※この作品はR-18です。

真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜   作:葉隠小太郎

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第六話 爆ぜる先に

 

 

夜空に星が一つ流れる。

 

明かり一つ無い森の中から見える星空は満天が広がり、何もなければ見惚れていたと思う。

 

願い事を言う前に消えてしまう程、儚い光景。

何度も人の生命が散る様子にそっくりだと思いながら、私は眺め続けていた。

 

「………こんばんわ。都会では見れない良い夜空ですね?」

「まぁね。今日は随分と北斗七星が輝いて見えます」

 

ニッコリと愛想よく、相手に笑顔を振りまく。

それが必要であり、一応聞かなければならない事が多くある故に仕方がなく。

 

「しかし、この様な夜更けに娘さんが一人では少々良くないと思いますよ?特に睡眠は成長をもたらす要素ですから」

「今は関係ないですよね?私の体格とかは特に気になるようなカテゴリーではないですよね?」

 

正直こちらを見透かす態度が気に障る。

 

姉畑支遁。

 

脱獄囚であり、デビルバスター界隈では畏怖を込めて支遁先生と呼ばれる人物。

教養に優れてると共にフィールドワークにも長ける芸達者。

 

そんな人物を前に、私自身は少々焦りを感じていた。

 

「私のことをご存知みたいですね?」

「分かります?」

「そりゃあ、その態度は仕留めるタイミングを測っている猛禽類に思えますからね…」

 

なるほど。

確かに探りの上手い部分は肌で伝わりました。

 

さてどうしましょうか?

 

「………多分、君は〔柊〕でしょうか?」

 

私が考える間に姉畑支遁が問いかけてきたのでビックリしました。

でも顔には出さぬ様、しっかりと張り付けた笑みは崩さず。

 

「その理由は?」

 

逆に問い返すと。

 

「雰囲気…というより"色"の感じが柊の一族かな?と思いましたが……どうですか?」

 

図星だ。

初対面でバレるほど生半可な術式も欺瞞もしていないつもりでしたが、二枚も上手だったみたいですね。

 

少々とは観察不足でした。

 

これは確実に喉仏を噛み砕こうとする猛獣そのものです。

 

「沈黙は肯定と捉えますが?」

 

何も言うことは無い。

ただ目的を果たせばいいだけ。

 

「成る程…。名門"柊"の御令嬢が直々にとは…私もそれなりかなとは思いましたが?」

「其処まで恐縮されなくとも大丈夫ですよ?自分でも分かっていますけど……そ(・)ん(・)な(・)優(・)先(・)順(・)位(・)は(・)低(・)い(・)の(・)で(・)」

 

一つ、念を込めて伝える。

 

ただ一人派遣されただけの任務というのは自他共に考えてもあまりにお粗末だと思われる。

然程重要ではないお仕事を押し付けられたと口にするつもりは無いけれど、それでもせめて認められるならばと自分なりに考えた。

 

「…では、どうしますか?」

「どうしましょう?」

 

互いに疑問文で答え合う。

 

私が既に武器を構えている事を向こうは知っている。

だと言うのに武器らしきものは持っておらず、寧ろその体勢は、何時でも逃げるかのようなもの。

 

「お嬢さん、もう少しだけでも自分で疑問を思ってくださ「あっ、そういうのは良いので」あっはっ!?」

 

逃げようとしたので頭頂部スレスレに斬撃をお見舞いする。

 

後ろにあった白樺の木は真っ二つとは言えないけれどそのままこちら側へと倒れ、回避。

 

「では逃げます!」

「逃がしません」

 

此方の目的を知るや否や姉畑支遁は速攻森の中を走り出し、私は追いかける。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

結果から話すとしよう。

 

ブロードソードの一撃であろうとも、フレイルの大振りであろうとも、槍の刺突であろうとも。

 

宮本の拳撃の前では児戯に等しく、一人につき一発の左右ストレートに上段回し蹴り、掌底によるアッパーカット、喉仏への貫手、裏拳一つの下顎粉砕骨折、捻り投げからの頭部垂直落下。

