※この作品はR-18です。

真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜   作:葉隠小太郎

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第二話 天使の涙(エンジェル・ダスト)

 

 

渋谷駅周辺

 

 

喫煙所や飲料水を売る自販機が立ち並ぶ憩いの休憩スポットは凄惨な現場としてほぼ全てを破壊した。

 

強化アクリルで出来た遮断壁は粉々に砕け、およそ人が持ち上げるに困難な自販機が拉げた状態に変わり果てている。

救急隊による被害者搬送は急ピッチで行われ、病院への治療が必須な者と、その場での応急処置で済む者と区別されて行く。

 

「次から次へと全く…」

「まっ、しゃあないでしょ?俺等の仕事ですし…」

 

新たに現れた事件に呼び出され、辟易とした顔でため息を付く〔藤田五郎〕とこの場を荒らし回ったとされる人物へと目を向ける〔足立透〕の二人が検証中の場に入っていく。

 

「仏さんはあの暴れ回ってたヤツ?」

「恐らくな。突然倒れてから苦しみだして死んだらしい」

「っで、これが自販機持ち上げてぶん回したり、何度殴られても気にせずちぎっては投げてを繰り返した……顔の割にはパワフルだねぇ…」

 

この現場での死者は今の所一人。

 

目を見開いたまま首筋から青白く血管を浮き立たせて死んでいるのを見つける。

その容姿は決して自販機等の重い物を持てるとは思えない細身の非力な様子の男性。

 

足立はそれを見て、感じた事が一つある。

 

「そういえばこの中坊。行(・)方(・)不(・)明(・)者(・)届(・)け(・)に(・)あ(・)っ(・)た(・)な(・)?(・)」

「なに?捜索届出てたのか?」

「ええ、確か生活安全課の婦警さんと話してて出た話題というか…」

「………家出息子が遺体で帰って来る。其れは親不孝ってヤツだがな」

 

いつの間にか粉をかける仕草には眼を瞑り、藤田はその場でしゃがみ、手を合わせて死者に祈りを込める。

 

どんな事があったかにせよ、その顔には無念や憎しみに溢れている様に見え隠れしている。

 

一頻り手を合わせた後、立ち上がっては無念を晴らすべく藤田は足立へ目を向ける。

 

「……さて、聞き込みとどうせ撮ってるヤツが居るかも知れないから任意の"提供"をして貰おうか」

「協力してくれそうですかね?」

「まぁ、一応"任意の提供"だからな?良心的ならばキチンと捜査協力してくれるさ」

 

尚、その方法をどう取るとは言わない。

きちんと話し、理解を深めて、事件の早期解決と犯罪者の逮捕こそが警察の役目であると認識する事が出来れば、誰もが喜んで協力してくれる。

 

そんな誠意を込めた心持ちで藤田は足立と共に聞き込みを行っていく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

宮本の診療は診療所のみならず、動く事がままならない患者の宅へ訪問する事もある。

主に終末医療を受けている患者と高齢で外に出る事もままならない患者の二つ。

 

場合によっては呼吸器を必要とする患者等も、扱う事が多い。

 

「かっかっかっ…先生も下の方が旺盛で何よりだね」

「笑わんといて下さい。……脈拍は大丈夫そうだ」

 

介護用のベッドをリクライニングで上体を起こし、診察を受ける好々爺は、顔と首筋に赤い斑点と噛み跡、右腕に至っては引っかき傷等も残っている姿を見て、笑いが絶えることはない。

 

「ちゃんと皆愛してやらんと拗ねて手紙出す事もあるじゃとて…」

「俺も出来る限り愛情いっぱい贈り続けてますよ〜!」

(まっ、どちらかと言えば離す側みたいなもんじゃがな…)

 

儂も昔はと懐かしみつつ宮本の診断を受け、薬手帳に記載していくと。

 

