※この作品はR-18です。

真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜   作:葉隠小太郎

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PROLOGUE 3rd

 

 

5 Years ago…。

 

 

『…や…辞めてくれっ…!?俺は…』

 

恰幅のいい男が声を震わせ、怯えたように話す。

声同様に身体中を恐怖で支配され、普段からのイントネーションも保てないほど。

 

『俺が…俺が命令したわけじゃ…無いんだ…!?』

 

視界に映る自分に対して懇願する。

 

自分は関係ないと。

 

だか、其れを証明することも、真実がどうであろうとも彼にはどうでも良かった。

 

『…頼むからっゴァッ!?』

 

全身の筋肉を使い、全体重を乗せて踏み込むように蹴る。

 

完全な脳挫傷で相手は意識不明。

鼻孔から出血を伴う辺り、恐らくは即死と見ても判断できる。

 

この男を完璧に殺した。

 

そうであっても何故かしっくり来ない。

 

満たされない思いに晒されながら、後頭部の痛みが強くなり、呻き、倒れた。

 

その日から記憶は無い。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ひとえに、薬物による治療方法というのは特効薬等はない。

 

但し、其れは治せない訳ではなく、直ぐに治せる症状ではないのである。

 

マリファナ、MDMA、LSD、コカイン、アヘン。

 

此等には多量摂取による機能障害や高温症が確認されており、方法としては、利尿剤等の排泄行為と循環器作用の促進。

高温症による脳機能障害を防ぐためにアイスパックや氷嚢による冷却療法。

そして、電解質を含んだ輸液による点滴療法が必要とされている。

 

此れ等を約一週間、意識が回復するまで交換をし続けなければならない。

 

つまり…。

 

「君の大陰唇等を傷つけずに尿道カテーテルを挿れるには観察せねば出来なく、接触も致し方なく行わなければならなかった。誠に申し訳ない」

「……………(プルプルプル)///」

 

治療行為とはいえ、少女にとっては異性に見られたことのない部分を自分より詳しく見られた事は赤面せざる得ないであろう。

 

 

 

◇◇◆数時間後◆◇◇

 

 

 

「…さて。緊急性が高かった故に後回しにしてたが…君の名前は?」

 

診療医院の往診室にて、白衣と紺色のスクラブを着た宮本が対面に座る少女へと質問を投げかける。

 

「……〔高嶋…友奈〕です」

「〔高嶋〕さんか……君、聖(・)華(・)学(・)園(・)の(・)生(・)徒(・)だ(・)よ(・)ね(・)?(・)」

「えっ?どうして?」

「そりゃ、持ち回り当番で校医してるからね?一応関係者」

「…………ええっ…」

 

自身の身体を調べられた男、宮本は友奈の通う学園関係者であったらしい。

どこから見ていたのだろうか?

怪訝そうに見ながらも、机に置かれた湯気の立つカフェオレを一瞥してから手に取る。

 

「あの学校に色々と何かがあることは存じ上げてるよね?龍脈の上に建ってるせいで夜な夜な奇妙奇天烈摩訶不思議な感じなこと起きてるの」

「……ま、まぁ…知ってます」

 

通う学校の裏事情を知っている。

其れだけでも彼女がどういう立場なのかを理解出来た宮本はカルテへ記載をしていく。

 

「体温は平熱。指の本数も間違いなく、目を閉じたまま片足立ちも3分は出来る……スポーツやってる?」

「あっ、はい。父から拳法を少し…」

「だよね。立ち方とか四肢の造りが同じ歳の娘と違うからさ。琉球空手かな?とは思ったが中国拳法なら納得」

「先生も使うんですか?」

「うん。随分とマイナーだけどね」

 

そう言って立ち上がり、肩幅程度に足を開いてから左足を半歩出して左手を打ち出す。

軽くモーションを出す程度の崩拳であるが、打たれれば胴体の内臓機能が狂う威力を持っているだろう。

 