 

此等を受けて無事な者は居らず、遂には片脚掴んでからのジャイアントスイングで複数人を巻き込んだのは御愛嬌と言えるらしい。

 

「………ようやくモーターのコイルが温まってきたな」

 

あくまでも準備運動。

 

前座とも言えるだろう下準備程度の立場でしか無かったガイアーズの戦闘員達は死にはせずとも死ぬ程痛い不運極まりない状況になるも。

 

「…そんな…こと…言ってられる…のも…ガハッ…」

「今の…う……ち…」

 

最後の最後に捨て台詞を吐いて昏倒する。

 

「………んなの承知の助ってヤツだろ」

 

無論のこと、宮本もその雰囲気を感じている。

 

重く伸し掛かる様な鉛めいた気の感覚は、相当に練られた物だと判断。

周りの草木すらそれで揺らめいて見える程、禍々しい様子は早々お目にかかれないと思い耽った。

 

「素晴らしいな…」

 

声と共に爆発をするように何かが着地する。

土埃が舞い上がり、姿は見えずとも対峙している事だけは判る。

 

「その練り上げられた闘気。余程の修練を積んで来たと見る」

 

現れたのは一人の男。

 

肌に刻まれた藍色線状の入れ墨と鍛え抜かれた肉体を持つ人物。

 

「………誰だ?」

 

一頻り男の姿を見ては、宮本は問う。

 

「ふっ…俺は〔猗窩座(あかざ)〕だ。俺はお前を知っている。〔バーバ・ヤーガ〕だろう?」

 

相手を品定めするかのようにねっとりとした声色を宮本へと向ける。

しかし聞く風は見られず。

 

「生憎だけれど、これでも新宿の種馬って呼ばれ……何?そっちは知らねぇぞ?」

 

何かに触れたものの、何がとは分からず頭を傾げる。

 

「まぁいい。話は…」

 

予想外の反応で少し冷めた口調になるも。

 

「拳(・)と(・)い(・)う(・)方(・)法(・)も(・)あ(・)る(・)!!!」

 

瞬時に宮本へと詰め寄り、顎へ向けて右アッパーを仕掛ける。

 

視覚外からの一撃は、熟練者であろうとも避ける事は難しく、当てられればノックアウトにもなりかねない。

 

空を裂き、爆ぜた音が周りに響かせた。

 

「…あっと、あぶねぇあぶねぇ…」

 

その一言で済ませるように宮本が話す。

確実に仕留める勢いで放った一撃が効いていない事に猗窩座は笑みを止め、目に力が入る。

 

「……今のを受け流すか…」

 

入るはずだった拳は左手によって滑るように逸らされ、空を切らされる。

 

考えずとも其れを行うことは不可能に近く、たとえその瞬発力に自信があろうとも、見てからでは遅い。

 

「さて、どうする?やるか?」

「……やらせてもらう…!!」

 

互いに歯を見せるように笑みを作る。

大型の肉食獣の如く、覗かせた犬歯と噛み合わせて鳴る歯の軋みが威嚇を思わせた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

猗窩座。

 

極東におけるガイア教のエース級であり、大凡幹部クラスが手を余らせる厄介な人物。

 

ガイアーズ特有のChaos思想に寄ってはいるものの、本質から一種のLight(善性)持ちである為、Dark寄りの幹部としばしば対立する関係でもある。

 

それ故に小さなせめぎ合いが起これば殺害と重篤な怪我以外許された決闘で全戦全勝は珍しくない。

 

ある意味でガイア教の理念を体現した人物であるから、尚更苦虫を噛み潰した表情を取らざる得ない。

 

其れが、比較的当たりの低かった構成員の見聞きした情報だが。

 

「………うそ…だろ?」

 

信じられない光景が広がっていた。

 

 

拳が跳ぶ。

寸前の所で避け、返す刀で拳を放ち、顔面を強烈な打撃で波打ち、顔を歪める。

 