「おっ、そう言えば先生。富田さんの所にも行くんだっけな?」

「ええ。癌のステージⅣで場合によっては強めの鎮痛剤も投与する予定ですが?」

「其れが最近見ないんだ。まだ中庭を立って歩くくらいには元気だった筈だがなぁ…」

「富田さんがですか?……予定は無かったけどちょっと見てきます」

 

友人である宮本の患者と近日間顔を合わせていない事を思い出し、宮本へ近況報告を兼ねて確認に向かう事を依頼。

宮本も其処まで急ぎの用事もなく、玄関先で声を掛けて上がるくらいの時間もある。

 

「ではお大事に」

「アンタも儂より先に死ぬんじゃないぞ?老耄ジジイの末路は決まって灰にして貰うのがマシじゃとて」

「まだまだこの世でやり残しあるでしょ?」

「そうじゃのぉ…この間の別嬪さんの尻撫でれれば生きて極楽浄土に行けるのぉ…」

「生憎俺の尻なんで、貸せません」

「酷いのぉ…」

 

一幕、ボケとツッコミのやり取りをしつつ、宮本は患者の家を後にする。

彼の言う通り、富田という老人が住む家はすぐ近くでまだ元気だった頃は一緒のデイサービスでパラパラを踊ったらしい。

 

「…うーん。人気がない…」

 

歩いて数分の距離にある富田と表札にあるのを確認。

 

ドアホンを押し、数秒程鳴り響くチャイムから一分程経ち。

 

「………居ない?」

 

今日の予定には入ってはいないものの、外へ出る用事があるとは思えず、再度ドアホンを押し、チャイムを鳴り響かせる。

 

「……おかしいな」

 

訪問販売等であればこのまま帰るのが当たり前であるが、宮本は医師であり、定期的に訪問診療を行う事を契約している訳でもある。

 

故に場合によっては出れない可能性も考えられる為、ゆっくりと敷地内へ入り、古いスライド式の玄関へ手を掛けてみる。

 

「………開いてない…ん?」

 

手掛の部分から離し、戸締まりがなされている所を確認すると視界の端に映る郵便受けの口に疑問が覚える。

 

「……めいっぱいだな」

 

無理矢理差し込まれたであろう新聞がその戸締まりをしていた日数を物語っている。

一つ目立って出ていた新聞を抜くと、他の新聞も引っ張り出され、玄関のコンクリート上に落ちた。

 

「………一週間前の新聞か…」

 

宮本も年季の入った活字中毒であり、新聞や論文のみならずハーレクイン小説やら古典SF等の古い物やライトノベルもよく読む。

故に同じ新聞を取っていてかつ、見た記憶が一週間前という事で、一つの推論が浮かび上がる。

 

「一週間前はウチが休みの日。訪問も無かったな…」

 

スケジュール的にも訪問介護員が来る日ではなく、富田氏に特定の友人が其処まで居るとは聞いていない。

 

一体何故?

 

脳内に反芻させ、何が原因か、何が理由かを考えてみるも、判断する為の情報は少ない事から結論を出すには早計と判断する。

 

「……待てよ?」

 

此処で疑念が一つ浮かび上がる。

その疑念を解消すべく、宮本は足を進めた。

 

 

 

…………

 

 

 

「中原さーん?いらっしゃいますかぁ〜!」

 

返事はない。

 

「白川さーん?宮本です〜!診療にきましたぁ〜!!」

 

返ってくるはずの声はない。

 

「高橋さーーん!!居ないんですかぁーー!!」

「うっせぇー!バカヤロー!!死にてぇのぐべぅ!?」

「黙ってろボケ」

 

出てきた強面の男もタコ殴りにしながらも応答は全く無い。

 

「どういうこった?」

 

新宿という街でも居住する人々は多く、其れに比例して老人も多い。

しかし、何故か宮本の受け持つ訪問診療患者が一切応対も無く、本人の姿が確認出来なかった。

 

「おかしい…」

 

