真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
デンジャークロース
意味
味方が存在する激戦区に超至近距離砲撃支援をする作戦。
主にベトナム戦争にて南ベトナム軍が西側諸国軍の砲撃支援や空爆をさせないためにゲリラ戦を行い、妨害する戦法を取っていた。
その為、前線の味方が居る中で野砲等による砲撃支援を行った作戦名である。
此等はロングタンの戦いと言い、主にオーストラリア及びニュージーランド軍と南ベトナム軍が戦った記録がある。
翌朝。
朝日が見え隠れする時刻で、最初に目を覚ましていたのは宮本であった。
「………ふぅ…」
片足親指のみで不均等な岩の上に乗り、ゆっくりと両腕を回し、弧を描き、演舞を行う。
体幹が優れているだけでなく、全身の筋肉を動かすに余計な力が加わっていない事で如何なる場所でも地盤の優れた土台に立っているように見えた。
これが必ず行う日課の一つ。
精神集中と肉体のバランス、そして力学的な運動能力の維持向上を促している。
ある時は金網のある手すりの上で。
またある時は崖の上や不安定な足場で。
何時でも何処でもできる事をする事が宮本の物事の姿勢であり、己の心を落ち着かせるべく、今日も鍛錬を行う。
尚、其れにも理由がある。
「合計40人前後の凶悪犯が受刑中の刑務所から脱走。その手口は未だに謎とのことです」
「頭痛い」
「他にも、ガイア及びメシア勢力の上陸を確認。裏社会組織づてに潜伏中です」
「頭痛が痛い」
白野から出された情報は宮本、琲世双方の頭を悩ませるに至る。
法務省直下である全国の刑務所は、刑務活動として工作や作業を行い、ある程度の時給を得られ、場合によっては資格取得の試験なども行う事ができるため、所内の治安は軒並み安定性を帯びている。
故に、脱走を考えるよりも刑期を全うするほうが平静を保てる。
「支遁先生は少なくとも脱走するような人間性じゃないと思うんだが?」
「ええ。面会の際に植えていたトマトがそろそろ完熟だと言ってました」
「それなら尚更脱走の理由にはならないな」
刑務活動の一環なのか、家庭菜園程度の栽培が許されていたらしく、植物学を選考していた支遁が中心となって中庭の一角で作っていた。
其処まで充実していたならばわざわざ出てまで何かをしようとする事は無い筈。
そう考えたが、ある一つの事が引っかかった。
(いや、まさかな?)
流石にな?と思いながらも口にするのも厄介な物がある。
宮本はそれ以上いけないと考え、思い出したことを頭の隅に追いやっておいた。
「脱走理由は判明してませんが。其れでも北海道中に散らばった受刑者を穏便な形で捕獲しなければならないんです」
「成る程、僕等が雇われた理由がそれなんだ」
琲世は納得する。
もしもこれが世間に漏れれば数ヶ月間ワイドショーのネタには困らず、偏向報道が続くであろう。
自分達の不手際は万が一あれども、非が無い以上はあらぬ疑いをされても困る事は間違いない。
故に知られぬ前に解決しておく。
其れが唯一の手段であった。
「所で僕等は支遁先生のみを?」
「ええ。高レベルの異能者でお知り合いであれば対処も十分だと思いまして」
「まっ、抵抗してもなんとか出来るから心配無い」
少なくとも直ぐに気絶させられる自信はある。
「では、また明日この時間に」
「了解」
「では」
次の日の約束を行い、皆早々とその場を後にする。
朝食を食べ終え、早速友奈達は突然出来たとされる異界へと足を踏み入れていた。
\カカカッ!!/
〔悪霊:デプス Lv21〕
『ギシャァァアアア!!!』
\カカカッ!!/
〔屍鬼:オバタリアン Lv23〕
\カカカッ!!/
〔屍鬼:ゾンビ(猟師) Lv14〕
溢れ出てくる悪魔に普通であれば顔を蒼白にし、絶望する場面であろう。
「施餓鬼米!!」
『『『ギシャァァァ!!?』』』
但し、破魔属性が有効な為、【マハンマ】程度の効力を持つ施餓鬼米を使えば忽ち蒸発するように消えていなくなるが。
「よしっ!ゾンビは火炎弱点だから打ち漏らさずに燃やし尽くせ!!!【マハラギオン】!」
「【九十九針】!」
「一撃必中!!【メガトンプレス】!!」