宮本の放った拳撃は確実に猗窩座のウィークポイントへと叩き込まれ、その身体が一歩後ろに退けられる。

 

「ぶふっ…」

 

鼻の頭は折れ曲がり、留めなく血液が外へと流出し、顔中を真っ赤に染める。

ただ、見た目が激しいだけで酷くダメージが負っている訳でもなく、そのまま続行。

 

「はぁぁあああ!!!」

 

猗窩座が宮本の顔面へと鋭い上段蹴りが打たれ、避け切れずに喰らう。

 

「あっ…やった…!?」

「おおぉ…」

 

もうギャラリーと化した構成員達は離れた場所で陣取り、滅多に見られないであろう死闘を見物することに徹し始めていた。

 

「……いってて…俺の鼻折りやがって…」

 

構成員達はぽかーんと口を開けて驚いた。

 

猗窩座の身体能力であれば蹴りの一つで支柱の木材を箸のごとく折って倒してしまう程。

人の頭であればザクロが如く爆ぜて飛び散らせるに至るが、まるで効いていないかの様に振る舞う姿は恐怖すら感じ取らせた。

 

「………それすら軽減させるか…」

 

これには猗窩座も驚愕を隠すことは出来ない。

だが、鋭い刃を思わせる目には爛爛(らんらん)と映っていた。

 

「…〔宮本真之介〕。お前…鬼(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)?(・)」

「………はっ?」

 

唐突に言い放つ。

宮本は疑問の声が漏れる中、猗窩座は言葉を続けていく。

 

「その技術、心身の高い完成度合い。どれをとっても至高の領域に立った者のみが赦される代物」

 

何処か嬉しそうに語る姿はまるで同郷の朋輩に逢えた事を喜ぶ老人のよう。

宮本は疑問の表情から、相手への理解を得られた表情へと変わり、息を吐き、視線を前へ向ける。

 

「相当修練を積んだのだろう。相当死線を潜り抜けて来たのだろう。最早其れは今が絶頂期だと俺は分かった」

 

猗窩座は笑う。

先程の値踏みする挑発的な物ではない、単純な嬉しさのみ表した喜びが其処にあった。

 

故に。

 

「だからこそ、お前は人で有り続ける限り…坂を下るように老いては死ぬ。その煌めきが吹き消えて無くなる。そんな事は俺は赦さない」

「………だから?」

「そのまま死ぬくらいならば俺の様に鬼となれ。其れが唯一無二の方法であり、その先を越える架け橋となるだろう」

 

誘う。

 

宮本の強さに惚れ、その輝きが喪われる事を憂いた拳鬼は終始その誘いの意思を示し続ける。

 

「………わざわざ俺を誘ってどうする?今敵同士だけど?」

「だからだよ。本当に欲しい物と言うのは結局敵になる方が多い」

「そりゃそうか」

 

思わず納得。

 

欲しい物は奪ってでも手に入れるがデフォとして存在する裏業界では致し方ないと前々から理解はしていたが。

 

「すまないが、その提案は呑めない」

 

肩すかしするように答える。

 

「………何故だ?」

 

猗窩座は問う。

 

「生憎人間辞めたくなる程人生に絶望してないんでね?オモシロ可笑しく愉しんでるんだ」

 

鼻を鳴らし、理由を述べる。

 

そんな宮本に猗窩座は深く息を吸い、吐いてから口を開いた。

 

「そう……ならば」

 

右脚を前へと出し、地面を踏みつける。

 

「"術式展開"」

 

鍵を開けるイメージで、地面から赤黒く光が差し、点滅と共に結晶を模した陣が形成される。

 

「破壊殺【羅針】!!」

 

武道の構えを取り、現れた雪の結晶に宮本は羅針盤を思わせる。

 

「鬼にならないならば、殺す。お前の全盛期を俺が摘み取ってやろう!!」

 

場の空気が変わった。

 

重く伸し掛かる其れは先程の小手調べとは違う、濃密な殺気に満ちたモノに変貌した。

 