仕方がなく、付近の住人や集合住宅の管理人に聞くことにする。

 

「中原さんはどうしたのかしら?2週間前までは挨拶してたけど、確か娘さんが来たのを見てから…ね?」

「娘さん…」

 

「白川さんは次男坊家族に引き取られたとか。まぁ…孤独死よりはマシかな?」

 

「高橋さんは入居したよ…娘から強い要望だってさ…。でも私達と一緒にカラオケしてたし、毎日其処の花壇に好きな花を植えたり、育てたりして穏やかに過ごしてたんだけどねぇ…」

 

「医者のアンタにも言わなかったのか?全く……」

 

「ええっ…と…その…医師である事は確認済みですが…これはあくまでも家族間の問題で…我々行政としては……えっと…引っ越し先については個人情報保護と言われて申し訳ありません…」

 

様々な場所に聞き込み、夕方を差し掛かる時刻になる中、宮本の眉間のシワがグランドキャニオン並みに深く刻まれる事になっている。

 

理由は言わずもがな、行政がまともな仕事をしておらず、近隣住民でも掴めない事で頭を悩ませていた。

 

まだ応対が出来るくらい元気な患者であればどうにかなる。

 

しかし問題は、鎮痛剤や貼り薬等の処方箋について。

 

未だに終末医療で必要としている注射器等は医師でしか処方出来ないケースがあり、それに該当している患者は他の医師から処方してもらわない限り癌による痛みや倦怠感等に侵されやすく、時としては合併症で亡くなるケースがある。

 

そもそもかかりつけ医になんの相談もなく連れ出した場合、家族であろうとも監督不行きで強制執行も辞さない場合にもなる。

 

「……一体全体何が起こってるんだ?」

 

嫌な予感を感じながら、これ以上やる事も無い為、帰宅することとなる。

 

「あっ。そう言えば…」

 

一つ思い出したことを頭に浮かぶ。

 

「〔麻呂〕の旦那から言われてたなぁ…」

 

時代錯誤のお歯黒を見せつける丸眉の人物〔一条三位〕が夜分遅くにやって来た訳が少々厄介だと思い、重い問題へ悩ませることとなる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一条三位と名乗った公家っぽい格好の人物がソファに座っていると脳の処理が難しくなる事がよく分かる。

 

こう威厳と言うか威風漂うというか、不可思議な意味で謎の雰囲気を漂わせている事に首を傾げざる得ない。

 

「単刀直入に述べよう。夏に向けて大きな祭典で何らかの妨害工作に入ろうとしているとヤタガラス内で通達があった。が…」

 

夏の祭典。

 

それが何を意味するかまでまだ分からない為、とりあえず一条氏の話を聞く。

 

「昨今我等も身動きが取れん始末。誰かに頼もうと考えた所、良い縁を思い出した」

「其れが宮本さんというわけですか?」

「左様。宮本殿はその齢19の頃から"クズノハ"にて修練を積み、一つの大異界を消滅させたサマナーで、公私共に信頼の置ける人物と山じ……〔元柳斎〕殿も話しておったのじゃ」

 

元柳斎。

 

その名を聞き、友奈は口を開く。

 

「山じいちゃん相変わらずお尻追いかけてない?」

「この間〔産屋敷〕殿の所の娘さんにちょっかい出してチェストされたでおじゃる。曰く『あの太ももとギリギリ見えないラインのお尻はいかんでしょ?』と」

「今度シバキ倒した方が良いと思う」

 

存外に元気な元頭目なだけあってか、髭を揺らしてセクハラかまそうとする様子が容易に想像出来てしまう。

 

「一応相談役じゃとてねぇ…」

「シバくも一つの愛情じゃないかな?」

「そうかなぁ…(そうかも?)」

 

手の早い老人には其れなりの手段でと考えつつ。

 

