真・女神転生〜ジャッジメントデビルサマナー〜 作:葉隠小太郎
夏の雨がザンザンと降る頃。
彼はある筈の"左腕"を失くしながら、虚ろな顔で下を俯く。
膝の上に頭を乗せるのは一人の少女。
彼が愛し、彼女も彼を愛した恋人同士。
その二人の姿を見て、私は喜びに満ちていて。
この雨が彼の涙代わりである事。
そしてこの雨こそが私の自己表現を満たしてくれた事。
やはり君は最高の
だからこそ。
私の心からの"贈り物"を見て喜んで欲しい。
きっと蘇らせる…〔水上由岐〕を。
株式会社ダイバンコナムワークス
世界有数のロボットアニメーションから女子向けアニメーション、特撮等、幅広く多くの作品を手掛ける玩具メーカーである。
「あっ、〔輝村〕部長。おはよう御座います」
「ああ、おはよう」
始業30分前の受付にて対応する係の女性が挨拶を交わす。
「おっ!輝村君、今日も時間ピッタリだね!」
「いいえ。いつもの事ですので」
「ハッハッハ!次の土曜は宜しく頼むよ!」
「ええ、楽しみにしています」
恰幅の良い男性から一つ、両手を握って遠くに飛ばす動作を見せると彼は笑顔で返し、会釈した後に歩き出す。
歩いて数分、自身が指揮を取る商品企画部へと辿り着くと、まだまばらながらも一緒に働く部下達の姿を確認できる。
彼彼女らは、目的様々にあれども向かう目標は共に同じく、かつて子供の頃に見ていたアニメーションや特撮ドラマに感動し、その思い入れから入社した仲間でもある。
「おはよう」
「「「「「「おはよう御座います!!」」」」」」
笑顔でハキハキと皆に聞こえるように挨拶をする。
〔
…………
国は違えど、ハマるものに国境線は無い。
イタリアでは70年代のロボットアニメーションが流行り、アジア中東諸国でマジンガーやザンボット、コンバトラーV等がドラマとして復活するケースもある。
過去の朝ドラも宗教的配慮に則った放映方法で視聴率も40%超えとも言われている。
「過去発売されていた超合金シリーズのリバイバル生産やロボプラの再販も視野に入れてますがどうですか?」
「……我が社としての転売対策は?」
「………一応、営業との話し合いはしていますが…」
「確かに難しいな」
極道が懸念するのは大規模な転売行為を行っているグループへの対策。
限定生産や少数生産の多いプラモデルは希少価値が高く、下手な物品よりも高額に売買されるケースがある。
そのため、ネット注文による大量買い占めや人海戦術による列並びの店頭販売で購入する行為が後を絶たず、業界全体で懸念事項として、頭を悩ませていた。
問題は多い。
転売行為で見られるのは基本的に店頭販売価格よりも高額に設定されていること。
商品の数が少ない事を煽り、購入意欲をかき立たせる事。
そして、店頭販売価格で買えるはずの人に届かず、諦めさせ、顧客信用が失われる事。
此等が転売問題の一部である。
ゲームハードしかり、ソフトしかり、様々な物が大量に買われるも、ユーザーがいない為にオンラインゲーム等は過疎が目立ち、ほかソフトが売れない事態になると資金繰りで倒産かオンラインの休止も目立つことになる。
この事から、各企業も転売行為を許すまじと生産ラインの維持や転売品のアクセスコードを無効にする処置がされたりしている。
「考えられているのは店頭販売の際に一人一つ、商品の正式名称やどの場面に出てきたのかを言って貰い、成功した方から購入出来る手段をとってもらっていますが…」
「…当面はその方針で行こう。後は他にも何か対策をこうじれるか考えて欲しい」
「分かりました」
今のところは此れが最善。
苦虫を噛み潰した様子で極道は部下に頼むと頭を下げ、仕事へと戻っていく。
「……楽じゃないなぁ…
ボソリと小さく、自分に言い聞かせる様な声を出した後、自分の席へと座る。
隣に立っている等身大フィギュアを見て。
「うん!今日もイイね!」
笑顔で仕事に励む。
「部長、今日も一杯どうっすか?」
「すまない。今夜は別の用事があってね?申し訳ないが別の機会に頼むよ」
「そーすっか…。それじゃまた月曜日に!」
「ああ。お疲れ様」
部署の照明が消え、玄関から守衛の見送りと共に外へと出る。
夏本番という熱気が夜でも消えない辺り、ヒートアイランド現象は本格化している証拠だろう。
本社から近くの地下鉄駅へ足を運び、定刻通りの電車が来た事を確認。
直ぐに鉄道ICカードで改札を抜け、同じく帰りの最中でごった返す車内へと入る。
「今日はやけに混んでるな…」
それもそのはず。
今日はプレミアムフライデーで、早く切り上げたサラリーマンや学生が入り混じっている状況。
流石に別の路線を使うべきだったか?