瞬く間であろう、二人の視線が重なり合うと共に、姿が消え去る。

 

同時、先程と比べ物にならない衝撃波が場を掻き乱し、空気の圧力として轟かせた。

 

「うわっ!!?」

 

見えぬ間に拳圧が飛び交う。

 

攻防を両立させる為、互いの拳が叩いては鍔迫り合いを起こし、暴風雨を作り上げる。

当てきれない拳を逃れるべく躱し、場を飛んで変えては拳撃の殺陣が始まり、その場に有った物が砕け、爆ぜる。

 

「今まで此れだけ戦える拳士は早々居なかった!!」

 

中段蹴りを放ちながら、喜びの声を上げて自らを示す。

 

「鬼になれ宮本!!その力が喪われるのはやはり惜しい!」

「嫌だね!少しは黙っとけ!」

 

穿つ、放つ、叩く、打つ、蹴る。

 

幾千繰り出される打撃は全てが死と隣合わせになる威力。

 

其れを互いに放てる膂力は周りをゾッとさせるに充分過ぎた。

 

「では死んでくれ真之介…!お前の生命を俺に寄越せ!!」

「初対面で名前呼びしてくる奴にくれてやる程安くねぇんだよ!これがな!!」

 

猗窩座の拳を弾き、守っていた胸部を露出させる。

その瞬間を見逃さず、宮本は両足を踏み込み。

 

「【九頭:右竜徹陣】!!!」

 

陣を一つ消し飛ばす勢いを持った右ストレートが猗窩座の正中線真ん中へ入り、胸骨上部に拳がめり込む。

此等の衝撃によって、身体が後方へと遥かに吹き飛ばされた。

 

「……チッ」

 

明らかに手応えが薄い。

どういう原理が働いたのか分からない。

 

綺麗に入った筈の一撃だが、己の勘が叫ぶ。

 

『来る』と。

 

「破壊殺【空式】!!!」

 

猗窩座の叫びが、宮本の予感を的中させる。

 

瞬時に地面を蹴り、右側へ片手側転でその場を退くと地面が突然抉れた。

土が飛び散り、生えていた草花が粉々に弾け跳ぶ。

 

この見えない攻撃には生半可な防御を行うべきでない。

 

そう確信し、着地と同時にクラウチングから驚異的な瞬発力で走り出す。

 

それに合わせたかのように、一秒前に居た場所が砲撃されたかのように地面が破裂。

周りの木々も木片に変わるほど破砕し、薙ぎ倒されていく。

 

(見えない攻撃…ドラ○もん空気砲みたいなのを拳で再現したってわけか?にしては…)

 

某丸い身体のロボットを想像しつつ、自分の走った後の場所の惨状を横目で見る。

 

「お、おい不味、ハベェ!?」

「ヤベッ!ギャァッ!?」

「に、逃げブギュッ!?」

 

流れ弾が二次災害を起こす事と同じく、構成員達の被害がリアルタイムで甚大になっていくのは自己責任だと思いつつも、せめては心の中で念仏を唱えておく。

 

(ただ逃げてても埒あかないがなぁ…)

 

この攻撃は十二分に使えるレベルであるが、後数段階残している宮本からすれば長丁場の泥仕合にしかならない。

スタミナには自信はあれど、其れをする程、気長な性格ではない事を自認している以上。

 

「……なら(近付くまでだ…!!)」

 

跳躍。

 

対物ライフルの一射と見間違う速度での幅跳びは一目散に森の中へ到達。

内に居た猗窩座の目の前へ肉薄すると構える間に一撃を抜き放つ。

 

「…ガッ…!?」

 

左胸部から肩までを袈裟切る様に肉体が爆ぜる。

 

その驚異的な一撃は貫手によるもの。

 

「素晴らしい…!貫手も一撃必殺の領域となるか!!」

 

肌がヒリつきながらに笑みは変わらず。

 