友奈はそう感じた。

 

「さて。此処からが本題だ」

「………はい」

 

物腰は柔らかいが、声色のトーンが場を冷ます。

 

宮本は視線を唯一つ、友奈へと向けて口を開いた。

 

「今日から"ヤタガラス"より君の保証人になった。〔宮本真之介〕だ。君の父…〔加藤鳴海〕の弟弟子として名に恥じぬよう務めることとする」

 

 

 

◇◇◆四日前◆◇◇

 

 

 

医院の地下は3階分"異界"として存在し、1階2階は入院患者用の大部屋2つと個室4つとして使用している。

 

太陽神アポロンのサブスクサービスで、擬似的な太陽光を。

夜の神ヘカテーも同様のサブスクサービスで夜空を作り、地上とは差異無く生活出来るように施されている。

 

 

その日の治療を終え、宮本は瓶ビールの蓋を開けてラッパ飲みをし始めていた頃。

 

「正直、自堕落な医者に治療されたくないですね」

「終業時刻だ。プライベートにまで口出しするならサラリーマンも残業代無しで毎日働けと言いたい」

「やったらタール並みのブラック企業ですよねそれ?」

 

いつの間にか往診室に現れた若い優男に対して、宮本は睨みつける。

 

「何でいるんだよ」

「一応これでも日夜連絡員として活動してますので協力者である貴方に話がありますから」

「普通に入口からノックして入れよ。色々と準備とかあるんだよ俺にも!!」

 

まさか窓からエントリーするとは思っても見なかった。

お陰で不審人物十五号として認定せざる得ないだろう。

 

「っで?何なんだ用って」

「そう言いながらノンアル注いでくれる所が憎めないですねドクター」

「酒臭い連絡員なんてヤダよ普通に」

 

冷蔵庫から取り出したノンアンコールビールをコップに注ぎ、連絡員の青年へと渡す。

手にとってすぐ、口元に傾けて喉を鳴らすように飲み干すと日頃の疲れ度合いがよく分かると宮本は思った。

 

「クソメシアンとファッキンガイアーズは一度リンボにでも墜ちろと言いたい」

「片方は恐らく煉獄でもヒャッハーしてそうだが?」

「想像したら有り得そうで怖い」

 

疲れの原因である"メシア教"と"ガイア教"の2勢力に呪言めいた言葉を吐き捨てるも、「地獄の国盗りじゃあーー!!」と閻魔大王やら何やらにカチコミしていく姿が思い浮かぶ。

 

流石に魔界でも速攻返品されそうだと思います。

 

「さて。用事の方を先に…おっとと」

「コップ突き出しながら言うセリフじゃない気がするが?」

「飲まないとやってられないのでホントに」

 

心身ともに疲れ果てているらしい。

 

「……さて先ずは…彼女。〔高嶋友奈〕さんの救出有難う御座います」

「ん?…あの女の子か?」

「ええ。我々"ヤタガラス"に与する退魔一族唯一の生き残りと言えますから…」

「えっ?……え?」

 

連絡員から出た言葉に数秒間沈黙の後に戸惑いの声が出る。

 

「とは言っても覚醒する様子はなく、分家筋に家督を譲っている状態で。ただ裏の事情を知っている以上普通に通うなどは難しく、聖華学園へ入学及びあわよくば覚醒と思っていましたが…」

「………覚醒はしたな。注射されたドラッグが仙薬由来だったかも知れんが…」

「懸念点位は晴れたことだけ喜びましょう」

 

喜び半分ため息半分。

愚者(いっぱんじん)から覚醒者へ変わるとなれば必然と悪魔と戦う一生を背負わなければならない。

 

いかなる理由があろうとも、その手を血で染める事ともなれば。

 

考えないようにするか。

其れ共狂い果てるか。

何も思わないか。

 