即死の入らなかった他の悪魔も、驚異的なスピードで狩られ、消滅していく。
瞬く間に悪魔の群体は消滅の一途を迎えていくのだった。
「点呼!及び今の状態把握!」
「一応傷薬使う予定です!」
「それじゃ使っていこう!」
必然と年長者である風がリーダーとして仕切ることになる。
特に何かあるわけでもなく、友奈やシノア、妹の樹も其れに従う。
「……連携は反省点少しあれどもまぁ及第か…」
「普通に合格でも良いんじゃないですか?」
「いや、こういう異界内じゃ珍しくないし、対応遅れたらそれこそってのもあるだろう」
「尻だけ見てたわけじゃないの?(成る程…参考にさせて貰います)」
「本音と建前逆逆〜!」
(本当にお尻見てたわね)
尚、悪戯な笑みを浮かべた千景によって視線の先をバラされた事で女子一同から脛へ安全靴蹴りを御見舞される事となる。
………
「先ず一日目お疲れ様」
「「「「お疲れでーす!!!!」」」」
「というわけで、今日の晩御飯は仕留めた鹿をじっくり焼いて作ったローストとシチューで御座います」
「シャオラッ!!」
「お姉ちゃんの女子力死んじゃってる!?」
夜空に星がちらつく頃、丁寧に焼かれて芳しい香りを立ち上らせる肉を切り分け、それにありつく。
「物凄く柔らかい!もっと獣っぽい臭いすると思ってましたけど?」
「丁寧に血抜きして捌けば美味しく出来る。残りはブフっといてクーラーボックスに入れてある」
「スパイスとにんにくが効いてて美味しい!」
「オリーブ油ヒタヒタに焼いたからそれをパンに付けると…」
「絶対美味しいやつ〜〜!!」
予め持ち込んでいたバケットを焼いた油に少し浸し、それを齧る。
塩胡椒に香ばしいにんにくの風味が効いたオイルはアヒージョと同じく美味である。
調理された食材を美味しく食べて囲む女子達を見る中、琲世は一つ訝しんでは口を開く。
「こんなに物資持ち込んでいたんですか?」
「あ…うん。ちょいとね?」
「……これってルールで禁止では?」
「デビルサマナーはルール無用だろ?」
「デビルサマナー怖い…って何言わせてるんですか!?」
若干タフに引っ張られつつ、宮本のタネ明かしが始まる。
テント設営は一応宮本が行っていたものの、その他食糧と物資搬入及び河川敷の風呂設計は宮本の仲魔が行った物。
物理的に荷物を四次元空間に仕舞い込める悪魔や瞬間移動めいた異能を使える悪魔を持っていれば特段珍しくは無いものの、此れ等を使う事について、卑怯では?と思われる可能性は無きにあらず。
とは言うものの、悪魔召喚師の特性であり、此れ等も才能の一つ故に使う事は当たり前である。
「流石に食べ盛り複数人のカロリー係数は半端ないぞ?これくらいは許容範囲だろう?」
「普通に考えてキャンプ飯がホテルビュッフェレベルになったら平均値が爆アガリでしょうが!?」
「そこは追々とね?」
「変な所で甘いですよね!?」
(多分カネキも甘い部類と思うけどね?)
一番柔らかいヒレ部分をフォークで取りつつ、男二人の一幕を眺めては千景は口に出さないでおく。
…………
片付けも終え、寝静まる頃。
宮本と琲世は静かに起き上がり、ベースキャンプから抜け出す。
「シャムシエルは此処で鳴子役だ」
『オイラ何時もこんな感じだな』
シクシクとぬのハンカチで涙を拭う。
若干三杯酢の匂いがする中で何も感じること無く二人はその場を後にする。
「宮本さんの負担が大きい気がしますけど大丈夫ですか?」
「元は俺の依頼だし、負担に関しちゃ足首に1kgの重り付けた程度だ、へーきへーき」
「それで済むのが不思議ですけど」
術者が仲魔から離れれば離れる程マグネタイトの消費量が上がる。
その為、複数召喚やkm単位で離れる事は行われないのが定説であるが宮本のみ、複数体をデフォルトに運用を行え、長時間キープ出来るMAG量を有している。
其れが一般的なサマナー達から恐れられている要因であった。
「なのに
「それ言うなって…」
但し、宮本は一切魔法由来のスキルが使えない。
【アギ】おろか【ディア】等の回復も使えないのが玉に瑕だと本人でも感じている。
「僕みたいに総量が低いなら兎も角、不思議ですよねそれ?」
「………まぁ覚えねぇのは諦めてるよ。だから手数で万能感出してるからさぁ…」