唐竹を束ねた物に貫手を行う危険性の高い修練をし続けた神心会の総帥〔愚地独歩〕が居るように、最早防刃素材でも切り裂ける一撃は相当なモノを費やしたとしか言いようがない。

 

「やはり鬼になれ真之介!!そして俺と共に永劫極め続けよう!!」

「不老不死になって男とイチャつきあうのは趣味じゃねぇよ馬鹿野郎!!」

 

裂かれた部分が即座に再生され、更に拳が舞う。

 

火花が飛び散り、場が砕け、衝撃波が木を倒す。

 

「破壊殺【乱式】!!!」

 

一体一殺の一撃が同時に十数発打ち込まれる。

 

防げない。

 

其れを理解した宮本は直ぐ様、攻撃から防御の姿勢に変え、両腕を回し、乱式の打撃を受け流した。

 

「ほぅ…!【廻し受け】か!伝統空手の防御を実戦で使うか!【空式】!!」

「小手先の技術は十八番でね!!【九頭:右竜翔扇】」

 

空を切る拳圧を寸前で避け、右腕を振るい、猗窩座の身体を宙へ弾き飛ばす。

 

「なっ…!?」

 

ミシミシと全身を圧迫感が覆い、骨を軋ませる。

そのまま引力に引かれ、地面へと墜ちる中。

 

「【九頭:左竜雷掌】!!」

 

気を纏った左掌底が腹部へ打たれ、同時に強力な電撃が襲う。

 

「がァァァあああ!!?」

 

全身に電流が走り、身体の至る所を電熱が焼け焦げを引き起こす。

 

生体電流を左手に溜め、掌底で放つ其れは、仙術として伝えられた対生物、異邦の者用の破壊技である。

 

如何に再生能力を持った鬼であろうとも、身体中の神経や筋肉組織へ直接打ち込まれたならば。

 

「がァァ……」

 

煙を上げ、受けたことのない痛みに震える。

 

「……これが…枢機卿〔言峰綺礼〕を殺し…た絶技…か…!?」

「…………」

「素晴らしい。俺の予想を遥かに越えてくる…!!楽しいぞ宮本真之介…!!!」

 

其れが嬉しさを増した。

 

自身を此処まで傷つけた事に、予想外な一撃に、鬼ですら屠りかねない技量に。

 

猗窩座は立ち上がった。

 

「もっと見せてくれ…!!有らん限りの力を…!!」

 

その姿に余裕など無い。

一つ飢えを感じ始めた肉食獣の如く、自身の心を燃え尽さんと奮起させる。

 

宮本は目を見開き、顔を強張らせ、構えを取る。

 

次こそ仕留めんと体内のマグネタイトを練り上げ、今持つ全てを込め、打つ準備へ入る。

 

まるで時が止まったかの様に二人に動きが無くなる。

見ている者が無事であったならば其れがミサイルの発射態勢とよく似ていると思ったであろう。

 

数えるにして0.1秒も無かったかも知れない時間。

 

そんな永遠にも見えたスローな世界が。

 

「……破壊殺【滅式】!!!」

「【九頭:双竜涅槃戟】!!」

 

動き出。

 

「お待ちを…、その勝負止めさせて貰います」

 

さなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あれ?〔シノア〕ちゃんは?」

「うーん?見当たんないなぁ…おーい?」

 

時刻は宮本達が戦っている数時間前。

 

五日目にして、異界の主を倒し、手に入れた報酬と換金アイテムでどうするかと皆で考え、登別の温泉街にある旅館に宿泊というプランになった。

 

幸いにも閑散期のお陰で突然の宿泊であったが、全員分取ることが出来た。

 

ただ。

 

『あっ、しまった。ベースキャンプに忘れ物してらぁ…』

『じゃあ一緒に取りに行きましょう。明日の朝には帰って来るようにします』

 

と到着するや否や宮本と琲世の二人で忘れ物を取りに行った。

 

其れから旅館の露天風呂や温泉を堪能し、夕食を食した後。

 