何れにせよ、彼女の事を考えれば、今のうちに覚悟を決めなければ悪魔達に魂までしゃぶり尽くされる未来が待ち受けている。

 

「1つ。貴方に頼みがあります」

「麗しい女性の頼みなら幾らでも聞いてやれるけど男からはなぁ…」

「僕はあくまでも代理なので。ちなみに"ウチの上司"から直々ですよ?」

「…………しゃあねぇな…」

 

上司からの頼みと言われ宮本の顔が物凄く酸っぱい食べ物を食べた顔で仕方がなく受けることとした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

〔加藤鳴海〕

 

記(・)憶(・)に(・)あ(・)る(・)限(・)り(・)一(・)番(・)古(・)い(・)友(・)人(・)で(・)あ(・)り(・)、(・)兄(・)弟(・)弟(・)子(・)同(・)士(・)と(・)し(・)て(・)公私共に良い関係を務めていた。

 

彼に娘がいる。

 

かつては自分と同じフリーランスのデビルバスターであったのを辞め、自分で最後となってしまった分家から本家一族に組み込まれた際にまだ幼かった彼女と出逢った。

 

高嶋友奈との血の繋がり自体は従兄弟同士程度で、隠れ里に残った本家と外へと出稼ぎに向かった分家という関係だと聞いている。

 

便宜上、本家の血筋に組み込まれるのだから待遇としては良い方だと彼は言っていたが、あまり嬉しそうじゃなかったのは覚えている。

 

其れでも、娘が可愛くて仕方がないとか笑わせるのが下手くそなのに笑ってくれる健気さとか、話しだしたらキリが無い程、彼女との楽しい交流を聞いていた。

 

「彼は形意掌の使い手で、当時【魔王】の種族にいた高レベル悪魔と渡り歩いた実力者だった。馬鹿馬鹿しいほど強いクセに泣いてる赤ん坊宥めるのが下手くそで一緒に泣いてた事あったな」

「そ…そうなんですね…」

「そんな人だったよ。罪を憎んで人を憎まず、強きを挫く好漢武人と言えた」

 

そんな彼と最後に会ったのは2年も経つ。

 

同業者とはいえ、フリーランスの自分が気軽に会う訳にもいかないと勝手に思い込んでいたのかも知れない。

最後のやり取りも年始の年賀状のみで、それも去年であったから尚更後に引けなかった。

 

「父が亡くなったのは半年前。悪性リンパ腫だったみたいです」

「だとすると、随分早かっただろうな…」

「はい。見つかった時には既に…」

 

まだ三十代の若さで癌になるとそのスピードは早く、手術が間に合わないケースもある。

 

兄弟子は、悪魔との戦いで命を落とさず、1人の人間として普通の生き方で亡くなった。

 

寂しくもあるが同時に羨ましくもある。

 

悪魔に殺されれば上位存在の玩具にされてもおかしくない。

魂もそのままに別の悪魔へと変貌させることも出来る故に、まともな死に方はしないだろうと聞いている。

 

であるからこそ、まだ病死はまともかも知れない。

 

「知っていれば葬式にも出てた。すまない」

「いいえ。葬儀も内輪だけで済ませる事が多くて、周りから呼ぶのも憚れてたので…」

「退魔一族の秘密主義も此処に極まれりって感じがするな」

 

とはいえ、ヤタガラスに与する一族である以上仕方がない。

これも今まで交流を断っていた理由でもあった。

 

「それで…。どうして宮本さんがその保証人と?」

「俺もそれが気になって聞いてみたら…君の実家とその里が何(・)者(・)か(・)に(・)襲(・)わ(・)れ(・)た(・)」

「………へっ?」

 

案の定、彼女の顔が理解し難い事実に呆然とさせる。

 

「数日前、集団で統率の取れた闖入者が老若男女問わずに攻撃を仕掛けた。実力者の殆どは出稼ぎに行ってたのを見計らったみたいでな。大半が殺された」

 