「其れでお歯黒おじゃ◯丸さんは何しにここに来られたんですか?」

「お歯黒おじゃ◯丸って!?お歯黒おじゃ◯丸ってどういう事!?」

(お歯黒おじゃ◯丸…)

(お歯黒おじゃ◯丸…)

 

多分格好の所から思いついたであろう命名に流石の一条も驚愕を隠せない。

 

尚、近い将来これがヤタガラス内で流行ることになるのはまだ知らない。

 

「いいからいいから」

「何だか分からぬ内に手球にされそうな気がする」

(たぶん既に遅し)

 

ない世のバグり気味の距離感に海千山千歩み続けたであろう一条も思わず一歩後ろに下がりたくなるも、寸前で浮いていた踵に力を入れ、停止する。

 

一応これでもとプライドや意地を通さねばならない地位でもある為だ。

 

「……さて。という事で宮本を喚ぼうとしてたんだが…」

「そろそろ帰って来ると思うが……女の所でシッポリやってるだろうから翌日以降になるな、うん」

「性豪じゃな」

(と言うよりそれで良いのかな?)

 

探している当の本人は居らず、ニアスも半ば諦めの表情で出先の情報を伝え、友奈は平然と言う彼女に疑問を持つも。

 

(……仕方がない…か?)

 

下の話にはついて行けないこと故に諦めた。

 

「とりあえず、宮本さんには伝えたくとして…その祭典って主に何の?」

「うむ……言わば"同人誌"じゃ。懐かしいのぉ」

「懐かしい?」

「いやいやいや。これでも麻呂の時代は劇画黎明期でGペン走らせてたあの頃を思い出す…」

 

ペンを握り、描きやすい斜め10数度の机に向かい、漫画用紙に向かう姿を想像し、烏龍茶を飲んでいたマイが噴き出した。

 

「失敬な」

「其れは噴くレベルのツボだ」

 

どんな想像をしたのかとムッと顔を顰めるが、ない世も流石に腹を抱えて笑い、ニアスも眉間に手を当ててため息をつく。

 

「ゲホッ、ゲホッッ!?…は…鼻に…入ったぁ…」イタイッ…

「烏龍茶が逆流して顔中ベショベショだな」

 

一方で飲んでいた烏龍茶が口のみならず喉から鼻腔を通って飛び出し、思わず鼻うがいを行ってしまった事でスカサハからボックスティッシュを十枚近く手にして鼻をかむ。

 

こればかりは一条の責任も一端にあると友奈は口にせず、心の中で思った。

 

「まぁ良い。話を戻すが同人誌について何処まで知ってるかな?」

「えっ?言わばファンアートとか尖り過ぎてて出版社通せないし、自主出版でも本屋さんに置かせてもらうのも難しいから同好会的な集まりで創ったっては聞くけど?」

「パリでも即売会的な催しはよくやってる。基本NinjaとかPiratesとか龍玉のアート集だったが?」

「まぁそれが分かりやすく、ヨーロッパでも見れるヤツじゃからのぅ」

 

尚、近年では黎明期のビジュアルノベルゲームも流行っているとか何とか。

 

「つまり"コミケ"か!?」

「左様」

 

コミケ、またはコミックマーケット。

 

歴史は古く、1970年代から内輪の同好会から始まり、今となっては3日間開催20万人前後の参加者が国際展示場に集まる最大規模の即売会イベントである。

 

このイベントの参加サークルが未来の漫画家として出版社関係にオファーを受ける事もあれば、壁サークルと呼ばれる人気度の高いサークルの会場限定品を手に入れる為に参加チケットは倍率が高く、場合によっては転売行為も辞さないケースもある。*1

 

「じゃあスタッフとして中に入ると?」

「と言いたいが、その辺は別の所が入っていて難しいんじゃ…」

「駄目じゃん」

 

本来ならば運営スタッフ内に入る事が普通であるものの、警備員を含めたボランティアも全ての枠で埋まっており、捩じ込むにも難しいと一条が首をふる。

 