「……ねぇ、ぐんちゃん」

「あら?貴方もそう呼ぶの?」

「あっ、嫌だった?」

「ううん。ちーちゃんでもぐんちゃんでも構わない。割と気に入ってるから」

 

二度目の湯船に浸かりながら千景と友奈が会話をし始める。

 

「…じゃあ、ぐんちゃん」

「何?」

「………年(・)上(・)の(・)人(・)と(・)の(・)恋(・)愛(・)っ(・)て(・)ど(・)ん(・)な(・)感(・)じ(・)か(・)な(・)?(・)」

「………アッ…フーン…」

「な、何その分かってるみたいな顔!!」

「さぁ?ちょっと苦労するかな?って思っただけ」

「ちょっと!!?」

 

突然の質問に何かを察し、成る程と頷く千景をそういう物では無いと友奈は強く否定するも、あまり意味をなしていない。

 

それでも必要以上にからかうのも宜しく無い事を考え、千景は真面目に考えてから口を開く。

 

「……質問に答えるなら一つ」

「うん……」

 

一旦間を置き、息を吸って吐く。

 

「………良くて"セフレ"ね」

「……セフレ??」

 

千景の答えは彼女には聞き慣れない単語であった為、聞き直してみると。

 

「セックスフレンド。つまり身体の関係程度って訳」

「うぇぇぇ…!?どーして!?なん…で?」

 

割ととんでもない発言に顔を赤く染める。

 

友奈にとっては愛のある行為である物で、決して欲求を発散させる物とは考えられない。

 

一応、セフレの行為も世間的には良い印象はない事は確かであるが、決して珍しくはなく、何時でもパートナーとは軽い関係で居たい組み合わせもある為だ。

 

其れでも、多分友奈は許容外であろう。

 

「私もカネキとは切り離すには難しい関係だけど、あの子はお人好しが過ぎるから首突っ込みがちなのよね。それ故に現地妻感覚で作ってはまぁ此れだけやれば大丈夫とお金にアフターフォローして居なくなるタチなの」

「…く…苦労…してるね?」

「まぁ、そんな人間性だから惹かれたのだけど…惚れた弱みはなんちゃらってね?」

「………はぁぁ…」

 

確実に自分と宮本よりも長い年月を共にしているだけあってか、増やしてきた縁や色々については苦労した部分が見え隠れしている。

 

「だからこそ、その腐れ縁とか色々で繋ぎ止めないとポンと死んじゃいそうだから何も言わないけれど…」

「ええぇ…」

 

だが逆に、其れを利用することを考え、楔とワイヤーで固定するように打ち付ける方針にした辺り、肝っ玉と豪快さが有った。

 

「人生諸共関わるつもりならいろんな部分を強くしてどっしりと構える。ああいうタイプは其れがベストよ?」

「………うーーん…」

 

若干難しい返答に悩み、顔を顰め。

 

「………いやいや!?どうして宮本さん!!?」

(何も名指ししてないけど…)

 

何故か頭に浮かんだ宮本の姿が離れられず、無理矢理消すように手で空を振る。

 

(本当に苦労しそうね…)

 

尚、直接ではないが宮本の性豪さについての事はよく聞いているのでその意味でも苦労することは先ず間違いない。

ただ、テクニックとその他要素を持ち合わせているらしく、初体験で嫌な思いはさせないだろうとも信じてもいる。

 

(問題は積み重なるわね…ホントに)

 

もう一つ頭に浮かぶのは何処ぞへと消えた友奈達の同級生、柊シノアについて。

 

同じ得物を使う所と不透明ながら妙なシンパシーを感じ、気にはかけていたものの、キチンと話す機会を持たなかった事を少しだけ悔やむ。

 

(踏み込むのはまだ早いかと思ってたけど…ちょっと考えておくべきだった)

 

長い髪を束ね、うっすら硫黄の臭いのする湯の中に入れないように纏めながら心に独りごちる。

 

だが過去を悔やんでも仕方がない。

 

(危ない橋渡ってる訳じゃ無いと思うし、気長に待つことにしましょ)