でも、待ち人を待たせるのは主義に反する。
とりあえず目的の駅まで立っていよう。
「……ん?」
四駅程過ぎた頃、右隣で立っている女生徒の姿を見ると何かがおかしい。
(……触られている?)
異様に上げられたスカートの中にゴツゴツと大きな掌が見えたと思えば弄るように入れていくのを見つける。
手の主は三十代後半。
自分と然程変わらない年齢の大男だ。
「…や…やめっ…」
女生徒は何とか逃げようとするも、恐らく仲間と思わしき男の二人がかりで挟まれている為、其処から出る事が出来ない。
どうするべきか。
次の駅は自分がいる左側のドアが開く。
そのタイミングで決行しよう。
『〇〇駅〜、降車は左側となっております』
電車が停止し、ドアが開かれる。
其処で着ていたスーツのボタンを外し、狙いを定める。
「…ちょっと失礼」
「あん?」
一つ油断を誘ってから小さくアッパーカットを顎へと入れる。
脳を揺らすように放てば如何に体格の大きさが勝っていても気絶させる事が出来る。
「なっ…!?」
直ぐにもう一人に掌底で喉を叩く。
これで呼吸困難を引き起こし、容易に立ち上がらせない。
「…えっ?…あ…あの…」
「良ければこれを。直ぐにこの二人を駅員室に連れて行こう」
倒れ伏せようとする二人組を駅のホームへと引き摺り、触れていた方の掌を昼食用のビニール袋で被せる。
これで証拠隠滅はさせない。
「すみません。痴漢です」
「はい?」
その後、駅員に女生徒と痴漢二人組を預け、名刺を渡しておく。
これ幸いに二駅分歩けば辿り着くので直ぐ改札へと向かった。
…………
急な連絡が来たのは数日前。
僕が一人で新作プリンセスのサントラを聴いていた時だった。
『金曜会えるか?』
僕は直ぐに返事を送り、集合場所として選んだのは赤羽駅の近くにある飲み屋街。
好きでよく来る店があると言い、現地集合と返事を返した。
久しぶりだ。
彼とはもう5年ほど会っていなかったと記憶する。
確か、〔内山田〕先生が再婚した時に集まった様な気がした。
まさか向こうから連絡があるとは思っても居なかったけれど。
と、考え事に耽って目的の店に着いた。
確か中華を取り揃えていて、ピータン豆腐等の突き出しが多かったと思う。
とりあえず引き戸を開いて暖簾をくぐり、店の中へと入ると。
「…よっ、極道」
「やぁ、久しぶり〔宮本〕」
先に飲んでいたのか、いつも通り烏龍茶だ。
アルコールが受け付けない体質故に飲む物もそれなりに気遣う部分が彼らしいなぁ…。
「そろそろかって思って先に注文しといた」
「ありがとう。それじゃ生の中ジョッキ一つで」
あらかじめ頼んでいた冷菜を前に先ずは生ビールで乾杯をする。
「…ん~~…美味い」
「その様子だと結構大変そうだったみたいだな?」
「いやいや。これくらいは普通だよ」
自分には見えていない疲れを彼は見えているのか、一瞥しただけでその様子が分かるらしい。
流石、診療所を構えているだけある。
「急にどうしたんだ?君の方から連絡入れてくるなんて…」
「まぁ。ちょっとな?」
ちょっと。
その言葉は何かある時しか言わない。
「どうしたんだよ?」
「………まぁ呑んでからな?」
「…そうか」
まぁ飲食店に入った以上、食事をしなければ向こうに失礼と言うわけだ。
とりあえず私達二人で食べ進めては他愛のない会話をし続け。
「だからさぁ〜!いっつもクレスタが大破してよぉ〜!!仕方がねぇから〔トニー〕のやつが改造してたら車検通らなくなっちゃってヤバかったよなぁ〜〜〜!」