辛い事実を伝えなければならない。

 

連絡員から伝えられた話にはもっと凄惨な事実も存在するが、それを伝えるのは流石にキツすぎる。

 

「………ミツお婆ちゃんは?…近所の貞木さんは?」

「残っていたのは一部の子供とその親くらいだ。神域に入れた人達らしい」

「…………そう…ですか」

 

事実を伝えるのは辛い。

 

ただその義務を他人任せにはしたくない。

 

目の前の少女が前に進むためにも頼り甲斐は無いかもしれないけど大人として、今生きる先達者として、一応の責任は果たさなければならない。

 

「ヤタガラスでもだいぶ騒動になってる。今は里出身者も身を隠してる状態だから出来たら学園の方に留まって欲しいと」

 

彼処ならば闖入者がどの勢力に居ようとも手を出すわけにもいかないだろう。

知っている限り、生徒でも教員でも実力者がゴロゴロいてかつ未来の構成員やら幹部候補生も少なからず居るのだから。

 

「その人達は何処の誰だったんですか?」

「……さてな。其処までは調べてる途中らしい」

 

メシアンでもガイアーズでも無さそうだと思うが、其れを今は述べるつもりはない。

 

「さて。聞くことはあるかな?今だったら俺の五十口径マグナム君の詳細データも教えちゃうよ?」

「ごじゅう…こうけい?」

「ゴメン冗談です。だからマジで知らない顔しないで?」

 

下ネタは止めておこう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

英国 ロンドン サヴィル・ロウ

 

 

紳士服の仕立て屋が多く建ち並び、素材の生地や身に付ける品を扱う店なども多くあるこの通りに1つ、創業1849年という老舗の名門テーラーがある。

 

【Kingsman】

 

イギリス貴族からは「子供が生まれたら先ずはKingsmanへ名前を記しなさい。其れが仕立師との絆を生む」と言われるほど、多くの政財界人から愛されたとされるテーラーである。

 

寸法精度もコンマ数mmレベル、どのような要望も瞬時に答え、主よりも詳細な測定データを持っていると言われている。

 

そんな仕立て屋の裏の顔というのを知っているだろうか?

 

 

 

「…〔サー・ガヴェイン〕、〔サー・トリスタン〕、〔サー・パーシヴァル〕。先ずは帰還おめでとう。君達の活躍でメシア教の過激派が一旦は沈黙出来たと見える」

「有難う御座います〔マーリン〕。もう少し余裕を持って挑みたかったですがね?」

「うむ。相変わらず孫娘の視線が痛い」

 

テーラーキングスマンの2階。

長方形のテーブルを囲むように十二の椅子が並ぶ室内には、1人の老人と壮年の男と髑髏のバラクラバを着けた男。

そして、サマナーの4人が居る。

 

マーリンと呼ばれた老人はさめざめとした表情で、サマナーを見つつため息を吐く。

 

「しかし、幾ら主流派になったとはいえ、あの〔ヴィットーリオ〕枢機卿が何処から資金源を手に入れたのか?少々当たってみたいと思う」

「ふむ。其れは何処から手に入れる?トリスタン。幾らなんでも〔Watcher1(ラズウェル)〕から得られるとは思えないが?」

「金の流れは隠そうとしても難しい。公認会計士づてに聞いてみるさ」

 

マーリンはブーニーハットを被る髭を蓄えた壮年の男、〔プライス〕に目をやり、頷く。

 

「金の流れは君に任せる。皆はつかの間程度だが休暇を取ってくれ。お疲れ様」

 

プライスはそのまま情報を得るために部屋から出ていった。

 

マーリンはサマナーへと顔を向け、口を開く。

 

「…〔ティー〕。今回は良くやった。仲魔との別れはサマナーとして日常茶飯事と言っても過言ではない」

「分かっています御祖父様。幾つか異界へ向かい、新たに交渉を果たしますので其処の所はお願いします」

「うむ。構わないさ。君には1ヶ月は様子を見て取り組んでもらおう」

 