「と言う訳でスタッフではなく……サ(・)ー(・)ク(・)ル(・)と(・)し(・)て(・)参(・)加(・)し(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)」

 

 

「「「「………はっ?」」」」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そんなこんなで急遽初参加かつ初サークル活動となってしまった為に。

 

「負担を減らす為、媒体はライトノベルスタイルの小説で行こう」

「ルーンで速度何とかなりそうだが、他はどうするつもりだ?」

「こうなったらフランス書院顔負けに書き切ってやる!!」

 

シナリオ脚本ない世ちゃんの主導でジャンルを決めつつ、デザインの勉強もしていたニアスがイラストを行い、話し合いながら書き詰めていくとか何とか。

 

「俺は別件で忙しいと言ったらだだ泣きしてたな…」

 

時期としては後2週間。

出来はどうであれ、一冊の本を創る迄にはギリギリのライン。

印刷所でも製本でも、含めて考えるならば間違いなくギリギリだが。

 

「まぁ、上手くいくと思う」

 

と信じてみる。

 

一方でどうして俺はこう社用車代わりのファミリアセダンを乗り回しているのかと言うと。

 

「………アレか」

 

警視庁公安部の藤田曰く。

 

『爺さん婆さんの失踪に関わってるとしたらケアマネやケアホームを当たるべきだろうな…。ただ今俺は街中で起きてる暴力事件と例の【塩化】が関わってるらしいと関連調べているからそっちで何とかしてくれ』

『しゃあねぇってことで俺の番号ですって』

 

どうにもこうにも体格と性格面で異なる人間が狂ったように暴走する事件が多発。

其れが例の人体塩化事件に関わってるかも知れないと判断し、並行して捜査をしているとのこと。

 

まぁまぁ忙しそうでと思い、藤田の助言から関わっていると考えるケアマネに当たってみるが。

 

「………該当者が多いな…」

 

いかなる理由であれ、怪しい人物と言うのは結構出てくる。

特に金が絡むならば目を丸くして釣られてしまうほどに。

 

「………ふむ」

 

ケアマネ派遣の責任者に事情を説明し、場合によっては法スレスレな事を言って話しやすくしてみるとズラリと履歴書をコピーしてくれた。

 

中身を見れば分かるが、老若男女動ける年齢層がバラバラで、下手をしたら軋轢が出てきそうだと認識する。

 

「………」

 

ただ共通点があるとすれば、圧(・)倒(・)的(・)に(・)低(・)賃(・)金(・)で(・)の(・)介(・)護(・)労(・)働(・)を(・)行(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)事(・)。

 

大多数の労働人口からすれば老人介護程、非生産的で散財にしかならない行為そのものだろう。

 

コストを下げ、運営するには人件費をどうにかしなければならず、看護学校卒業したての新人やボランティア同然の若者を使うしか方法が無い。

 

全く持って度し難い事であるが。

 

「筍みたいにぽこじゃが出やがって全く…」

 

介護が必要な老人はこれからも増える。

そうなれば弱者ビジネスとして成り立つ介護サービスに寄生虫の如く甘い汁を吸おうとする存在が潜んでいる。

 

暴対法以降、衰退を辿っている【指定暴力団】だ。

 

あの手この手で法から逃れ、特定のグループを作っては解散しやすく出来た半グレ等を使って中間マージンを得る。

 

目糞鼻糞程度の連中が関わっているとすればやる事は一つだけ。

 

「………聞くかぁ」

 

一番に目星を付けた人、俺も顔をよく知る〔九里原〕という年配女性を探る事だ。

理由は一つ、彼女には【新型ウイルス感染症】のあおりで不況に立たされた会社からリストラされた旦那と丁度金のかかる中学3年生の息子が居る。

 

一番金が絡む時期としてヤクザが関わる可能性は間違いなくあり、話を聞くこととする。

 