「たしかにね〜〜!いきなり空飛んだりロケットブースターでいきなり一万フィート行った時は笑っちゃったって!!」
宮本はいつの間にかハイボールに入り、私もチューハイにしてから酒が回り、昔話による笑いの坩堝に絶賛ハマっていた。
「はぁ…懐かしいよホント」
「ああ…そうだな」
結果、並んだジョッキと皿を前に、他の店へと飲みの場を移すことにする。
外へと出ると若干足のおぼつかない様子で、アルコールが回っているのを見る。
やはり半分くらいで止めておくべきだったんじゃないかと思うが。
「今日は飲ませてくれ」
「……分かった」
そうか。
今日は"彼女"の命日であった。
少し飲み過ぎと言う様子を見せるのも納得がいく。
「………なぁ極道」
「なんだい?」
「……俺が死んだら…〔由岐〕に毎年花を頼む」
「其れは君の役目だろ」
珍しく弱音を吐く姿を見ると表情が緩みそうになる。
無感情な自分が何故だか彼を前にすると心が躍ってしまう。
「………ああ、そうかい」
そんな顔を見せると、溜息混じりに諦める。
ああ、やはり君は素晴らしい。
今ここで、ぶちまけてしまえばどうなるのだろう?
そう思うと口が緩んで吐露してしまいそうになるが。
まだその時じゃない。
「腹減った。焼肉食いてぇ」
「散々中華食って焼肉ってどんなメニュー構成なんだい?」
「腹が減ってるからだよほんとに」
はしごするには不向きな気もするが、要望に応じてホルモン焼きの店に行くこととする。
遡ること17年前。
僕等は子どもと言うほど小さくもなく、かと言って大人ほど大きい存在でもない曖昧な時期に居た。
皆が悩むのは事様々なモラトリアム。
理性では解決はし辛い諸問題がある中で、どう行きていくか、暗い海の中で藻掻いて泳いでる感じであった。
その中で、一際異彩を放つ女子生徒を思い出す。
「良いか?私はこの絵師の絵柄こそ、我が心のチ◯ポがいきり起つと言うのだ!!」
流石に教室内で言うには不適切が過ぎないかい?
と当時思ってはいた。
「だが、立体物になると途端に邪神像に変わるのは如何な物かと?」
「其処は造形師と造ってる工場が良くないだけだ」
「成る程、〔由岐〕は乳輪デカ系が好きと…」
「そこ!!書くんじゃない〔素子〕!?」
一癖二癖あるクラスメイトの中でも、この三人は誰もが思い出すであろう。
こと人形や伝承に詳しいのが、大きめの丸渕眼鏡をかけた女生徒〔蒼崎橙子〕。
陶磁器のような肌と瞬きをしたことが無さそうな機械的な目線を持つ〔草薙素子〕。
そしてこの中心に立つ美少女と言っても良い人物、〔水上由岐〕。
他クラスの男子から告白された事は両手で数え切れず、猫を被ったかのように丁重な断り文句を使いこなす恐ろしい人でもあった。
僕は其れを遠巻きから見るモブ。
少し気になって読んでいるプリンセスシリーズの4作目のノベライズを見ながら、聞き耳を立てていた。
「輝村。それは新刊か?」
「あっ、うん…。2人から5人に変わったんだよ」
「最早戦隊モノに近づきつつあるな」
確かに。
と僕も思う。
元々少女向けアニメを作った事が無いスタッフや監督が、マーシャルアーツを手本に徒手空拳で戦う女の子物を確立させた。
今後も続くであろうこのプリンセスシリーズを僕も関わってみたいと思うけれど。
「どうした?」
「あっ…いいや」
宮本はいつも僕の味方で居てくれた。
去年、別のクラスに居た頃、僕は虐めを受けていた。
僕の親が何をしているのかで追求され、ずっと謂れのない罰を受ける。