「確かに。サマナーの才があれば埋められる差ですから」
これらは決して宮本に限った話ではなく、生体MAGの貯蔵が少ないサマナーも少なからず存在しており、Lvでは解決出来ない場合もある。
その点では琲世もまた該当している事で遠回しに自虐的な発言とも言える。
「さて、そんな事は良いからお仕事しようや」
「ですね…」
と、暗くなる話題を切り上げて宮本は左腕を動かし、琲世はガントレットタイプのウェラブルデバイスを操作する。
「よし出てこい〔アンドラス〕」
「来い、〔ドミニオン〕」
共に形状は異なるものの、同じCOMPである。
目の前に光る魔法陣が形成され、COMP内のデータとして登録された悪魔を物質界であるこの場へと召喚。
宮本の前に現れるのは奇妙な三等身のナマモノめいた気味の悪いゆるキャラ風の悪魔。
其れはソロモン72柱の一柱、63番目の大公爵こと〔堕天使:アンドラス〕。
対して琲世の前に現れるのは、青色を中心に黒と白の布地を持つミニスカートワンピース調の服を身に纏った少女。
聖書に於ける主天使であり、ヒエラルキーでは4番目の悪魔〔ドミニオン〕。
『イェーイ!相変わらず背中丸見えのスケベな娘だね!』
『うわっ、佐々木さんこのナマモノ近付けないで下さい』
出たや否や四肢をうねらせてはセクハラをかまそうとするアンドラスを両方の銃らしき物体で押さえ込むドミニオン。
その顔はとてつもなく嫌そうにしていた。
「アンドラス、ステイ」
『チッ…!何時か星5レアのなすびちゃんが出た暁には全身舐め尽くしてやるわ…!!』
「多分それ叶わぬ夢だとぼかぁ思うんだ」
〘……なすびちゃん?〙
宮本によって羽交い締めにされたアンドラスは無茶苦茶な捨て台詞を吐いて大人しく従うことを決めた。
「それはそうと相変わらず背格好に変わり映えはしないな、お前さんの元〔エンジェル〕」
「僕だって分かりません。合体は一応してますけど…」
『私見たって困ります〜!』
一応に背から生えている天使を象徴とした白い羽根は兎に角、悪魔合体をしても変わらぬ姿には琲世も不思議に思っているが。
「……まぁ、合体の度に信頼関係構築も面倒だし良いかなぁ…って」
『無精過ぎてそれはヒドイ』
「〔ノエル〕は〔ノエル〕のまま…だろ?」
『………まぁ、それなら…それで…///』
(〘チョロいな…〙)
宮本とまた違うサマナーらしさの無い琲世の発言には顔を顰めるも、その後のにこやかな笑みでハートを射抜かれるのだった。
「さて、チョロインのチョロさの実績解除したので早速頼むぞ」
『合点承知之助!』
『チョロインって言うなぁ!!』
最早ウィークリーミッション的なノリで解除され、物申すも当のサマナーは疑問にも思わず仕事へ取り掛かり始めている。
「所で、手がかりとかは?支遁先生探すにもあの人SAS仕込み何でしょ?」
「……まぁなぁ…。人糞持ち帰ってるか迄は不明だけれど臭い消しはしてるだろうな…」
『えっ?うん○持ち帰るの?何で?』
『SASって特殊部隊は色んな意味で特殊なんだよ…』
天使もカルチャーショックを受ける徹底ぶりのブリテン特殊部隊事情。
宮本は仕込まれた具合と動植物への偏愛レベルの知識量を併せて考えてみると、相当に手強い事に目を細める。
入隊試験ではナイフと古いコートのみを支給され、それで追手から逃れつつ数日を森などで過ごす話もあり、其れ等も体験したならば道内でも快適に過ごしている可能性を示唆させる。
「生存は心配なしと考えていい訳ですね」
「むしろ此方が狩られる側かも知れないがな?」
「プレデターか何かですかそれ?」
「地球人の分、こっちの手の内見破られる可能性が高いぞ?」
「なにそれ怖い」
悪魔合体したヒグマに単独で仕留める能力と豊富なサバイバル知識と実地で鍛えられた実績からすればそれこそ恐怖の対象ともなる。
いつ襲われてもおかしくはないモンスターパニック映画に迷い込んできたかと錯覚する中。
「そもそも他勢力もポップしてるんですよね?」
「ああ。(Fワード)で(聖なる糞)な不愉快極まりない連中がそこのけそこのけしてるらしい。お陰でごみ処理には事欠かないがな?」
「不本意ではありますけど…まぁ必要経費扱いにしときます」