「……あっ、来た」

 

閉店1時間前のスーパーに寄り、惣菜を幾つか買って帰る。

 

毎日のルーチンワークは心身を疲弊させるに十分であろう。

俺の方で出来る限り愚痴を聞いたり、マッサージ等もしてみて気遣いをしていたけれど、中々難しそうだ。

 

正直、余り気が進まない。

 

そんな事はしていないとか言ってくれれば疑ってごめんなさいと謝り、仲直りの印に大きな菓子折り一つ渡すだけでも場は治まる。

 

だがもし…。

もし彼女が情報を売り、老人達を何処かへと連れて行ったならばこれは由々しき事態と考えざる得ない。

 

何かが差し迫っている。

そう思いながら、彼女より前へ車を進め、近くの路肩に停める。

 

「こんばんわマダム。もし良ければ一緒にドライブでもどうかな?」

「あら宮本先生?どうしたの?」

「ちょっと往診に遠くまで来たら九里原さんが見えてね?もし良ければ近くまで」

「うーん…じゃあ、お言葉に甘えて」

 

互いに知っている間柄、彼女を乗せて車を走らせる。

 

走り出して数分、青から黄色へ信号が変わる為、ゆっくりとブレーキを踏み、余裕を持って一時停止を行う。

 

「…惣菜?揚げ物ばかりだと偏っちゃうと思うけど?」

「あっ、安売りセールの時だとこんなのしか残って無くて…」

「そっかぁ…。じゃあ今度は煮物とか日持ちする料理作って持ってく?俺なら量作るの慣れてるし」

「いえ其れは…先生に迷惑ですって」

「いやいやいや。買う物も人も増えてるから大丈夫だよ?」

「そ…そう…」

 

一部からは酷いくらいに批判が飛び交うかもしれないが、一応料理の腕は周囲の上であり、九里原さんも其処は知っているから理解されている。

 

「じゃあ、頼もうかしら?」

「りょーかい。明日から揚げ立てのコロッケとか作ってきますよ」

 

職場で上の立場から言われたからとか好意を無碍にはと思っているかもしれない所につけ込む行為はちょっと心がキツい。

 

とりあえず、話題を変えてみる。

 

「息子さんどう?今年受験とかって聞いたけど?」

「ええ。ちょっと偏差値高い学校にと思ってるけど…先生はどちらの学校に?」

「あぁ〜…郊外にある私立の聖華学園って学校ですが?」

「あらっ!?名門校で有名なあの!?だからお医者さんにもなれたわけですね?」

 

其処まで知れ渡ってるのか?と若干世間離れした校風とか風変わりな連中の事を思い出しつつ。

 

「でも家の子は難しそうで…。塾に行っても成績は上がらないし、月4万は掛かってしまうので中々…」

「勉強は結構人それぞれですからねぇ…」

 

聞くのは息子さんの事。

情報通り、相当悩みのタネになっているようだ。

 

そもそも塾に行くのは勉強が出来る奴が補強として利用するだけで、勉強が出来ないとかやりたくないなら金の無駄になるだけだ。

其れを此処で指摘するのは愚の骨頂だが。

 

「夫も感染症とかが原因でリストラになっちゃったり、父の介護の問題もあるから何とかしないとって思ってるけど…中々ねぇ…」

 

誰にも吐露できないのだろう。

愚痴がボロボロと吐き出されると聞かなくとも喋ってくれるのでは?と勘違いしそうだが、とりあえずあと数分耳を立てていく。

 

「あら、ごめんなさい。宮本先生って聞き上手ね。夫と話してても『うん』とか『ああ』だけしか言わないから」

 

まぁそうしか言えないのも分かる応答しづらい会話内容なのは間違いなく。

一応内容に注意して『確かに』とか『成程ぉ』等のボキャブラリーを増やして応答しているので多分其の辺が評価ポイントなのかもしれない。

 