親も親で僕の事はただ"言う事を聞く人形"としか見ていない。
叔父の言う事を聞かねばどうなるかを知っている以上、従うしかなかった事はよく分かる。
けれど僕の人生に自由は無い事を知った時、何も考えられなくなった。
「進路か…」
放課後、オレンジ色の陽が差し込む時間に悩ましく呟きながら対に座る宮本は配られたプリントを見ている。
「頭の良い君なら何でも出来るさ」
「お前も頭が良い。それに何でもって事は選択肢があり過ぎて先が見辛いのが難点だ」
確かにそうかもと思うけど。
「それが醍醐味じゃないかな?」
「……かもな」
僕にとって、其れは素晴らしい事だと思う。
やりたい事をやった者が勝つ。
此処を卒業したらそれっきりの僕とは違う。
色々な事を挑戦出来るし、嫌な事も其れなりに回避出来る。
いいなぁ…と指を咥える事も出来ない僕としては羨ましい限りだった。
「なあ極道」
「んっ…?なんだい?」
「……お前だって出来るさ。やりたい事」
………出来るのだろうか?
「無理だよ。知ってるだろ?僕の家の事」
「知ってるから尚更だろ?」
無茶を言う。
叔父にそんな理解がある筈もない。
あの叔父が生きている限り、僕には自由など無い。
だから今からでも諦めておかねばならない。
一縷の希望も持たぬまま、今この瞬間だけを僕の宝物として胸に刻みたい。
だから。
「人生一度っきり。何なら"手伝うぜ"?」
……そんな事を言わないで。
「歯を噛み締めて泣くやつがあるか?やるなら徹底的にやってやるよ?」
希望を植え付けないでくれ。
そうしたら僕は……。
その後、仲間達が挙って出てきた。
〔バージル〕も〔トニー〕も〔露伴〕に〔ウェイバー〕まで出てきたかと思えば。
「さて、ぐうの音も出ない程にやってやる」
札束3つ用意したかと思えば向かうは音羽会傘下の裏カジノ。
其処でルーレット、スロット、バカラ、テキサスホールデム、ブラックジャックとあらゆる場所で手持ちを数十倍に膨らませたと思いきや。
其処で組員全員からハジキを突き出されても。
「俺を撃ったら隣の奴にも当たるし、そもそも当たらない」
と言って弾いた瞬間、一方的な殴打が始まった。
こればかりは本当にぐうの音も言えない。
音羽会としてはカタギにハジキを向けただけでなく、勝ち分を渡さずに撃った事で尚更代紋に泥を塗った訳だ。
此れを一部始終盗撮していた以上、暴対法どころの問題でなく、下手しなくとも実刑は免れない。
こうなれば宮本の言葉一つで命運が決まると言っても過言では無かった。
「極道をカタギの道に行かせる事。人生に関わるな。この2つで綺麗さっぱり無かった事にしておく」
交換条件としては破格であっただろう。
叔父の勤める竹本組としては苦虫を噛み潰したような気持ちであるが、組織としては組員見習いを破門させる程度の事。
ほぼ無条件で僕は晴れてヤクザ以外の道を進む事が出来た。
「…………じゃあな…ゲフッ…」
「やっぱり送っていくよ」
「いい。時には酔って帰るのも一興」
肩に乗る重さが心地よいから、と言いそうになりながら別の言葉を述べる。
「水上さんのお墓参りはいつも?」
「………少なくとも毎年」
「そうか…」
宮本にとっては彼女は特別だったと僕も感じる。
吸っていたタバコの臭いも、私服自由の事もあっていつもヒラヒラのドレスみたいな格好も、妙にしっくり来る格言もまさしく彼女の為と言えた。
「寂しいと思うかい?」
私は問う。
「いない人間を追うのは持久走みたいに辛い」
質問の意味が違うのでは?