 

一先ず静観する事も必要と腕を伸ばし、肩まで湯に沈めていく。

これから帰って来るであろう琲世に悪戯心を思い馳せながら、待つのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同時刻

 

 

「|ω・`)ノ ヤァ佐々木くん」

「姉畑先生…無事そうですね」

 

宮本を殿とし、先行していた琲世は木の上に雁字搦めのまま吊り下げられた支遁の姿を確認。

跳躍し、持っていた片刃の剣でワイヤーを切断する。

 

「うぎゃっ!?」

「あっ…」

 

受け身の取れぬまま顔面から地にぶち当たり、悶絶の表情を見せ、扱いの悪さに抗議を示すも。

 

「一体どうして括り付けられてたんですか?」

 

無視される。

 

「はぁ…。其処ら辺は何とも…捕まったと思ったらいきなり拘束して吊り下げられたんですよ?酷いったらありゃしませんなぁ〜!!」

「はぁ?」

 

何が何なのか、理解が難しい。

 

姉畑支遁の擬態能力や隠蔽工作を見抜いた人間がいた事。

そして、その能力を持った人物はただ縛って放置しただけということ。

 

それら全てが何を目的としているのか難解であった。

 

「誰にやられたんですか?」

「………うむ…"長身"で"筋肉質"、後は"熊"みたいな体格の"男性"だったね」

「………そうですか」

 

琲世は一つ一つの挙動を観察し、その言葉の真意を探ってみる。

 

(……嘘をついている様子は無いが、癖や心理的行動は必修しているだろうから判別出来ないな…)

 

しかし、相手は学術のスペシャリストであり探求者。

 

心理学にも精通している以上、欺瞞情報も重ねたりする話術の達人と言える。

相手の状況をよく観察している可能性を考えれば多少の嘘も付くだろう。

ただ何故其れをするのかが妙に感じられる。

 

(まぁ、僕等を騙すつもりじゃないだろう。縛られてたらその意味が無いし)

 

心理戦をする理由が謎だということ。

 

その意味が分からず、考えてみるが堂々巡りになりそうなため、思考を止めておく。

 

「…佐々木くん」

「はい」

「ありがとう。君に捕まるならば一応安心と言えるかな?」

「さぁ?僕には分かりませんけれど」

 

どういう意味で安心なのか、基準がイマイチ掴めない。

 

まぁいい、このまま帰ろう。

そう思いながら雁字搦めのワイヤーを切ろうとした時。

 

「ソイツは問屋が下ろさないってやつだろ?」

「…………」

 

一人、男が現れる。

 

姿からして、軽口を叩く様なチンピラめいた様子の人物。

脱色してから黄色い染色を仕上げた髪、唇耳たぶまぶたにはピアスが打ち込まれ、大きめな指輪やアクセサリーをこれでもかと見せ続ける。

 

「ちょりーす!こんちわ、ってなわけでソチラの人寄越してくれれば半分まではいかんでも三分の一位は分けてやりますよ?」

「何も聞いていないですし、どうでもいいが勝手に進めるな」

「うわ怖っ」

 

見ただけで一つ判断できる。

 

コ(・)レ(・)と(・)は(・)絶(・)対(・)に(・)合(・)わ(・)な(・)い(・)と(・)。

 

「まぁいいや。アンタ殺して奪うのもア……ちょいと失礼」

 

一瞬殺る気で構えるが、ズボンのポケットから音が鳴り始めた。

恐らくスマホの類だろう何かの着信音に、反応した男は即座に手にとって通話を行い始める。

 

「えっ…あっ、ハイ…わっかりました…」

 

声のトーンが下がり始め、遂には溜息が吐いて通話を切る。

 

「止めて帰ってこいとのコトっす。それじゃあサヨナラー」

 

どうやら上司かその辺の人物から連絡だったらしく、男はそのまま手ぶらでの帰還を余儀なくされ、尾を引くように消えていなくなる。

 

こうして、一人の男を奪取する仕事は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

            to be continued

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