他勢力、極LAWと極CHAOSな考え方の存在達が挙って集まり、何故か争奪戦を行っているらしい。
見るに堪えない言葉にするにも憚れる人間性である以上、一度口を開けば相手への批判と自己への偏愛の語録がつらつらと述べられ、思わず耳を洗いたくなる気持ちが湧くであろう。
諸々の環境的にも存在抹消するべきと合意できる極端な考え方を持つ者達へ、武力行使も辞さない勢いを持ちつつ、渦中に居る支遁を探さなければならない難易度の高さが脳内にちらつくが、仕方が無しと諦める。
「先ず…姉畑先生はどう動くか…」
ただ闇雲に探すのではなく、本人の持つ合理的思考とその場に合わせた柔軟性を元にどう行動しているかを思考していく。
「アイヌ式ですと倒木にシダやら何やらで補強して簡易小屋造るとかありますけど?」
「ああ。冬でも葉っぱが生い茂る木を屋根代わりに倒すアレか?有り得るな…」
下手をすれば偽装した小屋やシェルターも造ってある可能性も考えられる。
そんなバイタリティの高さも視野に入れると最早ランボーか神秘の島に不時着したサイラス医師並みであろう。
「何か考える度にドツボにはまってく気がする」
「探す手前で考える事じゃないですねコレ」
予測不能の存在を枠に嵌められない。
その事を理解し、先ずは手がかりとなる物を探すが。
「"無いものを探す"って中々哲学的だな…」
夜の闇を見てはため息をこぼす。
道内某所のドライブイン跡地。
男にとって今回は凶事だと示している気がした。
理由は一つ。
自身が表向きは占いを生業としていることと、結構当たると評判だからという事だが。
実際は当たると思い込ませて言葉巧みに誘導しつつ、行動内容を形成していく事が正しい。
占いにはオカルト的な知識は必要ない。
男はそう感じながら、裏の仕事を行うために北海道へ上陸した。
「………来たか」
そんな男と同様に生活の為に働く者も居れば、本気で教えや混沌の考え方を持って挑む者も少なからず居る。
特に一人目立つ者が居る。
恐らく後者の側であろう。
「………マジかよ」
病的に白い肌に直接描かれた藍色の線状文様の入れ墨。
鍛え抜かれた肉体を見せつけるかの様な袖のない上着と白のズボン状の道着。
直接は見たことのない大物。
ガイア教に於ける武力の頂点、最強の一角たるその実力は見ただけで肌を撫でるようにヒヤリと熱を奪う。
「…拳鬼〔猗窩座〕。ガイア教本部から招集されたのかよ…!?」
男同様に周りの者達も気付き、認識する。
曰く、拳一つでメシア教テンプルナイト一個中隊を軽く捻り潰したという。
曰く、その身には羅刹鬼を宿しており、転生者の中でも多くの高位悪魔を屠った。
曰く、メシアン達からは
そんな最高戦力の一つが招集を受ける事に、世俗に塗れた自身が居ることに疑問と、一つの恐ろしい答えが浮かび上がる。
自分は肉壁なのでは?
その思考が一度でも浮かぶと、どんなに違うと否定しても再び頭の中から出てくるジレンマに悩まされる。
とは考えるが、ガイア教の理念は弱肉強食。
自由を得るには力がなければならない。
その考えがある限り、三下程度の実力しか無い自分では上納金を払い続けるしか生きる道はない。
「……ん?」
不安と募る訝しさを胸中に仕舞っていると、携帯端末にガイアーズ内の共通チャットから連絡が入る。
内容は現地に到着するまで聞かされておらず、何が目的なのかも理解していない。
一斉送信された為か、周りにいる者達も同じ様に携帯端末やCOMPを開き、閲覧をし始める。
記載されている情報は一つ。
〚姉畑支遁を捕まえよ〛
のタイトルに映し出された中年の男の顔写真。
身長、体重等の体格情報。
確認されている魔法系スキルの所持。
脱獄したばかり故に殺傷出来る装備は持ち合わせてない事を記されている。
「……捕獲されたその時点で参加者全員それぞれに50万の即金。捕まえた者には+200万の報酬…!?」
尚、表記は円でなく$となっている。
少なくとも全員が手に入り、捕獲した者はボーナスが入る仕組みだ。
全員が捕まえる意志を持っているならば充分勝機はある。
「……やるぞっ…!!」
「うおぉおおお!!!」
「へっ、ボーナス200万は頂きだ!!」
「…………」