サー・パーシヴァル、もとい〔ティー・サリヴァンウォーカー〕は祖父〔マクシミリアン・サリヴァンウォーカー〕から激励を受け、頭を下げてから彼女も下がり、部屋を出る。

 

残ったのはガヴェイン。

バラクラバ越しから視線をマーリンへと向ける。

 

「……実は先程。パーシヴァルから伝言を1つ」

「ん?今居たのにどうしたんだ?」

「………では」

 

少々ため息をつきつつ、ガヴェインはティーからの言伝を話す。

 

「『御祖父様。オックスフォードのマスター・キートンとロード・エルメロイ2世より卒論を出しましたので約束通りに2年間ほど休暇を貰います。色々と大変な時期もありますが私もこれからの人生で必要な事をしていきますのでよしなに頼みます』『追伸、〔グレイ〕にはジャポンで待っていると伝えて下さいませ』……とのこと」

 

一字一句間違えていないであろう完璧な言伝に、マーリンの顔は呆然と目を見開く。

其れもそうだと、言った本人も眉間に手を当てて痛みを覚えては深い深いため息を吐く。

 

1分の時が流れた瞬間、ハッとマーリンが気が付く。

 

「……ロンドンのヒースロー空港に連絡を。直ぐに止め「生憎ですがマーリン。既に遅い」……何?」

 

今ある権力で運航停止させようとしていたマーリンを止める。

 

「どういう事かな?〔ゴースト〕」

「言葉の通りです」

 

バラクラバの男、〔ゴースト〕は手を叩き、呼ぶと。

 

『……サマナー。バラすなよ〜』

「ふっ、迫真の演技だったな」

 

現れたのは先程出ていった筈のティーの姿。

 

しかし、マーリンは同じ人物であるはずなのに何故か奇妙な感覚を覚え、足を前へと出しては近付く。

 

「………パーシヴァルでは無いな。随分と巧妙な【ドッペルゲンガー】を持っているみたいだな?」

「申し訳ない。ティーも『御祖父様と何度も相談し、プレゼンやパワポで説得を試みても駄目だった』と結果的に強硬手段を取らざる得なかった次第です」

 

少々過保護過ぎると言いたげに伝え続けるゴースト。

 

ティーであった人物は身体が黒くタール状に染まり、人型のスライムを思わせる肉体へと変わった。

 

『どうも。孫娘さんから詳細聞いてますので結構バレなかったでしょ?』

 

ニッコリと笑みを浮かべた不形の存在を見ては好々爺めいた人物であるマーリンでも、憤怒を纏う勢いが見えた。

 

「………【怪異:ドッペルゲンガー】か。フムフム…」

『あ…あの……サマナー?怖い顔してませんか?御祖父様』

「奇遇だな。まさしく怖い顔してるぞ?」

 

憤怒のオーラが立ち昇り、これにはたじろぐ怪異に対してゴーストは諦めたかのように腕を組んでは目を閉じる。

 

「……【銃撃弱点】だったね?」

『……ヒエッ』

 

いつの間にか用意してあった上下二連散弾銃に思わず後退り。

 

此処で何が起こるか考えては唯一つ思い浮かんだのは。

 

『逃げろーーーー!!!』

「逃がすか!!」

 

散弾銃が火を吹く。

 

後々で修繕が大変だと考えながら、壁に複数個の穴を造り、即座に2発装填しては的確な射撃が行われる。

 

伊達に孫娘の射撃訓練を一緒に行ってはいない。

 

最早狩りと言わんばかりに撃ち抜く様を見ては、あと5発撃った後に止めることとする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

???