と思うけど、持久走には終わりがない。
自分がやめない限り。
「じゃあ、どうするんだい?」
「………もう少し触れていたい」
「──そう…か…」
多分血反吐出して無様に藻掻き続けて死ぬまでだろう。
やっぱりと思う。
「……なぁ、極道」
「なんだい?」
今にも寝て意識が落ちそうになりながら、僕へ向けて口を開いた。
「……
多分この時、僕は目を見開いてたのだと思う。
突然、その言葉を打ち付けられて驚愕してしまった事は良く分かっている。
でも此処で唐突に問われれば、そうなってしまうだろう。
だから私もここで馬鹿正直に言う必要は無い。
何のためにカタギにしてくれたと言うのだろうか?
「………ああ。竹本組の組長だ」
「……そうか…グゥ……」
寝てしまった。
このアスガルド系筋肉ダルマが寝落ちしたらどうにもならない訳でとても困った事になるが。
「大丈夫ですか極道さん?」
「あっ、すまないね…〔シュドナイ〕」
どうやら迎えに来ていた竹本組若頭のシュドナイがバランスを崩した私の身体を支える。
「極道さんが此処まで酔ってる姿、初めて見ましたよ」
「ははっ…かもね」
年甲斐なく飲んでしまった事に私も思わず"僕"に戻ってしまいそうになる。
だが良い。
こういう事も必要だと思う。
「この方を送りましょうか?」
「…いいや。どうやら迎えは来てるみたいだ」
シュドナイが気を利かせて送る予定みたいだけど、どうやら必要はない。
道の反対側に黄色い車体のワンボックスカーが停まっている。
どうやらあれは【悪魔】みたいだ。
「一体何の悪魔でしょうか?」
「昔、心を病んだ人を運ぶ救急車があったって噂で聞いた事がある。多分其れだと思うよ?」
「成る程」
黄色い救急車。
医師をしている宮本にはぴったりな仲魔と言える悪魔に向かって歩き出す。
気を利かせてなのか、後部のバックドアが上へと開けられ、しかもストレッチャー付きという至れり尽くせり。
二人がかりで宮本を乗せ、ふぅ~と一息つくと。
ブレーキランプが5回点滅。
今の状態で適切な言葉は恐らく『ア・リ・ガ・ト・ウ』のサインだろう。
少なくとも『ア・イ・シ・テ・ル』ではない事を祈りたい。
そして私達が少し後ろへ下がると、ドアが閉まり、右側のウィンカーが右折を示すとそのまま主を乗せて走り始めた。
「……随分と慣れた感じでしたね」
「多分そういうものだろう」
何度も世話になっていそうだと考えつつ、私達も帰路につくとしよう。
「あっ、極道さん。例の女が吐いたそうです」
「そうかい。で?なんと?」
「……医者に話したそうなんですが…」
「医者?」
シュドナイから報告を受けたのは顧客リストを提供したケアマネの女の事だ。
〔九里原〕という場所が場所であれば金持ち中年に売れそうな女が
「ええ、〔灘〕って二十歳そこそこらしく。まぁ実家が太い医大上がりってとこです」
「………なぁ。その女に【パトラ】はかけたか?」
「あっ…しまっ…!?」
「はぁ…」
使ったのが其の辺の事情を知らないチンピラだったせいでか、
勿体ないと思いつつ、貴重な情報源が無くなったことに少し頭を悩ませた。
「…まぁいい、万が一を伝え忘れた私も一端はある」
「申し訳ありません。ケジメは成果でしっかりと…」
「言わずともそれで頼む。〔タヤマ〕の親父に見せなきゃならねぇからな」
悪魔使いか催眠に特化した使い手か、どちらにせよ絞り込める情報である以上、後は虱潰しに探せば良い。
「では、次の段階に進め」
「わかりやした」
一つ一つ我々は進む。