「そういえば先生はご結婚とかなさってるの?」

「いいえ。友人とか恋人は居ますが人生のパートナーとまで行くほどの関係は無いですね。あんまり定住するタイプじゃないので」

「あらそう。てっきりお子様も居そうだな?って勝手に」

 

一応居ないと思うが、数々で射って来た数は両手両足で数える事は不可能な程。

でもヤリ逃げはしていないし、ちゃんとお金とかアフターフォローは入念にしておいたから大丈夫だと思う。

 

「むしろ相手の方が呆れて俺を捨てると思います。こんなチャランポランには心底呆れるでしょうし」

「先生はそんなに無責任な人じゃないですよ。この間なんて新人の子に介護ベッドの使い方とか人それぞれ介助の仕方を丁寧に教えてたでしょ?」

「そりゃ自分が楽出来るように教えれば1日でも早く介護士として自立できるかな?と思っただけですよ」

 

勘違いされがちだが、マンパワーじゃなきゃ出来ない部分が多い介護労働は育ち切る前に心が折れて辞めていく場合が多数。

そうされると金を掛けて卵を産んでも割れて育たない事と同じくである。

 

若者は使い潰すのではなく、我々年長者が棒になって支える事が何より重要だと思っている。

 

「何時かは俺が爺さんになって介助してもらうとすれば虐待だけは勘弁願いたい」

「若い時から徳とか積むしか無いわね」

 

恐らくその徳ってのは行いの因果とも言うやつだろうな。

 

さて、とりあえずリラックス出来てきただろうしちょっとぶっ込んでみるか。

 

「あっ、そういえばこの間〔富田〕さんの事で話をしたいんですが?」

「と…?富田さん?」

 

予期しなかったであろうか、平静を装っているが若干目線が泳いでいる。

脈拍も恐らく早くなっているだろうし、息の粗さも感じられた。

 

「甥っ子が一人、あの家を売るみたいですけど、俺は話聞いてなかったんですよね?一応かかりつけ医なんですが…」

「…………」

「九里原さんは聞いてました?」

「あっ、…そ…その…」

 

動揺が隠せなくなっている。

このまま畳み掛けることとするか。

 

「………着きました」

「…えっ…?何、此処…?」

 

嫌な大人ってのにはなりたくない。

そう思いながら地下の駐車場に車を停める。

 

「何って…男(・)と(・)女(・)が(・)二(・)人(・)で(・)来(・)る(・)場(・)所(・)で(・)し(・)ょ(・)?(・)」

 

彼女の動揺が見て取れる。

わざわざ別の車にしたのも、偶然を装って乗せたのもある意味でこのシチュエーションづくりの為だった。

 

ラブホテル。

 

彼女の自宅から数km離れたインターチェンジ付近にある若干お高めで誰にも見られない秘密の逢瀬場所。

 

「でっ…でもわた…」

「九里原さん。いや〔ゆかり〕さん」

 

彼女の眼前へと迫り、その瞳を見定めるようにジッと凝視。

 

服越しでも分かるその双峰が呼吸で上下に動き、熱の籠もった息が上気を増す。

 

無責任極まりない男に迫られる感覚と言うのを此処で知らせる。

 

その意思を示すと、彼女は何も言わず、その身体を預けるかのように目を細めた。

 

「…じゃあ行こうか?」

「………」

 

その問いに口を開かず、ゆっくりと小さく頷く。

 

一分程度の静かな時間の中、少し遅れる形で彼女は車から降り、俺と横に並ぶ様に歩く。

 

もう既に夫と息子を持つ母親ではなく、一人男の情欲に当てられた女の姿に変貌(チェンジリング)しているのを確認しながら。

 

「……ひゃっ///」

 

スカート越しの尻を撫で、具合を確かめるのだった。

 

 

 

             to be continued

*1:
尚、近年では電子チケット化がなされ、転売出来ない様に様々な工作がされている。

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