 

「…どういうことだ?」

 

男は女に向かい、声を荒げる。

 

「言葉の通りです。我々主席連合(High table)は貴方がた【イグノブル】支援及び運営の停止、その後主席の一部に併合を行う手続きをお願いします」

 

1つのテーブルに置かれたメダルを見せながら女は述べる。

 

彼女は"裁定人"。

 

主席連合における傘下組織の処遇を伝え、揉めた場合には己の裁量で忠誠を誓う殺し屋(ウェットワーカー)を呼ぶ事が赦された存在。

 

男は裁定人に対し、その条件がどういった物か、身体を震わせ、怒りを露わにするもそれを出せばどうなるのか、ハッキリと分かっている。

 

彼女の周りには気配を上手く隠す存在がチラホラ見える。

 

其れが悪(・)魔(・)な(・)の(・)か(・)人(・)な(・)の(・)か(・)は(・)分(・)か(・)ら(・)ず(・)、触れれば何が起こるか、とてつもない危険性をはらんでいた。

 

「………やはり"メシアン"についたのか?」

「我々は秩序を重んじます。人と獣の差こそこの部分でしょう」

 

世界史に乗るであろう犯罪組織の連合体がまさか"神"を信奉する十字教へ加担するとは考えても無い。

 

だが、犯罪組織に身を置いていても、信仰までは変わらずに行うマフィアのボスも居ることを思い出せば、決して珍しくもないのだろう。

 

秩序を謳う存在であるなら秩序の形を示す存在と繋がることも決して不可能ではない。

 

そう突きつけられた気がしていた。

 

「………主席連合に変わらぬ忠誠を誓いますか?」

 

裁定人の冷たい声が男に刺さる。

 

イグノブル。

 

人にはそれぞれ闇を抱えている。

様々な形で、欲望やどうしようも出来ない想いに苛まれており、其れが社会的規範や秩序によって病的に抑制されている。

 

其れでは、不健康な状態だ。

 

イグノブルを組織した最初のリーダーはそう考え、多くの人々から何をすべきかを発した。

 

『人々に隠れながら行う事。社会的な大事にならないように行う事。其れが大事だ』

 

掟というより心得に近い物だが、少なくともそれを守れなければただの野に放つ獣と同じだとハッキリしている。

 

ありのままにあるがままに。

 

仲間達とこうして来た中で、メシアンには目障り極まりなかったであろう。

 

表面化されていない戦争を行って数年。

 

自分達の仕事を主席連合が介入。

組織の拡大と武装化を果たしたが、本来の考えから離れていく事がヒシヒシと伝わっていた。

 

絶対的なルール。

その頂点たる存在が何をしてくるのか?

男はあの時を深く呪いながら、裁定人を見る。

 

「…どうすればいい」

「……誓いを。主席に変わりない忠誠を誓えば良いのです」

 

裁定人が箱をテーブルへと置く。

 

男がその真意を知るために、箱に手を触れ、蓋を開けて中身を見る。

 

中に入っていたのは、主席連合を表す紋章の彫られた木の杭。

 

其れが何を意味するか、男は直ぐに理解する。

 

「……私は、"仕えてきました"。"これからも仕えてきます"」

 

杭を両手でしっかりと握る。

狙いを定め、受けなければ死にかねない。

 

男は杭を心臓めがけて刺す。

 

深々と、血が漏れて垂れ流し始める程に。

 

「………がぁ…ぐぉぉ…」

「これでイグノブルの処遇は決まりました。我等に仕える徒として此等も変わらぬ忠誠をよろしくお願いします」

 

裁定人はこれから起こることを知っているかのように振る舞い、その場を後にする。

 

男の血を吸い、杭から木の根のようなものが身体を覆い始め、巻き付いていく。

 

己がどうなるのか、知識で知っていても実際に起こる姿は想像以上に恐ろしい。

巻き付く根に苦しみながら、男は神の信徒となり、自由意志を奪われ続ける哀れな"化物"へと変わっていった。

 

 

 

 

 

            to be continued

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