各々手に入れられる額では最高値に達するであろう大盤振る舞いに目を煌めかせて意気揚々に顔を上げる。
仕事開始のボルテージとしては悪くないスタートと思われる。
「……クソっ…やってやるよ…!!」
男も覚悟を決めた。
上納金の為だけでは無い。
自身が組織でのし上がっていく為にも金は必要である。
多少の無茶も厭わず、手段も選ぶつもりは無い。
弱ければ殺され、強ければ生き残れる。
目標の人物〔姉畑支遁〕を捕まえるべく、男は先ず集団のアテとなる人間を探し、協力を募ることから始めた。
男はメシア教で神父を務めている。
しかし、特定の教会に在籍していない言わば派遣社員の役割であった。
そんな神父は極東の地である日本に派遣され、イチ管理職として本部から派遣された要員の手伝いをする事が今の職務である。
神父はこれからやって来る人物に対して、額から流れる冷や汗をハンカチで拭って受け止めるながら待ち続けていた。
「……はぁ…。本当に大丈夫なのでしょうか…?」
何度目の疑問なのか。
数えることも億劫になるほど行ったと思考するほど不安を抱え続け、かつて町の待合所であった廃墟にて待機している。
「〔アスキン・ナックルヴァール〕が死亡してから派遣要員が出し渋り、世界各地の支部で不満が噴出している。このままだとメシア派の影響力は削られかねませんね…」
神父が危惧するのは自分達の権力の象徴。
つまり、【天使】が御旗として活用出来ている事がメシア派の今ある理由で、その意義が揺らぎかけている所がある。
「近年ではイスラム圏でCOMPを利用する多く、教会にも襲撃をかける過激派も居る始末。此れでは我々が培ってきた物を総て奪われるというのに…」
大きくため息が吐かれ、その問題の大きさを物語る。
イスラム教もメシア派の本流たるカトリック、プロテスタント、ユダヤ教同様に唯一の"神"を信奉する宗教であるが、考え方の違いで枝分かれし、互いに認め合わず小規模な紛争を続けている。
それこそ奇跡の力たる天使の能力で全て地均し出来るものの、現教皇猊下は力による支配を認めず、あくまでと対話と共存共栄を願っていた。
故にその暴挙を止められず、四苦八苦の事態に晒されているのが現状であるが。
「……さて、本当に大丈夫なのでしょうか?」
これも数度繰り返している。
それ程までに心配事を抱える神父はソワソワと貧乏ゆすりをし続ける。
最中、一瞬何かが通り過ぎた様に感じ。
「へぁっ?」
思わず変な声が出る。
「御機嫌よう、神父」
「はあっ?」
間抜けた声で返事をするも何処に誰かが居るのか直ぐには理解出来ない。
それもそのはず。
「|ω・`)ノ ヤァ」
「ひぇぁっ!?」
唯一明かりとして持ってきていたオイルランタンの光に突如として謎の大男が現れる。
明かりとしては少々乏しい故に照らされた顔の輪郭は、未だこの世を彷徨う亡者を思わせ、神父は悲鳴をあげながら、その場に尻餅をつく。
「おっと、申し訳ありません。驚かせる訳じゃ無かったのですが……」
「はぁっ!?ほぁっ!!?」
腰を強打していないかどうか心配する大男に対して、器用に後退っては一番奥の壁に当たり、動けなくなる。
「私です神父。ヴィットーリオ枢機卿より派遣要請を受けた【パラディン】です」
「はっ!?しっ…資料では確か"女性"だと…!?」
「……あ…、はい…確かに…」
どう見てもフランケンシュタインの怪物としか見えないガタイの良い大男。
神父は同封された写真に写る"ブロンドカラーの麗女"とは流石に思えなかった。
「少々お待ちを…えいっ!!」
ただその体格から想像出来ない女性らしい声色が発されてくる所が脳内にバグを引き起こし、神父を混乱させる。
但し、それ以上の混乱が今起こる。
突然大男の頭部が割れ始めた。
「ヒィィィイイイ!!?」
頭頂部から左右に割れ始め、MRI検査のごとく身体が輪切りになっていくと、中央部分から煙が漏れ、姿が現れる。
「改めて御機嫌よう。バチカンより派遣されて来ました。【埋葬機関】の
白銀の鎧に身を包み、名にある身の丈を超える斧槍を手にした麗女。
カトリックが誇る最強の退魔機関。
浄化と称して滅する事を躊躇なく行える神に仕える暴力装置。
【埋葬機関】
それに属する。
to be continued