという形で参加。
サバサバした気の強い姉とは異なり、おとなしく控えめな立ち振る舞いの彼女に少し考えた後にその場に片膝をつく。
「まぁ、至らない事があると思うけど…宜しくね?」
「…あっ。はっ…はいっ…///」
満面なにこやかスマイル。
巣鴨のマダムを虜にし、百戦錬磨なお水の嬢のハートを射止め、パパ活(二十代限定)女子の鎧を脱がせるクリティカルヒットな奥義が幼気な少女へ襲いかかる。
「チェスト!!」
「ヒギィッ!?」
尚、渾身のタイキックがクリーンヒットしたことで臀部がシックスパックになりかけた。
「樹ちゃん、こういう大人には金的か
「えっ…あっ…うん…」
(何だか逞しくなったわね友奈)
否応なくとも言うかも知れない。
「………さ、さてぇ…集まった事だし…行きますか…」
腰を擦りつつ、バンの運転席へと向かう。
「あっ、宮本さん。
「えっ?……そうだっけ?」
友奈からもう一人来る予定を聞いたのかどうか、記憶を探るも。
「はい!同じ部の娘で、私と同じクラスなんです」
「……ふむ…うむ……分かった」
同じクラスメイトであればと半ば強引に納得し、少々の間待っていると。
「ごめんなさ〜い!!おまたせしました!!」
息を切らし、小走りに此方へと向かう少女が見える。
「あっ!〔柊〕さん!」
「ちょっと遅くない?どうしたの?」
「いやーごめんなさい。突然家業の方で急ぎが出てしまい、先程終わった所何ですよねぇ…」
「あー、ソッチかぁ…」
柊。
そう呼ばれた青紫がかった灰色のセミロングヘアの少女は風からの問いを答え、三人共に納得させる。
彼女もまた退魔を生業とする一族出と考えられるのだろう。
宮本は頭を捻っては未だ残り続ける記憶の綻びに疑問を思いつつ。
「さあさあみんな乗って。荷物も積むよ!」
「「「「はーい!!」」」」
出発する。
『これより5:27発の羽田〜新千歳空港行きの搭乗時間となりました。お客様は7番ターミナルへお願いします』
アナウンスから聞こえる出発時間の知らせは心の中で急ぎつつ、焦らずに早歩きで向かう事となる。
「まさか首都高部分封鎖してたとは思わなかったぜ畜生!?」
「7番ターミナルは此方です!!」
「にゃぁぁあーー!!」
ホーム・アローン程ではなくとも急がねばならない中、宮本達は無事7番ターミナルへと辿り着いた。
「……あぶねぇ…」
「本当に危なかったんですが?」
搭乗口前に宮本へと声を掛ける者が一人。
「……やぁ〔ささきー〕」
「ええ、〔宮本〕さん」
頭頂部の黒に灰色がかった白の髪。
美青年というカテゴリーに入る男性。
宮本からささきーと呼ばれた彼と隣にはもう一人、黒髪の少女が立っている。
「お久しぶりです、宮本先生」
「あっ久々、〔ちー〕ちゃん」
「ぬんっ!」
「ぐえっ…」
少女に気安く愛称を呼んだ宮本が横っ面を殴られ、とんでもない宙回転をした後に倒れる。
この光景には皆唖然とした。
「気安く〔千景〕をそう呼ばないで下さいと何度目ですか?」
「良いのよ〔カネキ〕。別段知らない仲では無いから。それとも昔みたいに〔ぐん〕ちゃんって呼んでくれないの?」
「あっいやっ!?そう云うわけじゃ…!?」
身長差のあるカップルが乳繰り合っている。
そんな風なやり取りを何故か見せられた気がしている。
少し時が過ぎて。
「初めまして。フリーのデビルサマナーをやっています、〔佐々木琲世〕です」
「同じく、カネキと組んでるバスター担当の〔郡千景〕よ。今後ともヨロシク」
旅客機内に入り、席についてから挨拶をする。
裏業界に属するフリーランスのサマナーにしては実に好青年のイメージを持つ琲世と、感情の起伏が乏しい少女千景という若干奇妙なコンビと思いつつ続いて紹介が入る。
「初めまして!聖華学園中等部2年の高嶋友奈です!」
「同じく聖華学園中等部3年の犬吠埼風です。宜しく」
「あっ、はい…!中等部1年の犬吠埼樹です…どど、どうも宜しくお願い致します…」
「どうも、高嶋さんと同じクラスの柊シノアです。今後ともヨロシクですね♪」
千景と同世代かな?
と琲世は考えては長い付き合いになりそうな少女達と挨拶を交わす。
それも程々に済んでから宮本が口を開いた。
「ってなわけだ。新千歳に着いたら現地で活動してるサマナーと合流し、電車で登別へ向かう」
「「「りょーかい!」」」
「元気あってよろしい」
発進のアナウンスが始まり、シートベルトのランプが付く。
これから北海道まで上昇気流に乗り、地上はるかに遠い世界に飛び立つのである。
「…………」
「……相変わらず飛行機苦手?」
「ハッハッハ……ふぅ…」
横に3席、通路側に座る宮本に千景が眉間などに皺の寄る顔を見て思い出す。
宮本は何故か潜在的に飛行機等が苦手であることを。
普段の軽口が出ない辺り、少々とは言えないほど苦手意識に苛まれている。
「飛行機が苦手なのによく世界中ほっつき歩けましたね…」
「さてな。俺にだって分からない」
青白い顔が更に濃く色づく。
片道一時間半程度の飛行機旅にしては酔い止め薬ではなく、ジアゼパムを用意している辺り、相当なものだろう。
「………ちょっと寝る」
若干不貞腐れ気味に、渋い顔のまま目を閉じて深々と背もたれに身体を沈める。
「……カネキ?」
「いや、僕は悪くないけど?」
「全く…」
謝る気など無い。
そんな風に顔を背ける琲世へため息を吐き、頬杖をつく。
姦しく語る少女達と少々凸凹感のある二人の奇妙な一団は不可思議な珍道中が始まりを迎えるのだった。
to be continued